【完結】暁小南討伐チャートbyホモガキ   作:夜散花

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ch.24 いつしか雨はやみ、そこには虹がかかるんだよなぁ(小南)

「雨晴れないね小南ちゃん。今日は雨の中での式になりそうだね」

 

 日が昇る前から起きて原稿を読み込んでいたランが、朝日が昇ったのを見計らって、窓辺から空を見上げて呟く。

 雨隠れの里の空は、いつもの如く分厚い雨雲に覆われていた。

 

 心配げな彼女に向かって、私は安心させるように口を開いた。

 

「大丈夫よラン。式典の直前には晴れる予定だから。雨雲は全部私の起爆札で吹き飛ばすから」

 

 大蛇丸の技術協力もあり、私は一時的にだが雨隠れから雨雲を取り除く(すべ)を得た。特殊な起爆札を使うことにより、雨雲を散らすことに成功したのだ。

 

 まだコストダウンできていないので費用がかかって常用はできないが、大事な式典などの際には使える術だ。

 

 今日は雨隠れの再出発の晴れ舞台だ。各国から代表団を招いて盛大な式典を行う。多少コストがかかっても、その術を使うに相応しい日である。

 

 この日のために用意した新術があるから心配ないと、私はランに胸を張って答えた。

 

「え、大丈夫なの? そんなことしたら小南ちゃん、前みたいにチャクラ切れて倒れちゃうんじゃ……」

 

 雨隠れを覆う雲は分厚い。その全てを一時的に吹き飛ばすとなれば、かなりのチャクラを消費すると考えるのが自然だ。上空まで大量の起爆札を運び、それを爆発させなければいけないから、普通に考えれば、膨大なチャクラが必要だ。

 

 普通の考えだとそうなるので、ランは私の肉体への負担を心配したようだった。普段から紙分身体を多用して激務を行っている上、そんな負担までかけられないと思ったのだろう。

 

 だが心配はない。肉体の全盛期を過ぎようとも、その分知恵はある。頭を働かせて効率的に動けばいいのだ。何の問題もない。

 

「安心して。ある人から効率的ないい方法を教わったのよ。教わったというか、勝手に術を盗んだんだけどね。だからチャクラの心配は必要ないわ」

「へえ凄いねその人。起爆札の扱いじゃ右に出る者のいない小南ちゃんに術を盗ませるほどの術を持っているなんてね」

「そうね。悔しいけどあの人は凄いわ。起爆札が起爆札を口寄せするなんて、普通考えつかないもの。天才の発想ね」

 

 起爆札が起爆札を口寄せする――互乗起爆札の術。

 その技術を利用することにより、上空まで起爆札を運んで爆発させるまでに消費するチャクラをかなり節約できる。

 この術の技術を使うことで、少ないチャクラで大量の起爆札を運んで爆発させることができ、分厚い雨雲を散らすことが可能になった。

 

 元々この術を開発した二代目火影は、雨雲を散らすためなんて生易しい使い方ではなく、穢土転生によって蘇らせた人間に起爆札を貼り付けて凶悪な無限爆弾兵器として使っていたようだ。

 人間一人の命と大量の起爆札さえあれば、それだけで一つの里を壊滅に追いやれる危険な術。卑劣な術の使い手として有名な二代目火影らしい術だろう。

 

 二代目火影は多くの外道の術を生み出したことから、木の葉以外では卑劣な悪魔のような男として扱われることが多い。

 そんな二代目火影であるが、これからの雨隠れの里では、悪魔ではなく天使として扱われることになりそうだ。

 

 なぜなら、彼は一時的にだが雨雲から人々を解放する救いの天使となるのだから。

 

「予行練習も兼ねて雨雲を散らしておきましょうか。朝の作業をしている人たちの助けにもなることだしね」

「うんうん見せてよ、小南ちゃんの新しい術。私、見てみたい!」

「ふふいいわ見せてあげる」

 

 ランにせがまれたこともあり、私は本番前のリハーサルも兼ねて新術を披露することにした。

 巻物を取り出し、そこから一体の人形を用意する。雨雲の中に起爆札を送り込むための傀儡だ。

 

「行きなさい二代目火影の人形。雨雲の中で自爆して、雨隠れを雨から救って頂戴。雨隠れの里に光を齎すのよ」

「了解した。ワシに任せておけ。雨隠れはワシが救ってみせる。ワシは雨隠れに光を齎す天使だ」

 

 天使の翼を広げた愛らしい見た目の二代目火影の人形(扉間ちゃん人形と後にランが名づけた)が、上空に舞い上がり、分厚い雨雲の中で爆発する。

 その爆発は連鎖し、何度も爆発を繰り返していく。爆発するごとに雨雲は晴れていく。

 

――ドォォオン。バゴォオオン。ドガァアアアン。

 

 これこそ忍術の平和利用だ。二代目火影も、自らが生み出した卑劣な術が平和利用されるのならば本望だろう。

 

