ひぐらしのなく頃に~ただひたすら圭一と魅音がイチャイチャするだけ編~ 作:Java-Lan
[8日目(木):園崎本家:夜:前原圭一]
お風呂から上がってきて、客間に行くと、そこには布団が敷かれていた。
それはいい。だが、枕が二つ置いてある。
…これはなんだよ。
「いや、なんだよも無いよな。多分魅音の分だ。
一緒に寝るってことだろ。うん。」
1人ノリツッコミ。
自分でも、ちょっと精神の安定を欠いているのが分かる。
布団前で、特に意味なく正座する。
いや、確か魅音には、ちゃんと自分の部屋がある。
寝るとしたら、そこじゃないか?
…そうじゃないよな。
今の俺は、客人兼婚約者だ。
いや、もっと言えば夫と言い換えても良い。
そうなれば、アレだ。
客間に呼んで二人で寝るか。
自室に呼んで二人で寝るか。
の二択になるんじゃないか?
いやいや、もちろん俺だって、
園崎本家で寝ると決めた時点でこうなることは、
予想できていたさ。
なにしろ、うちの前原家でもそうだったんだから。
感性が明治時代ぐらいのこの家がやらないわけがない。
だけどさ。
俺達ぐらいの年齢で、普通、一緒に寝させるか?
間違いがあったらどうするんだよ!
「待て待て、前原圭一。冷静になれ。
とめどもなく、わけのわからない思考の流れに
とらわれたぞ。とにかく、魅音に…」
その時、客間のふすまが開いた。
「み、魅音…?」
そこには真っ白い着物を身に着け、
正座をして深々と頭をさげた魅音がいた。
「本日は旦那様のお情けを賜りたくまいりました」
頭をあげた魅音。
その瞳には、光が無く、どこかミステリアスな感じがある。
「魅音…お前、どうしたっていうんだよ…」
「どう、とは?」
なぜ、そんな当たり前のことを聞くのか?
と言わんばかりに、魅音は立ち上がると、俺の方に向かってきた。
今の魅音には、何故か冷たいものを感じる。
正直、怖い。
俺の体は震える。
だが、ここで下がってはいけない。
たぶん、下がったら魅音を傷つける。
俺の前に来た魅音は再び座り直し、
両手をついて頭を下げる。
「我が夫にお願いを申し上げます。私に情けをお与えください」
情け、ってなんだ…?
どういう意味だ。さっぱりわからないぞ。
俺が気圧され、何もいえないでいると、
魅音は、俺の顔をじっと見つめて着物を脱ぎ始めた。
「おい、何をしていんだよ!」
慌てて、俺は脱ごうとする魅音の手を握る。
魅音の胸が半分見えている。
俺をツバのみ込んだ。
「いきなりどうして…」
慌てて視線を魅音の顔に移すと、
そこには月明かりに照らされた、この世のものとは思えない美しさの魅音がいた。
「駄目なの?圭ちゃん?」
「え?」
俺はその声に、手を放してしまった。
すると、魅音は後ろを向き、服を腰まで一気に脱いだ。
止める暇も無かった。そしておれは絶句した。
そこには、鬼の刺青が掘られていた。
「これが、本当の私。
園崎家次期当主、園崎魅音…」
俺はその光景に声も出せないでいた。
鬼の刺青の迫力、月明かりに照らせた魅音の美しさ。
そして…悲しみに満ちた魅音からあふれる妖しい雰囲気に、俺は飲まれていた。
「魅音…」
「圭ちゃん。これを…」
魅音は振り返ると、左手で両胸を隠し、
右手で、赤匕首を差し出した。
「これで、どうしろって…」
「もし、私を拒絶するのなら、これで刺して圭ちゃん…」
刺す?それって、魅音を殺すってことか?
「圭ちゃんに受け入れられないのなら
私はもう生きていられない」
「そんな…こと…言うなよ」
魅音の目から一筋の涙が落ちた。
声が出ない。
本気なんだ。魅音は本気で事を成そうとしているんだ。
「私の全部を圭ちゃんにさらけだしたんだよ。
だから、お願い…」
魅音はそういって、俺の胸に飛び込んできた。
何も言えなかった。魅音の両眼からポロポロと涙がこぼれ堕ちていた。
その涙が衝撃で。
俺は体が震えた。
おそらく、ここから俺が逃げたりしても、
その赤匕首で魅音は死ぬだろう。
それぐらいの覚悟で魅音は、今、ここにいる。
魅音が全てをさらけ出しているのであれば
俺はどうする?決まっている!抱きしめるんだ!
「…魅音!」
俺は力強く魅音を抱きしめた。
そして…
[8日目(木):園崎本家:夜:園崎魅音]
――― 20分前 ―――
アハハハ、圭ちゃんったら、すっかりのぼせて!
