ひぐらしのなく頃に~ただひたすら圭一と魅音がイチャイチャするだけ編~ 作:Java-Lan
[18日目(日):古手神社:未明:ミフネ]
ミフネは黒塗りの車の中で葉巻を吸っていた。
葉巻とは勝利の印に他ならない。戦いの勝利を祝い、それを味わうためのものだ。
そう言っていたのは誰であったか。
かつては葉巻は共産圏の革命家達に愛好されていたという。
そのせいで自由経済諸国の中では葉巻が禁止されているところもあるらしい。
勿体ない話だとミフネは思う。
くだらぬ理由でこの美味さが味わえぬとは、もっと懐を大きくしないと人生は楽しめないものだ。
窓ガラスを叩く音がする。若頭だ。
ゆっくりと窓ガラスを下げると、若頭が頭を下げた。
「パトカーが二台接近していましたのでタイヤを狙撃して足止めをしました。
しばらくは合流できないでしょう」
「…標的は?」
「取り逃がしました」
いつものミフネなら、こんな報告をした相手には、
葉巻の灰がたっぷり入ったクリスタル製の灰皿を脳天に喰らわせてやっただろう。
だが、そのようなそぶりは見せない。
いや、今日に限っていえば、誰が報告しに来たとしてもそんな態度はとらないはずだ。
なぜならば、
今日、ここに引き連れてきた40人の組員は、ただのヤクザ者やチンピラでは無い。
ミフネはこの一大蹶起に本物の極道ばかりを集めたのだ。
今回は失敗が許されない。
そのためミフネ組で経験も実績もある者達だけを招集した。
多少の失敗や誤差があったとしても、自力で取り返すことができる判断力と行動力を持ち合わせている連中だ。
焦る必要など微塵も無い。
ミフネは気分を害した様子もなく鷹揚に答えた。
「梨花ちゃまを警護しているという護衛はどうした?」
「はい。情報通り4名おりましたが無力化しました。全員警官のようです」
古手梨花にはプロの護衛が4名ついていると野村という女から聞いてはいたが、それが警官だと言う話は聞いてはいなかった。騙したのか。
(まぁ、良い…どうせ警察とは戦う予定だった。今更、気にする必要も無い)
「で、奴らはどこに向かった?」
「逃げた方向を見るに、どうやら園崎本家に向かったようです」
それを聞いた瞬間、ミフネは爆笑した。
なんと自分は天運に見舞われているのかと喜ぶ。
これが山などに逃げられたのなら、捜索は困難になっただろう。
しかし、よりによって園崎本家に逃げ込むとは。
園崎本家は確かに要塞のような場所だ。多数の監視カメラに、防衛装置がある。
地下には祭具殿と呼ばれるセーフティ・ハウスもあり、銃器も多数用意されている。
一旦閉じこもれば、難攻不落とも言えるだろう。
だが、それは攻める側が何も知らない場合の話だ。
ミフネはあの屋敷を熟知している。どう攻略するか最初からわかっているのだ。
その上、あの屋敷には明日の結納披露の為に園崎お魎も滞在しているのが分かっている。
ミフネの本来の目標である古手梨花・園崎お魎・園崎魅音・前原圭一、
その四人が一か所に集まってくれると言うのだ。これが笑わずにいられようか。
「この機会を生かせ、標的だけは必ず全員を殺せ。邪魔しなければ残りの奴らは放っておけ時間の無駄だ。ランチャーも持っていけ、園崎家の門は固いからな。周囲を気にせず遠慮なく撃ちこめ」
「はっ!お任せくださいオヤジ」
若頭は一礼すると、車から離れて黒服達に指示を行う。
( 天下を取るには、天・地・人が必要だって話だが、今の俺には全部がそろっていやがるぜ )
天、幸運。
地、場所。
人、人員。
まるでミフネに味方をするように全てが都合よく動いている。
ミフネは笑みを浮かべた。
そもそも、最初の計画では明日の綿流しの祭りの時に組員を順次招集し、
頃合いを見て、当日に運搬された武器で蹶起する予定だった。
標的は野村に頼まれていた古手梨花の抹殺ばかりでは無い。
それならば40人もいらない。手練れを10人集めれば良いだけだ。
襲撃人数は、園崎魅音が想定した最大40名という数と符合していたものの、
ミフネは、園崎魅音とは考え方が異なっていた。
護衛のプロが4名いようとも、自分達もまた犯罪のプロである。
従って4名の護衛は、あくまで4名としかカウントしていない。
だが、ミフネの本当の目的は、その先にあった。
