【完結】暁小南討伐チャートbyホモガキ   作:夜散花

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ch.21 不法侵入ですよ不法侵入! たぶんマダラだと思うんですけど(アジサイ)

 木の葉隠れ及び砂隠れの里で行われた合同中忍試験。そこで成果を挙げて中忍になった私は、その後すぐに拝命することになったS級任務で地獄を見ることとなった。

 

 フヨウ、スイレン。その二人を除いた、同期の全員が戦死。お世話になった先輩も、部下の後輩も、ほぼ全員が戦死。

 そんな地獄の体験をすることとなったのだ。

 

 辛うじて任務自体は成功したものの、失ったものは大きい。ただでさえ里は人材不足だというのに、さらに少ない人員で里の仕事を回さなければいけなくなった。

 

 仲間を失った心の傷を癒す暇もなく、私たちはすぐに上忍へと昇格し、働き続けることとなった。昼も夜も関係なく、ほぼ毎日働き続ける日々。

 

 そんな私たちの努力は報われることなく、さらなる悲報が飛び込んでくることとなった。

 

「ペイン様が……亡くなられた!?」

「嘘……でしょ?」

「本当よ。さっき天使様から内々に伝えられた。元からご病気を抱えてらしたみたい。それが原因で亡くなったらしいわ」

 

 フヨウ、スイレン。最も信頼できる仲間であるその二人に、私は天使様から聞いたトップシークレットの情報を伝える。

 

 情報を伝え聞いた二人の顔色は悪い。それも当然だろう。

 

 雨隠れの里の絶対的支配者であるペイン様の死。それが意味することは大きい。

 ペイン様が亡くなられたと里内の不満分子に知られたら必ず内乱が起こるだろうし、里外の勢力に知られたら周辺国がちょっかいをかけてくるに違いない。

 

 ペイン様の死で、里は内憂外患といった最悪の状況に陥ったと言える。動揺するのは当然だった。

 

「どうするのよ?」

「どうしようもないわ。ペイン様の死はしばらく伏せ、今後は天使様がリーダーとなられる。私たちはそれを支えるのみよ」

「そうね……それしかないわね」

 

 うろたえる二人に、私は天使様を支え続けるしかないと言う。私たちにできることはそれしかないのだ。私たちに生きる道を示してくれた敬愛する天使様に、愚直に尽くすのみだ。

 

 それからしばらくの間、ペイン様の死のショックから立ち直る暇もないまま、任務に没頭する日々が続いた。天使様に滅私奉公する気持ちで働き続ける。

 

 そんな私たちの苦労は報われることはなく、ペイン様の死から程なくして、さらなる悲報が舞い込んでくることとなった。

 

「天使様が仮面の男に襲われて重傷!?」

「そんな!?」

「命は辛うじて繋ぎ留められたらしいわ。不幸中の幸いね」

 

 ペイン様に代わり里の代表となった天使様が、仮面をつけた襲撃者に襲われ、重傷を負ったのだった。一命は取り留めたものの、しばらくは安静にしていないといけないらしかった。

 

 里の中枢を襲い続ける悲劇に、私たちは叫び出したいような気持ちに駆られた。それでも私たちは必死に働き、里の仕事を回す他なかった。

 

 誰も助けてくれない。自分たちでどうにかするしかない。里の中枢が大混乱に陥る中、私たちは泥の中を駆けずり回るような思いで働き続けた。

 

 今までにないくらいの量の任務に忙殺される日々。そんな中、少しだけ報われることがあった。後輩の世代が育ち、追加の人員が補充されることになったのだった。

 

 そして、私の班にも一人の下忍が新たにつくことになった。

 

 その下忍なのだが……。

 

「ランです! 年齢は非公表です! よろしくね! アジサイちゃん!」

 

 ピンク色の髪をした見目麗しい女性。年齢は非公表と本人は言っているが、調査書には三十五歳雨隠れ出身としっかり書かれていた。

 

