ひぐらしのなく頃に~ただひたすら圭一と魅音がイチャイチャするだけ編~ 作:Java-Lan
[16日目(金):雛見沢分校:朝:前原圭一]
こらああああ!!!沙都子ぉお!!!!!!
俺は学校に到着するやいやなや、両手の中指の関節で沙都子のコメカミをグリグリと押し回す!
「いやあああ、なんですのぉッ!」
ふむふむ、沙都子の悲鳴が心地よい。
「なんですの。じゃねぇ!自分の心に聞いてみろ!」
「ふぇええん!圭一さんがいじめるんですのぉ!」
沙都子がわざとらしく泣きはじめると、レナがひょっこりと現われる。
その顔は恍惚となっている。いかん、これは、可愛いモードの顏だ!
「か、可愛いよぉ!泣いている沙都子ちゃん、可愛いよぉ!
悪い圭一くんは退治してあげるからね!あげるからね!」
ドガッ!
レナの目に見えない攻撃が俺の顔面にくりだされる!
なんか、懐かしいぞ、このパターン!
沙都子の頭を梨花ちゃんが撫でる。
「圭一にイジメられてかわいそ☆かわいそなのです☆」
梨花ちゃんの手で元気を取り戻した沙都子は…というか、最初から別に本気で泣いちゃいなかったんだろうけど…俺にくってかかってきた。
「本当ですわ!一体、なんですの!?
朝から急に!私が何かしまして!?」
おうおう、よく言うぜ!
園崎本家の中庭にあんだけトラップをしかけやがって!
ロケット花火の雨あられを全身に受けて、
こっちはひどい目にあったんだぞ!
「沙都子が中庭にしかけたトラップに夜ハマって昨日は散々だったんだぜ!
お前のことだから、どうせ俺が泊る場所を想定して仕掛けたんだろ!」
「…は?何をいっているんでございますの?
トラップの配置場所には、ちゃんと蛍光塗料のついた看板を設置しておいておきましたわよ?
ちゃんと警告看板を見なかった圭一さんがお悪いのではなくて?」
…ぐ、正論を言ってきやがった。
「まぁ、トラップマスターの私を評価して下さるのは嬉しいですけれど、さすがに買いかぶりすぎですわね。つまり、圭一さんはこうおっしゃりたいのでしょ?
圭一さんが来る日を想定して、どこの部屋から飛び出すかの計算し、ちょうど良く着地する地点に起動装置を設置し、大量のロケット花火が圭一さんのいる場所に
ぐぬぬぬ。確かに、言葉にすると無理な感じがする。
しかし、俺の直感が囁いている!
沙都子、お前は俺にトラップをしかけて罠にはめたのだと!
「圭一さん、直感などというものが信用できるのでございましたら
この世に誤認逮捕なんてものは存在しないですわ」
ぐはっ…!
またしても沙都子に正論を言われた。
こいつ、理論武装してやがる…!
しかし、そこが逆に怪しい!
沙都子、やはりお前は
「問答無用!沙都子、この俺のスーパーデコピンをくらえ!」
「いやぁああ!レナさん、圭一さんがいじめるのですのぉ~」
沙都子に飛び掛かろうとした俺に、
レナの防御不可能の一撃が繰り出される!
ドガッ!
「うぎゃああああ!!」
…バタッ
「沙都子ちゃんをいじめちゃダメなんだよ!ダメなんだよ!はぅ~☆」
絶対無敵のレナ防御壁…
これを打ち倒すのは、俺には無理だ。無念…
「ふぁああああ~、みんなおはよう」
ノンビリした声で魅音が教室に入って来た。
昨日は俺がぶっ倒れてから寝ずに看病したせいで寝不足らしい。
たいした怪我じゃないんだから、寝ればよかったのにとも思うが…
そういえば俺の顔を見ていていたら、眠れなくなったとかいっていたな。
意味が分からん。というか、イタズラされていないだろうな、俺?
