ひぐらしのなく頃に~ただひたすら圭一と魅音がイチャイチャするだけ編~ 作:Java-Lan
[11日目(日):雀荘:夜:大石蔵人]
雀荘の一室には幾たびの勝負を経て完全にグロッキーとなり、椅子に倒れ込んでいる熊谷刑事と、鑑識のじいさまの姿があった。
「まさか、あそこで倍満だなんて…」
「もう、鼻血もでんわい…」
大石が、東京から来た赤坂の歓迎パーティと称して行われた大麻雀大会は、
当初セミプロを連れてきた情報屋に一杯くわせようと催されたものであった。
しかし、赤坂は強すぎた。
ものの一時間でセミプロを倒され、情報屋は遁走した。
あまりにも早く終わってしまったために、残った時間は、
大石達4人で戦う事にしたが、やはり赤坂の強さに手も足も出ない状態だった。
点差と言うにもばからしいほどに赤坂がトップで終了。
赤坂が奥さんに電話連絡をするというので一時休息となった。
大石は、赤坂を電話のある休息所まで案内すると、
自動販売機で缶コーヒーを購入して長椅子に座る。
大石の順位は一応、2位であるが、1位の赤坂とは、圧倒的に離されている。
やけ酒ならぬ、やけコーヒーも飲みたくなるというものだ。
「ああ、うん…大石さんのおかげで、梨花ちゃんとの約束も守れそうだ…」
奥さんと電話している赤坂の声が聞こえる。
約束か…
先日、玩具屋で出会った北条沙都子を思い出す。
「大石のおじさま…叔父さまをよろしくお願いしますわ」
あの言葉の意味を知る者は、あの場では大石だけだった。
北条沙都子を虐待した罪で緊急逮捕された北条鉄平であったが、
北条沙都子を女性警官が調べた結果、虐待された形跡は一切発見できなかった。
また、北条沙都子自身も、叔父に虐待された事実を否定した。
つまり、前原圭一が雛見沢の人々を動かして行った陳情は全くの勇み足であったのだ。
そして、人生をやり直そうとしていた無実の人間を…北条鉄平を…警察に逮捕させたのである。
正義の暴走とはよく言ったものだ。
もっとも、だからといって北条沙都子が、前原圭一を非難することもできないだろうことはよくわかる。雛見沢の人々が自分を助けるために活動したというのに、それを非難したとなれば今度こそ雛見沢では生きてはいけない。
それは北条沙都子にとって自殺行為だ。
北条沙都子は、叔父を犠牲にして生きていかぬばならなかったのだ。
といっても、北条鉄平とて全く清廉潔白というわけでもない。
確かに北条沙都子を虐待してはいなかったであろうが、様々な犯罪に手を染めてきた。
そもそも北条家の周囲を警察が張っていたのも、園崎組の上納金問題で殺されたと思われる間宮リナ一件の重要参考人としてである。
さらにいえば、他の事件への関与が疑われていたため長く拘留されていたのだ。
大石も先日、
別件で北条鉄平の取り調べにおもむいた。
取調室にいた北条鉄平は腕を組み、観念していた。
大石はいつものように不敵な笑い声を出すと椅子に座る。
「んふふふ…まぁ、身から出た錆びってところですかね。
貴方だって、外で抗議運動があったことぐらい、わかっていたでしょう?」
「…年貢の納め時がきたっちゅうことや。今更言い訳なんかするかい」
大石は懐から、沙都子から預かった手紙を取り出す。
「北条沙都子さんから貴方にです」
「…沙都子から?」
鉄平はその手紙を読むと、涙をにじませる。
大石は感嘆した。
人間は変われば変わるものだ。北条鉄平はこんな人間では無かった。
強い者に媚び、弱い者を食い物にし、他人を騙して苦しめるような人間の屑だったはずだ。
それが今やどうだ?自分の人生を悔い、手紙を見て涙を流そうとしている。
一体、彼の身に何があったのだろうか?
おそらく人生を変えるほどの何かを北条沙都子との生活で得たに違いない。
「沙都子さんから手紙の中身を見ても良いと言われましたので、拝見させて頂きました。
全ての罪を認めて、綺麗になって戻ってきて欲しい…そうしたら、また一緒にやりなおしましょう…鉄平さん、貴方にも待っている人がいるんですね」
「大石のダンナ…おれは…ずっとこんなヤクザな生き方しか…してこなかったんです。
…そんな俺がぁ、やり直す事なんて出来るんですかいの…」
沙都子の手紙を見て涙を流し、震える北条鉄平の肩に大石は手を置いた。
「できます。できますとも!人間はいつだってやり直すことができるんです!
