【完結】暁小南討伐チャートbyホモガキ   作:夜散花

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グロ注意です!
血とか苦手な方はご注意を


ch.9 雨隠れのヒーロー凌辱だぜ!(小南)

 弥彦を失い、深い悲しみを味わう中、我々はアジトへと帰った。

 アジトに帰った私たちを待っていたのは、さらなる地獄だった。

 

「う……そ……よ……」

 

 少し前まで一緒に笑いあっていた暁の仲間たち。心から信頼できる気の良い仲間たち。

 

 その彼らが全員、変わり果てた姿で転がっていた。まるで見せしめであるかのように、惨たらしい状態で拠点内外に散らばっていたのだった。

 

「こんなことがあっていいのかぁああ! ふざけるなぁあああ!」

「鳩助! 大仏ぅうう! うわぁあああ!」

 

 長門が半狂乱になって地面を叩く。拳から血が滲むのも構わず殴り続ける。

 ランは特に親しかった仲間の名を叫んではその亡骸へと縋りついた。

 

 亡骸という表現は的確ではない。ほぼ肉片だ。辛うじて生前の彼らの特徴を残す身体の一部があるに過ぎない。

 ランは血の海からその肉片を愛おしそうに抱き寄せては抱きしめて泣いていた。

 

「あぁあああ! みんなぁあああ! どうしてなのぉおお! 私たちが何をしたっていうのぉおお! 神様ぁああ、酷いよぉお!」

 

 ランはみんなの亡骸を前にして枯れ果てたはずの涙をさらに搾り出し、全身の水分がなくなるのではないかというくらいに慟哭していた。

 

 ランの言う通り、私たちが何をしたというのだろうか。何か悪いことをしたのだろうか。

 そう神に問いかけたくなるような惨状が目の前に広がっていた。

 

 私たちはただ自分たちの故郷を、雨隠れの里を変えたかっただけだ。

 自分たちのような惨めで辛く苦しい人生を歩む人間が少しでも減るようにと、少しでも里を良くしようと、ただそう願っただけだ。

 邪な思いなどない。雨隠れを少しでも良くしようという純粋なる思いで、志を同じくする仲間を募り、暁を結成した。自分のために使う時間の多くを犠牲にして、誰かのためにと命の危険も顧みずに身を削ってひたすら頑張ってきた。誰かに認められずとも、神様は私たちの頑張りをきっと見ていてくれる――そう思って頑張ってきた。

 

 その答えがこれだ。

 尊敬していたはずの雨隠れの長に疎まれ、家族同然の弥彦を失い、志を同じくした多くの仲間たちが惨たらしく殺された。

 神に対して恨み事の一つや二つ言いたくもなる状況だった。

 

 太陽が消え去り、共に雨風を凌いだ仲間の花のほとんどが枯れ果てて地に伏してしまった。暗黒が支配する不毛の大地で、再び根を張ることなどできるのだろうか。この呪われた忍び世界に救いなどあるのだろうか。

 そう思い詰めてしまうくらい、絶望しかなかった。

 

「あぁ……」

 

 私は全身の力が抜けたかのように、その場にへたり込んでしまった。

 涙も出ず、ただ呆然と前を向いていた。地面に手をついた時に付着した掌の血糊を呆然と見つめる。

 

(血……みんなの……血……)

 

 視覚、嗅覚、触覚――全ての感覚が耐え難い現実を突きつけてくる。

 愛する弥彦が死んだ。私のことを慕ってくれていた男の子たちの全員が死んだ。信頼できる仲間のほとんどが死んだ。

 在りし日の彼らの顔が次々に浮かんでは血溜まりの中に消えていく。地獄とはこの世のことだと思い知らせてくる。

 

(私が……私のせいで……)

 

 私が捕まらなければこうはならなかったと思うと、今すぐにでも自害したい衝動に駆られた。弥彦と暁のみんなに心から懺悔して、この世から消え去りたいと思うくらいだった。

 