「凄いね小南ちゃん! 本当に雨がやんだよ! 天才だよ!」

「ふふ褒めすぎよ」

 

 ランも術の出来具合に満足してくれたようで良かった。この調子なら本番でも問題ないだろう。

 

「この日のために術の練習はたっぷりとしたから安心して。本番でも抜かりはないわ」

「ああそれで最近ずっとお空が五月蝿かったんだね」

「ええ。術の練習にもなって雨も晴らせる。一石二鳥でしょ?」

「やっぱ頭いいね小南ちゃんって。美人で頼りになって、私――いや雨隠れにとってなくてはならない存在だよ!」

「そんなに褒めないの。照れるわ」

 

 ランと和やかに朝の会話を楽しむ。それから式典の準備のために本格的に働き出す。

 

「アジサイたち、追加の仕事よ」

「あっ、はい」

「貴方たちには苦労をかけるわね」

「いえ! お気遣いなく!」

 

 夜を徹して下働きをしていたアジサイたちに追加の指示を出して忙しなく働いていると、あっという間に時間が過ぎていく。

 

「ラン。そろそろ時間だけど、準備はいいかしら?」

「うん。あー、何か今更になって緊張してきたよ……」

 

 ランは本番を前にしてかなり緊張しているようだった。影の衣装を纏った彼女は頼もしくもあるが、その表情はどこか物憂げでもある。

 

「大丈夫よ。貴方は誰よりも強い。大丈夫」

 

 私はそんな彼女に寄り添い、不安を解消してあげる。

 

「ねえ、心細いから入場する時は小南ちゃんも一緒にお願い!」

「貴方のための式典なのよ。私は控え目にしているわ」

「お願い小南ちゃん、小南ちゃんがいないと私駄目なの!」

「もう仕方ないわね……」

 

 ランにお願いされて断りきれず、二人で入場することになった。

 

 私は後ろの方で控え目にしているつもりだったのだけれど、まあ仕方ない。護衛という名目なら付き添えるだろう。だからそうすることにした。

 

(ふふ、いつまでも子供みたいね)

 

 昔は彼女の無邪気さを憎んだ頃もあったが、今ではそんなことはない。

 

 こんな穏やかな気持ちであの子を見ていられるとは。そんな日が再び来るとは思わなかった。

 

「あ、晴れてるね」

「ええさっきも二代目の人形を使って雨雲を吹き飛ばしたから。しばらくは晴れ間が持つわ」

「扉間ちゃん人形に感謝だね。それじゃ行こっか」

 

 時間になり、ランが会場に向かう。それに寄り添うように私も付いていく。二人で花道を歩いていく。

 

「女神様ー! 女神様がいらっしゃったぞ!」

「雨隠れの女神様だ!」

「天使様のお姿もあるぞ!」

「ありがたやありがたや!」

 

 ランの入場と共に、観衆がどっと沸く。

 天性のカリスマを持ったランは今や雨隠れの象徴と言っても過言ではない。なくてはならない存在となっている。

 

 ランは熱狂する人々に笑顔で答えつつ壇上に上り、そこで徐にスピーチを始めた。

 

「皆様、本日はこの場にお集まりいただき、誠にありがとうございます」

 

 何千という聴衆を前に、ランは口上を述べていく。その口舌は滑らかだ。難しい言葉など到底喋れなかった昔とは違う。

 

 あの子のことを誰よりも昔から知っている私だからこそわかる。これまでに血の滲むような努力を重ねてここまでたどり着いたのだろう。

 

「かつてここ、雨隠れの里は戦乱の中心地でした。各里が覇権を争い、多くの人命が失われました。この地に住まう人々のみならず、大勢の方が亡くなりました。私自身、沢山の大切な人たちをこれまでに失ってきました。沢山の涙を流してきました。枯れ果てるほどの涙を流してきました。雨隠れは多くの雨に濡れてきました。悲しみの雨から逃げるように隠れて暮らす、ここ雨隠れはそのような里でした」

 

 実体験を伴うランの言葉だからこそ、その言葉は人々の心に真に迫るものとなり得る。聴衆はランの言葉に真摯に耳を傾ける。

 

「やむことのない雨に打たれ凍え、闇夜の深さに絶望し、何度打ちひしがれてきたことでしょうか」

 

 我々はこれまでに多くの屍を築き上げてきた。逃れられぬ不条理な世界の中で、家族、仲間、その他大勢の大事な人を失ってきた。

 奪われるだけでなく、時には奪ってもきた。敵とその仲間の命を奪ってきた。殺し殺される長い復讐の連鎖の中でもがき苦しみ続けてきた。

 雨隠れのみならず他の里とてそれは同じであろう。

 

 そんなランの迫真の演説に、聴衆は聞き入る。

 

