CEFALÓPODOS -セファロポドス-   作:夜泣かし村

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時系列の歪み


6.天敵

 さて、僕は今、なんと。

 

 流々家警察で取り調べを受けている──。

 

 

 

 唐突すぎる出だしは僕とて不本意だ。

 無論というか勿論というか、何も僕が罪を犯したとかそういうことじゃない。だから取り調べという言葉もよくなかったかもしれない。間違ったニュアンスを植え付けてしまっただろうから。

 僕が今ここにいるのは、第一発見者としての事情聴取、が正しい。

 

 流々家町三丁目。そのとあるビルの下。

 そこで死んでいた船井豊華──だから、遺体の第一発見者になる。

 すでに監察医によって死因やら何やら諸々の証拠が出ていて、だから「どう頑張っても僕には殺せない」というのがわかっている上での事情聴取だ。犯人は子供の首を両手で縊れるような大柄な人物。手のひらだけで30cmもある時点で人間かどうか怪しい気もするんだけど、まぁ世の中にはたくさん人がいるということで。

 

 そう、空と僕のあいだに、の(原作における)第一の被害者。その発見者兼通報者になったわけである。

 

「同様の事件を知っている、と……」

「はい」

 

 では、僕ではないとわかって、犯人の特徴もこれだけはっきりしているのになぜ僕がここにいるのか。

 それは僕の方から刑事さんたちを引き留めたから、だ。具体的にはちゃっちゃんを。ちゃっちゃんは巡査なのでこういうことはしないのだけど、しおらしい様子で「お話が……あるんです……」なんて言えばちゃっちゃんは甘いので来てくれる。

 

 空と僕のあいだに。

 老人鍵村昭一による少女誘拐連続殺人事件。すでに理性らしい理性を失っている彼は、己の思い込みと勘違いだけで最終的に47人もの少女の命を奪う。

 船井豊華は46人目。次に沢田希良々と来て、じゃあその次は、となるところで紅守黒湖に阻止されるわけだけど。

 

 いやぁ、これも死ななくても問題ない命だよね。

 果たして、鍵村昭一の中にまたマイクロチップが埋め込まれているとしても、だ。

 

「3年前から続いている少女誘拐事件。私はその……隣町の瀬良榎について、少し調べたことがあって。ほかにも隣の県で似たような事件が起こっています」

「……そこまで調べているとなると、何か心当たりが?」

「一度、あったんです。愛美……私の娘が、大柄な老人に攫われそうになっているところに割って入ったことが」

「本当ですか!?」

 

 100%真っ赤なウソだ。

 僕にそんな記憶はない。が、3年前であれば愛美も小学生で、年齢も9歳と合致する部分がある。

 なんなら今回の被害者になりかけている北上空ちゃんと同い年か、あるいは少し上。それでもって、空ちゃんの母親たる北上ひばりは僕とほとんど同一の立場にあるといっていいだろう。

 同情とかは一切ないんだけどね。

 たったそれだけの理由があれば、警察に助言をするくらいの行動力にはなるって話。

 

「その老人の顔などは覚えていますか?」

「はい。記憶に強く残っているので、スケッチブックなどあれば……」

「ではこれにお願いします」

 

 防げる事件だ。

 ……いや、死ぬ人数を47から46に減らせる程度の働きだけど、それでも……と思える。多分。

 

「ありがとうございます。ちなみに、ほかに覚えていることはありますか?」

「はい。強い鉄の匂いがしていたのを覚えています。喉が焼けるような……製鉄所とか鉄工所みたいなところで嗅ぐにおい。また娘が誘拐されそうになった時の服装は青い長靴、黄色い合羽、同じく黄色い傘で……」

「ふむふむ」

 

 ちょっと話しすぎかな、とか思う部分もあるけれど。

 沢田希良々の誘拐場所がわからない以上、早期解決を望むに越したことはない。

 子供にとっては誘拐されたことだけでも心的ストレスが大きいだろうし、泣けば喚けば殺される、なんて子供に理解できるものでもなし。

 なんならもう直で鍵村鉄工所に案内したいんだけど、さすがにそれは僕の身が危うすぎるのでナシ。

 

「──情報提供ありがとうございました。とても助かりました」

「いえ……私の時は運よく防げましたけど、もしも間に合わなかったらと思うと……」

「……大丈夫です。これ以上被害者は出しませんから」

「はい。お願いします」

 

