CEFALÓPODOS -セファロポドス-   作:夜泣かし村

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4.保護者

 柳岡総合病院での受付事務は、想像の百倍くらい──暇だった。

 元々柳岡会というのがヤーさんのソレで、だから入ってくる患者も限られる。んだと思う。

 一般の患者にしては……という人をよく見かけるし、緊急で運び込まれてくる人も後を絶たない。緊急で来ると受付通らないんだよね。こっちの一般受付は。だから、割合暇。

 とはいえゼロじゃないし、たまに来る人は面倒そうな書類だとか難しそうな話をしこたまこさえてくるものだから、勉強は欠かせない。

 実は僕、これが初仕事なんだよね。だって前の世界では大学生。今生では気付いた時には専業主婦だったから、社会人としての仕事はこれが初。アルバイトはしてたけど。

 

 千代ちゃんからの紹介ってのもあって、気合も入ろうというものである。

 

「……ところでさ」

「はい?」

「その火傷、どうしたのよ」

「ああちょっと爆発に巻き込まれかけまして」

 

 酒の匂いだ。それもどぎついレベルの。

 振り向けば、そこには藤浪ユリアさんの姿が。この人客員医師だから、そんないつもいるもんじゃないと思うんだけどな。

 

「爆発、ね」

「最近多いですよね、爆発」

「……」

 

 実際、最近多いのだ。爆発……爆弾などの爆発物による事件。

 正確に言うとあらゆる手法での事件が多くなっている、が正しいか。二年前から……原作曰く、紅守黒湖がこの町に現れてから、だっけ。

 

「気を付けなよ、あんた。よわっちぃんだから」

「ありがとうございます」

 

 何かしらの含みがあったけど。

 ユリアさんはそのまま、ふらふらとした足取りで病院の奥の方へと歩いていった。

 

 よわっちくても、死ななければ治してくれるって意味でいいのかな?

 

 

CEFALOPODOS

 

 

 私立まりも學園中等部から、僕の娘こと小高井愛美への寄せ書きが送られてきた。

 ううん。複雑。

 僕自身、もう完全に割り切っている。いや勿論嬉しい事は嬉しいけど、()()()()()()()()()()()()()()という思いも強い。

 転生、などというものを経験したからか、魂やら幽霊やらを信じるようになった。なったから、思う。

 ずっと思われ続けると、ずっと未練を覚えられると──消えられない。

 それはあるいは、宮本玄乃のように。

 

 天国という物は存在しないと考えている。人が死んだら、そのまま消える。世界に溶ける。だから、覚えていてくれるのは嬉しいけど、こうして死後に新しく未練を覚えるようなものを作られると、溶ける事が出来なくてこびりついて、なんだか悪いものになってしまう……みたいに思う。

 お別れは言葉だけでいい。

 思い出の品なんか、亡霊でしかないから。

 

「ん、電話?」

 

 自動食洗器君がもうすぐ終わりなので、その前で待機していた矢先。

 カウンターテーブルに置いてあったスマホがヴヴヴとバイブ音を鳴らした。

 

 出る。

 

「はい、小高井ですが」

 ──"あ、金枝さん。ちょっと相談があるんだけどサー"

「うん、僕で良ければ」

 ──"あッは、話が早い。ちょっと子守をお願いしたくてね"

「子守?」

 

 この時点で察しはついていたけれど。

 

 ──"ちょっとテケリリランドに中学生と小学生送り込まなきゃいけないから、その保護者をね"

「了解。どこ行けばいい?」

 ──"場所は指定するよん"

 

 こうして、僕の休日の予定が決まった次第である。

 しかし、ちょっと酷だよね。一応とはいえ娘失った未亡人にさせることにしては。まぁ割り切ってるって知ってるからなんだろうけど。

 

 

 

 で。

 

「よろしくお願いしまーっす!」

「お願いします!!」

「お、お願いします……」

「……」

「うん、よろしくね」

 

 元気も元気な碧八葉ちゃんと、それに追従する屠桜ひな子……ちゃん。若干びくびくしている水沢浮菜ちゃんと、そして。

 

「やっぱり知らない大人は無理なんじゃ」

「だいじょーぶダイジョーブ」

 

 ひしと。

 紅守黒湖と僕から隠れるよう、あるいは屠桜ひな子を盾のように扱っている小学生。

 浅葱凛子ちゃんの、計4名。

 

