「小南ちゃん!」
そこには、あり得ないはずのあの子の姿があった。夢幻なんかではない。正真正銘、あの子がそこにいたのだった。
「ラン、貴方何故ここに……」
「小南ちゃん。色々言いたいことはあるけど、今はそれよりもアイツをどうにかすることを優先しようよ」
「ええそうね……」
ランは私の援護に来てくれたらしかった。
後で知ったことだが、別れ際の私の姿に鬼気迫るものを感じ、居ても立ってもいられなくなり、それで木の葉を飛び出してきたようだ。
馬鹿な子だ。木の葉の里にはあの子を思ってくれる沢山の人がいるであろうに。
それなのに全てを投げ出して、大犯罪者であるこんな私のために尽くしてくれるなんて。大馬鹿だ。本当に馬鹿だ。
「小南ちゃんは無理をしないで。私が前に出るから。私の攻撃に合わせて援護してくれる?」
「わかったわ」
あの子が前に出て私が援護する。負傷していて私が満足に動けない現状、そうするしか他に方法がない。
私たちは視線を交わして頷き合うと、すぐにツーマンセルでのフォーメーションを組んだ。
いつぶりだろうか。あの子とこうして戦場に立つのは。
袂を別って以来並び立つことなどなかったから、山椒魚の半蔵を討った時以来だろうか。随分と昔のことである。
記憶も薄れるほど長い間離れていたというのに、私たちはまるで長年一緒にいたかのように自然と息を合わせることができた。自来也先生の下で修行していた時に身に着けたものが、身体の奥底に染み付いていたらしい。
「いつぞやの小娘か。木の葉にいると聞いていたが、まさかこの場にやって来るとはな。今更里心でもついたか?」
「そんなことどうでもいい! 小南ちゃんに大怪我させて、アンタ、絶対に許さないから!」
「貴様などもはやどうでもいい存在だが、俺の計画を邪魔するというのなら容赦はしない。後ろの小娘と一緒に消えてもらうぞ」
「やれるもんならやってみろ! いつかアンタをぶっ飛ばしたいと思ってた! ここでぶっ飛ばしてやるわよクソマダラ!」
「相変わらず口汚い小娘のようだ。その台詞そのまま返すぞ。やれるものならやってみろ小娘!」
私がやられたということ以外にも、長年積もりに積もった怒りがあるのだろう。怒りを抑えきれないといった様子で、ランはマダラに向かっていった。
あのマダラ相手に昔のように猪突猛進に向かっていくのは危険だと思ったが、それは杞憂だった。言葉尻は乱暴でも、ランのその動きは極めて冷静であった。精密で的確な攻撃を、ランは繰り出していった。
大気中に散らばって複雑な動きを見せる蒸気。ランはそれらを巧みに操りながら、マダラを追い詰めていく。
不安定な蒸気のコントロールなど難しいだろうに、決して私の方に攻撃が及ぶことはない。見事な技だった。
(この前戦った時も思ったけど、本当に成長しているのね。私も負けてはいられない!)
