ひぐらしのなく頃に~ただひたすら圭一と魅音がイチャイチャするだけ編~   作:Java-Lan

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第26話_9日目(金)E「憎悪の瞬間」

[9日目(金):園崎本家:夜:園崎魅音]

 

あぁ、圭ちゃん!圭ちゃん!圭ちゃん!好き!大好き!

私の中が圭ちゃんで満たされているよ!

この心と体の全てに圭ちゃんで満たされているよ!!

 

なに、転校してきたときからおじさんの事が好きだって?

お互いに一目ぼれだって?かぁ~もう!

圭ちゃんさ、おじさんの事、萌え死にさせる気なの!?

 

どれだけおじさんの事を好きにさせれば気がすむのよ?

好きすぎて泣いちゃうなんて、もう一生無いよ、こんな体験!

 

でも、そんなおじさんを抱きしめてくれた!受け入れてくれた!!!

えへへへ、嬉しいな!おじさん、もう圭ちゃん無しじゃ生きていられないよ!

 

あぁ、楽しみだ!今夜はチャンスがなかったけど、近いうちに絶対に初夜を迎えようね!

 

そうだ、妊娠するなら体温チェックもかかさずに!三四さんが色々おしえてくれたんだよね。

男女の産み分け方とかさ!アハハハ圭ちゃん、どっちがほしいだんろ?

男の子?女の子?それとも両方?どっちでもいいや!圭ちゃんとの子だった絶対に可愛いし!

 

「お、魅音ちゃん。おかえりなさい」

園崎本家の入口まで来た魅音の眼前に、一人の貫禄のある男が立っていた。

 

「あ、ミフネのおじさま!今日は手入れの日でしたね」

ミフネの組は園崎組でも対外活動をやっている。

そのため、外国から仕入れてきた銃器の構造に詳しい者もおり、

園崎本家の地下祭具所にある銃器の定期メンテナンスなども行っていた。

 

「今さっき終わった所さ」

「おじさまが直接来るという事は…大量のブツの予定が?」

 

ミフネはにやりと笑う。

 

「おぅ、魅音ちゃんの結納祝いにソ連製のトカレフ100丁。

 お魎さんから許可をもらったから近いうちに、な」

「中国製じゃなくてソ連製!?凄い!奮発したんですね!」

 

「本家に納入するのに、中国の安物なんか入れられないからな!ガハハハ!」

 

ミフネはそういうと、体を震わせて笑う。

中国製は安いが、品質は悪い。そのせいでトカレフは悪い銃のようなイメージがあるが、実際は違う。ソ連製のトカレフは性能も品質も中国の劣化コピーとは比較にならないほど良いのだ。

 

「AKとかは仕入れるんですか?」

「仕入れたかったんだけどねぇ、ちょっとゴタゴタがあって無理だったよ。

 かわりにランチャーを何発か仕入れる予定だ」

「ひゅー!ロケットランチャーですか!また豪気ですね!それで、ブツは、いつ、本家の方に?」

「ハハハ、今どきのヤクザはランチャーぐれぇねえとな!ブツは綿流しの日に持ってくる予定さ」

 

魅音は口の端をあげる。

おそらく綿流しの日にくる出店の連中…テキ屋に、銃器の運送を手伝わせるつもりだ。

射的屋の玩具の銃に本物がまじっているとは誰も思うまい。

木を隠すなら森の中とはいうものだ。

警察も、その日はオヤシロ様の祟りに対する警備が優先で、密輸までには手が回らないはずだ。

 

「おぉ、そうだ。魅音ちゃんにプレゼントだ」

 

ミフネは懐から色彩豊かなカラフルな拳銃を取り出した。

 

「…えっと、なんですかこれ?玩具の拳銃ですか?」

「違う。違う。アメリカ製のれっきとした拳銃だよ。ただし、子供用のだがな」

 

