長く続いた忍び世界の戦いは終わった。
三代目の爺ちゃん、エロ仙人、アスマ先生、シカクのおっちゃん――。色々と失ったもんはあるけど、忍び世界は以前よりも平和になった。命を賭けて戦ってくれたみんなのおかげだろう。
「ここらへんは、前には野盗がよく蔓延っていたんだがな。随分綺麗になったもんだ」
「ああそうだな。きっとみんなが日頃から力を合わせて頑張っているおかげだってばよ」
人が行き交う往来を眺めながら何気なく呟くサスケの言葉に、俺は頷いて答える。
こうして里を出てみるとよくわかる。以前よりも明らかに治安がよくなっている。
第四次忍界大戦が終わった後も各里の協力の枠組みが残り、各里が手を取り合って平和を保とうと努力しているからだろう。
そんな平和を保つ試みの一環として、毎年式典が行われている。
今年は雨隠れで行われる予定だ。ついでに雨隠れの体制が新しく生まれ変わってランの姉ちゃんがその長になるので、そのお披露目の式典も行われるらしい。
その式典に木の葉代表として出席するべく、現在、俺とサスケは雨隠れに向かっている最中というわけだ。
サスケと二人、こうして喧嘩もせずに隣を歩いているなんて、十年くらい前の俺たちの関係なら考えられないことだよな。
だけど今はこうして穏やかな気持ちで二人歩いていられるんだ。
世の中、変わらないもんはないってことか。悪い方に変わることもあるけど、良い方に変わることもあるもんだとつくづく思う。
「雨隠れまでまだ先は長い。そこの茶屋にでも寄るか」
「そうするってばよ。小腹が空いたしな」
昼時になり、近くにあった茶屋へと立ち寄る。
「いらっしゃいませ。二名様ですね?」
「ああ」
何気なく立ち寄った茶屋だが、そこにいる店員や客の表情は明るい。カップル同士で楽しげに過ごしている姿も見受けられる。
これも平和な世の中になったおかげなのだろう。そうでなければ、誰もこんな安心しきった姿は見せられない。
「甘くない団子はあるか?」
「はい、みたらしではない醤油団子がありますよ」
「そうか。じゃあそれを頼む」
「かしこまりました」
サスケは相変わらず甘いものが苦手らしく、甘くない醤油団子を注文していた。甘くない団子があると知ると喜んでいるようで、口元が少し柔らかくなっていた。
そんなサスケの様子を見て、俺は内心でニヤリとする。
サスケが隙を見せるのは飯の時だけだ。随分大人びて成長しちまったサスケだが、そこらへんは昔から変わらない。
世の中色々と移り変わっていくが、変わらないものもある。そう思うと安心する。
できれば、今の俺とサスケの関係もそうであって欲しいと思う。永遠に変わらないで欲しい。また昔みたいに激しく
まあそんなことは万に一つもねえと思うがな。そんなこと、俺が絶対にさせねえし。
サスケもきっと同じ気持ちだろう。バラバラだった昔と違って、一つになった今ならわかる。俺たちはずっと一緒だ。
(またかよ。店員の姉ちゃん、不躾にサスケの腕を見やがって……気分悪いってばよ)
注文している間、店員がサスケの失われた片腕をチラチラと見ていたのが凄く気になった。
里を出てから何度もそんな事態に遭遇している。サスケは毎回慣れた様子で何も気にしていないようだったが、俺はそれを見る度、胸がチクリと痛くなった。今回もだ。
「サスケ、お前本当によかったのかよ。やっぱ綱手の婆ちゃんに言って、俺みたいに腕を生やしてもらえば……」
「構わない。これは自分への戒めのためにあえて残しているものだ。お前が気に病むことではない」
「そうか。それならいいけどよ……」
店員が去った後に堪らず声をかけてみるが、サスケの返答はいつもの如く、「ノー」だった。
罪を償う一環として、サスケは失われた腕をそのままにしている。片腕で常に不便な暮らしをしているだけでなく、里にもほとんど帰ってこない。
カカシ先生――六代目火影からの仕事の依頼を受けるという形で、サスケは世界各地を回って贖罪の旅を続けているのだ。
といっても数ヶ月に一度くらいは里に顔を出しているけどな。最近ではもっと頻繁に里に戻ってきている。