古手梨花を殺害後に、その足で園崎家の現当主・お魎と次期当主園崎魅音、その婚約者前原圭一の抹殺を行う。そのために40名もの兵隊を動員したのである。
結納披露が始まった直前に一斉に武装隆起。
周囲にいた警官や、園崎家の護衛を始末する。
当日は結納披露だけあって、園崎家の重鎮も集まるだろう。
彼らもミフネを支持しない場合は殺害する予定でいた。
どうせ古手梨花が死ねば、48時間後には狂乱が起きて死体の山となるのだ。
誰を殺して騒ぎになったとて、2000人が亡くなる未曽有の大混乱が起きれば、些事のようなものだ。すくなくとも、しばらくは警察が自分達に目を向けることはありえない。
その間に園崎家をのっとり、財政界に影響力を及ぼす力を持てば良い。
そして、この大量殺人を、雛見沢で起きるであろう大狂乱にかけて、うやむやにする。
そのための根回しの準備もすでに整っている。
だが、いざ決行の前日となる今日、標的となる三人…古手梨花、園崎魅音、前原圭一が一か所に集まるという情報が、祭りの設置準備のために送りこんでいた部下から届いた。
部下が園崎魅音から直接聞いた話では、今夜は古手梨花を激励するための鍋パーティを開くのだと言う。
それを聞いたミフネは、瞬時に全ての予定を前倒しにすることを決めた。
ヤクザのケンカはスピードが命だ。相手が用意するまで待たない。その場にあるものでいきなり喉を切り裂き、腹をえぐる。
それはある意味において大雑把であるかもしれないが、
一流のヤクザとは自分の勘と行動力を最大限に信じて行動するものだ。
計画を厳守して当日まで待ち、標的四人を逃したとあったのならば目もあてられない。それこそ間抜けだろう。
必要とするのは、四人の首なのだ。そのために必要ならば行動にうつすのみである。
明日来る予定だった組員達に招集をかけて、テキ屋連中に運搬させる予定だった銃器を直接運ばせて雛見沢に来るように呼び掛けた。
もし銃を積載した車が警察に呼び止められ、中をあらためられた場合は始末予定であったが運よくそれは起きなかった。
そして彼らが到着し全ての準備が整ったのが午後10時過ぎだった。
ちょうと、魅音と圭一がシャワーを浴びて二階に戻る時とほぼ同じである。
先に来ていた組員により、すでに大石と警察が来ているのがわかっていた。
情報が漏れていたのかはわからないが、高度に警戒していることだけは明らかである。
そこで標的の誰かが一階に降りてきた時に、襲撃する計画となった。
40人の黒服には全員、消音装置をつけた拳銃を握らせている。
標的と警官達に一斉射撃をすれば一瞬で全てが終わるに違いない。
ただ、ここで少し問題が起きた。標的が話し込んでいるのか、なかなか部屋から出てこない。
六月とはいえ、夜外に居続けるのは大変だ。彼らは兵士では無く極道なのだ。
そこで0時になった時点で、すなわち綿流しの日に一斉に攻撃をしかけることを決めた。
そして0時を回り襲撃を開始したが、文字通り思わぬ罠が待ち受けていた。
それは沙都子の用意した侵入を知らせるためのトラップだった。
打ち上げ花火が上がり、光が侵入者たちを照らした。よもやトラップが仕掛けられているとは思わなかった彼らは、慌てて一斉に二階の窓に銃弾を撃ち込んだ。
慌てた状態であっても標的にいる場所に銃撃を行なえたのは大したものだったが、
全員が二階に撃ちこんだため、一階にいた4名の警官に気が付かれて応戦を招いた。
これより40人の黒服達は、足止めをくらってしまう。
さらに沙都子のトラップにより…それはほんのイタズラ程度の些細なものであったが…彼らの脚を鈍くするのに十分な効果を与えた。
そのため、建物の裏からまんまと標的全員に逃げられてしまったのである。
だが、ミフネには余裕がある。
逃亡先が園崎本家だとわかったからだ。
( …俺にはツキがある。奴らは園崎本家に向かうとはな。まるで天が俺達を助けるかのようだ )
事前情報では園崎本家には、お魎一人しかいないことがわかっている。
仮に逃げた奴らが全員集まったとしても10人もいないだろう。
殺しに手慣れた極道40人に襲われたら、ひとたまりもあるまい。
(前原圭一、キサマさえいなければ…)
ミフネは憎々しげに、自分をこのような凶行においたてた一人の若者の名前を思い浮かべた。
