ひぐらしのなく頃に~ただひたすら圭一と魅音がイチャイチャするだけ編~ 作:Java-Lan
[15日目(木):園崎本家:夜:前原圭一]
夕方になり、バスに乗って俺達は帰って来た。
バスは雛見沢を回り、一軒ずつ乗客を降ろしていく、
俺はバスの中で憮然としていた。
結納披露用の冊子制作のために、親父たちがもってきた俺の子供の頃のアルバムで部活メンバーは大いに盛り上がった。
大いに盛り上がったと言うのはつまり、俺がとても恥ずかしい思いをしたということだ。
まったくあいつらときたら…沙都子と梨花ちゃんなんて現在進行形でちびっ子のくせに、子供の頃の俺にちゃちゃをいれるしさ。
隣の席に座っていた魅音は
ニヤニヤしながら俺の腕を取る。
「いやぁ~、圭ちゃんの小さい頃の写真、可愛かったね。
レナじゃなくても、お持ち帰りしたくなっちゃったよ」
「ちぇ、なんだよ。お前の子供の頃なんて、わんぱくじゃないか」
「そりゃ、おじさんが圭ちゃんの子供の時分は、ダム闘争の真っ最中だったからね」
子供の時分ってなんだよ。わけがわかんねぇよ。
俺がへそを曲げていると、魅音は優しい笑顔を近づけてくる。
「ごめん、圭ちゃん。ちょっと…からかい過ぎたね」
…ちゅっ
そのまま俺の頬にキスをする
「しょ、しょーがねぇーな。許してやるよ」
そしてこれだけで、もう魅音を許してやろうという気になる。
なんだよ、俺もちょろいじゃないか。魅音を笑えないぜ。
バスが園崎本家の前で止まり、
魅音が颯爽とバスを降りる。
「圭ちゃん、それじゃ食事とお風呂の用意をして待っているから」
俺は軽く手を振って見送る。
今夜は、俺の親父とお袋と、そして魅音の家族…お魎バアさんや茜さん達と…が、何やら色々話をすることがあるということで帰れないらしい。
残された俺達二人の夕飯はどうするのかという話になるが、魅音が「圭ちゃんのお夕飯はおじさんが用意するよ。だから今晩はウチに泊って」と提案してきた。
無論、俺は拒否する理由もないし、両親もすっかり懐柔されているので、むしろ喜んだぐらいだ。
自宅前に降ろされた俺は、明日の学校の授業で使う教材と着替えを用意する。
前回泊った時も来客用の寝巻用の浴衣が用意されていたので、パジャマは必要ないだろう。
逸る心を抑えて家を出ると、まっすぐ園崎本家へ向かう。
入り口のチャイムを鳴らすと1秒もかからず魅音が扉を開けてきた。
まさか、お前、ずっと入り口で待っていたわけじゃないだろうな?
「アハハハ、そんなわけないじゃん。さ、あがってあがって」
魅音の誘導に従って玄関口に来ると、魅音が玄関に上がりくるり振り向いて、正座をした。
「おかえりなさいませ。旦那様。
お食事になさいますか?それとも、お風呂にいたしますか?」
うぉおおお!!!
ここでも夫婦プレイをするのか、魅音!!!
その台詞は、夫ならば妻に言われたいロマン台詞一位じゃないか!
いや、一位というのは、今かってに決めた事なんだが!
