ひぐらしのなく頃に~ただひたすら圭一と魅音がイチャイチャするだけ編~   作:Java-Lan

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第38話_17日目(土)A「終末の日」

[17日目(土):古手神社:お昼:前原圭一]

 

俺は、明日行われる綿流しの祭りの準備を手伝うため、古手神社に来ていた。

なんといっても、今回の綿流しの祭りでは俺と魅音の結納披露も一緒に行われる。

 

魅音に頼まれたわけではないけれど、

当事者としては何もしないというわけにもいかないだろう。

 

だから学校が終わると、まっすぐに祭り会場となる古手神社へと向かい、大人たちに混じって祭りの設営準備の手伝いをしていた。

 

-あぁ、園崎の婿さん。こっちを頼むよ。

-婿さん、婿さん、これもお願いね。

-おぉ、婿くん。手伝ってくれないか?

 

雛見沢における俺の通り名は「前原屋敷の息子さん」から「園崎の婿さん」に代わったようだ。

「婿さん」なんて通称は、なんともこそばゆいったらありゃしない。

 

テントの設営中、綿流し実行委員の中心メンバーと歩く魅音が通りがかった。

今日も、スカート付の学生服をひるがえして可愛らしい。

 

働いている俺に気が付き、駆け寄ってくる。

 

「あ、圭ちゃん。来てくれたんだ!」

「当たり前だろ?明日は俺と魅音の結納披露の日だぜ?」

「あははは、だね!」

 

魅音は俺の頬にさりげなくキスをすると片目をつぶる。

 

「じゃ、また後でね圭ちゃん」

 

皆の見ている前で、なんて奴だ。

俺の顔は真っ赤かだ。

 

周囲の大人たちも、はやし立てる。

 

-はははは、婿さんは、魅音ちゃんに頭あがらないわな。

-頑張れよ婿さん!はははは!

 

俺は照れ笑いをしながら、頭を掻く。

全く魅音の奴め。

 

そういえば、一緒に設置作業をしていた人から聞いた話によると、

俺と魅音の婚約は、俺の猛烈なラブコールによって成されたものだと伝わっているらしい。

 

なぜ、そんな話になったのかといえば、魅音の奴が、

周囲に「圭ちゃんが一目ぼれして熱烈に迫って来た」と吹聴しているせいだ。

 

具体的には

「圭ちゃんは転校してきたときに、私に一目惚れして熱烈にラブコールしてきたんだよ。

 私も最初に出会った時から良いな…って思ってたからさ。それでお付き合いがはじまったんだ」

とか、そんな感じらしい。

 

テントの設置中にお茶を持ってきてくれた、おしゃべり好きのオバちゃんが聞いてもいないのに話してくれた。本当の話なのかと問われたら、俺は照れながら肯定するしかない。

 

沙都子を叔父から救出した一件で、俺が園崎のバアさんに気に入られているのはすでに知られていた。だから魅音と婚約したさいにも「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、園崎家の婿養子に入る。それは素晴らしいことだ」と、雛見沢の人達が祝福してくれているムードが最初からあった。

 

聞いたところによると、気の早い村人達の中には、俺と魅音が婚約をする前から産まれてくる子供の名前を考えていたらしい。男子の場合と、女子の場合で白熱した議論があったとか、無かったとか。

 

俺達のいないところでよくやるぜ。

雛見沢の人達は暇なんだろうか?

 

ところが、この話も魅音の吹聴のおかげで「前原屋敷の息子さんは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、体を張ってお魎さんに立ち向かっていた」という風にすりかわっていっているようだった。

 

つまり、仲間を助けようとした俺が凄いのでは無く、

仲間を救おうとした魅音が立派であり、俺は惚れた魅音を手助けするために全力を尽くした。

…みたいな解釈だ。

 

そのせいで同じ祝福ムードでも、毛色が最初とはやや異なった感じになってしまった。

とはいうものの、別に悪い事じゃない。祝福ムードには変わりはないし。

 

年配者の話を聞くと

「前原のボウズの頑張りは、惚れた女の為だったとは可愛いじゃないか」

と、好意的に受け止められているみたいだから、別に構わないさ。

 

俺としては最初から梨花ちゃんの言う所の『前原圭一雛見沢最強伝説』なるものには興味はなかったし、無駄に持ち上げられるのも御免こうむりたいので、俺自身が凄かった。なんて話はどうでもよかった。

 

…ただ、

 非常に恥ずかしい!

 

確かに、お互いに一目惚れしたという設定は守ってはくれているようだが

明らかに俺の時の表現が過剰で、周囲に誤解を与えているのはどうなんだ。

 

これだと、まるで俺が一方的に求愛したような感じだ。

これも次期当主の面子とか、そういうことなのか?

 

実は婚約者の前原圭一を惚れさせて、裏で操っていた次期当主・園崎魅音は凄いのだ!とか?

いや、幾ら何でもそれは無いだろうが、魅音の評判が高いに越したことは無いだろう。何しろ、次期当主なんだから。

 

だとしたら、魅音の体面を考えてこのままにしておいた方が良いのかもしれない。

 

正直、こういう世間体の話ってのは、よくわからないぜ。

このまま放置しても、別に困るわけでも無いんだけどさ。

 

「うんうん。奥さんのために頑張れる婿さんはいい男だぁ」

「あ、あはは。そうですか?」

 

…おばちゃん達には冷やかされるけれど。

 うむ。やはり魅音には一言伝えておくべきだな。

 

「おやおや前原さんではありませんか」

「あ、監督…こんにちは」

 

声を呼ばれて振り向くと入江監督が立っていた。

 

そういえば、監督も綿流し実行委員の1人だ。

たしか、お医者さんだけに総務部で医療とか、救護とか、そっち方面が担当だった気がする。

たぶん、明日の綿流しの祭りの救護スペースを確認しに来たんだろう。

 

「はい、こんにちは。その後、魅音さんとはどうですか?問題ありませんか?」

「えぇ、まぁ…はい…」

 

「どうかされましたか?何でもご相談ください。

 私でできる範囲内であれば、お力になりますよ?」

 

この間の子作りの相談以来、監督は親身になって俺達を助けてくれる。

恋愛に関していえば、その方面に詳しい人達がいないので本当に助かる存在だ。

 

そうだ相談といえば、昨日の腕枕の件を聞いてみよう。

 

昨日は一晩中、腕枕をしていたせいで、今日は午前中腕が痺れて動かなかった。

大人はどうやって腕枕をしているんだろうか。

 

「はははは、前原さん。髐骨神経麻痺をわずらったのですか。

 それはハネムーン症候群と言って、恋愛初心者にありがちなミスです。

 腕枕をするさいには、直接腕に頭を置くと痺れてしまうので、

 枕と頭の隙間…首の真後ろの空間に腕を回すと良いですよ」

 

「な、なるほど…!それなら確かに腕が痺れなくてすみますね。さすがです」

 

そうか。そういうことだったのか。

そういえば、魅音が初めて俺の部屋に泊った時も腕枕をしたけれど、それほど痺れや痛みが出て無かった。あの時はきっと無意識に隙間に腕をいれていたに違いない。

 

じゃあ、昨夜はといえば…俺は、しっかりと魅音の頭を包みこみたかったので、直接腕で頭を囲んでしまった。まさか、愛情深いゆえの失敗だったとは!

 

「いえいえ、この程度のご相談ならお安い御用です。他には何かありませんか?」

 

監督はニコニコと笑って俺の次の言葉を待っていてくれた。

 

…監督には、魅音とのことで随分と世話になったよな。

 変な人だけど、いつも、まじめで親身に話を聞いてくれる。

 

今もそうだ。

他人が聞いたらバカげていたり、つまらないと思うような質問だってキチンと答えてくれる。

 

「…俺、自分が子供過ぎて嫌になっちゃいます」

 

だから、監督にはついつい心を許して、

本音をポロリとこぼしてしまう。

 

「本当につまらないことで嫉妬して、魅音に嫌な思いをさせたり、

 感情的になって傷つけたり…自分自身のガキっぽさが本当、憎いです」

「………」

 

「監督のように大人になれたら…きっと魅音を悲しませることがないんだろうな。って」

 

俺は大人になりたい。

魅音に見合うような、懐が大きくて感情的にならず、いつでも心を受け止められるような。

そんな大人に成長したい。

 

監督はそんな俺を見るとニッコリと笑った。

 

「大丈夫ですよ前原さん。そんなに急いで大人にならなくても。

 ほら、彼女を見れば、貴方が間違っている道を進んでいないことがよくわかりますよ」

「彼女…?」

 

監督が手の平を向けた先に、魅音がいた。

魅音の手には二つの紙コップが握られている。

 

もしかして、俺のために持ってきてくれたのか?

 

「はい。圭ちゃん、麦茶。喉、乾いたでしょ?」

「あ、あぁ…ありがとう魅音」

 

紙コップを受け取り、中にある液体を一気に飲み干す。

さきほどまで汗をかいて働いていたので、冷たい麦茶は格別な味だ。

 

魅音も麦茶を飲み干すと、

空の紙コップを持った手を後ろに回して俺を覗き込んだ。

 

「ダメだよ圭ちゃん。抜け駆けは」

「…え?何がだよ」

 

「自分だけ、大人になろうとしたでしょ?

 ダメだって、おじさんと一緒に歩こうって約束したんだからさ」

 

監督との話を聞いていたのかよ。

 

自分でも赤面して耳まで熱くなっているのがはっきりと分かる。

ちくしょう。恥ずかしいぜ。

 

監督は、そんな俺と魅音のやりとりを見て微笑む。

 

「前原さん。大人になれば確かに心がかき乱される事は少なくなるかもしれません。でも、あなた方の年だからこそ愛する人と共に笑い、苦しみ、悲しみ、そして成長する喜びを味わえるのです」

「監督…」

 

「残念ですが、大人になるとそういう機会はなかなか巡ってこないものです。

 大変だとは思いますが『結果』だけではなく、魅音さんと共に歩む『過程』を楽しむことを心掛けてみてはいかがでしょうか?」

 

俺は監督に頷き、魅音を見る。

魅音は微笑み、そして、俺も微笑みを返す。

 

そうだ。俺一人じゃないんだ。

魅音が側にいてくれる。見守っていてくれる。

 

焦らず、魅音と一緒に大人になれば良いんだ。

そうすれば、きっと俺が望むような、魅音に相応しい大人になれるはずだ。

 

「ありがとうございます。

 監督って本当に、その…大人なんですね」

 

「ええ、私はいつでも立派な沙都子ちゃんのご主人様になれるように、

 日々努力しておりますから」

 

…おいおい。

 

俺は笑顔が引きつる。

 

全くよかったぜ。

最後に「尊敬しています」って一言をつけなくて。

 

しかし、親父と言い、イリーと言い、どうして素直に尊敬させてくれないんだ。

沙都子が専属メイドになってくれないのは、この辺りに原因があるんじゃないか?