アメリカでは子供向けの拳銃を幾つか販売されており、その中には色彩豊かで可愛らしい拳銃も幾つか存在していた。これらの銃は対象年齢が10歳ぐらいからのもあり、銃社会の奥深さを垣間見ることができる。

 

「威力は?」魅音は、そのカラフルな拳銃を構える。

堂にいった構えは、なるほど、かつてダム戦争時代に渡米して、仲間達と銃のインストラクトを受けただけはあった。

 

「あたりゃ死ぬ。それが銃ってもんだろ?」

 

魅音とミフネはお互いに顔を合わせて、声も無く笑う。

銃弾など、どこにあたっても行動不能になる。銃弾を数発くらっても動けるのは、物語の主人公が重度の薬物患者だけだ。

”誰が撃っても相手の戦闘力は失う”それが子供でも、女性でも。だからこそ、アメリカでは銃は自由のシンボルとして存在し続けるのだ。

 

「ところで魅音ちゃん。先日親族会議で言っていたけど…将来的に園崎家の方針を変えるって、

 アレ、本気なのかい?」

 

「ええ、ミフネのおじさま。時代も変わってきましたし、

 今までと同じではいけないとバっちゃも、私も思っていますから」

 

ミフネの問いに、魅音はニッコリと笑って答えた。

 

最近、親族会議において、園崎家の今後の在り方を見直す話が出ていた。

発起人は、現当主・園崎お魎である。

 

現在の園崎家は鹿骨市や興宮の表経済を牛耳り、裏社会を暴力団で仕切っていた。

表も裏も支配する旧家。市を牛耳る黒幕。

 

今の園崎家はそのように言われているが、これらの力は元々は雛見沢を守るためのものであった。

 

”雛見沢を守る”それは園崎家を筆頭にした御三家の使命であり、ダム闘争ではいかんなくその力が発揮され反対派を結集させダム建設工事を凍結させた。

…と言われている。

 

だが、それによって様々な因習が生まれ、

良きにせよ、悪しにせよ積み重なっているのが現状である。

 

もはや戦後も40年近くたつというのに、いまだに園崎家の地下祭具殿では見せしめの拷問部屋が存在し、世継ぎの児童に刺青を入れるなどの習慣が根付いている。

 

たしかにそれらはかつて、意味のあることであった。

戦後間もない時期、いち早く復興をとげた雛見沢に対する憎しみや偏見、言われなき差別と闘うために”力”が必要であった。

 

園崎家や御三家は、その力を結集させるための”象徴”であった。

古くは鬼の末裔の仙人の一族として、新しくは雛見沢再興の旗頭として。

 

力の”象徴”としての”恐怖”として。

だからこそ刺青を。だからこそ結束を。だからこそ敵の排除を。

 

だが、現代では違う。

もはや、そんなことをせずとも良い時代へと移り変わった。

 

悪しき、古き因習はただちに打破するべし。

 

それを教えてくれたのは、

前原圭一だった。

 

前原圭一は、人々を説き伏せてダム闘争で虐げられていた北条家を、北条沙都子を救った。

これによって目覚めたのは誰でも無い現当主であった園崎お魎であった。

 

ダム闘争によりスケープゴートにされた北条一族は、闘争終了後も雛見沢で敵視されていた。

これは、すでに園崎家でもどうにもできない事態であった。

 

老いていたお魎は、この因習やしがらみは、すべて自分の死後に

後継者である園崎魅音によって清算するほかは無いと考えていた。

 

だが、前原圭一の献身的努力により、改善不可能だと諦めていた

「雛見沢に蔓延していた北条家へのいわれなき差別」という悪習は打破されたのである。

 

その衝撃は計り知れないものであった。

 

村に新しい風をもたらす新たな若者の登場。

しかも、そのような稀有な人物が園崎家次期当主である自分の孫と結婚し、婿養子に入る。

 

自分が生きている内に因習の改善は無理であると結論づけていた園崎お魎にとってみれば、

それはこの上もなく心を震わせる出来事にあったに違いない。

 