俺は姿勢を正して答える。
「ただいま魅音。
それじゃ、食事にしようか」
「はい。ただ今、ご用意いたします」
三つ指をついて、深々と頭を下げると、立ち上がる魅音。
俺は、その手首を掴む。
「ん?どうしたの圭ちゃん?やっぱりお風呂にする?」
「いや、その、食事とはいったんだけどさ。本当に欲しいのはさ…」
…魅音なんだ。
口には出せず俺は照れた。
『お前が、欲しい』とはちょっと言いずらい。
俺の顔を見た魅音は、即座に何が言いたいのかわかったのか、
ニヤリと笑って両手を大きく広げた。
「クククク…そういえば、おじさん、選択肢に
わ・た・し…を入れ忘れていたねぇ。はい、圭ちゃん!」
クソ、魅音め。攻めるモードに入っていやがるな。
悔しいが。欲しいのは確かだ。
俺は素直に魅音を抱きしめてキスをする。
魅音成分が欲しかったので少し長めのディープキス。
唇を外すと、魅音が上目遣いで俺を見た。
「本当、圭ちゃんはさ。
おじさんのこと、大好きだよね」
…んな事、当たり前じゃねぇか。
俺は返事の代わりに、
もう一度魅音の唇にキスをする。
家に上がった俺は、いつものように客間へと入る。
すでにベッドが置かれており、枕が二つ置いてある。
これだけで、魅音のやる気は十分伝わるってもんだ。
ベッドの脇には籠がおいて有り、中に甚兵衛羽織…甚平が置いてある。
前に来た時は浴衣だったよな。と思いつつ来てみると驚いた事に、これがピッタリのサイズだ。
魅音、いつのまに俺の服のサイズを知ったんだ?
そういえば前に「夫婦にプライベートなど無い!」と言い切っていたのを思い出した。
大方、朝早く来た時にでも俺の服を漁ったんだろう。
「圭ちゃん、着替え終わった?ご飯の用意できたよ」
襖をあけて、魅音が入ってくる。
その姿を見て俺は驚いた。
エプロンをつけているようだが、中は素肌?
まさか裸エプロンなのか!?
魅音はニヤリと笑う。
「どう、圭ちゃん、男のロマンでしょ?嬉しい?」
…いや、よく見るとなんか違うぞ。
確かに一見すると裸にエプロンなのだけど、これは。
「魅音、ちょっと後ろを向いてくれないか?」
「うしろ?いいよ」
くるりと、後ろを向く魅音を見て確信した。
魅音の奴、前と後ろにエプロンをつけてやがる!
これではワンピースを着ているのとかわらないじゃないか!!!!
ちがうのだ!
裸エプロンっていうのは、裸の体の前面にのみエプロンをつけることに意義があるんだよ!
前にエプロン、後ろが裸、そこに生れるフェチズムにこそ価値が生まれるんだ!
あぁ…だが、勇気をもって素裸にエプロンをつけて来てくれた魅音に、それを言えるだろうか?
いや、無理だ!少なくとも俺には言えない!
むしろ、解釈が間違っていたとしても裸エプロンをやってくれた事を、
涙で堪えて称えるべきなのだ!
「…あ、ありがとうな魅音」
「あ、いや…そんな泣くほど嬉しかったわけ?」
なんだか、魅音がドン引きしている。
まさか、この涙が悔し涙だとは思うまい。
「ところで…俺来ている甚平、サイズぴったりだよな」
「クククク…圭ちゃんのことで、おじさんが知らないことは無いよ」
「…ちゃんと、返せよ俺の服」
「へっ…!?あ、アハハハ、Yシャツだけは返しておくよ!」
だけって何だ。ちゃんと全部返せ。
というか、そんなに俺の服を持って行っていたのかよ。
「そういえばさ魅音。前に夫婦間にプライバシーって無い!とか言っていたよな?」
「あ~言ったような言わないような。まぁ、勝手に服を持っていたのは謝るよ」
「いや、そうじゃなくて…そろそろ魅音の部屋を見せてもらないかと思ってさ」
「お、お、おじさんの部屋ぁ!?」
おいおい、なんでそこで顔を真っ赤にしているんだ。
もう俺達は随分と恥ずかしい事をしあっている仲だろ?
てか、部屋を見せるより、裸エプロンの方がよっぽど恥ずかしくないか?
「お、おじさんの部屋なんて、何も無いよ!
