IS 殺し屋は日常を知りたい   作:黒鉄48号

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 テスト終わりの初投稿です。
 今回は全編主人公視点となります。


第二話 立つ鳥その後

 タクシーを呼ぶかどうか迷っている丁度その時、視界のど真ん中に電話のマークが出現する。それに触れると、仮面に内蔵されている骨伝導イヤホンから声が聞こえる。

 

「『蛇烏(へびからす)』、そっちはどうだ?」

「——霞野(かすみの)さんでしたか。たった今()()が完了しましたので、報告をするつもりでした。そちらは?」

 

 私は謙った口調で話す。電話の向こうの男——私の上司である初老の殺し屋『霞野 (じょう)』は、電話の向こう側でため息を吐いた。

 

「何度も言っとるが、『仕事』の最中はちゃんとコードネームで呼べ。うっかり周りの人間に聞かれたらどうするんだ」

「はは、手厳しいですな『ミスト』さん。……それで、用件は?」

「奴の部下に吐かせた情報を頼りに向かった倉庫に情報通り誘拐された女性達がいた。……だが、その内健常者は七人、クスリの副作用に苦しんでいたのが七人。

 そして、既に廃人になっていたのが……三十六人だ」

「そうでしたか……こちらは対象及びその護衛を含めた五人を排除、残りの一人を気絶させて連れて帰るところです。人目につくとまずいので、タクシーを使用させてもらいます。これで報告を終了──」

「おいこらちょっと待て!?」

 

 通話を終えようとしたら、霞野さんは無理矢理割り込んできた。何やら随分と慌てている様子だ。

 

「あぁ、安心してください。タクシー代は勿論自腹にしますので」

「そこじゃねえ! ありがてえけどそこじゃねぇ!! お前な、これで何人目だと思ってんだよこの野郎!?」

「十三人目……不吉な数字ですね。早くもう一人スカウトしないと」

「そこじゃねえっつーの! だからなぁ! そうホイホイ人拐うなっつーの!」

 

 電話の向こう側で壁か木でも蹴ってるのか、かなり大きい音が聞こえる。ついでに部下達の(いさ)める声もだ。

 

「まぁまぁ、そう怒らないでください。万年人手不足なんですし、使える人は積極的に()()するべきです」

「採用、ねぇ……一応聞くが、そいつどんな感じだ?」

なんかよく分からない光って凄い音が鳴る筒を投げてきて、私を的確に狙って撃ってきました

「…………やっべ、スタングレネードのこと教えてなかったか」

 

 彼はぼそりと呟くが、『すたんぐれねーど』とはあの道具のことだろうか。手榴弾の親戚ではあるはずだが、気絶(スタン)させる訳ではないのが謎だ。

 

「な、なるほどそりゃ優秀だな」

「そうでしょうそうでしょう! 実際まだ少し足は痛みますけど、必要経費(コラテラルダメージ)と思えばむしろ軽い物です」

 

 私がそう言うと、向こう側から音がしなくなった。……うむ、何かまずいことでも言っただろうか。

 

「あー……その、なんだ。どんなことされた?」

「両太腿にマグナム弾をそれぞれ一発ずつ」

「っふー……相変わらずタフっつうかなんつーか。こりゃ()()()相当おかんむりになるぞ……《宇野、タクシー代は俺が持つ。出来る限りいいサービスのやつに乗って帰れ」

「あれ? いいんですか?」

「勿論、これは命令だからな。例え天子(てんこ)ちゃんにいくらお小言言われようが、俺のせいにしとけ」

「おお、太っ腹。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらいますね」

 

 ここで電話を切り、私は仮面を外した。……よし、()()()()()()()()()()から問題はない。

 

 それはさておき、若干会話が長引いたせいで男が意識を取り戻しかけていたのでもう一回気絶させてから、クロネコに入れておいた黒い包帯を取り出して撃たれた部分にテーピングを行う。

 無くても死にはしないが、流石に脚に穴を開けている人を乗せたがるタクシー運転手はいないだろう。故に、念入りに処置を施す。

 並行してタクシーを携帯電話で呼んでおいたので、テーピングを終えて男に肩を貸すふりをしながら表に出たのとほぼ同時に車がやってきた。

 

「お、どうしたあんちゃん?」

「同僚がお酒を呑みすぎてしまって、もう吐きすぎで()()()物すらない程なんですよ。私は車持ってないですし」

「はー……なるほどねぇ。ま、取り敢えずどこ行くんや?」

「『私立藍越(あいえつ)図書館』までお願いします。そこからなら担いで連れてけますし」

「あいよ!」

 

 そんな会話を交わし、運転手は車を走らせ始める。十数分ほど私がボケーッと料金メーターの動きを眺めていると、彼はこちらに話しかけてきた。

 

