CEFALÓPODOS -セファロポドス-   作:夜泣かし村

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7.千日手

 僕が中国マフィアとドンチャンしている間に、私立まりも學園での爆弾騒ぎは終わったらしい。まぁアレ半日での出来事だからね。

 着実に原作は進んでいる。さすれば、次に起きるのは忘却の"桜"──ガッチガチのテロ。それも、かなりの人数が死ぬ。この辺から異能力バトルみたいになってくるので僕じゃ太刀打ちできない敵も増えてくる……んだけど、まぁ、ギリギリ人間の範疇にいるような奴とは戦えるようになっておきたい。

 

 ということで。

 

「──()ッ」

 

 親指と中指の爪先を揃え、それを左から右に大きく薙ぐ。

 薙いでいる間に爪と爪の間隔を調整し、決して浅くはない傷をつける。

 風圧。

 すぐに姿勢を崩し、後ろに倒れる形でバックステップからの左ロンダート、そのままさらにバク転……に見せかけたソードブレイク。

 

「うおっと!?」

「無理か……」

 

 ソードブレイク自体は失敗に終わるけれど、隙は作れた。

 ので、庭、地面の石を掴んで彼の顔面へと投げる。続けざま、石に連続するように砂の塊も。

 想像通り石は叩き落されたけれど、その石の陰から現れた目つぶしには対応できなかったらしい。モロに砂と土を食らって仰け反るスキンヘッド。

 

「ここ──」

「ってやるのは、ちょい危険ですよ」

「ッ!?」

 

 目潰しはできている。

 完全な隙だと思った。だから突撃して首を狙って、しかし眼前に木刀の切っ先がある。

 

 膠着。のちに、引く。

 退いて……礼。

 

「ありがとうございました」

「いえ、俺もかなり参考になったんで」

 

 ──ここは柳岡会。その本家。

 縁側にいる千代ちゃんに見守られながらの、藤浪寛二との戦闘訓練。

 いわゆる僕の修行パートである。そんな即座に強くなれるとは思わないけど。

 

 

 一息ついて。

 

「金枝さんは、完全に暗器スタイルといっちまっていいのかわかんねぇですけど、とかくリーチがない。爪での戦闘となると、殺傷能力にも劣る。そんなアンタが敵に対してトドメを差す場合、絶対に首を狙う。そこくらいしか致命傷を与えられねえからです。ま、それがわかってりゃ目が見えなくても対応できるって話で」

「成程……確かにそうかもしれない。けど、今からナイフだのなんだのを勉強するのは……」

「ま、オススメはしないですね。ナイフだけじゃないですけど、刃物全般は単純な力の象徴でありつつ、扱いを間違えりゃ諸刃の剣だ。手元抑えられてそのまま喉を、なんて無い話じゃない。まぁぶっちゃけそこまでの近接戦をしなけりゃならねえことなんて、カタギで生きてりゃ無いはずなんですが」

 

 それについては「あはは……」なんて言って誤魔化す。誤魔化せているとは思ってないけど。

 

「……金枝が"修行したいんだよね"、なんて言ったときは何かと思ったけど……そんなに動けるとは思ってなかったわ。何、昔は暗殺者だったとか?」

「いや、それならもっと強いよ……。最初はただの隠し芸だったんだけどね。ペットボトルの首を素手で切断する、って隠し芸」

「普通に引かれそうな隠し芸ね」

「うん。ドン引きされた記憶があるよ」

 

 そこから、けれどこの世界で生きていくためには必要と、それなりの域にまで昇華させた。

 けど、藤浪寛二の言った通り、このリーチの短さで殺傷能力の低さだと、僕自身の身体能力がもっともっと必要になってくる。けど一朝一夕に身に着くものではない。

 つまり。

 

「だとしても、やっぱりアンタ戦わない方がいいわ。何を考えてるのか知らないけど」

「ですね。こればっかりは俺もお嬢と同意見です」

「……うーん。まぁ、そうだよね……」

 

 そもそも非戦闘員だからね、僕。

 朽葉怜子にも認められた生存能力の方を伸ばした方がいいか……。

 