この戦いはそもそも私のものだ。ランだけに任せておくわけにはいかない。痛む腹を押さえながら、私も負けじと攻撃を繰り出していく。
負傷していたとしても、今なら昔以上の動きを見せることができる。
この十数年間頑張ってきたのは、ランだけではない。ランと私、それぞれの場で己の技を磨き続けてきた。
その動き、連携は昔よりも洗練されているに違いない。長い時を経て熟成されたかのようにだ。
「煩わしい小娘共が! 女が揃うと姦しいというのは本当のようだ!」
私たちの息の合った連携攻撃を浴び、マダラは苦戦しているように思えた。私一人と戦っている時よりも、明らかに苦戦していた。
不規則な動きを見せる水蒸気による攻撃と、紙による連続攻撃。どちらか一方ならともかく、両方を対処するのはいくら戦いに長けたマダラといっても難しいようであった。
(ああ私たちって……)
紙操の術の天敵である火と水。それと油。
それらの扱いに長けたランは、私の天敵であると思っていた。仲違いしていた時は決して相容れない存在だと思っていた。だがそれは違ったのだ。
――ドォオン。ドドドォオオン。
私の放った起爆札が着火起点となり、ランがばら撒いた水素を多量に含む蒸気に引火して、燃え広がっていく。予想も付かないような不規則な爆発攻撃となり、マダラを苦しめる。
(実は相性よかったのね……)
紙は沸遁と相性が悪いのではない。その逆で、助ける存在だったのだ。
爆発物の導火線となるのは紙。沸遁を助けることができるのは、着火起点となる紙だけだ。
ランと最も相性がいいのは、弥彦でもなく長門でもなく、この私だったのだ。
成長した今だからこそ、透き通る水のような澄んだ心を取り戻した今だからこそ、それを十二分に理解することができた。
(マダラ……感謝してあげるわ)
マダラに感謝なんてしたくないけれど、あの子との繋がりを再確認させてくれたこと、それだけは感謝してもいいだろう。
感謝してひと思いに殺してあげよう。さっさと死になさいマダラ。
「どうしたのマダラ! 小娘如きに追い詰められてるじゃないの! うちはって実は全然大したことないのね! 写輪眼なんてザコよザコ! 白眼の方がよっぽど優秀ね! ザコ、ザーコ♥」
「昔から口の減らない小娘がっ! 写輪眼が白眼以下なわけなどあるかぁあ! 殺すっ、貴様だけは絶対に殺す!」
「マダラなんて所詮初代火影に負けた先の時代の敗北者だもんね。うちはなんて千手に破れたザコよザコ! ザコ、ザーコ♥」
「敗北者だとぉっ、取り消せ! その言葉ぁっ!」
ランはマダラのプライドを刺激し煽っていく。
うちは一族は
どうやら心理戦も上手くなっているらしい。
昔のあの子なら頭脳プレーなんて決してできなかっただろう。昔は相手の心理なんて関係なしに猪突猛進に突っ込んでいくだけだった。むしろ逆に煽られて罠にはまるだけだった。
だが今はまったく違った。お馬鹿だったあの子が立派な策士に変貌していた。
並大抵の努力では無理だ。相当な努力を重ねたのだろう。
(あれは……ラン、本当に成長しているのね)
ランはマダラを煽って注意を引きつけつつ、裏で罠を仕掛けていた。マダラの死角に、水素蒸気による隠れ爆弾を仕込んでいたのだ。
頭に血の上ったマダラはそれに気づかず、安全地帯だと思って、爆発物で満たされた空間に転移して逃げ込んでいく。
「小南ちゃん!」
「ええ!」
ランに言われずとも、私は目標地点近くに潜ませた起爆札を操り爆発させる。マダラが転移した直後の絶妙なタイミングで、一帯が弾け飛ぶ。
「がはぁっ、おのれぇ、小娘共がぁっ、調子に乗りおってぇ!」
異空間から戻ってきたマダラは大ダメージを負っていたが、すぐに回復する素振りはなかった。
大きなダメージを無に帰す夢と現実を入れ替える人間離れした力を持つ写輪眼といえど、多用はできないらしい。
少なくとも、すぐに体勢を立て直すことはできないようだ。
