霞野さんに連れられ、私達は進む。入り口から離れるほどに、視界の端々に銃などの部品が増えていき、目的地に着く頃には足の踏み場を探すのに少し時間を必要とするほどまでになっていた。
そこには、謎の部品と多種多様な道具の山に囲まれた金髪の青年が居て、作業に没頭している所だった。そんな彼に、山脈の間を縫い歩いて霞野さんが声をかける。
「おい
「ここがこうなるから、こっちをこうすればもっと良く……って、霞野さんですか。もう来たなんて、早いですね?」
「ああ、新人が上手いことやってくれてな。そんな訳で、一番良いのを頼むぞ」
「えぇ、言われなくとも!」
軽い会話を交わして、霞野さんは部屋から退出する。それに対し、黄色っぽい金髪の青年はこちらにウキウキとしながらやってくる。
「さて、初めましてですね論田蘭人さん。私は村田
「どうも初めまして。設計ってことは、宇野が使ってたナイフとかもあんたが?」
「あ、そっちはチーフ……令月博士が作ったやつですね。私はあくまで銃火器専門なんで」
村田さんは手を顔の前で振って否定する。それを聞いた論田さんは顎に手をあて、少し考え込んでから彼に質問を投げかけた。
「なるほどな……あの後見せてもらったが、あれにはISの技術が使われてるのか?」
「おぉ、そこに気づくとはっ! 具体的に説明するとアレは流体金属に一定の周波数の交流を流すことで形状の変化を起こすという物で、なんでも令月博士とその同僚達が昔ISに可変機構を組み込もうとした時の理論を応用していて────」
目を輝かせながら明日夢さんはマシンガントークを繰り広げ始めた。その速さは、早口言葉とおなじぐらいと言えば大体想像がつくだろうか。
「明日夢さん、私もその話には興味がありますが一旦その辺りで。論田さんも話についていけてないようですし」
「あ……、これはすいませんね。何せあまり知らない人に合うのも久しぶりでして」
彼は謝りながらそう呟く。周りを見渡してみれば、確かに見たことのある顔ぶればかりが揃っている。当然と言えば当然だが、彼の経歴的には中々
「では、早速新しい
「了解です。今回のはとびっきりですよ!」
村田さんが笑顔でジャンク品の山脈に戻っていくのを見送っていると、論田さんが私の二の腕を突いて質問してくる。
「……なぁ、宇野。マストってのはなんのことだ?」
「あ、そういえばそっちも説明していませんでしたね。M.U.S.T.というのは────」
「Machines using special technology のバクロニム……日本語で言えば『特殊技術使用機械』といったところでしょうか」と話に割り込んできたのは村田さんだ。技術関連の会話を耳聡く拾って、すっ飛んできたのだろう。
「特殊技術、ねぇ。具体的には?」
「『蛇鴉』の疑似ハイパーセンサーに、『ペルソナ』や『名隠し』の認識改変、『クロネコ』の
「へー……本当に色々やってるんだな」
「まぁ、それはともかくです。論田さんにはこれを」
そう言って明日夢さんは一丁の拳銃を取り出した。全体が角張っていて、グリップの上側には奇妙な箱──
「これは?」
「僕が作った試作型対IS用自動拳銃、その名も『コア・トリガー』! ……試作品なのでまだ正式名称ではありませんがね」
「…………そんなもの、どこで使うんだよ?」
「令月博士がいつか使うかもしれないと言っていましたので、アドバイスを貰いながら作ってみたんですよ」
論田さんの疑問に明日夢さんは苦笑しつつ答える。
「それにしても、凄い名前ですね」
「"コア・トリガー"……随分とロマンのある名前だよな」
「あはは……まぁ、本来はそれ、ISの
明日夢さんは頭を掻きつつ言う。私は首を傾げるが、論田さんはどこか納得しているような表情をしている。
「後は、他にいくつかユニットを作ってあるのでそれもどうぞ」
「お、やっぱりこの箱はそういうやつか……いいねぇ! 換装は男の浪漫だしな!」
論田さんはウキウキしながら、追加で七つの箱を受け取る。
それぞれの箱には、緑色のハート、青い脳味噌、赤い爆風、白い煙、黒い稲妻、水色の階段が柱状グラフが描かれている。
「後は宇野君だけですので、論田さんは外で準備をしておいてください。共通装備は出発前に他の職員が渡します」
「了解。宇野、いいもん貰えるといいな!」
そう言い残すと、論田さんはスキップをするような足取りで部屋を出ていった。
それを見届けた私は、改めて目の前の人物を眺める。
村田明日夢──論田さんにはボカしたが、
彼の正体は、『
件の設計図を書いたのも彼や銃愛のメンバー達であり、その手腕に惚れ込んだ霞野さんにより、銃愛全員がライブラリの設計部門へと引っこ抜かれることになったのだ。
閑話休題。村田さんはこっちをじっくりと眺め、知恵を絞っているようだ。
「さて、次は宇野君の番ですが……何か希望する武装などありますか? 可能な限り要望に応えられるようにしますよ」
明日夢さんの言葉に少し考える。私が今一番欲しいものは……。
「明日夢さん、今から言う中で実現可能な物はありますか?」
束の間の思案の後、彼は「……少し時間をください」と言って、
そこからの作業音を耳にした私は、彼に向けての感謝の言葉を呟いて部屋を出たのだった。
・村田明日夢
ライブラリの設計部門副チーフの青年。黄色の強い金髪に碧眼と外国人のような見た目だが、これでもちゃんとした日本人。
銃や戦車などの兵器マニアであり、ただ愛でるだけには留まらず、アメリカの銃器販売店までガン・シューティングをしに旅行するほどにゾッコンである。
ISが登場してからは、モンド・グロッソの試合映像や各企業のPVを参考に模型をフルスクラッチし、それをコミケで販売していたこともあった。
・模型愛好家組合
様々な模型を愛する人々が集って作り上げられた組織。組合に参加し年会費を払うことで、塗装設備や最新の企業用3Dプリンターの貸出、希少な商品の捜索といったサービスを受けられる。
ガンラブはここの一部門であり、オリジナルの銃のデザインや設計組み立て(もちろん模型)が盛んだった。
……しかしながら、それらの模型はライフリングが刻まれていない