だからこそ、園崎お魎は、親族会議において園崎家のありようを変えていくことを決めたのだ。

 

老骨に鞭を打ち、最後の使命として、

新時代の若者達の為に道筋(ロードマップ)を作る。

 

もちろんそれは当主就任後、園崎家と雛見沢の改革を求めてられていた魅音にとっても喜んで受け入れられるものであった。

 

いずれ変わらなくてはならない。

変えなくてはならない。

 

この因習をオヤシロ様の祟りを断ち切る。

 

その想いを胸に宿していた魅音にとって、

積極的に改革に乗り出し始めたお魎を手伝うのは至極当然であり、むしろ率先して行動する気構えでいた。

 

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だが、当然それに反対する者達も多くいた。

 

古いやり方に固執する者。

圧倒的な力による頂点からの支配を望む者。

園崎家というピラミッド支配を駆使して、勢力を拡大しようと暗躍する者達。

 

そのような手合いには”恐怖”による支配という”力”を弱めようとする、

今回のお魎の改革推進は眉をひそめるものであった。

 

ミフネは大きくため息をつく。

 

「だがな。魅音ちゃん…そういう考えを嫌うものは多いぞ。今、園崎家が持っている力をさらに拡大すればいずれ、この県だけではなく、関西や中部…いや、関東にさせ勢力を伸ばすことができる」

 

「そうですね。でも世の中には身の丈というものがあるんです。

 膨張した風船はいずれ破裂しますよ、おじさま」

 

一瞬、ミフネが不快そうな顔をしたが、それを魅音は改革反対派に対するものであると魅音は()()()()()()。なぜなら、ミフネは一言、二言、多いものの、いつだって園崎お魎の味方だったからだ。

 

「ミフネのおじさま、頼みますよ。こういう時にこそ、おじさまの力が頼りなんですから」

「ガハハハ!任せな!ま、俺個人としては方針転換には賛同できんが、お魎さんと、魅音ちゃんの為だ。頑張るさ!」

 

ぷっぷー!

黒い車からクラクションが鳴る。

 

「おっと、うちの若頭がよんでやがる。じゃあ、魅音ちゃん。また!」

「はい、おじさま!また!」

 

園崎本家の前にいた黒塗りの車が何台か離れていくのを見届けると、邸内へと入った。

帰ってきたことを祖母に伝えるため、園崎お魎の部屋の前の廊下に正座をする。

 

「バっちゃ、ただいま!今帰って来たよ」

「…そか」

 

その時、魅音は異変に気が付いた。

お魎の前に、座布団がしかれ、お盆の上には茶菓子と急須、空になった湯呑が置かれている。

つい先ほどまで、誰かがいたらしい。

 

「…入江がきとったで」

「監督が!?」

「あのボンクラ、ワシ相手に5時間も粘りおって…

 ひ孫の顏みるんわ、そない悪いこっちゃことかいな」

 

しまった!

魅音は頭を下げた。

 

「ゴメン!バっちゃ!告げ口するつもりは無かったんだ!ただ…」

「わぁとるわい。昨日の夜、あんだけ大声で言いあってりゃぁ、嫌でも聞こえるよって」

 

魅音は赤面する。

たった三人しかいない日本家屋で、ふすまを全開にして言い合いをしていれば、その内容は嫌でも耳に入るだろう。

園崎お魎は目の前にあった湯呑を持つと、少しだけ口につけた。

 

「入江言うんには、大石にな訴えろと脅し、かけられてるっちゅぅ話や…」

 

大石!興宮署の大石警部!

まさか、診療所にいたのか!?それを婚約者と一緒にいて気が付かなかったと!

何と言う不覚!当主代行としてあるまじき大失態!

 

魅音は後ろに散歩下がり土下座する。

「申し訳ありません!この”ケジメ”はっ…!」

「もう、ええ…」

 

バっちゃ…?