「それで? あんたがそんなに焦ってるってことはなんかあるんでしょ? 言いなさいよ」

「……柳岡会の人はたぶん静観になると思うから、聞かない方がいいと思うよ」

「警察関連スか」

「うん」

「なら、お嬢。俺たちが首突っ込むのはやめときましょう。警察のごたごたは決まって面倒ごとだ。……つか、アンタ一般人でしょう。ならアンタが絡むのもやめといた方が……」

「ま、勿論先陣切って、とかはするつもりないよ。これはあくまで自衛だし」

「……助けが必要なら言いなさいよ。柳岡会は……私の一言で動かせるわけじゃないけど、少しくらいなら手助けできるんだから」

「あはは、ありがとうね、千代ちゃん」

 

 けど、まぁ。

 これはただのエゴだから。

 

 

CEFALOPODOS

 

 

 7月1日。

 深夜3時頃、救急車や警察車両が横転する事故が起きた。警察、救急隊員の死亡数は6名。一般人に被害なし。

 

 ……というのが表向きに報道された内容。

 実際は、忘却の"桜"の序章にして、千仭の獅子こと緋垣刀吉郎が脱獄した際の事件だ。

 こればっかりは死亡者を減らす、なんてできなかった。だって相手は救急車と警察車両。そんなのに近づいたらまずこっちが疑われる。

 

 が。

 

「テロ、ですか」

「うん。今朝……というか深夜にあった事故、アレは救急搬送中の犯罪者が引き起こしたもの、でしょ?」

「……それも推理ですか?」

「そうだね」

 

 ちゃっちゃん。

 今のところ僕が知っている警察関係者の連絡先は、彼女のケー番だけ。テケリリランドで僕にかけてきたときの番号をちゃっかり抑えさせてもらったのだ。

 そしてそれをフルに使って、今こうして呼び出し……推理、という形で原作で死ぬ人々についての情報を零そうと思っている。

 ここで死ぬ国会議員の三人+その家族は、ほぼ同時刻に殺される。どこか一つを妨害しにいったとて、他が無理だ。だから予め警察に話を通す。

 事前にやらなかったのは、流石に「緋垣刀吉郎が7月1日に脱獄する」ことまでの推理の組み立てができなかったから。僕は今答えだけを知っている状態だから、式もちゃんと組み立てておかないと怪しまれる。

 

 そしてツルたんや笠木警部でなくちゃっちゃんを選んだのは、彼女が手段を択ばない正義を持っているからだ。

 

「わかりました。詳しいお話を聞かせてください」

「うん。じゃあ、おそらく今日中に殺されるだろう国会議員三人についてから」

 

 話していくのは、怖ろしいほどに「とってつけたような理由」の推理。

 話の途中、何度も何度もちゃっちゃんは「……それはないと思いますが」なんて正論パンチをしてきたけれど、可能性がゼロではないことを盛れるだけ盛って伝えてみた。

 

 そうやって熱弁していると、まぁ当然と言えば当然。

 

「──オイ、お前」

「あ」

 

 ちゃっちゃんと密談をしていた喫茶店に入ってくる──強面のひげライオン。

 ま、僕からの接触があった時点で御剣サンには話していたのだろう。

 それが漏れたとみるべきか。別に内密に、なんて言ってないからね、僕。

 

「今の話、本当なんだろうな」

「僕の推理が正しければ」

「……正直妄言の類にしか聞こえなかったが──お前には実績がある。信じてやるよ」

「ありがとうございます」

 

 一般人の妄言だ。

 それで警察組織を動かすなんて、元来はできない。

 けれど警察側も藁にも縋る思いなのだろうことは伺える。なんせ脱走後の緋垣刀吉郎の潜伏先がまるでわからないのだから。

 

「スナイパー、暗殺者、そして千崎由紀夫……まぁ、ラインナップとしちゃ妥当だな。問題は」

「どうやって防ぐか、については……申し訳ないけれど」

「フン、探偵気取りは丸投げか。ちなみに日時はわかるのか?」

「今日中にやるはず。こういうのはスピード勝負だろうし」

「……わかった。各議員への連絡と人員の手回しを──」

 

 笠木警部が携帯を取り出し、どこぞへ連絡をしようとする。

 

 しようとして。

 

「──」

「……どうかされましたか?」

 

 冷たい目。

 けれど敵意はない。そして笠木警部は首を振って。

 

