ひぐらしのなく頃に~ただひたすら圭一と魅音がイチャイチャするだけ編~   作:Java-Lan

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第27話_10日目(土)A「殺意の末に」

[10日目(土):通学路:昼:前原圭一]

 

俺はレナを連れて、いつものように魅音との合流場所に向かった。

最近、魅音に会うのが楽しい。

 

魅音の顔をみるだけで幸せな気持ちになるし、

手を握るだけで心が満ち足りる。

 

前は天使だと思っていたが今は違う。

地上に降りた女神だ。

 

…おっと、いかん。いかん。

今、顔をにやけてしまったぜ。

 

前原圭一、気を引き締めろ!

男は一歩外に出れば七人の敵がいる。

気を引き締めなくてどうするか!

 

「はぅ~☆圭一くん、今日もニコニコ!

 魅ぃちゃんに会えるの楽しみにしてるんだね!してるんだね!」

 

…失敗したようだぜ。

 

仕方がない。魅音に会えると自然に笑みが浮かぶんだからな!

これはあれだ。生理現象ってヤツだ!

 

合流場所にいくと魅音の姿見える。

今日はおとなしめで全体が小さい感じがする。

 

「おーい魅音!」

 

俺は大きく腕をふると、続いてレナも腕をふった。

「魅ぃちゃんおはよー!」

 

魅音は小さく手をふって答えた。

なんとも可愛らしい感じがする。

 

おいおい、最近少し攻めすぎだからって、今日はおしとやかにって?

ちくしょう。魅音の奴。男の心をくすぐるような事をしやがって!

 

そうくるなら、今日は俺が攻める番だな!

魅音、待っていろよ!

 

「圭ちゃん…」

 

…魅音?

 

そこにいた魅音は、あきらかに雰囲気が違っていた。

悲しげで、儚く、そして弱弱しい。

 

「魅音、その…どうした?」

 

俺が声をかけると、魅音はうつむき、

口を押えてくぐもった声を出した。

 

「…子供、つくれなくなっちゃった」

 

…え?

 

魅音の言葉に一瞬にして世界が反転した。

上下の感覚が分からなくなる。

 

脚に力が入らなくなり、体震える。

 

子供が、作れなくなった…?

どういう…ことだ…

 

まさか、病気?怪我?事故?

魅音、お前…

 

崩れ落ちそうな自分の体をなんとか支え、

視線をレナに向ける。

 

レナも顔面蒼白だ。

何を話していいのかもわからない顔をしている。

 

魅音は口を押えたまま

肩を上下させている。

 

…一体、俺と別れてから何があったんだ?

だって昨日はあんなに元気だったじゃないか!

 

俺は、緊張したせいかカラカラに乾いた喉から、

絞るように声をだした。

「魅音…なにがあったんだ?」

 

魅音は顔をあげ、

悲哀にみちた顔で口を開いた。

「バっちゃがね…子供、もういいって…」

 

…いいって。

 え?あ、それって。

 

「えっと…つまり、お魎のバっちゃんが、

 無理して子供作らなくて良いって言ったって事か?」

「…うん」

 

ぶはああああああああああ!!!

俺は中腰になって両手を太ももに乗せると、全身から息を吐きだした。

レナも、真上をむいて息をはきだして、その場にへたりこんでいる。

 

「えっと…圭ちゃん?レナ?」

「良かった…本当に良かった…」

「え…何がさ?」

 

何がさ、じゃねぇよ!

脅かしやがって!!!

 

「俺はてっきり病気やケガで魅音の身に何かが起きたのかと思って心配したんだぞ!

 全く…心配しすぎて、危うくぶっ倒れるところだったぜ!」

「ええええ!?ちょっと圭ちゃん、何の話さ!?」

 

「アハハハ、魅ぃちゃんがすっごくつらそうな顏していたから、

 レナも圭一くんも、魅ぃちゃんの体に何がおきたのか、心配したんだよ!」

 

レナも笑う。

 

魅音は心外そうな顔をしているが『魅音が子供を産めない体になった』

に比べれば、バァさんが子供を今すぐに見なくてもよくなったなんて話は、大した問題じゃない。

 

しかし、どうして子供を作らなくてもいいって話になったんだ?