北条鉄平さん、だから知っている事を全て話ましょう。そして綺麗な体になって沙都子さんの元へと帰るんですよ」
北条鉄平は沙都子の手紙で簡単に落ちた。
鉄平の知る裏社会や犯罪組織の情報は様々な事件の捜査陣に喜びをもって向かい入れられた。
北条鉄平の証言によって、幾つかの組織的犯罪に大きな進展が見られたのである。
日本には司法取引は無い。
しかし”お目こぼし”という独自の温情措置がある。
北条鉄平に多数の嫌疑がかけられていたが、
起訴は取り下げられた。
実際問題、北条鉄平が直接かかわった事件の大半が時効、
もしくは被害届の無い物ばかりであった。
そのため、起訴するかどうかの段階で、その大半が「起訴の必要は無い」と判断されたのである。
だが、この決定に、北条鉄平の協力的態度が考慮されていた可能性は否定できない。
もちろん、仮に考慮されていたとしても警察が”おめこぼし”をしたなどと公的に言うわけもないのだが。
近いうちに、北条鉄平は釈放される。
おそらくは綿流しの祭りの前後あたりに違いない。
…ですが、
私も前原圭一さんを笑うわけにはいきませんねぇ。
先日の園崎家児童虐待問題を思い出す。
裏もとらずに突っ走り、危うく物笑いの種になるところだった。
表向き、この児童虐待問題は園崎お魎の圧力により阻止されていたことになってはいたが、
前原圭一から直接話を聞いた限りでは、実際は雛見沢分校の知恵先生と、診療所の入江先生の勘違いだったというのだから笑い話にもならない。
…まぁ、人間、勘違いはするもの…ん?勘違い?
その時、ふと、大石の中に妙な違和感が現われた。
先日熊谷刑事からもらった、園崎組傘下のミフネ組の大量銃器購入話。
大石達はこれを「園崎家が外部の組織との抗争の準備」だと考えていた。
…だが、もしかして、これが”勘違い”だとしたら?
そう。実は外に向けるものでは無く、内部に向けるものだとしたら?
それはつまり…
大石の額から冷たい汗が一筋流れる。
…いや、まさか反乱をミフネ組が画策していると?
そんな大量の銃器を用意していたら、お魎のバアさんに勘づかれないわけがないはずですよ。
しかし、その考え自体”勘違い”だとしたら?
大石は、コーヒーを一口飲む。
もう少し糖分多めのものを買えばよかったかもしれない。
思考に使うエネルギーが欲しい。
休憩室のテーブルの上に置かれている小皿の上に山盛りのキャンディーが置いてある。
それを一つとって、口に入れる。甘い。
…ミフネ組は対外交渉を行う組です。
つまり武器の確保なども任されているに違いありません。
だとしたら、銃器を持ち込んだとしても不思議がられることはないでしょうね。
そう。銃器を隠すのではなく、むしろ「堂々と許可を受けて」持ち込んだとしたら?
元々、海外から銃器を集める担当者が、銃器を持って来たとして怪しまれるはずがない。
大量に武器を持ち込み、その場で蹶起をすればよいのだ。
織田信長が、明智光秀に討たれた最大の理由は、
軍団を明智光秀に渡し、反乱当日に運用させていたからにほかならない。
しかし、もう一方でミフネ組はお魎の忠臣であることは良く知られている。
だとしたら反乱では無く、お魎に命じられて内部粛清の活動を行う可能性も残されている。
…思考を進めるための情報が足りませんね。
手持ちのピースが少なすぎる。これ以上の推測は無理だ。
ミフネ組の園崎本家に対する反乱か?
それとも、お魎の命令による反逆者の始末なのか?
大量の銃器を持ち込むということは、少なくとも相応の大事には違いないのだ。
その時、休憩室に熊谷刑事がやってきた。赤坂にやりこまれて、憮然としている。
おそらくこれ以上の勝負は続けたなく無いので陳情しにきたのだろう。
それなら好都合だ、彼に情報収集を頼むとしよう。
「大石さんここにいたんッスか。麻雀ですが今日はこのへんで止めに…」
「…熊ちゃん。ちょっと頼まれてくれませんか?」
「なんですか、大石さん?」
「ミフネ組の動向を洗って欲しいですよ。特にここ最近、園崎組の内部でどういうことになっているのか。その辺を重点的に…」
現段階では情報が少なすぎて判断することができない。
もしかしたら、ただの思い過ごしの可能性もある。
しかし、もし、これが勘違いで無いとすれば、大量の銃器を使った、大惨事が起きる可能性が出てくる。それは凄惨なる悲劇を生みだすだろう。
それだけは何としても阻止しなければならないのだ。
[11日目(日):古手神社:夜:古手梨花]
おかしい。
この世界はどうなっているのかわからない。
イレギュラーなことが多すぎる。
圭一と魅ぃがつき合っているということだけでも十分おかしいのに、
鷹野三四と富竹ジロウが私を全力で守ることを約束するだなんて。
古手梨花は月明かりに照らされた窓辺で、グラスを片手に夜空を見上げていた。
グラスの中身は、ブドウジュースをオレンジジュースで割ったものが入っている。
もう羽入はいない。
ならば、彼女の気兼ねをする必要はないのだが、どうにも共にいた時の感覚が抜けきれない。
100年も共にあったのだ。当然といえば当然であった。
今でも、ひょっこり羽入が現われて、彼女をたしなめに来る気がする。
だが、頭では理解している。それはありえない、と。
羽入はもういない、現れることは無い。
グラスの中の液体を一口飲む。
「…止めましょう。対策を考えないと」
今考えなければいけないのは羽入のことではない。
これから起きるであろう惨劇への対処だ。
前回は鷹野三四が敵だった。
それは明確に覚えている。
しかし、この世界では違う。
あの日…バーベキュー大会が行われた日。
古手梨花は富竹ジロウと接触した。
それは前回と同じく、鷹野三四の危険性を訴えるものであったが、その後の展開が違った。
富竹ジロウは古手梨花の「鷹野三四が自分を殺すかもしれない」という警告を聞くと、鷹野三四を連れてきたのだ。
この時点で、古手梨花の頭がパニックになった。
なぜ、彼女を富竹ジロウは連れてきた?
