ひぐらしのなく頃に~ただひたすら圭一と魅音がイチャイチャするだけ編~   作:Java-Lan

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インターローグ「野村」

[8日目(木):インターローグ:野村]

 

寂れた港町の波止場に野村はいた。

彼女が乗ってきた黒い車によりかかり、約束の相手が来るのを待っている。

 

この場所を指定したのは彼女自身だ。

理由は、これから来る男の縄張り、ぞくに言う”シマ”だからである。

 

(…まさか、彼女が賛同しないとはね)

 

鷹野三四が、彼女の提案に乗らなかったのは想定外であった。

彼女の信念、行動原理を考えれば、99%の確実性が保証されていたはずである。

だが、鷹野三四は乗ってこなかった。

 

作戦の概要を知る彼女を消そうとも考えたが、

入江機関を守る情報工作部隊「山狗」の精鋭を常時二人以上の護衛をつけている彼女を暗殺するのは容易ではなかった。

 

(まぁいいわ。本当の目的は鷹野三四では無いのだから)

 

予想外ではあったが、予定外では無い。

計画というものは常に幾つか別のプランを用意しているものだ。

 

遠くから、こちらに近づいてくる車が見える。

今夜の会合相手だろう。野村の近くまで来ると、二人の男が降りてきた。

 

1人は、園崎組の大幹部であるミフネ組の組長ミフネ。

そして、NO2の若頭だ。

 

「お待ちしておりました。時間ピッタリでございますね」

「あぁ、そりゃそうだろうさ。たっぷりと足代を頂いちまったからな」

 

ミフネは油断なく野村を見ながら、

若頭からファイル一式を受け取る。

 

それは昨日、野村から直接渡された、とある病気の論文であった。

 

「お前から借りたこのファイル…雛見沢症候群か?

 知り合いの医者に見せたら見た事の無い病気だと言っていたぞ」

 

「それはそうでしょう。

 まだ世に発表がされていない病気ですから。

 ところで…その医者は足がつかないように、ちゃんと消しましたか?」

 

ミフネは眉の端をあげると、野村の足元に、

雛見沢症候群というタイトルが書かれた資料ファイルを投げ捨てる。

 

「…で、俺に何をさせたい」

 

そのファイルに記載されている内容は常人ならば信じられるものではない。

 

雛見沢の住民の脳内には寄生虫がおり、

女王と呼ばれる存在が死ぬと48時間以内に狂死してまうという。

 

しかも、ただ正気を失って死ぬのでは無い。

発病後は疑心暗鬼に囚われ、無差別に殺し合いがはじまるとさえ予想されている。

 

これが事実なら、1000人ないし2000人規模で、

雛見沢全土で凄惨な殺戮劇が始まることを意味していた。

 

むろん、通常ならこのようなヨタ話をミフネが真に受けるわけがない。

 

だが、それが

「このファイルを読むだけで1億支払いましょう。

 もし信じて依頼を受けてくれればさらに払いますよ」

と言われたら話は別だ。

 

金銭の多寡は信用度のパロメータである。

この場合の信用というのは、もちろん野村と言う個人に対するものでは無い。

依頼を受けて良いかのパロメータだ。

 

1億という金は、危険と隣合わせで手に入れられるレベルの金である。

それはつまり、ヤクザにとってみれば一番得意な仕事というわけだ。

 

「言わずともおわかりでしょう」

「女王感染者である。梨花ちゃ…いや、古手梨花を殺せと言うのか?」

 

「ご名答」野村は目を細めた。

その目はミフネが思惑通りに動くと確信している目だ。

 

「これは古手梨花一人を殺すという話じゃねぇ。古手梨花を殺すということは、

 雛見沢村の住民を1000~2000人を殺すのと同じ事だ。もちろん、その中には

 雛見沢出身の俺の組員や俺自身も含まれる。そして、言わせてもらえれば、

 それをやるのに1億や2億では足りねぇな?」

 

「その点についてはご心配ありません。

 予防薬と治療薬、合わせて200人分ここに用意しています。

 それと依頼料ですが、前払いで20憶払いましょう」

 

野村が指を鳴らすと、男が現われ車のトランクを開いた。

その中にあるアタッシュケースをミフネの前に次々と置く。

 

ミフネが若頭に指で合図を送ると、アタッシュケースの中を確認した。

薬と現金は確かにその中に入っていた。

 

「前払いで20憶とは剛毅な話だな。

 俺達が持ち逃げしするとは考えないのか?」

 