 

「あ~監督がさ。どうやら、うちらの相談を受けた後に、バっちゃに直訴したみたいなんだよ。

 おじさんの体が、まだ子供が産む体になっていないから、もうちょっと待って欲しいって」

「へ~、で、バァさん。すんなり下がったのか。なんかちょっと意外だぜ」

「監督が、未成年の妊娠の危険性とか言ったみたいだけど、圭ちゃんの自殺未遂の話も、

 どうやら伝わっていたみたいでさ…」

 

「え!?圭一くん、自殺未遂なんてしていたの!」

 

レナ。心配するな。

それは知恵先生の壮絶な勘違いだ。

 

しかし、そうすると子供を作らなくても判断したのは、

お魎のバアさんが、魅音の体や、俺の精神状態を心配してくれたからってことか。

 

「うん。まぁ、そうなるよね…

レナじゃないけど、バっちゃん。優しいから、それと…ぐッ!」

 

…なんだ?

今、一瞬、凄まじい形相になったぞ。

 

「いや、まぁ…アハハ、そうことかな?」

「まぁ、仕方ないぜ。監督の言う通り、俺達はまだ子供を作れる体になっていないんだからさ。

 でも、待つっていっても数年だろ?その年になったらさ。ガンガンつくろうぜ魅音!」

「…ふぇ!?が、ガンガン?」

「おう!一年に一人ずつ…魅音とだったら30歳までに、10人ぐらいは余裕だよな!」

「じゅ、10人!け、けいちゃん。それ作りすぎだよ!」

 

「アハハハ、魅ぃちゃん大家族だね!大家族だね!」

 

照れて頭を掻いている魅音を見ながら、俺とレナは笑った。

 

今すぐ子供を作ることができなかったのは残念だけどさ。

楽しみが先に延びたと思えばどうってことないぜ?

 

「ちぇ~おじさん、すっごく悩んだのに。

 圭ちゃんにかかると、小さな問題にされちゃうよ」

「一人だから悩むんだぜ?ほら、そんなに唇をとがらせてないで、いこうぜ!」

 

「アハハハ!行こう魅ぃちゃん。圭一くん!遅れちゃうよ!」

 

俺は魅音の手を取って、歩き出す。

うん。魅音の手は温かい。

 

今日もきっと良い日になりそうだぜ!

 

[10日目(土):玩具屋:昼:前原圭一]

 

土曜日の授業を終えて俺達は、詩音の到着を待ってお昼をとると、そのあと古手神社の集会場にやってきた。

 

それというのも、俺が綿祭り実行委員としてオークションをやらなければならなくなったため、

どんな商品が置いてあるか下見に来たかったからだ。

 

そして「どうも、子供が喜びそうなものがない」ということに気が付き、俺達は玩具屋へと向かった。やはり、オークションを盛り上げるともなれば、子供もはしゃぐような商品がある方が良いに決まっている。

 

監督の試合時間にはまだ一時間以上あるため、

玩具屋でオークションに使う玩具を「徴収」することに決めた。

 

魅音は意気揚々と玩具屋に入ると、恐れおののく店長に向かって高らかと宣言した。

 

「今回の綿祭りでは、園崎家次期当主・園崎魅音の結納披露も兼ねております。したがって、バッちゃは今回のオークションのための商品提出を”大いに”期待しています!」

 

店長は見るも無残な形で崩れ落ちる。

 

「そうだよね…魅音ちゃんの結納も兼ねているなら…そうだよね…好きなだけもっていって…」

 

「ア、アハハハ…店長さんの顔色を見ながら集めようか?」

「あーダメダメ、レナ。それしちゃうと年末の親族集会で、店長、バっちゃに死ぬほど睨まれちゃう上に、超冷遇されちゃうから…」

 

レナがフォローをしようとしたが、魅音がそれを止めた。

店長さんも、うなだれるだけで何も言わない。

 

もともと、園崎家の結束の一つに、本家が行う、ほぼ無利子・無担保・長期返済可能という融資がある。そのため、親類縁者は、ご本家には頭があがらないので、わりと無茶な命令でも泣く泣く従う必要があると言う。

 

超冷遇処置というのは、すなわち、この融資特典が受けられることがなくなるので、オーナーにとっては死活問題だ。

 