魅音は、可愛いモードのレナに抱きしめられている沙都子の前までくると無造作に頭を撫でまくる。
「んも、沙都子ぉ…あんな危ないトラップはダメだって。花火系は、もう無いよね?ふぁ~」
「設置した時にお話ししたと思いますが、花火トラップはあれだけですわ。なのに、その唯一のトラップを引き当てるだなんて、圭一さんも、とんだ幸運の持ち主でございますわね」
くっそ、しらじらし。
沙都子のヤツ、俺を見ながらニヤニヤしてやがる。
レナから離れたら、目にものみせてやるからな!
そんなこんなで授業が始まったのだが困ったことが起きた。
魅音が、机につっぷしてヨダレを出しながら寝始めたのだ。
体を揺らしても中々起きない。
魅音は綿流し実行委員として精力的に活動している。
なのに昨夜は俺がトラップにかかり、その看病でほとんど寝ていない。
だから、疲れと寝不足で寝てしまうのは仕方はない。
知恵先生もそれは理解しているので、最初は見逃していたものの、
さすがに寝言で「圭ちゃん~♥」と口走りはじめたら、魅音の頭を教科書で叩きはじめた。
「もう、魅音さん。
そんなだらしのない顏で、圭一くんに嫌われますよ」
「ふぁ~、大丈夫ですぉ先生~
圭ちゃんは私のこと大好きですから」
知恵先生が一瞬顔を歪ませたのに、魅音は気が付いたのだろうか?
これ以上、知恵先生を刺激するとマズそうなので、俺は定期的に声をかけることにした。
だが、魅音は眠いんだろう、あいまいな返事をして、ししおどしのように頭を
コックリコックリと上下に動かしている。
大丈夫かこいつ?
そのうち首が取れるんじゃないか。心配だぜ…
[16日目(金):雛見沢分校:昼:前原圭一]
なんとか頑張ってお昼休みの時間までこぎつけたが、やはり魅音は目をつぶって体を揺らし、意識があるのか無いのかわからないような状態だ。
こんな状況では食事もままならないだろう。
仕方が無いので、俺が食べさせるしかない。妻を支える夫の義務ってヤツだ。
俺は弁当のおかずを箸つまんで魅音の前に差し出す。
「おい魅音、食べられるか?」
「あ~い」
パクリ。
魅音はおかずを口の中に入れて、もぐもぐと噛んで飲み込む。
そのまま、ご飯、おかず、ご飯、おかずと交互に差し出す。
出す。
パクリ。
出す。
パクリ。
出す。
パクリ。
俺が箸で摘まんで目の前に差し出してきたものを、魅音は無条件で口に入れる。
なかなか面白いぜ。なるほど、魅音が俺にあ~んをしてくるわけだ。結構楽しい。
その俺達のやりとりを見ていたレナが嬉しそうに笑う。
「なんだか、いつもと逆だね。逆だね」
「魅ぃ、可愛いのです☆にぱー」
「まったく魅音さんも、お子様でございますわね」
梨花ちゃんも、沙都子もはやし立てる。
まぁ、こういうのもたまには良いのかもしれないな。
さて、食事も終わり、残りの昼休みは屋上近くの階段の踊り場で休むことにした。
この場所で、眠そうにしている魅音を俺の膝枕で寝かせるためだ。
さすがに、ただ眠いってだけで保健室を使うわけにはいかない…という判断をしたからなんだが、魅音を軽く独占したかった…という理由もなくは無い。
脚は辛くなるけれど、魅音の寝顔を独り占めにできるチャンスを逃す手は無いってもんだ。
ちなみに教室で寝させないのは、俺がイチャイチャしている所を激しく嫉妬した目で見てくる富田くんと岡村くんから逃げるためだ。
まったく、あの二人には困ったものだぜ。
何度でも梨花ちゃんと沙都子に告白チャレンジすればいいのに。
それが男って奴じゃないか?