圭ちゃんが、気になるようなものなんて無いって!」
気になるといえば、前に玩具屋で魅音にプレゼントした人形だよな。
何度もこの家に来ているが、そういえば見た事無い。
だとするなら、やっぱり部屋にあるんじゃないか?
「なぁ、前に玩具屋であげた人形なんだけど、あれってやっぱり部屋に…」
「うあああ!け、圭ちゃん!ご飯たべよ!冷えるよ、ご飯冷えるとマズくなるから!」
それ以上、なにか言われるのが嫌なのか、
食事が用意されてい居間まで無言で俺の背中を押していく。
全く、人の部屋にはガンガン入るくせに、
自分の部屋は見せる見せないで大げさに騒ぐ奴だな。
居間に入ると二人分の食事が用意されていた。
テーブルに置かれているのは、焼き魚とすりおろし大根、みそ汁とご飯。
お惣菜が二品。一汁三菜の基本的に忠実な和食だ。
「おお、美味そうだぜ」
「あははは。ご飯はいっぱい炊いてあるから、好きなだけ食べて」
テーブルを挟んで向かい合わせで席につくと、
俺は遠慮なく食事を頂く。
魅音の作る食事は実に美味しい。
何度でも言うからな。実に美味い!
「そういえば、魅音と結婚すると和食がやっぱり中心になるのか?」
「ん~バっちゃもいるしね。もちろん洋食も作れるから安心して」
そうか。お魎のバアさんもいるんだよな。
そうなれば、この家で三人ぐらしすることになるのか。
そうすると、バアさんに気を使わなきゃいけなくなるよな。
文字通り大きな家に婿養子に入るんだから仕方がないけどさ。
毎日あのバァさんの顔色をうかがいながら生活するってのは、
こりゃ大変だぜ。
これが婿養子の悲哀ってやつか。
…いや、まだ先の話だけどさ。
「どうしたの圭ちゃん?」
「いや、俺が婿養子にはいったらさ、ここに住むことになるのかな。って」
「アハハハハ…う、うん。そうだね」
魅音は顔は赤くしているが、今、そんなに恥ずかしい事を言ったっけ?
う~ん。わからないぜ。
どうも、無自覚で恥ずかしい事を言う癖があるみたいだからな。俺は。
しかし、この家は本当に大きいよな。
うちも”前園屋敷”といわれるぐらい大きいけれど、高さならともかく敷地面積では比較になんてならないぜ。
まぁ、園崎家は名家なんだから大きくて当たり前なんだろうけどさ。
そこまで考えてふと、頭にあることが思い浮かんだ。
今まで誰も指摘しなかったし、俺も気にしたことも無かったが。
魅音って、そう言えば許嫁とかっていなかったのか?
「なぁ魅音。お前ってさ、子供の頃に結婚を約束した婚約者とかっていなかったのか?」
「はぁ?何それ?許嫁ってヤツ?アハハハハ、いるわけないじゃん
もし、いたとしたら、圭ちゃんと結納が決まった時、相当に揉めたよそれ」
そりゃそうだ。
もし、婚約相手がいたとしたら、かなり面倒な事になっていたに違いない。
「なに、圭ちゃん。もしかして、おじさんに男の人がいたらって…そう思ったわけ?」
魅音がニヤニヤしながら俺を見る。
そう言われると、俺もなんだか体裁が悪い。
「いや、その…そういうわけじゃないんだけどさ」
恥ずかしくなって視線を落とす俺の頬に、
魅音は軽くキスをした。
「大丈夫、おじさんはさ。圭ちゃん一筋だよ」
ちくしょう。嬉しい事を言ってくれるじゃねえか。
俺だって、魅音、お前一筋だぜ。
「でも、圭ちゃんは本当に幸運だと思うよ。
1歳年上の女房は金のわらじを履いてでも探せっていうけど、
それを、おじさんが叶えてあげるんだから。感謝してほしいよね」
それは自分で言う台詞じゃないだろう。
まぁ、否定はしないけれどさ。
「そうだな。俺には過ぎた女房だぜ。ありがとうな俺と結婚してくれて」
「ククク…圭ちゃんがそう言ってくれる限りさ、おじさんはずっと尽くしてあげるよ」
テーブル越しに俺と魅音はキスをする。
距離があるために、深いキスというわけにはいかなかったが十分だ。
ちなみに、そのキス味は醤油の味がした。
食事も終わり、俺はテレビを見ている。
魅音はお風呂を沸き具合を見てくると言って出て行いった。
テレビではお笑い番組をやっているけれど、頭に入ってこない。
魅音が、お風呂に入ってくるかどうか。それだけで頭がいっぱいだ。
「圭ちゃん、お風呂湧いたよ」
魅音の声が聞こえてきた。
心臓の音が高鳴る。おいおい、期待しすぎるなよ?
