あの子が私たちの元から去り、どれだけの時間が経っただろう。
数えてみれば十年と少しだ。かなりの長い時間が過ぎたが、今となってはあっと言う間だったと思える。
暁の夢のために奔走していたら、時間など瞬時に過ぎ去っていた。光陰矢の如しとはよく言ったものだ。
月日が過ぎるほど、私の心は闇夜に染まっていったように思える。
目的の邪魔となるならば罪のない人間とて容赦はせずに手を下してきた。この手を血で染めていくごとに、血が凍てついていく感覚を覚えた。
それでも夢のためにと、ただひたすら前へ前へと進んできた。
もう少しだ。もう少しで夢が叶う。
全ての人柱力が手に入りさえすれば夢が叶う。弥彦の夢が、私たちの夢が叶うのだ。
「サソリが木の葉の忍びにやられたそうだ。デイダラは負傷したものの無事だ」
「そうか……計画に少し修正が必要だな。ではこうしようか」
暁の幹部の定例報告会で、ゼツがサソリの死を報告してくる。
リーダーのペインが淡々と計画の修正案を提示し、各幹部に了解をとる。
仲間の一人が死んだというのに、幹部たちに動揺はない。サソリを仲間に引き込んだ私とてそれは同じだった。
新生暁は昔の暁と違って仲間意識が希薄だ。形だけは同じ衣装を身に纏い、似たような指輪を身に着けているものの、心はまったくの別物だ。
仲間の死を知らされても、誰一人としてそれを悼む者などいない。ただひたすら目的へと突き進むだけだ。
「サソリを失ったものの、一尾の封印は問題なく完了した。次は二尾だ。角都、飛段。お前たちのノルマだ」
ペインとなった弥彦が命令を下す。
死んだあの時のままの若い姿で弥彦が喋っているが、それを操っているのは長門だ。
操っている長門はというと、時が止まったかのように若々しいままの弥彦とは違って、酷くみすぼらしい姿となっている。
まだ三十半ばだというのに、まるで老人のようだ。外道魔像に生命力を吸われ続けたせいで、そんな姿になってしまった。既に人の一生分くらいの生命力は吸われてしまっているのだろう。
私が何度止めようとも、長門は危険な術の行使を止めなかった。私と同じように、残りの人生の全てを弥彦の夢のために使い潰すつもりなのだろう。
ならば私も命ある限り長門を支え続けるのみだ。もはや後戻りなどできない道を、私たちは突き進んでいるのだから。
「うっせんだよクソリーダー。俺に命令すんなっつーの」
「黙れ飛段。さっさと行くぞ。仕事だ」
ペインに命令されて飛段が反発するものの、角都に促されて渋々任に就いていく。
癖のある二人で任務遂行に少しばかり不安が残るが、これまで金庫番としての仕事を忠実にこなしてきた角都に任せれば大きな問題はないだろう。
その予想通り、ほどなくして、二人から任務を終えたと報告があった。
二尾の人柱力である二位ユギトを捕らえたのだ。
「仕事は終えたぞ。もっと骨ある相手かと思ったが大したことなかったな」
「ったく、何で殺しちゃダメなんだよ。殺しこそが唯一の楽しみだってのによぉ」
「ではすぐに封印に移る」
二尾の力を魔像へと取り込むために、外道魔像へとチャクラを送り続ける。
何日もかかる大変な仕事だが、ほとんどの者は大した愚痴も言わずにこなしてくれた。
「クソリーダーが、毎回毎回上から目線で命令しやがってよぉ。お疲れ様でした飛段さん、とか少しは気の利いたこと言えねえのかよ!」
「ちっ、また時間が拘束されることになんのかよぉ。この時間があれば、オイラの新しい芸術作品が作れるっていうのに!」
飛段とデイダラに関しては少し喧しいが、通信を切ればいいだけなので、遠い雨隠れの地にいる私と長門に影響はなかった。
飛段と同じ場所で作業に当たっているであろう角都は鬱陶しくて大変であろうが。
そうして数日間の作業の後、我々は二尾の力を抜き取ることができた。
尾獣を抜かれた人柱力は死んでしまったが、今更誰かの命を奪ったところで痛む心などない。
次の目標に向けて動き出すだけだ。
「デイダラ。三尾はお前たちのノルマだ。サソリの代役としてトビを送る。既にそっちにいるはずだ」
二尾を封印した後は、三尾の確保である。デイダラには新しい相方としてトビが送られることとなった。
実はトビとはマダラのことである。
当初マダラは表には出ない予定だったのだが、サソリが死んだことでその代役として表に出ることになった。
そうなったのだが……。
「デイダラ先輩! よろしくお願いしまーす!」
「なんだテメエは! はしゃぐんじゃねえよ!」
「きゃは。先輩のいけずー♥」
「ひっつくな! 馬鹿野郎!」
一体どういうつもりなのだろうか。
マダラのハイテンション具合に困惑して、私と長門は思わず顔を見合わせた。事前の打ち合わせ時には、あんなキャラでいくとは聞いていなかったからだ。
「なんだあのお調子もんヤローは?」
「お前がそれを言うか飛段」
「あん? この俺のどこがお調子もんだってんだ角都!」
「そのままだ」
マダラの奇行に、他の幹部も困惑した様子だったが、私たちほどの動揺はないように思えた。元からそういう性格のやつだと思っているのだろう。
だが十年以上も昔からマダラを知っている私たちからすれば、異常すぎる光景が目の前に広がっていた。
「偽者なのかしら?」
「いや違うようだぞ小南。間違いなくマダラだ」
一瞬偽者かと思ったが、チャクラの質はマダラのものと見て間違いなかった。
つまり、私たちの知るマダラとトビは間違いなく同一人物だった。
私たちの知るマダラが本物のマダラだと仮定すれば、角都とほぼ同じ年代の生まれということになる。
つまり、齢九十以上の老人が、十代後半の男の子にハイテンションで馴れ馴れしく近づいていき、甲高い声を出して「せーんぱい♥」などと言いながら、キャッキャウフフと楽しそうにボディタッチをしている――そういうことになる。
俄かに信じ難い光景だった。
(どういうことなの……?)