まぁ、こんな話をすると「それは圭一さんが成功したからです!」とか何とか猛抗議を受けるから言わないけどさ。
しかし、この場所は良い。
屋上というか最上階に行く人はまずいないだろうし、
時間までここにいれば、誰の迷惑もかからないだろう。
六月で暑いは暑いが、窓をあけて風通しをすれば問題は無い。
幸い、レナから花見に使うための虹色のビニールシートを借りられたので、
それを下に敷き、俺の膝枕の上に魅音の頭を乗せて眠らせることができた。
「時間になったら起こすから、ギリギリまでここで寝てろ」
「ありがとう圭ちゃん…ふぁ~」
まだ眠かったのか、踊り場の準備を終えると、
あっという間に魅音は眠り始めた。
スヤスヤと軽い寝いびきをたてている。
どんな夢を見ているのか、たびたび俺の名前をつぶやく。
…可愛い顏して寝ているよな。
俺は魅音の頭を撫でる。
寝ていても撫でられているのがわかるのか、
魅音は気持ちよさそうな顏をしていた。
しばらくその顔を眺めていたら、
誰かが階段を上ってくる音がした。
誰だ一体?こんなところの階段を使うだなんて、
学校に爆弾を設置して、屋上に起爆タイマーでも置いていない限り、
こんなところに来るはずがないと思うが。
姿が見えた、レナか?
梨花ちゃんと沙都子もいるな。
「あは☆魅ぃちゃん、すっごく幸せそうな顏してる。
圭ちゃんに膝枕されて安心しているんだね」
恥ずかしい事をいうな。
俺の顔が爆発するだろうが。
「どうした?何か用かレナ?」
「はぅ~☆可愛い魅ぃちゃんと圭一くんを見たかったんだよ!見たかったんだよ!」
…まぁ、レナの場合はそうか。
じゃあ、後の二人なんだ?
梨花ちゃんと沙都子が中腰で魅音の顔を覗いている。
イタズラしないだろう?と、思ったその時、沙都子が俺を向いて微笑んだ。
「圭一さん、きっとこれから先も色々おありだとは思いますが、
魅音さんを信じてあげてくださいませ」
あまり沙都子らしくないことを言うので面食らった。
まるで梨花ちゃんのような台詞を言う。
梨花ちゃんも口を開く。
「圭一、魅ぃは絶対にイタズラで、おはぎに針とか入れることは無いのです。
だから、沙都子の言う通り、何があっても魅ぃを信じてあげて欲しいのです」
…そんなの当たり前じゃないか。
二人ともおかしなことを言うんだな。
俺は、梨花ちゃんと沙都子の頭を撫でる。
「わかったぜ。俺は魅音を信じる」
だが、なぜか
沙都子は憮然としている。
「私が言ってもすぐに信じないのに、
梨花が言うとあっさり信じるのでございますわね」
沙都子には悪いが、
それは日頃の行いのせいだろうな。
「むきー!なんですってー!私がいなければ、
今頃大惨事がおきて圭一さんなんてミートソースでしたのよ!!!」
沙都子が連続パンチしてきたので、俺はそれを両手で軽く受け止める。
甘いぜ沙都子。そんなパンチじゃ、世界は狙えないぞ!
しばらく沙都子とじゃれていたら、
レナが俺の上着を引っ張りはじめた。
「そろそろお昼休みが終わる時間だよ。魅ぃちゃん、おこそ?」
…あぁ、もうそんな時間か。
俺がレナの方を向いている隙に、魅音にイタズラしようとして両手をあげて指を動かしていた都子の額にデコピンを行うと、魅音の肩を軽く揺らして声をかけた。
「魅音、そろそろ時間だぞ」
「ふぁ~、そんな時間?」
大きく背伸びをする魅音にレナが声をかける。
「魅ぃちゃん、よく眠れた?」
「ん~、枕が硬かったかな。今度レナに頼もうかな?」
…ちぇ、魅音の奴。
「嘘、圭ちゃんの膝枕が世界一だよ」
そう言って笑顔で振り向くと、俺の頬にキスをして素早く階段を下りていく。
レナも笑いながらその後を追っていき、俺は、梨花ちゃんと沙都子と共に取り残された。
「魅ぃにやられっぱなしなのです」
「ま、魅音さん相手では仕方ございませんわね」
梨花ちゃんと、
沙都子に肘で突っつかれる。
ふん、俺だってな。皆が見てない所では、魅音をちゃんとやりこめているんだぜ?