 

監督は、委員の仕事があるからと言って離れると、

それを確認した魅音が口を開く。

 

「圭ちゃん。梨花ちゃんがさ、今日の祭りの準備が終わった後に話したいことがあるって」

「それって…この間の写真館での話か?」

 

魅音は頷く。

 

二日前、写真館で梨花ちゃんは俺達に何かを伝えたそうなそぶりをしていた。

その時は、まだ気持ちが固まっていなかったようだけれども、遂に決心したらしい。

 

どんな話が出るのかはわからない。

 

しかし富竹さんや鷹野さんが言った”守る”という言葉とは無縁では無いだろう。

一体、何から梨花ちゃんを守らなければならないのか。

 

想像もできない。でも俺は、いや俺達はやらなければならない。

なぜなら俺達は仲間だ。仲間を危機から守るのは当然のことなんだ。

 

「もし、レナや詩音を見かけたら、夕方に梨花ちゃんの家に来て欲しいって伝えておいて」

「わかった。伝えておくぜ」

「それじゃ…まだ仕事があるから行くね」

 

離れようとした魅音の手を咄嗟に掴む。

まだ俺の用事は終わってはいないぜ魅音?

 

これだけは伝えておかないといけないよな。

 

「どうしたの圭ちゃん?」

「…お前、俺との馴れ初めを歪曲して広めてないか?」

「な、なんのことだかさっぱりだよ圭ちゃん」

 

口をとがらせて、明後日の方向を見る魅音。

なんという分かりやすい態度をとるんだ。

 

俺は魅音の両肩を掴んで正面を向かせる。

 

「罰をうけてもらうぞ魅音!」

「け、圭ちゃん!?なにをす…んっ」

 

俺は魅音の唇を奪う。

優しく、たっぷりと時間をかけて唇を重ねるキス。

 

次第に魅音の体から力が抜け、俺の肩に手を回そうとしたとき、俺は唇を離した。

 

「…え?え!?なんで!

 中途半端で止めちゃうの!」

「罰だって言ったろ?もやもやした気分のまま、委員の仕事をしてくると良いさ」

 

俺は悪い笑顔をすると、

魅音は頬を膨らませて俺に抗議する。

 

「う~、こんなのことする圭ちゃん嫌い!イジワル嫌だ!」

 

こういう反応をされると弱い。

怒っている魅音の頭を撫でて、すぐに謝る。

 

「ごめん。悪かった魅音」

「圭…んっ…」

 

そして俺は再び唇を塞ぐ。

遠くから魅音を呼ぶ声がするが聞こえないふりをして続行だ。

魅音を呼びにきただろうマダムが、俺達の姿を見て

「あら~若いわねぇ~」と言って立ち去っていく。

 

それからしばらく、

俺は魅音と唇を交わし合った。

 

魅音も十二分、堪能しただろう。

俺はゆっくりと唇を外す。

 

「…ほら、魅音、呼んでるぜ?」

「…圭ちゃん」

「なんだ?」

「おじさんさ、イジワルされるよりも、イチャイチャする方が好きなんだよ…」

 

俺だってそうさ。

顏を赤くしている魅音の頭を優しく何度も撫であげる。

 

「わかったごめん。もうしない。

 だからさ、魅音も、あんまり変な誇張や歪曲をするなよな?」

「…わかった。もうしないよ圭ちゃん」

 

俺は魅音の頬にキスをして送り出す。

 

名残惜しそうに離れていく魅音に軽く手を振って見送ったものの、

すこし、足元がふらついていて危なっかしくて気が気じゃない。

 

少しキスをやりすぎたか?

 

おそらく魅音が行った先では、今頃呼び出しに来たマダムが、

俺達のキスの場面を言いふらしているに違いないよな。

 

相当囃し立てられるだろうけど、こればかりは仕方がない。

頑張れ魅音。応援しているぞ。

 

「いやぁ~圭ちゃん。本当、ごちそうさまですね」

 

うわっ、急に後ろから声が!

誰だ!?詩音か?

 

「はい。園崎姉妹の気の利く方です☆圭ちゃん、はい麦茶どうぞ!」

「あぁ、ありがとうな」

 

本当は魅音からも貰っているんだけどな。暑いから良いか。

俺は詩音からコップを貰うと、一気に喉に流し込む。二杯目だけども実に美味しい。

 

「今日は圭ちゃんに直接お礼が言いたくて会いに来たんです。

 お姉に口添えしてくれたんですね」

 

口沿いって、姉妹喧嘩のことか。

電話口でも相当こじれているのが分かったので、少し焦ったな。

俺が悟史の件で嫉妬ギレしていなかったら、おそらく面倒なことになっていただろう。

 

まぁ、嫉妬でブチぎれて怒らないのと交換に、詩音を許すように要求するなんて考えてみればひどい話だ。

こんな交渉で問題解決したなんて、あまり褒められた事ではないんだろうけどさ。

 

「さっき、お姉とあって…物凄く謝られました。

 圭ちゃんに、とても怒られたってショボリとした感じで」

「そうなのか…?」

 

さっきの態度を見る限り、しょんぼりしている様子には見えなかったけどな。

むしろ人前で頬にキスをしたり、テンションは高めだった気がする。

 

いや、そういえば俺がキレた時も、その後は、やたらハイテンションで対応したし、

あれは一種の防御反応ってヤツなのかも。

 

だとすると、やっぱりイジワルしたのは良くなかったのかもしれない。

次に会ったら、少しは甘えさせてやらないと。

 

「やっぱり、圭ちゃんって…ヒーローですよ。

 お姉を任せられるのは圭ちゃんしかいません。確信しました」

 

「おいおい、詩音止めてくれ…また、そんなこというのはさ」

「い~え!絶対にヒーローです!私は、そう決めたんですから、覚悟してください」

「ん~、そんな風にいうのならさ…」

 

俺は、資材置き場に無造作に置かれていた

黒いバッタの仮面を取って、頭にかぶる。

 

「ダークヒーロー・前原圭一と呼んでくれよな」

 

そして、テレビで見た特撮ヒーローの変身ポーズをうろ覚えで行う。

うん、これは決まったに違いない。エフェクトもバッチリだ!

 

「あははは、なんですかそれ?ダークとかブラックとか、そういうの好きなんですか?もしかして、中二厨真っ最中だとか?あは、そういえば、そういうお年頃ですもんね、圭ちゃんは!」

 

年代的にはそう言われても仕方ないけどさ、そういうわけじゃないだぜ?

男はいつだってダークとか、ブラックとか好きなんだぞ!

 

「あれ?圭一くんじゃないか。準備のお手伝いをしていたのかい?」

 

ん?今度は誰が声をかけてきたんだ?

 

振り返ると富竹さんと、その後ろに鷹野さんもいるぞ。

設営の準備をカメラで撮りにきたのか。

 

鷹野さんは何が面白いのか設営の準備を見てクスクス笑っている。

 

「今年も綿流しの日が来たわね。

 さて、今年は誰が被害者になるのかしら?」

 

被害者?あぁ、綿流しの日に起きると言うオヤシロ様連続怪死事件とかいうアレか。

鷹野さんは本当にそういう話が好きだよな。

 

「本当にオヤシロ様が犯人なら今年はもう出ないと思いますよ」

「ふぅ~ん。前原くんは、どうしてそう思うのかしら?」

 

「そりゃ、今年の綿流しでは俺達の結納披露と共に”ダム闘争終結宣言”が出るからですよ。そうなれば、もうノーサイド。対立は無くなるんでしょ?だったらもう犠牲が出るわけ無いじゃないですか」

 

だが、何がおかしいのか、俺の話を聞いて鷹野さんはクスクスと笑い出した。

なんだ。俺、何か笑われるようなことを言ったのか?

 

「前原くん、それってつまり…

 園崎家がオヤシロ様の正体って言いたいわけなのね?」

 

…あ、そういうことか。

 

闘争終結宣言が出てオヤシロ様の祟りが無くなるのなら、

それは園崎家の意思が働いていたって事になる。おいおい、俺は間抜けかよ。

鷹野さんが面白そうに俺を見ている。

 

「…それとも、前原くんは、お婿さんに入って園崎家の秘密を幾らか知ってしまった。

 そういうことなのかしら?ふふふふ」

 

これはやばいぞ。鷹野さんのペースにハマったら、何を言わされるかわかったもんじゃない。

そうだ、詩音に会話のボールをなげよう。

 

「は、はははは。嫌だな鷹野さん。

 お魎のバアさんが、そんなことをするわけないですよ。なぁ、詩音?」

「わかりませんよ圭ちゃん。あのバアさんなら平気で1人や2人、鬼隠しにしていても不思議じゃないですから」

 

おいおい、何を言っているんだお前は!?

ボールの投げ渡し大失敗だぞコレ。

 

もしかして詩音は、お魎のバアさんが”オヤシロ様じゃない”ってことを知らないのか?

いや、まさか、本当に…実の妹にも教えていない園崎家のトップシークレットなのか、この話は?魅音と俺しか知らない事なのか?

 

なるほど魅音の言った通りだ。俺は当主には向かないな。

すぐに知っていることをバラしちまう。

 

…うふふふふ。

 

鷹野さんは笑っている。

だが、その笑いが収まると、真面目な顔つきになって俺を見た。

 

今度は一体なんだよ?

 

「…前原くん。お願いがあるの。梨花ちゃんを守って欲しいの」

 

梨花を守る…?それって先日のバーベキュー大会での話の事か?

富竹さんも前にでてくる。

 

「梨花ちゃんから話は聞いたかい?」

「いえ、それは…これから聞く予定です」

 

富竹さんと鷹野さんは顔を見合わせて頷いている。

やはり、なにか梨花ちゃんはトラブルを抱え込んでいるんだ。

 

状況が理解できていない詩音が困惑した表情だ。

 

「圭ちゃん。一体どういうことですか?

 梨花ちゃまに何か…問題でもおきたんですか?」

 

「それについて、夕方に皆が集まって話し合いをする予定なんだ。

 詩音も来てくれないか?」

 

詩音は少し考えて傾く。

 

「わかりました。今から用事があるので一旦興宮に戻りますけれど、

 夜にはこっちへ向かいます」

 

「ああ、わかった。魅音たちにはそう伝えておく

 あと、富竹さんと鷹野さんも一緒に…」

 

何か問題があるとするなら、それを知っている

富竹さんと鷹野さんの二人に来てもらうのが一番だ。

 

だが、二人は頭を振って拒否をする。

一体なんでだ?