 見た目からはまったく想像できないが、かなり年齢を重ねているようだった。三十五歳の中年と言っても差し支えない年齢なのに、天真爛漫な少女のような人だった。

 

 そんな年齢の鯖を読んだような人が、私の部下として配属されることになったのだった。

 

(三十五歳、下忍、任務経験ゼロ……あっ)

 

 私よりも一回り以上年上で下忍というからには、よほど才能がないに違いない。

 任務経験もないということは、忍者の仕事なんて長年やっていなく、急遽用意した埋め合わせの人員に違いない。きっとアカデミーの落ち零れで忍者になれなかったような人を繰り上げて補充したに違いない。

 

 雨隠れの人材不足、ここに極まれりといった感じだった。

 

(それにしてもなんで私の班だけこんなアホそうなハズレの人が配属されるのよ……フヨウ、スイレン、貴方たちだけずるい……)

 

 まともな人員が配属されたであろう同期の顔を思い浮かべ、私は内心羨ましく思うのであった。

 

 それにしてもこのランという下忍、アホそうだが一目見たら忘れなさそうな美人である。こんな美人、今まで里で見たことない。どうやら雨隠れ出身だが、長いこと他国で暮らしていたようだった。

 

 そんな人を信じていいものかと思ったが、聞けば天使様が直々に引っ張ってきた人材なのだとか。天使様が推薦された人材ならひとまず大丈夫だろうと、私は次々に浮かんでくる不安を一旦飲み込むことにしたのだった。

 

「アジサイちゃんの髪飾り可愛い! こな――天使様の真似してるの?」

 

 そのランという下忍はお喋り好きのようで、暇さえあれば馴れ馴れしく話しかけてきた。会って早々、上司の私をいきなりちゃん付けで呼んできた。馴れ馴れしいにも程がある。

 

 その日の私は、たまたま花の髪飾りをつけていた。毎日任務に忙殺されるばかりでゆとりがない心を潤すため、気分転換のために付けていた。

 その下忍はそれを目敏く見つけ、話題にしてきたのだった。

 

 天使様の真似。ストレートに言い当てられて、私は恥ずかしくなった。

 

 自分よりも遥かに美人である人にお洒落をしていることを指摘されて気恥ずかしく思えたのもあるが、何より恥ずかしいと思ったのが……。

 

「私と同じだ! 私も天使様と同じ髪飾りしてるの! 一緒だね!」

 

 この三十五歳の下忍も天使様の熱烈なファンらしく、私と同じような髪飾りをつけていた。天使様がいつも付けていらっしゃる花のコサージュを模した髪飾りをつけていた。

 

「お揃いだー! やったー! アジサイちゃんと一緒!」

 

 三十五歳下忍は無邪気にはしゃぎ回る。

 

 こんなズレた人と同じ感性を持っていると思ったら急に恥ずかしく思えてきた。天使様とお揃いというのは誇らしいが、こんな人と一緒だというのは恥ずかしい。

 いい歳して「お揃いだ仲間だー! わぁい!」と幼子のようにはしゃいでいる彼女を見ていると、耐え難い羞恥心が湧いてきた。普段クールで通っている私の顔が紅潮し崩れていく。

 

「ふ、ふざけるのはやめなさい!」

 

 恥ずかしさを誤魔化すように、私はその下忍に強く当たるのであった。上司として舐められたら終わりだ。小娘だと舐められてはいけない。

 

 私は彼女を強く叱りつけた。そうやってその変な下忍に上下関係の厳しさを教えてやった。

 

「余計なことは喋らないの。私の方が階級は上よ。貴方は下忍。舐めた口を利くのはやめて」

「はいすみません。アジサイ先輩、以後気をつけます!」

「本当にわかってるんでしょうね?」

「はいアジサイ先輩!」

 

 彼女は怒られてしょんぼりしていたが、数秒後には忘れたようにケロリとしていた。そして明るく振舞っていたのだった。図太い性格をしているようだ。

 