「金枝さん、凛子ちゃんはまだ小学生だから、目を離さないでね」

「了解。それじゃ、いこっか」

「おー!」

 

 掛け声と共に。

 僕達は、テケリリランドへと出発した。

 

 

CEFALOPODOS

 

 

 流々家テケリリランド。

 流々家町にある遊園地で、マスコットキャラクターは「しょごたん」。ペンギン圧し潰しそう。1d6/1d20減りそう。

 とかくこのマスコットキャラクター、僕の感性からしてもちゃんと気持ち悪いのだが、何故か子供たちに人気である。今回連れてきた屠桜ひな子を始めとする中学生組にも、その辺を歩く少年少女たちにもわらわらと群がられては「テケリ・リ」と奇妙な声を発している。

 ぶっちゃけ成人男性が入っているにしては背が低すぎるし、動き方も人間の演技というよりは軟体動物のそれそのもの過ぎるんだけど、一体中身はどうなっているのか気になって仕方がない。とはいえ子供たちの夢を壊すなんてことも僕には出来ないので、うん、しょごたんは存在するんだ、ってことにしておく。

 

「ああ、ひな子ちゃん」

「なんですか!」

「しょごたん殴ったらダメだからね」

「……」

「え、なんでそれで落ち込んでんだひな子。もしかして殴るつもりだったのか?」

「……わかった」

 

 原作では特になんともなかったけれど、キャストへの暴力行為は普通に出禁レベルのソレだ。子供のしたこと、では済まされないレベルの身体能力を持つ屠桜ひな子のボディブロー。ワンチャン労災クラス。

 あるいは原作においては中学生以下四人だったから許されていたのかもしれないそれを、僕という保護者がいることでやいのやいの言われる可能性がある。あらかじめ自衛、大事。

 

「さて、何乗りたい? なんでも乗れるよ。このチケット、一日限定のオールパスみたいだからさ」

「じゃあ、かんらんしゃ……」

「気ぃ落としすぎだろひな子ー」

「凛子ちゃんは何かある?」

「あ……私、遊園地初めてだから」

「わかんないか。んじゃ観覧車行こう」

 

 凛子ちゃんの手を取る。一瞬の硬直を感じたけれど、引っ張らずに待てば、凛子ちゃんは自ら歩き出してくれた。

 どこか心配そうにこちらを窺っていた八葉ちゃんもそれにはニッコリ。僕にも笑いかけて、ああ、この子は本当に良い子なんだなぁ、というのを思い知らせてくれる。

 

「浮菜ちゃんもそれでいい?」

「あ、はい。大丈夫です」

 

 小高井金枝となってからの三年間、テケリリランドには何度か家族で来た。園内マップは脳内に入っている。あの時はまぁ、愛美が先導して走り回っていたから、僕も夫もついていくのでやっとだったけど。

 懐かしい思い出だ。あの時も確かオールパスだった。あれも児童誘拐のお金で買ったのかと思うと反吐が出るけど。

 

 

 観覧車に到着も、一つ問題が発生した。

 

「4人までかぁ」

 

 ゴンドラが四人乗りだったのだ。いやまぁ普通はそうだよね。基本は。

 

「僕はここで待ってるから、みんなで乗って来なよ」

「すみません、ありがとうございます」

 

 当然こうなる。

 いや大人な僕が我先にと乗りたい乗りたい言うわけにもいかない。実際別に乗らなくていいし。乗ったことあるし。況してやメンバーを2:3に分けてもらって、みたいなのも無理がある。僕はあくまで保護者なのだから、今日の主役たる彼女らに楽しんでもらうのが先決だ。

 

 行ってらっしゃい、と、四人を見送る。

 

 見送った所で携帯が鳴った。

 

「はい、小高井です」

 ──"突然の電話、失礼いたします。警視庁捜査零課巡査、君原茶々と申します。小高井金枝さんの携帯で合っていますか?"

「そうですけど……警察の方が何用でしょうか」

 ──"現在貴女は浅葱凛子ちゃんと共に行動していますね?"