 まぁ、これくらいが限界だろう。

 さーて後は家に帰ってゆっくりと、なんて。

 

 ……そこまで悠長だったら、僕は千代ちゃんを助けに行ってなかったんじゃないかな。

 

 

CEFALOPODOS

 

 

 だからまぁ、やってきました鍵村鉄工所。

 

「一人で来るべきではなかった──というのはまぁ、今更だけどね」

「それはホントにそうだよ~ん」

「わお」

 

 背後から抱きしめられる。

 雨降ってるんだけどな。今どうやって傘持ってるのかな。

 

「黒……紅守さん」

「あれぇ? なんで呼び方苗字に戻っちゃったの?」

「この前は千代ちゃんといる時の癖で黒湖さん呼びしちゃってたけど、僕たちそこまで仲良くないかなって思って」

「ひどい」

「あはは、冗談だよ。それで、黒湖さん。今日はどうしてこんなところに?」

 

 蜘蛛か死神か。

 とかく巨大ながしゃどくろに心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われながら、フツーに話す。

 僕はこっそりひっそり一人で来たつもりだったんだけど、どうやら尾行けられていたらしい。

 

「それはにぇ~」

「……申し訳ありません、小高井さん。ご協力いただいたにもかかわらず……」

「君原さん? に……御剣さんと、強面の警察の人」

「……コイツか、御剣サン」

「警部、さっき槍玉には上げましたが、今回の件と小高井さんは本当に無関係で──」

 

 知らねえ知らねえ、とばかりに、紅守黒湖から引き剝がされ──胸倉をぐい、とつかまれ、詰められる。積極的だねおじさん。僕未亡人だよ?

 

「どういうつもりだ、お前」

「まず、今の状況を説明してくれると助か、」

「犯人を知ってる。犯人がどこにいるのかもわかってる。だが、それを言わずに情報を小出しにして警察が躍るのを眺める。悪趣味極まりねぇやつだと思えば、単身犯人のもとに突っ込もうとする。やってることがちぐはぐ過ぎる。何がしたいんだテメェは」

 

 ありゃ。

 ……あー、そっか。出し過ぎたか。

 というか僕ダメだね、警察に嘘を吐き通せると思ったのが間違いか。

 

 いつから怪しまれていたのかはわからないけれど、犯人と犯人の所在のみを隠して他を洗いざらい吐く僕は、流石に怪しすぎたみたいだ。

 警視庁捜査第一課、警視庁捜査零課、さらには紅守黒湖を引き連れての大追跡。

 容疑者は小高井金枝。少し前に児童誘拐事件で夫と娘を失った──事件とは一切関係ないと判断された女性。でも、そうだよね。

 これも児童誘拐事件だったか。関連性というか、そういえば、で槍玉にあげられてもおかしくなかったな。

 

「凶悪犯罪を未然に防ぎたい、と思うのはダメな心でしょうか」

「あぁ?」

「夫があんなことをして、娘が死んで──同じ立場の人間をこれ以上増やしたくないという罪悪感は、持ってはいけないものでしょうか、と」

「……それが、警察に対して情報を絞るのとどう繋がる」

「私が推理だけでここに辿り着いた、なんて言っても信じないでしょう、ケーサツさんは」

 

 推理じゃないし。

 でもゼロからここに辿り着くには、推理というしかないし。

 

「アハ、金枝さんにとっては警察は無能だった──それだけじゃない?」

「というより、僕の信用度がゼロなのを知っていたから、かな。ほら、少し前のことだけどさ、テケリリランドにいた僕に、警察……君原さんから電話がかかってきたことがあったんだよ。いつの間にか僕の番号が知られていた。それはやっぱり、夫の関係者として番号が抑えられていた、ってそういうことだよね」

 

 紅守黒湖のフォローに合わせての口八丁だ。僕の信用度とか警察に対する期待とか、そういうのは一切考えていない。

 たった一人を救ってみたい、なんてエゴにすらなっていないものを実行するために来たんだ。

 そしてそれは、今現在、刻一刻とタイムオーバーに近づいている。

 

