今回は全編ボディーガード視点となります。
(眩しい……。ここはどこだ…………?)
顔を照らされて俺は目を覚ます。周囲を見渡すと、打ちっぱなしのコンクリと安っぽい蛍光灯の光……どこかの施設だろうか。
立ち上がろうとするが、体が動かない。確認すると、どうやら背もたれ付きの椅子に結束バンドで手足と胴体が括り付けられている様だ。
(……少しずつ、思い出してきたぞ。たしか俺は、自棄になってあの仮面野郎に挑んで、なんでか殺されずに意識を奪われて……)
記憶をゆっくり確かめてると、後ろからドアが開くような音が聞こえる。胴体も拘束されているので後ろは見れないが、入ってきた人数は足音からして二人。片方だけ音が大きい事から、恐らく体格にかなりの差がある組み合わせだろう。
「……お、もう目ぇ覚ましてやがるのか。もう少しへばってると思ったが、こりゃ意外だ」
「ふむ。慌てて逃げようとしない辺り、肝も据わってるみたいだね。今のところは好印象だよ」
前者はかなりドスの効いた低めの声、後者はちょっぴり高めの癖のある声だ。姿は見えないが、ほぼ間違いなく
「……なぁ、あんたら。俺はどうしてまだ生きてるんだ?」
「あ? そりゃお前、死んでないからだろ。生きてなきゃ死ねねぇんだ、死んでないなら当たり前だが生きてるってことと同じだろうが」
「ミスト、彼が尋ねているのはそういうことじゃないだろう。…………
高い声の男は、俺の名前をさも当然のように言いながら質問を補う。話し方からして、(推定)デカい方よりも頭は良さそうだ。
「……あぁ、その通りさ。俺を生かしておく意味なんてのは、俺自身には全く思いつきもしないんで────」
言葉を紡ごうとしたが、口が動かなくなってしまった。何故かって? それは目の前の馬鹿げた光景のせいだ。人間のはずの二人がまるで違う姿をしているのを見れば、誰だって俺と同じような状態になるはずだ。
背の高い男だと思ってた方は全身が霧みたいな何かで構成されているように見え、腕や足らしき場所は丸太ほどの太さだろうか。腕組みをしていて、こちらを品定めしているように思える。
だが、それを上回るインパクトがあるのが頭の良さそうなやつの姿だ。
体の全てが赤くおどろおどろしい文字でが書かれたバーで形作られ、手足は一昔前に流行ってゲームのように全部直方体になっている。使われている文字は……『
「ん? そんな鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしてどうしたのかね?」
「……やっぱ俺、死んでんじゃないのか?」
「生きてるよ。……ってあぁ、もしかしてこの見た目のせいかもしれねぇな博士?」
「なるほど、ここ数ヶ月は新人を雇えてなかったからね……論田君、今から少しばかりだが君と話をさせてもらう。それが終わるまではこの姿のままという訳だ。組織の規則なのでね」
「あ、あぁ……」
(随分と妙なルールだなおい……)
俺の抱く疑問を察することもなく、赤バー野郎──はなんかアレなのでとりあえず『規制済み』と呼ぼう──は口を開き話し始めた。ゆっくりと落ち着いた口調だ。
「まず最初に、私たちは『ライブラリ』という組織の人間だ。無論、君たちを襲った彼──『
「ヘビカラス……なーんか聞いたことあるような気がする名前だな。っていや、どういう名前だよライブラリって? 図書館が戦闘するとかフィクションの世界ぐらいじゃねーのか?」
「……まぁ、名前に関しては置いとくとして。私たちは比較的最近作られた組織だからずっと人員が足りなくてね……見込みのある人材の大半は『
「ま、要はお前さんをスカウトしたいってことだ。悪い話じゃないと思うぜ?」
なんだか現実離れした会話が繰り広げられているが、何故か脳がすんなりと受け入れてくれる。なんともまぁ、不気味と言うか不自然と言うか……。
そんなことを考えながら、ふと浮かんだ疑問について尋ねる。
「あー……すまねぇ、そもそも
「……ミスト、どう思う?」
「あー……更識も地に落ちたな、としか思えねぇわ。なぁ兄ちゃん、それって冗談とかだよな? な?」
(圧が強い……っつうか現実だとどんだけ顔近づけられてんだこれ?)