現実はそんなに美味い話なんて、そうはないんだからな。
そうは言っても、期待している自分の心は無視できないんだけどさ。
[15日目(木):園崎本家お風呂場:夜:前原圭一]
かぽーん。
お風呂にはいると、まずこの音が鳴る。
この音が何なのかはよくわからない。
長々と考察はできるが、今はどうでもいい。
大切なのは、俺がお風呂場に入った時に魅音が
「おじさんも入るから、待っててね圭ちゃん」
と言ってきた事だ。
お風呂場においてある椅子に座って、魅音を待つ。
湯ぶねから温かい湯気が出ているので、寒くは無い。
が、心拍数が異常に高まる。
ドクドクドクドク…
おちつけ俺…
どうせ前回みたいに水着をつけているに決まっているだろ。
だから、なにも問題無い。
心頭を滅却すれば火もまた涼し…
そう、気持ちを落ち着ければ良いんだ。
そして、落ち着いた俺は気が付いた…真っ裸だ。
おおい!!!魅音が入ってくるのに裸じゃないか!!
なぜだ!?なぜ入る前に気が付かない!
水着はなくとも、
腰にタオルを巻きつけると色々できるだろ!
「圭ちゃん、入るよー」
ま、待って魅音ッ!!!
腰にタオルを巻かないとッ!
ガラガラガラ…
慌てて腰回りにタオルを置き、
入って来た魅音を凝視した。
お風呂場に入って来た魅音は前回同様タオルを巻いている。
いや、少し違う。前回は軽く取れそうな感じだったが、今回はしっかりとタオルを巻いているのだ。
「魅音、その…タオルの下は…?」
聞いてから、随分下世話なことを聞いた事に気が付いたが、もう遅い。
しかし、魅音は気を悪くした様子もなく、カラカラ笑って答えた。
「下は裸だから、しっかりタオル巻いてきたよ。
今日はちゃんと体を洗おうと思ってさ」
お、オイ!?裸って…
顔が引きつっているのが自分でもわかる。
だが、魅音は気にもしていない風に、俺に近づくとスポンジを手に取った。
「圭ちゃん。体はもう洗った?」
「え、いや…まだ…」
「じゃさ、おじさん洗ってあげるね」
そう言うと座ったままの俺の背中をスポンジで洗い始める。
俺は立つこともできず、言われるままに体を洗われる。
というか自分でどうしたら良いのかわからない。
つまり、膠着状態だ。
どうするべきか迷っていると、スポンジを目の前に出された。
「圭ちゃん、前は自分で洗ってよね。おじさん、さすがにそこまでやれないからさ」
そう言って、魅音は少し恥じらいを見せる。
前はポークウインナー見せろとか何とか言っていたくせに、やっぱり恥ずかしいのか。
もっとも、俺自身、前なんて洗われたら、恥ずかしくて死んじまうけどさ。
背中を魅音に洗われ、前を自分で洗う。
なんだか不思議な感覚だ。
背中を洗い終わったのか、魅音が「圭ちゃんいくよ」と
湯ぶねのお湯で俺の体を流し始める。
一回、二回、三回…
流し終わったかと、思ったら、丸くて暖かいものが俺の背中に…
って、胸を押し付けているのか魅音!?