「……チッ。もういい。それで、ホシはこの中にいるんだな?」

「多分、ですけど。今いるかはともかく、ここに証拠があることは間違いないと思います。そしてもし中に犯人がいるとしたら、誘拐された子も一緒にいる可能性が高い」

「人質になる可能性がある、か」

「激高した犯人に殺される可能性も高いかと」

 

 だから僕だったんだ。

 まぁ、千代ちゃんや殺人Partyでは「自ら幸運を引き寄せられるわけではない」なんて言った手前ちょっとばかし心苦しいんだけど、実は生存における事柄についてはその限りではない。それはたとえばバイクのロックを外す暗証番号だとか、ピッキングだとか。

 実は能動的な行動で幸福をつかんでいるケースがそこそこ存在している。

 

 そしてそれは、自ら死地に飛び込むことで真価を発揮する。

 ……無論、見極めは必要だ。その死地が、幸運程度では覆せない悪意の場ではないか、という見極めが。

 

 鍵村昭一はその階位にないと僕は判断している。

 

「ちなみに金枝さん、作戦はあったの?」

「うん。ほら」

 

 ほら、といって、服を見せる。

 黄色い服。青い靴。傘も黄色。

 

「……もしかしてだけど、子供のフリをしよう、とか?」

「三年前の時点でそこそこ老人だったからね。今はもっとの可能性が高い。それで、これだけの数を見間違いで殺しているんだから、目は悪いでしょ。僕はそこそこ背が低い方だから、ワンチャン?」

 

 ぐ、と。

 肩を掴まれる。

 

「ツルたんツルたん」

「ああ、わかってる。君原、行くぞ」

「向島、オレ達も行くぞ」

 

 おかしい。

 とてもやさしく掴まれているのに、びくともしない。

 その間に警察方々が鉄工所に張り付いて行く。

 

「ねぇ、金枝さん」

「なにかな、黒湖さん」

「今の、狙ったの?」

「……えーっと、どれのこと?」

「アハ。ううん、なんでもナーイ」

 

 そのまま、ずずい、ずずいと引きずられていく。

 おかしい、本当に肩に力は入っていない。痛みはない。だというのに体が動いていく。

 

「あーっと、まだ事件は」

「もう解決したよ。ちょっとツルたん達をなめすぎ。あれだけいれば、流石の警察もだいじょびだいじょび。それよりさ、金枝さん」

「……お金は貰えるのかな」

「15出すからさ、ちょっと特殊なプレイに付き合ってくれなぁい?」

「乗った」

 

 実際、この後事件は解決した。

 幸い沢田希良々ちゃんは軽傷で済み、北上空ちゃんには一切の関わりなし。果たしてこれがどう影響するのかは疑問だけど、それはそれとして。

 

 特殊なプレイ──それはまぁ、端的に言えば4Pだった。

 端的に言わなければ、4P姉妹丼赤ちゃんプレイ……刈安姉妹と僕と紅守黒湖による、くんずほぐれつのにゃんにゃん大戦争。具体的なプレイ内容は言わないけど、濃い四時間だったと言っておこう。

 ……千代ちゃんにバレませんよーに。

 

 

CEFALOPODOS

 

 

 さて、空と僕とのあいだに。が無事終わった時点で、僕がどうこうできる事件はほとんど終わったと言っていい。何故ならあとはほとんど異能者バトルみたいなものだから。

 強いていうなら喜劇作家の件くらいか。あとは僕の幸運察知程度じゃ命の危機がやばいの連打だからナー。あとは一般人として、医療事務を淡々と熟すのが関の山だろう。

 

 とか思ってるのがいけなかったんだろうね。

 

「いや今日だとは思わないじゃんなぁ」

 

 久多跡中華街飯店『萬天楼』。原作にもチラっと出てきた店だから、聖地巡礼じゃないけどまぁまぁ「知ってる店」みたいな感覚で訪れたら、店の外、横合いにある裏路地に朽葉怜子と桃山照美が入っていくのが見えた。

 アラーニァだ。ムルシエラゴのスピンオフ、朽葉怜子が主人公のムルシエラゴ -アラーニァ-における2話。中国マフィア黒社曾における内部抗争。

 

 関われる話じゃない。というか少なくとも忘却の"桜"の後じゃなかったんですかねこの抗争。

 あー……だけど。

 