「なぁ、あんちゃん。あんたよく嘘が下手って言われるべ?」

「……何を根拠に?」

「俺ぁこの仕事を何十年も続けてきたんだがぁ、その同僚の兄ちゃんからはまるで酒の匂いがしねぇんだ。それどころか兄ちゃんは硝煙臭ぇし、あんちゃんの方は鉄臭ぇときた訳よ」

「…………降ろさないのですか?」

「へっ、残念なことに、法律で俺らは客が乗りたかったら拒否出来ねえんだわ。ま、俺は金さえ払ってくれりゃお釈迦様だろうが地獄の大王だろうが乗せてやるけどな、ハッハッハ!」

 

 運転手の笑い声を聞きながら、不思議と今日までの気苦労が減ったように感じた。だが、すぐに彼の表情は曇り重い溜息をついた。

 

「にしてもよ〜、あんちゃん。本当にここ十数年で生き辛くなっちまったよな俺ら男性はよぉ」

「それはIS(アイエス)についてか、それとも女尊男卑(じょそんだんぴ)について?」

「両方に決まってらぁ! そいつらのせいで家でも仕事でも肩身が狭いもんでさ」

 

 彼はそこまで言うと、再び溜息を吐いた。どうやらよっぽど苦労しているらしい。

 

 さて、私と彼が現在交わす会話の題材である二つのうち前者は、正式名称を『インフィニット・ストラトス』というパワードスーツのことだ。

 これを開発したのは『篠ノ之(しののの)(たばね)』という世紀の大天才──否、大()()というべきだろう──である。

 ISは各面において既存の兵器を遥かに上回る性能を誇り、今や各国の国防の(かなめ)にまでなっている。

 

 ……しかしながら、ISにはいくつかの欠点が存在している。その中で最も奇妙かつ致命的なのが()()()()()()()()()()という物だ。

 これのせいで、世間では「ISを操縦可能な女性は男性より優れている」という女尊男卑思想が生まれてしまったのだ。

 

「私自身、女尊男卑は苦手ですね……言ってることが優生学ですし」

「ユーセイガク? 三対一とかのアレかい?」

「それは優()のほうですね。私が言ってる方は優れた生物と書いて『優生学』というやつで、二〇〇年前に生まれた学問ですよ。……最も、すでに国際的に否定された物なんですがね」

「ひゃー、つまりあんちゃんは、あいつらがカビの生えた思想に縋ってるって言ってんのかい?」

「そこは捉え方次第ですね。今の所、大々的な人種差別に発展してない分()()ですし」

「……クワバラクワバラ」

 

 そんな会話を交わす間に、どうやら図書夏に着いたようだ。スマホで料金を支払い(しれっと五桁要求された)、隣の男に肩を貸して運び出す。その時にこっそりと諭吉を二枚、チップ的な意味合いを込めて置いていく。

 ……さぁ、業務報告(おせっきょう)の時間だ。

 

 

 図書館に着いた私は出迎えてくれた同僚に男を運ばさせる。何故自分で運ばないのかと言えば────

 

言い訳はあるかしら? 宇野くん?

「あはは……いやいや、本当に申し訳ないです安寺(やすでら)さん。でもこれにはマリアナ海溝より深〜い理由が──」

「…………へぇ〜?」

アッガガガッガ!? ピンセットで弾丸を捩じ込むのは流石に! 神経が、神経がぁ!!」

「安心して、わたしは優しいからそこは傷つけないわ。その代わり……他は良いわよね?

「良くなィイッ!?

 

 ……とまぁ、()()()医療室で治療と同時に説教と罰を受けているからである。

 

 ちなみに、目の前で私を更に痛めつけようとしているのが霞野さんも言っていた『安寺天子』。

 空色の髪の毛をショートカットにしており、琥珀色の瞳で眼鏡を掛けている女性だ。

 表向きはこの図書館の司書で利用者に分け隔てなく笑顔を振りまく美人……されど、その正体は私や霞野さんを纏める上司兼治療担当だ。コードネームは下の名前が由来の『アンジェラ』だ。

 

「……仮面(ペルソナ)のログを確認したけど、まさかスタングレネードを投げられてあんな対応をするなんてね。いくら知らなかったとはいえ、せめて蹴っ飛ばすぐらいはしなさい」

「いや、なんというか……初めて見る物はついついじっくりと観察してしまいまして。治さなきゃいけないのですが、どうにも癖になってるいようで」

「はぁ…………ほんと、あなたみたいなのがわたし達『ライブラリ』の主力なんてね」

 

 彼女が口に出した『ライブラリ』、それは私や霞野さんが所属する組織の名前だ。

 

