ランが行方を絶った。その衝撃的な報告は、突如舞い込んできた。
(そんな、ランが!?)
ランが行方を絶ったと報告を受け、私は動転して気が気じゃなかった。
あの子が消えてしまうなんて。せっかくまた一つになれたのに、その絆が断たれてしまうかもしれないなんて、受け入れ難いことだった。
ランが自分から行方を絶ったとは考えにくい。地位を築いていた木の葉を捨ててまで雨隠れに戻ってきてくれたのだ。そんなことはあり得るはずがない。
仮に何らかの事情で木の葉に戻ったとしたら、我々に一報くらいは残しておくだろう。となれば、誰かに拉致されたか、考えたくないことだが死亡したか、いずれかの可能性が考えられた。
ランは歴戦の忍びである。そこらへんにいるような柔な忍びにやられたとは思えない。彼女は雨隠れの実質的な長を務めるこの私と対等に戦えるほどの実力があるのだ。影レベルの実力があると言える。里内の不満分子程度にやられたとは到底思えなかった。
だとすれば、自ずと答えは見えてくる。ランを狙い、彼女を倒せるだけの実力がある者――マダラ。考えたくないことだが、奴の手にかかったのではないか。そう考えるのが妥当だった。
その最悪の予測は残念ながら当たっていた。
「敵っ!? ラン!?」
ランが行方を絶ってからすぐ、マダラが我々の前に姿を現した。いつものように唐突に空間を切り裂くようにして現れた。いつもと違うのは、奴の腕の中にランが抱えられていたことだ。
「小娘、この小娘の命が惜しくば長門の輪廻眼をよこせ」
マダラはランの首にクナイを突きつけながらそう脅してきた。
「……ぅあ」
ランは幻術に囚われているようで、虚ろな目をしていた。その表情はとても苦しげで、酷くやつれているようにも見えた。
ランのその尋常じゃない様子を見て、私はすぐにマダラに事情を問い質した。
「ランに何をしたの!?」
「なに、少し夢の中で遊んだだけだ。イタチの月読ほどではないが、俺も似たようなことができるのでな」
そう言って、マダラは冷淡に笑った。
うちはイタチの使う写輪眼の瞳術“月読”は、目を合わせただけで、対象を幻術世界へと引き込むことができるという。その幻術世界で負った痛みの感覚は、現実世界のそれと何一つ変わらないらしい。
マダラもそれと似たような高度な幻術を使い、ランを苦しめたらしかった。
「ランをよくもっ!」
幻術世界でランを甚振ったと聞き、私は殺気を抑えることができなかった。今すぐにでもマダラを殺してやりたい、八つ裂きにして殺したい、起爆札で粉々にしたい、そう思った。
だが手を出すことはできなかった。ランの命は今まさにマダラの手中にあった。手を出せるはずがなかった。
「たいした小娘だよ、この小娘は。俺の拷問に耐え抜き、長門の輪廻眼の情報をついぞ吐かなかったのだからな。まあ、小娘らしく多少見苦しく泣き叫びはしたがな。躾のなっていない小娘に立場の違いというものを存分にわからせ、この間の無礼な言動の借りは返させてもらったぞ」
「き、貴様ぁああ!」
マダラの挑発的な言葉を聞き、腸が煮えくり返りそうになる。
「この変態っ、天使様はおろか、ランさんにまで!」
「許せない!」
「最低!」
私の側に待機しているアジサイたちもそれは同様だったようだ。憎々しい表情でマダラを睨み付けていた。
「御託はもういいだろう。どうした、早く渡せ。この小娘がどうなってもいいのか?」
「輪廻眼を渡したところで、貴様がランや私たちを見逃すという保証はない……」
「ふむ、そうだな。裏切り者のお前と散々手を焼かされたこの小娘は必ず始末してやろうと思っていたが、まあいいだろう。長門の輪廻眼を渡せば、この小娘を解放してやる。お前にももう手を出さないでおいてやろう。これ以上、俺の計画の邪魔をしないならばの話だがな」
「……」
「今の俺にとって、半壊状態にある暁など、もはやどうでもいい存在だ。元暁のお前にも興味などない。暁の裏切り者をどうしても粛清してやろうという気はない。今俺が関心があるのは長門の輪廻眼のみだ。さあ小娘、どうする?」
マダラは輪廻眼さえ渡せばこれ以上手を出さないと言った。その言葉を素直に受け取れないし、大事な長門の眼を渡すということにも大きな抵抗感があった。
悩んだが、私にはランを見捨てるということなどできなかった。ランの命には代えられない。マダラが約束通りにしてくれるという確証はなかったが、要求を呑まざるを得なかった。
「……わかったわ」
「賢明な判断だな小娘」
私は大事に仕舞ってあった長門の輪廻眼を持ち出すと、それをマダラへと引き渡した。
「これで夢の世界に近づける。待っていてくれリン」
マダラが果たして約束を守るかどうか。輪廻眼を渡す際は緊張が走ったが、マダラは約束通りに手を出さずに立ち去っていった。
ひとまず危機は去ることとなった。しかし……。
「ラン、しっかりしてラン!?」
解放されたランを受け止め、必死に呼び掛ける。
「……ぅう」
いくら呼びかけても、ランは私たちの呼び声に答えない。苦しそうに呻いているだけだ。
「医療忍者を! 早く!」
「は、はい!」
すぐに医療忍者を呼び出して治療を施させるが、ランは昏睡したままで、いくら経っても意識を取り戻すことはなかった。日に日に衰弱していく一方であった。
マダラはランを返すと言ったが、無事な状態で返すとは一言も言っていなかった。マダラは酷く侮辱したランのことを決して許すつもりはなく、最大限苦しめた上で衰弱死させるつもりのようだった。
(このままではランが……)
医療技術に乏しい雨隠れでは満足な治療を施すことができない。このままではランが死んでしまうことは明らかだった。ランの命は風前の灯だった。
(こうなればあの方法しか、木の葉に助けを求めるしかないようね)
ランの過去の伝手を頼り、大国木の葉の医療忍術の助けを借りるしか、ランを助ける方法がないと思った。
「アジサイ、貴方たちにお願いがあるの。木の葉への伝言を頼みたい」
私はアジサイたちを呼び出し、全てを話した上で、彼女たちにお願いを聞いてもらうことにした。
今までのこと――私が暁にいたということを正直に話して、腹を割って話し合わなければいけなかった。