IS 殺し屋は日常を知りたい   作:黒鉄48号

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 謎現象でこの話が消滅したので再投稿です


第六話 擦った揉んだの初対面

 呼び出された私やそれ以外のライブラリ職員は、それぞれのゾーンにあるエレベーターに乗って地下へと移動する。見知った顔を眺めながら、私はこの状況について思い巡らす。

 カテゴリーWAW──ライブラリでは依頼の内容の重要度・危険度ごとにカテゴリー分けするのだが、このレベルは上から二番目であり、それが意味するところは『国家に著しい不利益を(もたら)しかねない事例』である。

 これに該当する物としては論田さんと出会う切欠となった『IS学園受験生売買事件』、それとは別ベクトルの物としては『簡易式銃器国内組立事件』が挙げられるだろう。

 

 この事件のあらましとしては、銃愛(ガンラブ)と呼ばれる民間団体が人間用とIS用の銃器のデータを基にそれらの簡易版を設計。

 その設計図をアングラな組織が盗み出しダークウェブ上でばら撒いたことにより国内に簡易銃が流通してしまい、一部反社会組織同士の争いの激化を招いたのだ。

 

 ……ここに論田さんがいたら『何故彼らはISの用の銃まで設計したのか?』みたいな質問をしてくるだろう。それは単純な話で……I()S()()()()()()()()()()()()からである。

 このことについて、ライブラリで最も銃に詳しい人間の一人である霞野さん曰く────

 

「ISはその大きさの関係上、狭ぇ場所じゃ使えねえよな? そんな時でも対処できるようにアレ用の銃は生身でも撃てるようになってて、米軍とかじゃ訓練の一つに組み込まれてるらしい。

 後は、弾薬費の節約かどうかは分からんが口径も既存のやつ使いまわしてるな。例えばこのジャック・デニムとかは三十八口径……まぁ一般的にゃ拳銃に使われるサイズだ。

 こいつでマグナム弾ばら撒けば大体のやつは殺せるって寸法なんだろうよ」

 

 ────と、押収した簡易銃を分解しながらそんなことを教えてくれたのが記憶に焼き付いている。

 ちなみにその事件は最終的に組織を私や霞野さんといった懲戒部門の職員が壊滅させ、安全部門が全簡易銃を回収した(どうやったかは知らない)。ネット上の設計図には情報部門が()()()……とかいうなんかよくわからないやつを用いて閲覧者に対するトラップを作成したことでなんとか解決された。

 私の経験した事件の中ではかなり長期に渡った部類であったと言えるだろう。

 

 

 過去の思い出に浸っている間に、どうやら目的地に着いたようでドアが開く。そこからぞろぞろと外へ出ると、皆一斉にバラバラの方向を見つめる。ある者は真正面を、またある者は右斜後ろを、そして私は床を見る。

 数秒置いて、周りの者達は私の方に視線を動かしてきた。まぁ、それも当然だろう……何せ、眼鏡越しに映し出された虚像に書かれていたのは──

 

 『宇野誠一、論田蘭人、依頼人が待ってるわ。早急に応接室に来なさい。p.s.仮面(ペルソナ)もちゃんと装備してくるのよという、シンプル極まりない一つのメッセージだったからだ。

 周囲の目線になんともいえない気持ち悪さを感じながら、私はペルソナを取りに向かう。その後ろで、他の職員がひそひそと小声で会話を交わしているのが聞こえる。

 

「宇野が出るってことは、また()()か?」

「だろうな。にしても、なんで新人まで呼んだんだろうな」

「大丈夫かねぇ、あの人。宇野の()り方は記憶に残るもんなぁ……悪い意味で」

 

 そんな呟きを聞き流しながら装備保管庫へとたどり着き、懲戒部門の腕章を嵌めてから『蛇鴉(ヘビカラス)』を手に取って応接室へと(あゆみ)を進める。

 

 

 応接室手前についた辺りで、論田さんと私は鉢合わせた。彼は手に白い布を持っていて、それの扱いに困っているようだった。

 

「お、宇野じゃねえか。なぁ、こいつどうやって使うんだ? ここまでくる時に寄った部屋ん中にぽつーんって置いてあって、『使いなさい』ってメモしかないんだぜ?」

「なんという説明不足……私自身使ったことは数えるほどしかありませんが、それは確か『名隠(なかくし)』という道具ですね。ペルソナの簡易版ですよ」

「……え、こいつにもハイパーセンサー積んでるの? こんな薄っぺらい布切れに!?」

「……何故そんなことを?」

 

 素っ頓狂な反応を見せる論田さん。……あぁ、そういえば()()()()を説明してなかった。それに気づいた私は、少し佇まいを正して会話を再開する。

 

「そういえば、説明がまだ不十分でしたね。実は、私の『蛇鴉』とそれ以外のペルソナは()()別物なんですよ」

「……具体的には?」

スパビーとバトビーぐらい違います

「全くの別物(べつもん)じゃねーか! ……で、それならペルソナ? っつーのは本当はどんなやつなのよ」

「ええ、それはですね……()()()()()()()、とでも言いましょうか。ま、百聞は一見に如かずと言いますし、さっさと入りましょうか」

 

