CEFALÓPODOS -セファロポドス-   作:夜泣かし村

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9.卜占

 流々家水族館。

 僕がアラーニァ側でどんぱちやっているのとは全く別筋の本筋。千代ちゃんにちょっと水族館行かない? とか言われてついて行ったのが運の尽き。幸運体質の僕とは思えない言葉だ。

 まぁそこにいた。紅守黒湖一行が。

 THE DEEP ONE……及び教授の一連の事件。確かになぁ、一般未亡人の僕でも関われる案件ではあるけれど、何も無理にかかわろうなんて。

 

「そ・れ・で・サ。金枝さん」

「……どっちがいい?」

「どっちって?」

「ひな子ちゃんががっかりする方か、千代ちゃんががっかりする方か」

「ワオ究極の二択」

 

 そしてどっちを選んでも同じ結果になる。

 紅守黒湖は少し迷った後。

 

「とりあえず何が起こるか聞かせてくんない?」

 

 と、至極当然のことを聞いてきた。

 

 

CEFALOPODOS

 

 

「人を食べたサメが窒息死、ね」

「僕の占いを全部信じるならね」

「アッハ、なーにいってんのス。桜剪会のいざこざを解決したのは紛れもなく金枝さんで、それが推理じゃなく占い結果によるものだって知ってるのはあたしだけ。なら勿論全部信じるよーん」

「わぁ全幅の信頼。じゃあもう少し情報出しちゃおっかな」

「なんで情報を出し渋るのかわかんないけど得しちゃった?」

「ううん、黒湖さんにとっては損だよ」

「アレェ、なんで?」

「人喰いザメで終わらないからね、事件は。れっきとした殺人事件……しかも村規模で、且つ特殊殺人込み」

 

 途端、うげぇという顔をする紅守黒湖。

 わかったのだろう。千代ちゃんとも屠桜ひな子ともゆったりできないことが。

 

「どうする?」

「どうするって?」

「僕の占い通りに全部動いてくれたら、夕方くらいまでには片が付くと思うけど」

「……なーるホド。爆速で片をつけろと」

「どうする?」

 

 この事件は異常性が比較的少ない。コバさえどうにかできれば、あとはどうとでもなる。根深い話が関わっているというか根強い怨念が纏わりついているから僕一人でもなんとかできそうだし。僕に霊感はないけど、悪意の温床なら僕の輝く場所だ。

 

「金枝さん、今さ。あたしが行かなかったら一人で行こうとしてたでしょ」

「う」

「ヒャァ、見上げるほどの献身精神だねぇ。ケーサツでもタンテーでもないのにさ」

「僕、異常かな」

「別にィ、いいんじゃなァい? ケーサツは煙たがるかもしんないけどサ、金枝さんの占いの力は本物で、その正義感も本物。ただし」

 

 いつの間にか後ろに回られて。

 いつの間にか抱き留められていた。

 

「ちょーっとだけ、自信過剰カナー。金枝さん、自分が思ってるより()()よ」

「……パッと戦力あげる方法ってない?」

「ナイナイ。だから頼ってくれてセイカイ正解~。警察にも連絡して、正式に応援も貰おっか。なんたって金枝さん、実績バリバリなわけだし。ケーサツには推理で通せるし」

 

 そうか。

 ないか。まぁ、そうだよね。じゃあ。

 

「密談は終わった?」

「うん。ごめん、千代ちゃん。ちょっと黒湖さん借りるね」

「へ?」

「ごめんね千代ちゃん、ちょっと借りられてくるネ。爆速で全部片して帰ってくるから、子供達のことお願い!」

「くーちゃんどっか行くの?」

「Yes, I'm Ready.」

 

 一瞬だった。

 紅守黒湖は僕を抱き留めたまま、枝に飛び乗り、水族館の屋根に飛び乗り、そして鮫の展示コーナーへと向かう。初めに話した人喰いサメの件をスタッフに伝えるためだ。

 

「ネネ、金枝さん」

「なに?」

「その占いで、あたしのこともわかっちゃったりするワケ?」

「黒湖さんが大量殺人犯なこと?」

「……わかっててその態度ならいーよー。それじゃ、本気も本気な爆速御片付けで行こうか」

 

