ひぐらしのなく頃に~ただひたすら圭一と魅音がイチャイチャするだけ編~   作:Java-Lan

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第30話_11日目(日)B「デート」

[11日目(日):穀倉:昼:前原圭一]

 

魅音と手をつないで穀倉の駅から出る。

詩音に背中を押されてデートを開始したは良いが何も考えていない。

文字通りノープランだ。

 

より正しく言えば、考えていないというよりも、

何も思い浮かばないっていう方が正しい。

 

一体、何をしたら良いんだ。俺は?

魅音を見ると、少し俯いて顔を赤くしている。

 

おいおい、ついさっき公衆の面前で俺の頬にキスしただろう?

今更手をつないで歩くことを恥ずかしがってどうするんだよ。

 

…とは言え、そう思う俺も顏を赤くしているのは自覚しているけどさ。

 

立ち止まっていても仕方が無いので、

当初の予定通りに本屋に向かうとしようか。

 

「とりあえずさ、本屋に行っていいか?」

「うん、いいよ…」

 

魅音が小さく返事をする。そのさまは、まるで小動物のようだ。

くそ、可愛い声をしやがって。そんなお前も、大好きだぜ。

 

何かデートらしいことはできないかと、周囲を見ながら歩いていると映画館が見えた。

デートと言えば映画だ。間違いない。でも、少し短絡的か?

 

魅音に「なぁ魅音。映画でも観るか?」と聞くと頷いたのでポスターをチェックする。

面白そうなアクション映画があったが、上映までまだ時間があるのでやはり先に本屋に向かう方が良さそうだな。

 

受付でチケットを二枚購入すると喉が渇いているのに気が付いた。

緊張しているせいか、喉がカラカラだ。

 

「ちょっと俺、ジュース買ってくる」

「あ、なら、おじさんも…」

 

映画館の外にある自販機に小銭を入れて缶ジュースを取り出すと一口飲む。

美味い。やはり喉が渇いたときの缶ジュースは最高だぜ。

 

もう一口飲もうとしたら、財布が見つからないのか魅音が自分のポケットをいじくりまわしている。まったく、仕方ないな。

 

「ほら、飲めよ魅音」

「ふぇ…その、いいの?」

 

良いに決まっているだろ?

魅音は、俺から缶ジュースを受け取ると一口飲んで、上目遣いで俺を見る。

 

「圭ちゃん、間接キスしちゃったね」

 

な、な、な、な、何をいっているんだ!?

そもそも、俺達は間接どころか直接キス。

いや、お前の場合は吸引キスまでしているだろ!

 

心の中で激しくツッコミを入れるが、

一気に上がった心拍数は止まらない。

 

俺は言葉も出せず、

魅音の手を軽く握ると正面を向いた。

 

「そ、そうだな。じゃ、行こうぜ魅音」

「うん…」

 

俺は照れ隠しに笑い、魅音の手を引いて再び歩き始める。

次に目についたのは、ゲームセンターだ。

 

興宮では玩具屋の小スペースに筐体がおいてあるだけだが、

穀倉にあるのは大人数で遊べる本格的なゲームセンターがある。

 

アーケードゲームが楽しめるとあらば寄らなければ。

俺も魅音もその手のゲームが好きだ。

 

ゲームセンターに入ると、筐体からあふれ出す色とりどりの光彩と音響が俺達を包み込む。

 

…これだ。これ。

 テンションがあがるぜ!

 

近くに設置されていた新作ゲームの筐体に座る俺と魅音。

早速対戦してみたがやはり魅音は強い。

 

初めて触ったゲームのはずなのに、魅音は巧みにコントローラを捌き

最初の一戦はなすすべもなく俺は負けてしまった。

 

「よっし!おじさんの勝ちだね!」

 

魅音は笑顔でガッツポーズをする。

 

…こんちくしょうめ。やるじゃないか!

 

俺も気合を入れてやり直したがいかんせん、

魅音に負け越しが続く。

 

強いな魅音は!

でも、こんなに電子ゲームつよかったか?

俺の方が少し上だとおもっていたけどな。

 

何度か魅音と対戦した後に、

俺は一息入れるために席を離れて魅音の後ろに立った。

 

その後、ノラの挑戦者が次々と魅音に襲い掛かってくる。

いかにもゲームセンターの常連客といった出で立ちの奴らが来たが、

魅音はそのことごとくを華麗に撃退していく。

 

対戦ゲームで連戦連勝。

後ろで見ている俺もその強さに感心する。

 

「おいおい魅音。初プレイって本当かよ?

 ハイスコア出しまくりじゃねぇか。とんでもない実力だな!?」

 

「ちっちっち~圭ちゃん。おじさんを甘くみちゃぁいけないよ?

 こういうのはセンス、動態視力!そして日頃の鍛錬のたまものなのさ!」

 

どんどん勝利を重ねて、調子もさらにあげていく。

先ほどまで小動物のように大人しかったのに、すっかりいつもの魅音に戻っている。

ゲームセンターによって正解だったぜ。

 

ただ、少し勝ち過ぎたようだ。

魅音に連敗した相手が、立ち上がってこちらに向かってくる。

 

「てめぇ、ふざけてんのかコラぁ!?」

 

学ランを着込みリーゼント仕様のこてこての不良学生だ。

こんな古代の化石みたいなやつがまだいるとは、さすがゲーセン。

かつて不良のたまり場と言われていた場所だぜ。

 

俺は魅音の盾になるべく、とっさに不良の道を塞ぐ。

 

負けた腹いせにリアルファイトで勝負ってか、良いぜ?

デートの最中に彼女を守るだなんて最高のロマンシチュエーションじゃねぇか!

 

「魅音。早く逃げろ。ここは俺が…」

 

ゴキッ!

物凄い音が響いた。

 

椅子に座っていた魅音が猛烈な速さで立ち上がると、

リーゼント野郎の脛に蹴りを入れたのだ。

 

「圭ちゃんとのデートを邪魔するなッ!

 ハラワタぶちまけられてぇかッ!!!!」

 

凄まじい啖呵で震える。

…俺が。

 

リーゼント野郎も足を引きずりながら、

情けない声をだしてゲームセンターから逃げ出していった。

 

魅音は「ふん」と鼻息を膨らませた後、

うっとりとした顏で俺の方を振り向いた。

 

「ありがとう圭ちゃん…

 おじさんをさ、守ってくれたんだね。えへへへ…」

 

いや、どちらかと言えば俺が守られた気がするんだが。

ここは流れ的に胸を張った方が良いのか?