最後はぐでってやんの。すこーし、おじさんもやりすぎたかな?
でも、楽しかったな。
ずっと、このまま楽しいのが続けばいいのに。
ううん。続くはずだよ。
だってもう、圭ちゃんはさ、おじさんのものなんだもん。
へへへ、そう思うと自然に、頬がゆるんでくるなぁ
いけない、いけない。
こんなんじゃ、バっちゃが眼の前にいるのに、怒られちゃうよ。
しゃきっとしないと!ヘヘヘヘ…
「…で、今日泊まるんか?」
「え?圭ちゃん。うん。今日は泊まるよ。
客室に布団用意したけど…あはははは、圭ちゃん
紳士だから、手を出してこないかも!」
「…なぁ、そろそろ歳じゃけな…いつお迎えがきても
不思議じゃないんて」
「大丈夫だよバっちゃ。
バっちゃなら100歳や、200歳ぐらいまで長生きするって」
園崎お魎の手が、魅音の手の上におかれる。
「バッちゃ…?」
「なぁ魅音。わしな、年甲斐もなく夢な。もっちまった
ひ孫の顔を見る夢を、な…」
「………」
「ワシの若いころは、14.5.6で結婚して出産するなんて
珍しいことでも何でもぁ、なかったんよ」
「………」
「社会なんちゅう、ものは適切なぁ私財と、それと弁護士がおりゃ、
なんとかなるちゅーもんだ。」
雛見沢という場所には一つの暗黙のルールがある。
雛見沢を支配する園崎家。
その当主の園崎お魎は、最高指導者であるが、
必ずしも、全ての命令を口に出すものでは無い。
― 園崎お魎が憂慮した ―
その事実を忖度した者達が実行し、
それを村ぐるみで隠ぺいするという不文律が存在する。
このシステムは、末端だけでは無い。
当主代行であり、次期当主でもある園崎魅音も、
またそのシステムに組み込まれている。
魅音の瞳から、光が消える。
園崎魅音が、当主と意識して立つときと同じ表情だ。
「失礼いたします。おばあ様」
うやうやしく頭を下げて、この場からさがる。
園崎お魎が、ひ孫の顔を見るのを望んでいる。
だとするならば、自分はそれを実行できる立場にある。
選択の余地などは無い。
”できる”のであれば”実行”するだけだ。
自分の部屋に行き、白無垢の衣装に身を包む。
唇に紅を塗り、ナチュラルメイクを施す。
相手は若い圭一だ。
あまり刺激が強くない方が良いだろう。
赤匕首を懐に入れる。これは
脅しにも泣き落としにも使えるだろう。
圭一のいる客間に向かう。
美しい月が出ている。
入る向きにも気をつけよう。
月明かりに照らされた方が、きっと効果的だ。
正座をして、ふすまをあける。
頭を下げて、哀願する。
「本日は旦那様のお情けを賜りたくまいりました」
少し時代かかりすぎた台詞だったか?
圭一が驚いたような顔を見ている。
―アハハハ、おもしろいな。
圭ちゃん、面食らってる。
こういう場合のときは、意識が自分から少し離れる。
言うなれば、もう一人の自分を見るような感覚に陥る。
まるで、舞台を近くで見る客のように、
テレビを見ている視聴者のように、
遠くから自分で自分を見守るような感覚に。
「魅音、お前、どうしたっていうんだよ…」
「どう、とは?」
―どうも何も、そんなの一つしかないじゃん。
もう、圭ちゃんバカだなぁ。そんなのを言わせる気なの?
仕方がない。近づいてはっきり言ってやるか。
魅音は圭一に近づき、再び正座をする。
「我が夫にお願いを申し上げます。私に情けをお与えください」
圭一は、気圧されているのか狼狽している。
いや、あるいはもっと根本的な原因の可能性もある。
すなわち、無知。
―もしかして、圭ちゃん。時代劇とか見てない?
お情けの意味、分からないんじゃ…仕方ないなぁもう。
「おい、何をしていんだよ!」
服を脱ごうとしたら圭一に手を握られ止められた。
困惑しているのはわかるが、ここで止められると魅音としても困る。
圭一を誘惑したいというのに。
「いきなりどうして…」
それでも半裸になった魅音の体を見て、唾をのみ込むのが見える。
まるっきり無駄というわけでもないようだ。
―なら、次は泣き落とし作戦に変えますか。
こういうのやったことないんだよね。
詩音なら得意そうなんだけどさ。
「駄目なの?圭ちゃん?」
「え?」
圭一が困惑して手を離した一瞬をついて、後ろを見せ、一気に上を脱いだ。
圭一の眼には鬼の刺青が掘られているのが見えるだろう。
「これが、本当の私。
園崎家次期当主、園崎魅音…」
園崎家の鬼の歴史が集約されたような刺青を見て、どう思う?