…まぁ、そんなこと言うと、負け犬の遠吠えみたいだから言わないけどさ。
[16日目(金):雛見沢分校:放課後:前原圭一]
学校が終わり、放課後になった。
今日はこれから綿流し実行委員の部会があるので向かわないといけない。
魅音が俺の袖口をひっぱり、今日の部会は早上がりで終わるから、綿流し実行委員の仕事が終わったら家に寄っても構わないかと聞いてきた。
「今日はさ、全然勉強できなかったから、圭ちゃんの部屋で個人レッスン…どう?」
魅音の顔を見ればわかる。
口端をあげて、目じりを下げて、いやらしい顔をしている。
あきらかに勉強をしたい顔をしていない。
だが、勉強を教えて欲しいっていうのなら、
俺に断る理由は無い。
「それは構わないぜ?
だけど、しっかり勉強はするんだぞ魅音」
その言葉を聞いて、魅音は口をとがらせる。
俺の部屋でイチャイチャしたい口実を探しているだけだろ。
全く、欲望に忠実で呆れちまうぜ。
「じゃさ、圭ちゃんはおじさんとイチャイチャしたくないわけ?」
したいです。
結局、俺も自分の中の欲望に負けてしまう。
あぁ、情けないぜ前原圭一。相手が妻とは言え誘惑に屈するなんて!
いやしかし、伴侶が求めてきたらそれを受け止めると言うのも相方のつとめなのではないだろうか?そう、俺は間違っていない!これが間違いだと言うのなら、世界の方が間違っているのだ!
魅音は俺が屈したのを確信すると
邪悪な笑みを浮かべる。
「クククク…じゃ、圭ちゃん。一緒に集会所に向かおうか?
今日の部会はすぐに終わるから、まっすぐ圭ちゃん家へ行こう」
俺の手を取り、颯爽と走り出す魅音。
まったく、ここまで俺を挑発するなんて良い度胸だぜ。
たしかに、俺は自分の部屋で魅音とイチャイチャしたい誘惑に屈した。
しかし、魅音、甘く見るなよ?
イチャイチャはしたくても、きちんと勉強はみてやるからな!!
[16日目(金):前原屋敷:夕方:前原圭一]
夕方5時ごろになり、早々に綿流し委員の部会を終えた俺は先に自宅へと戻り、魅音の到着を待っていた。
魅音は模擬店部会でいざこざが起きて少し遅れているようだった。
玄関口で時計を見る。
時間は俺が帰ってきてから30分ほど経過していた。
ぴんぽーん。
チャイムが鳴るとドアの覗き穴に目をあてる。
外にいるのは魅音だ。俺の家にやってきたんだ。
俺は鍵を開けると、勢いよくドアをあける。
その瞬間に、抱き着いてくる魅音。
「圭ちゃん!」
…ドサ。
俺はしっかりと魅音の体を抱きしめたが、
重さで少し後ずさりをする。愛が、重い!
というか、今、確認もせずに飛び出しただろう?
開けたのが俺の両親だったら、どうするつもりだったんだ?
「へーきへーき。
海外ではさ、挨拶に抱き着くなんて普通なんだよ圭ちゃん」
ここは日本だぞ?
突然アメリカナイズするな!
抱き着いてきたものは仕方がない。
一回頬にキスをすると、家の中に招き入れた。
魅音は、台所から顔を出てきたお袋に、夕飯を食べるかどうかの質問にYESと答えて、二階にある俺の部屋までついて来た。
「イヒヒヒ…じゃさ、圭ちゃん…
おじさんと良い事しようか…?」
そう言って、おっさんのように笑う魅音の前に、
俺は無表情で参考書を開いて顔面に押し付ける。
さぁ、勉強の時間だぜ魅音!
「ぶー!ぶー!圭ちゃん、愛情たりないよ!
おじさん、つまんない!つまんなーい!」
「…ったく、お前さ。ここに何しに来たんだよ?」
「もちろん、圭ちゃんとイチャイチャするためにきまってるじゃん♥」
お前、全くぶれないな?
というか、二人っきりだからって、
なんだその語尾のハートマークは?