「今回は、何と言っても、次期当主の園崎魅音の結納披露も兼ねているからね。

そこでしょっぱい事しちゃうと、店長さん、末代まで言われちゃうからさ。がっちりと取ってあげないと。これは店長さんのためでもあるんだよ」

 

この辺り、大人の事情はかなりエグイ。

 

「もちろん、ここで提供してくれれば、バっちゃも喜ぶだろうし、

次期当主から覚えも目出度くなるから、店長さんにとっては全体で見ればプラスなんだ」

 

まぁ、その次期当主は魅音なわけで

本人から「覚えが目出度い」と言われれば、店長さんも我慢もしてくれるだろう。

 

というわけで、店長さんには悪いが、俺達はガンガン店内の大きめの玩具に徴収用のフダを貼っていく。フダをはっておけば、あとで綿流し委員の人達が持って行くと言う仕組みだ。

 

俺は子供用プールや、子供用のアスレチックなど目につく大型アイテムに、ビシバシと札を貼っていくと、店の奥に麻雀卓があるのに気が付いた。

そうやら牌が並べられており、誰かが触っていたらしい。

 

「おーい、皆、ここに麻雀卓があるぜ」

 

俺は何気なしに声あげて振り返ると、

…おっ!?

 

そこに詩音の顏があった。

 

「詩音か、びっくりした!?」

「圭ちゃん…少し、話、良いですか?」

 

深刻そうな顔をしている。

一体何があったんだ?

 

俺が頷こうとしたその時、店内に誰かが入ってきた。

 

「んふふふふ…これはこれは、見た顏ですねぇ?」

 

あれは、確か大石警部?

沙都子の件でお世話になった…

 

詩音が鬼のような形相で、大石さんを見ている。

なんでそんな顔をしているんだ?

「大石ッ!本当、アイツ、間が悪い時にッ!」

 

詩音がものすごい勢いで俺から離れていく、一体なんだ?忙しいやつだぜ。

大石さんがこちらの方に向かってくる…あぁ、そうか、この雀卓は大石さんのか。

 

そういえば、前に集会所の前で麻雀の話を親父としていたよな。

今日はその関係で来たんだろう。

 

「これはこれは前原圭一さん、どうも、どうも~」

「はい。大石さん、その節はありがとうございました」

「いえいえ、んふふふ~聞きましたよ?貴方、園崎魅音さんとご婚約されたそうで」

 

「いやぁ~」俺は頭をかいた。

正面から、そう言われると、ちょっと恥ずかしい。

 

店内から部活メンバーが次々とやってきた。

沙都子、梨花ちゃん。レナ、それと魅音と、それを支えている詩音?

ん?どうしたんだ。魅音、調子が悪いのか?

 

「おや、前原さん。雀卓を見ておいでですが、今日は麻雀関連の獲物でもお探しに?」

「え、あ、はい…!そういえば、大石さんって、燕返しができるんですよね!

 見せてもらってもいいですか?」

「おやぁ~?んふふふ、それ、どこで聞いたんですか?あぁ…お父さんですか?あの時は、色々話をしましたからねぇ~いいですよぉ」

 

あれ?そういえば、俺、大石さんが燕返しができるって、どこで聞いたんだったけ?

親父からは、大石さんとの麻雀話は聞いてなかったはずだけど…まぁ、いいか。

 

説明しよう!燕返しとは、山牌と、手持ちの牌を一気に入れ替える、なんか凄い技である!

…うん。説明になっていないな。

 

しかし、大石さん。牌を並べる速度が尋常じゃないほど速い!

なんか相当な熟練者って感じがするぞ。

麻雀はよくやっているって話は前にも聞いたけれど、さすがって感じだ。

 

「んふふふ~そういえば、前原さん。魅音さんとはハッスルしてますかぁ?

 太陽が黄色くなるまで、がんばっちゃうのは若さの特権ですからねぇ~」

 

でたな。おっさんのエロトーク!

付き合ってはやりたいけど…

 

…がるるるるッ!!