 実力や性格はともかく、天使様はやる気と明るさとメンタルの強さを評価して、この人材を推薦してくれたのだと思った。

 

「足手まといにはならないでね」

「はい! お仕事一生懸命頑張ります!」

「貴方、返事は凄くいいわね……」

 

 そうして、私はそのランというアホそうな下忍と一緒に任務をすることになった。

 

「それじゃ後片付けの雑用よろしく。私は上に呼ばれてるから」

「はい! 任せてください! アジサイ先輩!」

 

 そのランという変な下忍は変人すぎた。年下に命令されても嫌な顔せず仕事をしていた。年下の女の子に偉そうな態度をとられているというのに、なんとも思っていないようだった。いつもニコニコしていた。

 

(この人、神経通ってるのかしら?)

 

 年下の人間にこき使われたら、少しはイラッとするのが人間というものだ。だが彼女はまったく気にしていないようだった。

 

 お人よしと言えば聞こえはいいが、悪く言えば鈍い。だからこの歳で下忍なんてやってられるのかもしれないと思った。

 

 お人よしの優しい人。鈍い人だが悪い人ではない。だが厳しい忍び世界には向いてなさそうな人だとも思った。

 

 見目麗しいし、忍者ではなく店の売り子でもやっていた方がよほど似合っているだろう。平和に暮らしているのが凄く似合う人だ。

 

 そのような忍者が似合わないような人でも戦わなければいけないのが今の雨隠れの実情なのだ。

 それを思うと忸怩たる思いに駆られる。私たち、雨隠れの忍者の力が足りないのだ。彼女の上司として、私はもっと精進せねばいけない。そう思った。

 

(身のこなしは悪くないわね。でも下忍ってことは忍術が大したことないのかしら?)

 

 そのランという下忍はアホそうに見えて、仕事は真面目にちゃんとやっていた。挨拶もできる。無能そうに見えて、意外と能力は高かった。特にコミュニケーション能力に関しては抜群だった。

 

「ランちゃん、ありがとねー」

「お婆ちゃんもお元気でね!」

「ランちゃん! こっちも頼むよ!」

「はいはい! 今行くよー!」

 

 少し一緒に働いてみて、すぐに気づいた。そのランという下忍は、人を和ませる不思議な魅力を持っていた。

 

 雨隠れには降り続く雨のせいか、無表情で能面をつけたような陰気な人間が多い。私自身、どちらかと言えばそっち寄りの人間だ。

 そんな陰気な人間の表情を自然と崩させて笑わせる魅力を、その下忍は持っていた。天性の資質というやつだろう。

 

(あの依頼者、私にはあんな顔してくれないのに……)

 

 人と仲良くなることが苦手な私は、ちょっと羨ましい気持ちになった。十代半ばで上忍にまで駆け上がったエリートの私が、三十五歳で下忍をやっている落ちこぼれに嫉妬するなどおかしなことかもしれない。

 

 だが素直にそう思ってしまった。彼女のように伸び伸びと生きられたらどれだけ人生楽だろうか。

 

(またあの人の指名依頼か。凄いわね……)

 

 ランという忍びの雨隠れでの人気は、すぐに高まることとなった。ご指名で大量の依頼が入るほどだった。

 私への指名依頼なんてほとんどないので、それもちょっと嫉妬した。

 

「今日はフヨウちゃんとスイレンちゃんも一緒の任務なんだ。よろしくね!」

「こらラン、その子たちは上忍よ。私と同期のエリート、舐めた口利かないの。下忍の貴方と違って幾つもの死線を潜り抜けた歴戦の忍びなんだからね!」

「あっ、はい、すみませんでした!」

「ホント、返事だけはいいわね貴方……」

 

 ランはフヨウ、スイレン相手にも臆することなく話しかけていた。気軽すぎて礼儀を弁えていないようだったので、毎回上司である私が注意することになった。

 