普通の人なら逃げるかもしれない。
でも圭一は違う。逃げない。間違いなく同情する。
そうでなければ、ここにはいない。
園崎魅音は圭一を100%信じている。
だからこそ、やれる。
そして、赤匕首を見せる。
「もし、私を拒絶するのなら、これで刺して圭ちゃん…」
これで決まりだ。
これで前原圭一は必ずおちる。
―我ながら、悪辣だとおもうけど、いいよね?
妻なんだからさ。
とはいえ、やりすぎということは無いだろう。
―まぁ、これで堕ちたとおもうけれど、
あと、もう一押し、やっておくかな。
「圭ちゃんに受け入れられないのなら
私はもう生きていられない。」
一筋の涙を落とす。
―いや、我ながら、役者だわ。
初めてやったにしては完璧に涙を流せた。
詩音が見ていたら「お姉やるじゃない」と称賛してくれたかもしれない。
正直、自分らしくは無いとは思うし、普段なら絶対にしないだろう。
でも祖母の願いために、
何より自分自身が愛する圭一に抱きしめられるために。
やってのけられた。
愛する圭一を嘘の涙で騙すという、
ほんの少しの小さな胸の痛みと引き換えに。
そして、それは正しく報われた。
「そんな…こと…言うなよ」
圭一は、自分の行動に心をうたれていた。
―あぁ、圭ちゃん。そんな悲しい顏しないでよ。
てか、こんなんで、本当大丈夫?悪い人に騙されたりしない?
見え見えじゃん。こんなの演技だって。
「…魅音!」
圭一が魅音を力強く抱きしめ、押し倒す。
―はぁ~やっとだよ。
もう、圭ちゃんったら、紳士にもほどがあるよ。
それだけさ、おじさんを大好きだってことなんだろうけどさ。
現実の自分を見る、もうひとりの意識としての自分は、思考はあっても
感情はあまり無い。だから圭一を騙していても胸にわずかな痛みはあれど、良心の呵責もほとんどない。
ただ、残念だとは思っている。
この状態で、圭一と『初夜』を迎えたとしても、
それはテレビの映像を見ているのと同じで、あまり実感がわかないだろう。
―仕方がないよね。それでも。
でも初めてが圭ちゃんだってのは嬉しいことだし、
ワガママはいえないよね。二回目に期待かな?
そう。これはバっちゃに言われたからだけじゃない。
園崎魅音自身も望んだこと。
だから、これは誰も悪くないし、誰の責任でもない。
ただ、ちょっとだけ圭ちゃんには罪悪感を覚えさせるかもしれない。
後で、そこのフォローはしてあげないと。
「…魅音、俺」
いいんだよ。圭ちゃん。さぁ、抱いて。
私はもう…
……
…
…ってあれ?
なんで何もしないの?
「…俺、どうやって、やったらいいかわかんないんだ!」
「うえええええ!?」
―どういうことさ!
わからないって!!こういうの男の子なら知っているもんじゃないの!
圭一の言葉に、あまりにもショックを受けすぎ、
気が付かないうちに魅音の分離していた意識が、
いつの間にか戻っていた。
「ちょっと、わからないって、どういうこと圭ちゃん!?」
そして素の自分に戻っていることすらも、
本人は気が付いていなかった。
[8日目(木):園崎本家:夜:前原圭一]
「うえええええ!?」
魅音がびっくりして起き上がった。
おいおい、なんて声を出しているんだよ!
さっきまでの神秘的な雰囲気が台無しだぞ!
というか、目の色がさっきと違う。
もしかして、元の魅音に戻ったのか…?
「ちょっと、わからないって、どういうこと圭ちゃん!?」
あ、うん。戻ったみたいだなこれは。
「いや、どういうことも何もさ、俺、その…仕方わかんないだ」
「この間、30分もあれば妊娠させてやるっていってたじゃん!」
「悪りぃ!あれは勢いで言っただけで…」
「…あぁ~圭ちゃん。そういうところあるよね」
つくづくすまん…!
調子に乗るのが俺の悪い癖だ!