魅音がうなり声をあげているので軽くスルーしておくか。

 

「いや、あの…俺、魅音とはそういうことはしていないんで…」

「おんやぁ~?本当ですか?でも、ちょ~とはしているでしょ?若いんですから…」

「本当ですって、監督…入江先生に大人になるまでしないように注意されましたから」

「んふふふふ~圭一さん、真面目なんですねぇ。うちのバアさんの時代なんて中学生ぐらいから子供、つくったもんですよ~」

 

大石さんのバアさんの時代って、昭和より前じゃないか?

時代遅れというか、時代そのものが違うだろ、それ。

 

「それに圭一さんはお魎さんに、ひ孫の顏が見たいっとか、言われてません?」

 

「大石ッ!!!!!!!!!!!」

びっくりした!?誰だ今叫んだの?魅音か?

凄まじい顏しやがって。

詩音が抑えているけど、さっきからおかしいぞお前。

 

「すいません。大石さん…魅音、恥ずかしがり屋なもんで…」

「いやいや、いいですよぉ、で、どうです?

 こう、言われてません?プレッシャーをかけられているとか」

 

プレッシャーって…あぁ、大石さんも知恵先生の話を聞いたのか。

もしかして、広まっているのか?俺がお魎のバアさんにプレッシャーかけられて自殺未遂したって話?雛見沢って人が少ない分、噂が広まるのも早いからな。

 

「いや、お魎のバっちゃんからのプレッシャーの話…あれ、嘘って言うか勘違いなんですよ」

「勘違い?どういうことですか」

「先日、俺、川原で倒れていた時があって、知恵先生は心配して、それをお魎のバアさんから俺がプレッシャーかけられたから自殺未遂したんじゃないかって話になって…で、監督…あぁ、診療所の入江先生の耳にも入り…って感じなんですよ。」

「えっと、じゃあ、プレッシャーをかけられているってのは…そんな事実は最初から無かった?

 入江先生の…勘違い?早とちり?ってことですか…?」

 

大石さんが目を丸くしている。いや、まぁ、そうなるよな。実際。

なんか、ちょっと大げさになっているみたいだし…それが全部勘違いでした。なんて話になったらさ。

 

全く知恵先生には困ったもんだぜ。

…いや、もとはといえば、俺と魅音が、川原でいちゃいちゃしていたのが原因だけど。

 

「そうでしたか。そうでしたか…んふふふ…」

 

大石さん、なんか妙に意気消沈しているな。

なんでだだろう?もしかして俺達の力になりたかったのか?

だとしたら、ちょっと悪い事をしたなよな。

 

「それではみなさん、お見せしますよぉ!ほっ!」

 

カチャカチャ

カシャーン!

 

\おおおおおお/

 

部活メンバーが一斉に感嘆の声をあげる!

おお、凄い!本当に牌をいれかえた!こんなこと、できるものなんだ。

 

「んふふふ、まぁ、本番では使えない技ですが、芸の一つで」

 

「あぁ、大石さん、ここにいたんですか」

 

外から長身の男の人が入って来たぞ。あれは…

「赤坂!赤坂なのですね!」

 

ん?なんだ。梨花ちゃんの知り合いか?

梨花ちゃんが、長身の男の元へ走っていく。

 

「それでは私も、ここで失礼します。今度お会いする時は別の技をお見せしますよ」

「あ、ありがとうございます。大石さん」

 

帰ろうとする大石の前に沙都子が立ちふさがった。

神妙な面持ちで頭を下げる。

 

「大石のおじさま…鉄平叔父さまをよろしくお願いしますわ」

 

叔父…北条鉄平。沙都子を虐待していた男。

そうだ。沙都子にとっては、北条は少しでも長く刑務所にぶち込んでもらいたい存在にちがいない。わかるぜ沙都子。その気持ち。

 

頼むぜ、大石さん。

少しでも長く、北条鉄平をぶちこんでくれよな。

 

「わかっていますよ。北条沙都子さん…んふふふふ…」

 

大石さんは沙都子の頭をなでると、

赤坂と呼ばれた男からビニール袋を預かり、外へと出て行った。

 

視線を雀卓に戻す。

沙都子とレナは雀卓の椅子に座り、燕返しの練習を始めていた。

 

他のメンバーはどこにいったんだ?

梨花ちゃんは、赤坂と呼んだ男と話し込んでいるけれど…

 

魅音と詩音は…あれ?いない。

いや、店の奥の方にいるみたいだ。何か話し込んでいるのか?