野村は低く笑った。

 

「なぜです?その方が貴方達にも都合がよろしいのに」

 

ミフネのこめかみが動く。

 

「…決行時期は?」

「6月の下旬。遅くても7月の上旬。

 その時には古手梨花にはプロの護衛が2人から4人ほどついているでしょう」

「…日にちはこちらできめさせてもらうぜ?ことを起すのにぴったりの日があるからな」

「ご自由にどうぞ。期日までに実行していただければ問題ありません。ただ実行日が決まりましたら、一週間前には、こちらに日にちをご連絡ください」

 

野村が一枚の名刺を渡した。

他県の地方新聞の社名と電話番号、知らない人物の名前。

そして空欄となった告別日が書かれている。

 

実行日を、新聞社の告別広告として入れろ。

ということなのだろう。離れた県ならばそう簡単に繋がりを推測はできない。

しかも、この時代では新聞広告の欄に告別日の知らせは日常的にのっているものだ。

怪しまれる可能性も低いに違いない。

 

ミフネが顎をしゃくると、

若頭はアタッシュケースを次々と詰み始めた。

 

「アンタは誰かも知らないし目的にも興味は無い。

 そしてアンタ達も、俺達に会うことはもうねぇ」

「それで結構です」

 

野村は一礼すると、足元に捨てられた病気の資料ファイルを拾い彼女の車に乗り込みんだ。

車はゆっくりと現場から離れる。

 

…これで良い。

 

古手梨花が狙われてくれれば作戦は継続できる。

「古手梨花の死により雛見沢で大規模な災害が発生する」

という事実が大問題となればそれでよいのだ。

 

現在【東京】と呼ばれる組織では、幾つもの派閥が存在している。

その主流派は、死んだ旧長老達の流れをくむ者達が集まっていた。

 

死んだ長老たちは、核兵器に代わる生物兵器の開発を行っていた。

その開発は中止されたものの、その研究所で大惨事が起きればどうなるか。

 

それは死んだ長老たちの流れをくむ主流派に責任問題に波及するのは間違いない。

主流派の主要メンバーが失脚し、その権勢を失えば、野村の【親中派】が大きく勢力を伸ばすことができるだろう。

 

「よろしいのですか?」

 

あんな者達に任せて。運転手は暗にそう語り掛けてきた。

だが、野村は微笑みを答えとした。

 

もちろんミフネ達を全面的に信用しているわけではない。

失敗した時の次善の策は用意してある。入江機関を守る諜報工作隊「山狗」にも既に何名か手の者を潜り込ませている。ミフネ組が失敗した場合、最後は彼らが仕留めてくれるだろう。

 

だがミフネ組がやってくれた方が一番良い。

成功しても、失敗しても、ヤクザの抗争という形で、あと処理が楽だ。

 

もっとも最終的に失敗したとしても構わない。

この計画には成功の可否はさほど重要ではなく、

実行されるかどうかが問題なのだから。

 

無論、成功すれば、大規模災害を引き起こした元凶として敵対する主流派を失脚させることができ万々歳ではあるが、失敗しても大規模災害を引き起こしかねない研究を主流派がしていたとして、内閣に伝わるように調整はしてある。

 

成功にくらべて失敗した場合の影響は少ないであろうが、政府・内閣に恐るべき実験をしていたと知られては、主流派の権勢低下はいなめないだろう。うまく行けば、これを足掛かりに何名か失脚させることができるかもしれない。

 

つまり、今回の作戦で一番最悪な事態はミフネ達が行動を起こさない事だが、

これも、そう気に病むことでもない。

なぜなら、ミフネには実行しなければならない理由があるからだ。

 

ミフネの組は、園崎組の対外交渉を行う組織であり、海外組織と戦えるだけの影響力と実行力をもつぐらいに大きい。また、現当主のお魎に忠実とも言われ園崎組の中でも相当な実力を持つ大幹部であるとも言われていた。

 

だが、内情は少し違った。

ミフネには野心があった。園崎組を乗っ取るという大きな野心が。

 

その話自体は、野村が幾つか手に入れた情報の中のとるにたらない一つでしかなかったが、

数日前に行われた園崎魅音の結納式後の荒れ具合から、その情報の信憑性が高まった。

 

ミフネは、園崎組の忠臣と言われているが、園崎魅音の次期当主には懐疑的だという噂があった。

実際にお魎にも、意見をしたことがあるらしい。

 