「……」

 ──"貴女方が浅葱凛子ちゃんを保護している、という事実は理解しています。ですので、こちらからのお願いはただ一つ、その場を動かないでください。私達が到着するまで、どうにか時間を稼いでください"

「アトラクションで遊んでいるのは問題ありませんか?」

 ──"はい。テケリリランドを出ない事、そして浅葱凛子ちゃんから目を離さない事を徹底していただけるのなら"

「わかりました」

 

 ぷち、と。

 通話を切る。

 

 4人を乗せたゴンドラは今丁度天頂……その右側、つまり前列のゴンドラに、3人家族が乗っているのが見える。

 

 あれ、危ないな。

 

 ……しかし、なんで僕のケー番知られてたんだろ。紅守黒湖が教えた、とか? そんな甲斐性あるかなあの人に。

 多分屠桜ひな子が要求を断ったから来た電話なんだろうけど……。

 あ、いや、一応僕って集団児童誘拐事件の容疑者ではあったわけか。夫の妻として。その時にケー番押さえられたのかな。疑いは晴れたとはいえ、記録として。

 

 さて、次に行くアトラクションは、くるくるくとぅるぷだっけ。クトゥルーっぽい見た目のコーヒーカップ。その次がふかきものどものライド……経路しっかり考えて時短時短。

 

「お待たせしましたー!」

「あ、おかえりー」

 

 考え事をしているとあっという間に時間が過ぎる。

 帰ってきたらしい彼女らの、特に屠桜ひな子の機嫌は十二分に戻っているようで、これまた安心。怖いからね、この子。

 

「次はくるくるくとぅるぷです!」

「りょーかい」

 

 凛子ちゃんを見る。

 ああ、もう、我慢出来そうにない。

 

 ……どうしたものかなぁ。これ。

 止めるべきか──見逃す、見殺すべきか。

 

 

CEFALOPODOS

 

 

「はい」

「……!」

 

 割合非情な僕だけど、色々考えて、止めるべきだと判断した。

 戸隠のえるちゃんのお父さん。この人がどんな人物なのかは知らないけれど、()()()()()()()()()()のは間違いない。未来において凛子ちゃんとのえるちゃんの間に発生する百合百合な感情は、その障害があったからより輝くものとなったとはいえ、無くても美しいものに変わりはない。

 だから、死ななくても問題がない。

 

「ダメだよ凛子ちゃん。女の子はこっち」

「……」

 

 男子トイレに入ろうとしていた凛子ちゃんを止める。兎のぬいぐるみの首を掻っ捌いてつくられたウサギマスクは、物凄く怖い印象を与える。可愛らしくて怖い。ムルシエラゴのシリアルキラーの中でもずば抜けて年齢の低い彼女は、ちゃんと化け物の部類だ。

 耐久性能こそ低いが、アジリティーがやばすぎる。あと高周波ブレードじゃないただの刃物の内から人間の骨を断てる筋力もやばい。

 

 だから、不意を突いて、腕を振れないように二の腕を抑えての拘束。

 

「ああ、そっちもダメだよ。兎の内布に縫い付けたホルダーに入ってる刃物も、取らせはしない」

「……」

 

 二の腕を抑えつけられてても、腕を捻れば背面には届く。

 それを利用して刃物を取ろうとしたみたいだけど、今度は下膊まで掴む事で対処。

 

 よし、このまま──。

 

「づッ!?」

 

 鈍痛。どうやら脛を思い切り蹴られたらしい。

 自身の身体の何倍もの跳躍が可能な凛子ちゃんの脚力は、十二分に骨に響く。

 

 まずい、拘束が緩む──。

 

「──!」

 

 前に、自ら手を離し、バックステップを取った。

 通り抜ける刃。あぶね。

 

 ああ、両手に刃物を持ってしまった。こうなったらもう止められないぞ。

 タイミングの悪い事に、後ろから用を足し終えたのえるちゃんパパが出てきて来ているのも頂けない。

 

 これはヘイトがそっちに……。

 

「おっと」

 

 もう一歩下がる。今度は首を狙った斬撃。

 ありゃ、こっちなんだ。邪魔者としてしっかり認識されてる?

