ひぐらしのなく頃に~ただひたすら圭一と魅音がイチャイチャするだけ編~ 作:Java-Lan
[14日目(水):雛見沢村:昼:前原圭一]
俺は学校とレナの家に休みの連絡を行うと、
魅音と待ち合わせている廃線で使われなくなった旧停留場に自転車で向かった。
両親が仕事で不在だったのは幸運だった。説得の手間がはぶける。
もっとも「魅音とデートをしに行く」と言っても止められなかったかもしれない。
なにしろ、リビングにあった仕事関連の書類には「園崎」の文字が躍っていたからだ。
親父あたりは「魅音ちゃんの歓心を買うために行ってきなさい」ぐらい言いかねない。
…いや、さすがにそれはゲスの勘ぐりすぎか。
さすがに親父でも、そこまで息子を喰いものにしていないだろう。
うん。そこまでじゃないと思おう。一応、実の親父なんだし。
しかし、今日は快晴だ。風も気持ちよい。
大自然の中でイチャつきとは、魅音もやるな。
これから十数分後に起こるだろう魅音とのイチャイチャを想像して頬が緩む。
いかん、いかん、俺もレナの可愛いモードのようなゆるキャラになってしまう。
だけどニヤニヤが止まらない。
他の人がみたら、気持ち悪いだろうな。うん。
そんな俺の御機嫌も、数分後にどん底になるとは思わなかった。
旧停留所につく直前、突然大雨に見舞われた。
今日は晴れ、ときどき曇りだったが、山の天気は変わりやすい。
山間の雛見沢なら当然だ。
「ちくしょう。最悪だぜ」
旧停留所につく頃には体中が濡れていた。
旧停留所には簡単な屋根と壁と、そして長椅子が設置されてある。
雨漏りはしてないのは助かった。これでもう濡れることはない。
しかし、片手運転は危ないので持って来た折り畳みの傘をささなかったため、
土砂降りによりかなり濡れてしまった。
ハンカチ程度だと、吸いきれないがとりあえず拭いておこう。
…魅音の奴大丈夫か?
ギギギギギ!!!!!!
そう思っていた時、旧停留所に魅音が自転車ごと突っ込んできた。
「おわっ!?」
「ゴメン、ゴメン!!圭ちゃん、大丈夫?」
魅音は濡れた髪を振り乱しで俺に謝る。
ひどいありさまだ。頭の先から足元までも全身ずぶ濡れだ。
「お前こそ大丈夫かよ魅音?」
俺は手に持ったハンカチで、魅音の頭を拭く。
とてもじゃないが、俺が一度つかったハンカチ程度では吸収できないほど濡れている。
魅音もポケットからハンカチを取り出すが、
そのハンカチも濡れているので絞るところから始めている。
しかし…
学校に行くと言って出かけてきたのか
魅音の格好はスカートの学生服だ。
魅音はハンカチで顔を拭くと、
びしょびしょになったスカートの端を絞りはじめた。
…ゴクリ。
俺は唾を飲み込む。
水も滴る良い女とは言うが、
濡れた魅音は、いつもとは違う感じに魅惑的に見える。
魅音が長し目で俺を見る。
俺の心臓の鼓動が一つあがった。
「どうしたの圭ちゃん?
そんなにジロジロみられると、おじさん恥ずかしいよ…?」
魅音は、そう言うと両腕で胸元を隠す…というより、胸の下で腕を組んだので隠すというより、胸を持ちあげている感じになっている。
ずぶ濡れのせいで、服もスカートも透けており、
制服に張り付いたブラジャーもくっきりと見える。
さらに胸を押し上げて強調しているものだから、
胸の輪郭丸わかりだ。
俺は思わず視線を落とす。
「ご、ごめん。魅音」
「…嘘。圭ちゃん見ても良いよ」
魅音を見返すと、腕を組んで胸を支えたまま体を俺の方に向けて立っていた。
俺の心臓の音がさらに高鳴る。
「圭ちゃん。今日はさ、スカートの中、
インナー履いていないから…あまり見られると恥ずかしいかも」
…えっ!?
俺は視線をスカートに移す。
下着のラインがくっきりと見える。
ヤバイ!