頻繁に里帰りしているのは、サクラちゃんが身重だからだろう。サクラちゃんの両親が付きっ切りでサポートしてくれているとはいえ、身重の妻を放っておきっ放しというのは体裁が悪いし、サスケとしても心苦しいのだろう。
昔はサクラちゃんのことなんて突っぱねて好き放題していたというのに、随分丸くなったもんだと思う。
まあそれを言うなら俺もそうなんだけどな。昔みたいな馬鹿なんてやってられねえ。
なぜならサスケだけでなく、もうすぐ俺も親になるんだからな。
「サクラちゃん、もうだいぶお腹大きくなってんだろ」
「そういうお前の所のヒナタもな」
サスケはサクラちゃんと結ばれ、俺はヒナタと結婚することになった。近々子が生まれる予定だ。
火影になる夢はまだ道半ばだけど、好きな女の子と結婚して家庭を持つ夢は先に叶えちまった。
まあ火影になったら忙しいから良い人がいるなら早いうちに身を固めておけって、カカシ先生にそう言われたのが結婚の決め手になったんだけどな。
他にもシカマルんとこのテマリも妊娠しているし、サイと結婚したいのも妊娠しているし、ネジと結婚したテンテンも妊娠しているし、チョウジとリーの奥さんも妊娠している。
木の葉の里では同世代揃っての、空前の結婚&妊娠ラッシュとなっている。別に示し合わせたわけでもねえのに、そうなっている。
俺たちの同期で独身なのはキバくらいだ。でもそのキバも恋人がいるみたいだから、その内結婚するだろう。
近頃おめでたい話ばかりだ。数年前に悲惨な戦争してたってのが考えられねえくらい明るい話題が飛び交っている。
「キバも早く結婚すればいいのにな。そうすれば俺たち世代全員が揃って結婚しておめでたいってばよ」
「いや、独身にはまだシノがいるだろ」
「え、シノ?」
「ナルトお前……まさか自分の結婚式に来た同期の奴の名前を忘れているわけじゃねえだろうな?」
「えっ、いや、そんなこと、シノシノ、えっとシノ……」
胡乱な目をサスケに向けられ、俺はシノのことを必死に思い出そうとするものの、咄嗟に顔が思い浮かばなかった。
サスケは呆れた様子で口を開く。
「本当に忘れているようだな。サングラスをかけた、油目一族の蟲使いの奴だ。アカデミーの教師を目指して、イルカ先生の所で勉強しているだろ」
「あっ、アイツか!」
サスケに言われてようやく思い出す。
確かヒナタとキバと同じ班のやつだったっけか。ヒナタ繋がりで俺とヒナタの結婚式にも来てくれてたんだったな。
アイツ影が薄いからたまに忘れちまうってばよ。そういやシノも独身だったな。
「シノかぁ、アイツ、もっと存在をアピールしないと、女の子はおろか男友達も寄って来ないってばよ。絶対カノジョいねえし。虫の友達はいっぱいいそうだけど」
「ナルト……それを本人の前で言うのはやめておけ。たぶん、物凄くショックを受けるぞ。そして一生根に持たれるに違いない」
「あはは、確かにな。いまだにお前の里抜けの際の追跡任務で仲間外れにしたことでぐちぐち言われるからな。別に仲間外れにしたわけじゃないんだけどさ。普通に忘れてただけで」
「仲間外れにするよりも忘れる方が酷い気がするがな……」
珍しくシノの話題で盛り上がった後、休憩を終えて店を出る。
「さあ改めて雨隠れに向かうってばよ」
「ああ」
美味しい団子を食ってエネルギーを補給した俺たちは、雨隠れに向けて張り切って歩いていく。雨隠れに近づく度にぬかるんだ悪路となっていくが、忍者である俺たちには何のその。
やがて雨隠れの里に辿り着くことができた。
「ここだな」
「相変わらず雨が降ってるってばよ」
前に雨隠れに来たのは、たしかランの姉ちゃんがオビトに昏睡させられた時だったか。第四次忍界大戦の少し前だからそれほど前ってわけじゃないけど、随分前のように感じられるな。ここ数年で色んな経験を一気にしたせいかもしれない。
「相変わらずの雨だけど、里の雰囲気は前よりもよくなってるってばよ」
門で手続きをしてから、里の中を歩いてみる。
以前よりも街並みが少し華やかに見える。前は廃墟のビル群みたいなのばっかりだったのに、今はそうでもない。人々の表情も心なしか明るい気がする。