顔をあげた魅音の目に、手招きするお魎の姿が入った。

おずおずと、お魎の前にくると、手を握られる。

 

「ワシもな。ひ孫の顏がみたいって、少し、無理言い過ぎたかもしれん。

 お前の体に負担をかけてまで望むものでもないやろしな」

「いや、バっちゃ…それは…」

「それに婿はんも、なんか、精神的に追い詰められ取るとも聞いたで…

 すまんこっちゃこと、してしまったわな」

 

…婿?圭ちゃん…!知恵先生の話が伝わっていた!?

考えてみれば当たり前だ。入江先生は知恵先生に連絡をしていたのだ。

知恵先生の圭一の自殺未遂の勘違いを、入江先生が知っていれば、説得の交渉につかったに決まっている!

 

「だからな。あとは、好きにしてええ」

…え?

 

「ワシはもう口を挟まんし、無理はいわんよ」

バっちゃっ…!

 

魅音は口を開こうとした。

だが、何も言えなかった。

 

お魎が納得した顔をしていたからだ。

これ以上、話をしても無駄だ。

 

魅音はうつむくと、目に涙が溢れてきた。

 

…あとは好きにしろ。

それは事実上の『この件には手を引け』という意味であり、同時に『しばらくは子作りはするな』という意味がある。

魅音は奈落の底に落されたような気がした。

ついさっきまで、あれほど圭一との婚前交渉を楽しみにしていたのに。

ほんの数分前まで、どんな子供が生まれるのか楽しみにしていたのに。

 

でも、だからといって、祖母を責められるのか?

中止の指示は、祖母の、自分に対する情であり、圭一に対する情から来ているものであるなら、何を言えることがあるというのだ?

悲しかった。情けなかった。悔しかった。

 

それは園崎家の当主の命令を遂行できないということだけではない。

純粋に、祖母にひ孫の顔を見せられなかったという想いと、愛する圭一との子を持ちたかったという想いからも来ていた。

だからといって誰を恨めばいい?

知恵先生も、入江監督も、二人の身を案じておこなった事だ。

 

だとすれば…

 

大石ッ!!!!!!

園崎魅音の体から、血が逆流するほどの激しい怒りが巻き起こった。

目が充血し、頭に血が上っていくのを感じる。唇を激しく噛み血が流れる!

 

ここまで激しい憎悪の感情を生み出したことはかつてなかった。

自分は詩音の言う所の帝王教育を受け、どんな事態でも冷静に対応できる人間であるはずだった。

 

しかし、この怒りは今までとは明らかに格が違った。

生命不変の絶対的な尊厳である()()()()()()()()()()()()()()()()()

その怒りは、生物的本能の奥深くに根差したものであり、人が理性で許容できる怒りの範疇を超えていた。

 

身を焦がすような激しい憎悪に包まれ、魅音は呪詛を吐き散らす。

 

そうだ、大石だ!あの野郎が、潰したんだ!子供を産むと言う大業を、あいつは潰した!

奴の園崎家に対する妄執はどをこしている!いや正気じゃない!奴は狂ってやがる!

そうだ、あいつは園崎家を潰そうとしている!だから、私と圭ちゃんの子作りを妨害したのだ!

許せない!絶対に許せない!ようやく大好きな圭ちゃんと一つになれると思ったに!

やっと、子供を作れると思ったのに!許せない!許せない!許せない!あいつだけは絶対に許せない!

 

定年が近いから生かしてやったのに、その返礼がこれか大石!やはりお前は殺すべきだった!

雛見沢の敵だった!そして園崎家の敵だった!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!ただでは殺さない!地下祭具殿に連れて行き、生きていることを後悔するような拷問をやってやる!もっともみじめに、むごたらしく、残忍に苦しめて殺してやる!待っていろ大石!待っていろ!!!