「お、おい…魅…」
「はぁ~圭ちゃんの背中ってさ、大きいよね…」
声をかけようとしたら、魅音が俺の背中に全身を乗っけてきた。
一体何なんだこれ?誘惑しているわけじゃないのか?
もしかして、甘えているだけか?
「………」
「こうしているとさ…なんだか幸せな気分だよ」
どうしたもんか。
やはり、ここは胸を貸すぐらいの度量は必要だろうな、うん。
いや、正確には背中だろうけど。
しばらく、そのまま背中を魅音に貸すことにしたのは良かったが、
魅音は俺の背中がすっかり気に入ったのか離れようとしない。
こまった。
それは想定外だ。しばらく放っておけば離れると思ったのに。
…仕方ない。こっちから仕掛けるか。
「み、魅音…」
「なに、圭ちゃん?」
「俺も背中、流してやろうか…?」
「え…?」
魅音の体がぴくりと動いた。
そんなに驚くような事か?背中を流すぐらい大丈夫だろ?
さすがに前を洗わせろ。なんていったら、正気を疑われるかもしれないだろうけどさ。
「………」
魅音はよほど恥ずかしいのか返事をしない。
もう一度、声をかけるべきか考えていると、俺の耳元まで顔を近づけて魅音が囁いた。
「…うん。圭ちゃんなら、いいよ」
ドクン…
俺の心音が大きく鳴る。
落ち着け俺。
女の子の裸にスポンジをかけるだなんて、そんな経験あるもんじゃない。
だから、多少、緊張するのも当たり前、ある意味、これは誤差の範囲内だ。
「じゃあさ、場所、変わろうぜ!」
気恥ずかしさを悟られないように、元気よく、場所を交代する。
何も問題ないさ。ただ背中をスポンジで洗うだけだ。
…そう思ったのが、甘かった。
椅子に座った魅音はゆっくりとタオルを脱いで、上半身をさらけ出した。
そして、俺の目に飛び込んできた。
鬼の、刺青が。
――圭ちゃんなら、いいよ――
その言葉の重みを俺は全く知らずに受け流したことを後悔した。
そして、魅音の背中に鬼の刺青があるのを忘れて背中を流そうと言った俺のバカさ加減を呪った。
おそらく、俺が気軽にいったソレは、
魅音にとって、相当重要な意味をもっていたのではないだろうか?
だが、ここで俺が謝ったりすれば、逆に魅音は傷つくに違いない。
いいよ。と言ってくれたのだから、俺はスポンジで魅音の背中を洗うべきなんだ。
「…いいのか、魅音?」
「うん、圭ちゃん。お願い…」
それでも、聞いてしまう俺は相当な根性なしだよな。
俺はゆっくりと丁寧に魅音の背中をスポンジで洗う。
この背中の鬼の刺青に触れることにどれだけの意味が込められているのかはわからない。
ただ粗略に扱うわけにはいかないということは俺でもわかった。
だから、丁寧に、丁寧に、スポンジでこすってみたんだが…
「あはははは…」
「なんだ?くすぐったかったか?」
「ううん。圭ちゃんがさ、すっごく優しく洗ってくれるから、さ…あははは…」
なんだろう。魅音の考えていることがよくわからない。
ただ、喜んでいるのは確かなようだ。
背中をスポンジで洗い終わると、先ほどと同じように湯ぶねのお湯で魅音の体を洗い流す。
魅音は再びタオルで上半身を隠すと、俺の方を振り返った。
「じゃさ、湯船につかろうか?」
「おう」
俺が最初に湯ぶねに入り、次に魅音が入ってくる。
形としては、俺が魅音を背中から抱きかかえるような感じだ。
魅音は全体重を俺にかけてくる。
お湯のおかげでそれほど重さは感じないが、そこそこ大変だ。
魅音は鼻歌をしている。
かなりごきげんな様子だな。
「ありがとう、圭ちゃん。
やっぱりさ、おじさんの背中を預けられるのは、圭ちゃんだけだよ」
男にとって背中を預けると言うのは重い意味を持つ。
と、俺は思っている。
闘う男にとって背中は弱点。
それを守らせると言うのは相手に命を預けるのと同じ意味を持つ。
…マンガの受け売りだけど。
だとしたら鬼の刺青を背負う魅音の場合は、どうなんだろうか?