「衆議院議員の西沢含む、お前の言った三人。全員殺されたって話だ。加えて、西沢の息子もな」

「あー……間に合わなかったか」

「お前の推理通り、狙撃、斬首、そして刺突。全員死亡解剖に回されるが、その妄言の通りなら、西沢の体内からは千崎由紀夫の血液反応が出るだろうよ」

 

 正確な時間がわからなかったけど、こんなに早かったか。

 ……うーん、悔しいな。救えた命……だろうに。

 

「君原。そいつ連れて来い。俺は各所へ連絡してから行く」

「連れて、というと……警視庁にですか?」

「ここまでの的中率だ。そいつの頭脳が本物か──あるいは、内通者、といった方がしっくりくる。重要参考人だ」

「え」

 

 ちゃっちゃんを見る。

 申し訳なさそうな顔。

 

 こういう次第で、僕も緋垣刀吉郎対策本部に呼ばれることになった。

 

 

 

 

「警視庁刑事部長、須藤朱臣です。本日はよろしくお願いします」

「え、あ。あれ、私重要参考人として呼ばれたと聞いていたんですけど……」

「ハハ、それは笠木君の冗談ですよ。ああ、失礼。私は警視庁組織犯罪対策部第5課課長、京極真と申します」

「あ、えーと、ご丁寧にどうも。ぼ……私は小高井金枝です。特にたいそうな肩書は無くて、主婦……でもないか。未亡人です」

「……独特な方ですね」

 

 アンタに言われたかないやい。

 

 ……よかった。犯罪者扱いじゃないのか。

 これは工藤さんちの新一君よろしく探偵として迎え入れられた、とみていいのかな? ぶっちゃけ対策本部に一般人引き入れるとか正気の沙汰じゃない気もするんだけど。僕が内通者だったらどうする……って、そのための首輪か、コレ。

 

「それで、現時点で僕らに開示できる情報はありますか? 憶測の類でも構いません」

「あ、じゃあそこの人」

 

 指をさす。

 短髪の男性。指を差された彼は、わかりやすく動揺する。

 

「宍戸がどうかしたかい?」

「あの人敵です。裏切り者」

 

 展開は一瞬だった。

 踵を返し、窓からでも飛び降りようとしたのだろう、一直線に走りださんとした男は──しかし大勢の人間に取り押さえられる。

 

「口を閉じさせないように気を付けてください。奥歯に自決用の薬を仕込んでる場合があるので」

「古典的だが、可能性はあるか。オイ、轡つけて拘束しておけ!」

 

 疑いはない。まぁ逃げ出した時点で黒確だ。

 とはいえ、なぜわかったのか、の目は当然向けられる。

 

 今まさにそれが問い詰められんとした──瞬間。

 

 対策本部の電話が鳴る。内線であっても、それに出ないわけには行かない。

 須藤朱臣が僕らを一瞥したのちに受話器を取り、二、三言葉を交わしたあと……自らの名を名乗った。

 

 問う言葉は、「緋垣刀吉郎だな?」。それに対し、電話先の誰かは是を返したらしい。

 さらに言葉を交わしたあと、須藤朱臣が電話をスピーカーにする。

 

「──宣戦布告だ、国家権力の諸君。特に、こちらの意図を読んで引っ掻き回している者……戦争と行こうじゃないか」

「構わないけれど、僕はもう君達のアジトも、君達の本拠地も、使おうとしている化学兵器に至るまで見当がついているよ。──戦争というには些か一方的じゃないかな」

「ほう?」

 

 この、あんまりにも挑発的な物言いに、笠木警部、京極真の額がビキっと筋張る。これは怒ってます。

 でもこの話長引かせて良いこと本当にないんだよね。死亡者が増えるだけ。

 

「彼女はなんだ、須藤刑事部長」

「……協力者だ。探偵、といったところか」

「ほう、探偵。では君に一つ問題だ。君がこれより相手にする組織──その名は」

「桜剪会。千仭の獅子はもう死んだ。桜を剪定する会と書いて桜剪会……だよね?」

「──ク」

 

 正直やりすぎている感はすごい。

 転生者特有の知識チートをしている感がやばい。

 

 だけど──ワンチャン、本当にワンチャン、Francisが地下鉄構内にばら撒かれたら、恐ろしい被害が出る。

 相手はマジのガチの犯罪組織だ。テロ組織だ。

 なら、容赦はせずに、ぶっ潰すのが吉。

 