「というか、さ…逆に魅音は知らないのか?」
「ふぇ、あたし?いや…ハハハ…」
「こういう旧家なら、その、三十六手のやり方とか
伝授されているんじゃないのか?」
「いや、うちの家なんだと思っているのさ…
てか、圭ちゃん。三十六手って言葉は知っているのに
知識ゼロって、そんなのあんの?」
「そりゃ、漫画で読むぐらいは知っているけどさ。
園崎家に伝わるやり方とかって、教わらないのか?」
「そんなん、ばっちゃからは
『相手に身を任せて、天井の染み数えればええ』
ってだけぐらいしか教えて貰ってないよ」
「…天井の染み?なんだそれ?」
「知らないよ!てか、本気でわからないの…!?」
子供がいくら欲しくても、
子供の作り方を知らなければ作りようが無いよな。
当たり前の現実に、打ちのめされる!
そもそも、大人は、
俺達子供に、赤ちゃんの作り方をおしえてくれないじゃないか!
本番じゃ、キャベツ畑やコウノトリでは、誤魔化せないぞ!
とはいえ、それを魅音に言うのもおかしな話だけどさ。
結局のところ、俺達は途方にくれるしかない。
「うん、まぁ…そいうのって、どこで勉強すればいいんだろうな。
魅音は知っているか?」
「いや、そりゃトルコ風呂とか…」
「外国までいくのかよ!無理だろ!」
「ちがう、違う、トルコ風呂って、ソー…あー!ダメダメ!圭ちゃん、そんなところ行っちゃだめだ!ソープランドとか、赤線とか、遠出選考とか、ナントカ屋敷とか絶対にダメ!」
「あのさ、魅音、お前本当に知らないのか…そういう施設とか知っているってことは…
なんか、無茶苦茶詳しそうなんだけど…」
「そーゆー男が喜びそうな施設だとか、伝統とか、場所は知っているけど、
知っているだけでわかんないの!
香港映画みたからって、カンフー使えるようになるわけじゃないでしょ!!!」
「お、おう」
喧々諤々。さっきまでの雰囲気はどこへやら。
お互いに、どうやって子供の作り方を学べばいいのか、
応酬をしあう。
が、結局の所、答えは出ない。
「ま、まぁ、圭ちゃんが、本当に女の子と経験が無いってのは収穫だったけど…」
「でも、魅音は他の所で手ほどきを受けるのは嫌なんだろ?」
「そりゃ嫌だよ!逆に考えてよ圭ちゃん。おじさんが、さ、その…
誰か他の男の人に触れられるの、耐えられる?」
「う、それは無理だ。魅音は、その…俺の嫁なんだから!」
「ククク、だよねぇ、おじさんもそう思うよ。園崎魅音は、圭ちゃんの嫁。だもんね」
そう言って、お互いを見つめて笑い合う。
まぁ、これはこれで楽しいけど、実際問題どうするんだこれ?
知恵先生は無理だ。卒倒してしまうだろう。
親父とお袋に聞く?恥ずかしくて無理だ。
それじゃ、どうする?後はお医者さんにでも聞くしかない。
お医者さん?あ、そうだ…
お医者さんと言えば、一人、いるじゃないか!
「なら監督に教えてもらうってのはどうかな?」
「監督って…えっと、診療所の入江先生の事?」
「医者なら、そういうの詳しいだろ?魅音は三四さんに教えて貰えればいいし」
俺がそう提案すると
先ほどまで、困り顔だった魅音の顔も
パァっと明るくなった。
「あ、それ、意外とグットアイデアかも!じゃあさ、明日、教えに貰いにいこうよ!」
やっぱり魅音はミステリアスや、困った顔より、
明るい顏の時が一番可愛い…って明日かよ!
「善は急げだよ圭ちゃん!朝、学校に連絡して、うちから直接診療所へ向かおう」
「お、おう。わかった。」
正しいか否かは置いておいて
とりあえず、答えが見つかったので、俺達は安堵した。
もう、これ以上はさすがに何もやる気がしない。
なら、今日はこのまま寝よう。ということで意見が一致した。
俺と魅音は早々と布団に入り抱き合う。
色々あったけど、これはこれで今日も面白い一日だったぜ。
「ねぇ、圭ちゃん」
「なんだ魅音」
「キス、しようか?」
上目遣いで俺を見る魅音。
今日は、もうちょっとだけ続きそうだ…
トピック: [ 魅音の分離した意識 ]
※トピックでは「ひぐらしのなく頃に」のネタバレが含まれます※
原作ゲームでは、瞳の光を失った当主モード・園崎魅音に対する心理的描写が無いために追加した、本作独自の設定です。
本話で書かれて意識の分離描写は、漫画ゲンガンオメガなどでも言われる「自分をもう一人の自分がみるような感じ」「俯瞰視点」あるいは「ゾーン」と呼ばれる現象です。訓練を重ねたスポーツ選手や役者などでも持っている人間はいますが、当主として育てられた園崎魅音が、そういう客観的視点で自分を見つめられるようになっていても不思議ではないでしょう。