前編は一夏、後編はオリ主視点です。
「おはよう、箒」
「……ふんっ」
入学式翌日の早朝。訳合って同室になった幼馴染みに挨拶をしてみるが、にべもない様子だ。
そうなった理由は昨日の夕方まで遡る。
寮の部屋の想像以上の高級さに浮かれていた僕が高級ベッドのもふもふ感を堪能している時に、シャワー室から彼女が出てきたのだ。それもバスタオル一枚だけで。
色々と目に悪い光景に慌てていれば、箒は何を思ったのか木刀を引っ張り出してきたのだ。いやほんと、扉に突き刺さるってどんだけパワーがあるんだろうか。
まぁ、そんな訳で彼女は絶賛拗ねまくりなのだった。
「いやほんと、僕だって悪気があったわけじゃ……」
「だからといって見ていい訳があるか! せめて視線を反らせ視線を!」
「出来てなかった?」
「足りんわ!」
弁解しようとすればすぐこれなので、どうにも話が進まない。こんなことを続けても埒が明かなそうなので、一先ず朝食を取りに行こうと提案してみる。それには彼女も同調してくれた。
二人で廊下に出た瞬間、うっすらと悲鳴のような物が聞こえた。思わずそちらへ走っていけば、宇野さんの部屋である1050室が出どころのようだ。生徒手帳を電子錠にかざして入室リクエストを送る。
数秒経ってドアが開く。そこから出てきたのは当然もう一人の男子なのだが……なんか目付きが物凄く怖い。人をダース単位で殺してそうなレベルだ。
「……あぁ、一夏くん。おはよ……ふあぁ」
「お、おはようございます。なんかあったんですか?」
「……?」
いや違う、これ寝ぼけてるだけだ。視線が定まってないしなんかフラフラしてるし。
「いやほら、悲鳴的なやつが……」
「あ〜……同居人と色々あって。床で寝てただけなのに叩き起こしやがって……」
「床……?」
疲れすぎて寝落ちでもしたのだろうか。というか相当不機嫌なようで口が悪い。おまけに髪の毛もボサボサだ。
「あ、そうだ! 僕らこのあと朝食なんですけど、宇野さんも来ませんか?」
「一夏!?」
「ゔぁー……うん、いいね。私も行く。少し待っててくれ」
彼はそう返事をすると部屋の中に戻り、三分ぐらいで身支度をきっちり整えて出てきた。目付きもさっきよりかは大人しくなっている。
そんなかんなで、僕たち三人は食堂に向かうのだった。
たどり着いたそこは、相変わらず右を向いても左を向いても女子。おまけに職員も女子ばかり。
お腹を鳴らした彼女たちで食堂はごった返していたが、幸いにも席は空いていたので座れた。
「……二人とも、多いね」
「当たり前だろう。腹が減ってはなんとやらだ」
「……一夏くん、それで足ります?」
僕が頼んだメニューは和食セット。箒は生姜焼き定食で宇野さんは牛丼の大盛りだ。どっちも体が大きいからいっぱい食べている。
それと比べると、たしかに僕のは少なめだ。
「多すぎても眠くなっちゃいますし。それに、十分美味しいですもん」
「そうだな。この白米など、まるで釜炊きしたかのようだ」
「こっちの牛肉も味がしっかり染みてますね。おまけに汁だくにしてくれましたし」
二人は舌鼓を打ちながらどんどん食べ進めていく。僕もそれを見習ってペースを上げる。
何度か女子が隣に来ようとしたけど、二人の気迫にビビって未遂に済むのでありがたい限りだ。最終的に、一年生の寮長も務めている千冬姉さんの発破がかけられる頃には教室に出発できたのだった。
美味い、安い、多い。昨日の夕飯も含めて、ここの学食は最高だ。三時間目の終盤*1になっても腹が減って頭が回らなくならないのはありがたい限りである。
そんなことを考えて教科書とにらみ合う中、山田先生はたまに詰まりながらも私たちにISの基本知識を教えていた。
「というわけで、ISは宇宙での活動を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊エネルギーバリアーで包んでいます。また、生体機能の補助をする役割があり、常に操縦者の肉体を安定した状態へと保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィンなどが──」
「先生、それって大丈夫なんですか? なんというか、体中を弄られてるみたいでちょっと怖いんですけど……」
クラスメイトの一人がやや不安げな顔色で尋ねる。確かに、あのISを動かした時の独特な一体感と興奮は、人によっては不安の種になりうるのかもしれない。
「そんなに難しく考えなくても大丈夫ですよ。そうですね……例えば、皆さんはブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそすれど、それで人体に悪影響が出ると言うことは無いわけです。勿論、適したサイズを選ばないと形崩れしてしまいますが──」
……そこまで言って、一回きょとんとした山田先生は数秒置いてからボッと赤面した。
「え、えっといやその、お、織斑君や宇野君はしていませんよね。わからないですね、この例え。あ、あはは……」
彼女のごまかし笑いはなんとなく教室中に微妙な雰囲気を漂わせた。私はそんなに気にはならなかったが、むしろ女子が意識しているようで、腕組みをするフリで胸元を隠そうとする子が多い。
……にしても胸か。先生しかりアンジーさんしかり、ああも大きいと肩こりが酷そうだ。それを聞いたら社会的に死ぬのでしないが。