 組織の目的はずばり、『政府に仇なす存在の抹殺、及びそれらが行う計画の阻止』。

 聞いた話によれば、元々私達は『更識(さらしき)』という強大な裏組織に属する小さな一部署──担当は裏切り者の抹殺──でしかなかったのだが……先々代の頭首の死後、彼らは自分たちの権力に執着することで見掛け倒しの糞みたいな組織に成り下がってしまったのだという。

 そんな彼らに見切りをつけた部署と、年々悪化の一途を辿る反政府勢力の行動の激化に対処したい政府の思惑が一致。晴れて独立して現在に至ったのだ。

 

 元々の部署の名前について尋ねてみたが、なんと名前が無かった……いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 裏切り者の抹殺は、当然のことながら数ある裏の仕事の中でも最大の汚れ仕事と言える。それを実行する者達がいることが、更識のお偉方には耐えられなかったのだろう。故に、名前は与えられず、そもそも存在そのものが隠蔽されていたという。

 

 

 閑話休題。 彼女は若干呆れながらも、テキパキと処置をこなしていく。弾丸をピンセットで取り出し、ナノマシンをスプレーで吹き付ける。しなくても治るが、回復速度を高めるためらしい。一連の処置が終わったら最後にまたテーピングを行う。今度はお馴染みの白包帯だ。

 

「ところ、最近記憶はどうかしら?」

「……はぁ、さっぱりです。未だに覚えてるのは霞野さんに拾われた日からのことだけです」

 

 今まで何度も聞かれた質問に、これまた使い古された返事をする。

 

 私、『宇野誠一』はいわゆる記憶喪失だ。覚えているのは十年前に霞野さんに拾われたこと、場所はとある山の(ふもと)街だったこと、何故か真っ白な服を着ていたこと。

 後は、高校生相当の数学や科学の知識を持っていた。……英語力は全く無かったので、今も時折苦労しているが。

 

 ライブラリについての知識があまり無いのも、これのせいである。どこの馬の骨とも分からない人物に、自分のことをべらべらと話したがる人はそうそういないだろう。いるとするならば、その人は口に機関銃を仕込んでいるに違いない。それも、壊れて撃ちっぱなしの物をだ。

 

「そうなの……早く思い出すといいわね、実質十才児くん」

「そうですね、三十(みそ)──」

 

 口を開いた瞬間、眉間に鋭い衝撃が走る。……やはり、この人には敵わない。

 

「女性にそのネタ(年齢)は厳禁よ。今度からはやめなさい」

「せめて言ってからデコピンにしてください……普通に痛いんですよそれ。あ、それはさておき、最近は────」

 

 この後は軽い会話をいくつか交わしてから、予備のテーピング道具を貰って医務室から出た。

 

 今いる図書館地下は宿屋に近い構造になっていて、私のようなライブラリの構成員は基本的にここで暮らすことが多い。一部の妻子持ちは組織の手配した家に住んでいるのだとか。

 自室へと入った私はクローゼット内の収納ケースから寝間着とタオル類を引っ張り出し、風呂場へと向かう。

 

 ささっと服を脱いで浴場に入り、かけ湯をしてから湯船に浸かる。…………あぁ、極楽極楽。このまま眠りたいぐらいだ。最も、そんなことをすれば流石に私も死にかねないので駄目である。

 くだらないことを思い浮かべながら全身を脱力させる。テーピングに滲みることも特にないので、気分が高揚した私は少し歌い始める。

 

「いっい〜湯〜だな〜、ババン。いっい〜湯〜だな〜──」

 

 カラカラカラカラ……。

 ……気のせいだろうか、扉の開く音が聞こえるた気がする。目を閉じてぼけ〜っとしていると、ヒタヒタと足音がこちらに近づいてきて、ついにはボチャンと湯船に入る音が聞こえた。

 

「お邪魔するわよ、宇野くん」

「……え?」

 

 …………どうやら、まだまだ休めはしないようだ。




・霞野丈
 宇野を拾って殺し屋にした張本人でコードネームは『ミスト』。
 銃器全般に精通しており、今回宇野が仕事をしている時は誘拐された少女達を仲間と共に救助しに向かっていた。

・安寺天子
 宇野や霞野の上司を務める女性。藍越図書館の司書の中でもトップクラスの知識量を持っていて、それらを生かして様々な仕事をするなんでも屋。
 普段は優しいが、怪我を治療している時はかなりのSになる。

・藍越図書館
 ライブラリの本拠地であり、表向きは国内最大の私立図書館として振る舞っている。
 宇野や安寺はここの職員であり、裏の仕事が無い時は一般的な司書として働いている。
 地下には大型リゾートホテル程の空間が存在しており、ライブラリに所属している人の大半はここに住んでいる。
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