 だがそのようなことはできなかった。弥彦が生かしてくれた命を無駄にはできない。

 だから死にたいほど辛い現実が目の前に広がっていようとも、自ら死ぬという選択だけはできなかった。生き地獄の中でも生きていかねばならなかった。

 

 私たちは数刻くらいはその場にいただろうか。

 長門もランも私も、血臭で満たされた場所にずっといた。鼻を突くような臭いも汚濁にも構わず、呆然とその場に佇んでいた。

 

「お墓……作らないと……みんなの……」

「そう……だな……」

「ええ……」

 

 ランがそんなことをポツリと口に出し、長門も私もゆっくりと動き出すことになった。

 土砂降りの雨の中、何も喋らず何も考えず、ひたすらお墓を作る。感情のない絡繰人形のように動き続ける。

 

 ふと思った。墓を作るのはこれで何度目だろうか。仲間が死ぬ度に作ってきたから数え切れないほどだ。

 だが、こんなに一度に多くの墓を作るのは今回が初めてだった。

 弥彦の、鳩助の、大仏の――みんなの墓を作らねばならない。一つ、二つ、三つ、四つ――――。

 

 昔長門の飼っていた犬の墓を作った時は、忍術が使えず人力で掘っていたので、四人がかりでもかなりの時間がかかった。小さな犬の亡骸を納める墓を作るのにも苦労したものだ。

 

 だが今は簡単だった。今はたった三人だけで大量の墓を作ることになったが、忍術が使えるので凄く簡単だった。

 仲間たちの亡骸が獣に荒らされないように土遁を使って深い穴を掘り、そこにみんなの肉片を埋めていく。紙で作った沢山の花束を添える。一人、二人、三人――全員分の花を添えていく。

 

 程なくして、弥彦以外の仲間の全ての墓を作ることができた。

 雨の中、私たちはずぶ濡れになのも構わずに無言で祈り続けた。

 

「弥彦の亡骸はあそこに安置しましょう。私たちの帰るべき場所に……」

「ああ……」

「そうだね……」

 

 弥彦の死体だけは防腐措置を施し保存することにした。

 眠っているように綺麗に死んでいる弥彦が腐っていくのは耐えられなかった。だから私たちの気持ちが落ち着くまで、一緒にいることに決めた。弥彦だけは特別だから。

 

 茫然自失としたまま、破壊された拠点を修復する。

 とりあえず当面の生活の目処は立ったが、心は晴れない。ずっと雨模様だ。

 がらんどうとなってしまった拠点内で目的もなく呆然と数日過ごした。

 

「許せない……」

 

 そうしていると、もう耐えられないとばかりに長門が声を上げた。

 

「復讐しよう。このまま泣き寝入りなどできない。半蔵に復讐するんだ!」

 

 長門は憎しみに満ちた目でそう言った。

 

「無理よ。私たち三人だけでなんて……」

「今度こそ殺されちゃうよ……」

 

 私もランも反対だった。

 いくら長門が強いといっても限度がある。半蔵一派全員を相手にして勝てるとは正直考えられなかった。

 

 あの外道の力を借りれば、あるいはどうにかなるのかもしれない。

 けれどあれは長門の身体を大きく蝕むものだ。おいそれとそれに縋ることはできなかった。

 

「小南もランも、悔しくないのか! 弥彦が、皆が殺されたんだぞ!」

「私たちだって気持ちは同じだよ。けどどうしようもないよ!」

「そうね。最近の半蔵は臆病になって厳重な警備の屋敷から出ないっていうし、三人で敵の本拠地を落とすなんて無謀だわ……」

 

 復讐を叫ぶ長門。

 ランも私も気持ちは一緒だった。けれどどうしようもなかった。

 

「まだ足りないのか。俺に力がないから……弥彦も……みんなも……くそっ!」

「長門……」

 

 弥彦が、皆が殺されたというのに泣き寝入りするしかないのか。私たちは成長して力を手にしたはずなのに、幼い時と同じく無力なままなのか。

 

 そんな不甲斐ない思いを抱えながら途方に暮れていると、あいつ等が前触れもなく訪れたのだった。

 

