全編一夏視点、そして設定改変ありです。
「全員揃ってますねー。それじゃあ
電子黒板の前で山田先生がにっこりと微笑む。試験の時はあまり気にならなかったが、こうして教卓とかと並ぶとその小ささが際立つ気がする。
「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」
「…………」
けれども教室の中は妙な緊張感に包まれていて、誰も声や物音を立てなかった。
「……じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」
狼狽える先生がかわいそうなので、せめて僕くらいは反応しておいた方が良いとは思うけど、如何せんそんな余裕はない。その理由は単純明快で、僕と宇野さん以外のクラスメイト全員が女子であるからだ。
幾つかの視線は宇野さんの方に向かってるとはいえ、大半は僕に注がれているので大変キツい。
そもそもなんで最前列かつほぼ真ん中の席なんだろうか。宇野さんは背が高すぎるから一番後ろに座ってるのは良いとして、僕より背の低い人もいるのに……。
最初は宇野さんに助けを求めようと思ったが、席が離れている上に絶賛参考書確認中だったので無理と判断した。
しょうがないので、チラリと窓側の方に目をやる。
向けられている中で一番熱い視線がある方向で、そこにいたのは……僕の幼馴染の
一瞬目が合ったけど、すぐに彼女はふいっと窓の方に顔をそらしてしまう。……
「さて、それじゃ……宇野
「……あぁ、了解です。やはり携帯するには向いてないですねこれ……」
順番が回ってきたらしく参考書を机に置いて立ち上がる。彼が『う』で僕は『お』だから、この後すぐ自己紹介することになるだろうし、参考にするために聞いておこう。
「皆さん初めまして。宇野誠一と申します。趣味は読書で、好きな作者はロアルド・ダール。ISについての知識は少々不足気味ですが、皆さんに追いつけるように努力を重ねようと思っています。これから一年間、よろしくお願いいたしします」
そこまで言ってお辞儀をする。モノレールの中で聞いた話だと普段から子供相手に読み聞かせしているからか、こういうのは得意みたいだ。周りの子たちも拍手をしている。
「えっとその次は……織斑一夏君!」
「はいっ!?」
どうやら『え』の人はこのクラスに居ないらしい。流石に早すぎると思いながらも一先ず起立する。
「えっとー……お、織斑一夏です。よろしくお願いします!」
「…………」
頭を下げて、上げる。周囲から『それだけで終わりじゃないよね?』的な視線の
自炊は好きだが、それを趣味として紹介するのは果たしてこの場合正しいのだろうか。……埒が明かないので呼吸を一旦止め、そして深呼吸してから思い切って口にする。
「────以上です」
がたたっ! と何人かの女子がずっこける。ついでに箒と宇野さんまでずっこけていた。無茶を言われても困るのだ。
「あ、あの〜……」
山田先生の涙声に申し訳なさを感じていると、ふと右肩が軽く叩かれた。『誰?』と思って振り返った瞬間、眉間に衝撃が走る。
「あ痛っ! ……て、姉さん?」
「……ここでは織斑先生だ」
彼女は僕にもう一回デコピンをしてから、山田さんの方に向き直る。
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
「ええ、山田
姉さんはキリッとした表情で——だけど優しい声でそう言う。……TVでしか見たことがない表情だけど、やっぱりかっこいいなぁ。
「い、いえっ。副担任ですから、これくらいはしないと……」
さっきまでの涙声はどこへやら、山田先生は若干熱っぽいくらいの声と視線で姉さん——いや、織斑先生へと応えた。
壇上に上がった彼女はクラスを見渡し、一回目を瞑って呼吸してから喋り始めた。
「諸君、初めましてだな。私がこのクラスの担任になる織斑
凛とした通る声で、姉さんは自己紹介を終えた。……なんだか妙に教室が静か──。
「キャ────! 千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」
「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」
「私、お姉様の為なら死ねます!」
「喧しい!?」
「耳がぁ! 耳がぁぁ!?」
……黄色い声援というか、爆音が響き渡る。耳がキーンとしてしまい、辛うじて聞き取れたのは宇野さんと箒の物だけだ。
「…………なんか例年以上に多くないですか?」
「しょうがないですよ、織斑先生って同性でも惚れる人がいるぐらいカッコいいんですし。学生の頃とか、下駄箱にラブレターが週二で入ってたとか以前言ってましたよね」
「そうでしたけど、流石にここまでは……」
先生達はこそこそと話し合ってから姉さんが二、三度手を叩いたことで教室は再び静かになった……が、何故か姉さんはそこに爆弾を投下する。
「そうだ、最後に一言だけ。
「「「……ええぇえ!?」」」
想定外のカミングアウトにより、教室はにわかに騒がしくなる。
「嘘でしょ……」
「あの身長でお姉様より年上ですって!?」
「でもあのおっぱいよ?」
「高身長クール後輩と低身長おっとり先輩……薄い本が厚くなるわ!!」
「なるほど、『亀の甲より年の功』という訳か……」
困惑、妄想、推測──その他諸々が渦巻くカオスな空間に僕はタジタジになる。
そんな中、一人の少女がスッと手を挙げた。左耳に青いイヤーカフスを着けた金髪の少女だ。
「先生方、質問よろしいでしょうか?」
「えぇっと……セシリア・オルコットか。いいぞ」
「ありがとうございます。……失礼ですが、山田先生。具体的にはお何歳でしょうか?」
「あ、もしかして信じてないんですか? これでも歴とした二十六歳ですよ!」
「「「嘘だぁ!?」」」
絶妙に生々しい年齢のせいで空気が更に混沌としてしまう。想定外なのか姉さんも先生も慌てふためいている。
……この後クラス全体を落ち着かせるまで時間がかかりすぎて、残りの自己紹介がかなり駆け足になったのは言うまでもないだろう。
千冬先生は原作通り24歳です。
次回、初授業