とあるタグ2つの本領発揮です。
地面を踏み締めて走り出す。三歩目の右足で地を蹴り、着地と同時に左で再跳躍。
三度目の大ジャンプの瞬間、私は腹に力を入れて叫ぶ。
「……
宙に浮いた体が頂点から更に上へと動き始め——少し右に逸れた瞬間、乱雑に投げられたスーパーボールの様に、私の体は空を滑る。
視界がぐるりと回転し、やがて真っ暗になる。……どうやら私は地面に叩きつけられたらしい。
「うぐっ……」
全身が痛い。特に頭と胴は酷く、意識も飛びそうだ。
「あらら、また失敗しちゃいましたか……大丈夫ですか?」
「えぇ、なんとか死んではいませんよ。村田さん、どうでした?」
近寄ってきた村田さんに質問する。彼は首を振りながら、少々悲しそうに告げる。
「上昇距離は4m、右に0.2°ズレたことで目標地点に到達せず失敗です」
「そうですか……ありがとうございます」
たった今試験運用しているのは『
これは、瞬間的に強いローレンツ力を発生させることで空中での再跳躍や軌道変更を可能にする代物なのだが……。
「やっぱり難しいですねこれ。何回やっても上手くいかないですし」
「まぁ、まだ実験段階なんですし仕方ないですよ。もう少し練習すれば出来ますって!」
そんなことを言いながら笑顔を見せる村田さん。この人はいつも優しい。……だが、そうも余裕では居られない。
何故なら、この装備を完成させなければ今回の依頼を完遂するのは極めて難しいからだ。
「……ふと思いましたが、ハイパーセンサーは小型化出来ましたし、PICも同様には?」
「流石に難しいですね……アレに使われてるソフトはISコアありきの代物なので、通常のスパコンとかだと処理能力不足でして」
「じゃあ、やはり彼女らに頼るしかないのか……」
私はチラリと後ろを見る。そこには戯真さん(あの後漢字を教えてもらった)と更識楯無がいた。楯無は腕組みをしながらこちらに話しかけてくる。
「ふふふっ、私のミステリアス・レイディにお世話になる覚悟が出来たかしら、蛇鴉さん?」
「……いいえ、まだです」
私が断ると、彼女はつまらなさそうな顔をして扇子を開いた。そこには『強情』と書かれていた。
「ちぇー、相変わらず釣れないわね〜……でも、本当にやるつもり? いくらあなたが強くても、そこまでする必要は無いんじゃない?」
「わかっていますよ。ですが、あなた方に頼ったら何を要求されるか分からないから仕方ありません」
不貞腐れるを彼女を横目に、私は息を整える。目指すは垂直10mの上昇……高いところでミスをすれば先程の比にならないダメージを喰らうだろう。
「よし、行きますか」
「はい! 頑張りましょう!!」
元気よく返事をする村田さんの声に背を押されながら再び地面を踏み締める。そして、三歩目で右足が地を離れ──。
「
より勢いよく大地を蹴る。すると、今度は少しも逸れることもなく私の体は真っ直ぐ天に向かって飛んでいった。
「やりました!! 成功しましたよ!!」
興奮気味に叫ぶ村田さんにつられて、私も思わずガッツポーズを取る。しかし、私は未だ空中なので上手く着地をしなければ怪我をしかねない。
慎重に着地地点を見定めて、私は足から着地した。
「ほう、ついに成功させましたか……どう思います、お嬢様?」
「……あんなにひどい目にあっても諦めない根性だけは認められるわ
遠くの方で二人が何か喋っているが、特に関係ないだろう。兎も角も、『更識』に対して借りを作らずに済んだだけでも儲け物だろう。
そんなことを考えていると、遠くの方でピンポ~ンと電子音が聞こえた。そちらに目を向けると、千鳥足で論田さん……いや、コードネーム『“
「うう……ぅ゛っげ゛!えぇ゛っ……! 気持ち悪りぃ……村田さん、あのエレベーター欠陥品じゃねえか! なんでいきなり斜め上に移動したりその場で回転するんだよ!?」
「ありゃ〜、
