IS 殺し屋は日常を知りたい   作:黒鉄48号

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 舌戦は初投稿です。

 全編オリ主視点となります。


第二十二話 力には責任が伴う

 二時限目はISの運用に関する様々なルールについての授業だった。

 

「──であるからして、ISの基本的な運用は現時点での国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ──」

 

 スラスラと教科書を読み上げる山田先生の声で、私は『シャサール・ジェヴォーダン(ジェヴォーダンの狩人)』のことを思い出す。

 

 あの奇妙なISには特殊な装置……『シグナルジャマー』と仮称されている代物が存在していた。それはコアが発する個体識別信号(パーソナル)を遮断する機械であり、言わずもがな条約違反である。

 それのお陰で黒烏での戦闘や更識からの武器譲渡がバレなかったのは不幸中の幸いだ。しかし、仮にアレが量産可能な物だとしたら、恐ろしいことに繋がるかもしれない……。

 

「……のくん、宇野君! ここは分かりますか?」

「あっ、その……」

 

 そんな考えが頭から離れなかったせいか、彼女からの質問に答えられず戸惑ってしまう。それを見かねたのか、教室の後ろで授業を見学していた織斑先生が私の方に近づいてくる。

 

「宇野、授業はちゃんと聞け」

「すみません……」

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば事故が起こる。そうしない為の授業だ」

 

 彼女がつらつらと語る言葉は疑いようもない正論である。そして、過去の事例を思い返しているせいかその顔には悔しさの様な物がにじみ出していた。

 

「それが分かったらちゃんと集中しろ。山田先生の教え方は上手いからな」

「そ、それほどでも〜」

 

 さり気なく先生を褒めながら彼女はまた定位置に戻っていく。……さて、再集中しなければ。

 

 

 その後は恙無く授業が進み二度目の休み時間になったので、机の側面に掛けておいたサブバッグから電脳眼鏡を取り出して装着する。……なんだかこれを使うのも久しぶりだ。

 授業前の一悶着を繰り返さない為、私はオルコット家について検索を行う。すると、それはもう大量の情報が出てきた。やはりさっきのアレはこちらがおかしかったことを痛感し、ちょっとだけ彼女に申し訳なく思うのだった。

 

 

 そのままネットサーフィンを続けていたが何事もなく、三時限目のチャイムが鳴って再び授業が始まる。

 

「それでは、この時間は実践で使用する各種武装の特性について説明する」

 

 先の二つとは違い、教壇に立っているのは織斑先生であった。山田先生はといえば、ノートを持ってその横にいた。よほど大事なことなのだろうか。

 

「……ああ、その前に来月行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

 ふと、彼女は思い出したように言う。周りの生徒はその内容に興味津々だ。

 

「クラス代表者はそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会への出席……まぁ、学級委員だな。ちなみに対抗戦は入学時点での各教室の実力推移を測るものだ。現時点で大した差はないだろうが、競争は向上心を生むからな。後、一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」

 

 説明が終わると、ざわざわと教室が色めき立つ。クラス同士での戦闘というのは面白そうだが、恐らく面倒な仕事も多いだろう。選ばれた人は苦労しそうだ。

 

「はいっ。織斑くんを推薦します!」

 

 各々が相談し合う中、凛とした声が響く。推薦された一夏くんの方はあまりピンと来ていない風に見える。

 

「私もそれが良いと思いますー」

「男性操縦者だし目立たせないとね!」

「それにそれに、織斑先生の弟さんだもん!」

 

 無責任な意見が飛び交うが、それを諌める声は上がらない。静かな者たちもこの案に賛成のようだ。

 

「では候補者は織斑一夏……他にはいないのか? 自他推薦は問わないぞ」

「ぼ、僕ですか!?」

 

 彼はガタンと立ち上がってしまい、視線が一斉に注がれる。それに嫌悪感を覚えながら周囲を確認すると、オルコットさんが呆然としていた。

 

「織斑。邪魔だから席に着け。 さて、本当に他にいないのか? そうだというなら無投票当選だぞ」

「ちょ、ちょっと! 僕はそんなのやれ──」

「自他推薦は問わないと言った。それに、他薦された者に拒否権などない」

 

 覚悟をしろ、と織斑先生に告げられた一夏くんは徐ろにこちらを向き、言葉を発しようとする。その意図を察した私は咄嗟に手を挙げた。

 

「織斑先生、発言よろしいでしょうか」

「……いいぞ」

 

 彼女の許可を得たので立ち上がる。周囲の女子が先程と同じような視線を向けてくるが、それを無視して口を開く。

 

「私は────セシリア・オルコットさんを推薦します

「……えっ?」

 

 投票前とはまた異なるざわめきが教室内に広がる。困惑、落胆、その他諸々の負の感情が渦巻く最中、織斑先生は私に話しかける。

 

「宇野、何か根拠があるのか?」

「えぇ、勿論。説明しましょうか?」

「……あまり長くするなよ。時間は有限だからな」

「了解しました」

 