 

「あ、あぁ…まぁな!婚約者だしな俺!」

「えへへ…かっこいいよ圭ちゃん」

 

そう言うと、魅音は俺の腕にしがみつく。

まぁ、いい。未来の夫の役得と思っていよう。うん。

 

そのまま魅音と腕を組んで

ゲームセンターから本屋へと向かった。

 

本屋に到着したは良いが、残念ながら俺が探していた本は見つからない。

どうやら配送が遅れているらしい。残念。

 

映画の開始まで、まだ余裕があるので本屋で適当に時間を潰すとしよう。

大手の本屋のために、色々な雑誌が置いてあるので見ごたえはある。

 

コンバットやガンの雑誌なんかは魅音が好きそうだ。

歴史には興味があるかはわからないけれど、世界の戦場の歴史とかはどうだろうか。

 

それとも、ここは意表をついてサバイバル特集の本とかはどうだ。

でも、これはどちらかといえば魅音より沙都子の方が好きそうだな。

 

店内を歩いていると魅音が本棚の一角を見つめた。

 

よく見ると洋ゲーのカタログコーナーみたいだ。

一冊取り出すと広げて二人で覗き込む。カタログだけあって色々な種類な洋物ゲームの紹介がされている。

 

「こうやって見ると色々なゲームがあるんだな…」

「テーブルトークRPGに、シミュレーション、カードゲームにすごろく。ファンタジーに、戦争もの、色々あるね。ほら、これなんて私の家にもあるよ」

 

洋ゲーカタログを見て魅音が饒舌になる。

俺でも名前だけ知っているものや、聞いた事も無いようなゲームまである。

遊び方が今一理解できないゲームも幾つかある。本当にマニア向けのカタログだな。

 

「そういえば、こういうテーブルRPGとかシミュレーションって、部活じゃやらないよな」

「時間かかるからね~まぁ30分で終わるやつもあるけど。梨花ちゃんや沙都子のことを考えると、あんまり長いものよりもテンポの良いゲームの方が良いでしょ?」

 

確かに、ちびっこたちは集中できる時間が短い方が良いのかもしれない。

 

「このデプロマシーってゲームなら、うちの部活だと面白く遊べるかもしれないけれど」

「デプロマシーって、外交とか交渉とかっていう意味だろ?どういう内容のゲームなんだ?」

「国の指導者になって、軍隊を動かして戦わせるんだよ。肝はタイトルの通り、国同士の交渉だね。いかに協力する国を増やし、勝つためにどのタイミングで裏切るかが重要なんだ。沙都子辺りなら、トラップ満載の外交を駆使して、ゲームの流れを無茶苦茶にしてくれるだろうね」

 

裏切り前提のゲームシステムなのか。

そりゃ、確かに沙都子なら滅茶苦茶な罠とか仕掛けてきそうだな。

『おーほほほ!ちゃんと同盟した時の条文をみないから、そうなるのですわー!』

なんて言って、終盤に色々とひっくり返しそうだ。

 

「面白いんだけどさ。ただ一つ問題があって…」

「ん、なんだ?」

「人間不信になっちゃうんだよね。コレで遊ぶと」

 

なるほど。

 

「なら勝つために常に裏切り協力、裏技、買収何でもありな俺達なら問題無いな」

「だね」魅音は二ヤリと笑う。

 

ゲームとリアルをわけて考えられない普通の人間が遊べば、

確かに友情破壊ゲームになりそうな感じだが、俺達部活メンバーは違う。

 

友情は友情として、部活の時は全力で相手を出し抜くために戦うのがモットーだ。

だから、幾らでもイカサマ、騙し、詐術を繰り広げられてもゲーム終了後に友情が壊れることは無い。

 

うん。

ゲーム中でどんな裏切りや卑怯な手をつかっても、

仲間でいられるって俺達の部活は最高だよな。

 

「圭ちゃん。そろそろ映画館にいかない?」

「おっと、もう、そんな時間か」

 

店内の時計を見ると、映画の上映時間まであと少しだ。

俺は洋ゲーカタログを購入すると魅音に渡した。

 

「え?いいの圭ちゃん」

 

突然のプレゼントに戸惑う魅音に、

俺は最高の笑顔を見せて背中を叩く。

 

「早く行こうぜ」

「ありがとう圭ちゃん。えへへ…」

 

魅音は受け取ったカタログを大事そうに抱えて歩く。

そこまで喜ぶほどのものでも無いとは思うが、魅音が笑顔だと俺も嬉しくなっちまう。

 

映画館の中に入ると、指定された席へと座る。

チケットを買えばどこの席でも座れる映画館もあるが、この映画館は全席指定らしい。

 

先に進んでいく魅音に、こっち。こっち。と手招きされて座席に座った。

映画の内容はマッチョな男が銃を片手に、拉致された娘を救うと言うよくある大作アクション映画だ。

この手の娯楽作品は、頭ら空っぽでも見れるのが良い。

 

予告編が始まると、俺の手に魅音の手が重なった。

魅音に視線をうつすと、魅音も俺を見ていた。

 

「俺が魅音を見る時、魅音もまた俺を見ているのだ…」

「圭ちゃん、圭ちゃん…ホラー映画じゃないんだからさ」

 

顔を見合わせて俺達は笑う。

映画が始まり正面を向く俺の肩に、魅音が頭をのせてきた。

 

映画の中でマッチョな主人公が丸太を持って、現われるが、

正直魅音の方が気になる。

 

劇中で、何度もちらちらと横目で俺は魅音を見ていた。

 

暗闇の中で映画の光に彩られる魅音の顔が綺麗だ。

俺は映画を見るよりも、魅音を見ている方が、多分長かった。

 

そのせいで、映画の中身がちっとも頭に入らず、エンドクレジットまでいってしまう。

しまった。初デートの映画なのに、内容を何にも覚えていないぞ。

 

「圭ちゃん出よう?」

 

魅音にたされて映画館を出る。

感想を聞かれたらどうする?

 

「映画、面白かったねぇ~いや、さすがハリウッドだよ。

 こう迫力が違うっていうかさー!」

「おう」

 

…まずい。

適当にあわせるか。

 

「父親が娘を助ける。いやー感動の大作だったねぇ」

「だな」

「あの巨大な銃を一人で抱えて撃つんだからすごいよ」

「うんうん」

「最後の敵に、かかってこいよ!は、かっこよかったね」

「本当だぜ。あれは燃えたよな!」

「最後は、宇宙ロケットが爆発してスカットしたって感じ!」

「おぉー確かに。あれはザ・ハリウッドって感じだったぜ」

 

「…圭ちゃん。映画にそんなシーンないよ」

「…え?」

 

うおっマズった!?

見ていないのがバレてる!

 

…プッあははははは!!

「えっと、魅音…?」

「圭ちゃんって、ずっとおじさん見てたでしょ?わからないと思った?」

 

俺は気恥ずかしさで真っ赤になって上を向いた。

くっそ。何もかもバレているのかよ。

 

「んもう、仕方ないな。本当におじさんの事好きなんだから…

 ほら、顔をこっちに向けて。デート中に女の子から顔を背けるのは 

 ルール違反だよ圭ちゃん」

 

そういうと魅音は俺の頬にキスをした。

キスされた頬を手の平で触ると、悪戯っぽく魅音は笑う。

 

「実を言うとおじさんも、さ。圭ちゃんに見られているの意識して、映画の中身、あまり頭の中に入ってこなかったんだよね」

「え、そうだったのか、その…すまん魅音」

「謝らなくて良いよ。初めて一緒に見る映画にしては、うん。悪くなかった」

 

魅音は俺の腕を組むと上機嫌に「喫茶店に行こうか?」と誘ってきた。

もちろん、拒否する理由なんて無い。

 

拒否する理由なんてのは無いんだが…

俺は、脚を止めてまっすぐ魅音の顔を見ていた。

 

「どうしたの圭ちゃん?