 ロンとフーは……なんとかできた命なんじゃないかって思っちゃうよなぁ、ムルシエラゴファンならさ。

 いいキャラだし、良い人かどうかはともかく、忠義のある人たちだし。忠義があるからこそ殺されたみたいなところあるけど、終盤で言われてたように経営のできるロンは生かされる可能性もあったわけで。ついでにフーさんもさ。

 

 ただこの話は動く人数が桁違いだ。

 抗争は名の通り、大人数と大人数のぶつかり合い。幸運を察知できたところで、僕の体がついていけるかどうか怪しいのと、複数の悪意が同時に来た場合の対処ができない可能性がある。紅守黒湖みたいに僕自身が強いわけじゃないからね。

 朽葉怜子からも別に仲間認定はされていないだろうし、桃山照美も記憶を失っているから論外。

 中国マフィア側からも快くは思われないだろう。すべての黒幕であるキャメロンさんことカオリからも同じ。というか正体を知った時点で殺害対象だ。

 

 ここは目を瞑るのが正解。

 

 

 

 

 ……ところで、だけど。

 

「何故誰もいないのか──」

「それはこっちの質問だけど。何してるの、一人で」

「あ、朽葉さん。お久しぶりです」

 

 そういえばそういうことあった気がする。

 カオリを逃がすために黒社曾から出たら、誰もいなかったってアレ。

 ホントは出ていくように指示されたり連れ去られたりで人払いをされていたところ、僕は無意識に幸運を察知して避けまくって生き延びたものと思われる。ちゃんと萬天楼は出てたんだよ、目を瞑るのが正解だと導き出した時点で。

 ただ帰り道がよくなかったね!

 

「なんだコイツは」

「生存にかけては使えるヤツよ」

「へぇ」

「朽葉さん、後頭部」

 

 布に巻かれたカオリを抱いたまま、朽葉怜子がライフルケースを背後に振るう。硬質な音。叩き落されたのは鎖鎌。時代錯誤……というかそれは果たして中華なのだろうか。

 

()()がいるなら、下手に動き回らない方がいいわ」

「わおお守り扱い」

「幸運とやらを感じたら、逐一報告しなさい。生き残りたくば、ね」

 

 すでに原作とは違う、港における攻防戦。

 

「そいつ、信用していいんだな?」

「──ええ」

「いいぜ、だったら後は俺達の活躍ってわけだ」

 

 両脇に拳銃のついた特殊なサックで、フーが突撃する。

 その隣、彼の部下も銃撃をはじめ、当然敵も応戦しだすから、場が混沌に包まれる。

 

「まず初めに、あのボートには乗らない方がいいね。アレ多分やばいよ」

「爆弾の類?」

「わからないけど、やばいと思う。幸運の気配が全くしない」

「そう。わかったわ」

 

 まず釘を刺す。

 ここで戦うことになった以上、もしかしたら強硬突破でボートに、みたいな作戦をとられる可能性があるからだ。

 それがいけないかどうかはわからないけれど、水上なんて密室で斑蛇と一緒になりたくない。

 ホントに爆弾仕込んでる可能性も大いにあり得るしね。

 

「それで、守らなきゃなのはその子だよね」

「ええ」

「じゃあその子こっちに渡して。朽葉さんは攻撃に集中して」

「わかったわ」

「え? え!? そんな軽々と!?」

 

 僕もちょっと驚いた。

 朽葉怜子が依頼人をそう易々と手放すとは。あるいは何か、彼女の琴線に触れるほどの察知能力でも見せたかな、どっかで。

 

 とかく、渡されたカオリをキャッチする。

 僕じゃ持ち上げるとバランスを崩してしまうので、抱きしめる形で。

 

「力を抜いててね。僕の動きに合わせるつもりで」

「う、うん……」

 

 しゃがむ。通り抜ける銃弾は、しかし誰にも当たらない。誰にも当たらない位置を選んで立ってたからね。それくらいの射線管理はやらないと。

 周囲で拳銃とライフルの発砲音が響き続ける。耳が痛い。かなり痛い。

 でもまぁ、幸運の気配は完全第六感なので、耳は関係ないのが幸いか。

 

 避ける。避ける避ける避ける避ける。

 敵からの攻撃はもちろん、味方からの流れ弾や裏切り者からの攻撃。そのすべてを避ける。

 前にも言ったけどね、こういう悪意の温床においてはとても役に立つんだよ。

 

 と、向こうから集団……といっても三人が走ってくる。

 