「俺は前の雨隠れを知らんから何とも言えんな。だが変わったとすれば、お前の姉さんの影響があるだろう」
「ああそうだな。きっとランの姉ちゃんたちが頑張ってるからだな」
サスケの言う通り、きっと姉ちゃんの影響だ。馬鹿みてえに明るい姉ちゃんに影響されて、あの鬱々とした里も大きく変わろうとしているんだろう。
今日の式典は、きっとそんな姉ちゃんたちの努力の集大成となるに違いない。そしてこれから先、もっともっとこの里は変わっていくに違いない。
勿論、良い方向にだ。ランの姉ちゃんたちがいる限り、この里は安泰だろう。そう思える。
「木の葉の方々、よくぞお越しくださいました。どうぞ」
「ああ悪いな」
式典の会場に着くと、木の葉代表だということで、一般客とは違った場所に通された。それで係り員から紙で作られた花束とか、記念品やら色々なお土産の品を渡されることになった。大量の手荷物を抱えることになったが、全て一つの巻物に収納してくれるようで助かった。
「へえ見事なもんだってばよ」
高級紙で作られた赤い十三本の薔薇の花束。きっと小南の姉ちゃんが作ったんだろう。
芸術のことなんてよくわかんねえけど、そんな俺でも見てて惚れ惚れするように作られた、式典の贈答品として配るに相応しい一品となっていた。
「持って帰ってヒナタにも見せてやるってばよ」
「持って帰ってサクラに見せてやるか」
この綺麗な花を愛する妻であるヒナタにも見せてやりたい。喜びを分かち合いたい。
サスケも同じ気持ちだったらしい。俺たちはほぼ同時に似たようなことを口に出した。
「ははっ、考えることは一緒だな」
「ふっ、そのようだ」
二人揃って新妻に惚けているようで、俺とサスケは照れ臭そうに苦笑した。
「式典が始まる前に腹を満たしておくってばよ」
「そうだな」
係り員に荷物を巻物に収容してもらった後、俺たちは会場をうろつくことになった。
会場は立食パーティーみたいになっていて、各里のお偉いさんたちが勢揃いしていた。これも外交の場というやつなのだろう。積極的に場を回って話をしている人らもいる。
俺たちも適当に回るかどうするか、そんなことを考えていた時のことだった。
「ナルト君たち、お久しぶりです」
見知った二人組みが声をかけてきた。
「白! 再不斬! 久しぶりだってばよ!」
「本当にお久しぶりですね」
「久しいな小僧たち。いやもはや小僧とは呼べないか。立派になったもんだ」
白は成長してより美人になったし、再不斬はより逞しく精悍な顔つきとなっていた。
二人共、変わりすぎだってばよ。まあそれは俺たちも一緒かもしれないが。
「白……何か昔よりも美人になってねえか?」
「ふふ、そうですか? ありがとうございますナルト君」
妖艶に微笑む白は、完全に女にしか見えなかった。
人妻となったサクラちゃんやヒナタより美人って、いったいどんだけ美人なんだってばよ。
(実は男だってのは大嘘で本当は女、じゃないよな?)
女と見せかけて男、と見せかけて実は女。本当はそうなんじゃないだろうか。
忍者は裏の裏を読むべし、ってカカシ先生も言ってたしな。今更ながら疑うレベルだってばよ。
「お前らが木の葉の代表か?」
「ああそうだってばよ。ってことは、再不斬たちは霧隠れの?」
「そういうことだ。本当はこの式典には、親友の晴れ舞台だってんで、水影のあの女自ら出たがっていたが、生憎忙しくてな。代わりに俺たちが来たというわけだ」
再不斬たちは霧隠れの抜け忍だったけど、今は許されて霧隠れに戻っている。水影の姉ちゃんから信頼されており、里の顔役を任されているようだ。それで今日もこの場にいるってわけだ。
「俺たちも似たようなもんだってばよ。カカシ先生――じゃなかった、六代目は出たがってたんだけど、忙しくて俺たちが来たんだ」
カカシ先生は雨隠れに出張すれば休暇代わりになると思ったらしく、自ら雨隠れでの式典に出ようと画策してたんだけど、それはシズネの姉ちゃんやシカマルたちに阻止された。
たぶん今も火影室に缶詰になって仕事していることだろう。出前のラーメン食べながら書類仕事に忙殺されているに違いない。
カカシ先生は最近は忙しくてスケベな本も読めなくて、たまにガイ先生と外出して食事するのが唯一の息抜きという状態らしい。