俺は片手で口と鼻を押させる。
これ以上見ると、鼻血がでそうだ。
「圭ちゃんってば。
見ないで言ったのに…そんなにおじさんの体、気になるんだ?」
微笑した魅音が俺の方に近づいてくる。
俺は引く。
魅音が一歩前に進むと、俺は一歩下がる。
しかし、旧停留所はそんなに広くない。
俺は旧停留所に設置されていた長椅子に足をひっかけて、座ってしまう。
そして、その上に魅音が乗りかかってくる。
長椅子に座る俺と、その上に向かい合って乗りかかる魅音。
俺の腰の上に、魅音の腰がある事実は俺の心音を一オクターブあげるには十分すぎる。
「圭ちゃんさ、こういうの…好きでしょ?」
…え?
「お風呂上りとか、濡れた姿とか…
そういう時に圭ちゃんの熱い視線…ずっと感じていたんだよ?」
…うっぐ、やるな魅音。
正確には少し違うが。打ち明けるべきかどうか。
魅音が顔を上気させて俺を見ている。
これは単に自転車で全力疾走してきたからだけではないだろう。
くそっ!濡れ+上気は…攻撃力が高すぎるぞ!
「そのさ…上気した女性って、俺だけかもしれないけど。凄い魅力的に見えるよな」
俺が観念してそう口走ると、魅音は耳元で呟いた。
「…その言葉、よく覚えておくからね圭ちゃん」
魅音は俺の両肩の上にまっすぐ手を伸ばすと、そのまま頭に回して俺を抱きしめた。
俺は魅音の胸の中に顏をうずめる。
…魅音。
トックン、トックン、トックン…
魅音の心臓の音が心地よくて安心する。
少し、鼓動が早い気がする。きっと魅音も恥ずかしいんだろう。
「録音、聞いたよ…」
録音、なんのことだ?
あぁ、そうか前回詩音に電話した時に、俺が伝えても良いって言ったアレか。
「圭ちゃんはさ、
自分のことを随分否定したけれど…なんで?」
ドックン…
俺の心音が一段上がった。
…そうだ。俺はあの時、魅音に嫌われてもいいや。と思って自分の本心を語ったんだ。
魅音や詩音の思うような人間では無いってさ。あの時は詩音に怒られたっけ。
そんなこと言わないで下さい。貴方はヒーローなんだって。
今思えば、なんであんなこと言ってしまったのか。
自分のバカさ加減に腹が立つ。
詩音にも止められたし、本当は話したくないんだけど。
でも、あの時の気持ちを伝えなければダメだろうな。
「そのさ、俺、お魎のバアさんや、魅音や詩音が思うような、その…
立派な人間じゃないって…言いたかったんだ」
「…なんで?」
なんで?ってそりゃ…
「だってさ、俺は普通の人間なんだぜ?その、腹が立てば怒鳴るし、ケンカもするだろうし
…前にも言ったけどさ…引っ越し前は、ひどいことをしちまったし…」
「それは知っているよ圭ちゃん。
私が聞きたいのは、なんでそういうことを言ったかって話なんだ」
…あ、ダメだ。
これはダメなヤツだ。
魅音、お前…俺の心に触りに来ている…
「圭ちゃんが誰におもんばかっているのかはわからないけど、
おじさんは圭ちゃんの本心が知りたいんだよ」
…ダメだ。ダメだ。やばい駄目だ。
魅音、お前、何を言っているんだよ!
そんなの話したら、俺。
「いや、だって詩音がさ…」
「圭ちゃん、忘れないで。圭ちゃんのパートナーは詩音じゃない。私なんだよ?」
…待て、本当にダメだ。
クソッ!クソッ!止めてくれッ!魅音ッ!頼むッ!
トックン…トックン…トックン…
あぁ、ダメだ。魅音の心音に心が安らいで、何もかもさらけたい気分になっている!
こんな話をしてどうする?夫になるんだろ?一家の大黒柱になるんだろ?
そんな俺が、弱音なんて…
「魅音、俺、俺…」
「良いんだよ圭ちゃん。受け止めてあげるから、ね?」
…あ。もう、ダメだ。
そんな優しく声をかけられたら俺、俺...