「話は聞かせてもらったぞ。とんだ災難だったようだな。心中、お察しするよ」

 

 マダラを名乗る怪しげな仮面の男。

 それと見るからに人間ではない二つの顔を生やしたゼツと名乗る男。

 その二人(三人?)が私たちの拠点へとやって来たのであった。

 

「何の用だ。夢破れた惨めな俺たちをあざ笑いに来たのか?」

「違う。そんなことはしないさ。話し合いにきたのだ。俺とお前たち、今なら共に手を組めると思うがどうだろうか?」

 

 マダラは私たちに手を貸すと提案してきた。

 

「俺たちが暁再興を手伝ってやる。だからお前たちも俺の夢に協力しろ。俺の夢が実現すれば、お前たちの願いも同時に叶うことになる。我々が行き着く先は究極的には同じだ」

 

 全てを失った私たちにとって、それはとても魅力的な提案だった。

 我々に気づかれることなく近づけるということは、二人の実力は確かなのだろう。強力な助っ人だ。

 

 本物かはわからないが、うちはマダラというビッグネーム。それに加え、謎の組織を後援に持つゼツ。

 二人の力が加われば、暁再興は一気に進むと思われた。

 

「少し考えさせてくれ」

「ああいいだろう。では明日、同じ時間にここを訪れる。色よい返事がもらえると期待しているぞ」

 

 長門は返事を一旦保留した。

 奴らが去った後、私たちは三人で話し合うことなった。

 

「ラン、どう思う?」

 

 長門の問いに、ランは難色を示した。

 

「私は反対。あの二人嫌い。なんか凄い気持ち悪いの……。私たちのこと利用しようとしてるよきっと。ホント、気持ち悪い……。特にマダラの方……」

 

 ランはあの二人のことが心底気に食わないといった様子だった。ずっと「マダラ気持ち悪い。本当気持ち悪い」と連呼していた。

 ランの人を見る目は確かだから、きっとそれは確かなのだろう。

 

 長門も私も、ランに言われるまでもなくそう思った。

 あの怪しげな男たちが善意で近づいてくるなんてあり得ない。私たちを利用しようとする、なんらかの意図があるのだろう。それは容易に察しがついた。けれども――。

 

「前に弥彦もあの人たちのこと信頼できないって言ってたし、やめようよ」

「だがそれだと暁再興まで途方もない時間がかかることになるぞ」

「それでも地道に三人でまた一から頑張ろうよ」

 

 ランの言うように三人で地道に活動なんてしていたら、いつまで経っても弥彦の夢には近づけない。

 それに地道にやったところで、また理不尽に潰されてしまうかもしれない。そんなのは御免だ。

 

「綺麗ごとばかり言わないでラン」

「小南ちゃん?」

 

 私は綺麗ごとばかり言うランに苛立ち、少し声を荒げてしまった。

 本当に苛立っていたのはランに対してなのか、無力な自分自身に対してなのかはわからない。

 やりきれない気持ちの捌け口を探すようにランに冷たく当たってしまった。

 

「あいつらが私たちを利用するつもりなら、逆に私たちも利用してやればいい。私は悪くない提案だと思う。世の中、善意でなんて動いてないもの。お互い利用し合えばいいのよ。目的を達成できるなら手段なんてどうでもいい」

「小南ちゃん……」

「小南の言う通りだ。俺も奴らは胡散臭いと思うが、奴らの齎す力は魅力的だ。利用すれば、弥彦の夢に近づける。俺は弥彦に全てを託された。弥彦の夢のためなら、俺はなんでもする覚悟だ。この命すら惜しくはない」

「長門まで……」

「ランは反対か?」

「ううん、二人がそこまで言うなら私も従うよ」

 

 ランはよほどあの二人のことが気に食わなかったらしい。二人と手を結ぶことに最後まで反対していた。

 最後まで反対したものの、私たちが乗り気な様子を見て、渋々それを受け入れていた。

 