その刺青はファッションでも、流行で入れたものでは無く、
伝統と格式によって彫られたものだ。
おそらくそれは、男が背中を任せる同等以上の意味があるんじゃないだろうか。
魅音の気持ちが全部がわかるわけではないけれど、おそらくそれは間違っていないはずだ。
俺は右手で魅音の頭を撫でる。
「当たり前だろ、俺はお前の夫だぜ?」
そして格好をつけて返す。
今回は歯を光らせるエフェクトは無しだ。
それでも、効果は十分なようだった。
魅音はうっとりとした顏で俺を見ると、顏を俺の首元に向けてしなだれる。
俺は右手で、魅音の頭を、左手で、魅音の左肩を支える。
魅音との素晴らしい抱擁の時だ。
「今日も月が綺麗な夜だよな。ずっとこのまま見ていたいぜ…」
「うん。そうだね。圭ちゃんと見る月なら、ずっと…」
残念ながら、お風呂場の窓から見える月は少し雲に隠れていてよくは見えない。
だが、俺の中では月は光輝いている。それは、おそらく魅音も一緒だろう。
しばらくそのままの体勢でいたけれど、
少し長くつかりすぎたのか、頭がぼおっとしてきた。
このまま続けたいのに残念だぜ、
体の方がタイムアウトのようだ。
だが、この後もまだまだ時間はあるさ。
それを楽しみにしようとするか。
「魅音、俺はあがるぜ」
「うん、わかった。先にあがって、後から行くから」
魅音から離れて湯ぶねからあがる。
二人同時にあがるというのは、まだ俺達にとってはハードルが高い。
だから、どちらかが先に上がると言うのは正しい選択だ。
脱衣所で体を拭いて甚平をきると、お風呂場にいる魅音に声をかける。
「それじゃ、客間でまってるぜ」
「…うん。待ってて」
声が少し、うわずっているようだけど、大丈夫か?
まさかのぼせているんじゃないだろうな。
あまり遅くなるようなら、一度戻ってきた方がよさそうだ。
[15日目(木):園崎本家客間:夜:前原圭一]
客間にあるベッド一つに、枕二つ。
それを見て、俺は落ち着かない。
本格的なお泊まりといっても二回目なのだから、もう少しは余裕があると思ったが、意外に心理的余裕が無い。
そわそわしてしまい、特に意味もなく右往左往してしまう。
いやいや、落ち着け。
ここはしっかりと腰を落ち着けて待つ。
それが重要じゃないか。うん。
「失礼します…」
襖があいた。魅音だ!
俺はとっさに振り返る。来たんだ!
「圭ちゃん…」
魅音は上気した顏で、熱く息を吐いている。
髪をおろして少し浴衣を着崩している。
おいおい、最初からフルスロットルなのかよ!
魅音、お前やる気満々だな!?
魅音は、俺の目の前までやってくると、
そのまま俺の胸の中に倒れ込む。
「み、魅音…?」
「圭ちゃん…私…」
これは、一気にいくパターンだ…!
魅音が、濡れた目と唇で俺を見上げる。
体から熱い湯気が出て、顔も上気している。
一目見て、わかった。
これで攻められたら抵抗できない!