 

富竹さんが口を開いた。

 

「詳しい事は言えないけれど、僕たちは僕たちで

 裏から梨花ちゃんを守るつもりだ…ただ、僕たちは表に出れない。

 だから、表立って梨花ちゃんを守る仕事は君達にお願いしたいんだ」

 

言っている意味が良くわからない。

ただ、二人の目を見れば、これ以上の問答は多分無意味なんだろうということは分かった。

 

「わかりました。俺達は梨花を正面から守ります。

 裏から支援、よろしくお願いします。」

 

俺は、二人に頭を下げた。

 

これから何が起こるかはわからない。

しかし、この二人は間違いなく味方だと思う。

理由はわからないが、二人の真剣な態度に俺はそう直感した。

 

[17日目(土):古手神社:夕方:前原圭一]

 

今日の準備が終わり、俺はまっすぐ梨花ちゃんの住んでいる小屋へ向かった。

梨花ちゃんは、古手神社内にある二階建てのプレハブ小屋みたいな建物の二階部分に住んでいる。

 

元々は青少年会議所だとか、青年団の建物だったらしいが、梨花ちゃんの御両親が亡くなった後に、本宅より移り住んだらしい。そして、今では身内がいなくなった沙都子もここに住んでいる。

 

「梨花ちゃん、沙都子、いるか?」

「圭一ですか?どうぞ上がってくださいなのです」

 

ドアを三回ノックして声をかけると梨花ちゃんの声が聞こえてきた。

鍵はかかっていない。ドアを開ける。

 

部屋の中には梨花ちゃん、沙都子、レナ、魅音、そして大人の男の人が中にいた。

あの男の人は確か、玩具屋で梨花ちゃんに『赤坂』と呼ばれていた人に違いない。

 

「圭ちゃん~♥」

 

語尾にハートマークをつけて、魅音が俺の方に向かってくる。

衝突を察した俺は倒れないように腰を少し落として、両手を広げた。

 

さぁ、来い魅音!

 

ドスッ

思いっきり加速をつけた魅音が抱き着いてきた。

かなりの衝撃と重さがのしかかる。くっそ、相変わらず魅音の愛は結構重い。

 

ふと、見るとレナと赤坂さんは微笑んでいるが、梨花ちゃんと沙都子はジト目で俺達を見ている。境内での一件以来、どうも梨花ちゃんも沙都子と同じく反イチャイチャ派に回ってしまったようだ。悲しいぜ!

 

「…魅音、座ろうか?」

「うん。圭ちゃん、こっちに来て」

 

俺の手をつかんで部屋の奥に進む。

魅音はレナの隣に座ると、空いている隣の場所を叩く。

 

「圭ちゃんはここだよ。

 これ、決定事項だから」

 

やれやれ。決定事項ときたもんだ。

俺の人生、これからこんな感じで進みそうだぜ。

 

魅音の隣に座ると、どちらともなく指を絡ませた。

魅音とむきに合い、お互いに微笑む。うん、悪くない。

 

「そうだ圭ちゃん、詩音にはあった?」

「あぁ、さっきあった。

 興宮に用事があるんで、それが終わってからこっちに合流すると言っていたぜ」

 

時計を見ると、午後5時だ。

何時ごろに戻ってくるかはわからないが、何か用事を片付けてから戻ってくるのであれば、

一時間以上かかるだろう。恐らく早くても午後7時か、8時ごろになるに違いない。

 

梨花ちゃんが一同を見回す。

 

「さすがにそれまで待ってはいられないわ。

 詩ぃには結論だけ聞いて貰いましょう」

 

全員が頷く。

そして、梨花ちゃんの口から驚くべき事実が告げられた。

 

『古手梨花は命を狙われている』

 

梨花ちゃんの話ではこうだ。

 

雛見沢に風土病があることがわかり、

[東京]と呼ばれる組織により、その研究のために入江診療所が作られた。

そして梨花ちゃんは雛見沢症候群の治療の研究に協力していたという。

 

監督…入江所長によれば、梨花ちゃんは、その風土病の女王であり、病気の発現を抑えているらしく、梨花ちゃんが死んでしまった場合、その風土病にかかっている雛見沢の住民が48時間以内に全員病気を発症させて死ぬと言う。

 

そのため、梨花ちゃんは大事に扱われていたが、どうやら『古手梨花を殺す事で得をする』という一派が、その組織内に生れ、梨花ちゃんの命が狙われているというのがわかった。

 

「梨花ちゃんを殺す事で得をするってどういうことだ?」

 

俺は聞いてみたが、梨花ちゃんは頭を左右に振る。

梨花ちゃん自身も、この辺りの事情はよくわからないらしい。

 

ただ一応の推測として、この雛見沢症候群の研究を推進してきた派閥が失脚することで、成りあがることができるだろう別の派閥の仕業だろうとは考えられる。

 

ただ、黒幕自体は分からなくても、

梨花ちゃんを殺害する実行犯は目星がついていた。

それが鷹野三四さんが率いる特殊部隊『山狗』だった。

 

本来山狗と呼ばれる人たちは梨花ちゃんを守っていたらしいが、どうやら梨花ちゃんの推測では鷹野さんの命令により、彼らが敵に回り殺害を決行すると考えたらしい。

だけど問題があった。

 

それは…

 

「…鷹野に直接話を聞いた限り『そういう計画があったのは確か。でも全力で守る』と言われたのです」

 

つまり鷹野三四自身は、梨花ちゃん暗殺という計画があったのを認めつつ、それに加担しない、むしろ梨花ちゃんを守る立場だと主張したのだ。梨花ちゃんは、それがどういうことがずっと考えていたが、結局のところ答えが出ずに今日に至ったと言う。

 

梨花ちゃんはその場にいた全員の顔を見て、頭を下げた。

 

「お願いです。これは全部本当の事なのです。

 信じて下さい。そしてボクを助けて欲しいのです」

 

…う~ん。

 

梨花ちゃん以外の全員が唸る。

梨花ちゃん自身がこれほど悩んだのだから嘘はついていないとは思う。

だけど、たったこれっぽっちの情報で、何を、どう話し合えばいいんだ?

 

とりあえず、何か言ってみよう。

この話で重要な点を考えてみよう。それはまず、鷹野さんは本当に味方なのか?という点だ。

 

「えーとさ、鷹野さんは梨花ちゃんの味方で間違いないのかな?」

「みー…」

 

梨花ちゃんの声が小さい。

梨花ちゃん自身は、自信が無いようだった。

 

レナがおずおずと声をあげる。

「鷹野さんって変わっている人だけれども、そんなに悪い人じゃないと思う…かな?かな?」

 

それはどちらかといえば感情論だ。理屈になっていない。

しかし、人の機敏にさといレナがそういうなら、そうかもしれない。

ただ、勘を前提にした議論はあまり意味が無い。

 

レナは人の嘘を見破るのが得意だ。だから鷹野さん本人を目の前にしてレナが断言してくれたのであれば、安心できるんだけれどな。残念ながらこの状況ではレナの言葉には何の説得力も無い。

 

そうだ。

先ほどの富竹さんと鷹野さんを会話を皆に放してみよう。

 

「俺さ、さっき富竹さんと鷹野さんに、この会合に出て欲しいって言ったんだ」

 

皆が俺を一斉に見る。

 

「だけど、それは出来ないって。ただ鷹野さん達からは”裏から守るから、梨花ちゃんを表から守って欲しい”って言われたんだ。その時の二人からは真剣なものを感じた。だから信じて良いと思う」

 

だが沙都子は思いっきり不信感を表した。

 

「圭一さん、これから殺す相手に”お前を殺す”なんて言う暗殺者がおりまして?」

 

悔しいが、確かに沙都子の言う通りだ。

そんなバカな奴はいないだろう。

 

…う~ん。

 

再び全員が唸る。

 

困った。梨花ちゃんを救いたいが、どう考えれば良いのかがわからない。

おいおい、前原圭一、お前は頭が良いんだろ?何か思い浮かべてみろ!

 

その時だ。

魅音が手をあげた。

 

「ちょっと良いかな?まず論点を先に話し合わない?

 目的が無いのに、話し合いだけを行っても意味が無いと思うんだよね」

 

この話の論点って、なんだ?

梨花ちゃんを救う。それが目的で論点じゃないのか?

 

「まず、全部を一度に考えようとするからこんがらがるんだよ。

 とりあえず、全部区切って考えようか?

 

 要は探偵ゲームと同じ、

 誰が、どこで、何を。だよ。

 

 1.この話が本当なのか。

 2.鷹野さんは味方なのか。

 3.相手の人数や武器はどれぐらいなのか。

 4.相手の襲撃場所の特定。

 5.どうすれば梨花ちゃんを守れるのか。

 

 これらを順に考えてみよう。

 まず1.の本当かどうかだけど、これはいいよね?

 本当だってことでさ」

 

全員が頷く。

 

この話が本当でなければ、まず議論が進まない。

すると、次に鷹野さんが本当に味方かどうかという問題だ。

 

「おじさんが考えるに鷹野さんはまず味方で間違いないと思う。

 理由は二つ。

 まず一つは『計画がある』と証言したこと。

 これはおそらく、鷹野さんにオファーがあって、それを断ったから、

 こういう言い回しになったんだと思う。

 理由は分からないけれど、おそらく鷹野と計画者の間で利害が対立したんだろうね。

 で、もう一つは今、圭ちゃんが言った”梨花ちゃんを守ってと言って合流しなかった”事だね」

 

最後のはどういう意味だ。

合流しなかった事が信用できるってことか。

 

「もし、本当に梨花ちゃんを殺す気なら、その行動は二つしかないんだよ。

それはとぼけるか、あるいは仲間のふりをするか。もし、後者だとしたら圭ちゃんに誘われた時にこの場に来なきゃだめなんだ。不審がられるし、何より梨花ちゃんの情報を手に入れることができるからね。つまり、暗殺者側にとってみれば来ない事にメリットは無いんだ」

 

なるほど確かにそうだ。

この場で何が話されているのか知るのは、殺し屋達にとっては有意義なはずだ。

 

その結論を聞いて、レナは手を叩いて喜ぶ。

 

「それじゃあ、鷹野さんと山狗さん達は、私達の仲間なんだね!