「アジサイの所に配属された人、凄い面白いね。私の所の子と全然違う」

「面白いじゃないわよフヨウ。こっちは大迷惑してるんだから。だいぶ年上の部下とか勘弁して欲しいわ」

「え、あの人年上なの!?」

「三十五歳よ」

「え、嘘でしょ?」

「本当よ」

 

 フヨウ、スイレンの所に配属された下忍は普通だった。普通に年下の子だった。なんで私の所だけこんな変な年上の下忍がやって来るのか、とんだハズレくじを引いた気分だった。

 

「こらラン、任務中に肉まん食べないの! 私だって我慢してるんだから!」

「ごめんなさい! アジサイ先輩! すぐに食べればいいかと思って……」

「そういう問題じゃないでしょ!」

 

 そうしてランという年上部下に振り回されながら、しばし任務に没頭する日々を送った。

 

「天使様をつけ狙っている輩がいるですって? それって本当、アジサイ?」

「ええ天使様から直々に命令が下されたの。天使様の身辺警護を強化するようにって」

 

 ランという下忍に振り回されるのにも慣れた頃、再び雨隠れに危機が訪れることとなった。仮面の男が再び天使様を襲撃しようとしていると、情報が入ったのだった。

 

 ペイン様亡き今、天使様まで倒れられたらこの里は完全に終わりだ。どこの勢力の者かは知らないが、そんな不埒者は叩き潰すしかない。全力で天使様をお守りするしかない。

 

 そうして私たちは日夜天使様の警備を行うこととなった。不審者から天使様を守るための戦いが始まった。

 

「それじゃラン。見回りよろしく。ちゃんとやってね。サボったらダメよ? 前みたいに任務中に肉まん食べたら絶対にダメよ? 今日は天使様の警護なんだからね!」

「はーい。了解ですアジサイ先輩!」

「まったく毎回返事はいいんだから……」

 

 太陽のような笑顔で去っていくピンク髪の下忍。どんな時でも能天気な彼女に呆れながら、私はその背を見送った。

 

(嫌な雨だわ。何かが起きそう……)

 

 その嫌な予感は的中することとなった。その日、変な仮面をつけた黒装束の男マダラが、不遜にも天使様のおわす塔に不法侵入してきたのであった。

 

「小娘ぇえ! 今日こそ雪辱を果たすぞ!」

「曲者! 曲者が天使様の塔に上ってるわ!」

 

 汚れなき天使様の聖なる住居に土足で侵入して踏み荒らす。挙句の果ては天使様を小娘扱いして、天使様を亡き者とし、大切なものを奪おうとしている。

 

 マダラはとんでもないクズであった。

 

「天使様には近づけさせない!」

「小娘が邪魔立てするなぁ!」

「ぐぅうっ!」

「フヨウ大丈夫!? アジサイ、いくよ!」

「ええ!」

「ええい、次から次へと小娘共が、姦しすぎるぞ! 小娘が三人集まって姦しい! 四人集まったら何になるんだ?」

「知るかそんなこと!」

 

 上忍である私たちを前にしても、マダラは不気味なほどに余裕を保っていた。まるで私たちのことなど路傍の石にすぎないと言わんばかりの舐めきった態度で軽口を叩いていた。上忍の私たちを小娘呼ばわりとはいい度胸だ。

 

「口寄せのじゅちゅ!」

「ほうパンダか。舌足らずの声で可愛らしいパンダなんか口寄せして……まさに小娘だな!」

「くっ、黙れ下郎!」

 

 マダラは私の呼び寄せた口寄せ獣を見て馬鹿にしてきた。

 

 私のこともそうだが、天使様に対する重ね重ねの侮辱行為。絶対に許すわけにはいかない。私たちの偉大なる天使様を小娘扱いなど許せるはずないだろう。

 

 私たちはマダラを殺そうと必死に戦った。だが……。

 