「成程、素晴らしい人材を取り揃えているらしい。──では、諸君、健闘を祈る。何、我々のこれからすることなど、そこにいる探偵に聞けばわかるだろうからな──精々楽しい潰しあいをしようじゃないか」

 

 それだけ言って、緋垣刀吉郎は電話を切った。

 視線が集中する。ついでに、今来たらしい紅守黒湖と屠桜ひな子からも視線。

 

「……どういうことか、説明してくれ」

「まず緊急性の高いものからでいいですか?」

「ああ。すべてを話してもらうことにはなるが、人命救助が第一だ。お願いしよう」

 

 話す。

 千崎由紀夫についての話と、アジトの話。さらに松前静香の話。おそらく裏切り者だろう男の話。

 ペラペラと口が回るのは、全部事前に考えてきたからだ。質問にもスムーズに答えられる。面接はね、暗記だから。討論に必要なのは説得力じゃなくて圧倒力だ。そして絶対的な自身。自分は間違っていませんよ、という態度。

 

「とりあえず千崎由紀夫についてはこれくらいです」

「笠木、すぐに人員を連れて件の議員の調査へ行ってくれ。決して油断はするなよ」

「ああ」

 

 ──やっぱり笠木警部になるのか。

 僕もついていきたい。部下である向島と、一般人女性が死ぬことがわかっている。でも少人数じゃなければ大丈夫かな、とか思いつつ……。

 ついて行ってもどうせ何も。

 

 しゃがむ。

 

「ッ、しゃがんでください! 身を伏せて!」

「!?」

 

 来ると思っていなかった。

 原作にないその展開に、一瞬反応が遅れた。いや、僕は大丈夫だったけど、言葉に出すのが遅れたというべきか。

 射線上。僕と窓を挟む場所にいた警察の一人。その頭蓋が、弾け飛ぶ。

 

「……ッ!」

「狙撃!? 全員身を低くしろ! 窓際の者はカーテンを!」

 

 ついに。

 ついに、出てしまった。

 僕のせいで──原作になかった被害者が。死亡数を減らすどころか、増やして……。

 

「安心しろ。アンタは限りなく怪しいし、その推理能力も信じ難いが……絶対に殺させやしない。一般人を守るのが俺たちの仕事だ」

 

 御剣サンが声をかけてくれる。

 僕が狙撃を恐れているように見えたのだろう、慰めてくれたわけだ。そういえば凛子ちゃんの時に救ってくれたお礼、まだちゃんと言えてなかったな。

 

「紅守、小高井さんを頼む。一旦安全な奥へ連れて行ってほしい」

「ハァイ」

 

 珍しく今の今までしずかーにしていた紅守黒湖に預けられる。

 ……紅守黒湖からも何らかの視線を感じるんだよなー。彼女のことだから勘違いの疑惑とかはつけてこないと思うんだけど。

 

 そのまま、低い姿勢で対策本部から連れ出され──。

 

「それで、サ」

 

 今、壁ドンを受けてます。

 

 

 

 壁ドン──さらに股ドン。完全に逃げられない状態で、ものっそい近い顔が、にぃんまりと歪む。

 

「アジトの場所も、本拠地の場所もわかってんでショ? なんで言わないの~?」

「……人数いても意味ないから」

「ナルホド、警察組織じゃダメなわけだ。んじゃアタシらでオッケー?」

「黒湖さん一人でも十分だとは思うけど……欲を言えばもう一人かもう二人ほしいかも。正直言って僕は戦力にならないからね」

「……敵の戦力もわかってるんだ?」

 

 あ、やっべ。

 そこは推理じゃどうにもならない部分だった。

 

「金枝さんさ~、さっき警察に言ってた推理ってやつ。全部デタラメでショ? あんなとってつけたような推理でさ。警察も答えだけが合ってるから信じざるを得ないみたいだったけど、ホントはツッコミどころ満載だったと思うヨ」

「……だよね」

「認めるんだ。じゃあ、金枝さんはどういう手段で情報を手に入れたのか聞いても良い?」

 

 まぁ、いつかはバレると思っていた。

 だから次の手段を用意してある。

 

 渋々……本当に渋々、という演技をしながら、僕は()()を取り出す。

 大きなシート。そして影打ちエラーの十円玉。

 