園崎魅音の次期当主に懐疑的な理由は原因は若すぎるから、という事だが、これはハッキリいって理由になっていはいない。若いのならば、相応の歳になるまで補佐すれば良い事である。

 

さらに言うのであれば「若すぎるでダメなら誰が良いのか?」という問いには答えてはいない。

園崎魅音の母親である茜を押しているのならまだわかるが、そうでもない。

若いと言うのが理由であるとするなら、魅音の双子の妹を次期当主として押しているわけもない。

 

つまり、代替案の無い反対なのである。

これは、裏を返せばこうなる「候補者の中に園崎組をまとめられるヤツは居ない」「力のあるやつこそが園崎組のトップになるべきだ」「それは自分だ」と。

 

その推測が正しいか否かを調べるため、そして野村自身が『計画に使えるか否か』を見定めるために、この資料ファイル…「雛見沢症候群」の情報が書かれたファイルを組事務所に持ち込んだ。

 

結果は大当たりであった。

ミフネは、古手梨花の抹殺が依頼ではないかと言ったが、

あれはファイルを見て導き出した推測では無い。彼の願望だ。

 

ミフネにして見れば、古手梨花の死を引き金に起こるであろう1000人以上の死に、

現当主の園崎お魎と、次期当主である園崎魅音が含まれることが何よりも重要なのだ。

 

そして、雛見沢におきた大災害を園崎家の管理責任にすることで

クーデターを起こし、園崎組を手中に収める。

あの資料を見て、そのぐらいの展望を持ったのであろう。

 

だから20憶という金を手渡されて、

ミフネが実行にうつさないわけがない。

 

元々ミフネは忠臣のふりをして裏切るつもりだった。

いずれにせよ、いつかはミフネは反乱を起こしたに違いない。

野村はその、ほんの切っ掛けを与えたにすぎないのだ。

 

「別に構わないわ。どうせ、最後に消すんですもの」

 

ミフネに渡した治療薬と予防薬は偽物である。

最初からミフネを生かす気など無い。

 

そもそも雛見沢症候群を研究している入江機関ならともかく、

開発中の薬を数十人分も手に入れられるわけもない。

 

鷹野三四の協力がえられれば、手に入ったかもしれない。

だが鷹野三四が仲間にはいっていれば、ミフネなどに依頼はしていないのだ。

 

「派手に死んでもらおうかしらね。クスクスクス…」

 

一番確実なのは、古手梨花の死の後におきるである『雛見沢大災害』によって、彼らがまとめて『処分』されることだが、さすがにいつまでも雛見沢にいるほど、ミフネも間抜けでもあるまい。

 

ならどうするのか?

 

ヤクザの対立抗争によって事務所が爆破されて死ぬ。よくある話だ。

クーデターといっても無血とはいかないだろう。

散発的な戦いが起きるはずだ。

 

そこに、ほんの少しだけ手を加えるだけで良い。

ミフネと若頭が死ねば、この依頼を知る者はいなくなる。

 

真相を知る者はいなくなり、

雛見沢大災害がなぜ起きたのか永遠に誰も知ることは無くなる。

 

もちろん、その前に雛見沢症候群が発症して勝手にくたばってくれても良い。

そうなれば手間が省けると言うものだ。

 

車載電話が鳴り、野村は受話器を持った。

 

「えぇ、予定通りです。プランAは失敗しましたが、プランBで続行します。

 はい。何も問題はありません。そうです。この未曽有の大災害は、政界内で大きな再編を引き起こすでしょう。はい、そのように下らい計画につぎ込むよりも我々はもっと中国に資金を提供するべきなのです。それこそがよりよい未来を日本にもたらすことになるでしょう…」

 




トピック: [ 園崎組幹部ミフネと若頭 ]
※トピックでは「ひぐらしのなく頃に」のネタバレが含まれます※

三船:(本作品はミフネと呼称)
レナの学校占拠事件のBADENDから発生した『宵越し編』に登場。
園崎組幹部で海外マフィアとの交渉にあたっていた。
園崎お魎が生きていていた頃は忠臣であったが、お魎の死後に、若すぎる後継者であり、爆破事件で心身を一時的に喪失していた魅音の襲名に反対し反乱を起こした。

若頭:特に説明は無いが、三船組の若頭と思われる。
レナの学校占拠事件のBADENDから発生した『宵越し編』に登場。
三船の反乱時に卑怯な手を使い園崎茜を射殺。その後、魅音の前に現われて重傷を負わせた。かなりの活躍を見せるものの名前が無い。もしかしたら若頭というのが名前の可能性もある。
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