「んんっ! 山田先生、授業の続きを」
「は、はいっ!」
織斑先生の咳払いで空気が元に戻る。山田先生は教科書を落としそうになりながらも続きを話し始めた。
「それともう一つ大事なことは、ISにも意識のような物があり、お互いの対話──つまり、一緒に過ごした時間で分かり合うというか、ええっと……操縦時間に比例して、ISも操縦者の特性を理解しようとします」
なるほど、意識──例の『声』はそれなのだろうか。だが、彼女の話に基づくなら、それはある程度の交流を経た上で実現するものだ。ならばあいつは……。
「その結果、より性能を引き出せるようになります。ISは道具ではなく、パートナーとして認識するのを心がけてください」
「パートナー……」
あるいは相棒とでも呼ぶべきその関係に、つい心が揺れ動く。ライブラリの懐事情もあって私は基本的に単独行動だ。それに、道具の整備者や開発者はパートナーといった感じではないだろう。
そうやって想いを馳せている間に授業が終わり、山田先生が次の時間の教材を取りに職員室へと向かったようだ。一夏くんが女子に囲まれているのを横目で眺めていると、織斑先生は私と彼を呼日寄せた。
「織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」
「……へ?」
「なるほど、学園から専用機ですか。羨ましいですね、一夏くん」
「???」
彼が状況を飲み込めずにぼけーっとしていると、教室中がざわめいた。
「せ、専用機!? 一年の、しかもこの時期に!?」
「つまり政府からの支援……ってこと!?」
「私たちも頑張ってポイント貯めたら貰えるのかなぁ?」
「いやー、きついでしょ」
羨望の声が湧き上がるが、相変わらず一夏くんは何も分かっていない様子。流石に見かねて教科書を差し出す。
「ほいっ」
「え、えーっと……現在幅広く────」
「長いからそこは飛ばせ織斑」
「っとと……『現在世界中にあるコアは、篠ノ之博士が製造した467個の《オリジナル》に加え、量産コア1999個しか存在していません。また、コアの取引はアラスカ条約第七項に抵触し全ての状況下で禁止されています』……」
「つまりそういうことだ。本来なら専用機は国家あるいは企業に所属していないと与えられない。だが、お前は状況が状況なので、データ収集を目的とした物がオリジナルコアで用意されることになった。理解できたか?」
「……冗談じゃ?」
専用機だけでも破格なのに、おまけで希少な篠ノ之束製のコア付。その事実にクラス内の興奮は過去最高潮に達する。いつの間にか来ていた廊下の野次馬も同様だ。
「良いことじゃないか一夏くん。その機体はどんな感じになるのですかね織斑先生?」
「あ〜……試作第三世代機、とだけ言っておこう。そっちの
彼女は何気なくそう漏らしてしまい、教室内外が一瞬で静かになる。気まずそうな顔をすると、咳払いして口を開く。
「あー、言い忘れたが宇野。お前の方にも専用機だ。同じくコアはオリジナルだが……第一世代の近代化改修をしたものとは、藍越は随分とまぁ、うん……」
「第一世代って……十年前の機体ってことですか!?」
一夏くんの言葉を皮切りに、周囲から様々な意見が吹き出始める。アンフェアが過ぎるだとか、ノロマで大丈夫なのかとか、まあ殆どが同情的なものであった。
同じことを思ったのか、オルコットさんもこっちにやって来て口を開く。
「失礼ですが、織斑先生。そちらの弟さんの機体はまだしも、第一世代なんかと戦えと? 冗談じゃありませんわ! あんなものと戦ったら、ブルー・ティアーズの名声が地に──」
「落ちない。いや、落とさせないさ」
「……なんですって?」
私の反論が気に食わなかったのか、彼女はこちらに詰め寄ってくる。顔には青筋が立っていた。
今ならやれる。そう判断してハッタリをかます。
「実は私、その専用機のことを前々から知っていまして。調整中の物にも乗せてもらったんですよ」
「……それで?」
「あえて言わせてもらいましょう────あのISでなら、私はあなたとその相棒に勝てる」
「……バカにするのもいい加減にしてもらえるかしら? わたくしはエリートでしてよ?」
「それは英国の中に限った話だ。今のところ、戦ったのは同じ国の操縦者だけでしょう? あぁ、入試はノーカンです」
舌戦に集中しているからか、静かな熱気が私たちを取り巻く。オルコットさんは頭に血が上ってかなりイライラした様子だ。
「決めましたわ……宇野誠一、わたくしはあなたを全力で叩き潰して差し上げますわ!!」
「おぉ、それはありがたい。あなたに手を抜かれたらこっちが不完全燃焼になるところでした」
「っ!! こ、この──」
「そこまでだ馬鹿者共」
ちょうど盛り上がってきたところで織斑先生が水を差す。せっかく盛り上がりつつあったのに、勿体ない。
「宇野、口達者なのはいいが使い方を考えろ。煽るだけが会話じゃない」
「了解、善処します」
「……それとオルコット、世代が古いからと侮るな。ともすれば、お前の機体よりも安定しているかもしれないからな」
「……分かりましたわ」
私たちが落ち着いたところでチャイムが鳴り、山田先生が帰ってきた。さて、もう一時間
オリ主がとにかく煽るのは好きな本の影響です。ロアルド・ダールって言うんですけど(奇しくも英国の作者)
次回、無名の最強