俺は目から涙が溢れ出てくるのが分かった。
涙がぽとりと落ちて頬を伝わる。
もう無理だ。こうなったら止められない。止まらない。
心の堤防が、決壊、した。
「俺、おれ…魅音にぎらわれたくないッ…!」
魅音の体に手を伸ばし強く抱きしめた。
強く、強く。 そして泣いた。泣いた。
「皆が言うほど、俺すげぇヤツじゃないしッ…色々バカな事をするし、失敗だってするッ
魅音の期待を裏切って…白い眼を見られて、嫌われたり、逃げられたりしたら…耐えられないッ…!俺、魅音に嫌われたくないッ!魅音とずっと一緒にいたい!だからッ…!」
あぁ、情けないぜ。これが、雛見沢御三家次期当主の婿だなんて。
ちっぽけで、つまらない。独りよがりな…そんな小さい人間だ。
そんな俺の頭を魅音が撫でる。
「そっか、だから…自分で期待値を下げるような事をいって予防線を張っていたんだ。
バカだなぁ、おじさんがそんなことで、圭ちゃんを嫌いになるわけないじゃん…」
「でも、俺…詩音にも言われて…魅音の前ではかっこよくなろうって…」
「圭ちゃん…圭ちゃんが詩音のことを尊重してくれるのは私も嬉しい。私と詩音は同じものだから。だけどね、やっぱり別なんだ。私と詩音とでは考え方が少し違うんだよ。だから、よく聞いてね。私の前なら、圭ちゃんの弱さをさらけ出しても良いんだよ。私は、圭ちゃんの全てを受け止めてあげるからさ」
「俺…」
「ねぇ、圭ちゃん。私さ、つき合った最初の頃、怖くてたまらなかったんだよ」
…え?
「圭ちゃんにさ、嫌われるんじゃないかと思っていつもビクビクしていた。何をやったら良いのか、どうしたら良いのかわからなくて…だからさ、その気持ちよくわかるよ」
俺が…魅音を嫌うわけないじゃないか。
「その言葉、今の状況そっくり、そのまま当てはまると思わないかな?
私だって、圭ちゃんの弱さや情けない部分を見て、嫌うわけが無いんだよ」
「魅音…」
「詩音の言った事は忘れてくれていいよ。
あの子、自分の理想を圭ちゃんに押し付けているだけだからさ」
「…本当に、さらけ出して…良いのかよ?」
「私さ、思うんだ。恋人同士だけならカッコイイ所だけを見せれば良いと思うんだけど、夫婦になったらそれだけじゃすまないんだって。イチャイチャするだけじゃない、ケンカすることだってあるかもしれないし、対立だってあるかもしれない。でもね、自分の本当の弱い部分を見せてそれを支えていく、それが本当の夫婦なんじゃないかって…」
「………」
「ま、半分はバッちゃの受け売りだけどね。あははは!」
俺は顔をあげる。
視線の先には魅音は屈託の無い笑顔があった。
「情けない話を聞いて…ドン引きしても、俺…知らないからな…」
「ドン引きかぁ…まぁ、圭ちゃんが、スカートを頭からかぶるのは男のロマンだ!なんて言った時は、さすがにどうしようかと思ったけれどさ…あれで逆に、圭ちゃんはおじさんがいないとダメだって確信したからね!大丈夫、意外と何を言っても平気なもんだって!あはははは!」
あぁ、なんて奴なんだお前は。
俺の一番柔らかい心の部分をしっかりとつかんで包み込んでくれるなんて。
これが俺の妻、園崎魅音なんだ。俺の最高の嫁なんだ。
「でも、嬉しいよ。
圭ちゃんの心、こんなにしっかり触れさせてくれるだなんて…
本当に、夫婦になった。って気持ちになった」
俺は急に恥ずかしくなって視線を外す。
「なんかさ、恥ずかしいぜ…」
「そっか。ふふふ…じゃ、お相子だね?」
「え?お相子って?」
「圭ちゃんはさ、気が付いて無かったかもしれないけど、何度もおじさんの心を触っていたんだよ?」
知らなかった。
俺ってそんなに無意識に魅音の心を触っていたのか。
…そうだよ?だから、今日のはおかえし。
魅音はにっこりと笑い、俺の心にそう語り掛けてきた。
そして停留所の外に頭を向ける。
「雨、上がったみたいだね」
俺も顔をあげて外を見る。
空は晴れあがっていたが、しかし山の方ではまだ黒い雲が見える。
あれは雨雲で動きが流動的だ。
雨がもう一度ふるかどうかはわからない。
「圭ちゃん、傘もってる?