暁の幹部として数多の修羅場を潜り抜けてきた私と長門といえど、困惑せざるを得なかった。
昔マダラが、「この世界には絶望しかない」と深刻そうなトーンで私たちに語りかけていたのは、一体何だったのだろう。
目の前のマダラは、一回りどころか五回りも六回りも年下のデイダラと心底楽しそうにじゃれ合っていた。人間同士の触れあいを楽しんでいた。人生楽しんでいた。
(マダラ……気持ち悪いわね)
ランが昔マダラのことを心底気持ち悪いと言っていた気持ちが、今になってよくわかった。マダラの豹変ぶりを見ていると、本当に気持ちが悪かった。あまりにも不気味すぎた。マダラ気持ち悪い。
「小南……見なかったことにしよう」
「そうね」
長門と私は顔を見合わせると、見なかったことにした。
あのふざけた姿を見ていると、あんな男のために六千億枚の起爆札を集めていた自分が馬鹿な気がしてきて空しかった。
あれは他人を騙すための仮の姿。目的を達成するために恥を忍んでそうしているのだと思うことにした。本性だとは思わないことにした。そうしなければやっていられなかった。
「三尾は問題なく確保した。オイラのノルマはこれで達成だな、うん」
「デイダラ先輩! やりましたね!」
「オメーは鬱陶しいんだよトビ!」
「キャー、先輩に怒られたー」
相変わらずふざけた態度をとり続けるマダラであったが、仕事は問題なくこなしてくれた。
無事に三尾を封印することができた。これで九体中七体の尾獣を確保できたことになる。
あと少しだ。もう少しで夢が叶う。
八尾と九尾さえ手に入りさえすれば夢が叶うのだ。
「角都と飛段がやられたようだ。相手は木の葉の忍びだそうだ」
「あの不死身コンビがな……計画にまた遅れが生じるな」
九尾の人柱力の捜索のために火の国へと向かった角都と飛段であったが、木の葉の忍びたちに阻まれて討ち死にしたらしかった。
(一兆二千億枚の起爆札は集まったし、角都がいなくなっても大きな問題はないわね。今までご苦労様)
長年金庫番として働いてくれた角都の死に対しても、サソリと同様に特に何も感じなかった。
組織の資金繰りに多少の問題が出て面倒だという考えが真っ先に浮かんだが、それだけだ。そんなドライな考えしか浮かばなかった。
全ては目的のためだ。目的を達成するためには余計な感傷などいらない。感傷など、目的を達成するのに邪魔なだけだ。
「流石に奴らも無能ではない。暁が人柱力を集めているということに気づいて重厚な防衛網を敷いているな」
「ではどうするの?」
「重厚な守りがある以上、それ以上の力で攻めるしかあるまい。俺たち自ら乗り込む必要があるだろう。五大国一の力を持つ木の葉が相手だ。大国を落とすくらいの勢いで攻めねば、九尾の人柱力は確保できんだろう」
「わかった。ではそのための準備を整えましょう。木の葉が相手ならそれなりの準備が必要だから、今しばらく時間がかかるわ」
「ああ頼む」
こうして長門と私は自ら木の葉へと乗り込み、九尾の人柱力を確保することになった。
大国火の国の隠れ里、木の葉隠れの里。
そこを落とすということは実質、国落としも同然だ。少しばかりの準備時間が必要だった。
(もうすぐあの子に会えるのね。今日の夜もみっちりと殺しのシミュレーションをしておかないといけないわ。あの子をちゃんと殺すために。殺す殺す殺す――)
木の葉に行けばあの子に会える。私たちを裏切った憎きあの子に会える。やっと殺せる日が来る――そう思った。
「小南、侵入者だ」
だが木の葉に赴くよりも一足先早く、私たちはあの子と再会することになったのであった。