【完結】暁小南討伐チャートbyホモガキ   作:夜散花

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ch.18 ペインさん許して! 木の葉壊れちゃう!(小南)

 爆煙が過ぎ去り、湖上には無数の魚たちが白い腹を見せてプカプカと浮かんでくる。だがそこにあの子の姿はなかった。

 

「逃げたか……」

 

 せっかく用意した六千億枚の起爆札が無駄になってしまった。あの子は私の何年にも渡る苦労をあざ笑うかのようにして逃げていった。

 

 あの子を殺せなかった。奥の手を出したのに殺せなかった。ずっとあの子の術に圧倒され、向こうが情けをかけなければ、私は奥の手を使うまでもなく殺されていたことだろう。

 それは紛れもない事実だった。

 

(あの子にまた負けた……くっ)

 

 戦いは一応引き分けということになるのだろうが、私は敗北感を感じずにはいられなかった。

 拭いきれぬ悔しさを抱えながら、私は長門の元に戻った。

 

「小南、戻ったか。無事か?」

「ええなんとか。あの子は仕留められなかったようだけど」

「そうか」

 

 ボロボロになった私を見て、長門が心配そうに声をかけてくる。

 

 少なくない傷を負っているけど、どれも致命傷は避けられている。医療忍者の治療を受ければすぐに治る程度の怪我しか負っていなかった。

 あの子は最初から私を殺すつもりなんてなかったのだ。

 

「自来也先生は?」

「殺した」

「そう。遺体は?」

「そのまま湖底に沈めた。損傷が激しかったのでな。ペインには使えない。やむを得ず廃棄した」

 

 長門が淡々とした口調で説明する。平静を装っているが私にはわかる。

 

 長門は明らかに興奮していた。先生を殺して興奮していた。

 

 思えば戦闘中からおかしかった。いつになく饒舌になって先生と舌戦を交わしたり、過剰に悪ぶりながら先生を挑発したりしていた。

 普段の長門とは明らかに様子が違った。長門は自来也先生を前にして普段の自分を保てなかったのだ。

 

 自来也先生に過剰な攻撃を加えてしまったのはそのせいだろう。

 長門は先生が強かったから手加減できなかったと言い訳するが、長門ほどの忍びならやろうと思えばどうにでもなったはずだ。先生の身体を必要以上に傷つけずに仕留めるということもできたはずだ。

 

 なのに長門は必要以上に損傷を与えてペインとして利用できないくらいまで先生を追い込み殺した。

 先生の死体を利用しないというのは、長門の最後の良心だったのかもしれない。

 

「小南、俺は自来也先生の故郷、木の葉をも潰すぞ。宿敵木の葉を潰して九尾の人柱力を得る」

「ええ」

 

 自来也先生の死後、長門は今まで以上に覚悟を決めたようだった。自来也先生を殺したことで、より研ぎ澄まされた殺気を走らせるようになった。

 

 そしてその殺気が最高潮に達する頃、我々は動き出す。

 機は熟した。先生に破壊されたペインの補充も終わった。後はかねてよりの計画を実行に移すだけだ。

 

「小南、準備はできているか?」

「いつでも」

「そうか。では木の葉に向けて発つとしよう」

 

 私たちは九尾の人柱力を確保するため、木の葉へと向かった。暁の目的を叶えるための、大仕事が始まる。

 

 たった二人で木の葉を落とすのだ。今まで以上に厳しい戦いになることは目に見えていたが、我々が退くことは決してない。

 全ては弥彦の、暁の夢のためなのだから。

 

――ドゴォオオン。

 

 我々は木の葉の里から少し離れた山に陣を構え、そこからペインや紙分身を遠隔操作して戦いを挑むことにした。

 人柱力の捜索班と陽動班に分れて作戦行動を行う。事態が急変すれば、私はすぐに長門本体と共に離脱する――そういう作戦だ。

 

 全ては当初の予定通りに進んでいった。

 

「ランめ。こうも簡単に陽動に引っかかるとはな。アイツらしい。いや、あるいは陽動とわかっていて、そこにいる人間が見捨てられず動いているだけか。それもアイツらしい」

 

 戦いが始まって間もなくの頃、長門がポツリと漏らした。

 どこか昔を懐かしんでいるような口調だった。それと同時にどこか安堵したような雰囲気も持っていた。

 