「フー!? それに姫と……その方は」

「ボス、何をしている」

「作戦を変更したわ。群がってくるやつを叩き潰して、ナントカってやつのところに直接乗り込む。いいのが手に入ったから」

「……その女か」

「ええ」

 

 桃山照美に記憶はない。

 だけど、何か感じる、疼く部分があるのだろう。彼は僕を一瞬見た後、すぐに戦闘に参加した。

 

「この方は……」

「協力者よ。安心していいわ。暗殺者ができるほど大胆じゃないし、俊敏でもない。むしろ愚鈍の類だから。ただ一点、生存能力においてはこの場の誰よりも上よ」

「……今はとやかく言っている場合ではありませんか。わかりました、信用します」

 

 何か朽葉怜子からの信頼度がめっちゃ高い気がする。幸運のお守りとして。

 あと途中でめちゃくちゃ貶された気がしないでもないけど多分気のせい。

 

 その後、港の攻防戦は五分ほどで終息した。

 

 

CEFALOPODOS

 

 

 用意されていたボートとは違う、少し迂回した場所でその場購入したボートを使い、黒桃……黒社曾の傘下組織であるマフィアの、そのアジトに向かう。

 向かう、直前。

 

「彼女はここに置いていくべきだと思う」

「あん? なんでだ……ってこともねぇか。そうだな、今から突っ込むんだ、影武者はいらねぇか」

「ですね。では、あなたはアジトの方へお逃げなさ、」

「何故か刀持ってるみたいだし」

 

 一瞬だった。

 カオリの偽物として連れまわされていた女性。彼女の纏う布と、そして衣服までもが切り裂かれる。下手人はロン。指に挟んだ刃で女性を大きく切り上げ、そして叫ぶ。

 

「フー!」

「ああ!」

 

 避けられたからだ。

 ロンとしては体までをも切り裂くつもりで行った斬撃だったのに、咄嗟に女性がバックステップをしたことで服しか斬れなかった。

 だけど、幸運もそこまで。

 怖ろしい速度で突っ込んだフーに腹を捉えられ──そのまま内臓ドシャァ。

 

 露になるは数多の暗器。

 

「……まさか内通者がこんな近くにいたとは」

「テメェ、早く言えよ」

「いや僕その人と一緒にいなかったし」

 

 見逃さない。

 ほんの一瞬でも、カオリが僕を冷たい目で見ていたことを。

 

 

 

 

 

 

 門番は朽葉怜子が、重厚な門は桃山照美が"抜"いて、正面突破のお時間だ。

 原作のように二手に分かれることはない。何故なら僕がいるから。

 

 朽葉怜子は知っているのだ。桃山照美、朽葉怜子と別れてあの館を行った僕が、最初に正解を引き当てたことを。

 

「いい? この男よ。覚えた?」

「あの朽葉さん、そんな警察犬みたいにされなくても。というか僕のコレ匂いとか顔で反応してるわけじゃないから意味ないって」

 

 ヴヴーっと鳴ってるサイレンなんてなんのその。

 正面玄関を桃山照美がぶっ飛ばして、フーと共にカチコミである。その後ろを悠々とついていく僕ら。

 

「どっちだ」

「どっちだ!」

「左だと思う」

「っおらァ!」

 

 分かれ道が来れば僕に意見を仰ぐ。

 カオリは僕の傍から離れないで、ロンと朽葉怜子が中距離を固める。

 完璧な布陣だ。──もう一人の斑蛇さえ動けないほどの。

 

 何か不審な動き……屋敷の装置を動かそうとすれば、「そっちには行かない方がいい」と窘めればいい。ここまでの数多の実績から、ロンもフーも僕を信用してくれている。僕を、というか僕の能力を、だけど。

 だから、彼女がそれでもうろちょろしようとすれば、ロンが止めてくれるって寸法だ。

 

「あそこ。あの大階段の上の部屋」

「そうか」

 

 苦も無く辿り着く。

 原作よりも余裕溢れる僕らパーティは、万全の状態で標的……梁浩然の部屋の前に到着した。

 

「桃」

「ああ」

「扉の裏で一人待ち構えてると思う。あと左後方の棚の裏に一人と、窓の外に二人」

「……それ、幸運の気配とかゆーレベルじゃなくない?」

 