おじさん忘れてきちゃってさ」
「…あぁ、持っているぜ」
持って来たのは折り畳みの傘で小さい。
俺は立ち上がり、傘を開くが、やはり大きさに難がある。
これで二人をカバーするのは難しそうだが。
「ククク…じゃあ、密着しないとだね!」
魅音は笑いながら俺の腕に抱き着く。
これって雨除けを理由にして甘えているだけだよな。
でも、うん。悪くないぜ、そういうの。
「初めての相合傘だね。
これぞロマン中のロマンってヤツじゃない?…ふぇっ」
俺は静かに微笑むと、
俺の腕に抱き着いている魅音の頭を優しく撫でた。
確かに魅音の言う通りだ。
心の通じ合った夫婦が一緒に傘をさして歩く。
これは間違いなくロマンだぜ。
「魅音、これからどこに行く?」
「どこでもいいよ。圭ちゃんと一緒だったら、どこまでもついていくよ」
あぁ、そうだよな。
俺達はどこまでも一緒に連れ添っていこうぜ。
それが夫婦ってもんだからな。
[14日目(水):興宮詩音宅:夜:園崎詩音]
「お、お姉…その日中デートはどうだった?
圭ちゃんのことだから、メロメロだったんじゃない?あははは!」
私は震える手で受話器を取ると、
その向こうにいるお姉に媚びるように話しかけた。
「うん。圭ちゃんは、私の事、大好き、だからね」
お姉は言葉の節々を切り、低い声で返事をする。
…怖い。お姉が怖い。
「本当に、余計な事をしてくれたよ…
おかげで圭ちゃんの考えを改めるのが大変だった」
「ち、違うのお姉、私は…!」
「…詩音、誰が話して良いって言った?」
…ヒッ
体が震える。お姉はまだ怒っている。
私と、圭ちゃんの電話の事を。
昨夜、家に遊びにきたお姉に録音を聞かせたら信じられないほど怒り狂った。
圭ちゃんが心の弱さを暴露した時に、私がそれを改めさせようとしたことを何よりも憎んでいた。
「圭ちゃんはヒーローなんです!だから、そんな弱気なことを言わないで胸をはって下さい!」
と言う私の声を聞いたときには17万もする機械を破壊する寸前までいった。
あの時の事を思い出すだけで、寒気がして胃が痛くなる。
――なんで、なんで…圭ちゃんが私に開きかけた心を閉じさせたのッ――
お姉はそう言って絶叫した。両目から涙を溢れさせて。
あんなお姉は、今まで一度も見た事無かった。
お姉が、あれほどまでに激しい憎しみと怒りと…そして悲しみを、私にぶつけたのは生れて始めてかもしれない。
その凄まじい剣幕に、私は恐怖した。
恐怖して、その場で両手をついて謝った。
だけど、何度も何度も謝っても許してはもらえず、最後は雛見沢の本家まで行って土下座までした。それでもまだ、完全には許してはくれていない。まだ怒っている。
「アンタが私と圭ちゃんの仲をとりもってくれていたのは本当に嬉しいよ。それで随分助けられたと思う…でもね。圭ちゃんをアンタ好みに変えることまで許した覚えはないよ?」
地獄の底から響くような低い声。
冷たい汗が止まらない。額に、頬に、背中に…汗が流れ落ちる。
「もしかして…今までも、圭ちゃんに余計な事を吹き込んでいた?」
ギクッ…!?
嘘をつく?無理!速攻でバレるにきまっている!?
視線が泳ぐ、目の前にお姉がいなかった事だけが幸いだ。
おそらくこの顔を見ていたら詰められたに違いない。
「…どうしたの?」
「あ、あははは!結構頻繁に圭ちゃんにアドバイスしていたから、
その中に、少しはそういうのもあった、かも…」
自分でも情けないほど語尾が小さくなる。
ふぅ…
お姉のため息が聞こえる。
「…ま、いいか。取り持ってくれるのは良いけど注意してよね」
「わ、わかってるって!お姉の最大の理解者は私なんですからね!」
「そう…信じているからね、詩音」
ダメだ。まだ言葉が冷たい。
どうしよう、どうすればよい?
答えの見えない問いに、頭がおかしくなりそう…!
「それでね。詩音、相談があるんだ」
「え?相談って…?」
「圭ちゃんにね。付きまとう虫がいたら教えて欲しいんだよね」
…えっと、それって浮気の調査をしろってこと?
「そこまでしなくても良いよ。暇じゃないでしょ?
ただ、目についたら教えて欲しいってこと。義郎おじさんとか親戚筋にも伝えてあるから」
あぁ、そういうことか。
私の考えすぎか。
「あはははは。うん、わかったお姉!