 

[9日目(金):興宮署:夜:大石蔵人]

 

大石蔵人が外回りを終えて興宮署に戻ってきたのは午後10時を超えたあたりであった。

署内に入り、廊下を進むとど真ん中で腕を組んで待ち構えている高杉課長の姿が見える。

 

大石が逃げるか素通りするか考えていると、高杉課長の方から近づいてきた。

 

「これはこれは、課長。どうかしましたかぁ?」

「単刀直入に言うよ大石くん。今やっていることから手を引きなさい」

「はて、どの件のことでしょう?なにせ、多くの厄介ごとを抱えておりますからね…んふふふふ…」

 

それは嘘では無い。大石は幾つもの事件を扱っている。

ただ、高杉課長が、どの件を言っているのは大体察しはついたが。

 

「はぁ…園崎家の児童虐待問題の件だよ…わかるだろ?」

 

…さすがにバアさん打つ手が早い。

大石が児童虐待の問題を入江先生と話したのは、お昼近く。

なのに、その夜にはもう対処をしている。

 

「んふふふ…また、議員の人が来ちゃっているんですか?」

「園崎県議が支援者つれて現在進行形で、署長に猛抗議中だ。君を呼んで来いと息巻いているよ」

「タハハハ!それでは回り右、して今日は、帰りましょうかね?」

 

どうせ園崎県議は皇記2500年だとか、大和男子とか、中身の無い右翼思想を喚き散らしながら怒鳴り散らしているだけだ。相手にしているだけ時間の浪費である。それならドヤ街で仲間と麻雀でもしていた方がよほど良い。

 

「大石くん。園崎のお婆ちゃんは、単にひ孫の顔が見たくて言っただけだろう?

 そんなものは、息子夫婦に子供が見たいとはっぱをかけるお年寄りとかわらない話だ」

「んふふふ…課長。その息子夫婦が未成年だから問題って話をしているんですよ?そりゃ、アラブの一部の国じゃ、年齢制限なかったり、ブラジルあたりじゃ14歳で出産も結婚もできるでしょうが、ここは日本なんです。やりますよ私は。通報があったら即ね」

 

「無いよ」

 

…はっ?

 

「園崎県議が言っていた。もう入江先生とは話がついたらしい。

 だから、この件で訴える者は誰もいない。つまり無駄だと言うことだ」

 

…やられた!

大石は一瞬、顔をゆがめた。

 

入江先生はあれでも中々の気骨の持ち主だ。脅しやすかし、金なんかで転ぶタイプの人間では無い。だとしたら簡単な事だ。園崎のババアが一時撤退を選択したのだ。

入江先生の説得を受けて、心での中で舌を出して、納得をするふりをしたに違いない。

 

お魎のバアさんが理解したと入江先生が考えたのなら、この話はこれで終わる!

 

なら、何ゆえに園崎お魎は納得するふりをしたのか?

おそらく、大石が行っていた工作がバレたからだ。

 

署内にも園崎シンパがいることは分かっている。

どこからか情報を受け取り、大石の警察内部の動きを完全に感知して先手をうったのだ。

園崎県議の抗議の速さと言い、そう考えれば辻褄があう。

 

「なははは!確かにそれだと、この話はここで終わりですな!平和結構!ラブ&ピースですよ!」

「…頼むよ大石くん。もうすぐ定年なんだろう?」

「わかってます!わかってますって!それでは、良いお年を~」

 

…園崎お魎めッ!

ちょっとしたミスが致命傷になる前に修復するとは。

その手の柔軟な判断力ができるのは、さすがと褒めてやろうでは無いか。

だが、これで終わったと思うな。次なる矢をすぐに用意してくれる。

 

「大石さん!」署内で繋ぎを頼んでいた、熊谷刑事が側にやってくる。

「今夜、各関係者に某所で集まるようお願いしてきましたが…この件、ストップですよね?どうしますか?」

既に熊谷刑事も、入江が手を引いた事は知っているようだ。ならば話は早い。

 

「んふふふ、話だけはして協力体制は整えておきましょうか?