 彼女にお辞儀をしてから周囲を一瞥し、一呼吸置いてから言葉を発する。

 

「まず最初に、皆さんご存知の事と思うがオルコットさんはイギリス国家代表候補生であり、尚且(なおかつ)専用機まで持っている。そこに至るまでの努力は、間違いなく血の滲むような物でしょう」

 

 少女たちの雰囲気は落ち着き、悪感情も収まったようだ。私は説明を続ける。

 

「次に、彼女は現オルコット家のご令嬢であり、代表者が行うであろう数々の業務の経験も豊富なはずです」

 

 ここで深呼吸。締めの台詞を力強く述べる。

 

「以上より、私はセシリア・オルコットさんをクラス代表者に推薦します。何か意見があれば是非仰ってください」

 

 まだまだ言いたい事柄はあるが、釘をさされているので終わりにして一礼する。

 教室はあいも変わらず静かなままであり、山田先生が若干慌てているほどだ。しかし、その空気を打ち破るように拍手の音が響く。

 

 その方向を見れば、長いロールを揺らしながらオルコットさんが起立していた。彼女はゆったりとした佇まいで言葉を発する。

 

「推薦ありがとうございますわ、宇野さん。……ですが、言わせてもらいたいことがありますの」

「…………」

 

 少しばかり嫌な予感がしたのでそれとなく圧をかけるが、オルコットさんはこちらと目を合わせたままだ。

 

「確かにわたくしは今まで色々と苦労をしてきましたし、自分がクラス代表になるべきだと思っていますわ。……ですが、()()()使()()()()のは癪でしてよ」

「逃げ? むしろあのタイミングで推薦をしなければ貴方は取り返しのつかないことをしていたでしょうに。他意はありませんよ」

 

 おおかた、興味だけの推薦の批難やその場合の境遇に対する文句を言うつもりだったのだろう。……まぁ、推薦されたくなかったのも事実だが。

 

「かもしれませんわね。……しかし、あなたが『専用装備持ちと戦えた』のですから話は別ですわ」

「……!? ちょ、ちょっとオルコットさん!? どうしてそれを知ってるんですか!?」

 

 慌てた様子で山田先生が割り込む。周囲の女子も驚愕の表情を浮かべているので、どうやら私と一夏くんの試験のことは秘匿されていたようだ。

 

人の口に戸は立てられぬ──そちらの国のプロバーブ(ことわざ)ですわ。代表候補選生である以上、色々と耳に入ってくるんですの」

「……で、結局なにを言いたい?」

「わたくし、嫌いな物が三つありますのよ」

 

 彼女は唐突にそう言い出す。どんな事を話すつもりかヒヤヒヤするが、聞いてみたいという興味が勝ってしまう。

 

「自他の努力を嘲笑う者、誠実さに欠ける者、そして────能力を持ちながら責任を負わない者ですわ」

「…………」

 

 要はノブレス・オブリージュを遂行しろ、と言いたいのだろうか。しかし、誰も私を推薦しようとせず、言わずもがな自薦を行わない以上それは不可能だ。

 ポーカーフェイスでこの状況の切り抜け方を考えていると、背後から物音が聞こえた。

 

「ぼ、僕は……宇野誠一さんを、クラス代表者に推薦します!」

「……一夏────」

「彼は! ……試験の際、僕に色々なアドバイスをしてくれました。そんな優しい人なら、代表者としての業務にも向いていると思います!」

 

 真っ直ぐな瞳に見つめられ、私は言葉に詰まってしまう。……殺すことしか能がない人間が、優しいと呼ばれるとは思いもしなかった。

 

 そんなカオスな状況を鎮めるために織斑先生が二、三度手を叩いて注意を引く。

 

「そこまでだ。候補者は三人だが、話し合いで決まりそうにはないな。故に提案だ────決闘を行おうじゃないか

 

 彼女の意外な言葉でにわかに騒がしくなる教室。困惑する私と一夏くんをよそに、オルコットさんは満足げに頷く。

 

「丁度いいですわ。わたくしの実力を示すのは勿論、例の噂が事実かどうかを確かめるまたとない機会ですし」

「……えっ、ハッタリだったんですか!?」

「ブラフと仰ってくださいな、山田先生」

 

 にこやかにそう語る彼女。先生に同情しながら今後のスケジュールを考えていると、再び織斑先生が口を開く。

 

「勝負は一週間後の月曜日。放課後に第三アリーナでだ。三名はそれぞれ用意をしておくように。それでは改めて授業を始める。教科書の十七ページをーー」

 

 彼女はぱんっと手を打って話を締める。私は想像以上に短い準備期間に一抹の不安を覚えながら席についた。……こうなった以上は真面目に取り組むしかないだろう。そう思って科書を開くのだった。




 セシリアは女尊男卑に影響されてる面もありますが、根幹にあるのは『貴族の矜持』なのです。

次回、同居人
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