でも、圭ちゃん、お姉にメロメロだから気にしなくてもいいんじゃないの?」
「…詩音、アンタ、
私が園崎家次期当主だとわかって、今の発言をしたの?」
…え?え?私、何か失言したの?
お姉の怒りに触れるようなことした!?
やだ、なに、お姉怖いよ!
「いい、詩音。よく覚えておいて、私の婿になるってことは園崎家当主の婿ってなるってことなんだ。つまり、それにちょっかいを出すってことは、園崎家に対する挑戦でもあるんだよ」
…え、あ…園崎家への挑戦?
「それを知って…いや、知らなくてもいい。それで圭ちゃんに手を出すってことは、園崎家に対する宣戦布告にとらえるべきなんだ。だって、そうでしょ?次期当主の婿を寝取られたなんて話があったら面目丸つぶれ、一族の沽券にかかわる事なんだ。これはね詩音…戦争なんだ!」
…お姉、それは本当に当主としての使命感からなの?
独占欲が暴走しているんじゃないの?
そんなことをして圭ちゃんを囲っても意味が無いことなんだよ?
「でも、圭ちゃんは、お姉のことが…」
「圭ちゃん自身は関係無い。バカな相手が美人局やる可能性だってある。園崎家当主の婿には実権は無くても地位がある。それを目当てに近づく奴もいる。油断はできないんだよ」
…どうしよう?どうしたらよい?
確かに理屈は間違っていない気がする。
だとしたら、やっぱり、お姉の当主としての使命感からなの?
ああ、ダメだ。頭が真っ白で何も考えつかない!
「…理解できた詩音?」
「うん!もちろん。お姉の言うとおりにする!悪い虫は叩かないとね!」
…ゴメン、圭ちゃん。もう私の頭じゃ判別つかない。
でも、良いよね?お姉は圭ちゃんのことを愛しているから、
仮に独占欲だとしても、これぐらい束縛したって。
「そう、よかった…まぁレナも圭ちゃんから離れたようだしね。当分は安心だね」
…え?レナちゃんが、圭ちゃんから離れた。
それってどういう意味?
「レナはさ、賢い子だよ。自分から身を引いたんだ。直接電話をして聞いた話だと沙都子も、もう圭ちゃんには関わらないみたい。あとは梨花ちゃんだけだけど、あの子も頭が良いからね。うっかりと圭ちゃんに手は出すということはないと思う」
「そ、そうか。あははは。お姉、圭ちゃん完全獲得おめでとです☆」
私はつとに明るく振る舞う。
小学生の沙都子や梨花ちゃんにまで警戒しているのは、
少し常軌を逸しているとは思うけれど、何事も無く終わるのであればそれでよい。
「ありがとう詩音、嬉しいよ。詩音が教えてくれたんだもんね…
圭ちゃんを繋ぎ止めるには、嫉妬の鬼になる事じゃなく、略奪鬼になることだって」
違う!違う!違う!
確かに、言った!でも、あれはお姉があまりにも、
内にこもっているから発破をかけただけで、化け物みたいになるために言ったわけじゃない!
あぁ、でも…
ここでそれを否定したら、きっと私は…
「そうだ。あと一人、厄介な相手が残っているんだけど…それを片付けないとだね」
「厄介な相手…?そんな人がいるの?」
お姉に厄介と言われるなんて、相当な相手だ。
しかし、そんな人物が圭ちゃんの周りにいただろうか?
個人的にはレナが一番厄介だとは思うけれど、
先ほどの話だと既に競争レースが降りたみたいだし。
「ねぇ、詩音に聞きたいんだけど…そういう手合いがいたら、どうしたら良いと思う?」
え?私に聞くの?なんか、らしくない。
そんなこと、聞かなくてもわかっているはずなのに。
「そりゃお姉。まず話し合いだよね。お姉は婚約者なんだから理はこちらにあるんだろうし」
「それでダメな場合は?」
「仲介者を立てて第三者の話し合いを行う…かな?」
「そういう話が通じない相手はどうする?」
「そこまでいったら、もう行儀するしかないですよね。徹底的に戦う。これですよ!」
こんな話は別に聞かなくてもわかることだ。
でも、お姉はなぜこんなことを私に?
「そうだね。詩音はやっぱり私と考え方が同じだよ」
嫌な、感じが、する。
「お姉…その厄介な人って、誰?