 さすがに、もうこんなチャンスはあるとは思えませんが、一応ね」

 

今後はおそらく園崎お魎は「未成年者の自由意思による妊娠」という路線を狙ってくるに違いない。日本における性同意年齢は13歳以上だ。

不法な性的行為及び搾取的な行動からは子どもを保護しなければならないとされているが、逆に言えば不法でも搾取でもなければ可能という意味でもある。

つまり、園崎魅音が妊娠した場合も、前原圭一と園崎魅音の自由意思による婚前交渉だと前面に押し切る事もできなくはないのだ。

 

だが、そんなペテン、大石蔵人の目が黒いうちは許すつもりはない。

そのためにも、児童相談所や、児童福祉センターとの根回しや連携は必要不可欠だ。

 

「わかりました。それと大石さん…

 北海道県警の自分の知り合いから、ちょっとおかしな情報を入手したんですが」

「ん?なんです?」

「…園崎のミフネ組が、デポ船でソ連製の大量の銃器を密輸をしたって噂です」

 

デポ船とは、主に北海道を中心にソ連と密輸していた漁船の総称である。

漁の取れない時期に、一部の漁民がヤクザなどに手を貸し、ソ連とひそかに密輸を行っていた。

銃器だけでなく、麻薬、それ違法にとれた魚介類などの取引も行っているという話もある。

 

「むふ、妙ですね…ソ連製の銃器を大量に、ですか?」

「裏は取れていないので、まだ何とも言えないですが、この時期ですからね…」

 

ミフネ組は、園崎家においては海外組織とのコネクションの構築や対応に従事している。

従って、ソ連から銃器を密輸すること自体は特に不思議なことではない。ただ、大量に。という部分がひっかかる。

 

というのも海外ではいざ知らず、銃器というのは日本においては、高価な使い捨ての道具である。

銃弾には一つ一つに特徴のある線条痕というのが存在する。つまり一回でも使われてしまうと道具の特定が出来てしまう。

そのため、ヤクザはどちらかといえば値段が安い中国製の銃器を使う。

威力も性能も低い劣化コピー品が大半だが、それでも一回こっきり使う分には十分だ。

 

ソ連製のような値段のはる高価な武器は、銃器マニアか、その道のプロ用に少数仕入れるのが普通であり大量に仕入れることはあまりない。

 

「熊ちゃん。今、園崎組はどこかと抗争してましたっけ?」

「いえ、特には…近江あたりとも、最近は冷戦状態で派手なドンパチはやっていないはずです」

 

…ふむ。大石は顎を撫でる。

綿祭りの近くに大量に高性能の銃器を園崎家が仕入れる。どうにもきな臭い。

 

普通に考えれば、大量の銃器が必要になるほどの大規模な抗争を始める準備だろう。

しかし、知っている限り、園崎組に今の所その気配はない。

 

だが、一体、なぜ?高性能の銃器が必要なのだ?

園崎家の奴らは何かを企んでいるのは間違いないが、その意図がわからない。

 

「…熊ちゃん。これ、探りを入れておいた方が良いかもしれませんよ。

 上にもこの情報あげちゃいましょうか?」

「わかりました。私のほうでもツテを頼って、もう少し情報を探ってみます」

 

熊谷刑事は、そういうと大石から離れた。

 

「児童虐待路線は消えそうですが銃器の密輸ですか…んふふふ。

 まだまだ天には見放されてはいないようですな」

 

大石は口元を歪める。

とのような小さな事実であれ、それを精査して園崎家の一穴にしてやろではないか。

必ず突破口は開く。なんとしても園崎家の裏をあばき出し『オヤシロ様連続怪死事件』の謎を解く。それこそが、定年を間際に迎えた大石の使命であり、刑事としての最後の仕事なのだから。

 

[9日目(金):興宮詩音宅:夜間:園崎詩音]

 

「あはははは!何ですかお姉!面白過ぎですよ」

「ちょっと詩音、笑わないでよ!こっちは本気なんだからさぁ」

 

今夜はだいぶ遅くなってから、お姉から電話がかかってきた。

 

午前中に何をやっていたのか聞いてみたら、もう本当、あきれるやらなにやら…

聞いているうちに爆笑しちゃった!