最初からフルスロットルかよ。
俺も魅音とイチャイチャしたいが、そんなことをすれば
全く勉強が進まない。ここは心を鬼にしなくては!
「いいから、参考書と教科書を開け!」
「ちぇー、圭ちゃんのイジワル」
全くなんだってんだ。
お前のために個人レッスンしてやるんだぞ?
俺はそんな魅音の誘惑に負けず、勉強を教えるが、
魅音はというと、案の定、俺の腕にしがみついて体重を乗せて笑みを受けべているだけだ。
幸せだが重いぞ。というか、人の話を聞いているのかお前?
「ちゃんと見ているのかよ?」
「えへへへ、もちろんだよ。圭ちゃんの事、ずっと見ているよ」
俺じゃねぇ!教科書を見ろ!
と、叫びたいが、畜生。魅音が可愛すぎて視線を逸らすので精一杯だ。
これが惚れた弱みって奴なのかよ!
「圭一、飲み物を持って来たぞ。あけてくれないか」
親父の声がドアから聞こえてくる。
気を利かせて飲み物を持ってきてくれたのか。
親父の声を聞いた魅音は、そそくさと俺から離れるとドアを開け、
親父から、ジュースの入ったコップが乗せられるお盆を受け取った。
「ありがとうございます。お義父様」
「勉強ははかどっているかな、魅音ちゃん?」
「はい、圭ちゃんはとっても優しく教えてくれるんです。
きっと、お義父様に似たんですね」
歯の浮くようなおべっかは止めてくれ。
親父は満足しているが、聞いている俺は恥ずかしい。
テーブルの上にお盆を乗せて、俺の前にコップを乗せる。
そして、なぜか魅音は悪い顔をして、ストローを二本を突き出してくる。
「クククク…圭ちゃんさ、喫茶店の続き…してみない?」
お前の言わんとすることが理解できないぞ。
俺のコップにストローを二つ入れて、俺の目の前に置くと、
魅音は顔を俺のすぐ目の前まで近づける。
「圭ちゃん…一緒に飲も?」
俺は一瞬顔が引きつる。
だが、よく見ると魅音も悪い笑顔をしながらも
顔を真っ赤になっているじゃないか。
俺とイチャつくために、勇気を総動員しているんだな?
くっそ。いじらしいかよ。
そう思うと、魅音が愛しくなり
つい目の前のストローを無視して魅音に軽くキスしてしまう。
…ちゅ
「け、け、圭ちゃん!?」
突然のキスに慌てる魅音に笑顔を返すと、
俺は自分の方を向いているストローを加えた。
「…一緒に飲もうぜ魅音」
「う、うん…」
さっきまでの勢いはどこへやら、
魅音は薄眼で俺をみながらストローを加える。
俺達は無言でジュースを飲む、
ジュースは少しずつなくなっていくが、勿体なく感じる。
魅音もそうおもったのだろうか、ジュースの減る量が徐々に少なくなり、
コップに三分の一残った時点で、減らなくなった。
俺と魅音は見つめ合い、指を絡ませ合う。
「…もういいのか魅音?」
「…うん。一気に飲むのも、勿体ないし」
二人ともストローから口を離す。
俺達の唇が濡れているのは、今ジュースを飲んだばかりだからというわけでも無いだろう。
俺達は無言のまま、そのまま唇を重ねる。
不思議だ。示し合わせたわけでも無いのに、自然に俺達はキスをした。
これがツーカーの仲って奴なのか?