黒一色でのっぺりした仮面を被った彼が村田さんに愚痴りながら、背中を擦られる。論田さんの乗ったエレベーターは、この前『更識』の二人が乗ってしまった物と同じだ。
某魔法使いの映画に出てくる植物に倣って『暴れ昇降機』と呼ばれるそれは、元は東弊重工*1に依頼して作ってもらった物なのだが、その中の一つが件のアレに変化してしまったらしい。
噂によれば、このライブラリ本部を作った如月工務店*2と東弊が一昔前にいざこざを起こしたせいらしいのだが……真実か嘘かは別として、なってしまった物はしょうが無いので主に一見さんへの洗礼として使われているのだ。
閑話休題。こちらにやってきたということは、彼も訓練が一区切りついたのだろう。そのことについて論田さんに話し掛ける。
「レティシンス、例の銃の調子はどうだ?」
「あぁ、絶好調で無敵快適
「おぉ、それは良かった! ではレティさん、逆に問題点とかはありますか?」
会話の途中で村田さんが割り入ってくる。自分の“作品”の評価を聞き、反省点を確認してそれを改良してまた評価を……といった行為が彼は大好きなのだ。
「問題、ねぇ……強いて言うなら、反動が無いからちょっと戸惑うのと……あぁ、後はアレだ。箱の中身の
「液体……あぁ、エンケファリンですか」
「あれそういう名前なのか……んで、まあそれが若干粘度が高すぎて注ぐ時にちょっとな」
「なるほどなるほど……ちょっと中和を早くしてみますね」
二人の声はそれなりに大きく、ちょっと遠い場所にいる更識の二人にも聞こえたようで、『
まあ、理由を知らないならそれが普通だろう。エンケファリンは生物の脳内や消化管だとか……とにかく色々な所にある物質であり、非常にありふれた存在だ。
だが、そんな物にエネルギーが──それも原子力電池等に引けを取らない程──が含まれているとは思いもしないだろう。そして、それが私達の使うマストの動力源となっていることも。
「そういえばだが、レティシンス。その仮面にはもしや……」
「あぁ、お前のその悪趣味なやつに入ってるハイパーセンサーの改良版が仕込んであるぜ。いやぁ、こいつはつくづく便利だぜ? 『俺たち』には縁が無いと思ってたしな」
そんな風に言いながら彼は楯無の方に顔を向ける。それに気づいた彼女は、こちらに近づいて話に参加してきた。
「ねぇ、そこの仮面のお二人さん。今回の作戦に、そこまで装備を持ってく必要があるのかしら?」
「ん、そうだな……絶対かと言われればそうでもない。だけどな……」
「『備えあれば憂いなし』、常に不足の事態に備えておくべきだ。今まで、そうやってきたから私などはここにいる」
「……随分と断言するじゃない、蛇鴉さん? でも、私だって────」
楯無の反論に割り込むかのように、バイブ音が鈍く鳴り響く。彼女は一瞬顔を
「もしもし、更識です…………は? ちょっと、冗談じゃ?」
「……なんか嫌な予感するな、蛇鴉」
「そうですね」
私は彼女に近づくと、スマホを手から抜き取ってスピーカーに切り替える。
「あっ、ちょっと!?」
『────しきさん? 更識さん!』
「もしもし、どこかの誰かさん。こちらはライブラリのさるメンバーです。何が起こりましたか?」
『ええっと……織斑先生が、学園から脱走したんです!』
・
ジャケット型のマスト。SCP-594『電気羊』の金属羊毛及びその他の部位由来の素材で作られており、雷数本分の電流を貯蔵することが出来る。
この電気を用いて、電気羊と同じく電磁界を操作して空中歩行をすることが出来る。また、一瞬だけ電圧を上げて高い跳躍が可能。
http://scp-jp.wikidot.com/scp-594
著者:gnmaee
http://scp-jp.wikidot.com/scp-594
著者:kyougoku08
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