 それなら梨花ちゃんも助かるよね!助かるよね!」

 

だが、魅音は渋い顔をしている。

どうも事態はレナが思うほど短絡的では無いらしい。

 

「梨花ちゃんさ。その…山狗っていう警備の人達って何人ぐらいいるかわかる?」

「みー…正確な数はわからないのですが、多分、20~30人だと思うのです」

 

20から30人とは結構な数だ。

攻める側は守る側の三倍の兵力が必要だって聞いた事がある。

なら、20人もいれば、相手は60人必要ってことだ。

幾ら何でも、そんな大人数を動員できるわけがない。

だとすれば負けることは無いはずだぜ?

 

だが、そんな俺の考えを見透かしたのか、魅音は頭をふる。

 

「圭ちゃん。残念だけど、この20~30人って数はそのまま使えないんだ」

「どういうことだ魅音?」

 

「いい?仮に山狗という人達が30人だとするよ。

 まずローテーションを考えなくちゃいけない。昼に15、夜に15ってぐらいに。

 次に誰を守るかってのを考える必要がある。護衛対象は梨花ちゃんだけじゃないはずだよ、

 例えば監督や医師達、あるいは研究室や診療所そのものが護衛対象かもしれない。

 そうすると梨花ちゃん守るための人数は多くても2~4人ってことになる」

 

そうだ。全員をそのまま護衛に使えるわけが無いじゃないか。

護衛の仕事は梨花ちゃんを守るだけじゃないんだ。

 

梨花ちゃんは手を叩いて魅音を称賛する。

 

「凄いのです!確かに鷹野たちは2~4人ぐらいボクに護衛をつけてくれているのです」

 

人員配置やローテーションなど、この辺りを考えられるのは、さすが当主代行だけあるな。

大したもんだぜ。

 

「相手がいつ襲撃してくるかわかっていれば、そりゃ警備の人達だって全員スタンバッてくれているだろうけど、そういうわけにはいかない。いつ、どこで仕掛けてくるか、それを自由に決められるのが襲撃者の最大の利点だしね。逆に言えば、私達は、護衛の人が来るまで守るってのが目的になるはずだよ」

 

なるほど。今になって富竹さんや鷹野さんが”梨花ちゃんを守って”と言っていた意味が分かってきた。つまり、鷹野さん達が救援にくるまで、俺達は梨花ちゃんを守らなきゃならないってことだ。

 

だが沙都子が、当然ともいえる質問をここでぶつけてくる。

「しかし、そうは言いましても相手の人数が分からなければ対処のしようがありませんわ」

 

しかし、魅音は事も無げに言う。

「…いや、沙都子。ある程度は予想がつくよ」

 

あまりにも簡単に答えたので、魅音を除く皆が驚いた。

魅音はニヤリと笑う。

 

「相手も、鷹野さんが協力しないと分かった段階で、護衛が何人つけられているかおおよそはわかっているはずだよ。そうすると、攻めの三倍法則、つまり、敵を攻めるには3倍の兵力が必要だって考えるのが普通だよね」

「すると、最大4人なら、12人で攻めてくるってわけか…」

 

だが、魅音は頭を左右にふる。

 

「その山狗っていう人達が特殊部隊というのなら、二人分の力量があると考えて良いと思う。つまり8人分。それに三倍をかければ24人。おそらく30人は最低用意すると思う。ただ…」

 

ただ、なんだ?

 

「おじさんが、その暗殺部隊を用意するなら40人は用意するね。

 それだけいれば、最初の一撃で確実に梨花ちゃんを仕留められるはずだから」

 

40人、大人数だ。

だけど、そんな数を事前に用意しては、すぐにバレるはずだ。

なにしろここは雛見沢だ。そんな不審者が集まればわからないはずがない。

 

「幾ら何でも無理だぜ魅音。そんな30人も40人も一斉に来てバレないなんて…」

 

そこまで言って俺は気が付いた。ある。

30人も40人も見知らぬ人間が集まっても不審がられない時が!

 

俺が魅音を見ると、魅音はゆっくり頷いた。

 

「そう、圭ちゃんが思った通りだよ」

 

綿流しの祭りの日。

 

この日は雛見沢だけはなく、興宮や近隣の都市からも多くの人々が来訪する。

もしかしたら県外からも来ることだってあるだろう。

 

祭りの規模は年々大きくなり、今年は最大規模になると、今日一緒に設置作業していた大人達からも聞いた。つまり、30人や40人の見知らぬ人間がいても、誰も気に留めないのだ。

 

沙都子は青ざめた顏で叫んだ。

「それでは…梨花が狙われるのは、奉納演舞の時に間違いありませんわ!」

 

多くの衆人観衆の前で行われる奉納演舞。

その中にいる誰かが、何らかの飛び道具を使い狙撃してきたら、梨花ちゃんに逃れる術はない。

1人、2人ならともかく、30人からの攻撃を防ぐことなんて無理だ。

 

俺も叫んだ。

「梨花ちゃん、奉納演舞を取りやめることはできないのか!当日病気になるとかで!」

「みー…それは無理なのです」

 

梨花ちゃんは視線を落とす。古手神社の巫女として”オヤシロ様の生まれ変わり”として、奉納演舞を止める事できないのだろう。

 

またレナも、奉納演舞を止めることに対して疑問を呈した。

「仮に、梨花ちゃんが奉納演舞を止めたとして…その人たちは諦めるのかな?」

 

そうだ。それもある。

もう既に集まってしまった以上、あとは数で攻めれば良い。

俺達の援軍がくるまでに、梨花ちゃんを殺せばそれで相手は大勝利だ。

 

それでは今から大会を中止するというのはどうだろう?

いや、それも無理だ。なにしろ祭りは明日なんだ。

当日、大会中止を知らずに多くの人が集まってくるはず。

相手は、その中に紛れ込めば良いだけなんだ。

 

俺は手を挙げる。

「だったら、今の内に梨花ちゃんをどこかに隠すっていうのはどうだ?」

 

だが、即座に沙都子に否定された。

「相手は警備のプロに守られた梨花を殺そうと言うほどの相手ですのよ?

 雛見沢にスパイだって潜り込ませているに違いありませんわ。隠し通せるとは思えませんわね。

 おそらく居場所を特定されて攻められるはずですわ」

 

反論できない。

確かに、今だって監視されている可能性もある。

 

ならば、もう一つの案を言う。

 

「だったら、梨花ちゃんを入江診療所に匿ってもらうってのはどうだ?鷹野さんは味方だってわかったんだから、施設内にいる全ての山狗部隊の人達に守られていれば安心だろ?」

 

これは良い案だと思ったものの、

返ってきたのは、沙都子のため息だった。

 

「圭一さん。何を馬鹿な事をおっしゃっているんですの?

その入江診療所を作った”組織”の派閥の一つが梨花の命を狙っているのですのよ?

当然、診療所には、その派閥のスパイやら仲間やらがいると思うのが普通ではございません?

それが山狗か、医師か、看護婦かはわかりませんが、そんな中に梨花を連れて行くなんて相手の思うツボでしてよ」

 

正論だ。とことん正論だ。

沙都子、お前、いつからそんなに理路整然と話すようになったんだ。

もしかして、お前、俺より頭が良くないか?なんか悔しいぞ…

 

「圭一さん。何を考えているか顔に出てましてよ…」

 

ジト目で俺を見る沙都子。

クソ、魅音と指を絡ませていなかったら、頭をくしゃくしゃに撫でに行くのに。

 

とにかく、何か対策をするには時間が足りなすぎる。

 

梨花ちゃんが、涙目で頭を下げる。

「ごめんなさいです…ボクがもっと早く皆に打ち明けていれば…」

 

その姿を見ると俺も心が痛む。

 

梨花ちゃんは雛見沢のマスコットとして皆から愛されてはいるが、だからといって他人におんぶに抱っこで生きているわけじゃない。

 

梨花ちゃんは責任感の強い人間だ。

 

他人に甘えるのも良しとはせず、仲間の、俺達の手を煩わせないためにギリギリまで自分で何とかしようと悩んでいたに違いない。

 

でも力及ばずに、俺達が巻き込まれるのを覚悟で頼らざるをえなかった。

梨花ちゃんにとって申し訳なさでいっぱいなんだろう。

 

だけどな梨花ちゃん。

仲間ってのは、頼って良いもんなんだぜ?

 

「気にすんなって、まだ時間があるんだ。それにしてもさ、短時間で、ここまで敵の戦略や目的が特定できるとは俺も思わなかったぜ。さすが魅音だよな!」

「へへへ…圭ちゃん、惚れ直した?」

 

バカいえ!俺はずっとお前に惚れっぱなしだぜ!

 

「…あの、赤坂さんはどう思われますか?」

 

ここでレナが、腕を組んで終始無言を貫いていた赤坂さんに声をかけた。

赤坂さんは、目を開いて梨花ちゃんを見据える。

 

「…梨花ちゃん。警察に連絡しよう。

 大石さんに保護して貰うんだ」

 

警察!

 

赤坂さん以外の全員がその言葉に面食らった。

そうだ。俺達は一番肝心な方法があることを忘れていた。

 

警察の保護だ。

 

俺にその発想が出てこなかった最大の理由は、おそらく魅音が大石さんを嫌っているからだろう。

実際、今も魅音は「大石の奴から保護を受けるだなんて」と憎しみ込めて呟いている。

 

だが背に腹は代えられない。

大石への憎しみなんて、梨花ちゃんの命に比べれば軽いものだ。

だけど、警察に、大石さんにはなんて言って話せばよいのだろう。

 

赤坂さんは俺達を見回す。

「まず、大石さんには悪いが、この話はオヤシロ様の祟りと関係があるようにふるまうのが一番だろう。大石さんはオヤシロ様関連の事件に執着している。梨花ちゃんの命が狙われているという事実もオヤシロ様と結びつけられるのであれば、躊躇はしない。具体的には明日の綿流しの祭りの日に、梨花ちゃんが何者かに『殺す』と脅かされたと言う事にしよう。それで動いてくれるはずだ。警察には僕から電話をかける。それでよいね?」

 

梨花ちゃんは頷く。

赤坂さんは、部屋の電話機に手を伸ばした。

 

[17日目(土):古手神社:夜:前原圭一]

 

警察とやり取りしていた赤坂さんは受話器を置いた。

どうやら、大石さんは、警護の警官をともなって一時間か二時間後ぐらいには来てくれるらしい。

 

とりあえず、一旦休息しようということになったが、時計を見るともう午後8時を過ぎていることに気が付いた。結構、根詰めて話し合いをしてしまったようだ。

 

大石さんが来るまで時間があるので魅音が食事をしようと提案してきた。

ちょうどお腹も減って来たし、良いアイデアだと思う。

 

「あとどれくらいかかるかわからないから、皆、今の内に食事をとっておこうよ」

「詩音がまだ来てないけど、いいのか?」

「さすがにこの時間なら詩音も夕飯食べてから来るでしょう」

 