だが、次の瞬間、さらに古手梨花の頭を混乱させた。
鷹野三四が、古手梨花を抱きしめたのだ。
「梨花ちゃんは、オヤシロ様の生まれ変わりだけあって全てを理解しているのね。
ごめんなさい。そういう計画があったのは事実。でも、安心して私が貴方を守るから」
富竹ジロウも強く頷く。
「大丈夫だよ梨花ちゃん。僕らは全力で君を守る」
意味が分からない。
富竹ジロウだけではなく、なぜ敵であるはずの鷹野三四までも自分を守ろうというのか?
だから思わず聞いてしまった。
「なぜ?私の知っている鷹野三四は目的のためならどんな事があっても突き進む人だったはずよ?」
その言葉に、鷹野三四は哀しそうな顏で答えた。
「貴方には、わからないことなのよ梨花ちゃん」
答えを教えてはくれなかった。いや、答えなどはどうでも良い。
この問いでわかったことは、それは、この世界では鷹野三四は敵ではないという事実。
そしてもう一つ、
おそらく自分を殺す計画というのは鷹野三四の意思とは別な所で動いている。
「そういう計画があったのは事実」という言葉から考えるに、
鷹野三四が敵ではなくなったとしても、脅威は存在していると考えて間違いは無い。
「富竹と鷹野が協力してくれるということは、
この世界では『山狗』は私の護衛をしてくれているということ…」
前回、最強の敵であった相手が味方になるというのは心強い。
だが、相手が全くわからないのでは、安心できない。
富竹ジロウや鷹野三四が保有している、
諜報工作部隊の「山狗」とて無敵というわけでは無いのだ。
「もうしばらく考えてみて、結論が出ないようであれば、
やはり、今回も部活のメンバーに相談しましょう」
運命をいともたやすく変える
前原圭一。
高度な戦略眼を持つ
園崎魅音。
高い洞察力と鋭い勘を持つ
竜宮レナ。
きっと、彼らは今回もこの破滅から私を救い出してくれるはずだ。
梨花は思う。
また、前のように生きたい。
生きて、みんなと一緒に大人になりたい。
なぜ自分が過去に戻されたのかはわからないが、
もう、世界の再生リトライはうんざりだ。
永遠に子供時代を過ごしたいなんて言葉は、
永遠に捕らわれた事が無い者だけが言える戯言だ。
私は、大人になりたい。
大人になって、広い世界を見て回りたい。
そのためにも…
「梨花ぁ~、まだ寝ないのでございますのぉ~?」
沙都子が起きてきた。
梨花は少なくなっていたグラスの中の液体を一気に飲み干す。
「眠れなかったので、月を見ていたのですよ☆にぱ~」
寝ぼけまなこで、沙都子が梨花に抱き着いた。
「梨花が何を心配しているのかわかりませんがぁ…ふぁ~気にしなくても良いのですわよぉ…
最後は必ずハッピーエンドになるのですから…」
「そうなのです。沙都子は良い事を言うのですよ」
梨花は沙都子の頭を撫でる。
古手梨花が、何度も繰り返す世界で心が壊れなかったのは沙都子のおかげだ。
沙都子の豊かな感情、新鮮な反応、そして共にいる喜びがあったればこそ、
何とか心を繋ぎ止めることができた。
…必ず、私は沙都子と共に大人になる。
大人になったら、一緒に様々な体験をしましょう。
雛見沢から出て、色々な場所を巡るの。
沙都子、貴方となら世界の果てにだってきっと行けるわ。
沙都子の寝いびきが聞こえる。
抱き着いたまま再び眠ってしまったようだ。
「沙都子…ボク達は大人になってもずっと一緒ですよ」
古手梨花は目をつぶり、
腕の中で安らかに眠る親友に呟いた。