親父、お袋…俺、今日、さなぎから蝶になりますッ!
…ガクッ
え?ガクって?なに?
「圭ちゃん、私、のぼせちゃったぁ~」
え?えええええ!?
「お、おい、大丈夫か魅音!?」
「ゴメン、圭ちゃん…大丈夫じゃない…」
おい、おい。その格好は俺を誘惑していたんじゃなく、
単にお風呂でのぼせていただけなのかよ!
とにかく、魅音を布団に横に寝かせると、
俺は台所へ向かい濡れたタオルを用意して魅音の頭に乗せて、
部屋にあった団扇を仰いで、風を起こす。
扇風機があれば一番良かったんだけど、見つからない。
どこか別の場所にあるのか、それとも魅音の家には無いのかはわからない。
「ありがとう、圭ちゃん~」
「一体何だって、ノボせるまでお風呂に入っていたんだ」
「う~圭ちゃんが上気した姿が好きだからさ、おじさん頑張りすぎちゃって…」
おいおい、なんだ。
健気可愛いかよ魅音。
文字通り、熱にうなされた魅音は体を乱雑に動かす。
そのせいが浴衣が乱れて、胸元がはだけ、ふとももが露出している。
…と、書けば少しはセクシーに聞こえなくも無いが、どっちかといえば沙都子が腹をだして寝ているのと変わりがない。きちんと魅音の着崩れを直してベッドに入れる。
「ごめんね圭ちゃん…せっかく泊りに来てくれたのに…」
「ははは、いいよ。こうして魅音と一緒にいられるのが一番なんだぜ?」
俺はそういって魅音の頭を撫でる。
魅音は少し恥ずかしそうに顔をあげると、両手を布団から出して、手を伸ばしてきた。
…ははん。これは抱きしめて欲しいってことだな?
仕方がない奴だぜ。
俺は上から覆いかぶさるように抱きしめた。
魅音の体は春の陽気のように温かく、お風呂上がりの良い匂いがする。
声をかけようとしたら、軽い寝いびきが聞こえてきた。
寝ているのか?
全く仕方がない奴だ。
起さないように、しばらくこのままでいるとするか。
抱きしめているこっちまで眠くなってくるが頑張ろう。
夜の帳は、まだ閉じたばかりだ。
[15日目(木):園崎本家客間:深夜:前原圭一]
なんてこったい。
こんなことは考えてもいなかった。
魅音が、俺を一向に放そうとしない。
凄い力で抱きしめ続けている。
最初は、しばらくすれば離すと思っていたが、
一時間たち、二時間たち、三時間たったあたりから、
さすがに危機感を感じ始めた。
時計を見ると、午前2時!
さすがに俺も眠い!そしてトイレに行きたい!
このまま寝て良いものなら寝たいんだが、
俺の体重を魅音の上に乗せたまま寝たらどうなるんだ?
よくわからんが、きっと大変な事になる。
横向きになれば何とかなりそうだが、
しっかり魅音が掴んで離さないのでそれもできない。
いや、それよりも何よりもトイレに行きたい!
このままだと漏れる!
なので、頑張って離れないといけない。
まず両手を魅音の体から外す…起こさないように…
「ん…んん…」
よし、問題無い。
次に、俺の抱きしめている魅音の手を外すために、体を動かす。
…ダメだ。しっかり固定されていやがる。
やはり、俺の手を回し、直接指を一本ずつ外していく必要があるな。
右手を後ろに回して、魅音の指を一本一本外していく…
固い。そして中々外れない。
しかし、俺もトイレに行きたいがために奮闘する。
人差し指、中指、薬指、小指…よし、外れる。
「ん~」
ガバッ!
ぐあぁ、せっかく外したのに、また掴まれた!
外そうとすると掴んでくるのか…?