たしかにもうこんな時間だ。

来るとしたら、何か食べてから訪れるだろう。

 

特に異論が無かったので、食事の用意を始める。

梨花ちゃんが鍋を出し、皆が食材を持ち寄った。

 

魅音とレナ、そして俺は、家族には「明日、奉納演舞をする梨花ちゃんのための激励会鍋パーティを行う」と伝えてから来た。ただ、これは方便だけではなく、実際問題として今日の話し合いがどれくらい時間がかかるのかわからなかったので、食べ物だけはとりあえず用意して、おりをみて食べようということは決めていた。

 

ただ鍋の材料だけは最初から持ち込んではいたものの、どんな鍋にするかまでは決めていなかった。なので沙都子が「闇鍋にしませんこと?」とか、とんでもないことを言い出してきたのは参った。

 

だけど、これは梨花ちゃんに笑顔で却下された。

沙都子は抵抗しようとしたが

「闇鍋にするならカボチャをいっぱいれるのですよ☆にぱー」

と言われて無条件降伏した。

 

梨花ちゃん恐るべし。

 

結局、味噌をベースとした無難な鍋に決まった。

味付けは魅音がしてくれたおかげか物凄く俺の口に合う。

 

そういえば魅音の料理の腕が最近さらに上がったような気がする。

俺が婿入りするまでに、魅音の料理の虜にされてしまうんじゃなかろうか。

 

「パートナーの胃袋を掴むのは、恋愛術の初歩だからね。

 おじさん、その辺に抜かりはないよ…クククク…」

 

そう言って魅音は、よく煮えたお鍋の具を箸で摘まみ俺の前に持ってくる。

 

…パクリ。

うん。美味い。

魅音に食べさせてもらうと美味さは倍増だ!

 

そんな俺の様相を、

沙都子は半分諦めたような顏で呟く。

 

「もう、お二人ともイチャイチャに、一切の躊躇も

 恥じらいも感じなくなりましたのでございますわね」

 

その通り!

 

赤の他人が周囲にいるならともかく、部活メンバーの前では、食べさせてもらう事に気恥ずかしさも無い。赤坂さん一人なら、気合いでカバーできる。

 

第一、魅音も気にしていない。

ならば、全力で食べさせて貰うというのが正しい夫婦の営みってもんだぜ!

 

「まぁ、沙都子もイチャイチャできる彼氏を早く見つける事だな。

 そうすれば、この良さがわかるってもんだ」

 

俺が勝ち誇ったかのように言うと、沙都子は高笑いをする。

 

「お~ほほほ!圭一さんの次元の低いイチャイチャには、私はつき合いませんことよ!」

「なに?」

 

俺と魅音のイチャイチャが次元が低いだと…?

どういう意味だ。事と次第によってはカボチャパーティを開くぞ!

 

そんな俺の憤懣な顔をよそに、

沙都子は梨花に抱き着く。

 

「私と梨花の共同空間のように、生活そのものがイチャイチャなのが真のイチャイチャなのでございましてよ?つまり圭一さんと魅音さんのようにイチャイチャのためのイチャイチャなどいう低次元なことは、私達してないのでございますわ」

 

なんだ、その深いんだが浅いんだかよくわからない哲学のような何かは。

魅音とレナも面食らっているじゃないか。

 

梨花ちゃんが満面の笑みで沙都子の頭を撫でている。

 

「つまりボクと沙都子は仲良し生活真っ最中なのですよ☆にぱー」

「なるほど」

 

…わかりやすい。

沙都子に足りないは、こういう部分だな。

 

「どうして、いつも梨花が言うと納得するんですのー!」

 

こら沙都子。食事中に両手をぶんぶん振り回すな。

これも日頃の行いと話し方のせいだぞ。

 

沙都子を落ち着かるため頭を撫ではじめた梨花ちゃんが

人差し指を立てる。

 

「ちなみに、イチャイチャといえば赤坂なのですよ。

 赤坂の奥さん好きは、とても有名なのです。

 もう結婚してから五年以上もイチャイチャしているのですよ」

 

梨花ちゃんに話を振られて赤坂さんは苦笑した。

 

確かに赤坂さんは優しそうな顔をしている。

見た目通り奥さんを大事にする良い人なんだろう。

 

しかし、そう言われると、

魅音とイチャイチャ道を突き進む俺も、がぜん興味がわいてくる。

 

「へぇ、赤坂さんはそんなに奥さんとイチャイチャしているんですか。

 だったら、勝負しましょう!どっちがよりイチャイチャしているか!」

 

魅音と最高のイチャイチャをしているという謎の自信に満ち溢れている俺は、赤坂さんに勝負を申し入れる。どんなイチャイチャをしているのかわからないが、俺達にはかなうまい!

 

だが、俺の猛然とした勝負の誘いに、

赤坂さんは優しい微笑みで返した。

 

「前原くん…だっけ?イチャイチャというのは勝負をするためにあるんじゃないと思うよ。

 イチャイチャは愛する人との想いの深さを確かめるために行う。そういうものじゃないかな?」

 

ガーン!

 

俺はショックを受けた。

確かに、イチャイチャで勝負しようとする考えこそがおこがましい。

全ての愛はオンリーワンであり、ナンバーワン。

 

人と比べるようなものでも、自尊心を満たすためのものでもないのだ。

それをよどみなく語れるとは、、この赤坂という人は間違いなくイチャイチャの達人…!

キング・オブ・イチャイチャだ!

 

「…赤坂さん、俺、間違っていました…貴方こそ、キング・オブ・イチャイチャです!」

「あ、いや…ははは。困ったな」

 

魅音も興味が湧いたのか身を乗り出してくる。

 

「結婚して、五年以上もイチャイチャって、凄いですね赤坂のおじさま。こういうのって、新婚三年目ぐらいまでピークだって聞きましたけど、何かコツとかあるんですか?」

 

「コツって言うほどのものは無いかな…

 ただ、妻に対する感謝の念は忘れないようにする…というのは、心がけているつもりだよ」

 

なんだこのイケメン!?

人間性が高すぎて嫉妬の対象にすらならないぞ。

こういうのを高潔な人物って言うのか。

 

なるほど、梨花ちゃんが頼りにするわけだぜ。

この人は間違いなく信用できる。

 

魅音が俺に振り返る。

 

「圭ちゃん。おじさんたちも、

 ずっとイチャイチャできるように頑張ろうね!」

 

ああ、もちろんだぜ!

 

俺達はその後、赤坂さんと奥さんについての話題で盛り上がった。

食事を終えて鍋を片付ける頃にはだいぶ時間が過ぎていた。

 

時計を見ると午後10時を回っている。

そろそろ大石さんが来る時間だ。

 

[17日目(土):古手神社:夜:前原圭一]

 

食事の洗い物が終わる前に、

警備の警察官4名を引きつれて大石さんがやってきた。

 

警備の人間を連れて来てくれたのは正直嬉しい。

綿流しの日に起きる事件に関しては大石さんは間違いなく信用できる。

 

陰で守ってくれる山狗の人達が4人として、合計で8人がこの周辺を守ってくれることになるんだ。心強いぜ。

 

4名の警官は、梨花ちゃんから合い鍵と、トイレの使用許可を貰うと一階の防災倉庫へと移動した。

 

大石さんは下に降りる直前の4名の警官に何かしら指示をすると、

梨花ちゃんが用意した座布団の上にどっかりと座る。

 

「んふふふふ…赤坂さん。遅れてすいません。

 明日の祭りの警備についてドタバタしておりましてね。

 さて…それで、古手梨花さんが脅迫を受けていると相談を受けられたとか」

「えぇ、そうです。梨花ちゃんが、何者かに明日『殺す』と脅かされたと」

 

大石さんは、梨花ちゃんの方に振り返ると目の前に座る。

 

「古手梨花さん。脅迫を受けたのは本当ですか?」

「みー…本当なのです。確かに、受けたのですよ大石」

「…ふむ、脅迫を受ける心当たりはありますか?」

 

大石さんと赤坂さん以外の全員が俺の顔を見る。

大石さんが来る前に、先ほどの話を誰が伝えるか決めていた。

 

本当なら、整然とまとめられる魅音が一番の適任だけど、

大石さんに関しては含むところがある。というか、ぶっちゃけ嫌っている。

 

魅音に限って公私混同をするとは思えないが、本気で殺意を抱いたことを考えると、やはり部活メンバーの中で魅音の次に年長者の俺が説明するしかいないだろう。

 

俺は手を挙げて前に出る。

「あの…大石さん、実は先ほど、俺達が話し合って…狙われる理由を考えたんですけれど…」

「前原さん?ふむ…良いでしょう、聞かせて下さい」

 

俺は先ほどまで皆と話していた内容を大石さんに伝えた。

 

梨花ちゃんが、雛見沢にある風土病の女王であり、

彼女が死んでしまうと48時間以内に雛見沢の住民が死んでしまうこと。

 

その研究は入江診療所で行われ、入江所長や鷹野さんが担当をしていると言う事。

恐らく相手は、その梨花ちゃんが死ぬことで得をする者達であろうということ。

 

入江先生と鷹野さんにより梨花ちゃんには、常時2~4人のスペシャリストの警備がついており、もし襲ってくるのであれば30人前後では無いかということ。

 

これらの話は、かなり突拍子のないことばかりであり、証拠がなくほぼ想像でしかない。

ただ、梨花ちゃんの風土病の女王という一番信じ難い部分に関しては、入江先生の証言が得られるはずなので、そこは安心できる。

 

その部分が信じて貰えるのなら、後の部分に関しても対応を考えて貰えるはずだ。

 

大石さんは全ての話を聞き終わると、腕を組んで目をつぶった。

 

「むむむ…古手梨花さんが死ぬと、雛見沢の住民の皆さんが死ぬ病気ですか」

その声は半信半疑、いやどちからといえば、疑惑成分の方がやや多めか。信じてよいか測りかねているようだ。

 

梨花ちゃんは、大石さんにすがる。

 

「大石、その病気は本当に存在するのです。嘘だと思うのなら入江に直接聞いて欲しいのです」

 

大石さんはチラっと梨花ちゃんを見ると、赤坂さんに声をかけた。

 

「赤坂さんは、この話を聞いて、どう思いましたか?」

「あまり表に出せませんが…私の今いる部署でも入江診療所に不透明な金が流れている事実は掴んでいます…事の真偽は後で確認するとして、とりあえずは梨花ちゃんの身辺警護を優先させるべきかと」

 

その返答を聞くと、大石さんはしばらく考え込み「ちょっと失礼します。しばらくかかると思いますが、戻ってくるまで皆さん、ここでお待ちください」と言い残し外へと出て行った。

 

俺は魅音の耳元でささやく。

 

「…大石さん、信じると思うか?」

「どうだろう、見た感じ五分五分かな。まぁ、おじさんは大石なんて信じてないからね。駄目なら梨花ちゃんはウチで保護するよ」

 

魅音の家か。確かに園崎本家は大きい。梨花ちゃん一人ぐらいは余裕で保護できるだろう。

だが、魅音は俺に意味ありげな笑みを見せる。

 

「ククク…それだけじゃないんだ。”もしも”のためのセーフティ・ハウスもあるんだよ。地下祭具殿って言うんだけどさ…ちょいっとオツなセカンドハウスってところかな?圭ちゃんもお婿さんになるんだし、良い機会だから一緒に行こう」

 

セーフティ・ハウスってなんだ?