 会話を終わらせ、目の前のドアを開く。ここから一分ぐらい歩けば応接室に着く。

 

「おっそうだな……って結局これどーするんだよ!?」

「適当に顔文字でも書いといてください」

「顔文字ぃ? んなこと言われたって……あ、()()にするか

 

 論田さんの独り言を聞き流しながら電脳眼鏡を外して『蛇鴉』を被る。……さぁ、仕事の時間だ。

 


 

 初めてくる場所に戸惑いながら、俺は目の前の宇野に付いて行く。それと同時に、件の白い布……ナカクシとやらにマイネーム(昔の癖で常に所持してる)を走らせる。

 平らな場所がなかったので若干震えてはいるが、かなり上手く描けたはずだ。自信を持った俺は布にある細い紐を鉢巻のように頭に巻いてこいつを固定する。

 意外なことに、顔の前にあるはずの布は何故か透明になって、向こう側の風景がしっかりと見えた。……相変わらず、この組織の道具は不思議なやつばっかりだ。

 

 色々準備しながら宇野の後ろをカモみたいに付いて行くと、さっきよりも仰々しい扉が視界に入った。それの取手を掴んだ宇野は、ゆっくりと扉を開きながら中に入った。

 やってきた応接室は、外側から見たよりも天井が高く壁には本棚があってそこには色々な言語の題の本がびっしりと詰まっている。

 

 そして、宇野の姿も変化している。仮面は鳥の(くちばし)のような造形が加えられ、図書館職員としての服は黒く染まった白衣……いや、ドクターコートになっている。更にはその上から黒い外套(がいとう)まで羽織ってる。以前にも増して黒尽くめだ。

 

 この変化、恐らくは篝火博士が使っていったアレのせいなのだろう。そう考えている俺の目の前に、安寺さん──髪が長くなっている以外に変化はない──が話しかけてくる。

 

「遅いわよ、あなたたち」

「すみませんね、アンジェラ。ちょっとばかし準備に手間取りまして」

「いやいや、今回は俺が悪いですよ。俺が知らないことを()()が色々教えてくれ……てあれ?

 

 何かがおかしい……Tシャツを前後逆に着たような、除湿と冷房をつけ間違えた時のような何とも言えない違和感を覚える。だが、そのことは二人には感じ取られなかったようで、そのまま会話が続く。

 

「ここを使うのは随分久しぶりですね。もしかして新規の人でしょうか?」

「ええ、そうよ。と言っても、恐らくあなたやそこの…………論田さんも知ってる人達だけどね」

「おいおい、待ってくれよ()()()()()さん。なんだよそのビミョ〜な間は? ……やっぱりなんか妙だなぁ

「……いやだって、その見た目……」

「あー……論田さん、確かに私『顔文字』とは言いましたけど、流石に()()()()()()()は無いですよ」

 

 困り顔で二人はそう言う。しかし、顔文字といえば普通はこれではないのだろうか。……もしかしたら、宇野が言ってたのは(´·ω·`)(しょぼん)\(^o^)/(オワタ)のことだったのかもしれないが、もう後の祭りだろう。

 

「ま、んなこたどーだっていいだろ。そんで、そのご新規さんはまだこねえのか?」

「多分あとちょっとで──いや、来たわね」

 

 安寺さんがそう言うや否や宇野は身だしなみを確認し始め、俺もそれに倣う。ネクタイをきちんと締め直した辺りで、向かいの扉が開かれて二つの人影がやってきた。一人は俺と宇野の中間ぐらいの背格好の茶髪の男性、もう一人は身長160cmほどの水色の髪の少女だ。

 少女の方は足元がどことなく覚束(おぼつか)ないようである。……そして、彼女の着ている服には見覚えがある。確か、IS学園の制服があんな感じだったはずである。

 

「歓迎します、依頼者のお二方。私はアンジェラ、後ろの二人は大きい方が蛇鴉、中位の方が…………への文字さんです」

「歓迎、か。私の知ってるそれとは大分違うのですが?」

「そうゼェ……ハァ……よ。あんなゼェ……ハァ……ふざけた物がゼェ……ハァ……

「お嬢様、一回深呼吸なさってください。……あぁ、すいませんね。些か()()に振り回されすぎたものでして」

「あぁ、でしたらこれを」

 

 安寺さんがフィンガースナップをした瞬間、俺らと彼らの間に、長めのテーブルとそれを挟むように三人掛けのソファーが二つ現れる。最初からあったのか、それとも手品か何かで出されたのだろうか。

 俺と同じ疑問を抱いたであろう男は一瞬訝しむが、少女の顔色を確認してソファーに座らせ自身もその横に座る。それを見た俺らもソファーに座り、会話を始める。

 

「さて、そろそろ名乗りましょうか。(わたくし)布仏(のほとけ)戯真(ぎしん)。そして、私の横にいらっしゃるのが────」

「十七代目更識(さらしき)家頭首、更識楯無(たてなし)よ」

 

 どうにか持ち直した少女が、ノホトケという男の後に続いてキリッとした表情で名乗る。その手には服から引っ張り出した扇子が握らていて、それには文字が書かれて──いやまてなんかおかしい。

 

「なあお嬢ちゃん、一つ質問いいか?」

「あら、いいわよ」

「なんで扇子の文字が『落第点』なんだ?」

……あっれれー、おかしいぞー?