 

だって、婚前交渉のやりかたも知らずに、匕首抜いて相手に攻めよるって…

それ何の冗談って話!

 

「だって、バっちゃんからは、

『天井の染み数えている内に終わる』ってことぐらいしか聞いたことないしさー」

「はぁ~これが純粋培養お嬢様の末路ですか…漫画とか洋ゲーカタログばかりみてないで、

 もうちょっと女性雑誌ぐらい読んでおいても良いと思いますよ?」

「そ、そういう詩音だって、わかってないんでしょ!」

「ククク…お姉、私を誰だと思っているんですか、園崎詩音ですよ?」

「え?そんなに良く知ってんの…!?アチャー…だったら詩音に聞けばよかったかなぁ」

「…えーあの、お姉、ごめん。調子こいてた」

 

うん。さすがに教えるとか無理。

そういう経験、無いし。

 

「なんだよー!圭ちゃんに抱かれろとかいっていたのに詩音もおぼこなのかよー!」

「おぼこって言うなー!そういう所が、お姉、おじさんって言うんですよ!」

「大丈夫、大丈夫、圭ちゃん。おじさんの事大好きだから。エヘヘヘ」

 

…イラッ

 後で締めてやろうかしら、お姉?

 

「まぁ、とりあえず監督からやり方を教わったんなら、もう大丈夫ですね☆これで…」

「ダメになった」

「…え」

 

受話器の向こうで空気が淀んだ気がした。

 

「…大石の奴が入江先生を脅迫したって。バっちゃが言っていた」

「それってどういう…」

「大石の野郎が、入江先生を脅してバっちゃを児童虐待で訴えろって言って来たんだよッ!!」

 

…ヒッ!?

お姉!?

 

「だからバっちゃは諦めた!あんなに見たがっていたのにッ!大石、あいつは本当に…許せないっ!許せない!許せない!ようやく、圭ちゃんと一ついなれると思っていたのに!ようやく、バっちゃにひ孫の顔をみせらると思ったのにッ!!」

 

待って!お姉!

落ち着いて!

 

「せっかく、生かしておいてやったのにッ!それが間違いだったんだ!あいつを生かすことに何の意味も無かった!工事現場の監督のように死ねばよかったんだ!いや、殺すべきだったんだ!あいつは圭ちゃんと私の絆を潰そうとした!いや、そうじゃない!あいつは園崎家を滅ぼそうとしているんだ!そうだ!そうに決まっている!殺さなきゃ!殺さなきゃ!」

 

お願いお姉!そっちへ行っちゃダメ!

それ以上いったら、戻ってこれなくなっちゃう!

 

「お姉っ!圭ちゃんはっ!!」

「…え?」

「圭ちゃんはなんて言っているの?」

「…圭ちゃ…ん?」

 

うん。そうだよ。落ち着いてお姉。

お姉には、圭ちゃんがいるでしょ?

 

「…圭ちゃんには、まだ伝えないないよ。

 どうしよう…こんな話…きっと圭ちゃんも悲しむはずだよ…」

「お姉…」

「…わかってる詩音…圭ちゃんに、このことを伝えなきゃいけないって。でも、きっと圭ちゃんは悲しむ。悲しむはずなんだ。だって圭ちゃんも凄く楽しみにしてたから…あぁ…明日、どういう顏して伝えれば良いのかわからないよ…」

 

受話器越しから、お姉の沈痛な声が聞こえてくる。

あぁ、もう本当!大石ってアイツは余計な事ばかりする!

 

悟史くんの時もそうだった。あいつが余計な事さえしなければ…

お姉じゃなくても、殺したくなるよ!