核戦争用のシェルターでも設置しているのか?

園崎家って本当、色々な秘密があるんだな。

こりゃ結婚したら、大変なことになりそうだぜ。

 

[17日目(土):古手神社:夜:大石蔵人]

 

大石は二階の部屋から降りて、一階に入り口付近に止めてある覆面パトカーへと向かった。

 

大石が考え込んでいたのは、古手梨花の話したことが事実かどうかでは無い。

それは本人の言う通り、入江診療所に直接聞きに行けば良い事なのだ。

 

では、何を考え込んでいたのかと、話そのものに対する違和感である。

古手梨花と前原圭一の話を聞いて、何かがひっかかるのを感じだ。

だが、それが何なのかがわからない。

 

しかし、考え込んでいても仕方がない。

 

無線機で、熊谷刑事を呼び出すと入江診療所への聞き込みと、警官をもう2名、古手梨花の警護につけるように伝えた。

 

「今から入江診療所にですか?」

「えぇ、明日の祭りの準備ために、今夜は診療所にいるとおっしゃってましたからね」

 

こっちに来る前に出会った入江所長の顔を思い出す。

確か、あの時に救護スペースに設置するための医療用品の確認を行うため、一旦入江診療所に戻ると言っていた。なら、今の時間は自宅には戻らずに、入江診療所にいるはずである。

 

「わかりました。あ、そうだ大石さん、ミフネ関連で二つほど情報が入ってきました。

 後にしますか?」

「いえ、今聞きます。なんですか?」

「一つは、ミフネ組長は園崎魅音の結納に関して、周囲にも相当怒りをぶちまけていたそうです。

 なんでも『あんな若造を婿養子にするとは許せん』とか、そういう感じらしいですね。

 元々ミフネは園崎魅音の襲名にも強く反対していましたが、その園崎魅音が婚約者を得た今回の結納は、ミフネの気分を相当害したものと思われます」

「ほう…もう一つは?」

「ミフネ組のお抱えの医師が、水死体で発見されました…死因は特定できていませんが、何らかの事件に巻き込まれたかと思われます」

 

(…医師が殺された?…あっ)

 

その瞬間、大石の頭の中のパズルピースが組みあがった。

それは必ずしも正しい形では無かったが、少なくとも大石には統合性があると感じられたのだ。

 

「ねぇ、熊ちゃん。その医師、ミフネ組とトラブルになっていなかったとか、ある?」

「一部情報によると、最近ミフネ組の組長と何度か話している姿が目撃されています。ただ、トラブルがあったということまではわかっていません」

 

…殺された医師と組長が何度か話を行っている。

大石の額から冷たい汗が流れ落ちる。

 

まさか、知ってはいけないことを知ったために殺されたのではないだろうか。

だとしたら、知ってはいけない事とは何か。そう、それを大石は知っている。

 

もし、この想像が正しければ。

おそらく、いや、間違いなく古手梨花の言う通り未曽有の大事件が雛見沢で起きるだろう。

 

「熊ちゃん、すぐにパトカーをもう一台、いや二台用意して。あとこっちに送る警官を2人じゃなく4人に変えて。それと非番の連中に全員連絡を入れて、万が一に備えて直ぐにこれるように。あと県警の機動隊にも…」

 

「いや、ちょっと大石さん。一体どうしたんです?明日の綿流しの祭りの警備計画の調整で、そんな人数を割く余裕なんて…」

「ミフネの目的がわかったかもしれません。もし、想像が正しければ雛見沢に血の雨が降る可能性があります。熊ちゃん…急いで!」

 

血の雨が降るかもしれない。

大石の言葉を聞いた熊谷刑事はすぐに「了解」と言い放ち無線を切った。

大石は一階で警備をする警官4人に、万が一に備えて、緊急時には発砲するように厳命すると、古手梨花がいる二階へと戻る。

 

大石は確信する。

全ての答えは古手梨花、そして園崎魅音と前原圭一のいる部屋の先にあることを。

 

[17日目(土):古手神社:夜:前原圭一]

 

大石さんが下に降りていったあと、俺と魅音は途中だった皿洗いを再開した。

正直、台所は小さく一人で動くのがやっとのスペースなのだが、俺達は体を縮め…というよりも、体を押し付け合い…皿洗いをしていた。

 

夫婦の共同作業。というわりにはあまりにもちっぽけな作業ではあるけれども、魅音と一緒に何かをやるというのは楽しい。

 

「手伝うのは結婚して最初だけっていう男の人も多いらしいけど、圭ちゃんはどうかな?」

 

俺の方を笑顔で振り向く魅音。

可愛いので、ついキスをしたくなってしまう。

 

俺は心の中で句を詠む。

<仕方がないさ。夫だもの。みつを>

 

後ろを振り向いて、レナや梨花ちゃん達が、

こっちを見ていないことを確認すると魅音の腰に手を伸ばす。

 

「それはさ、ご褒美しだいじゃないか?」

「ちょっと、ダメだよ圭ちゃん…!それやったら…」

 

「大丈夫、誰も見てないぜ?」

 

俺は魅音の唇を奪う。

抵抗したのは最初の内だけで、すぐに魅音は目をとろんとさせて身を任せた。

とはいえ、長時間キスをするわけにもいかない。

 

おれは満足気に唇を離す。

 

幾ら見てないからと言って、そんな長くキスをしていれば気取られるだろう。

短い時間だが、とりあえずこれで十分だ。

 

そう思った矢先だった。魅音が俺の手首を掴み、睨みつけるような瞳で俺を見る。

ひどく、息が荒い。

 

「圭ちゃん…ダメって言ったのに…

 もうダメだよ。おじさんに…火つけちゃったんだからね」

 

お、おい魅音。

お前、一体何をする気だよ?

 

魅音は、後ろを振り返って梨花ちゃんを呼ぶ。

 

「梨花ちゃん、御免。おじさんと圭ちゃん、今日の設営準備で汗かいちゃってベタつくから、本宅のシャワー使っても良いかな?」

「みー…それは構わないのです。ただ大石が帰ってくるので、できるだけ早く戻ってきて欲しいのですよ」

 

「わかってる。ありがとう梨花ちゃん」そういって魅音は俺の手を掴んで強引に部屋から連れ出す。

 

魅音はどこに向かっているんだ?

言った通り梨花ちゃんの本宅、お風呂場に向かっているのか?

 

途中で車の窓に顔を突っ込んでいる大石さんの姿を見て、そのまま本宅の方へと進んだ。

 

本宅の中に入ると、魅音は躊躇なく進んでいく、おそらく何度も来ているんだろう。

そして、風呂場の中に入るとドアを閉めて、俺を壁に押し付けた。

 

「お、おい、魅音」

 

魅音の目が尋常じゃないほどギラついている。

息も激しく激しく興奮しているのが見て取れる。

 

一体どうなっているんだ?

キスだけで、ここまで発奮するなんて異常だぞ?

 

「圭ちゃんさ、今日はどうしたの?

 ずっと、おじさんを誘惑してさ…」

 

何の話をしているんだ?

俺が誘惑しただって?

 

「境内であったときにさ…アレなに…?

 珠玉のような汗を流して、あふれるような笑顔で私を見たでしょ?

 太陽の光に照らされた圭ちゃんが、あんまりかっこよくて…

 おじさんショックで心臓が止まりそうだったんだよ…?」

 

はぁ?何言ってんだ?単に設置作業して汗流していただけだろう。

それに、婚約者のお前の顔を見れば笑顔にもなるってもんだろうが。

 

「部屋に入ったら、入ったらで、すぐ隣でさ…

 すっごい良い匂いさせてるし…おじさん、圭ちゃんの匂いにクラクラして

 自分を抑えるのでいっぱいいっぱいだったんだからね…?」

 

あ~、汗けっこうかいたからな。汗臭くなるだろうぜ。

…って、魅音。お前否定していたけどさ、やっぱり匂いフェチじゃないか?

 

「そして、さっきのはなに?食器洗っている最中におじさんに体を寄せて、キスするなんて…

 圭ちゃん、絶対に誘ってたでしょ?」

 

…誘っているつもりはなかったが。うん。

 その、悪かったとは思っている。

 

「…そんなつもりは無かった。って顏しているけれど、もうダメだよ。

 さっきも言ったけど、おじさん火がついちゃったんだからね」

 

魅音の顔が近づいてくる。これはダメだ。濃厚接触するつもりだな。

したいといえば、俺もしたいが、魅音主体でイチャイチャしたら止まらなくなる。

大石さんが部屋に戻る前に、すまさなければいけないんだ。

 

なら、答えは一つしかない。

初めて恋人として魅音を自宅に連れ込んだ時と同じように…

 

大火は、爆薬で吹き飛ばすしかない!

 

俺は魅音の肩を掴むと、

体を入れ替えて、逆に魅音を壁に押し付けた。

 

「け、圭ちゃん…!?」

 

先ほどまで猛獣モードだった魅音が、壁に押さえつけられて

まるで肉食獣を目の前にしたウサギのような顔になっている。

 

だが、鈍感な俺にもわかる。

その魅音の瞳の中には、怯えと共に期待感がにじんでいる。

 

俺が何をしてくるか、期待感で頭がパンパンなんだな?

あぁ、大丈夫だぜ。滅茶苦茶にしてやるよ。

 

詩音の言葉を思い出す。

-たまには肉食獣になってお姉を襲ってみてください。きっと美味しいですよ-

 

そう。それが今だ。

いくぜ、魅音、耐えられるか?

