IS 殺し屋は日常を知りたい   作:黒鉄48号

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 前日は沢山のご閲覧ありがとうございました。感謝の初投稿です。

 前編は一夏、後半はオリ主視点となります。


第二十一話 昔と今(オールド・アンド・ナウ)

 一時限目が終わり再び休み時間。僕がさっきと同じように宇野さんの元へと向かおうとすると、突然横から話しかけられる。

 

「……ちょっといいか」

「ん?」

 

 声のした方を振り向けば、自分より頭二つ分ぐらい高いところに見慣れた顔があった。

 

「……箒?」

「…………」

 

 話しかけてきた幼馴染は昔より背が伸び、姉さんの様な凛とした雰囲気を纏っている。しかし、髪型は今も変わらずポニーテールで、それを結ぶリボンも白のままだ。

 

「廊下でいいか? お前が話しかけようとしていたあの男、別の用があるみたいだしな」

 

 そう言われて彼の方を見てみると、金髪のツインロールの人 ──確かセシリア・オルコットさんだっけ── と会話を交わしていた。確かに、あの様子では会話も難しそうである。

 

「早くしろ」

「あ……うん」

 

 すたすたと廊下に行ってしまう箒。そこから教室を眺めていた女子がざざっと道を空ける。

 それで廊下に出たはいいのだが、僕と箒から四mほど離れた辺りに包囲網が出来上がっていた。しかも全員聞き耳を立てているようで、教室で喋ってもこっちで喋っても同じな気がしなくもない。

 

「…………」

「そういえばさ、箒」

「何だ?」

 

 こんなところに移動してまで自分から話しかけない幼馴染に若干困惑しながら、僕から話を切り出す。

 

「去年、剣道の全国大会で優勝したらしいね。おめでとう」

「……な、何故知っているんだ!?」

 

 僕の言葉を聞くなり、彼女は顔を赤らめてアワアワしだした。そんなに変なことだろうか。

 

「何故ってそりゃ、新聞で見たし……」

「そ、そうか……嬉しいなぁ」

「ん? なんか言った?」

「な、何も!?」

「…………」

「あ、いや……その……」

 

 一瞬威勢がよくなったと思ったら、やっぱりまた大人しくなってしまう。昔の頃はかなり男勝りというか、『侍』って感じだったのに。

 

「そういえばだけどさ、三年ぶりだけどすぐに箒だってわかったんだ」

「え……?」

「ほら、髪型。前会った時と一緒じゃん」

 

 そう言って僕が自分の頭を指すと、箒は急に腰ほどまである長いポニーテールをいじりはじめた。

 

「よ、よくも覚えている物だな……」

「忘れないよ。だって、幼馴染なんだしさ」

「…………そ、そそそ、そうか!」

 

 明るい笑顔を見せる箒。……やっぱり、この表情だけは昔から変わらない。そうやって上の空になっていると、彼女はドア上の窓を見て顔色を変えた。

 

「そ、そうだ! 一夏、そろそろ授業時間だぞ。早く帰らないと……」

「そうだね。じゃ、戻ろうか」

 

 軽く言葉をかわして、教室へと向かう。

 ……何故か周りの生徒達が胸を抑えていたり興奮気味だったけど、何だったんだろう。

 


 

 情報収集の方法を考える傍ら、手元が寂しいので参考書を弄っていると、視界の片隅にスカートのフリルと菱形が連続したチェック柄のニーソックスが入った。

 

「ちょっと、よろしくて?」

「……ふむ?」

 

 いきなり声をかけてきたのは、発色のいい金髪をロールにして纏めた女子──つまりセシリア・オルコットさんである。

 透き通るような碧眼をやや釣り上げながらこちらを見ている彼女は、()()()()な感じだ。

 

「まぁ! なんですのそのお返事は。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

「あぁ、すいません。少しばかり考え事をしておりまして」

 

 思ったとおりの女尊男卑主義者だったが、問題はない。

 図書館での接客相手にこういったお客様も少なからずいたので、対応にはある程度慣れている。その時の経験を全力で思い出しながら、彼女に言葉を返す。

 

「さて、セシリア・オルコットさん。イギリスの代表候補生──謂わば『エリート』たる貴方が、私になんの用事があるのでしょうか?」

「あら? わたくしのことをご存知で? ……まぁいいでしょう。あなた、その机の上の分厚い本は何ですの?」

 

 ……何故そんなことを聞いて来るのだろうか。訝しみながらも、パタンと閉じて表紙を見せる。

 

「見ての通りの参考書ですよ。まぁ、一般的なものと比べると些か厚すぎますがね。……で、何故そのようなことを?」

「わたくしは()()ですから。ISのことで分からないことがあれば、まぁ……頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ」

「ほう、それは僥倖(ぎょうこう)ですね」

「何せ、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですの。これもノブレス・オブリージュ(貴族の務め)の一つですわ」

 

 ……どうやら彼女は『エリート』や『優秀』といった物に固執しているようだ。

 

「なるほど……ところで、ノブレスということはつまり、名のある家のご出身で?」

「…………はい?」

 

 私が質問した瞬間、オルコットさんが────いや、話をそれとなく聞いていた周りの生徒達が凍りついた。

 

「あ、あなた!? まさかオルコット家をご存知、ないのですの!?」

「……初めて耳にしました」

「う、嘘ですわ……こんな馬鹿げたことが……きっと悪い夢ですわ……」

 

 明後日の方向を向き、青ざめながらボソボソと呟くオルコットさんをよそに、他の少女達が続々とこっちに寄ってきた。

 

「宇野さん、『オルコット・コスメティックス』って聞いたことない?」

「ないですね」

「それじゃ『オルコット・フーズ』は!」

「それもないですね」

 

 段々とざわめきが広がり、彼女ら同士で何かヒソヒソと囁き合っている。それをボーッと眺めていると、アメリカ人っぽい少女──恐らく別クラス──がアパレル雑誌を突きつけてくる。

 

「『オルコット・アパレル』ぐらいは知ってるよね!? こういう服見たことあるでしょ?」

「生憎、お洒落には興味がないのでね。そういうのが売っている場所にはあまり行かないんだ」

 

 基本は某小売チェーンで買わせてもらっている。安くて長持ちならそれで十分。ついでに黒っぽい色なら尚良しな程度だ。

 

 その後も、投げかけられる質問に返事をする度に周囲の困惑が大きくなっていく。

 どう対処すべきか悩んでいると、教室のドア*1が開き織斑君と篠ノ之さんが一緒に入ってきた。いつの間にか廊下へに出ていたようだ。

 それに周りが注目した瞬間、二時限目開始のチャイムが鳴った。今の私にとってはまさしく福音である。

 大体の生徒が急いで自分の席あるいは元のクラスへとダッシュする最中(さなか)、オルコットさんだけは私を少し睨んでから席へと歩いて行くのだった。

*1
万が一の時に備えてエアロックが採用されている




・オルコット
イギリスの古くから続く貴族の家柄で、様々な事業を行う財閥でもある。
日本においても、TVの各チャンネルのどれか一つは必ずこのグループの企業のCMを流していると言われる程に有名。

次回、クラス代表決定舌戦

ーー追記
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