もし、手が必要なら、私、協力するよ?」
私は恐る恐る聞いてみる。
何か、お姉からおぞましいものを感じる。
その正体が何か、私は見極めなければならない。
「…その厄介者はね。私と同じものを好きになり、
私と同じものを愛して、私と同じ価値観を共有しているんだ」
…え?待って?
それって?え?え?
「でも、協力してくれるなら助かるよ。
本気でやったら私も無事ですまないだろうしね?」
園崎魅音と園崎詩音は同じもの。
同じ物を好きになり、同じ物を愛し、同じ物を共有する。
…だとしたら、
お姉にとって最大の敵は…あ、あぁ…!
―――詩音はやっぱり私と考え方が同じだよ―――
「いいよね?悟史くんは…あげたんだからさ?」
…ああぁ…ああ…アアアッツ!!!
全部、全部理解したッ!!何であんなにお姉が怒ったのかもッ!
なんで、私を許してくれないのかもッ!!!!
そうだよ。なんで気が付かなかったの…!
お姉が怒り狂ったのは、ただ圭ちゃんにアドバイスをしたからじゃない。
自分と同じ容姿をし、同じ精神を有し、同じ魂を持つ私だから!
逆に考えればわかったはずなのにッ!
悟史くんに、お姉が手を下して今までと違う考え方に変えたのなら…
私だって逆上した!当然だ!
自分と同じ姿見をした存在が、
愛する者を望まぬ姿に変えたのだからッ!
それがどれだけ許しがたく屈辱的な事か…
私なら即座に「お姉、敵対する気ッ!」
と叫んで、殴りかかっていたかもしれないッ!
そう、
許せるはずが無いッ!
ましてや、大石がちょっかいを出して、まだ何日もなっていない…
誰もよりも圭ちゃんとの絆が壊れることに過敏になっている時期に!
私はなんということをしてしまったの!
少しでも考えればわかったはずなのに!!
100%の善意でやったこと?
ええ、そうでしょうとも、お姉の心を考えずに!
園崎詩音…あなたはバカなの!?
昔からそうだった、自分の事しか考えていない!
そう、これは相手の心を考えずに行った独善ッ!その結果がこれだ!
そして、お姉は今、感情的になどなっていない。
極めて冷静に私を見ている。
私が敵対するかどうかを。
自分と前原圭一の絆を奪う存在なのかを!
「…ねぇ詩音」
受話器からお姉の声が…
信じられないほど優しい声が聞こえてくる。
私はその声を聞いて即座に理解した。
これは、私に対する『最終通告』なのだと。
「昔からさ、私、何でも分けあっていたよね?
何かあれば、私は詩音と半分こしていたよね?
詩音があまりにも可哀想だったから。
なんで私だけ優遇されるのかわからなかったから。
園崎魅音と園崎詩音は同じ存在なのに。
でもさ、圭ちゃんだけは…私にくれないかな?
それ以外なら、全部…あげても良いよ詩音?
私の名も、園崎家当主の座も、なにもかも全部…」
いらない!いらない!いらない!いらない!いらない!いらない!
いらない!いらない!いらない!いらない!いらない!いらない!
いらない!いらない!いらない!いらない!いらない!いらない!
そんなのいらない!!!!そんなのいらない!!!!
「私にはッ!悟史くんがいるからッ!!!!」
絶叫した。肺の中の全ての空気を絞り出して叫んだ。
激しく呼吸をする。息が乱れる。興奮してめまいがする。
「くくく…あははははは…アハハハハハハ!!!!!」
受話器の向こうで、笑っている。
自分の知らない、何かがそこにいる。
そこにいるのはお姉じゃないの?
私の知っているお姉じゃないの?
そこにいるソレこそがお姉なの?
怖い、怖い、怖い。
恐怖で胃が引きつる。
冷や汗が止まらない。
でも、わかっている。それを生み出したのは
笑い声が、止んだ。
「…詩音、私達、姉妹でよかったと本当に思うよ」
「…え、あ、うん…アハ、お姉、何をいっているんですか?当然じゃないですか!」
乾いた笑いで、お姉に追従する。
そんなことがあるわけもないに受話器の先から視線を感じる。
そんなことが、ありえるわけが無いのに。
「だから、さ…詩音…
裏切ったら、嫌だよ?」
プツン…
ツー…ツー…ツー…
電話が、切れた。
私は受話器を置くと、まっすぐ洗面所に向かい
胃の中のものが全てなくなるまで吐き出した。