力には代償がつきもの。いかに強力な瞳術といえど、ノーコストで使えるわけではないということか。
ならばこちらにも十分に勝機はあるだろう。このまま押し切ればいい。
「罠に気づかないなんてやっぱり写輪眼なんて大したことないじゃない! 広い視野と透視能力を持つ白眼なら気づけたはずよ! やっぱり白眼の方が優秀ね!」
「違う! 白眼の視野の広さと探知能力は確かに写輪眼以上だと認める! だが総合的に考えれば確実に写輪眼の方が上だ! 万華鏡の力を入れれば、白眼なんて敵うはずもない! 幻術対策もできない白眼なんてザコだ!」
「日向は木の葉にて最強! うちは一族は二番目ね! いや、千手を入れると三番目ね!」
「違うと言っているだろうがぁあ! 人の話を聞けぇえ! 絶対にうちはが最強だ! うちはが木の葉最強に決まっている!」
「いやもっと下ね! 奈良一族も山中一族も秋道一族も優秀だし、六番目くらいね!」
「絶対に違う! うちはがその御三家より下なわけがあるかぁ! 奈良なんて影を操るしか能がないし、山中なんて尋問しか能がない一族だ! 秋道なんてただのデブ一族だ! 三人揃ってようやく力を発揮できるようなザコ一族を、うちはと比べるな!」
「そういや木の葉には犬塚一族もいたわね。犬塚一族も優秀だから、うちはは七番目ね。あっ、猿飛一族と志村一族もいるから九番目かもね~」
「ありえない! 絶対にありえんぞ!」
マダラは満身創痍だというのに、ランの挑発に乗り、ムキになってどうでもいい口論を始めた。
私が最初に大ダメージを与えた時と同様、あの状態から復活する手段があるのだろう。だからあんな状態でも口論なんてしていられる余裕があるのだ。
やはり油断できない。なんとかして回復する前に仕留めきらなければ。
「うちはなんて里の重役にも選ばれてないから、やっぱり無能のザコ一族よね~」
「それはうちはが里から差別されていたからだ! 全てはうちはを差別する土台を作った二代目火影が悪いんだ! アイツのせいで、うちはは苦難の道を歩むことになったんだ!」
「差別差別ね。能力ない人に限って環境のせいだとか言い訳するわよね~。本当に才能ある人だったら環境を言い訳になんてしないし乗り越えられるはずよ。コミュ力さえあればどうにでもなるしー。やっぱコミュ力を入れた総合能力が実力よね。ってことは、やっぱうちははプライド高くて周りと馴染めない戦闘しか能がないザコ一族じゃない! ザコ、ザーコ♥」
「貴様ぁあああ! うちはに対するそれ以上の侮辱は絶対に許さんぞぉおお!」
マダラは言い合いで打ち負かされ、激昂しながらランに向かっていく。
その様はまるでガキであった。デイダラと馬鹿騒ぎをしていた時のことをどうしても思い出してしまう。こっちがマダラの本性なのだろうか。
だとしたら余りにも幼すぎる。まるで少年時代で時が止まり、そのまま身体だけ大人になってしまったかのようだ。そんな違和感が感じられる。
私にも似たような経験がある。
弥彦が死んだあの時。かつての暁の皆が死んだあの時。あの時からずっと時が止まったかのような感覚に陥っていた。つい最近までそうであったと言える。
耐え難いトラウマを抱え、心がその時から止まってしまったのだ。
この世界に救いなどない。俺はお前らと一緒だ。我々は同志だ。
かつてマダラが私たちの前で放った言葉。聞いた当時は、マダラが戦の絶えない世を憂えているのだと素直に思った。
だが今なら違う意味が見えてくる。その言葉の真の意味を考えると、私たちと似たような体験をしたからこそ出てきた、マダラの本音だったのではないかと思える。
きっとマダラも、私と同じような体験をしたのかもしれない。少年時代に耐え難い出来事を経験し、そのまま時が止まってしまったのかもしれない。
そうして肉体だけが成長を重ねてしまったのかも。肉体と精神の成熟が釣り合わないアンバランスな人間となってしまったのかもしれない。
(このマダラ、本当に本物のマダラなのかしら?)