 

雀卓で牌を並べている沙都子が背中越しに話しかけてきた。

「圭一さん、ご心配なら、魅音さんの御様子見てくると良いのではございませんか?」

「ん、あ…そうだな?」

 

パシーン。

振り向くと、沙都子の手配が全て変わっている。

まさか…一発で燕返しを決めたのか?

 

そういえば麻雀勝負を部活でしていたとき、

魅音相手に何か技を決めてようとしていたけれど、

もしかして…

 

いや、今はそんなことはどうでもいい。

魅音と詩音が気になる。一体、二人きりで何をしているんだ?

 

店舗の奥に進むと、二人の話し声が聞こえてきた。

 

…すしかない。もう…

…で?…姉…本気?…

…まって…必…する…

…大石を…してやる…

 

「よう魅音、詩音。二人してコソコソ話か?」

 

二人して体をビクリと動かす。

おうおう、分かりやすくて助かるぜその反応。

 

魅音が笑いながら振り返る。

「アハハハハ、圭ちゃん。どこまで聞いてたの?」

「大石さんを懲らしめるってところかな?悪だくみを考えているんだなお前ら」

 

詩音も罰の悪そうな顔をして頭を掻いている。

「ありゃりゃ、お姉、聞かれてしまいましたね。どうします?」

「どうって…あっ…」

 

魅音の返事を待たず、俺は魅音の腕を掴んで引張った。

「わりぃ、詩音。魅音を借りるぜ!」

 

魅音は、俺にひっぱられるまま店舗のトイレの中までついてきた。

抵抗しないのは俺を信じているからだろう。

 

何も言わずについてきてくれるのは、嬉しいぜ。でもさ…

俺は扉に鍵を閉めて、完全に密閉空間にすると、魅音と向き合った。

 

「アハハハ、圭ちゃん。どうしたの?我慢できなくなった?」

「大石さんを殺すんだな」

 

沈黙。

 

魅音の目から光が失われていく。

あぁ、あの時と同じだ。俺に、夜迫った時と。

 

何度か目のあたりにしてわかった。

この目をした魅音は、自分の心とは一線を引いて行動を行う。

つまり、本気で何かを決意した時の目だ。

 

「聞いていたんだ。圭ちゃん」

 

「なぁ、沙都子の時も話をしただろう。どんな理由があろうとも、人を殺すのは最低の行為だ。

それをやったら、もう日常には戻れなくなる。魅音が大石を殺す理由はわからないが、理由がなんであれ、とりかえしのつかないことになるんだ。それを…」

 

「あいつは。大石は、邪魔をしたんだよ圭ちゃん!あいつは、私達の婚前交渉を邪魔し!

子供を作るのを阻止した!バっちゃんが子供を望むのを阻止した!あいつは許せない!

あいつは、私達園崎家を滅ぼそうとしているんだ!だから、殺すしかないんだ!」

 

魅音は瞳の光を失いながら、叫んだ。

今までと違う…今までは瞳から光を失ったらロボットのように抑揚して行動していた。

しかし、この魅音は…怒りに、支配されている。激情している!

 

「魅音、それは本心でいっているのかよ!人を殺すと、永遠に呪われちまうぞ!

今の日常を捨ててまで、大石さんを殺したいのかよ!どうやって殺すんだ!相手は警官だろ!無茶言うなよ!」

 

「そうだよ圭ちゃん!あいつは死ぬべきなんだ!殺すべきなんだ!いや、ダム闘争のときから

あいつは雛見沢の敵だった、だから死ぬのは当然なんだよ!生かしておいたのが間違いだったんだ!この雛見沢の御三家の次期当主として、私がアイツを殺すのは当然なんだよ圭ちゃんッ!!どうやって殺す?圭ちゃん見たい?あいつを殺す道具を!ほら、これがそれだよ!」

 

魅音が取り出したのはカラフルな拳銃だ。

一瞬、玩具かと思ったが、違う。実弾が入っている。本物の拳銃だ!