 喫茶店行きたくない?」

「いや、喫茶店は行きたいんだけどさ、

 その…聞いても良いか?」

「なに、圭ちゃん?」

 

不思議そうに俺を見返す魅音の愛くるしい顏を見ながら、

俺は胸の鼓動を抑えきれずに、魅音に聞いた。

 

「いや、さ…魅音が自分で自分を『女の子』って言ったからさ

 珍しいと思って…」

 

いや、何でそう言ったのか、わかっている。

わかっていながら、俺はその理由を聞きたかった。

 

魅音の顔が真っ赤に染まっていく。

何気なく発した自分の言葉の意味を理解して。

 

そして、俺が聞きたかった言葉を口にした。

 

「…け、圭ちゃんの前だからに決まっているじゃん!

 もう、おじさんが素直に自分を【女の子】なんて言えるのは

 圭ちゃんの前だけなんだからね?」

 

わかってるくせに。

と、非難するような顏で俺を見る。

 

ごめんな魅音。

前に女の子Verのお前でも構わないって言ったのに意地が悪いよな。

でもさ、俺、お前の口から聞きたかったんだ。

 

「こういうのは、おじさんもらしくないとは思っているけど

 でもさ、圭ちゃんと一緒にると、わかっちゃうんだよね。

 自分が…あぁ女の子だって…あはははは、ま、おかしいよね?」

 

さらに言葉を続けた魅音だが、これはちょっといただけない。

 

らしくないってどういう事だよ。

おかしいことなんて全然ないぜ?

 

「そんなことねぇよ。魅音はさ、どこからみたって女の子だと俺は思うぜ」

「ふぇ…?」

 

普段の俺ならあまり言わないことを口走る。

いつもなら多分「だよな。お前って男の子みたいだしさ」って言っていたかもしれない。もしかしたら、デートという、いつとは違うハレの舞台だからこそ、本心を伝えられるのかもしれない。

 

そうだ。だったら、

いつもは言えない正直な気持ちを魅音に伝えよう。

 

「普段は恥ずかしいから、こんなことは言えないけどさ…

 魅音は確かに度胸もあって皆も引っ張るリーダーだけど

 それだけじゃないって一緒に居るとよくわかるぜ。

 本当は、すっげぇ可愛い女の子なんだって…

 人形を渡すときだってさ、随分と意識しちまったし俺…」

 

「け、け、圭ちゃん…」

 

”魅音は可愛い女の子”はレナの受け入りだが、

大目にみてくれ魅音。

 

というか語彙力が無いので、これ以上の上手い言い方見つからない。

 

ちくしょう、失敗した。

本屋で女性を口説くハウツー本でも買ってみるんだったぜ。

 

「だからさ、らしくないってことは無いぜ?

 前にも話しただろ?魅音も一人の女の子だって」

 

「………」

 

「いや、正直に言うと、今じゃ…その…あれだ…

 魅音は最高に魅力的で素敵な女の子だと俺は思っているからさ…

 全然、女の子でもおかしくないぜ!あははは!」

 

さすがにちょっと本心を言い過ぎた。

正直恥ずかしくて顏も赤くなってきたぞ。

 

照れ笑いで誤魔化さないと倒れそうだ!

 

それでも普段から思っている「天使」だとか「女神」とかって表現はドン引きされると困るので使わなかったのでセーフだろう。多分。

 

「…圭ちゃん」

 

魅音には俺の気持ちは伝わったみたいだ。

俺の話を聞き終えた後、顔を真っ赤にして視線をそらすと、

思いっきり頭をかきはじめる。

 

「…いや、もう、あははは…圭ちゃんって…

 デートだからってさ、おじさん、本当に困るっての。

 そんなこといわれたら、その…」

 

そして、俺の胸に飛び込む。

「魅音…?」と、

俺が声をかけると、ぼそぼそと小さい声が聞こえてきた。

 

「そう言う圭ちゃんだって…かっこいい男の子じゃん…

 頭が良くて勉強も色々教えてくれるし、話も盛り上げるのが上手くて、

 男とか女とかそういうの関係なくさ、同じような話題をノリよく楽しめるし、

 ここぞってときには、どんな困難にも立ち向かっていくし…」

 

魅音は凄い勢いで顔をあげると、

俺の目と鼻の先で言い放つ。

 

「その…笑わないでね圭ちゃん?

 圭ちゃんってさ…その…

 おじさんの理想の男の子なんだよ」

 

顔を赤く染めて、目を潤ませる魅音。

 

それは魅音の精一杯の勇気。愛の告白。

理想の男の子なんて言葉は、魅音にとっては、

もしかしたら「愛している」以上に恥ずかしい台詞かもしれない。

 

だからなのかもしれない。

この言葉を聞いて、俺の心の中は魅音への想いで溢れかえっていた。

これを一言で表現するなら、これしかない。

 

      魅音好きだ。

 

小学生か?いや、表現なんてシンプルな方が良い。

単純だからこそ真理がある。これ以上の表現なんてあるものか。

 

俺は、魅音の体を優しく抱きしめて、木陰まで誘導し、

周囲に人がいないことを確認すると、ゆっくりと顔を近づけた。

 

魅音の鼻と俺の鼻があたり、

少し、こそばゆい。

 

「魅音、好きだ。愛してる」

「私も…好き。愛してる…圭ちゃん」

 

魅音の返事を聞き終わるのと同時に、俺は魅音と唇を重ねた。

それはほんのわずかな、触れるか触れないかぐらいかの優しいキス。

風に吹かれた広葉樹のこすれ合う青葉のようなささやかな口づけ。

 

時間にしても1秒にも満たなかったかもしれない。

そんな軽いフレンチ・キス。

 

人通りのある場所で隠れて行ったので、軽めにしたつもりだけれども、

どうしたのか、心臓の鼓動が止まらない。

 

視線を移すと、

魅音も胸の高鳴りが止まらない顔をして俺を見ている。

 

「あ、あははは…なんだか、初めてのキスみたいな気分だぜ」

「…う、うん。そうだね。あははは。なんというかさ、

 二度目のファーストキスって感じだよね」

 

二度目のファーストキスか、面白い表現だぜ。

でも、確かにそんな感じがする。

 

たぶん、これって、

俺達の関係がまた進んだって事じゃないのか?

 

…って、待てよ。

 もう、一晩一緒に寝て、婚約まで済ませいるってのに

 まだ進むべき段階があるってのか?