 

 うーんこれは、余計な手だしだったかなぁ。でもモトクロスバイクで頸椎バキボキにされるの黙って見過ごせってのもなぁ。

 

「殺すの、楽しい?」

「ッ」

「ああいや、顔剥ぐの楽しい?」

 

 避ける。躱す。凛子ちゃんの高速の斬撃は、その悉くが空を切る。文字通り、だ。

 ただ僕から何をする、という事は無い。何もできない、が正しいか。いつぞやの空き巣のように健を切る事も考えたけど、もうすぐで警察が到着するってのが悩み所。これ正当防衛になりますかね。

 

「危ない危な──い゛!?」

 

 考え事をしながら幸運の気配の通りに避けていたら、埒外の痛みが肩口を襲った。

 見れば、ぱっくりとそこが裂けている。滲み出る血と傷跡から斬られたのだ、という事を察した。

 あ、これやばいね。紅守黒湖と同じく、()()()()じゃどうにもならない域にまで達したのかもしれない。それほど、凛子ちゃんの中の殺人衝動は高まっちゃってるのか。まぁ僕が進行形でお預け喰らわせてるわけだしね。

 

 ううん、痛いな。

 流石に仕方ない。今までは怪我をしてなかったから正当防衛足り得るかわかんなかったけど、こうして目に見えた被害があるのなら、小学生女児の手首の健を切るくらいは許されるだろう。

 

「さーてあとちょっと家族サービスするかぁ~!」

「ッ!」

 

 のえるちゃんパパが出てくる。

 流石に殺害対象、気が逸れた。

 

 踏み込んでその手頸を──。

 

 あ、だめだ。

 

「……そこの人、今撮影中なので、ちょっとはけてもらえるとありがたいです」

「え? あ、血……さ、撮影中?」

「ここら一帯はスタッフが封鎖してたはずなんですけどね」

「あー……す、すみません」

 

 踏み込んだら死ぬな、という感覚があった。

 あのチンピラ空き巣とはわけが違う。僕程度のスピードだと、間合いに入った瞬間に死ぬ。

 出血量も馬鹿にならない。少しでも知識があれば、その匂いやむき出しになった肉が本物である事には気付けたのだろうけど、一般人で良かった、という所感。

 そそくさと逃げるのえるちゃんパパ。それを追おうとする凛子ちゃんに、もう一度踏み込む……フリをする。

 

 ううん、瞼が重くなってきたぞう。

 

「小高井さん!」

「……ッ」

 

 右方、後方。そこから先ほどの電話の声が聞こえてくる。 

 見るからに焦った様子の彼女に、けれど振り向くことはできない。

 

 チャキ、と。

 鉄製の何かを構える音がした。

 

 踏み込む。

 

「ダメです、小高井さ」

「──!」

 

 刃物が振り下ろされる。確実に僕の腕を切り落とすルート。それは多分、避けられない。

 だからそのまま突っ込んで──出血過多により、ふらつき、前方へと崩れ落ちる。

 

 最も力の入るポイントで接触するはずだった刃物は振り切った後に僕の腕にぶつかり、決して浅くはないけれど、断ち切るには至らない傷をつけるに終わる。

 そのふらついた姿勢のまま、仰向けにまで回転して──斬られた方の手で彼女の両手首を凪いだ。

 反対の腕は身体を支えるために地面に着いていて、なんならちょっと不味い方向に曲がってしまっていたから。

 

 仰向けの状態じゃ態勢なんて整えられない。僕はそのまま地面へ倒れ込み──。

 

「ぁ」

 

 ポロり、と凛子ちゃんの手から零れ落ちた刃物二丁が、僕の胸へと。

 

「イッ、てぇ……ッ!」

 

 落ちなかった。

 強面の、あるいはイケメンの刑事さんが、その刃を両手で掴み取ったからだ。

 持ち手を、なんて狙っている暇がなかったのか、刃の部分を思い切り掴んでいる。噴き出る血。

 

「……ないすきゃっち」

 

 意識が混濁する。よわっちぃ。成程確かにそうだ。

 ムルシエラゴの登場人物なら、この程度の出血量で失神したりはしないのだろう。僕はバンピーなんで簡単に堕ちますけど。

 

「あとは、よろ、」

 

 初めまして、御剣さん、ちゃっちゃん。そしておやすみ。

 

 

CEFALOPODOS

 

 

 目が覚めた。

 

「おはよう」

「あ、はい。おはようございます。ユリアさん」

「あんた、出勤以外で来すぎ」

「まだ二回目ですよ」

 

 病院服の胸元を引っ張って、中を見る。

 おお。すごい。縫合痕がない。どういう医術だよ。

 

「痛みはある?」

「多少は」

「まだ神経が癒えきってないか。それじゃ、もうちょい入院ね」

「はぁい」

 