「交渉成立だな。今日から俺たちも暁の一員だ。よろしく頼む」

「ハロー! よろしくね!」

 

 翌日再びやって来たマダラたちに対し、私たちは承諾の返事を伝えた。

 こうして私たちは自称マダラと怪しげな男ゼツと手を結ぶことになった。

 

 弥彦たちといた頃の仲間に比べると、月とすっぽんだった。素顔を見せない人間など信頼できない。

 心から信頼できない仲間など本当の意味では仲間ではないのだろう。

 だが、私たちはそれでも怪しげな二人の力に頼るしかなかったのだ。

 

「リーダーはお前だ長門」

「ああ」

 

 マダラが仲間に入るということで、リーダーをどうするかという問題が生じたが、マダラたちは暁の席を借りるという形をとった。だからそのまま長門が表向きのリーダーということになった。

 長門としては、弥彦こそが真のリーダーと考えているようだったが。

 

「それでは当面の方針について話し合おうか。まずは雨隠れの半蔵を討ち、雨隠れを奪る。そしてそこを足がかりに組織を拡大させていく。マダラよ、それでいいか?」

「ああ。それで構わない。ゼツ、各里の情報収集は任せたぞ」

「ああ任せてよ」

「俺は写輪眼の能力を使い、半蔵の様子を探ってこよう」

 

 ゼツは謎のネットワークを持っているらしく、世界各地の情報を瞬時に仕入れてきてくれた。

 マダラは持ち前の時空間忍術と写輪眼を駆使し、どんな厳重な警備が敷かれた侵入不可能な場所の情報も探ってきてくれた。半蔵の本拠地である館の情報も逐一拾ってきてくれた。

 

 情報を集め、半蔵襲撃及び雨隠れ乗っ取りの準備を重ねる。

 そして、いよいよ復讐の機会が訪れることとなった。

 

「いくぞ。俺たちの痛みを、半蔵たちにも味わわせてやるんだ」

「ええ」

 

 我々はあえて敵が本拠地に集まっている時を狙うことにした。

 半蔵一味を一人も残さず抹殺するか捕らえ、そのままそっくり半蔵一派に成り代わって雨隠れの里を統治する計画を立てた。

 それが最も効率が良いと考えたからだ。

 

 隠密裏に館に侵入し、出来るだけ多くの忍びを始末する。

 敵も無能ばかりではない。やがて事態の異常を察知することになる。

 

「敵襲!」

「敵襲だ!」

「ここらへんが限界か。隠密行動はこれまでだ。これより、全力で戦う。雨隠れを奪う戦争だ!」

「ええ!」

 

 敵がこちらの動きに気づいてからは激しい戦いの連続となった。我々は姿を隠すこともなく戦い、敵を討ち続けた。

 館の周りはゼツが生み出した多数の分身体が包囲していて、鼠一匹逃さぬ布陣だった。

 

 五人で山椒魚の館内部を進み、敵をひたすら討ち続けた。未明に襲撃をかけ、日が昇る頃には半蔵が控えている本殿へと辿りつくことになった。

 

「何者だ!」

「半蔵。お前の首をもらいにきた。弥彦と皆の無念、ここで晴らさせてもらうぞ」

「その渦巻き模様の眼……あの時の小僧! それに小娘共もか!」

 

 半蔵は長門の輪廻眼を見て、ようやく私たちのことを思い出したようだった。それまですっかり忘れていたようだった。

 

 奪う者は奪われた者のことなど、とうに忘れている。だが奪われた者は奪った者のことを一生忘れはしない。それが世の常なのかもしれない。

 

「復讐か……。よかろう。受けて立つ」

 

 因果応報。憎しみの連鎖。

 それを受ける側となったことを悟ったのか、半蔵はなんとも言えぬ表情をしていた。

 

 そして、半蔵と私たちの戦いが始まった。

 

「口寄せ! 外道魔像!」

 

 ここが正念場ということで、長門はすぐさま必殺技を繰り出すことにした。外道の力を使い、半蔵の配下の手練の者たちを一気に屠っていく。

 