クソ、もう一度チャレンジしないと…
このままだと、明日は睡眠不足で死ぬぞ?
人差し指、中指、薬指、小指…よし、外れた!
もう片方の手も…!できた!これで離れる!
「ん…んん…」
ガサガサ…
ようやく解放されたぜ。
でも、なんだ、魅音の手が動いているぞ?
何かを探しているのか?もしかして、俺を?
「圭ちゃん…どこ?圭ちゃん…」
おいおい、なんだよ。無意識に俺を探しているのか?
思わず俺は魅音を抱きしめてしまう。
「ここにいるぜ魅音?」
「えへへへ…圭ちゃん…」
魅音は幸せそうな顔をして、また寝いびきをたてた。
おいおいおい…
どうするんだこれ?
もしかして、俺がいなくなると、自動で追尾してくるのか?
このままだと、さすがにヤバイ!
妻の実家で、おもらしなんて御免だぞ!
考えろ…考えるんだ!
まず、トイレの場所だ、廊下に出てまっすぐ行ったっ所を…
って、遠すぎる!そんな長時間魅音から離れたら、多分魅音が泣くぞ!?
だとすれば、方法は一つ…!
襖をあけて、中庭に飛び出しそこで立ションをして戻る!
これなら、魅音が泣く前にすぐに戻れる!
汚れた手足は、のぼせた魅音熱を冷ますためにもってきた
濡れたタオルをつかって拭けばいい。
これなら、
魅音が俺がいないことに気がつき泣いたとしても、
最小限の時間で戻ってこれるはずだ!
非常の時には、非常の手段を、だぜ!
完璧だよッ、この作戦!
俺はゆっくりとゆっくりと魅音の指を外すと、
猛ダッシュで襖をあけて、中庭に飛び込んだ!
…カチ
地面に降りるとカチッっと音がしたが気にせず、
思いっきり放出する!
ふぅ、一安心だぜ!
…ん?ところでカチって、何の音だ?
よく見ると、中庭に看板が見える。
蛍光塗料が塗られた髑髏マーク…
あ、まさかこれって沙都子が仕掛けたトラップ…!?
髑髏の目が光る!
いや、光ったんじゃないッ!
地面から何かが飛び出してきた!
花火!?これはロケット花火だ!!!
シュバババババ!!!!!!
シュバババ!!!!!!!!
うわああああああ!!
あらゆる方向から俺めがけて向かって、次々とロケット花火が飛んでくる!
やめろおおおお!!!!!!
「ん~圭ちゃん…圭ちゃん…?どこにいるの…
って、圭ちゃんッ!?どうしたの!!!!」
魅音が目を覚まして、
廊下にぶっ倒れていた俺を抱きかかえた。
沙都子のトラップで一斉にロケット花火を受けて真っ黒になった俺をみて困惑している。
だが安心しろ、魅音。
おそらく俺が一番困惑している。あぁ、だめだ眠さと疲れとロケット花火衝撃で、意識が遠のく。
薄れゆく意識の中、俺は明日、必ずや沙都子に復讐をしようと誓った。
ちなみに、トイレは問題無く解決した。
そこだけは助かった。
トピック: [ 魅音には許嫁がいない? ]
※トピックでは「ひぐらしのなく頃に」のネタバレが含まれます※
「ひぐらしのなく頃に命」のロールカード【いつかの花嫁・古手梨花】のエピソードより。
舞踏会ならぬ、武道会で活躍した園崎魅音に一目ぼれした男性が、求婚を求めてきて、それを断る下りがありますが、このさい、園崎魅音には過去に一度も家が決めた婚約者などはおらず本人も今の所結婚の意思はないことを語っています。
なお、該当イベントでは結婚の有無を聞かれて「圭ちゃんと結婚するなんてまだ早いよ」と大チョンボをかまして悶えるシーンがあったりします。
なお「ひぐらしのなく頃に」世界共通設定かは不明。