光が収まるクラスから騒めきが生まれる
ざわざわと騒ぐクラスメイトとともに俺は桐ヶ谷さんがいることに少しだけ安心する
「大丈夫か?」
「う、うん」
「……ここは?転移結晶みたいな感じがしたんだけど、教室ではないつーか」
縦横十メートルもある大きな壁画にどこか白作りの光沢を使った建築物の中にいる
また、三十人近い人々が、まるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好でいるのだ
「まるで異世界みたいだな」
俺がポツリと呟く。でもどこか嫌な予感はしている
桐ヶ谷さんが軽く震えているので俺は軽く手を握ってやる。いつも悪口を言い合っているが大事な友達だ
すると一人の老人が前にでる。およそ80代くらいだろうか?覇気が強い老人が一歩前に出て説明し始めた
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
と薄気味悪い笑顔で俺たちを迎えた
「春馬君」
「ん?」
「あの、恥ずかしいから離してもらえないかなって」
「大丈夫なのか?」
「うん。ありがとう気を使ってもらっちゃって」
大広間に入ってからも俺は桐ヶ谷さんの手を握っていた。顔が少し赤いが震えは消えているので大丈夫だろう
俺は手を離すとそのまま桐ヶ谷さんの隣に座る。桐ヶ谷さんの隣には桐ヶ谷さんの友達が座っている
……レコンは巻き込まれなかったか
俺は一息安心する。俺の友達の一人だ
とある事件から仲良くなったのだが……運よく巻き込まれなかったらしい
全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
と説明し始めるイシュタルの話をまとめると
この世界は思った通り異世界で魔法と剣のファンタジーに似ている
そして人種は三つに別れており人間族、魔人族、亜人族に別れているがそのうち人間族と魔人族とは何百年も戦争が続いている
最初は人間族は数、魔人族は質で均衡を保っていたが魔人族が魔物の使役をできるようになってから数のアドバンテージが消え滅びの危機があるってことになったのだ
「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〞です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〞を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〞の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
イシュタルは説明をし始めるが俺はどこか違和感を覚えていた
明らかに情報が少なすぎるのだ。戦争になった理由、戦争の目的。正直いうなれば聞いた限りではなんで戦争をしているんだと突っ込みたい
それに戦争をするにしたって俺以外が戦争に参加できるのか考えれば、明らかにNoだろう
VRMMOが普及しているが人を殺すというのは明らかベクトルが違う
大事な人や自分を殺される恐怖
それが分かっているのか疑問に思わざるを得ない
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
すると一人が立ち上がる。よく生徒と間違えられるが社会科担当の畑山先生だ。よく愛ちゃんって呼ばれている
多分だけど畑山先生は戦争の意味を分かっているのだ。だからこうやって止めようとしている
でも恐らくそう簡単にはいかないだろう
「お気持ちはお察しします。しかし......あなた方の帰還は現状では不可能です」
場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタル
を見やる
「ふ、不可能って......ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
「SAO事件と同じだよ。元々還すつもりがないんだ」
俺はそう告げるとクラスメイトが俺の方に視点を向ける
「どういうことですか?」
「例えば戻る方法があったとしよう。でも自分の世界が危機ならば相手は俺たちの事情を知ったこっちゃないだろ?自分たちが生き残るために俺たちを呼び出したんだ。それで還す方法を知っておいたなら先生は教えるか?」
「……それは」
「教えないだろ?まぁそれが当たり前だろうよ。というよりもそんな簡単なことならSAO事件だって起こるはずがなかったんだからな」
俺は言い切るとクラスメイトは黙ってしまう
実際理解したくないと思いながらも正論に座り込んでしまう
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで......」
うん。いい調子だ。戦争について反対的な意見を出すことで数名が犠牲になれば戦争に参加しないでいい人も出てくるはず
俺は少し微笑む。上手くいけば戦争に参加させないようにすることも可能だ
まぁそんな簡単に行くはずもないのだけど最低でも戦争に行きたくないと抱かせればそれだけで十分だ
未だパニックが収まらない中、立ち上がりテーブルをバンッと叩く音が聞こえる。その音にビクッとなり注目する生徒達。叩いたのは天之河というトップカーストの一人で俺が来るまで県内では負け知らずの男子生徒だったはずだ。天之河全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始める
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない……イシュタルさん?どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
俺は舌打ちをしてしまう
本当に苛つくんだよ。その甘ったるい思考
戦争の意味を戦うという意味を理解しているのか
『生きて!!キング!!』
俺のパーティーメンバーが死んだ時を思い出す
転移結晶で俺が強制的に転移を強要されたとき、俺は無力感に襲われた
遠くで仲間が死んでいるにも関わらず俺だけは生き残って
殺したかった。でも殺す勇気も力もなかった
だから俺は頼むしかなかったのだ。ギルドハウスも、プレイヤーハウスも売りその時オークションに出ていた回廊結晶を購入し、最前線で土下座をし続けた
情けなくとも何度も無視し続けられたけど夕刻になって一人のプレイヤーが話しかけてくれた
でも、一人の先輩が助けてくれたんだ
俺は英雄ではない。ヒーローでもない
だからこそ逃げない
「俺は反対だな」
俺の言葉と同時に立ち上がるとクラス中から俺は関係がない
「…力があるからこそ人を救わないといけないなんて間違えているだろ?人を殺したこともない人間が戦争に参加しても意味ないよ。どうせ殺す前に立ち竦んで死ぬだけか、自暴自棄になって死ぬ恐怖でその後後遺症に悩まされるだけだ。壊れて、怯えて本質も何もできない俺たちに何ができるんだ?」
「…なっそれならこの世界の人たちがどうなってもいいっていうのか!!」
「あぁ。どうだっていいね」
俺の言葉に全員が絶句したようにしている。だって本当にどうでもいいし
「言っとくけど俺らは拉致られた状況だぞそんな簡単な話じゃない。自分たちの安全も、報酬も何も言われてないのに勝手に世界を救えとか身勝手すぎるだろ」
「…そ、そうですよ!!」
畑山先生はどうやらこっち側らしい。俺は少しだけ使えるかもなと内心微笑みながら
「それに人の命も殺したことのないてめぇらが戦争に行っても役立たずなんだよ。殺すという意味をちゃんと理解してるか?戦争って意味を理解しているのか?……これはゲームなんかじゃない現実なんだ」
「そんなの分かっている。でも俺は困っている人を見捨てることはできない」
俺は呆れてしまう。本当に分かっているのかツッコミたくなるがもう言っても無駄だと判断するしかないだろう
「あっそ。俺は戦争に参加しないから」
失ってからじゃ遅いのだ。もう会えることもない友達を失うことなんて
そんな険悪な雰囲気の中最初の会合は終わりを迎えるのであった
ユウキについて
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ユウキ救済ルート(主人公のヒロイン)
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ユウキ救済ルート
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