こちらににじり寄りながら話しかけてくる霧野郎になんとも言えない熱苦しさを感じていると、『規制済み』が引き離してくれた。案外こちらを気遣ってくれるようだ。
「ミストがすまないね。ま、それは置いといてだ。君に関する情報は色々と調べたのだが、一つだけ君の口から聞きたいことがある。────君の妻と子供が
「ッ……結局それかよ…………単純さ。もう誰にも、俺のような悲しみを背負わせたくない。だから俺はボディーガードになった」
「ふむ…………だが、彼女らの命を奪ったのは人間ではなく
『規制済み』が神経を逆撫するようなことを言ってくるが、動作で分かる……これはわざとだ。こいつは俺の本音を聞きたいんだろう。だったらいいさ、乗ってやる。
「筋の問題じゃあねぇ。あの事件の後、俺はISを、操縦者たちを……そして何より、
「……続けてくれたまえよ」
「ありがとよ。でまあ、俺は家内を亡くしたショックで退職して家で無気力に過ごしてた。そん時につけたテレビで、偶然あるニュースが流れてたんだ。あんたらも覚えてるだろ?あの事件の遺族の男がIS関連企業に勤めてた男とその家族全員を殺して、自分自身も家で首吊り自殺したってやつだ」
「あったなそういうの……見た時は俺も度肝を抜かれたぜ。しかも家にガソリンだか灯油だか撒いて放火っていう最悪のおまけ付きだったやつだろ?」
「俺も驚いたさ。けど、それ以上に俺はこう思った──」
俺がそれを口にした瞬間、二人は閉口してしまった。それを気にせずに自嘲するように言葉を一心不乱に紡ぐ。
「俺はそん時、自分に心底嫌悪感を抱いたよ。 何がISが憎いだ? 篝火が憎いだ? それで関係ない他人を殺しちゃ、あの悲劇から何も学んじゃいねぇんだよ! ……すまねぇ、ついカッとなっちまった。自分で言うのもなんだが、本当に筋が通ってなくて支離滅裂だな、ハハ」
「きゅ、急に落ち着くね君……まぁ、その気持ちは多少は理解できるよ。私も子を持つ親だからね」
「あー……俺は生憎子持ちじゃないんだが、気持ちは分かる。っつーか、最近はその手の事件が多いよなぁ…………やってやられて、そればっかりさ」
『規制済み』が子持ちな事に驚くが、それ以上に俺はミストとやらの言葉が気になった。
実際、今回の護衛以前の時はIS関連企業に勤める人物からの依頼が多かった。テレビをつければ、殺された者の遺族が報復して、またそれに報復……という負のループに陥った事例ばっかり目に付くほどだ。
「さて論田君、君がこの界隈にやってきた理由を語ってくれてありがとう。……その上で問おう。君はライブラリに所属することを受け入れてくれるか?」
彼の問いに対する答えは、既に決まっていた。俺は相手の目を──どこにあるか分からないが──じっと見つめながら告げる。
「あぁ、受け入れさせてもらう。これから宜しくな、お二人さん」
「こちらこそよろしく。……それじゃ、もう
『規制済み』はそう呟きながら、指パッチンをする。部屋中を音が満たした瞬間、二人が人間の姿になった。
「よーし、じゃあまずは俺から。俺の名前は
ミストと呼ばれていた方の男はそう自己紹介する。霧の状態でも太かった四肢は想像を上回る程に筋骨隆々で、かのアーノルド・シュワルツェネッガーを彷彿とさせる程だ。髪は白に近い灰色で、かなりの短髪だ。
「それで、私だが……その表情、やはり知っていたようだね君は」
「……あぁ、そうだ。しかし、まさかこんなところであんたと会うとはな」
『規制済み』の本当の姿──くすんだ青緑色の髪の毛を長く伸ばし、顎からは尖った髭を生やしていて、何より目を引くのは縁の紅いゴーグルだ。その姿を、俺は既に知っていた。
「言うまでもないだろうが、敢えて名乗らせてもらうよ。私は
「……随分と老けたじゃねえか、あんた。五年前はもっと精力的だったはずだが?」
「……過去を悔いているのは君だけではない、とだけ返しておこう」
彼はそう言いながら右手──何故か義手になっている──を差し出してきた。それに対して俺も右手を出して固く握手を交わす。ひんやりと金属特有の無機質な冷たさを感じる。しかしながら、ゴーグル越しの目には確かな熱が宿っているように見えた。
「あ、仕事なんだけど────蛇鴉の相棒、よろしく頼むよ!」
「……はいぃいいぃい!?」
・論田蘭人
例のボディーガードの本名。五年前のイギリスの列車事故で妻子を亡くしている。(本来は家族全員で旅行に行くはずだったが、幸か不幸か彼に出張の辞令が下った為難を逃れられた)
その後、同じ事件の遺族が引き起こした事件のニュースを切っ掛けにボディーガードへと転職。本人はあまり自覚していないが、メキメキと腕を上げていきあの男の護衛を引き受けられるまでになった。
・篝火令月
篝火ヒカルノの父親であり、IS黎明期において活躍した人物の一人。
五年前に表舞台から姿を消し、ライブラリにやってきた。その理由について知る者は僅かしかおらず、どうやらかなり込み入った事情があるようだ。
論田が知っている彼の姿は五年以上前のとあるインタビューに載っていた写真であり、その頃は今と比べて髪の色が明るかった。また、右手以外にも体のところどころが義体になっているようだ。