 

「でも、圭ちゃんはお姉のこと…大好きだから、きっとわかってくれるよ」

「うん…え、えへへへ…ねぇ、詩音、聞いてくれるかな?」

「う、うん。なに?良いよ」

「今日ね。帰り道に、こう言われたんだ…圭ちゃんが転校したその日に、お互いに一目ぼれしたってことにしないかって…」

 

…えっと…一目ぼれ?

 圭ちゃんがお姉に…?

 

「んもう、圭ちゃんったらさ、素直じゃないんだからさ!

 転校したその日に、おじさんに一目ぼれしただなんて、もう…エヘヘヘヘ」

「…そっか。お姉よかったね」

「うん。あたしさ。嬉しすぎて、その…泣いちゃったんだ。アハ、バカみたいでしょ?」

「全然、そんなことないよ。人間は嬉しすぎても泣けるんだから…」

「…うん。私、圭ちゃんが好き。世界で一番好き。圭ちゃんのためなら、なんでもできる」

 

…お姉、よかった。これなら圭ちゃんがストッパーになってくれる。

 お姉が鬼ならずにすむ!そうだ、圭ちゃんに相談してみよう…!

 

それが良い!圭ちゃんならきっと何とかしてくれる!

 

「ねぇ、お姉、明日なんだけど…」

「明日?あぁ、監督の試合のこと?行くよ」

 

…え?試合あったんだ。

 なら、好都合だ。

 

「じゃ、明日、私もお昼ごろに雛見沢分校に合流するね。12時にでいい?」

「あ、いや、それはいいけど…アンタ、本当に出席日数は大丈夫なわけ?」

 

出席日数!?そんなこと気にしている場合じゃないでしょ!

お姉、自覚ないかもだけど、今パンパンにつまった風船状態なんだよ!

 

「なんども言わせないで下さい☆お姉より要領いいんで!」

「あーはいはい。じゃ、明日、雛見沢分校で待ってるよ。それじゃもう電話切るね。お休み詩音」

「お休み☆お姉!」

 

電話を戻すと手が震える。

汗が止まらない。吐き気と寒気がする。

 

姉妹の私にはわかる。

お姉は本気だ。本気で大石を殺そうと考えている。

 

お姉は優しい人間だ。

0か1かの世界で0.7とか0.5とか考え実行に移せないことがある。

正直、園崎家当主として不安だと思う時も無くも無い。

 

そのお姉が、あそこまで激しく憎悪にまみれるなんてほとんど無い。

 

少なくとも、責任感や使命感ではなく、

感情に身を任せて殺害を計画するなんてありえない。

 

それなのに、なぜ?

いや、それはわかっている。

 

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双子の私には、お姉の気持ちが手に取るようにわかる。

それがどれほどみじめで、なさけなく、むごいかを。

 

男の大石はわからない。わかってはいない。

わかってやっていたのなら大したものだ。

自分に対して死刑宣告を行ったようなものなのだから。

 

今すぐに目の前にあった子供を授かるという喜びを取り上げて

「数年待てばよい」

なんて言われて何の感情も湧き起らないなんてのは、歳をとって時間の感覚が失っていく老人だけだ。

 

いや、それが納得できる理由であれば、お姉だって悲しみはしても、あそこまで狂気にかられるはずは無い。感情的に見えても冷静なのがお姉なのだから。

 

だが、大石は『園崎家への執着』でそれをやってしまった。

大石の悪意が、お姉の中に眠る負の感情に火をつけてしまった。

 

もう、火が付いた以上、どうにもならない。

このままでは、一度ついた怒りの炎は燃え上がり周囲を焼き尽くすまで終わりはしないだろう。

 

これを止めるには、圭ちゃんにお願いするしかない。

あれほど想っている圭ちゃんなら止められるはず!

 

でも、もし止められなかったら…?

その時は、うん…わかってる。覚悟を決めよう。

 

私は園崎詩音。

園崎家次期当主・園崎魅音の影なのだから。

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