 

「…こんなもの、どこで、いや、こんな小さな銃じゃ殺せないだろ?」

 

「ハッ!圭ちゃん、銃弾なんてどこにあたっても、人間は動けなくるなるもんだよ!現実はね、漫画や映画とは違うんだ。どこでもいい!当てちまえばこっちのもんだ!動けなくなった所で、あとは頭なり、心臓なりに撃ち込めば良い!それでENDさ!小さな銃の小さな弾丸でも、十分殺せるよ!そうさ…アハハハッ!殺せる!殺せるんだ!」

 

…魅音。

だめだ。俺の話が全く通じてない。

完全に熱情にうなされている。駄目だ。どうしたらいい?どう説得する?

 

北条鉄平を殺しに行こうとした詩音には、まだ正気ともおもえる部分があった。

だが、今の魅音はどうだ?あきらかに常軌を逸している!どうすればよい?どうしたら…!

 

…あ。

 

俺は気が付いた。とんでもない勘違いをしていた。

俺に合せようとさせるから、そもそもダメなんだ。

俺が魅音に合わせるべきなんだ。

 

()()()()()()()

それがどういう結果を生み出そうとも。

 

結納のときに、何があろうと魅音と共にあると覚悟はしたろう?

お魎のバアさんと、茜さんの前で約束したろう?

今が、それを示す時なんだ。

 

「…わかった。なら、俺が殺す。その銃を寄こせ」

「アハハッ…へ…?何を言っているの?」

「俺が、大石を殺すと言ったんだ。だから、その銃を寄こしてくれ」

「な、何を、何をいっているんだよ圭ちゃん!バカな事をいわないでよ!」

 

魅音が慌てている。

こんな時にも可愛い奴だな。

 

「ハハハ、なんだよ。逆の立場になった俺と同じことを言っているじゃないか」

「バカいわないでよ!おじさんはいいんだよ!そういう世界の人間なんだから!

 でも、圭ちゃんは違うでしょ!?私は、園崎家と雛見沢を代表して、アイツを…」

「でも、俺はお前の夫だぜ?魅音」

「………」

 

魅音の目に光が戻ってきた。

落ち着いてきたんだな。うん。なら、もう良いだろう。

なら言おう。今まで、皆に言わなかったあの話を。

 

「なぁ、魅音。俺、沙都子を救出するときに詩音に、皆に言わなかったことがあるんだ」

「…なに?」

「俺は殺人を肯定しない。だから殺すのは間違っていると思う。でも、魅音、お前が考えて

考え抜いて、あらゆる手段を考えぬいて、悩み、苦しみの果てに、それでも、もし『殺す』という

選択しかないのであれば、俺は、お前の選択を肯定する」

「…圭ちゃん」

「世界中の誰もが、それはおかしいと考えていても、俺だけは絶対にお前を支持する。

お前のやった行動を、俺だけは認める。それだけの苦しみと辛さを乗り越えて行った判断を、

俺は否定しない」

「………」

「だから、最後に魅音に聞きたい。

 冷静になって考えて、それでも、なお、今ある全ての日常を全て犠牲にしてまで、

 大石を殺すのが正しいと思うのであれば、その銃を俺に渡して欲しい。

 俺は大石さんを…いや、お前を苦しめた大石の野郎を無条件で憎み、俺は引金を引く」

 

俺は魅音の手に優しく触れると、

その手に握っていた銃を取る。

 

「圭ちゃん…本気なの?」

 

そう。俺は今まで誰にも『殺人の肯定』を言わなかった。言えなかった。

当たり前だ。殺人は唾棄すべき最悪な行動で、それをおこなえば、二度と日常には戻れなくなる。

罪悪感と、苦しみの末に、誰かを疑い。誰かを呪い。自分自身をも殺してしまう。

 

でも、それでも、なお…

魅音に『殺し』という選択肢しかないのであれば、俺はそれを肯定しよう。

そして、魅音の苦しみと絶望の呪いの半分を俺は受け入れよう。

魅音と共にする人生があるのであれば、彼女自身の手だけを汚させはしない。

 

汚れるべきなのだ。共にあるべき存在として。

 

「俺も一緒に地獄に落ちる」

だって俺は、園崎魅音の夫なのだから。

 

「………………

 ………

 ……」

 

魅音は沈黙したまま、

俺の胸に頭をこすりつけてきた。

 