俺は舌なめずりをした。

 

…十分後。

 

魅音は俺の体に、かろうじてしがみついていた。

激しく呼吸を行い、頭をもたげている。

体を震わせ、足がおぼつかない様子だ。

 

俺の猛烈なディープキスによって三度にわたり”トんだ”魅音は、

今や自分の体を保つだけで精一杯の状況となっていた。

 

自分でも少し驚く。

ここまで、俺は魅音をキスで蹂躙することができるとは思わなかった。

人間、やればできるもんなんだな。

 

「…まだ、するか魅音?」

 

俺の言葉に、魅音は恍惚した瞳で答えた。

その中にはハートマークが浮かんでいる。

 

「…圭ちゃん。もう、おじさん…完全に圭ちゃんに調教されちゃったよ。

 圭ちゃん無しじゃ、生きていけない体にされちゃった…」

 

おいおい、人を調教師みたいに言うな。

全く大げさなヤツだぜ。

 

額にキスをし、何か言おうとしたその時、

扉を叩く音と沙都子の声が聞こえてきた。

 

「魅音さん、圭一さん、大石のおじさまがお戻りになられましたわよ

 梨花にはイチャイチャは黙っておきますから、早くおすみになってくださいませ」

 

俺達は慌ててその場で服を脱ぎ、急いで水のシャワーを浴びて着替えた。

シャワーから着替えに移行するまでの所要時間はわずか三分。我ながら素早い。

 

体の流すので精一杯で一緒にシャワーを浴びた魅音の裸をじっくり見れなかったのは残念だ。

そういえば、あれだけ魅音と激しくやりあっているのに、俺はいまだに魅音の全裸を見たといえるほど見てないな。

 

今度お願いしてみるか?

今の魅音だったら、多分、恥ずかしがっても了承してくれそうだ。

 

「見てないで早く着替えてよ、圭ちゃん」

「え?あぁ…わりぃ」

 

魅音は持って来たカバンから、着替え用の俺の服を取り出す。

おいおい、また俺の部屋から勝手に服を物色してきたのかよ。

助かったが、どうも釈然としない。

 

だが、とりあえず礼を言うと着替える。

 

魅音も持って来た服に着替えた。

黄色いTシャツにズボン。

 

最近は俺に気兼ねして制服しか着てこなかったので、

その私服を見るのは久しぶりだ。

 

それと…これはなんだろう?

銃を入れるホルスターがついたサスペンダー?ハーネス?のようなものを上半身につけている。

 

そしてカバンの中から、大石さんを殺害しようとしたときに使おうとしたカラフルな拳銃を取り出すと、そのホルスターの中にしまった。

 

「一応、護身用。何があるかわからないからね。

 見た目はただの玩具の拳銃だから大石も気が付かないでしょ」

 

現役警察官の前で銃を装備して出て行くのか。

凄い度胸だなお前は。

 

痺れを切らしたのか沙都子が扉を開いて中に入って来た。

「お二人とも、用意ができまして?そろそろ行きますわよ」

 

俺は魅音の手を取り、沙都子と一緒に二階の部屋まで急いで戻る。

中に入ると大石さんが赤坂の横に座って、おそらく梨花ちゃんが出したであろうお茶を飲んでいた。

 

「これはこれは…んふふふふ…着衣が乱れていますが、

 お二人でハッスルしてきたんですかぁ?」

 

慌てて上着を整えようとする俺。

それを見た魅音が俺の尻を叩く。

 

あ、今のは大石さんのハッタリか。

畜生、乗せられたぜ。

 

大石さんが笑っている。

待たされたので、からかわれたんだ。

 

沙都子は梨花ちゃんの横に座ると、

俺と魅音も、先ほどとおなじくレナの横に座り、指を絡ませた。

 

全員がそろったのを確認した大石さんはゆっくりと口を開いた。

 

「まず、皆さんに伝えたいことがあります。犯人の正体と目的がほぼわかりました。古手梨花さん、それに園崎魅音さんと前原圭一さん、お三方を我々警察で保護いたします。すでに保護のためにパトカーが二台こちらにむかっておりますので、到着しだい移動して頂きます」

 

犯人の正体と目的がわかっただって、この短時間に。

さすがは警察だ。大したもんだぜ。しかし、なんだって俺と魅音まで保護の対象になるんだ。

 

「ヤツらが狙っているのは梨花ちゃんなんですよね?なんで俺達まで…」

「それはですね。前原さん。犯人たちの本当の目的は…あなた方二人だからなんですよ」

 

…え!?

大石さんを除く全員に衝撃が走った。

 

一体どういう事なんだ。俺達は梨花ちゃんを守るために集まったはずだ。

なのに、本当に襲われるのは、俺と、魅音だった…?

 

「今からお話することは、警察の公式見解ではありません。私の一個人の…いわば妄想と考えて下さい。何の信ぴょう性も無い、証拠もない。本当にただの妄想です…よろしいですか?」

 

俺達は全員頷く。

一体どういうことなのか知りたい。

何を大石さんは話すと言うのか。

 

「まず、そのまえに園崎魅音さんにお聞きしたいことがあります。貴方には黙秘する権利があります。ただ、絶対に違うという場合は、必ず否定して下さい。お願いします」

 

大石さんはそう言うと真剣な表情で魅音は見る。

魅音は微動だにしない。一体何を聞こうというのだろうか。

 

「…何日か前、ミフネ組が大規模な銃の取引を北海道で行いましたが、ご存知ですか?主に拳銃を中心として、ロケットランチャーまで仕入れたと言う話があります」

「………」

 

魅音は答えず、大石さんを見据えている。

違うのなら全力で否定して欲しいと大石さんは言っていた。

だとすると、沈黙は肯定になるのか。

 

「それでは次の質問です。その大量の銃器は、もしかして…明日の綿流しの祭りに運ばれる予定ではないのですか?」

「………」

 

やはり魅音は答えない。

そうすると、この話も事実。ということなのか。

少なくても知らないのなら、知らないと否定するはずだ。

 

しかし、ミフネという奴はどこかで聞いた事が…

 

あ…そうだ、思い出した。

 

--へへへ、こりゃえらい若いボンが、婿養子にきたもんですな--

 

園崎家の結納の時に、いやらしい笑顔で近づいてきた男だ。

たしか魅音に、アイツの名前がミフネだと教えてもらったんだ。

 

大石さんは大きく息を吐き出すと姿勢を整える。

 

「…数日前、園崎組系のミフネ組が北海道で大規模な銃器の取引があることを掴みました。

 我々は、それを園崎組が何らかの抗争を起すための準備だととらえていました」

 

それって、いわゆるヤクザ同士の争いというヤツか。

それが俺達に何の関係があるんだ?

 

「ところがですね前原さん、無いんですよ。抗争をしていたなんて事実は」

 

やばい。

また俺、顔に出しちまったのか。

 

「では大量の銃器は何のために用意されたんでしょうね。

 外では無ければ内に使うため…そう考えるのが、普通ではありますよね?」

「それではミフネのおじさまが反乱を起こすために準備をしていたと?

 刑事さんだけあって想像力が逞しいですね」

 

魅音が嘲笑気味にそう言ったが。

大石さんは真顔で返した。

 

「それでは園崎魅音さんにお聞きしますが、

 彼が貴方の次期当主に対して反対しているのはご存知ですよね」

「私の年齢が、まだ若いからって理由ですよね。

 それは時間が解決してくれる問題だと思いますけれど?」

「本当にそうおもっていらっしゃるんで?」

 

………………

魅音は返事を返さない。

 

「園崎魅音さん、貴方と前原圭一さんが婚約した後に、ミフネさんの誹謗中傷が激しくなっていることは、既にご存知ではありませんか?単純に貴方の年齢が若いからって理由だけでは説明がつきませんよね?貴方も、お魎さんも、ミフネさんを信じておられるそうですが、あなた方の信用に足る人物でしょうか。ヤクザなんて職業は、どんな方法でも他人を蹴落として、自分がてっぺんに立ちたいって人間がなるようなモノですよ」

「………」

 

「ちょっと待ってください」俺は思わず声を出した。

 

さっきから大石さんは何を言っているんだ。その言い方だとまるで俺と魅音が婚約したのが原因のようじゃないか。だいたい、婚約したからって、そんなに大げさになるようなことなのかよ。

 

「俺と魅音が婚約したからって、ミフネって人が反乱起こす理由になるんですか」

「…前原さん。貴方にとっては結婚は愛する人と生涯を共にするためのイベントなのでしょう。それは一般的には正しい認識です。しかし、園崎家ぐらいの大きい家にとってはそうでは無いんですよ」

 

大石さんは俺が何もわかっていない、という風に頭を左右に振る。

 

「これぐらいの大きな家になると結婚とは政治、謀略、権力争いの道具です。例え当主の夫という、なんの権限も無い立場でさえ、本来であれば生き死をかけて奪い合うものなんですよ…もっとも、ミフネの目的はそこにあるとは思えませんがね」

「そんなの…相手のことを何にも考えていない結婚なんておかしいですよ!」

 

俺は無性に腹正しくなってきた。

結婚というのは、好きな相手を幸せにするために行うためのもだろう。

相手の人生を支えるためにやるものじゃないのかよ。

それを政治だか権力だか知らないけど、自分の欲望のための使うなんて、そんなのは絶対におかしい。間違っている。

 

「圭ちゃん…」魅音が顔を真っ赤にして俺の手を強く握りしめる。

少し俺も熱くなり過ちまったようだ。クソ。でも腹が立って仕方ない。

結婚を道具としか考えないなんて。

相手に尽くす覚悟も持ち合わせていない奴が結婚なんてするんじゃねぇよ。

 

大石さんは苦笑しつつ、話を続ける。

 

「まぁ、前原さんの言う事もごもっともです。とりあえずこの話はおいておきましょう。

次に問題となるのが…先ほどの連絡で、ミフネ組が抱えていた医師が…おそらくミフネ組によって…殺害されたという事件が飛び込んできました」

 

レナが首をかしげている。

「あの…お医者さんが亡くなられたのが、なにか関係あるんですか?」

 

確かにいたましい事件だと思うけれど、

それがこの件とどう結びつくのだろう。

 

「竜宮さん。医者ってのはね、

 存在するたけで大金を得ることができるんですよ。特に犯罪行為ではね」

 

大石さんによれば、

医師が一人でもいれば、一般にはできない違法行為も合法的に行うことができるらしい。

小さい所では、医師の診断があれば特定の医療系施設に、例えばヤクザの企業舎弟が運営する施設に患者を誘導することができる。

また、薬の処方箋を出せば、病院にいかずとも様々な薬を手に入れることができる。

薬の横流しは、儲けが大きいとはいえないが、ほとんど捕まることが無くリスクが少ない。

犯罪や法律的観点から見れば、嘘の診断書を医師に書かせれば、保険料の申請や、物損事故の裁判の時に有利に働かせることもできる。

また、純粋に医師がいれば保険をまともに入っていないヤクザ連中でも格安で治療を受けることができるだろう。

 

医師一人いれば、年間数千万単位で荒稼ぎすることも可能なのだと言う。

 

「だから、普通はね。医師がやらかした場合でも、殺しはしません。死ぬまで働かせるだけです。

 ですが、奴らはその不文律を破ってまで…儲けを捨ててまで医師を殺しました」

 

つまり、年に数千万のもうけをふいにしても良いぐらいの何かしらのメリットが、デメリットがそこに存在したということだ。

それは一体何なのか。

 

「私がね、思うには、その医師は知ってはいけないことを知ってしまったからだと思います…例えばそう、世間的には知られてはおらず、周囲に甚大なる被害を及ぼし、それが世間に広まってしまうと、ミフネにとって不都合になる病気を知ってしまったから…とか」

 

世間的には知られてはいない、周囲に甚大な被害を及ぼす病気。

それって雛見沢症候群のことかよ!