 探索班には弥彦(天道)がいる。長門としては出来れば、動く死体となった弥彦をランに会わせたくなかったのだろう。

 ランが陽動に引っかかり続けていてくれれば、二人が出会うことはない。そのまま引っかかっていて欲しいと思ったのかもしれない。

 

「――っ!?」

 

 戦いの最中、長門の様子が突如おかしくなった。私はいつものように体調不良による発作でも起きたのかと思ったが、どうやら違うようだった。

 

「どうかしたの長門、何かあった?」

「いや問題ない。少し集中させてくれ。手練の忍びが集まっている」

 

 長門は明らかに動揺していた。

 今更手練の忍び相手の戦いで心を乱されるような長門ではない。何か事情があるに違いなかった。

 

「俺は殺せる。殺せる。殺せる。目的の邪魔となるものは排除する。たとえ誰であろうとも……アイツであろうとも……はぁはぁ」

「長門……」

 

 長門は狂ったように呟きながら戦っていた。

 何となく察しがついた。あの子と出会ってしまったのだ。

 

 先生殺しすら経験した長門が今更心をかき乱される存在。そんなのはあの子しかいない。あの子と出会ってしまったのだ。

 弥彦の身体を借りて出会ってしまったのだ。そうでなければここまで長門の心が乱されることはないだろう。

 

(私たちは外道ね。間違いないわ)

 

 今更ながらなんという罪深いことをしているのだと思う。

 

 かつての仲間の死体を操り、その仲間の恋人であった仲間を殺そうとしている。恩人の先生の故郷を跡形もなく消し去ろうとしている。

 

 行いのどれもこれもが、はっきり言って鬼畜のものだろう。私たちは完全に外道にまで成り下がってしまったのだと思う。

 

 だがそれでも叶えたい夢がある。

 袂を別った仲間を踏みつけてでも叶えたい夢がある。師匠を殺してその故郷を焼き払ってでも叶えたい夢があるのだ。

 

(弥彦……)

 

 私の中に残った最後の良心が訴えかける。こうまでして夢を叶えて、あの世にいる弥彦は笑ってくれるだろうか。

 

 わからない。今までなら笑ってくれると思っていた。だがこの期に及んで、ここに来てわからなくなってしまった

 

 弥彦が笑ってくれるか自信はないが、私たちは今更引き下がることなどできない。我々はもはや進み続けるしかない。引き下がることなどできないのだ。

 

「はぁはぁ……」

 

 少しして長門が落ち着く。戦闘が一段落したのだろう。私は少し緊張した面持ちで長門に尋ねてみた。

 

「あの子は?」

「逃げられた。他の忍びが殿となってランを逃がした」

 

 ランを殺せなかったと聞いて、私は安堵した。長門に新たな重荷を背負わせずに済んだと思ったし、ランを殺すなら私の役目だと思ったから。

 

「アイツは木の葉の里でも相当慕われているようだな」

「そうね。あの子はいつも人気者。木の葉の里でもそうだったようね」

「ランは取り逃がしたが、代わりにはたけカカシを討った。その他、幾人の名のある忍びも仕留めた」

「そう。これで少しは動きやすくなったわね」

「ああそうだな」

 

 暗部の一部が戦闘に加わっていないようで、木の葉の防衛部隊は想定より少ないようだったが、それでも戦いは厳しいものとなった。

 こちらは二人しかいないのだ。二人で大国の隠れ里を相手にして戦争しているから、油断ならない戦いが続いた。

 

「またランにやられたか。畜生道までやられるとはな。里を出てから一段と腕を上げたようだ」

「ええ。私を圧倒したあの術といい、血継限界の力をより磨いているようね」

 

 ランは第二の故郷ともいえる木の葉を守ろうと奮戦しているようだった。己が身も顧みず、体力とチャクラの限界まで戦っているようであった。まさに獅子奮迅といった活躍であり、敵である私たちは大いに苦しめられることになった。

 

「アイツなら俺の代わりに弥彦の……いや、今では叶わぬ夢か」

「長門?」

 

 私がこの期に及んで逡巡しているように、長門もまた逡巡しているようであった。

 

 様々な思いが巡る中、戦いは続く。

 戦いの陰で人柱力の捜索を続けるものの、一向に成果は芳しくなかった。

 