「ほう小さな小娘、あの大きな小娘と同じ技を使うか。だが大きな小娘の技よりも遥かに未熟だな。その程度の未熟な技、オレには効かんぞ!」

「――がぁあ!」

「ふん。所詮は小娘未満の小娘だな。さて煩わしい小さな小娘共はいなくなった。大きな小娘の所へ行かせてもらうぞ」

「くっ、ダ、ダメ……」

 

 マダラは強敵であった。今までに戦ったどんな敵よりも強かった。

 

 時空間忍術使いである私だからこそ、マダラのその異常なほど高い時空間忍術の技量に気づくことができた。

 おまけに写輪眼も持っている。無敵にも思えるほどの強大な力を、マダラは持っていた。

 

 悔しいが、フヨウ、スイレンと協力して戦ってもまったく歯が立たなかった。呼び寄せた相棒の口寄せ獣も大した役には立たなかった。

 

 マダラに唯一対抗できているのは天使様だけだった。だがその天使様も怪我から復帰したばかりで本調子でないのか、押されていた。

 

「小娘、まだ怪我が治っていないのか? こちらとしては好都合だ」

「くっ」

「さあオレの(もの)を見ろ小娘。今度こそ夢の世界に連れてってやるぞ小娘」

 

 このままじゃ天使様が危ない。あの変態仮面野郎に命を奪われてしまう。

 

 里の希望である天使様を死なせるわけにはいかない。私たちが犠牲になってでも天使様を守らなければ。かくなる上は道連れを狙って自爆を。

 

 そう覚悟を決めた時のことだった。

 

「マダラ! 性懲りもなくまた現れたのね!」

 

 違う場所の巡回に向かわせておいた下忍のランが、運悪く戻ってきたのだった。

 ランは、地面に倒れ伏した私たちと襲われている天使様を見て激怒し、マダラへと一直線に突っ込んでいった。

 

「このクソマダラぁああッ! よくもアジサイ先輩たちをっ!」

「だ、だめよ、やめなさいランッ!? あなたが敵う相手じゃないのよ!?」

 

 無謀にも突っ込んでいくラン。それを見て、私は思わず悲痛な声で叫んだ。フヨウ、スイレンの表情も凍りついていた。

 

(下忍の手に負えるような相手じゃないのに!?)

 

 上忍の私たちがトリオで戦っても歯が立たなかったのに、三十五歳で下忍をやっているあの人が戦って勝てるはずがない。犬死するのが目に見えている。だというのに、あの人は馬鹿なのか果敢にも前に向かっていった。

 

(そんなっ、またあの日を繰り返すというの!?)

 

 脳裏に浮かぶのは、初めてS級任務を受けたあの日のことだ。自分たちの力不足のせいで仲間たちが次々に死んでいく、地獄のようなあの光景。

 

(死なせたくないのに!)

 

 散々振り回されてイラついたこともあったが、私はこのランという三十五歳の落ちこぼれ下忍を嫌いにはなれなかった。むしろ好ましい感情すら抱いていた。いつか来るであろう平和な雨隠れに絶対に必要な人だと思った。あんな優しくて面白い人を、絶対に死なせたくない。

 

(何で動けないのよぉっ!)

 

 死なせたくないのに、ダメージを負った自分の身体は満足に動いてくれない。戦おうにも勝てるヴィジョンが浮かばない。

 

 思わず目尻に涙が浮かぶ。自分の実力不足をこれ以上恨んだ日はない。

 

 また私は大切な仲間を失ってしまうのか、命より大事な敬愛する天使様すらも失ってしまうのか――――そう思ったのだが。

 

「沸遁・巧霧の術!」

「――――え?」

 

 忍術なんてまったく使えないと思っていたはずのあの下忍が、凄まじい速度で印を結び術を発動させていく。上忍の私でも何をやっているのかわからないくらいの、見たこともない忍術を発動させていく。

 

「はぁあああ! 吹っ飛べクソマダラ!」

「くっ、小娘がぁ、舐めた真似を!」

 