火影という大役を務めているから仕方ないとはいえ、少し可哀想だ。雨隠れ名物の肉まんでも巻物に収容してお土産として持って帰ってあげようか。
(そうだ。ヒナタへのお土産は当然として、ネジとテンテンのお土産も買っていかないとな)
前に来た時は確かテンテンが肉まんを食べて凄い喜んでいた記憶がある。ならばテンテンの分のお土産も持って帰れるなら持って帰ってやりたいところだ。
ヒナタの兄貴分であるネジ。その嫁であるテンテンは、俺の義理の姉のようなもんだしな。親戚付き合いは大事だってばよ。
「写輪眼のカカシも今や火影か。時代は移り変わるもんだな。血霧の里と呼ばれた俺たちの里が変わったように」
「良い変化なら喜ばしいことじゃないですか再不斬さん」
「まあな」
軽食をつまみながら、俺たちはしばし昔話に興じる。そんな俺たちに声をかけてくる奴がいた。
「ナルトたち、久しぶりじゃん」
「カンクロウ!」
砂隠れのカンクロウもこの場にいたようだ。
カンクロウは独特の化粧で塗られた顔をニイっと歪めて朗らかに笑う。
「カンクロウが砂隠れの代表だったのか?」
「ああ。我愛羅の代理でな。帰りに木の葉にも寄っていこうと思ってる。姉貴の様子を見ていきてえからな。良かったらナルトたちと同行させてもらうぜ?」
「構わねえってばよ」
カンクロウは里を出たついでに木の葉に寄り、シカマルに嫁いだテマリの様子を見に行くそうだ。
カンクロウの申し出に、俺たちは二つ返事で頷いておく。
「砂はカンクロウしか来てねえのか?」
「いや他の奴らも向こうの方にいるぜ。あと、こいつもな」
カンクロウはそう言って、背負った箱を指差す。その箱には、俺たちもよく知るあの傀儡が納められていた。
「こ、これは!?」
赤い髪の少年を模った、まるで人間そっくりな傀儡。それが納められており、俺たちは思わずギョッとする。
「お前、こんな時にまでサソリを持ち歩いてるのか?」
「ああ。俺の商売道具だし、大事な相棒になってるからな。いつ有事が起きるかわからねえ。どんな時も一緒にいないと駄目じゃん?」
「ま、まあそうかもだけどよ……」
「サソリとは便所も風呂も寝る時も一緒だぜ。俺の大事な相棒じゃん」
傀儡使いだからどんな場所でも人形を持ち歩いているのは当然なのかもしれない。けれど俺たちとしては、なかなか受け入れ難いものがあった。
飯食ってるパーティーの会場にそんなもん持ってくるなっつうの。食欲なくしちまうってばよ。
サソリを肌身離さず連れ歩いているカンクロウに表情を強張らせる俺たち。そんな俺たちに、これまた懐かしい顔ぶれが声をかけてきた。
「おうナルトじゃねえか! ブラザー、会いたかったぜ!」
「久しぶりだな。ナルト」
「ビーのおっちゃん! それにモトイのおっちゃんも!」
雲隠れの二人がやって来た。二人は既に結構な量の酒を飲んでいるらしい。赤ら顔だった。
モトイのおっちゃんは前よりも随分老けたな。
ビーのおっちゃんはあまり変わりがない。元から老け顔だから、違いが全然わからねえってばよ。
ビーのおっちゃんたちは雲隠れの里の代表としてやって来たようだった。
「ナルト、サスケ、相変わらず仲が良さそうだな二人共!」
「ビーのおっちゃんたちもな」
「当たり前よ! モトイと俺は友達! 永遠のブラザー!」
「ビー、ちょっと飲みすぎだぞ。この後に式典が控えているんだからほどほどにな」
「これくらい全然平気だぜ! ノープロブレム!」
ビーのおっちゃんは、酔っているのか酔っていないのかわからないテンションで騒ぐ。
元からハイテンションだからな。いつも酔っているみたいで、シラフなのか正直よくわからねってばよ。
ビーのおっちゃんの登場で盛り上がっている俺たちに、これまた懐かしい顔が現れた。
「あらあら賑やかな様子じゃない」
「大蛇丸!」
かつての敵の登場に俺は警戒を強める。
大蛇丸は俺の結婚式にもビデオメッセージを送ってくれたけど、正直何考えてるかわかんねえ。警戒するに越したことはねえ。
「そんなに怖い顔しないの。何もしないわよ。ちゃんと目付け役もいることだしね」