いや、多分、意味は違うんだろうけれど、心が通じ合ったのは間違いない。
唇を離すと、俺と魅音の間に小さい透明な糸ができた。
少し、これはエッチな感じがする。
「…勉強の続きさ、しようぜ?」
俺がそういうと、魅音は小さく頷く。
そして、俺の体に体重を乗せてしなだれる。
俺の説明を聞いているのか、聞いていないのか、
じっと俺の方を見ている。
俺も説明に区切りをつけて魅音を見返すと、
「コホン」とわざとらしく咳をした。
「理解できたのかよ?」
「うん…だから、ご褒美頂戴。圭ちゃん…」
…いや、絶対に理解していないだろお前。
だが、悲しいかな。
魅音のせつなそうな顔を見たら、もう脊髄反射でキスをしてしまう。
「えへへへ…圭ちゃん、大好き」
「…へ、言ってろよ。俺の方が大好きなんだからな」
スカして言ったが、軽く自己嫌悪に陥る。
どう考えても魅音が勉強できないのは俺のせいだ。
前原圭一って野郎が、魅音を甘やかすのがいけないんだ。
このままではいけない。一度ガツンと言わないと。
「魅音…」
「なに、圭ちゃん?」
「いや…その…名前を…言いたかっただけ…」
「えへへ…圭ちゃん、特に意味もなくおじさんの名前を呼びたかったわけ?
もう、完全におじさんの虜じゃんか…えへへへ…」
うん。無理だ。
屈託の無い笑みを見れば、魅音は俺にどやされるなんて全く思っていない。
そんな魅音を一喝することなんてとても出来ない。
正直に言おう、俺は魅音が好きすぎる。
好きすぎて、何も言えなくなってしまっている。
こんなんでは駄目だとはわかっているけどさ。
ハァ…ため息ばかり出る。
「どうしたの圭ちゃん?ため息つくと、幸せが一つ消えていくよ?」
全く、誰のせいでため息ついていうと思っているんだ。
まぁ、魅音の勉強が進まない理由の九割は俺の責任なんだけどさ。
「魅音を心配しているんだよ。ちゃんと勉強しないと大学へ行けなくなるぜ?」
「あははは、そんなこと圭ちゃん心配しているんだ。
大丈夫、大丈夫、大学なんてのはさ、人脈と金と権力さえあれば、どうかなるってもんだよ」
なんだこいつ、突然世界の裏常識を語り始めたぞ。
「園崎家には、そりゃあっちこっちに親族がいるし、コネクションもあるし、金もある。
まぁ、ぶっちゃけ多少勉学ができなくても、私立大学へ入学って手もあるからね。
もちろん、圭ちゃんも二つ返事で入学できるように手配も回すよ。なんといっても、おじさんのお婿さんだからね」
おい、おい、おい…止めてくれ。
一般人は、そりゃ大変な努力をして大学受験をしているんだぞ。
そういう上流階級的な行動は、よくないと思うぞ。
第一、ちゃんと勉強ができてなきゃ、私立大に入っても苦労するだけだろ?
大学なんて入るのが目的じゃないんだからさ。
「そりゃ、東大とかそういう一流所は、ちゃんと勉強しなきゃかもだけどさ。
圭ちゃん、そういうの狙っているわけ?」
「東大?東大か…」
進学校や受験勉強から脱落した今となっては、東大なんて考えてもみなかった。
実際、俺は興味の無い事に関してはそれほど学ぼうとする気が無い所がある。
だからこそ、褒められる喜びの無い勉強は苦痛でしかなかった。
ただ、魅音があまりにも勉強に興味が無いのであれば、
当主としての魅音をサポートするべく、例えば経済・経営学を専攻して知識を高めるとか。
そういう方向性に行くのもありのかもしれない。
「…ダメだからね」
うわっ!?
いつの間にか、魅音が俺を覗き込んでいた。
「圭ちゃんは、おじさんと同じ大学に行くんだから。これは決定事項。
そうでなくても、おじさんが先に大学に行くと一年はあえなくなるんだよ?
四年も離れ離れになったら、圭ちゃん成分不足でおじさん飢え死にしちゃうよ」
餓死って、俺は食い物か何かだったのか?
「いやさ、俺ってほら…今まで将来の目的とか無かったからさ…
魅音の力になれれば、それでいいかなって」
その言葉を聞くと、魅音は妙に優し気な表情になった。
「…圭ちゃん。嬉しいよ。
私の為にさ、将来設計を考えてくれるんだ?」
大げさな奴だな。
そんな深刻な話はしていないだろう?