 さてまー、ご注文とあらば、全部すっ飛ばして爆速で。

 

 

 

 

 流々家町印須升。

 村、というか集落に近いここは、隠れキリシタンの進行が今尚続いている場所だ。そしてそんな情報はどうでもいいのである。

 

「印須升の教会。流されやすいマザコン息子と息子のためを想っている……と思いきや、保身ばかりを考えている母親、ね」

「うん。そして裏で糸を引いているのがコバさん。前会った教授の人」

「コバがねぇ。……んじゃまぁ、コバを潰すのが手っ取り早そうだけど」

「とりあえず教会の地下にあるボートを潰したいかな。逃げられちゃうし」

「オッケー。そんじゃ金枝さんは適当な場所に」

「いや、黒湖さんといた方が安全そうだから、今回は一緒に行かせてもらうよ」

「幸運の気配、ってヤツぅ?」

「そそ」

 

 実際別行動してできることなんか何もないし。

 

「ザコ処理はツルたんに任せたいところだったんだけど、しょーがないか」

「そうそう、聞きたかったことがあるんだよね、黒湖さん」

「なぁにぃ?」

「僕の夫、小高井真治の最期。黒湖さんがやったんでしょ?」

「……聞いて、どうするの?」

「頭潰してないなら、もしかしたら感動の再会があるかもしれないからさ」

 

 彼も犯罪者だ。

 その脳をどうにかしてコバさんが手に入れていたとしたら、感動の御対面もなくはないはず。対面して動揺する……できるとは到底思えないけど、人間らしい反応をするなら動揺しておいた方がいい。それなら、あるかどうかも知っておいた方がいい。

 

「眉間に一発撃ち込んだよ。それでオシマイ」

「ああ、じゃあ今回会うことは無さそう」

「サッパリしてるね」

「過ぎた事だからね」

 

 ヤクザキック。

 雑談をしながら、紅守黒湖は印須升の教会へヤクザキックをかました。ぶっ飛ぶ教会のドア。それはものの見事に──神父の横にいたシスターの老婆へとぶち当たった。

 

「な、ななななな、なんですかあなたたちは……ま、ママ!? ママ!? 返事をして!」

「真昼間からこんにちは。誘拐殺人その他諸々の容疑でタイーホしに来ましたー。大人しく手をアゲテクダサーイ」

「けけ、警察!?」

「そう、警察」

 

 胸元から見せるは警察手帳。この世界犯罪者だらけだからか、一般人への警察手帳の効きがとても良い。すぐに信者たちは隅に身を寄せ、ただ一人狼狽える神父だけが残る。

 

「はい手錠ガチャンガチャン。鎖もドン」

「えっ、あっ」

「それで、金枝さん」

「ああうん、多分ここ」

 

 適当に「押した方が良さそうな場所」を押す。

 するとゴゴゴゴゴゴと祭壇が動き、地下への隠し階段が開いた。

 

「あー、信徒の皆さんは家に帰って報告をお待ちください。もうそろ応援のケーサツが到着しますけど、やましいことない人にとっちゃ関係ないんで」

 

 神父とシスターの双方に手錠と鎖をかけて、私を俵抱きにして。

 

 いつもはやるような回りくどい遊びとか言葉繰りとか一切なしで、本気で爆速一件落着しようとしているのが伝わってくる。

 

「ボートの操作は?」

「僕がやるよ。船舶免許ないけど」

「大破したらサメの餌だよーん?」

「幸運だからね」

 

 船舶免許なんか持ってないけど、大体わかる。どこを捻ってどう操舵して、どの程度エンジンを噴かせたらいいのか。

 一つ問題があるとすれば──今がまだ昼、ってことだ。

 

「ところで黒子さん、爆弾とか持ってたりしない?」

「なして?」

「今から行く場所、干潮じゃないと入れないんだよね。他に出入り口無し」

「そりゃまた不便な。……爆破して壊す気?」

「逆にそれ以外の入り方ある?」

 

 紅守黒湖は数瞬逡巡した後。

 

「オッケ、それで行こう」

 

 胸元からAと書かれた爆弾を取り出した。

 

 

CEFALOPODOS

 

 

 ボートを停めて、幸運の導くままにそこへ向かう。迷路になっていようが関係ない。いや全く、よくもまぁこんなところに住み着こうと思ったものだ。

 