大蛇丸はそう言って苦笑しながら、後ろに控えている人物に視線を送った。
「ヤマト先生!」
「やあナルト。相変わらず元気そうで安心したよ」
ヤマト先生が大蛇丸の目付け役となっているらしかった。
ヤマト先生との久しぶりの再会に話は盛り上がる。
「大蛇丸は何でここに招待されてんだ?」
「私は技術協力の一環で、雨影代理――いやこれからは虹影代理と呼んだ方が正しいかしら。彼女に乞われてこの里に滞在していたのよ。それでこのパーティーにも呼ばれたってわけ」
「小南の姉ちゃんにか?」
「ええ。元暁の誼で彼女には色々と技術協力を乞われていてね。私も贖罪の一環としてそれに参加してるってわけよ。ふふ、別に元暁同士で悪巧みなんてしてないから安心してちょうだい。テンゾウも私のすぐ傍にいて、怪しいことしてないか見張っているからね」
「それは昔の名です。ヤマトと呼んでください。大蛇丸さん」
大蛇丸は更生の道を歩んでいるらしい。
だが信用しきれねえ。小南の姉ちゃんはともかく、大蛇丸のことは信用できねえってばよ。
「ねえそこのウェイターの貴方、これと同じものを手配して包んで後で渡してくれるかしら。勿論お金は払うから」
「かしこまり!」
「あ、それなら俺も頼むってばよ」
「かしこまり!」
大蛇丸は、係り員にお持ち帰り用の肉まんを注文していた。
それに便乗して俺もヒナタたちのお土産を頼むのだが、すぐにハッと我に返った。
(大蛇丸が肉まんをお持ち帰り? 幻術じゃねえよな?)
大蛇丸が肉まんをお持ち帰りするという異常事態を見て、俺は理由を尋ねずにはいられなかった。
「大蛇丸が肉まんをお持ち帰りするなんてどういうことだってばよ?」
「バイト先の焼肉屋の若い子たちと仲良くてね。そのお土産よ」
「バイト先!? 大蛇丸って焼肉屋でバイトしてんのか!?」
「私のことだから分かるでしょ。被害者への賠償とか色々あってお金が必要なの。いちいちその辺はつっこまなくていいの君は」
大蛇丸は更生の一環として、焼肉屋でバイトしているらしい。
つまり、あの大蛇丸がビールジョッキ片手に店内移動して、「生中、お待たせしました。カルビセット、この後すぐにお持ちしますね」とか言って接客しているってことか。正直、考えられねってばよ。
それはそうと、あの大蛇丸相手に普通に付き合えるなんて、最近の若い奴らって怖いもの知らずなんだな。まあ俺も二十歳で十分若いけどさ。時代の移り変わりは速いってばよ。
「この会場の受付で貰った花もバイト先に飾る予定よ」
「大蛇丸があの花を律儀に持って帰るなんて意外だってばよ……すぐに捨てちまいそうなのに」
「そうね。価値のないガラクタだったら即捨てる所だけど、まあ今回はちゃんと持って帰ってあげるわよ。泥の中を駆けずり回りながらようやく咲かせた花みたいだしね」
「今回? 泥の中の花? 何言ってんだ?」
「ふふこっちの話よ」
大蛇丸は含み笑いをする。相変わらずよくわかない奴だ。
前より丸くなっているようだが、得体の知れなさは相変わらずだった。
「大蛇丸、お前、本当に更生したんだな?」
「ええ、だから何度もそう言ってるでしょ。私が今興味あるのは、研究を除けばサスケ君の行く末。ただそれだけよ。もっとも、サスケ君が世界を相手にまた何かしたいというのなら、私は喜んで手を貸すけどね」
大蛇丸の大胆な挑発により、瞬く間に不穏な空気が出来上がる。だがそれを霧消させたのは、当のサスケだった。
「それなら永遠にその必要はないな。俺が俺である限り、この世界に変革など起こさせん。今あるこの世界の秩序を守るために働くだけだ」
「ふふ、サスケ君がそうならそういうことね。なら私も何もしないわ」
サスケが真っ直ぐな目で言うのを見て、大蛇丸は面白そうに笑った。
何故だかわからねえけど、大蛇丸はサスケに前とは違った意味で執着しているらしい。サスケが何もしなければ何もしないのだと言う。
本当に信用していいのかわからねえ。けど信用してみるしかねえ。
人を信じる。難しいことだけど、皆がそれをする努力をやめちゃ、また昔のような暗黒の時代に戻っちまうだろう。
だから俺は大蛇丸のことを少しだけだが信用してみることにした。