「俺はただ、魅音の力になりたいだけさ」
「なら、一緒にいて。それが一番の力になるから」
魅音は微笑んではいるが、その言葉から断固とした意志を感じる。
これ以上、俺が何を言っても他の大学へ行くことは許してはくれないだろう。
なら、それでも構わないか。
魅音が望むことをするのは俺の喜びだからさ。
あぁ、くそ!こういう所が、魅音を甘やかすっていうのに。
どうもおれは魅音本位で考えてしまう。
いや、とは言え、魅音の両親の前で、俺の人生は魅音に捧げると決めたんだ。
そう、これは自分自身の誓いによるものだ。
だから問題は無い!はずだ。うん。
「わかった。ずっと一緒にいてやるぜ。
感謝しろよ?俺の青春、全部魅音にやるんだからさ」
「もちろんだよ圭ちゃん!
おじさんの青春も全部、圭ちゃんに捧げるから、ね!」
魅音は、はしゃいでいる。
やれやれ、仕方がないフィアンセだぜ。
まぁ俺のとり越し苦労かもしれないから、あまり本気で心配する必要も無いか。
レナ曰く「魅ぃちゃんは、裏で大変な努力をしていても、それを表に出さず苦労していないようにふるまうのが凄いんだよ」ということだしな。
勉強なんてしなくても平気。ぐらいの勢いで言ってはいるが、これは単に俺に甘えているだけで、裏ではしっかりとにやっているに違いない。
魅音はチャランポランに見えても、そういう所はしっかりとしているからな。
しかし、大学か。
大学へ行くと、今よりも色んな人間がいるんだろう。
もちろん、色々な男とか当然…
ドクンッ…
あ、ヤバイ。クソッ…これは、ダメな奴だ。ダメなヤツが来た…
胸の鼓動が激しくなって止まらない。俺は自分の胸元を掴む。
冷や汗が止まらない。
「圭ちゃん…?どうしたの?」
すまん。少し静かにしてくれないか魅音…?
これは、ダメな奴なんだ。あぁ、そうだ、これは…アレだ…
嫉妬
って奴なんだ。それが沸き起こっているんだ。
「全くどうしようもないぜ…」
「え?何が、どうしたの?」
「俺、今、存在もしない相手に嫉妬している…」
魅音が絶句している。そりゃそうだろう。
存在しない相手に嫉妬だなんてバカげている。
でもさ、こういっちゃなんだけど、これ、結構つらいもんなんだぜ?
「魅音が、もし大学に入ってさ、俺なんかよりずっと良い男に捕られたりしたら…
って思ったらさ」
「け、圭ちゃん…」
狼狽している魅音に、俺は努めて明るくこたえた。
冗談で済まそうとしたから、と言いたいがそうじゃない。
そうしなきゃ心が持ちそうに無いからだ。
魅音が、俺よりも良い男に話しかけられたりしたらと、想像するだけで心が苦しい。
クソッ!クソッ!俺って、こんなに嫉妬深かったのか?
「雛見沢には嫉妬の対象になる奴がいなかったからさ、こんな感情になることはなかったんだけどさ。ほら、俺と同年代って、沙都子の兄貴の悟史だっけ?あいつぐらいだろ?でも今はいないし…」
「う、うん…そうだね…」
一瞬、魅音が視線をそらした。
それを見た俺は気が付いてしまった。
気が付かなくて良いのに…いつもなら気が付くはずが無いのに!
俺は鈍感系主人公じゃなかったのかよ?こんな時に限って鋭くなるなよ!
魅音は、
悟史に、
好意を持っていたのか…!
最悪のタイミングで気が付くなんて…!?
「お前、悟史の事が好きだったのかよ…」
自分でも信じされないほど、憎悪に満ちた言葉が口から出た。
魅音の顏が強張っている。図星か。そうなのか。
「ち、ちがうの圭ちゃん、聞いて…」
五月蠅い。
「悟史くんのことは、その、ほんの少し…ほんの少しだけだったんだ!」
もう何も言うな。
「悟史くんが好きなのは詩音なんだよッ!でも、詩音が好きってことは、私もその…でも、違うから!今は圭ちゃんだけが好きなんだから!だから、だから!」
黙れッ!!!黙れッ!!黙れッ!!!!!!