「どうやら人柱力はいないようだ。里の外に逃がしたのかもしれん」

「その可能性は十分にあるわね」

「ならこれ以上は無駄足か。ではあの術を使って撤退する」

「でもあの術は貴方の身体が……」

「このまま退いてもすぐに追っ手がかかって退却もままならんだろう。追撃部隊を出せないくらい潰さなければならん。木の葉は今日ここで潰れてもらう」

「わかった。予定通りアレを行うのね」

「ああ」

 

 長門は印を組み、あの術を発動する。大量のチャクラと生命力を消費し、苦しみながら術を発動する。

 その姿は痛々しくて見ていられないほどだった。

 

「世界に痛みを。神羅天征!」

 

 長門の放った一撃によって木の葉の里が中心から崩壊していく。栄華を極めた大国の里が一瞬にして瓦礫の山と化した。

 

 長門――いや私たちの手によって、木の葉の里は今日ここで終わりを迎えたのだ。

 

 後は撤退するだけ。体勢を立て直した上で九尾の人柱力の捜索を行う。

 そう思ったのだが、思いがけない事態となった。イレギュラーが発生したのだった。

 

「どうしたの?」

「人柱力が現れた。今更のこのこと出てきたようだ。好都合だ。ここで仕留める」

「わかった。退却は中止ね」

 

 たかが人柱力一人、長門の手なら楽勝だと思われた。

 ほぼ一人で木の葉の里を壊滅に追いやった長門だ。神を名乗るに相応しい力を持っている。今までの人柱力も問題なく仕留めてきた長門なら何も問題ない。

 

 そう思われたのだが――。

 

「ぐぅうう! くぅうう! がはぁっ!」

「長門っ!?」

 

 激戦の末、長門は敗れた。一時は長門が追い詰めたものの、追い込まれて九尾の力を覚醒させた人柱力は怒涛の追い上げを見せた。

 残るペインの全て、天道ペインさえ倒され、機能停止に追い込まれてしまった。私たちの負けだった。

 

 九尾の人柱力。まさかこれほどの力を身に着けているとは思わなかった。

 

「お前一人で来い。そして俺と話をしろ」

「長門、相手が一人で来るという保証はないわ。今すぐ撤退すべきよ」

「奴は仙術を使って位置を探れる。本体の俺を抱えて逃げたところで追いつかれるのが関の山だ。それに俺は奴と話してみたい。頼む小南」

「……わかったわ」

 

 長門は戦いの中で感じるものがあったのか、九尾の人柱力との対話を望んだ。長門の強い意志を感じた私は、そのように取り計らった。

 

「お前があれを操っていた本体か?」

 

 九尾の人柱力は他の仲間の忍びたちの制止も振り切り、約束通り、ただ一人で私たちの元にやって来た。

 

 その心意気に感じるものがあったのか、長門は我々の内に抱えるものの全てを吐き出してぶつけた。

 腹を割った話し合いが行われることとなった。

 

「お前らの気持ち、わかるってばよ……。でも!」

 

 九尾を宿した少年は我々の思いを正面から受け止め、痛みを知り共感し、でもそれでも隠せぬ怒りという感情を真っ直ぐに私たちにぶつけてきた。

 

「俺の名はうずまきナルト! この本に書かれている主人公の名を受け継ぐ男だ!」

 

 そう喝破する少年の背に、弥彦の、そして自来也先生の面影を見た。

 きっと長門もそう思ったことだろう。彼らの遺志はこの少年に受け継がれている。少年の中にある志こそが、亡き弥彦が本当に望んだことなのだと理解できた。

 

 九尾の人柱力うずまきナルト。自来也先生の弟子にして私たちの弟弟子。その存在は力強く、偉大なるものだった。

 

 自来也先生が命を投じ、そしてランが命を張った理由がこの時はっきりとわかった。

 ナルトはこの呪われた忍び世界を終わらせる真の光となってくれる存在だと、私たちは悟ったのだった。

 

「俺は今一度信じてみようと思う。お前を信じてみよう。うずまきナルト」

 

 ナルトの心意気を感じ取った長門は毒気の抜けたような清々しい表情となった。そして複雑な印を結び始める。その印を見て私は堪らず声を上げた。

 

「長門、その印は……」

「いいのだよ小南。俺に出来る最後の償いだ。すまないが後を頼む」

「……わかったわ」

「今まですまなかった。感謝する」

「いえ……」

 

 長門は外道輪廻天生の術を使い、己の命と引き換えに此度の戦いで死んだ者たちを蘇らせた。

 建物などに関しての損害はそのままだが、ひとまず人命だけは救うことができた。なんとか償うことができた。

 