今までのマダラの言動を合わせて考えると、もしかしたらこのマダラは本物のマダラではないのではないか。そんな疑惑が浮上してくる。
元からマダラだと信じていたわけじゃないが、今はその疑いがより強くなった。忍びの神とも謳われる初代火影と比べられるほどの英傑であったマダラが、こんな幼い人格なはずはないだろう。
まあ元々のマダラがどんな性格をしているかわからない以上、確かなことは何も言えないのだが。
百年の時を生きようがいつまでも子供の心を忘れないおめでたい人物だという可能性もあるだろう。
身体は大人、精神は子供――その名はうちはマダラ。
マダラがそんな変態的な人物という可能性も、なきにしもあらずだ。
真実はわからない。されど私の中では、このマダラは偽者なのではないかという、どこか確信めいたものが生まれたのであった。
「ザーコ、ザーコ、クソザコマダラ! うちはは時代の敗北者! 木の葉最弱のクソザコ一族ぅ~♥」
「黙れぇえええ! 小娘がぁあああ! 死ねぇえええ!」
マダラを煽るランは、戦術だからとか関係なしに楽しそうであった。憎き相手を弄り倒せて心底嬉しそうであった。昔言われ放題だった鬱憤をここで晴らしているようだった。
ランは成長を果たそうがいつまでも子供の心を忘れてはいないようだ。
昔からそうだ。あの子はいつも無邪気で、それが人の心を惹きつける。それが昔から変わらないあの子の姿だ。
なんとも微笑ましい。昔に戻ったみたいだ。
命を賭けた戦場にいるということを忘れて、思わず彼女の横顔に見入ってしまう。
「マダラって絶対モテないわよね! キモすぎてカノジョとかいたこともないでしょ? ぷふっ、やっぱザコじゃない! ザコ、ザーコ♥」
「ふざけるなああ! オレにだってリ――げふんげふん。黙れ小娘がぁああ! このオレを舐めるなぁぁああ! 死ねぇえええ!」
マダラは未だかつてないほど激昂すると、ランを執拗に攻撃し始めた。
異性経験の少なさを指摘されたのがよほど腹に立ったようだ。ラン、可愛い顔してえぐいことを言うわ。
(異性経験が少ない……ぐふっ、お腹が抉られる感覚が……ああ実際抉られていたわね……)
ランの何気なく放った言葉で私の精神にも少なくないダメージが来たが、それは私の心に仕舞っておくことにした。
マダラと一緒だなんて、絶対に思われたくない。この真実は墓場まで持っていこう絶対。
やめてラン、その煽りは私にも効く。やめて。
「ラン、冗談はその辺で。一気に畳み掛けるわよ」
「うんわかってる」
マダラを煽りつつも準備を進めていたランに声をかけ、次の攻勢に出る。
マダラの周囲一帯に満たされた水素蒸気。それに、私が点火していく。
「小娘小娘言って、舐めてんじゃないわよ! そんなに舐めたきゃ、これでも舐めてなさい! 私特製の飴ちゃんよ!」
「これは……またしても水素蒸気の塊か?」
「もっとヤバい奴よ! 酸素も混じってるから派手にいくわ! いくよ小南ちゃん!」
「ええ!」
――ドゴォオオン。バゴォオオン。
引火した蒸気が連続した爆発を起こしていく。
さすがに起爆札六千億枚の爆発には及ぶまいが、それでもかなりの規模の爆発となる。マダラは捌ききることができず、爆発に飲み込まれていくこととなった。
「ぐぅっ、はぁはぁ、小娘ぇ、この雪辱は必ず果たす!」
「こらクソザコ! 逃げるの!? うちはのプライドはないの!? また敗北者に成り下がるの!?」
「一時引くだけだ。お前は必ず殺す! タダでは殺さんからな! 覚えておけ小娘!」
マダラは興奮していようと引き際を見誤ることはなかった。
さすがは暁のメンバーといった所だろうか。この場では不利と悟ると、すぐに引いていった。
「――はぁはぁ、はぁはぁ、うぅ、ぐっ、がはっ」
マダラの気配がなくなり緊張が解けると、一気に身体から力が抜けていった。堪えられず、その場で倒れこんでしまう。限界を超えて身体を酷使し、かなり無理をしていたようだ。
「小南ちゃん!?」
どうやら血を流しすぎてしまったらしい。意識が朦朧としてくる。
そんな私に、ランがすぐに駆け寄ってくる。
「待ってて! 今治療するから!」
温かな光と共に、腹部の痛みが和らいでいく。ランが医療忍術を施してくれたのだ。
(この子、医療忍術も使えるようになったのね……)