ああ、クソ、クソ、クソッ!!頭の中が燃え上がるほど怒りで熱い!
胸が引き締められるほど苦しいッ!!!全身から汗が止まらないッ!!
思わず魅音を怒鳴りそうになる。それを必死に堪えている。
駄目だ。魅音は怖がりなんだ。ここで怒鳴ってしまったりしたら、全部ぶち壊しになってしまう!
俺は一回でも感情的に怒鳴ると取り留めもなく、怒鳴り続けちまうんだ!!
そんなの、怖がりの魅音に絶対に見せたら駄目なヤツだろッ!!!!
だから、落ち着け俺ッ!落ち着いてくれッ!!!
あぁ、そういえば昔、雑誌か何かの投稿欄で見たことあるな、
ヒロインは一度でも主人公以外の奴を好きになったら、そいつは幾ら体が清くたって、もう清純じゃないって話を、ああそうさ、俺だって今まで「そんなバカな!」って笑いとばしたさ。
でも、いざ、自分の番になったとき、
魅音の心を奪った奴に…悟史に、信じられないほどの嫉妬心が沸き起こってくる!
魅音は、俺の前に、アイツを悟史の奴を好きだったんだッ!
ちくしょう!魅音に許嫁がいなかったって言われて俺も油断していた!
それと過去に好きな男がいたなんて話は別の問題じゃないか!!
クソがっ!!!そんなにいい奴だったのか?だったんだろうな!詩音も虜にした!
なら、双子の魅音だって好きになって当然だ!むしろ、なぜ、今までその可能性に及ばなかった!
バカなのか俺は?初めから、その可能性に気が付いていれば、ここまで嫉妬心が湧きおこらなかったろうに!
「圭ちゃん、ごめん…圭ちゃん、ごめん…圭ちゃん、ごめん…」
魅音が両手で顔を覆い、泣いている。
それを見て、俺も涙が出てきた。
情けない。怒鳴りこそしなかったが、俺は魅音を泣かせてしまった。
ちくしょう、俺は、もう本当になんなんだ?こんなに小さい人間だったのかよ…?
嫉妬と自己嫌悪で、俺、どうにかなりそうだよ。
-圭一さん、きっとこれから先も色々おありだとは思いますが、魅音さんを信じてあげてくださいませ-
-圭一、何があっても魅ぃを信じてあげて欲しいのです-
その時、ふと沙都子と梨花ちゃんの言葉を思い出した。
あぁ、そうか、あの二人はこうなることがわかっていたから、助言してくれたんだ。
俺があまりにも人間的に未熟なのを見抜いていたんだ。
梨花ちゃんや沙都子に俺は及びもしないことを痛感するぜ。
そうだよ。確かに過去は悟史が好きだったこともあるかもしれない。
でも、魅音は、今は俺のことが好きだ。俺を愛してくれている。だから、嫉妬しなくていいんだ。
そうだろ俺?
わかったのなら、落ち着いてくれよ。ほら、魅音が泣いているだろ?
「…魅音、俺を抱きしめてくれないか?」
「…うん、うん」
魅音は半泣きになって、俺を横から抱きしめた。
魅音に体を任せて、俺は目をつぶる。大丈夫だ、ほら、今この暖かさは俺だけのものだ。
俺も、魅音の体に手を回して抱きしめた。
魅音の体が少しビクッと動いたが、抵抗はしなかった。
「ごめん魅音、過去に何があったかなんて問題じゃないよな。
俺は今の魅音が好きなんだから…嫉妬なんてする必要無かったんだ」
「…本当に?本当に信じてくれる?圭ちゃんだけを愛しているって、信じてくれる?」
「当たり前だろ、魅音を信じなくてどうするんだよ」
俺はそういって、魅音の額にキスをする。
魅音の目からぽろぽろ流れ落ちた涙を、おれは指ですくって落とす。
そうさ、魅音は悟史のものなんかじゃない。俺だけのものだ。
ざまぁみろ。誰にも魅音を渡さないからな。
俺は魅音の婚約者だ。絶対に、誰にも、渡しなんてするもんか。