 

 少女は首を傾げなら服からまた別の扇子を引っ張り出す……が、そのどれもが『楯無である!』や『アイアム更識』等々の的外れな文字が書かれていた。

 しかも、段々目線がフラフラと安定しなくなってきているので、『アレ』とやらがよっぽど酷かったのだろうか。俺が彼女の心配をしていると、意外なことに宇野が口を開いた。

 

「……アンジェラ、彼女を休ませるべきだと私は思う。育ち盛りの()()だしな」

「……子供、ですって? 私は更識家の頭首よ! この程度でへこたれる訳ないわよ!」

 

 子供扱いされたことに腹を立てたのか、少女は語気を荒げて宇野に噛み付く。が、しかし、宇野はどこ吹く風といった様子で淡々と話し続ける。

 

「なるほど、確かにそうだろう。……だが、実際は軽い目眩(めまい)を起こしているし判断能力も落ちている。前者に関しては十中八九『アレ』だろうが、後者はおそらく頭首としての仕事のせいもあるのだろう?」

「…………」

 

 図星なのか、少女はじっと黙ったままである。

 

「であるのならば、やはり休憩を取るべきだ。休憩不足は時に人の命を奪うからな」

 

 落ち着いた、だけど有無を言わせない雰囲気を出しながら宇野は彼女に語りかける。昔からずっと読み聞かせをしていたからか、この手の説教みたいな物は得意なようだ。

 俺としても、彼が言ってることが間違っているとは思わない。しかし、楯無さんのような人物にとってはおいそれと受け入れられる内容ではないだろう。

 

 

 あの日、宇野に取っ捕まってなんだかんだでこの組織の一員となった日から、俺は周囲の人間にとにかく知らないことやより詳しく知りたいことについて質問をした。

 ここの成り立ち、仕事内容、図書館に務める上での基礎知識等だ。その中には勿論『更識』に関しての物も含まれていて、聞かれた相手の反応は呆れたり笑ったり叫んだりと千差万別だったが、全員最終的にはちゃんと説明してくれた。

 

 霞野さん曰く「百年以上前から存在している裏社会の名家ってやつだ」。

 篝火博士曰く「対暗部用暗部という奇っ怪な存在だよ」。

 安寺さん曰く「ここ数年は組織の内部で権力争いにばかり明け暮れているわ」。

 宇野曰く「仕事はしないくせに無駄に優秀な人材を沢山抱えている、『豚に真珠』を体現した存在です。人材の1%だけでいいから貰いたいもんですよ」。

 

 ……最後はなんか怨み節が混ざっていたが、聞き込みを続ける内に大体の事情は把握できた。それと彼女の言動を照らし合わせれば、大凡その背景は見えてくる。

 わざわざ大組織の頭首が歴史の浅い組織に顔出ししているということは、あまり彼女は組織を取り纏められていない状態であるのだろう。故に、こういった小さな会見にすら来なければいけない……といった流れになっていると。

 

 閑話休題。未だに渋る楯無さんへの対応を捜し(あぐ)ねている俺らだったが、ここに来て傍観を貫いてきたノホトケが彼女に話しかけた。

 

「お嬢様、私としても蛇鴉さんの意見には賛成です」

「で、でも!」

「でももヘチマもありません。それに、やらなくてもいい仕事を頭首に押し付けたりなんてしたら、布仏の名が泣きます」

「……はぁ、分かったわ」

 

 そう言うと、彼女は目を閉じてソファーにもたれかかって寝息を立て始める。随分と疲れていたのだろう。

 

 そんな彼女を横目に、俺たちは『依頼』について話し始める。……これが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()になることを俺が知るのは、()()()()()だ。




・更織
 日本の裏社会最大規模にして最高の権力を誇る、更織家を中心をして複数の家が集った複合組織。
 対暗部用暗部としても運用されており、政府直属の組織という側面も持つ。
 しかしながら、現在は先代頭首の急逝によって内部がバラバラになりかけている為、国内での影響力はかなり低くなってしまっている(論田のように存在自体知らない人も少なくないレベル)
・更織楯無
 更織家十七代頭首の少女であり、論田の読み通りIS学園の生徒。
 更織の長い歴史の中で初めての女性頭首であり、その上最年少。それ故に肩書きの割には組織を纏めきれていない節がある。
・布仏戯真
 更織家に代々仕えてきた布仏家の人間の一人であり、楯無の数少ない味方である。
 彼女に扇子芸を教え込んだ人物であり、それ以外にも様々な雑技を得意とする。
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