全編オリ主視点となります。
「そういえばですけど、宇野さん」
「……ん?
「まずは飲み込んでからにしろ。というかまた肉か……」
肉うどんを啜っていると、相向かいの一夏くんが話しかけてくる。ちなみに隣は箒さんだ。二人とも日替わり定食を頼んでおり、今回はサバの味噌煮なようだ。
「オルコットさんに啖呵を切ってましたけど、勝算とかあるんですか?」
「それは私も気になるな。弾速の速いビーム相手にどうやって立ち向かうつもりだ?」
「あぁ、それは────」
「ねぇねぇ、隣いいかな〜?」
彼らに説明をしようとした所で、三人組の女子が話しかけてきた。
フードで萌え袖の『のほほんさん』*1、ロングヘアーでヘアピンを左に二つ着けてる『鏡ナギ』さん、そして髪の毛をおさげ二つにして結んでいるのが『谷本癒子』さんだ。
丁度いいことに隣のテーブルも空いていたので、くっつけて長い席にして座らせる。
「おお〜、うーのんいっぱい食べるんだね〜」
「……うーのん?」
「あ、のほほんさんは色んな子にあだ名つけてるんだって。ちなみに私は『ナギナギ』らしいよ」
「あぁ、なるほど」
最初だとびっくりするが、何度か脳内で繰り返し呼んでみると案外しっくり来る。一見すると抜けているが、ここの学生なのでやはり伊達じゃないのだろう。
「ところで、織斑くんと篠ノ之……じゃなくて箒さんって仲いいの? 同じ部屋って聞いたけど」
ヤクザ顔負けの気迫で睨まれながらも、どうにか言葉を紡いだ鏡さん。ふむ、この二人は同室なのか。
「幼馴染みですからね」
「幼馴染みか〜、いいなあ〜♪」
「とっておきのエピソードとかない!? 私も聞きたい!!」
女子三人が和気あいあいしているのを眺めながら、牛肉の脂と旨味が溶け出した汁を飲み干す。生姜も足しているのでクドさがないから最高だ。
そんな中、ふと肩に手を置かれる。私は思わず割り箸を掴んで背後に突き出す。しかし、それは腕を掴んで止められた。
「っと。反応はいいが、それはマナー違反だぜ?」
「……誰ですか、あなたは?」
女子にしては滅法力強く、手足や首は太め。箒さんよりも高身長な山吹色の髪をした彼女をよく見ればリボンが赤。つまり三年生のようだ。
「あっ、しずしずだ〜! 久しぶり〜!」
「おう、久しぶりだな本音!」
「……知り合いですか?」
のほほんさんと親しげに挨拶を交わす姿を見て尋ねる。他の同級生も興味津々だ。その雰囲気を感じ取り、彼女は口を開く。
「俺は不動
「「「……えぇぇぇぇ!?!?」」」
思った以上のビッグネームに周囲が一斉にざわつく。私も度肝を抜かれたが、なぜそんな大物がやってきたのかを考えて頭を落ち着かせる。
「……で、私になにか用でも?」
「おう。イギリスの専用機乗りと決闘するって聞いたんだが、ほんとか?」
「えぇ、事実です」
どうやら噂が広まりつつあるようだ。まぁ、女性は噂話に目が無いのは昔からである。
「お前、稼働時間は?」
「……量産機を一時間ずつ」
「ってこたぁ、ざっと七時間ぐらいか。だとしたら無理だな。ISは動かした時間が物を言うんだ。代表候補生なら三〇〇時間は下らねぇ」
「……それで?」
続きを促せば、不動先輩はにっこりとイイ笑みを浮かべて顔を寄せてくる。
……笑うという行為は本来攻撃的なもの、というのはどこかの誰かの言葉だが、その通りだ。
「いやぁ、可愛い後輩が大事をやるってんだ。一肌脱いでやらなきゃ、先輩として失格だろ? まぁ要するに、お前のコーチになりに来たってことだ。……ついでにそこのチビのもな」
「チビ……」
しれっと流れ弾を食らって一夏くんがしょんぼりしている。背が低いことを、そんなに気に病む必要も無いだろうに。まぁ、箒さん達に慰めてもらってるから大丈夫か。
「なるほど……あえて聞きますが、あなたよりも強い操縦者は?」
「今の生徒会長だけだ。……乗るか?」
「えぇ、そうさせていただきます」
私は席から立ち上がり、先輩と握手する。見た目通りかなりの握力で、まめの大きさや位置的に空手家だろうか。