 けれど斬られた直後の痛みに比べれば、なんてことはないほどにまで回復している。どんだけ凄腕なんだこの人。僕、肩口から胸までざっくり切られてたはずなんだけど。あと腕も骨が見えるくらいまで行ってたんだけど。

 

「凛子ちゃんは?」

「あっちは軽傷。しばらく何かを握るのに苦労はするだろうけど、問題ないよ」

「良かったです」

「切り口があんまりにも綺麗だったからね。あんた、暗殺でもやってたの?」

「まさか。一般未亡人ですよ、僕は」

「そ。ま、いーけど。ちゃんと安静にしときなよ」

「はぁい」

 

 言って。

 病室を出て行くユリアさん。なんかめっちゃ気にかけてくれるけど、もしかして僕に気があるんだろうか。

 ……いや無いでしょ。普通に何度も入院してくる面倒な患者だからでしょ。

 

 ふぅ。

 ぽふ、と、起き上がっていた身体を枕へと預け直す。

 

 僕ってばこんなにも人助けをするタイプだったかなぁ、という思いが強い。

 多分今回の件で、死ぬ運命にあった二人を救った。まぁ人を救いたくて救ったというよりは、死ななくても問題なかったから殺させなかった、が正しいんだけど。死ぬ必要がある奴なら喜んで見殺しにする所存。あと僕の敵になる奴とかね。コバちゃんね。

 

 なんにせよ一件落着──。

 

 となれば、どんなに良かったか。

 

 

「……ごめん、なさい」

「あ、うん。大丈夫だよ、僕生きてるし」

 

 凛子ちゃん。浅葱凛子ちゃんが、僕の病室に来ている。

 彼女の父親である浅葱尊は、20年前、仮面蒐集家というシリアルキラーだった。本名を浅田俊幸。元国会議員である浅田元議員の息子。

 彼は「人間は仮面を被っている。その仮面の下を見てみたかった」という思想の元幾人もの女性を殺し、その顔の皮を剥いではコレクションしていたという。まぁ絵にかいたような異常者だ。

 精神がアレであると判断され、医療刑務所へ。医療刑務所を出た後に名前を浅葱尊に改名、以後浅葱電子という会社を設立し、今や大企業の社長、なわけだけど。まぁもう殺されちゃったんだけど。

 

 それで、凛子ちゃんは見てしまったのだ。

 お父さんの蒐集品と、彼がヒトゴロシをする記録映像を。

 そしてその思想や才能は、まるで亡霊のように彼女に憑りついた。

 

「大丈夫大丈夫。僕は死なないよ。娘が死んでも、夫が死んでも、僕は死ななかったし」

「……」

「僕の方も、手ぇ切っちゃってごめんね。不便でしょそれ」

「いえ……」

 

 父親と違って凛子ちゃんはもう誰でも良い。殺し、顔を剥げれば男女や年齢は関係ない。

 完全にして完璧なシリアルキラーだ。その卓越した技術も、運動能力も、野放しにすれば伝説的な殺人鬼になれるだろう。

 

 親権を貰った紅守黒湖がそうはさせない、んだろうけど。

 

「今度またテケリリランド行こうね。次は紅守さんも一緒に。そうすればほら、()()()でしょ?」

「……」

「ん、今のはデリカシー無かったかな。ごめんごめん」

 

 紅守黒湖がいれば、僕の保護なんて必要ないか。

 でも実際、殺人衝動の雑念でちゃんとは楽しめなかっただろうから、連れて行ってあげたい所存。紅守黒湖が彼女の欲求を満たすための獲物を用意してくれるだろうし、欲求が解消できている間は、年相応の遊びで楽しめるだろうから。

 あるいは冷泉さんにでも連れて行ってもらったらいいんだけどね。

 

「ごめんなさい……失礼します」

「あ、うん」

 

 最後に一つ謝って。

 凛子ちゃんは出ていってしまった。

 

 これ、あれかな。あまりにもデリカシー無い発言で傷つけた説あるな。

 自分の所業をトラウマのように思っている子に対して、次そうなっても止めてくれるよ、って……あ、だめだねこれ。大丈夫、もうそうならないよ、くらいは言わないと。

 母親歴たったの三年が出たなー。大学生の僕に小学生の心のケアはキツイよー。

 

 というか。

 

「なんで一人で出歩かせてるんだ……保護者isどこ。あ僕か?」

 

 僕か?

 

 

CEFALOPODOS


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