 だとしたら、恋愛ってのは奥が深いぜ。

 

「…圭ちゃん。そろそろ喫茶店にいこうか?」

 

魅音はニッコリと微笑むと、俺の手を取る。

おっと、そうだ。ここで考え込んでも仕方ない。

まだデートの途中なんだ。楽しまないと。

 

[11日目(日):喫茶店:夕:前原圭一]

 

魅音に手を引かれ、映画館近くの喫茶店に入ると空いているテーブル席に座った。

店内に貼られているポスターを見ると、アイスコーヒーとスペシャルプリンが一緒になった、

スペシャルプリンセットというのが今お薦めらしい。

 

「あ、すいませんウィエターさん。スペシャルプリンセットを…」

「あ、スペシャルプリンセットは一つでいいです。あと飲み物一つで」

 

ウィエターに呼ぶと、魅音が勝手に注文をする。

魅音はアイスコーヒーが嫌いだったっけ?と思ったが、魅音の笑顔で気が付いた。

 

まさか、こいつジャンボパフェの復讐を果たす気では?

 

ウィエターの手によって置かれるスペシャルプリンとアイスコーヒー。

魅音は俺のすぐ横に座り直し、スプーンでプリンをすくう。

 

「よせ、魅音!」

「はい、圭ちゃん。あ~ん」

 

…パク

あぁ、なんということだ!

 

エンジェルモートで既に実証されてはいたが、

つき合ってから、ここ10日間以上、魅音の手でお昼を食べさせてもらっていた俺は、

魅音に差し出されたものは拒否できない体となってしまっていたのだ!

どんなに恥ずかしくても、もう抵抗はできない!!

 

前回の時点で既にわかっていたことだが、

あえて、ここで、もう一度言おう!

 

俺はパブロフの犬どころじゃなく、

魅音の犬に成り下がってしまったのだ!

 

「美味しい、圭ちゃん?」

「あ、あぁ…その美味いぜ魅音」

「じゃ、もっと食べさせてあげるね。圭ちゃん」

「あ、ありがとう魅音」

 

幸せそうな顏で俺にプリンを差し出す魅音に、

俺は顔を赤くして返事をする。

 

悔しいが。魅音にこうやって食べさせてもらう事に幸せを感じてしまう自分がいる。

これが、完落ちというものなのか!オレの男としての尊厳は!?

 

男・前原圭一、一生の不覚ッ!!

 

「その、魅音…俺も、食べさせてやるよ」

「ふぇ…あ、うん…」

 

俺もスプーンでプリンをすくうと、魅音の口まで持って行く。

…パク。

 

顔を赤くした魅音の小さな口で、小さくプリンを食べる姿に胸が締め付けられる。

胸が苦しい。魅音が可愛すぎて。つらい…!

 

「圭ちゃん。今日はさ、本当にありがとう。楽しかった」

 

さらに追撃で、魅音が微笑む。

くそ、俺を萌え死にさせるつもりか!

 

「そ、そうか。よかったぜ、初めてデートしたんで勝手がわからなかったけどさ」

「初めて?前に詩音とデートしていたんじゃなかったっけ?」

 

その話題を今ふるのかよ!?

これって、どう答えるのが正解なんだ?

 

「あ、ごめん。あれはその…無かった事にしたんだよね!悪い圭ちゃん!」

「いや、その…あれはさ、詩音とは違うんだ…」

「違うって、何が…?」

 

ええい。ままよ!

 

「あの時、詩音って魅音が変装しているのだとばかり思っていたからさ…俺、ずっとその…

 魅音とデートしているつもりだったんだ」

「ふぇ…おじさんと!?そ、そうだったの…あ、あははは…そっか!

 ならしょうがないよね!うんしょうがない!」

 

正確に言えば、途中で詩音と魅音は別人だと気が付いたんだが、あまりにも遅すぎた。

今、思い出しても…いや、もう思い出したくないな。止めよう。

 

「うん。圭ちゃん。もうその思い出は無かったことにしよう!

 今日が初デート、それでいいよね?」

「おう、そうだな。そうしようぜ!」

 

魅音がご機嫌だ。どうやらかわせたらしい。

くっそ、心臓に悪いぜ。

 

「お飲み物です」

 

…ぶはっ!?

ウェイターが持ってきたジュースを見て、思わず噴きそうになる。

ストローの形がハート型で二つの吸い口がある。

 

つまり、これは俺と魅音で、一緒に飲めと!?

ウィエターを呼び戻そうとしたが、もういない!

 

魅音と視線を合わせる。

さすがの魅音も体を震わせる。

 

「け、圭ちゃん…さすがに、コレ、おじさん、無理!」

「お、俺もだ。ハードルが高すぎる!」

 

一体なぜ、こんなことに…?

いや、理由を問う必要も無い!俺達は誰がどうみたって恋人同士なのだ!

恋人用のイチャイチャ・ストローを持ってきても不思議じゃない!

 

俺と魅音は無言で、それぞれの飲み物を飲み干すとレジへと向かった。

さすがにこれ以上は耐え切れない。俺達の恋愛キャパシティを超えている。

 

会計をすませてさっさと出ようとした時、

レジで思いがけない言葉を貰う。

 

「既にお連れの方より、お客様の会計は頂いておりますよ」

 

どういう意味だ?

俺も魅音もまだ支払っていないぞ?

 

「サングラスにおひげをかけた黒いスーツの方です。スペシャルプリンセットが大変お気に召して頂いたらしく、とても甘かったと言われておりました」

 

葛西さんだ!いたのか、この店にッ!?

 

魅音が顔面をお両手で抑えてその場にしゃがみこむ。

わかる!わかるぞ魅音!というか、なんで葛西さんがこの店にいたんだ!?

 

不覚だった。興宮ならともかく、まさか穀倉で出くわすなんて。

どんな奇跡だよ!そして、甘かったって、それプリンの話じゃないだろ!絶対!

 

[11日目(日):電車:夕:前原圭一]

 

葛西さんに見られていたという精神的ダメージはかなり深く、さすがに、もう完全に俺も魅音も気力を使い果たして、その後すぐに穀倉駅に足を向けた。

 

穀倉駅から電車に乗り込むと、俺と魅音は隣り合わせに座席につく。

魅音は初めてのデートで疲れたのだろうか、電車が出発すると、すぐに頭を上下に動かして眠り始め、俺の肩の寄り掛かって軽く寝いびきをたてはじめた。

 

魅音の寝顔を見ながら、俺もそっと首を魅音の方に傾ける。

 

…魅音の温かさと重さを感じる。

 

今、俺の体には魅音の重さがのしかかっている。

しかし、これは単に魅音の体重がかかっているっていうだけじゃない。

 

この重さには、魅音の全てが乗っているんだ。

 

今まで積み重ねていた人生が、心が、想いが、そして命そのものが、

今、無防備に俺の体に預けられている。

 

そう考えると、その重みに身が引き締まる。

俺は魅音の全てを、この後もずっと支えていかなければいけない。

その責任の重さたるや計り知れない。

 

怖くないと言ったら嘘になる。

だけど、俺に命そのものを預けてくれる魅音に答えなければ、

そりゃ嘘ってもんだろ?