 さらには岩をも砕けるような勢いのある拳を次々に繰り出し、マダラに距離をとらせる。そうしてマダラを一時引かせ、その隙に天使様と合流していた。熟練の忍びが見せる動きだった。

 

「ラン、合わせるわよ!」

「うん!」

 

 そして天使様と合流した後は、見事なコンビネーション攻撃を決めていく。

 

 あんなコンビネーション攻撃、長年チームを組んだフヨウ、スイセンと一緒でもできない。私でもできないそんな凄いことを、あの下忍はさらりとやってのけたのだった。

 

「小娘がぁあっ、オレの邪魔ばかりしおってぇえ!」

 

 そうしてマダラは追い詰められていくこととなった。

 

「――くっ、またしても小娘にしてやられたか……」

 

 少なくない手傷を負ったマダラが撤退していく。絶体絶命だと思ったピンチは、あっけなく過ぎ去っていった。

 

「やったわねラン」

「うん!」

 

 里のトップである天使様とハイタッチを交わす三十五歳下忍。ハイタッチはおろかハグまでしていた。いかにも親しげだった。あんな緩んだ天使様の表情は見たことがなかった。

 

(どういうことなの……?)

 

 私、フヨウ、スイレンの三人は、ポカンとした表情でそれを見送っていたのだった。

 

 後で聞いた話だが、あのランという下忍は、実はとんでもない人であった。

 

 現在の雨隠れ体制の創成期メンバーとして加わり、あのペイン様と天使様の無二の親友なのだとか。三忍の自来也から教えを受け、沸遁と呼ばれる血継限界を持ち、火遁と水遁に関しては右に出るものがいないのだとか。さらには三忍の一人である蛞蝓姫の綱手から医療忍術を教わり、その医療忍術で危篤状態にあった天使様を救ったのが、他でもない彼女なのだとか。

 

 任務経験なしだなんて真っ赤な嘘。理由あって木の葉の里に身を寄せた際、上忍にまで出世したことがあるらしい。

 人材豊富な大国の隠れ里の木の葉で上忍レベルということは、雨隠れの上忍でも十分通用するのは間違いない。

 

 つまり、三十五歳の落ちこぼれ下忍というのは大嘘。影レベルの実力者だったのだ。

 

 ナニソレ。本当にナニソレ、である。

 

 なんでそんな人が下忍をやっていたかというと、彼女を招いた天使様は当初、特別待遇で迎え入れようとしたのだが、当の彼女が特別待遇は嫌で一からやり直すと主張して聞かなかったそうで、そういうことになったのだとか。それで、何も知らない私の所にお鉢が回ってきたのだとか。

 

(わ、私はそんなお人に、先輩風吹かせて、かなり失礼なことを……い、いやぁあああ!)

 

 その事実を知った私は赤面し、しばし悶絶することとなったのは言うまでもない。年頃の小娘のように悶絶した。

 

 天使様もお人が悪い。ランさんもだ。そうならそうと最初から言ってくれれば、絶対にそんな対応はしなかったのに。

 

 事実を知ったフヨウ、スイレンにも冷やかされることになったし、しばし赤面しっぱなしの日々を送ることになった。私だけ酷い恥を掻くことになって恥ずかしかった。クールキャラが台無しである。

 

(でも嬉しいな……)

 

 気恥ずかしい思いをしたが、同時に嬉しい気もした。

 

 影レベルの強く偉大な人。誰もが振り返って見るような美しい人。それほどの人ならば、木の葉でそのまま暮らした方がよっぽどお得だろう。

 

 だが彼女は雨隠れを選んでくれた。私の故郷、大好きな雨隠れを選んでくれた。この生きるのに大変な貧しい里を見捨てずに、どうにかしようとして戻ってきてくれたのだ。

 

 そのことに対し、私は心から嬉しく思うと同時、ランさんのことがもっと好きになったのであった。

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