「それよりサスケ君、ナルト君もだけど、近々子が生まれるそうじゃない? おめでとうと言っておくわ」
「何!? それは本当か!?」
「おい、初耳だぞ!?」
大蛇丸は思い出したかのように俺たちの子のことを話題にしてくる。それで初耳だったらしいビーのおっちゃんたちが騒ぎ始めた。
その後しばらく、俺とサスケは冷やかされたり揉みくちゃにされることとなった。
「ビーのおっちゃんたちは結婚しねえのか?」
「俺はもう年だしなぁ。もういいかなって思ってるよ。ビーはどうだ?」
「俺は火影のおっぱいを追い求めてるからな。結婚なんてしねえぜベイビー」
「ぶほぉ!」
ビーのおっちゃんの発言によって、ヤマト先生は飲んでいた飲み物を噴出した。
「ごほごほっ、ビーさん、誤解を招くような発言はやめて下さい。今の火影は六代目のカカシ先輩ですから。五代目の綱手様は元火影ですからね?」
「細けえことはいいんだよ。俺が追い求めるのは、あの逞しい魅惑の火影のおっぱいだぜ!」
「いや全然細かくないですから! 重要情報ですから! そのままだと大変な誤解を生み出しますからね!」
「俺が好きなのは、火影のおっぱい! デカデカおっぱい!」
「だから頭に五代目とつけてくださいって!」
珍しく焦った様子でつっこむヤマト先生が面白い。ビーのおっちゃんは面白がってわざと誤解を生むような言い方してるみてえだな。
「ビーのおっちゃんは大人な女性が好みなのか。なら小南の姉ちゃんとかランの姉ちゃんとか、ピッタリじゃねえか?」
「おー、虹影代理はダメダメ。まだまだ小娘。虹影はもっとダメダメ。完全小娘」
「いやビー、あのお二方は全然小娘じゃないだろ。見た目若いけど結構な年いってる……」
「年増で悪かったわね」
モトイのおっちゃんの話を遮るようにして、周囲に紙が集まってくる。紙が寄り集まって人型となり、小南の姉ちゃんが現れた。
「所詮私は元暁の犯罪者で年増で行き遅れの雨女よ。司法取引をして罪から逃れた小狡い女よ」
「いやそこまで言ってないですけど……」
「でもね、ランは違うの。あの子は私たち雨隠れの希望なの。私のことはどう言われたって構わない。けど、あの子を馬鹿にした、舐めたような失礼な発言は謹んでもらいたいわね」
「は、はい、すみませんでした……」
小南の姉ちゃんによって、モトイのおっちゃんは謝罪させられていた。
小南の姉ちゃん、年食ったせいか迫力が以前よりも増している気がするってばよ。暁の時でも十分怖かったけど。
「ナルトたち。今日はよく来てくれたわね」
「ああ久しぶりだな小南の姉ちゃん。ランの姉ちゃんには会えねえのか?」
「ごめんなさい。式典の準備で手間取っていてね。式典後に会談を予定してるからそれでいいかしら?」
「ああ構わねってばよ」
「ありがとう。それじゃ私は別の所に向かうわ。今日はゆっくりと楽しんでいって頂戴」
紙分身が解けて、小南の姉ちゃんは違う場所へと飛んでいった。本当に忙しいみたいだな。
「ビーが小娘って言ったのはよくて、何で結構年いってるがアウトなんだ……」
「それは女心をまったく理解していない発言ですね。女性はいつまでも若く見られたいものですよ」
「そうね。本当に小娘である内は、大人びた年上に見られたいもの。でもいざ本当に年を食ったら、逆に若く見られたいもの。女心ってそういうものよ」
小南の姉ちゃんが去った後に思わずといった感じで漏らしたモトイのおっちゃんの言葉に、白と大蛇丸が口を挟む。
俺はつっこまずにはいられなかった。
「なんで白と大蛇丸は女目線で語ってるんだってばよ……」
「うふふ、何ででしょうね?」
「私たちのことだから分かるでしょ。いちいちその辺はつっこまなくていいの君は」
俺のつっこみに、白は妖艶に微笑み、大蛇丸の奴はピシャリと斬って捨てた。
その後も知り合いたちとワイワイやっていると、やがて式典の時間がやって来る。
「そろそろ時間のようだな。行くぞナルト」
「ああわかってるってばよサスケ」
俺たちは会食をやめ、式典会場の方に移動していく。
さて、ランの姉ちゃんの晴れ姿、しっかり目に焼き付けておかねえとな。
次回ラストです