「ぬぅ、またしてもその力! 側近共では役に立たぬか! 口寄せ、イブセ来い!」

 

 老いて衰えたとはいえ、流石は雨隠れの半蔵だった。ザコはあっという間に片付いたものの、半蔵だけは中々すぐには仕留められなかった。

 

「イブセ! 奴らを近づけさせるな!」

 

 半蔵は口寄せ獣の山椒魚の化け物を呼び寄せると、毒を吐き出させて周囲を制圧してきた。半蔵と山椒魚には無害な毒で、我々にだけ害を及ぼす毒だ。

 毒のせいで迂闊には近寄れず、我々は距離をとって戦うしかなかった。お互いにアウトレンジから当たりもしない攻撃をちまちまと繰り返すしかなかった。

 

 私たちの仇討ちということで基本手を出さないマダラとゼツを除けば、唯一まともに戦えたのは長門の外道魔像だけだった。

 流石の長門といえど、半蔵とイブセのコンビを相手にするのは大変なようだった。

 

「俺が手を貸そう。半蔵とは一度戦ってみたかったところだ」

 

 長門の操る外道魔像だけでは力不足だと思ったのか、マダラが加勢に向かうことになった。

 マダラは毒霧で満たされた空間に不用意に近づいていった――かに見えた。

 

「馬鹿め! 迂闊に接近などしおって!」

「ふん、俺がそこまで馬鹿に見えるか? 侮るなよ」

「何ィ!? すり抜けただと――ぐふぅ!」

「さらにもう一発」

「がはっ!」

 

 毒霧をすり抜けて接近したマダラが、半蔵の腹に一発、さらにもう一発と、鋭いパンチを浴びせていく。

 マダラは時空間忍術を駆使し、至近距離から放たれる半蔵の毒霧をものともせず、上手く切り抜けながら攻撃を加えていった。

 その無敵とも思える圧倒的な戦いぶりは、伝説の忍びうちはマダラの名に相応しいものであった。

 

「出来れば俺の力だけで半蔵を仕留めたかったがやむを得まい。デカブツ、すぐに送り返してやるぞ」

「キィイ!」

 

 マダラが半蔵の相手をすることで、長門はイブセとの戦いに集中できるようなった。

 やがて長門はイブセに多大なダメージを負わせ、強制的に帰還させることに成功した。

 

「どうした? 山椒魚の半蔵もこの程度か? とんだ期待外れだな。どうやら頼りの口寄せ獣も長門が倒したようだな。半蔵、お前はもうお終いだ」

「ぐぅ、おのれぇ……」

 

 半蔵はマダラに手傷を負わせられた上、相棒の口寄せ獣を失う格好となった。

 既に多くの手勢を失っており、状況の打開は不可能。半蔵は己の死を悟ったようだった。

 

「ぬぅっ、これまでか……我が理想はついに実現できなかったか」

 

 半蔵は悲しげな表情を一瞬見せるものの、すぐにこちらに殺気をぶつけてきた。

 我々を道連れにして果てようと、最後の自爆攻撃をしかけようとしてきたのだった。

 

「貴様らだけはここで仕留めてくれるわ!」

 

 半蔵は複雑な印を組み始める。

 発動に少し時間がかかるようだったので、私は術が発動する前に一気に仕留めようと思い、紙手裏剣などを放った。

 

――パキンッ。

 

「なっ、堅い!」

 

 だが、奴の身体は紙手裏剣を弾き返していた。

 自爆術の発動までの時間稼ぎの策は用意してあるようだった。

 

「あれは少々不味い。退避するぞ。長門、外道魔像で半蔵の身体を押さえて時間稼ぎしろ。外道魔像なら毒をくらおうが問題ないからな」

「ああ」

 

 半蔵決死の自爆戦術を前に、マダラも少々分が悪いと思ったらしい。長門の外道魔像に時間稼ぎを行わせると、私たちを逃がすべく手を打つことにした。

 

「小娘共、俺の手を握れ」

「やだ」

「死にたいならばそれでいいがな」

「……くっ」

 