「もしかして……こっくりさん?」

「あ、うん。僕が幸運の気配を察知できるのは知ってるでしょ? だから、一人でこれをやると」

 

 五十音表と鳥居の描かれたシート。その上を十円玉が滑っていく。

 当然力は入れている。これはポーズでしかない。

 

 そして十円玉が指し示すは、「さ、く、ら、え、き」の五文字。

 

「警察にコレが根拠です、って言えると思う?」

「……ま、無理だね。それで……桜駅か」

「うん。警視庁の真下にある駅。そこに緋垣はいるよ」

 

 推理がダメならオカルトに頼ろう作戦。

 紅守黒湖は非常に頭が回るし、知識も堪能ではあるけれど、オカルトに強いわけじゃない。むしろ悟白亜のオカルトな薬品に振り回される側だ。

 だからこれならたとえ疑われても「ありえない」と言い切ることができない。

 

「ん、わかった。それを信じるよ。で、必要なのは二人だっけ?」

「必要なのは殲滅力と一対一を制する能力。緋垣も老人でありながらかなり強いから、油断はしないで」

「……こっくりさんで得られる情報量じゃないヨー」

「あはは、占いの方法なんていくらでもあるからね」

 

 そうして話を進めていく。

 原作にあった宍戸によるFrancisの被害は起きないものの、やはり気にしてしまうはさっきの狙撃。

 

 僕がいなければ。

 僕があそこに立っていなければ発生しなかった死。

 

 ……まぁ。

 今更、かぁ。中国マフィアもしこたま死んでるしね。

 

「黒湖さん、僕は」

「ああ、帰ってていいよん。こっからはあたし達の仕事。……と言いたいところだけど、スナイパーが狙ってるとしたら、一緒にいた方がいいか」

「ああでも避けられるから大丈夫だよ」

「避けられない態勢にさせられたら? たとえば、転んでる最中とか」

 

 転ばないけど。

 まぁ、離れたくないという意思は伝わった。

 

「まぁ、スナイパーに関してはちゃっちゃんが動いてくれるだろうから、あたしらは地下に行こうかしらん?」

「采配は任せるよ」

「りょーかい♪」

 

 ……さてはて。

 実際、僕ができるのはここまでだ。松前静香こと冷泉藍子は普通に化け物の域だし、緋垣も同じ。本当は笠木警部についていって千崎由紀夫をどうこうする、くらいが関の山だと思っていたんだけど、話が二転三転してこうなって……僕にできることはなくなったと言っていい。

 あとはまぁ、幸運の察知と、挑発くらいかな、僕の役目は。

 

「おっけ、加勢の連絡はできた。──んじゃいこっか、金枝さん」

「いいけど、ホントに僕は弱いからね?」

「もちろん、矢面には立たせないよん♪」

 

 

CEFALOPODOS

 

 

 矢面に立たせないとはなんだったのか。

 

「随分と上手く避けるのね。見た目からは到底戦えるヒトには見えないのに」

「まぁソレがどういうものなのかわかってるからね。決して変幻自在じゃない。超能力とかでもない。なら避けるのは簡単だよ」

 

 地下鉄構内。

 僕は今、冷泉藍子に相対している──!

 

「けれど、避けているばかりではどうにもならないでしょう?」

「ずっとあやとりしてても当たらなきゃ意味ないよ」

 

 いやぁ、千日手。

 完全生存特化の僕と、中近距離に対応できる冷泉藍子。

 僕は近づかなければ攻撃ができない。冷泉藍子はワイヤーソーを当てる以外の攻撃手段がない。

 凛子ちゃんみたいな攻撃力も機動力もない僕だ、チェックメイトなんて夢のまた夢。ここで踊り続けるしか能がない。

 これが時間稼ぎだってんなら話はわかるんだけど、見学者……戦えると聞いてぶっ飛んで来たらしい錆浦蘭は階段に座ってニコニコこちらを見ているばかり。紅守黒湖も同じ。なんだろう、もしかして試されてる?

 

「──もう十分よ」

「十分? 十分って何が」

「あなたの速度は見切ったから。──沈みなさい」

 

 警鐘が鳴る。

 全く同時に、幸運の気配が()()()()()()()()。それはもう、弾け飛べ、と言っているに等しい。

 

 だから、つまり。

 

「逃げ場が──」

 

 こーれは諦めです。

 

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