医療忍術は精密なチャクラコントロールを必要とする。大雑把だった昔のあの子では、到底扱いきれるものではなかったはずだが。
(努力したのね……)
本当に昔のあの子とは違う。相当な努力を重ねたに違いなかった。
「ラン。貴方の傷の治療を優先して。私はこのままでいい」
「小南ちゃん!? 何を言って!?」
私はランのその手を掴み、治療をやめさせた。
「いいのこのままで。このままでいい。このまま死なせて。私には生きる資格がないから。貴方に合わせる顔がないわ」
これが今際の言葉になるだろう。そう思って、自分の素直な気持ちを吐き出す。
今までのこと、それに対する謝罪と感謝を。そしてすぐに木の葉に戻るように伝える。
ここにいたらマダラの襲撃を再び受けてしまうだろう。それに、暁の本拠地だとバレた雨隠れは、これから苦難の道を歩むことになる。ここにいて良いことなど一つもない。
だから貴方を思う大事な人がいる場所に帰るように説得する。貧しき雨隠れではない、豊かな木の葉に帰るように説得する。
ランのためを思ってそうしたのだが……。
「勝手なこと言わないでよ!」
――バシンッ。
あの子から返ってきたのは怒りだった。腹部の痛みなど忘れるような、鋭い一撃で頬を張られることになった。
「私を一人で置いていかないでよぉお!」
ランはその端整な顔をくしゃくしゃに歪めながら叫んだ。
ランの心底悲しそうな顔を見て理解する。
そうか。弥彦が死に、長門が死に、そして私が死ねば、この子は一人取り残されてしまうのか。
あの孤児グループ四人の中で一人だけ残されてしまうのだ。血よりも濃い絆で結ばれた私たちにとって、それは何よりも辛いことに違いない。
「生きて罪を償って! どんなに苦しくても生きて! 私が一緒に生きるからぁ!」
ランは涙を流しながらそう叫ぶ。ランの真っ直ぐな言葉が私の心を打つ。
私はまた逃げていたのだ。弱い自分を見つめることができず、自分が苦しまずに済む方法を選んでいた。
私はなんと卑劣な女なのだろう。正面から問題に向き合い、真っ直ぐに生きるランと比べると、恥ずかしくなってくる。
大人なあの子と比べると、私はまるで小娘だ。
「絶対に死なせない! 小南ちゃんは私が助ける! 死なせるもんか!」
ランは泣き顔を拭うと、毅然とした表情で治療を再開する。最大のチャクラを篭めて負傷箇所を癒していく。
軽傷とはいえ自分も少なくない傷を負っているのに、そんなことは構わずに私の治療に専念する。
(これは……なんて温かいの……)
私を思うあの子の気持ちが、チャクラを通して流れ込んでくる。
私はそれを拒まずに受けることにした。二人の心が一つになる。
(絆が……あの子と繋がっている……)
チャクラとは本来、争いの道具ではなく、人と人を繋ぐ平和のための道具なのだという。古き六道仙人の言葉にそうある。
それを聞いた当初の私はなんとも馬鹿馬鹿しいことだと思った。上辺を取り繕った偽りの言葉だと思った。
チャクラとは、天が与えてくれた生きていくための力だ。火を操り、水を作り出し、土地を耕し、生活の糧となる。時には平和を脅かす侵略者を撃退する力となる。
孤児であった私たちが生きてこれたのはチャクラの齎す力の恩恵のおかげだ。だからそうに違いないと思っていた。
だが、今ならわかる。六道仙人の言っていたことが、真に理解できるのだ。
チャクラを通してあの子の気持ちに触れていると、理解せずにはいられない。
チャクラとは人と人を繋ぐ絆。人と人が理解しあうための道具。争うためではなく、争いを未然に防ぐためのもの。
そうなのだと、心から理解できる。
「貴方のこと……昔から馬鹿な子だと思っていたけど……本当に馬鹿だったのは……私の方だったわね」
正面からあの子の顔を見ることができず、横を向きながら本音を呟く。
ランは言葉を返さず、黙々と治療を続けてくれた。その間も、あの子の気持ちがずっと流れ込んできていた。
気づけば、降りしきっていた雨はやんで日が差していた。やむことのないはずの雨隠れの雨がやみ、鮮やかな虹が私たちを覆っていた。
だが私はそれを碌に見ることができなかった。なぜなら……。
(晴れの日でも雨は降るのね……)
晴れでも雨は降る。私はこの時、それを初めて知ったのであった。