いつまで、そうしていたのだろうか。

魅音の顏が不思議と安らぎに満ちているのに気が付いた

 

「圭ちゃんったら…本当にさ…えへへへ…」

 

俺は魅音を優しく抱きしめてると、

頭を撫でる。

 

「はぁ、圭ちゃんの匂いって、物凄く安心する。

 なんだかさ、大石のヤツを殺すのバカらしくなっちゃったよ」

「…いいのか?」

「…うん。もういいや。大石なんかにかまっているより、

 圭ちゃんとこうしている方がずっといい」

 

わかっているじゃねぇか魅音。

そうさ、大石のアホなんてほっときゃいいんだ。

 

どうせ来年になれば定年退職するんだろ?

そうなれば、もう誰も邪魔をしない。

そうなりゃ俺達の時間だ。ガンガン子作りしようぜ?

 

その時は、もう夜は寝れるとおもうなよ魅音?

徹夜続きでお前をぶったおれさせてやるぜ!

 

「なに圭ちゃん。急にエロ親父になっちゃったの?」

「たぶん、それは俺の身近に、おじさんがいるからだと思うぞ」

「誰だぁ?圭ちゃんにおじさん精神叩きこんだのは?」

 

…誰だろうな。

 悪い奴がいたもんだぜ。

 

俺は顔をあげて目をつぶった魅音の唇を塞ぐ。

魅音は俺に抱きしめられるまま、身を任している。

 

魅音の体温と、心臓の鼓動が聞こえる。

あぁ、温かくてとても安らぐ。

 

そうさ。これ以上にやりたいことなんてあるものか。

人殺しなんてクソ喰らえ。そんなものより大事なものが間違いなくある。

 

…そうか、それに気が付いてくれたんだな。

 ありがとうな魅音。やっぱりお前は俺の最高の嫁だぜ。

 

トイレから出た俺達を詩音はニヤニヤしながら出迎えた。

 

「お姉、圭ちゃん成分、ちゃんと補充できた?」

「アハハハ!充電率120%って感じだよ!それと、詩音さっきした話ナシね!忘れて!」

「え?お姉。それって…」

 

魅音は俺の方を振り向くと、はにかんだ笑顔を見せる。

それを見た詩音が何かを察したのか高笑いを始めた。

 

「なーんだ。圭ちゃん成分をとっていたと思ったら、

 逆にお姉が成分を吸い取られていたってことですか…アハハハ!」

 

おいおい、そりゃどういう意味だ?

って、詩音、なんで近づいてくるんだ?

 

詩音は俺の前に来ると満面の笑みを浮かべる。

 

「…圭ちゃん。今の圭ちゃんは300点満点です!

 お姉免許皆伝を授けたいと思います!」

 

なんじゃそりゃ。

って、そういえば、さっき俺に何か話があるっていっていなかったか?

 

「もう、解決しちゃいました☆アハハハ」

 

わけがわからん。

本当、詩音って掴みどころの無い奴だよな。

 

ん?沙都子と梨花ちゃんとレナが、

こっちにやってくるぞ。なんだなんだ?

 

「ちょっと皆さん!そろそろグランドに向かわないと、試合が始まってしまいますわよ!」

 

「あ、やばい!もうそんな時間か!梨花ちゃんは、もういいのか?」

「はい。交渉は完璧なのです!スーパーロボSSR赤坂をゲットなのですよ☆にぱー!」

「圭ちゃん、魅ぃちゃん、詩ぃちゃん。早く☆いこ☆いこ」

 

長居しすぎた。試合に遅刻しちまう!

 

ん?どうした沙都子?不思議な顔をして…?

「いえ、圭一さん。そのズボンの前ポケットに入れているカラフルな銃はなんですの?

 オークション品ですの?」

 

あ、魅音からとった銃をポケットに入れたままだった。

後で返しておかないと…

 

「魅音さんならともかく、圭一さんに似合わない銃でございますわね。

 早く魅音さんにお返しなさいませ」

「早くするのです。沙都子も、圭一も、早く出ないと間に合わなくなるのですよ」

 

いけない!梨花ちゃんに足されて、俺も急いで玩具屋の前においてある自転車に乗り込む。

試合開始までもうすぐだ。早く向かわないと。

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