 ランはマダラの手を握るのがよほど嫌なのか、物凄いしかめっ面をしていた。緊急事態ということで渋々握っていたが。

 

「小娘共は逃がした。最後はお前だ長門」

「ああ」

 

 そうして外道魔像が覆いかぶさるようにして半蔵をおさえている間に、我々はマダラの作り出した時空間へと退避した。

 

「さらばだ半蔵。一人あの世に向かうんだな」

「ぐがああーっ! おぃううっす! おーっ! うーっす! うがぁあああああ!」

 

 やがて誰もいなくなった空間で、半蔵は毒を周囲に撒き散らしながら狂ったように暴れ、一人果てたようだった。

 雨隠れの英雄の最後にしては誰にも看取られることもない哀れな最後であった。

 

 もっとも、弥彦やみんなの命を奪った者には相応しい末路だとも思ったが。

 

「ようやくみんなの仇が討てたな」

「ええ。でもこれは始まりにすぎないわ」

 

 長門も私も、敵討ちを果たして一安心といったところだった。

 

 でもこれは始まりに過ぎない。弥彦の夢はこれから始まるのだ。

 雨隠れの実権を握り、力を伸ばす。弥彦の夢を二度と誰にも邪魔させない。

 圧倒的な力を手に入れなければいけない。感傷に浸っている暇などなかった。

 

 だというのにあの子は……。

 

「半蔵を討っても、弥彦も皆も戻ってはこないんだね……」

 

 弥彦たちを殺した連中だというのに、ランはそんな連中にも哀れみをかけているようだった。全てのエネルギーを失ってしわしわの物言わぬ骸となった半蔵を見て、感傷に浸っていた。

 

「ええそうよ。でも、これで私たちの鬱憤も少しは晴れたでしょう? 弥彦の仇を討つことができたの。雨隠れも手に入れることができた。弥彦の夢に近づける。ならいいじゃない。何を迷っているの?」

「うん……そうだね」

 

 私たちはこんなところで立ち止まっている暇などないというに、ランはいつまでも敵を殺した感傷に浸っていた。

 そんなランを見ていると、とてもイライラした。

 

(この子はこんな時でもいい子ぶって……思えば昔からそうね……)

 

 ランに対する怒りが湧いてしまう。

 愛する家族に対して抱いてはいけない感情だと思い、私は必死にそれを押し殺した。

 

「大変だよ。砂隠れの増援がこっちに向かってるみたい。指揮するのは羅砂って忍びで、三代目風影の一番弟子みたいだよ」

 

 残党の始末をしていると、ゼツがそう報告をしてきた。

 いつもながらだいぶ距離の離れたところの情報をよく拾ってこれるものだと感心する暇もなかった。

 事態は急を要していた。

 

「そうか。雨隠れ側も無能ばかりではないか。我々の包囲網を突破して砂隠れに援軍を求めた者がいたか」

「マダラ、どうする?」

「今ここで砂隠れ相手に事を構えるのは避けた方がいいだろう。奴らがここに至るまでは一両日はかかる。その間に、至急、計画を進めるしかあるまい」

 

 長門と話していたマダラが策を披露する。

 小細工に関してはマダラに一家言あり、奴の言うとおりにすることになった。

 

「小南、紙分身で半蔵に化けろ。演技力ならお前が一番だろう。半蔵のこともよく知っている」

「ええわかった」

「ゼツ、お前は例の術で雨隠れの忍びに偽装しろ。生き残った者を装い、多数の証言者となれ」

「了解だよ」

「長門は身体を休めていろ。外道魔像によって失われた体力の回復に努めろ。小娘、お前は長門の看病でもしてろ」

「わかった。ここは皆に任せるとしよう」

「小娘じゃない、ランよ。マダラ、アンタはどうすんの?」

「俺は捕虜にした雨隠れの忍びを幻術で操り、クーデターを起こした者として洗脳させよう。そいつらを処分することで、内乱が治まったように里内勢力と砂の連中に見せかける」