 そうしていきついた先に分かれ道。

 

「あれ、あっちは? なんかぼんやり明かりあるけど」

「あっちはコバさんのコレクションルーム」

「コレクション?」

「脳髄集めが趣味なんだよ、彼」

「成程、そりゃ変わってる」

 

 だからこっち、と指差した方向に向き直ろうとして、しゃがみ込んだ。

 頭頂を掠めるナイフは、背後の紅守黒湖が指で挟み取る。

 

「人をヘンなコレクターのように言わないでくださイ」

「犯罪防止のために犯罪者とそうでないものの脳髄サンプルをコレクションし続ける、が変じゃなかったら何が変なのさ」

「ほう? まるで見てきたように良いますネ」

「視てきたよ。僕実は占いもできてさ。コバさんの生い立ちも、君の後ろにいる人も、君が捕まった後どうやって脱獄しようとしているのかも知っている」

「……そういえバ、アナタも犯罪者でしたカ。しかし唯一の正規出口からの脱出者。つまりアナタの脳は、善悪の双方が兼ね備えられていル」

「そんなことはない。僕に殺人規範(キリングルール)はないからね。しいて言えば」

 

 横に転がる。直後、凄まじい速度で放たれたナイフがコバさんに刺さる……前に、コバさんを呼びに来たらしい男にぶっ刺さる。

 

「黒湖さん。今、僕ごとやろうとしなかった?」

「まさかぁ。金枝さんなら避けてくれる読みだよ」

 

 止めてほしい。紅守黒湖クラスの幸運程度じゃどうにもならない悪意には弱いんだから。

 ……それを測る目的があったのかもしれないけど。

 

「ふむ。しかし、どうしまショウカ。もしやワタシの逃走経路まで潰されている、ということはありませんよネ」

「うん。ここが他の場所にどう繋がっているのかはわからなかったから」

「それは安心しましタ」

「だから、僕が出入り口だと思った場所全てに張ってもらってる。全員強面の刑事さん、なんと六人体制」

「……やめておきまショウ。どの道紅守黒湖サン、アナタからは逃げられそうになイ」

「そりゃーそーしてくれるとこっちとしても助かるけどー。……金枝さん、さっき言ってた脱獄うんぬんは?」

「今言うと今使いそうだから言わない。しかも自分で使わずにそこの男に使いそうだから」

「慧眼ですネ。恐れ入りまス」

 

 完全に死んだ状態からでも甦らせることができる──あの薬のプロトタイプだ。

 警戒するに越したことは無い。

 

「んじゃまー、とりあえず手錠ガチャンで」

「足りない足りない。全身拘束しておかないと何しでかすかわかんないよ」

「いエ、もう降参しましたノデ……アノ」

「包帯と鎖とロープと、とにかくここにあるもの全部で拘束して」

 

 ぐるぐる巻きにする。

 これで流石に動けないだろうってくらいまでぐるぐる巻きにする。

 

 時刻は──正午を過ぎて、一時に差し掛かる少し前。

 

 爆速解決!

 

 ……無論、とはいかず、事情聴取やら事前連絡が遅いやらで色々絞られたけど、紅守黒湖がなんとかしてくれた。彼女も時間を無駄にしたくなかったんだろうね。

 

 

CEFALOPODOS

 

 

 いつの間にか凛子ちゃんと冷泉藍子が仲良くなっていた。

 おかしい。凛子ちゃんを止めたのは僕だし、冷泉藍子と最初に戦っていたのは僕だったはずなのに。まさかこれがNTR……? まさか一般未亡人になってからNTRを経験するハメになるとはこのリハク。いやある意味これはBSSか?

 

 とはいえ一緒にいる時間という大きな壁が立ちはだかっているのは事実だったりする。凛子ちゃんと冷泉藍子は常に紅守家にいるので、一人暮らしの僕に付け入る隙は無い。むしろ差はどんどん開いて行っている一方だろう。加えて凛子ちゃんはまだ僕に負い目があるようなのでナオサーラ。

 まぁ別にいいんだけどねっ! 僕が好きなのはエロ&グロなムルシエラゴであって、百合の方は別にド趣味ってわけじゃないからいいんだけどね!!