「んで、チビの方はどうする?」
「チビじゃないです、一夏です……でも、ぜ──」
「結構です。私が教えますので」
彼の言葉を遮り、箒さんはいきなりそう言い出す。おや、そんなことになっていたのか。
「へぇ。でもお前も一年だろ? 俺の方が上手いこと出来ると思うぜ?」
「……私は、篠ノ之束の妹ですから」
非常に嫌そうな顔だが、それでも譲れないとばかりに彼女は言う。だが、不動先輩は名前の如く動じなかった。
「篠ノ之、ねぇ。だとしても博士は作ったに過ぎねえし、お前もずっと動かしてきたってわけじゃあない。違うか?」
「くっ……」
図星と言わんばかりに顔をしかめる箒さんを見て、何かに気づいたのか先輩は耳打ちした。数秒経ち、彼女の顔が赤く染まる。
「そ、そそそんな理由では!!」
「まぁまぁ、そこはいいんだ。取り敢えず織斑もお前も来てくれ。俺のが参考になるだろうしな」
じゃあな、と雑に告げて食堂から出ていく。相変わらず騒がしいままなので織斑先生あたりがやってくるのも時間の問題だろう。それまでに教室に戻らねばと思い、私は席を立つのだった。
「おお、来てくれたか! いやー、ありがたいねえ!!」
「いえいえ、むしろ声をかけてくださってありがたいぐらいです」
時間は放課後、場所は武道館。今もまたギャラリーは満載で、私たち三人は道着姿の不動先輩に出迎えられていた。
「あの、不動さん? なんでその格好……」
「ん? あぁ、さっきまで準備運動してたんでな」
「──まずは戦ってみろ、ということですか」
私は靴下を脱いで畳に上がる。すると、後から箒さんに腕を引っ張られた。彼女には焦りの表情が浮かんでいる。
「何を考えているのだ貴様! 制服でやり合うつもりか!?」
「えぇ、そうですが? 私に合う道着なんて無さそうですし。安心してください、この服は動作性を重視してますから」
そう言って、かつて師匠に叩き込まれた型をやってみせる。緩急のはっきりした『
「剛柔流*2……いや、他のも混ざってるか? まぁ、少なくとも行儀の良いやつじゃねえな」
不動先輩は若干呆れつつも構え始める。ギャラリーは静かになり、私たちの間に剣呑な空気が漂う。
「──ふんっ!」
縮地*3で距離を詰め、挨拶代わりに殴りかかる。しかし、彼女はそれを避けようともしない。
そして拳がぶつかった時、その理由を悟る。
「……なるほど、三戦か」
「正解!」
鍛え抜かれた肉体で耐えられ、逆にこちらの腕に凄まじい反動。罅が入ったのかと錯覚する程である。
一旦後退して様子を見るが、攻撃をする素振りがない。
「カウンターはしないんですか?」
「今回はお前の実力調べだぜ? 俺が攻撃したら本末転倒なんだよ」
「……なるほど」
軽口を叩きあいながらも、互いをじっくり観察する。ローキックを一瞬考えるが、そんな小手先が通用するとは思えない。それに、さっきの一撃もあってか彼女も攻撃を躊躇しているようだ。
……そうなれば、やることは一つ。腰を深く落とし、タックルの要領で先輩へと組み付く。
「ぐっ!」
「捉えた……!」
右肩、腕、肘を腹にぶつけることで三戦が崩れる。その隙に彼女の襟元を無理やり掴んで投げようとする。少々掴みにくいが、力を入れれば問題ない。
「っ!? ダメです宇野さん! 空手着は──」
「そぉ、れいっ!!」
腕を振り上げた瞬間、ビリッという音と共に重さが消える。手元を確認すれば、白く薄い布しかない。
「──破れ、やすいんです……」
「……もしや?」
恐る恐る振り向けば、程よく日に焼けた肌と割れた腹筋。そしてサラシに抑えつけられた胸筋。数秒経ち、不動先輩の顔がみるみる赤く染まっていく。
「な、ななな、なっ……!」
「あ、いやその、これはあくまで不慮の────」
「
振り抜かれた剛腕。顔面に走る激痛。最後に聞こえたのは、周囲の少女たちの悲鳴であった。
タッパのデカい女は正義、そうは思いませんか?
次回、拳と扇子。
諸事情により投稿は遅れます(詳しくは活動報告を読んでください)。