IS 殺し屋は日常を知りたい   作:黒鉄48号

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 IS学園の夜空に思いを馳せながら初投稿です。
 全編オリ主視点となります。


第二十四話 眠れぬ夜

「んにゃ……かんざしひゃん……にぇへへ……」

「…………」

 

 草木も眠る丑三つ時。消灯が行われた真っ暗闇の中、私は未だに眠りにつけないでいた。ベッドの良質さに慣れていないのもあるが、一番の問題は隣で寝ている更識楯無だ。

 

 思い返してみれば、ライブラリに拾われてからの十年間、複数人で就寝したことはなかった。

 硬い敷布団の上で薄い布を被って目を閉じる──ただそれだけを繰り返していたのだ。その為、この環境に適応できずにいるのだろう。

 

 このままでは埒が明かないと思い、ゆっくりと起き上がる。近くに置いてあったサブバッグから電脳眼鏡を取り出して装着すれば、すぐに暗さはなくなった。

 ドアへと進んで行ってノブを捻ってみれば、意外なことにロックは掛かっていなかった。なので扉越しに廊下へ耳を澄ます。……足音は聞こえない。

 

 思い切って部屋の外へと一歩を踏み出す。警報の類は反応しなさそうだ。そうとなれば、勢いに任せるしかない。私は入学初日にして、校則違反を実行することにした。

 

 

 眼鏡越しの視界に表示される道を辿り、やってきたのは屋上に繋がる扉。それを静かに開いた先には既に人影があった。

 一瞬ビクッとなるが、よくよく確認すれば見慣れた物だ。安堵しながらそちらに近づく。

 

「……こんばんは、論田さん」

「ん? ──って宇野か? おいおい、良い子はねんねの時間だぞ?」

「生憎、そこまで人間ができてないので」

 

 軽口を叩きながら彼のいるベンチの横に座る。視線の先には各企業の研究施設群があり、未だに光が灯っている。労働基準法も真っ青になりそうだ。

 

「で、なんだ。眠れないってか?」

「流石に分かりますか?」

「これでも一児の親父だぜ? ……()は付いちまうが、子育てで苦労してきたしな」

 

 それを皮切りに、彼は色々な出来事を話し出す。

 子供が二時間置きに泣いてオッパイをせがんできたこと、自分が抱っこしたら抱き返してくれたこと、意外と力強かったこと────その目に浮かぶのは郷愁だろうか。

 

「まぁ、本当に子供ってのは手がかかるんだ。それが可愛いんだけどな」

「なるほど……そういえば、ここはどうです?」

「あ〜……」

 

 警備員としての仕事ぶりを尋ねてみると、論田さんは空を見上げた。私もつられてそうすると、本土よりかは幾分か綺麗な星空である。

 

「なんつーか、いい子たちなんだよ。そうなんだが……『私たちのためにありがとう』とか、面と向かって言われると、なぁ?」

「女性の為に男が働くのは当然────女尊男卑と言う程ではありませんが、男女平等とは程遠いですね」

 

 複雑な気持ちの入り交ざった表情を浮かべる彼だが、それもしょうがないことだ。男を見境なくこき使う女性とかは流石にそうそういないが、この学園の生徒のような思想はIS以後は当たり前になりつつある。なんだったら霞野さんもこの手の話題でしょっちゅう愚痴ってるし。

 

「──おい、何故貴様がここにいる?」

「……」

「あっ、織斑先生。ご苦労さまです」

 

 微妙な空気に乱入してくるは一年一組担任こと織斑千冬。寮長も務めている彼女は巡回の一環でここに来たのだろう。

 

「論田さん、きちんと指導してください。同じ企業の人間とはいえ、彼は生徒です」

「まぁまぁ、そうカリカリしないで。ちゃんと部屋に連れ戻しますから」

 

 論田さんが彼女に弁解をしているのを眺めていると、ヒューッと風が吹き抜けた。それと同時に独特の匂いが漂ってくる。

 

「……ビール?」

「この匂い、銀色のやつ? 強さ的に量は……ロングか!?」

「し、しまった……」

 

 じっくりと織斑先生の顔を確認すれば、ほんの少し顔が赤くなっている。そのまま見続けてると、ついに彼女は折れた。

 

「……見逃してくれるか?」

「いいですよ。ただし、私のこともチャラにするならですが」

「いやー、気持ちわかるぜ先生。飲んじゃうよなそりゃ〜」

 

 論田さんが同情するような声をかけると、先生は一つ隣のベンチに座って深くため息を吐いた。相当に疲れてそうだ。

 

「織斑……一夏が来てくれたお陰で多少楽になりましたけど、まさかあんな騒ぎになるとは……」

「ん、何かあったんですか?」

「カクカクシカジカで」

「……お疲れ様です、織斑先生」

 

 大人二人のやり取りを尻目に、私は思索に耽っていた。来週のクラス代表者決定戦、それまでに行うべきことはなんなのか。

 

 まず、量産機による実践的な特訓は不可能だ。年度初めは学園のほぼ全てのISを一斉にオーバーホールするからである。

 次に専用機──すなわち黒烏(こくう)による訓練もこれまた難しい。いくらライブラリや藍越の技術班が優秀とはいえ、未だに最終調整の真っ只中なのだ。どうにか土日までには私の元へ届けてもらえることになったが……一、二日で勝てるほどオルコットさんは弱くないだろう。

 

 そうなれば残る手段は一つ。とにかく肉体強化である。……しかし、これもまた難しい。

 ISを動かす為にどんな訓練をすればよいか、私は当然それを知らないからだ。……とまぁ、結局ないない尽くしでどうにも八方塞がりである。

 

「うむむ……」

「おーい、宇野。そろそろ部屋に戻すぞ」

「……了解です」

 

 論田さんにそう促され、素直に屋上から屋内に戻っていく。取り敢えず頑張って眠り、起きたらまた考えればいいのだ。

 

「うつほひゃん……ごめ……しごと……」

「おやすみなさい」

 

 行きと同じようにあっさり部屋へと帰ってきた私は、同居人に静かにそう告げながら床の上で目を瞑る。

 

 ────翌朝、更識の悲鳴で叩き起こされることになったのはしょうがないことなのだろう。きっと、多分、メイビー。




・研究施設群『ヴァルハラ』
IS学園は治外法権であり、そこでの労働は各自の判断によってルールが設けられる。
この場所に集まるは、三度の飯より研究が好きな者たち。日に三十時間という矛盾した仕事を過労死上等で繰り返すが為に、彼らの住処はこの名を冠している。

労基は荼毘に付しました。

次回、専用機
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