「そのような地獄の苦しみの中において、我々は一つの希望を見つけました。先の大きな戦いの中において一つの希望を見つけ出しました。我々に与えられた力は互いを傷つけ合うための力ではないということを知りました。我々に与えられた力は支え合い、協力し合うための力だと、チャクラの真の意味を理解しました。土砂降りの雨の中で、我々はようやく希望の虹を見つけたのです」

 

 五大隠れ里を中心とした協力体制は戦後も続いている。それは長く続いた戦乱の歴史の中で初めて作り出せた確かな形あるものだ。長く続く忍びの世界において、やっと見つけ出した唯一の希望、虹の架け橋とも言うべきものだ。

 

 それを守っていかねばいけない。それを守るのが残された私たちの使命だと、ランは強く訴える。

 

「この虹の架け橋を築くため、柱となり散っていった者たちのためにも、我々はこれを未来永劫繋いでいかねばなりません」

 

 平和を愛して散っていった弥彦の思いを誰よりも強く受け継いだ彼女だからこそ、長門からも託された思いを受け継ぐ彼女だからこそ、その言葉は多くの者の心を揺さぶる。

 その小さな背中に、二人の確かな意志が宿っているのだ。

 

「火の赤、水の青、風の緑、土の橙、雷の黄色。様々な色により、虹は成り立ちます。ここにいる皆様方全ての協力なくして、虹は成立しません。どうか切に願います。この虹を守り育てることに、これからも協力していただきたい」

 

 殺されたから殺す、殺したから殺される。やむことのない復讐の連鎖のあの暗黒の時代に戻らないためにも、我々は協力し合わねばならないと、ランは訴える。

 

「奇しくも今日、雨隠れの里は新たな門出を迎えます。虹隠れの里として新たに生まれ変わります。悲しみの雨から逃れるようにして暮らすのではなく、皆様と見つけた虹を未来へと守り繋いでいくための、そんな素敵な里に変えていきたいと思います」

 

 虹影としての抱負をランは語る。その思いは雨隠れに住まう人々全ての思いを代弁するものだろう。

 

「虹影としてここに誓います。微力ながら、皆様と繋ぐ虹の架け橋を閉ざさぬように、不断の努力を惜しまぬことを誓います。かつて戦乱の中心地だったこの雨隠れの地から、この平和を保つ一大事業を始めていきたいと思います。何年先も、何十年先も、我々が旅立ったその先も、繋いでいきたい。この思いを、この平和を、この虹の架け橋を!」

 

 ランの演説が終わると同時、轟くような拍手が巻き起こる。

 

 かつて雨隠れで殺し合っていた里の者たちが手を取り合い、喜びと悲しみを分かち合っている。それは夢のようであるが、確かな現実だ。

 

 この光景だ。この光景を見るために私たちは今まで頑張ってきた。泥の中を駆けずり回り、血反吐を吐くような思いをしてきたのだ。

 

(弥彦、長門。貴方たちが命を賭けて目指したものがやっと形になったわ)

 

 やっと雨隠れを変えることができた。平和な雨隠れを作り出すことができた。幼き日に四人で誓ったあの約束を、ようやく果たすことができたのだ。

 

 だがここで終わりではない。これがスタート地点だ。ここから第二の旅路が始まる。

 

 弥彦が成し遂げたかったもの、長門が繋げたかったもの。それを未来へと繋いでいかねばならない。

 

(それはあまりにも長く険しい道ね……)

 

 強く賢く逞しくなったあの子だけれども、背負うその荷は重すぎる。

 

 影の名を拝したあの子はあまりにも大きな荷物を抱えている。一人で抱えるには大きすぎて、すぐに潰れてしまいそうな荷物を。

 

 そんな大荷物を抱えて、彼女はこれから果てしない旅路を歩まねばならないのだ。命尽きるその時まで。それは長く苦しい旅となるだろう。

 

 そんな彼女の重荷を分かち合い、少しでも楽にさせてあげたい。彼女の歩む果てしない道の露払いをしてあげたい。

 

 それがかつて過ちを犯した私の償いであり、私自身が心から願ってやまないことだ。

 

 自らの身も顧みず、私の心にかかった闇を振り払い、共に生きたいと言ってくれた愛しのあの子のため。私は残る私の全てを費やしてでも、彼女の助けとなり生きていきたい。この命尽きるまで。

 

(綺麗ね……)

 

 雨上がりの雨隠れの里はとても晴れやかで、晴れ渡った空には美しい虹がかかっている。この虹に、私も誓おう。

 

 ラン、いつまでも貴方の傍に。

 

――Fin.




24サブタイ、完結です(完結作者並みの感想)

ということで、ここで物語は終了です。

これまでお読みくださりありがとうございました。また、沢山の感想、お気に入り、評価、誤字報告等ありがとうございました。少しでも楽しんでいただけたのならば幸いです。

アイディアと時間ができたらまた書くこともあるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします。それではまたいつかノシ

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