「……罪もない人に罪を着せるの?」

「そうだがそれがどうかしたか小娘? 何か文句があるのか小娘?」

「……別に」

 

 マダラの策にランは不服げな様子だったが、私たちは協力して砂隠れの忍びたちが里に到着するまでに偽装工作を行うことになった。クーデターが未遂に終わったように偽装することにした。

 

 そして翌日、救援に来た砂隠れの部隊の長と会うことになった。

 私は半蔵に化けてその相手をすることとなった。

 

「いつもは我等の救援になど来ぬと言うのに、今回はどういった心境の変化かな? 砂隠れの者よ」

「そう棘のある言い方をなさいますな半蔵殿。一国一里制度が根付いてからというもの、形骸化しておりますが、我々と貴方方は同じ風の国の者同士ではありませぬか。お互い助けあうのは道理というもの」

「ふん。先々の大戦では我々の領土がいくら蹂躙されようともそ知らぬ顔をしていたというのにな」

「……それとこれは話が別でございます」

「まあ今回の件に関してはとりあえず礼を言っておこうか。だがご覧の通り、内乱は既に治まっておる。とんだ無駄足となったな。ゆっくり飯でも食って観光でもして帰るがよかろう」

「どうやらそのようですな。ではお言葉に甘え、一晩だけ宿を借りましょう」

「ああ。ごゆるりとな」

 

 そうしてなんとか砂隠れの者たちとの会談を切り抜けることができた。

 無論、相手がどう思ったかは見た目からは計り知れない。

 我々は寝所へと眼を放ち、砂隠れの者たちの真意を探った。

 

「羅砂様、いかが思われまする?」

「我らの所に救援要請に来た者の話と幾らか食い違う点が見られる。そんな簡単に反乱が防げたとは思えん。そして会談で会った半蔵だ。あれは一見すると本物の半蔵に見えるが、どこか違和感を感じる。以前会った半蔵はもっと男臭かったはずだ。あんな女人のように丁寧な男ではない」

「では偽者だと?」

「かもしれん。だが断定はできん。全ては私の勘だ」

 

 上手くいったと思っていたが、向こうにも勘の良い忍びがいたらしい。

 羅砂という忍びは中々の曲者だった。

 

(どう出るかしら……)

 

 我々は事が露見するならば口封じもやむなしという判断で即応態勢を整えていた。

 二晩続けて雨隠れの夜に緊張が走る。再び血の雨が降るかと思われた――しかし。

 

「仮に誰かが成り代わったとしても、それを証明する手立てはない。それに成り代わった者は少なくとも半蔵以上の力を持つ者ということになる。そんな連中と事を構えるのは避けたいところだ。雨隠れといざこざを起こしたところで、我々砂に利はない」

「ではこのまま見逃すと?」

「ああ。我らの任務は内乱の早期鎮圧だ。多国間の要衝にある雨隠れで内乱が長引くようなら戦争を誘発しかねない。ゆえに早期介入して内乱を鎮圧するために我等が派遣されたわけだが、内乱が既に治まっているなら我らがここに留まる必要はない。これ以上、雨隠れに関わる必要もない。このまま明日には引き上げるぞ」

「はっ」

 

 羅砂という忍びは部下の男にそう説明すると、ちらりとこちらを見た。私の放った眼の方を向いたのだ。

 その眼光は鋭く、メッセージが篭められているように思われた。「そういうことだから手を出すなよ」というメッセージが。

 

 砂隠れの救援部隊の長は全てを見通していたのだ。全てを見通した上で、砂隠れに利のある道を選んだ。我々のことを見逃すという方針をとったらしい。

 

 雨隠れは深く関わっても旨みのない土地だ。だから誰も深く関わろうとしない。

 普段はそれが戦争での被害の拡大に繋がっているのだが、今回ばかりはプラスの方向に働いた。皮肉なものだった。

 

 ともあれ、こうして我々は半蔵との戦いに勝利し、雨隠れを手中に収めることができた。

 しばらくは半蔵に成り代わって雨隠れを統治していくことになったのだった。

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