 

なにしろ俺は、魅音の理想の男の子なんだぜ?

 

(…いや、まさか俺が、理想の男子ってのは出来過ぎだけどさ)

 

映画を見終わった後の告白を思い出し、俺は思わずニヤケてしまう。

周囲に居た人たちはさぞ気持ち悪いだろうが、こればかりは仕方がない。

 

だって、あの魅音がだぜ?

俺を理想の人だって言ってくれたんだ。

これが、ニヤケずにすむかよ!

 

もう一度、魅音の寝顔を覗き込む。

 

…可愛い顏しやがって。

 いつまでもみていたいぜ。

 

そうさ。俺は理想の男の子なんだ。

理想の…

 

……

………

……………

 

あれ?だったら…

じゃあ、俺が理想の男の子じゃなくなったら、どうなる。

 

その瞬間、俺の全身の毛穴が一斉に開き。

体中から冷たい汗が噴き出した。

 

…あ、バカ。止めろよ。

 せっかく良い気分だったのに。なんで、そんな事を思うんだよ!

 デートなんだから、最後まで気持ちよくさせてくれよッ!!

 

頭から汗が流れる。ひどく冷たい。

そして、体が強張って動かない。なぜだ?

 

そうだ。

魅音は俺が”理想の音の子”だから好きでいてくれているんだろ?

なら”そうじゃなくなったのなら”決まっているだろ?

 

…決まってる?

 あぁ、そうさ。決まってる。

 

そもそも、俺が頼りになるって、それは結果論で、

沙都子を救ったのだって無我夢中で進んだからだ。

 

大言壮語を吐いたけど、おれってそんなに凄いヤツか?

皆は、魅音は、俺を過大評価しているだけじゃないか?

 

途中で何度も挫けかけた。心が折れかけた。

俺は、皆が思うほど、そんなすげぇヤツじゃない。

 

そんな俺が、園崎家みたいな名家に婿入りして…

果たしてやっていけるのか?

ボロを出すんじゃないか?

 

それに魅音が気が付いたら、俺は、どうなる…?

そんな俺に興味なんて失うに決まってる!

 

…嫌だッ!そんなのはッ!

 魅音に…嫌われたくないッ!!

 

息が荒くなる、目がかすむ。

なんだ一体。どうしちまったんだ?

 

いや、待て、落ち着け、落ち着けって。

俺は両こぶしを膝の上に置いて、息をゆっくり吸い。吐く。

 

そうさ。俺は魅音を信じている。

魅音だって俺を信じているだろ?

 

……

………

 

あれ?違う?魅音は”理想の男の子”だから俺を信じているんじゃないのか?

俺が魅音を信じていても…魅音は、俺を…信じていない?

 

― 圭ちゃんには失望したよ ―

 

…これは、なんだ?

 いつの頃の話だ?

 

あぁ、そうだ。玩具屋で大規模な部活をした時に魅音が放った言葉だ。

俺が人生ゲームに手間取り、あまりにもふがないもんだから魅音があきれて言ったんだ吐き捨てるように。

 

あの言葉はキツかった。

俺も一瞬狼狽してしまった。だが、あの後、俺は口八丁でからくも危機を乗り越えた。

 

でも、また、その言葉を魅音から投げかけられたら?

こんなにも愛している状況で、心が崩れそうな状況で、俺はそれに耐えきれるのか?

 

魅音は優しいだけじゃない。厳しい面もある。

俺がそれに見合わなければきっと…

 

いや、いや、冷静になれ、前原圭一クールになれ!

なら、簡単な事だろ?理想の男の子を演じればいいだけじゃねぇか!

そうすれば、魅音はずっと俺を好きでいてくれるはずだろ?

 

…え?ずっと?

 それって一生、演技しなきゃならないって事か?

 

冷たい汗が止まらない。全身が嘘のように寒い。

眼の前がぐらつく。思考がまとまりが無く、変なことを次々と考える。

 

あれ?いったい、なんで、俺、こんなこと考えているんだ?

さっきまで、幸せの絶頂だったはずだろ?

 

それなのに、こんな不安で…寂しくて…絶望的な気持ちになってんるんだ?

俺は手を首筋にあてる。気分が悪い。

 

魅音の顔を見る。

こんなにもリラックスして俺に寄り掛かってくれるのに…

これほどまでに俺に全てをゆだねて幸せそうに寝ているのに…

 

お前は、俺を裏切るのか?

俺はこんなにも魅音を信じているのに?

 

嘘だよな?裏切らないよな?

なぁ、魅音…お前は…

 

俺はゆっくりと、首筋に爪を…

 

「あら、圭一さん。偶然ですわね。

 穀倉まで行かれているのは知っておりましたが、帰りの電車でお会いするなんて」

 

…その声は、沙都子?

 

俺はハッとして、声の方を振り向く。

視線の先には、大風呂敷を背負い、両手に大きな買い物袋を持った沙都子が立っていた。

 

「おーほほほ!穀倉のデパートで特売大セールを行っていたので、思わず買ってきてしまいましたの!なんと送料無料の出血サービスでございましてよ!なので、お味噌とお米も買いましたの、到着が待ち遠しいですわ!ところで、梨花を見かけませんでしたか?同じ電車にのっているはずですけれども」

 

「あ、いや…梨花ちゃんは見ていないぜ」

 

眼の前で、屈託もなく笑っている沙都子に、

なぜか俺はバツが悪なって視線をそらす。

 

「あら、あら、魅音さんったら、圭一さんによりかかって寝ておりますの?

 幸せそうですわね…よほど圭一さんのことを信じておられるのですわね」

 

「あぁ、魅音は”今の俺”を、信じているからな」

 

やばい。今、俺、棘がある言い方しちまった。

見ろよ。沙都子が驚いた顏しているじゃないか。

ほら、いつものような感じで話しかけろよ。

 

いつものような感じって…あれ?どんな感じだっけ?

 

「圭一さん、どうかなさいまして?深刻そうなお顔をしておりますけれど、

 楽しいラブラブデートではございませんでしたの?」

 

「あ、うん…いや、そうなんだけどさ、

急にその、悩んじまって……俺が、魅音の期待に応えられなくて受け入れてもらえないなんてこともあったら、嫌だな。とか…」

 

沙都子がクスクスと笑う。

 

「あら、ならば魅音さんに今のお気持ちを正直に、お話しすれば

 よろしいではございませんか。

 この間も、圭一さんもおっしゃられてましたでしょ?

 部活メンバーは家族も同然。隠し事は無しって。

 ましてや、魅音さんとは本当に家族になるんですもの。

 胸の内をさらけ出すのも大事なことでございますわよ?」

 

沙都子があっけらかんと言うのを聞いて、

俺は目から鱗が落ちたような気分になった。

 

そうだ。その通りだぜ。

悩んでいたって仕方がない。

 

俺自身が、皆や魅音が思うような男でないと考えるのなら、

それを素直に魅音に伝えるのも有りだよな。

 

魅音は面倒見が良い、それは確かだ。

俺が正直に話さえすればきっと支えてくれるはずだ。

 

その結果、前よりも愛されなくなったとしても…

嘘をつき続けて、捨てられるよりは遥かにマシじゃないか?