 

 いいんだけどぉ。

 

「さて──推理の出番だぜ、小高井の姉さん」

「聞かせてもらいましょうか。的中率100%を誇るアナタの推理を」

「巻き込んでしまって申し訳ない。だが、今回は急を要する事態だと判断した」

「既に柳生の方へは当たってる。他にないか、アンタの推理に浮かび上がる被害者か、あるいは容疑者ってのは」

 

 オッサン三人はちょっと……みたいな。

 

 

 

 事は少しだけ遡る。

 歩いていたら幸運の気配がした。より正確に言うなら、なんかイチャラブしている凛子ちゃんと冷泉藍子の付き添いで来ていたデパートから、砂糖を吐き出しながら出て来たあたりのこと。幸運の気配が眼前から潮を引くように去っていくものだから、こーれは巨悪の気配と思ってとりあえず路地裏に逃げたのが運の尽き。

 

 そこには逆袈裟に切り裂かれた佐々木遼太郎お爺さんが死んでいました、と。

 まぁ通報する。凛子ちゃんたちはまだお召し物を選んでイチャコラしている最中だから、テケテケと逃げていくチビっ子には目もくれずに通報する。

 通報したら警察が到着して、顔見知りで、あれよあれよの間に連れて来られたってワケ。

 

「……私の推理、本当に信じてくれているんですか?」

「結果がすべてだ。確かにアンタの推理は荒唐無稽が過ぎるが、それで救えた命も少なくは無え。藁にも縋るって奴だよ」

「……報酬が必要です」

「あぁ? 人の命がかかってるって――」

「人の命がかかっている、というだけで毎日無償奉仕させられるようになったら困ります。警察の協力者になる気はありませんし、探偵業を営んでいるわけでもない。日雇いバイトという形ならまだしも、ですが」

 

 便利屋として扱われるのは別にいいけど、権力を笠に着れば簡単に動かせると思われるのはダメだ。

 この世界はムルシエラゴ。警察内部に敵がいたっておかしくはない。

 

「ただ、警察の方々がお金を出してバイトを雇う、というのが難しいのはわかっています。なので全て黒湖さんを経由して依頼していただければ幸いです。今回は──既に死んでいる方と推理できますので、お代は要りませんが」

 

 書きだす。

 柳生師範のいる場所と死因を。

 

「では、失礼します」

「……待てよ。その口ぶり……誰が犯人かまでわかってやがんな?」

「ですから、依頼は紅守黒湖を通して」

「誰だ。言え。報酬なら後で紅守を通していくらでも払ってやる。今言え」

 

 強面ライオンに詰め寄られる。後ろの御剣サンも京極サンも助けてくれそうにない。

 ……ちょっと「警察を信用していないですよムーブ」をかまし過ぎたか。

 

「……佐々木が殺され、柳生が死んでいるのなら、残りは一つでしょう」

「宮本……ですか?」

「はい。ただ、戦闘訓練をまともに受けていない刑事さんは入れないでください。余計な死人が出ます」

 

 詰め寄って来た強面ライオンに、けれど冷静に返す。

 むしろ冷徹に、かもしれない。

 

「私があなた達に無償で情報を流さないのは、死人を増やしたくないからです。私が犯人の所在を言えば、あなた達はすぐに人員を手配する。私の忠告も聞かずに。だからこれは初めに言っておきます。──今回の犯人は、緋垣刀吉郎よりも、紅守黒湖よりも、強い」

「!」

「ンだと……?」

「そこに警察が行ってどうなりますか。御剣さん達のような一部の方々は命からがらに逃げることは可能でしょう。ですが、そうでない方々は死にます。銃なんか効きませんよ」

「……それが、"推理"か?」

「はい。私の"推理"です。信じられないのならそれまで」

 

 屈しない。その強面は犯人への自供に適した顔なのだろうけれど、僕には通じない。 

 漫画でずっと見てたし。髭ライオン。

 

「私は今から宮本家に向かいます。ついてきたくば勝手にどうぞ」

 

 ……はて。

 僕、今何でこんなこと言ったんだろう。確実に死地なのに。

 

 紅守黒湖も引き連れないで剣聖と対峙は……流石にマズくない?

 

 

CEFALOPODOS

 

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