 

「私が皆さんから聞いて思ったのはですね。状況があまりにもミフネにとっては都合がよすぎるという点だったんですよ。 木を隠すなら森の中といいますでしょう?古手梨花さんが死に、その後、雛見沢の住民が死ぬのであるならば、当主であるお魎さんと園崎魅音さんも含まれるはずです」

 

そして、古手梨花の暗殺に必要な人員は祭りの日に乗じて集めることができる。

いや、もっといえば園崎関係であれば、知らない人が多少多くても気にはされないだろう。

なんといっても、当日は園崎家次期当主園崎魅音の結納披露も行われるのだ。

そのための大規模な催しも用意されている。

 

「そして先ほどの皆さんの話にあった『当日に暗殺者達が一般客に紛れ込む可能性』と、

 私が園崎魅音さんにお聞きした『綿流しの祭りの日にミフネ組が大規模な銃器を運ぶ計画』

 …これを照らし合わせると、一つの答えが出てくるんですよ」

 

つまり、当日に雛見沢に来た暗殺者達がミフネ組が持って来た銃器を持って梨花ちゃんを襲う。

そういうことなのか。

 

「北海道から密輸されてきた銃器が、いつ、どこに送られるのかはわかりませんでしたが…

もし、ミフネ達が本当に反乱を起こすのであれば、そのタイミングで雛見沢に送るのは間違いありません…この答えで、ほぼ間違ってはいないとは思いませんか、園崎魅音さん?」

 

魅音は、その問いには直接答えず

苦渋に満ちた顔で呟いた。

 

「…まさかミフネのおじさまが反乱を起こすなんて」

 

魅音の気持ちはなんとく察しがつく。

信じた相手に裏切られ、しかも、直接俺や魅音だけではなく、梨花ちゃんも巻き添えになった形で行われる。心理的には相当きついだろう。

 

「元々入江診療所の設立には園崎家の強い後押しがあったとも聞きます。ミフネがそれに何らかの形で診療所に関与し…もしかしたら、あなた方の言う”組織”が、ミフネに接触してきて、雛見沢症候群の情報を得たのかもしれません。 それによって、今回の反乱を企てた。そう思えば筋は通ります。ただね…それだけじゃない。とも私は思うんですよね」

 

大石さんが含みのある言い方をして魅音を見つめた。

魅音は厳しい視線を向ける。”それだけでは無い”とはどういう意味だ。

 

「ねぇ、園崎魅音さん…ミフネさんが”オヤシロ様”じゃないんですか?」

 

その場が静まりかえる。

理解するのに、何秒が必要だった。

 

ミフネがオヤシロ様じゃないかってどういう意味だ。

つまり、ミフネこそ、この雛見沢で起きた連続怪死事件の首謀者だと、そう言いたいのか。

なぜだ。どういう理屈でそういう考えに至るんだよ。

 

「私はね。古手梨花さんが脅されという皆さんの話を聞いて妙な違和感を感じていたんですよ。

だって、そうでしょう?今までの、雛見沢でおきた事件は、全てオヤシロ様に歯向かった者達への罰だと考えられてきました。だが、今年に限ってはそうじゃない、オヤシロ様の化身である古手梨花が脅かされた。これって、なぜだと思いますか?」

 

なぜって、それは、つまり…梨花ちゃんが脅されたというのは、俺達がついた嘘だからだ。

しかし、それを大石さんに言うわけにはいかない。

そんなことをしたら信用を失い、梨花ちゃんを守ってはもらえなくなるだろう。

 

「これはね。代替わりの宣言だと思うんですよね」

 

代替わり?

一体何の代替わりだ。

 

「ミフネさんはね。おそらくオヤシロ様として次々と刑を執行してきたんでしょう。

 造反者やその一族に対するね。そして思ったんじゃないでしょうか。オヤシロ様の”力”を見て、人々が、オヤシロ様信仰を取り戻し、祭りは年々派手になっていく、そしてそれに伴い園崎家の名声も高まる。そんな自分こそ、本当のオヤシロ様であると。

 だから、こそ、この五年目の節目に、古手梨花さんを殺害し、自分がオヤシロ様の正統なる後継者であると宣言したかった。こう考えれば辻褄があうんですよね」

 

俺は、いや、正確に言えば大石さんを除く全員が絶句した。

俺達のついた嘘が、俺たち自身に返って来たのだ。そして困ったことに、それは、それなりに説得力がある。

 

自分達のついた嘘が自分達に返ってくる。前にギックリ腰で倒れた時と同じだ。あの時、ひどく魅音は辛い目にあい怒りで身を焦がした。それが再び自分達におとずれたのだ。

 

大石が鋭い視線で魅音を見つめる。

言いたいことは分かっている。そして実際、その通りの事を大石は口に出した。

 

「園崎家は、ミフネさんを使ってオヤシロ様の”力”を示していたんでしょう。違いますか?」

 

「違う!」俺は反射的に立ち上がって、大石さんに叫んだ。

「なぜ、そう言い切れるんですか前原さん。貴方は婿養子がきまり、何か重大な話を聞いたとでも?」

「それは…」

 

答えられない。なぜなら、園崎家がオヤシロ様では無く、お魎のバアさんがオヤシロ様を探していることは秘密なのだ。

おそらく詩音の態度を見る限り、実の妹にさえ魅音は話してはいない。本当に秘密の中の秘密なんだ。それを俺が話すわけにはいかない。魅音の口から了解を取るまでは、絶対に話してはいけないことだ。

 

視線を落とす俺に、

大石は諭すように語りかける。

 

「前原圭一さん。貴方のお気持ちはよくわかります。貴方は園崎魅音さんを愛している。だから、魅音さんは、そんな人間ではないし、貴方が入る家だって、そんな人たちとは思いたくないでしょう。でもね、覚えておいてください。園崎家は”そういう連中”なんですよ。貴方にも、もしかしたら一度はお話したかもしれません。園崎魅音が将来手に入れるのは、園崎組というヤクザ組織だけでは無い、この辺一帯を牛耳る権力そのものなんです。そのためになら、”あらゆること”をやってみせるんです」

 

くっそ!くっそ!くっそ!

魅音じゃないけどハラワタが煮えくり返る。

この大石って奴は、心の底から園崎家が憎いんだな。

 

こういう奴だと知っていれば、俺も魅音を説得などせず、

預かった銃を持ってさっさと撃ち殺しにいっただろう。

 

感謝しろよ大石ッ!!

お前が生きていられるのは俺のおかげなんだからな!

 

…クイッ

誰かが俺のズボンをひっぱる。魅音か。

魅音は大石を方をみながら、つぶやく。

 

「…圭ちゃん座って」

 

俺も急速に冷静になってくる。

ちくしょう。こうやってすぐ感情的になるのが俺の悪い癖だぜ。

わかってはいるが、怒りは収まらない。憤懣やるせないってこういうことを言うんだな。

また一つ賢くなったぜ。

 

魅音は真正面から大石を見つめる。

 

「面白い話をありがとうございます。大石のおじさま。

 それで今後はどうなされるおつもりですか」

 

「んふふふふ…ご安心ください。最初に言った通り、あなた方は警察が全力でお守りします。もう、そろそろパトカーも到着するでしょう。それに乗って頂き、しかるべき所まで移動して貰います」

 

時計を見ると、丁度午後12時、いや午前0時になったところだった。

大石が立ち上がろうとしたその時だった。

 

…パッシュ…パッシュ

外で、何かを打ち上がる音が聞こえ、小さな爆発音と光がとどろいた。

 

打ち上げ花火だ。こんな時間に一体誰が花火で遊んでいるんだ。

その時、沙都子が絶叫した。

 

「侵入者用のトラップが作動しましたわ!大石のおじさま、皆、伏せて!」

 

…シュ!シュ!シュ!

俺達が伏せるのと、窓ガラスが割れるのがほぼ同時だった。

空気を切り裂く音と共に、次々と室内の物が砕かれていく。

煙とガラス、そして砕かれた何かの破片が襲い掛かる。

 

だが、射線が高かったのか、誰もケガはしていないようだ。

 

一連射が終わった所で魅音が片膝をついて窓から外を見る。

沙都子の仕掛けたトラップ花火によって外は昼間のように視界が良好だ。

 

「あいつら…ミフネのおじさまの兵隊だ」

 

ミフネのおじさま。つまり、大石の言う事は正しかったのか。

俺も少しだけ顔を出して見る、外には黒い服をきた男達が何人も暗がりから近づいてきている。

1人や2人じゃない。10人、いや20人以上はいる。

 

「ミフネの組員って、本当なのか魅音」

「知っている顔が何人もいるよ!今日もお昼頃に話した人もいる!

 …まずった、今日ここで鍋パーティをやることを話したんだ」

 

魅音が痛恨の顔をしているが仕方がない。

結果だけを見ればとんだ大失態だが、お昼の時点でミフネの組員達が敵だなんて分かりっこない。

問題は、これからどうするかだ。

 

だが、このような状況を想定していたんだろう。梨花ちゃんの動きは素早かった。

押入れを開き、中にあった隠し通路を作動させて俺達を誘導する。

 

「ここから外へ出られる!急いでッ!」

 

一階から銃声が聞こえる。

下で護衛してくれている山狗や警官の人達が、応戦してくれているんだ。

 

だがあの人数では、抑えきれるわけがない。

見捨てるのは心苦しいけど、今は脱出に専念するしかない。

 

「いそごう圭ちゃん」

 

魅音に足されて、俺も頷く。

今、重要なのは梨花ちゃん、そして魅音やレナや沙都子を連れてこの窮地から逃げること。

考えるのは、その後だ。

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