 

「それに受け入れられるも何も、魅音さんは圭一さんの過去をお知りになっても一緒にいたいと言われましたでしょ?そんな魅音さんですもの。きっとどんな悩みであろうと、正面から受け止めて下さいますわ」

 

そうだ。そうだよな…

なんで、それを忘れちまったんだ?

 

魅音は俺の無様な過去を受け入れてくれただろう?

一緒に居てくれるって言ったよな?

 

こんな大事な事を忘れているだなんて…

俺はよほど近視眼的になっていたんだな。

 

「その通りだよぜ。本当に良い事言うな沙都子。

 冗談じゃなく、俺ってお前にフォローされっぱなしだぜ」

 

本当、一人で悩むとろくなことを考えつかないぜ。

どんどん深みにハマって陰になっちまう。

 

1人で悩まず皆で相談する。

基本中の基本だろ?自分で言いだしたんだろ?

忘れるなよ前原圭一!

 

「お~ほほほ!これがいわゆるギブ&テイクというものでございましてよ!

 圭一さんは、私を鉄平のおじさまから助けて下さいましたんですもの、

 私が圭一さんを助けるのは当然でございましょう?」

 

それはギブ&テイクというより、

【情けは人のためならず】…情けは巡り巡って自分に戻ってくるから人に優しくしよう…が近いと思うぞ。まぁ、どっちでも良いけど。

 

しかし…なんか、心が軽くなったぜ。

サンキューな、沙都子。

 

「みー!沙都子、ここにいたのですか!探したのですよ」

 

別の車両から梨花ちゃんが現われた。やっぱり大風呂敷を背負って、

両手に袋をもっている。相当買い込んだんだな二人とも。

 

「ふぁ~おはよう圭ちゃん…って、あれ?

 梨花ちゃんに沙都子?なんで電車にのってんの?

 もしかして、うちらの後をつけてきた?」

 

のんべんたりんと魅音も起きてきた。

やれやれ、俺の気持ちも知らないで、のんびりしたもんだぜ。

ま、俺の場合は単なる一人相撲なんだけどさ。

 

興宮に駅につくと、俺達四人は一緒に降りる。

 

梨花ちゃんと沙都子の荷物が多そうだったので、魅音と一緒に家まで持って帰ろうか?と提案したが、二人して「駅に自転車があるから大丈夫」と断られた。

 

とても、自転車の籠に収まる量とも思えないが、

二人とも荷台に無理やり買った物を載せてふらふらしながら帰っていく。

 

元気なもんだぜ。

転ぶなよ。

 

[11日目(日):園崎本家:夜:前原圭一]

 

魅音を家の前まで到着した時は、既に夜の帳がおりていた。

俺達は、お互いに手の平を合わせて指を絡ませる。

 

「名残惜しいけど、今日はこれでお別れだな魅音」

「だね、圭ちゃん。今日は本当にありがとう。楽しかった」

 

魅音の少し寂しそうな笑顔が心苦しい。

ふと、先ほど電車内で悩んだことを話そうかと思ったが、今は止めておこう。

せっかくの初デートなんだ。そこで悩みなんて言って、せっかくの気分に水を差すのも悪いだろう。

 

大丈夫。

いつでも魅音とは相談できるさ。

 

心に余裕ができたせいか、さきほどよりも周囲が良く見えるぜ。

魅音のポケットのふくらみに気が付く。中に空き缶を入れているようだ。

 

「それ、捨ててこようか?」

「え?あははは、これさ、圭ちゃんとの…関節キスの記念にとっておこかなーって、アハハハハ!」

 

おいおい、なんだそれ。

それじゃ、初めて俺達がキスした学校のロッカーも、

いつか持って帰る気じゃないだろうな?

 

「あーそれもいいかもね…クククク…」

「本気かよ…?」

 

その返事の代わりに、魅音は俺の頬にキスをすると走り出す。

そして門の入口で足を止めると振り返ると大声で叫んだ。

 

「圭ちゃん。バっちゃがね。もう身内だから、好きな時に泊りに来ても良いって。

 だからさ、いつでもきていいんだよ!」

「おう!じゃ、暇なときに立ち寄るよ!」

 

魅音が手を振り、俺もそれに答えて手をふる。

ようやく、初めてのデートが終わった。今一実感がわかないが、

楽しかったのは間違いない。

 

でも、これで本当に良かったんだろうが。

少し、自信が無い。

 

[11日目(日):前原屋敷:夜:前原圭一]

 

「もう、本当~~~~に、ずぅ~~~~と、

 圭ちゃんとのラブラブデートの話を聞かされるんですよ!

 こっちは、たまったもんじゃないですよ!聞いてます!ず~~とです!」

 

「あ、あははは…それは、その…大変だったな詩音」

「笑い事じゃないです圭ちゃん!もう本当にうんざりですよ!」

 

夜もふけてからかかってきた詩音の電話は、

受けた最初から魅音のノロケ話を長々と聞かされたという愚痴だった。

 

正直、俺は俺でそんな詩音の愚痴電話をさっさと切りたい気分だったが、

さすに原因が俺にもあるわけなので、そういうわけにもいかず、聞く羽目に陥っている。

 

「圭ちゃんと間接キスした話から始まり…」

あぁ、缶ジュースを飲んだことか。

 

「圭ちゃんに助けられた話が続き―」

あれはどちらかと言えば、俺が助けられた気がするが。

 

「何も言わなくても本を取ってくれるのは、心が通じるとかの話を言われー」

洋ゲーのカタログをとってやったことか。

 

「映画館で見つめ合ったとか。そんな話ばかりなんですよ!」

あ、喫茶店の話は端折ったな。

 

「だから、ちょっと頭にきて、私いってやったんですよ!

 『お姉、私の次にデートできてよかったですね♥』って」

 

ちょっと待て、

お前なに地雷を踏んでいるんだ!?