 実際のところ、人数はわからなかったりする。あと人かどうかも。

 今だって僕の意思というより、「言った方が良さそうだな」と感じたからそう言っただけだ。それに、得物が何かとかはわからないしね。

 ま、少しは転生者らしいコトさせてよって話だよね。

 

「抜く。フーさん、ロンさん、他のは任せた」

「ああ、いいぜ」

「承知」

 

 同時にたくさんのことが起きる。

 正面の壁をブチ抜いて、その裏にいた斑蛇をも抜いた桃山照美。棚の裏から現れ、ロンに攻撃を仕掛けようとして仕返された斑蛇。両脇の窓から躍り出て、その瞬間にフーの拳で顔をぶっ飛ばされた斑蛇。

 全員、斑蛇だ。

 そして今、僕がそっとその手を止めた彼女も。

 

「……!」

 

 だから、もう一つも一瞬だった。

 原作なら微かながらに生き残る道もあったかもしれない梁浩然。部屋の中でY字の恰好をしていたそんな彼を、朽葉怜子が撃ち抜いたのだ。

 頭を一発、けったいな格好で珍妙な化粧で、おそらく何が起きたのかもわからないまま彼は絶命した。

 

「依頼満了よ」

「だな」

 

 はい、これで終わり。

 ……というわけには行かないのがロンとフーだ。

 二人はまだキョロキョロと周囲を見渡しつつ、僕らを背に警戒を続けている。

 

「皆さん、ご注意を。まだ斑蛇が残っています」

「そうだ。奴も暗殺者、契約を履行するまで姫を狙い続けるだろう。油断はダメだぜ」

 

 さて、ここからが択だ。

 何度も何度も、何度も何度も何度も何度も僕に阻止されてきた暗殺。

 これ以上やるのかどうか。

 

「……あは☆ もう大丈夫っしょー!」

「姫。敵は伝説の暗殺者で」

「大丈夫大丈夫。()()()()()あーしを殺せない暗殺者なんて恐れる必要ないってー」

 

 チラっとこっちを見るカオリ。 

 その目から感情を読み取る……とかはまぁできないんだけど。

 

「一応僕から助言をしておくと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……そっか。ちなみにだけど、離れた場合とかもわかる感じ?」

「誰かが欠けたら崩壊するかな」

「ワァオ」

 

 ちなみにこれは本当。

 幸運の気配は「この形を崩してはならない」と言っている。

 

「だってさ。二人が一緒にいればだいじょーぶっぽい」

「ま、そりゃそうか。警戒するに越したことはねーが、依頼主の消えた暗殺者がいつまでも同じ木に留まってるとは思えねえし」

「……そうですね。報酬を支払う存在がいなくなった以上、問題ないのかもしれません。ただ、あと少し警戒は続けますが」

「どうでもいいけど、私たちへの報酬忘れてないでしょうね」

「勿論忘れていませんよ。残りの500万と割増分500万、また、当初の契約から危険性を増したことによる迷惑料500万。計1500万を支払います」

 

 原作より1000万お金が浮いたね!

 

「それと、そちらの方にも即時契約料として500万をお支払いいたします」

「僕何にもしてないけど」

「いえ──我々の敵に回らないことを願ってのものとお思いください」

 

 それは過大評価な気がする。

 僕、生存能力は確かにあるかもしれないけど、攻撃力は欠片しかないよ。10人に拳銃持って囲まれたら普通に死ぬと思うし。あ、そういう意味では今回怪我しなかったのは幸運だったかもね。また柳岡総合病院に患者として入院するところだった。

 

「とにかく──お三方、ありがとうございました」

「あぁ、俺からも礼を言うぜ」

 

 果たして。

 彼らが今後殺されないという保証はない。ただまぁ、エゴは満たせたかな。失意の果てに沈む、なんてのは……忠義や親子の関係を大切にする彼らを想えば、やるせないことだったから。

 

 ワンチャン僕が暗殺対象に入ってる気がするのは怖いけどネー。

 

「帰るわ」

「フーさん。共に戦えて良かった」

「おう」

 

 朽葉怜子についていく。

 

 ふと、首をかしげる。かしげて、左耳のあった場所を抓む。

 

「僕、君の天敵かもね」

「?」

 

 背後に笑いかけて──僕らは黒桃の屋敷を後にした。

 

 

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