(長門……)

 

 また一人、私の前で大切な者が散っていった。

 道を間違えてしまったかもしれないが、弥彦と同じく理想に殉じたことに違いはないだろう。

 もうこんな思いは沢山だ。こんな思いをするのはこれで最後であって欲しい。

 

「お前は散ることのない花であってくれ」

 

 うずまきナルト。彼が本当にこの呪われた忍び世界を変えてくれる男なのかはわからない。真実はわからない。確証はないが、心からそうであって欲しいと願って、親愛の印として花束を授ける。

 ナルトは和解の印としてそれを受け取ってくれた。

 

 ナルトは花束を受け取ると静かにその場から去っていった。見逃してくれるらしかった。

 私は長門の死体を巻物に収納すると、すぐに弥彦の死体の元へと向かった。

 

(ラン……)

 

 弥彦の死体の傍にはランがいた。あの時のように弥彦の死体に縋りついて泣いていた。

 

 あの子に二度も辛い思いをさせてしまった。これは私の罪だ。贖うことの出来ない罪だ。

 

「小南ちゃん……」

 

 あの子はそう呟くように言うと、ずっと無言だった。悲しそうな瞳でこちら見ていた。

 

「貴方たちの勝ちよ」

「勝ち負けなんて……」

「そうね……。その通りね」

 

 弥彦の死体を巻物に収納する。弥彦も長門もしかるべき場所、私たちの帰るべき場所に葬ると伝えると、あの子は小さく頷いてくれた。

 

「小南ちゃんあのね……」

 

 ランは何を言おうか迷っているようだったが、私は聞きたくなかった。

 それを聞いたら、自分の覚悟が鈍ってしまう気がしたから。だから自分から別れを切り出した。

 

「さようならラン」

 

 私はそう搾り出すように言うと、翼を広げて空へと飛翔した。

 

「っ!? 小南ちゃん、待って!」

 

 あの子は抜けているようで妙なところで鋭い。だから私の態度から何かを察したのだろう。必死の形相で叫んでいた。

 

「待って! 待ってよ!」

 

 ランが泣き叫んで言うが、待つことはない。私はより高い大空へと飛翔して移動していく。

 

「待って、待って!」

 

 あの子が息を切らせながら追ってくる。体力もチャクラも限界を迎えているというのに、必死で追ってくる。

 

「小南ちゃんっ! 待って!」

 

 木にぶつかろうが、木の根に躓いて地面を転がり泥だらけになろうが、必死に追ってくる。足が動かなくなっても上半身だけで這ってでも追おうとしてくる。

 

(ラン、どうして貴方はそこまで私のことを……)

 

 ボロボロになりながらも私のことを必死に追ってくるあの子を見ていると、あの子の本当の思いが理解できた。あの子の温かい気持ちが自分の中にすっと流れ込んでくる気がした。

 今となっては何もかもが遅すぎるけれど、あの子とやっと分かり合えた気がした。

 

(ラン、ありがとう)

 

 立ち止まりたい。そして手を取り合っていつまでもお喋りをしていたい。もっと一緒に色んなことを、そう思うけれども――。

 

(ごめんなさい)

 

 あの子の本当の気持ちを知った今、私は本当の自分を取り戻せた。

 だからこそ、私は自分のことが許せなかった。

 

 最愛の友を裏切り、弥彦の夢を汚し、自来也先生を間接的に殺した。

 己の罪と向き合った時、あの子と再び手を取り合う資格など私にはないと思った。

 

 許されざる罪を贖う方法は一つだ。謝って済まされるのは子供だけ、小娘の時だけだ。

 私はもう立派な大人だ。小娘ではない。贖えない罪の責任のとり方は一つしかない。

 

 私は散っていい花。散るべき花だ。

 ならばせめて、あの子とうずまきナルトの生きる未来が輝けるものとなるための人柱となる。

 世界の闇を道連れにして、あの世へと連れていく。それが自分のとるべき最後の道だ。

 

「小南ちゃぁああああん!」

 

 ランが慟哭する。彼女の悲痛な叫びに背を向け続けるが、堪らずに私は一瞬だけ振り返った。

 

(ありがとうラン。そしてさようなら)

 

 最後になるであろう最愛の友の姿を目に焼け付け、私は雨隠れへと帰還していったのであった。

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