 

「そしたら『圭ちゃんは、おじさんとデートしているつもりだったんだから無効!詩音のバーカ!バーカ!』て!もう、本当、諭してやりましょうかお姉って感じです!!」

「あ、あははは」

 

電話の向こうでぷりぷりと怒る詩音の声を聴いて、俺は笑うしかない。

しかし、話を聞いていると、どうやら魅音は初めてのデートを存分に楽しんだようだ。

いつもよりも口数が少なかったら、心配していたがそうでもなくて良かった。

 

「あのさ、なんか葛西さんに奢ってもらったんだけど、後で礼をいっておいてもらえるかな?」

「あはははは!聞きましたよ。葛西がアクション映画を見に行った帰りによった喫茶店で、プリンつっつきあっていたんですよね?その話、お姉から聞いてなかったんですけど、どうしてなんでしょうね?あはははは!」

 

それはたぶん、葛西さんに見られたことを恥ずかしがっていたからだろうな。

あの時、レジの前でうずくまっていたから。

 

「ねぇ、圭ちゃん。私の方からも、お礼を言わせてもらって良いですか?」

「ん?何の礼だ?」

「…昨日のお姉を鬼から戻してくれたお礼です」

 

玩具屋での話か。あれは確かに危なかった。

魅音は大石を殺そうと手持ちの銃を取りだしていた。

落ち着かせることが出来たのは奇跡に近いかもしれない。

 

「奇跡じゃありませんよ圭ちゃん。圭ちゃんのおかげでお姉は鬼にならずにすんだんです。

 姉妹の私にはわかります。お姉はあの時、大石を殺そうと覚悟を決めていた」

「…買い被りすぎだぜ詩音。魅音は自力で正気を取り戻したんだ。俺はちょっと手助けしたに過ぎないだけさ」

 

あの時、魅音が正気に戻ったのは俺が大石を殺すと言ったからだが、

それは魅音自身理性の部分が残っていたからに他ならない。

 

俺はそもそも、あの時、本気で魅音と地獄に行く決意をしていた。

結果的に悲劇が回避されたにすぎない。

 

「それでも、やっぱり…圭ちゃんのおかげです。だから、その…今更なんですけど」

「なんだ詩音?改まって」

「お姉の愛って…重くて辛くないですか?」

 

本当に今更だな!

それは婚約が決まって結納披露まで行おうっていうフィアンセに向かって言う台詞か?

 

「あのなぁ。そりゃ一周どころか十週ぐらい遅れの気遣いじゃねぇか」

「うん、あははは…そうなんですけれど、こんなにお姉が負担になるとは思ってもみなかったですし。それに園崎家の婿養子になれば、一般の人とは違う気苦労とかもあると思うんです。でも圭ちゃんって、そういうの気にしないし、嫉妬とかも全然ないし、お姉と一緒に居てくれるから、その…凄いなって…」

 

魅音は恋人偏向フェルターがあるからわかるけど、詩音までそんなことを言い出すのかよ。

ちょうど良いか。せっかくだから少し言わせてもらおう。

 

「あのな。今から言う事、魅音に伝えてくれても良いんだけどさ…」

「はい。つまりお姉に絶対に伝えろってことですよね?録音しておきます」

 

詩音、お前、

忖度の意味を一度調べろ。

 

「…俺の方こそ重いと思うぜ。魅音への愛。

俺は魅音のためならどんな事だってしてやりたい。この命だって…捧げてもいいと思っている。大広間で魅音の母親に問われた時さ、俺思ったんだ。魅音のために生きることこそが、俺の全てだって」

「………」

「それにさ、嫉妬とかしてないけど、それってたまたまなんだぜ?

 周囲にさ、ライバルになるような奴もいないしさ」

 

俺が嫉妬深くないというのは、そういう状況だからだと自分でも思う。

甲子園のスターである亀田くんは俺のソウルブラザーで歳も上、しかも住む場所も違う。

富田くんや岡村くんは小学生で年下だし、唯一の同年代の北条悟史とはあったことも無い。

つまり、この雛見沢では嫉妬対象が存在しないのだ。

 

「だから、魅音が大学へ行って、かっこいい男子と友達になったら、俺どうなるかわからないと思うぜ?前原圭一って野郎はさ、思い込みが激しくて、独りよがりで、自分勝手な人間だからさ」

「………」

「婚約の話だって、結局魅音を俺が独占できるから喜んでいるって話だし、俺自身はそんなに大した人間じゃない。魅音とかは俺がヒーローとか、理想の人間みたいに思ってくれているけれど、俺って自分のバカさ加減と向き合えなかった弱い人間なんだぜ?しかも、感情的に怒鳴り散らすことだってあるしさ。自分の弱さを魅音に見せたら嫌われてしまうかも…って怯える程度の人間なんだよ俺は」

 

言いたいことは全部言った。

 

こんなことを伝えたら魅音に幻滅されるかもしれないと思う反面、

幻滅させるなら早い方が良いかな。と思う自分もいる。

 

いつまでも、仮面をつけてつき合っているわけにもいかない。

いつか装飾なんて剥がれるものなんだ。

 

「…そんなの許しませんから」

 

詩音の声が震えているのが分かる。

 

「…わかってるぜ詩音。魅音に弱い所を見せるな。って言いたいんだろ?」

「それもありますが、それ以上に…お姉が圭ちゃんの弱い面を見て、

 引くようなことあったら、私、許しませんから」

 

想定外の返事で俺は戸惑う。

弱い面を見せて引くようなら、許さないってどういう意味だ?

 

「だってそうじゃないですか!お姉は、圭ちゃんに鬼の面を助けてもらったのに、圭ちゃんの弱い所を見て嫌になるとか、引いたりしたりしたら、私、幻滅しますよ!…いや、姉妹の縁を切ります!間違いなく!」

「お、おい。落ち着けよ!」

 

勢いよく話す詩音に俺は戸惑う。

 

「でも、圭ちゃんも、圭ちゃんです!何でヒーローじゃないなんて言うんですか?

圭ちゃんが、何をしたか思い出して下さい。私は…お姉が鬼になったら、身代わりになろうとおもっていたんです。だって、姉妹だから!血を分けた家族だから!」

「………」

「圭ちゃんは、お姉と一緒に地獄へ行くと言ってくれたんですよね?なら、お姉だけじゃない、私も圭ちゃん自身も、そして、どうでもいいですが大石の野郎も、四人の運命を圭ちゃんは救ったんですよ!悲しい事を言わないで下さい、お姉にとっても、叔父から救出された沙都子にとっても、圭ちゃんはヒーローなんです!だから、そんな弱気なことを言わないで胸をはって下さい!」

 

受話器から聞こえてくる詩音の声は泣いているようにも聞こえた。

心臓が締め付けられる。まただ。また俺は自分のことしか考えていなかった。

詩音がどんな気持ちで聞いていたのか理解していなかった。

 

「すまない。詩音…」

 

自分の本性をさらけだすつもりで語ったんじゃない、

実は傷つくのが嫌だから、卑屈になって楽になりたかっただけなんだ。

無様な人間であれば、後で何を言われても楽になるから。

 

そもそも魅音を幻滅させるなら早い方が良いってなんだよ?

俺の全てを受けれてくれた魅音に今更何をいっているんだ。

 

そうさ。魅音は俺を見捨てたりなんかしないじゃないか。

あんなにも俺を優しく抱きしめてくれただろ?

 

「知っているかはわからないけれどさ…

 俺、こっちに引っ越す前に、ひどいことをしてしていたんだ」

「…お姉から聞きました」

 

そうか。姉妹だもんな。

 

「でも、それを魅音はさ。優しく受け止めてくれたんだ。そんな人間、多分、世界中のどこにだっていないと思うぜ?それなのにさ…俺、なにビビッてたんだろうな?」

「………」

「…なんか変な事、色々いってゴメンな詩音。俺には色々欠点があるけど、それを受けいれてくれるのは魅音だけで…俺は魅音のことが世界一好きだってことなんだ。もちろん、俺も普通の人間だからさ、嫉妬とかするし失敗も多くやるかもしれない…そう伝えたかっただけなんだ」

 

受話器の向こうで、ため息が聞こえる。

 

「ごめんなさい圭ちゃん。私もエキサイトしちゃいました。そんなに卑下しないでください…ってことを伝えたかっただけなんです。だって、お姉と一緒に地獄まで行ってくれるなんて人…圭ちゃんぐらいなんですよ?そんな人が、凄く無いわけがないんですから」

「…ありがとうな詩音」

 

そう言ってくれると、とても嬉しいぜ。

そうだとも、俺は魅音と共にならどこにでもいってやる。

それが俺の覚悟なんだからな。

 

「じゃあ、圭ちゃん。これで仲直り☆ってことで良いですか?」

「おう、いいぜ!」

 

二人して笑う。

時計を見ると、もう12時近くになっている。そろそろ寝ないとヤバイ。

 

「じゃあ、もう遅いから切るぞ?」

「あ、あの…圭ちゃん。最後に一つだけ良いですか?」

「なんだ?」

「なんで、そんなにお姉を深く想えるんですか?

 出会って、その…一か月もたっていないですよね?」

 

なぜ、出会って数週間しかたっていないのに、そんなに深く想えるのかだって?

それはたぶん、その理由の中に…もしかしたら、ありえたかもしれない無残な未来の記憶があるからだろうな。

 

その記憶の中で、俺は大事な仲間だと思っているのにも関わらず、魅音を殺した。

あれほど、俺のために尽くしてくれた魅音をバッドで殴り殺したんだ。

それだけじゃない、幾つもの記憶の中で、ありえない記憶の中で何度も魅音の死を目撃した。

自分が、他人が、事故で、不運で、信じられない事象で、魅音が死ぬ姿を何度も何度も…

 

そのせいで『仲間を救いたい』という想いが、俺の中で大きく膨らんでいる。

それが魅音に対する深い想いと関係しているのは間違いない。

もちろん、それだけではないはずだ。俺は純粋に魅音が好きなんだ。

 

だから、その問いにはこう答えようと思う。

 

「それはきっと、人の出会いに時間は関係無いからだと思うぜ」

「…え?」

「俺はさ、前のところでは何年も過ごしていたけれど友人らしい友人はいなかった。

 でも、ここでは引っ越してきて、すぐに素晴らしい仲間に出会えたんだ」

「………」

「だからさ、きっと…人によっては、たった一瞬の出会いが生涯の宝になる場合だってあると…

 俺は思うんだ。」

 

少しキザかな?詩音に突っ込まれるかもしれない。

そう思ったが、詩音は意外にも食いついてきた。

 

「圭ちゃん…それ、わかります。そうですよね…ほんの一瞬、ほんの一時の出会いでも、

 それが一生の宝として心に残るってあると思います」

「詩音?」

「あははは、あたしってバカだなぁ、そんなの聞かなくたってわかっていたはずなのにさ」

 

もしかして、それは北条悟史との出会いの話なのだろうか?

俺は詩音と北条悟史の関係を断片的にしか知らないし、聞く勇気もない。

 

おそらく詩音の心の奥深くてやわらかい所にあって、それを触って良いのは、北条悟史か詩音自身なんだと思うから。

 

「圭ちゃん。私ね…お姉と圭ちゃんが、宝をもったままずっと一緒に居て欲しいって思っているんです。もちろん、それって私のワガママだとわかっているんです。でも二人にはずっといつまでも、いつまでも幸せでいて欲しい。だって、ほら。物語の最後ってハッピーエンドだって沙都子も言ってたじゃないですか?」

 

「…詩音」

「ゴメン、圭ちゃん。最後なのに、変な事いっちゃったかもですね。あ~あ、ダメだな今日の私

 圭ちゃんを怒ったり、ちょっとブルーだったかな?後で録音編集しておかないと」

 

詩音の笑い声の中に、悲しみが含まれているのが分かった。

どんな形かはわかないけれど、きっと俺には想像もつかない経験をしてきたに違いない。

それが、魅音と俺に対する叱咤激励に繋がっているのだろう。

 

俺は受話器を強く握り締める。

 

「詩音、俺は必ず魅音を幸せにする。約束だ。必ずだぜ」

「うん、信じてる。だって圭ちゃんはお姉免許皆伝なんですから」

 

最後の聞こえた詩音の言葉には深い情愛に満ちていた。

 




トピック: [ 詩音とのデートで、相手が魅音では無いと気が付く? ]
※トピックでは「ひぐらしのなく頃に」のネタバレが含まれます※

オリジナル同人版、及びアニメ版には無く『ひぐらしのなく頃に奉』で追加されたエピソードです。

通常、初めて詩音と出会うときは、圭一は魅音の変装だと思いデートを行い魅音が働いていた玩具屋に入ることで、ようやく詩音と魅音が別人だと分かるのですが、二週目以降だと途中で『実は魅音と詩音は別人では無いのか?』だと気が付く選択肢を選ぶことができます。

ちなみにこの場合でも、結局詩音にぬいぐるみを渡すハメになるのですが、魅音との絆はつながったままとなり『目明し編』では通常のEDとは違う『圭一は魅音と共に東京に行く事を選ぶ』のエンディングを迎えることができます。
(ただしバッドエンディングですが)

トピック: [ 女の子とのデート中によそ見をしない ]
※トピックでは「ひぐらしのなく頃に」のネタバレが含まれます※

「女の子とのデート中によそ見をしない」このセリフは
コンシューマ版「ひぐらしのなく頃に奉」の「目明し編_BAD・END」で
トイレから戻ってきたときに、返事をしない前原圭一に対して魅音が発した台詞です。

目明かし編で魅音を救う事に成功した前原圭一は、魅音の心を癒すためにデートを行い、
さらに雛見沢から東京に引っ越した時には、魅音と一緒に暮らす事さえも考えます。

そのため、魅音もすっかり圭一の想いに感化されて、自然に自分を「女の子」と表現します。
なお、この後、何者かの手にかかって圭一は殺されてしまうため、その想いを叶えることはできませんでした。

トピック: [ 理想の男の子 ]
※トピックでは「ひぐらしのなく頃に」のネタバレが含まれます※

アプリゲーム「ひぐらしのなく頃に命」での逸話より。
つき合うのなら、どのような男性がタイプかを聞かれた魅音は

・頭が良くて勉強を教えてくれる
・最低限の紳士的振る舞いと優しさを持っている
・困難な事態に遭遇したとき、勇敢さをもって立ち向かってくれる
・男女の区別なく同じ話題でノリよく盛り上がってくれる

と答えています。

これが園崎魅音が素で好きなタイプなのか、
それとも前原圭一を念頭に置いたものかはわかりませんが、
前原圭一と明らかに符合する部分が多いのは面白い所です。

なお「ひぐらしのなく頃に」世界共通設定かは不明。
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