前原圭一という若造が、北条沙都子奪回運動を雛見沢で起こさなければ、このような事態を起すこともなかったのだ。
北条沙都子奪還運動…この一件でお魎はすっかり前原圭一を気に入り、園崎魅音が前原家に泊まりに行ったのを良い事に婿養子にしようと企てた。
それがミフネにとっては、ケチのつけ始めだった。
ミフネら周囲が反対しても
「お前ら。うちの跡取りの魅音がキズモンにされて、
それを黙って見とれ、ちゅうんか?あのボンにケジメぇつけさせて
責任を取ってもらう。なんか間違った事をワシは言っとるか!?」
園崎お魎は、責任論で強引に決定させた。
後は知っての通り、園崎魅音と前原圭一の婚約が決まり宴会まで行われた。
ミフネは眉をひそめる。見た所、前原圭一はただのガキにしか見えない。一体何がそこまでお魎の心をひきつけたのかがわかない。
だから対面したお魎に思わず「麒麟も老いれば駄馬となる。子供の頃の天才児も大人になったら普通の人っていいまずぜお魎さん」と愚痴ってしまった。
今でも忘れられない。不快になった顔のお魎から、
「で、ミフネ。お前はボンと同じ年の頃に何をやっていた?」
と言われた時の屈辱は。
長年園崎家・園崎組に尽くしてきた自分に対して
園崎お魎は最大限の恥辱を味合わせたのだ。
(あの時の屈辱は忘れん。俺が死ぬ思いまでして、どれだけ園崎家に尽くしてきたか…それをあのババアは…足蹴にしやがった)
「ははは、お魎さんは痛いところをつきますなぁ」
あの時、ミフネは笑いながら返事をおこないながらも、焼けつくような激しい憎悪に身を焦がしていた。
今思い出しても怒りで我を忘れそうになるぐらいだ。
あの後、外に涼みに行った時に前原圭一と園崎魅音の姿を見つけ、思わず銃を抜きそうになった。
”お魎に気に入られやがって”
それはミフネ自身も気が付かないまま膨れ上がった激しい嫉妬心だった。
二人の姿を見てはじめてミフネ自身も気が付いたのだ。
(長年、園崎家に仕え、血反吐を吐いて働き、文字通り死ぬ思いをして幹部に上り詰めた自分に対してこの圭一というガキはどうだ?)
確かに、人を集めたのは大したものだ。気に入られもしよう。
だからといって、最高権力者の婿養子に入る?それだけで?
跡取り娘一人篭絡しただけで、その祖母に気に入られただけで、
自分が築き上げたキャリアを遥かに超える地位に上り詰める。
この時の胸からあふれ出した怒りは自分自身を否定されたことも積み重なり、ミフネの目が眩むほどであった。
前原圭一の頭を撃たなかったのは、魅音の友人達が来たからという理由だけだ。
さもなければ撃ち殺していただろう。
…ボリボリボリ
ミフネは首を掻く。
この時から、妙に首が痒くて仕方がない。
そして、それほどの強い憎悪と、嫉妬心に支配されていたミフネに”反乱”というトリガーを引かせたのは、お魎が「次世代の若者達のために園崎家の改革」を打ち出したしたことであった。
(平和路線?緩やかな体制の構築?バカな話だ)
首を掻きながらミフネは思う。裏の実働部隊がどれだけの血を流して園崎家、園崎組のために働いて来たのか、大邸宅でふんぞり返っている本家の奴らは何もわかってはいない、と。
バアさんだけではない、次期当主の園崎魅音もそうだ。
何も知らん若造が、したり顔で”古き因習を捨てる”などとよくぞ言えたものだ。
古き因習を捨てるということは、すなわち都合の悪い部分を切り取るということだ。
それはミフネを含むヤクザものを斬り捨てるということだろう。
恐怖による力。それに裏付けられた支配体制。
これこそが園崎家を、園崎組を頂点へと押し上げ、黒幕としてのし上げたのだ。
力の裏付けの無い権威になんの意味があろう?
成長の止まったヤクザは衰退するだけだ。
ならば、その衰退の原因を排除すれば良い。
老いてまともな判断のできなくなった園崎お魎。
理想論で現実の見えていない園崎魅音。
そして、元凶たる前原圭一。
この三人をミフネは是が非でも殺さぬばならない。
すでに同じ志を持つ重鎮や幹部連中とは渡りをつけてある。
そして園崎本家には、園崎家の跡目を継ぐために必要な伝説の秘宝『振鈴』が眠っている。
当主のお魎と、次期当主の園崎魅音を殺害し、『振鈴』を手に入れさえすれば園崎家を、園崎組をミフネが継ぐこともできるはずだ。
もちろん、これに従わない者達もいるだろう。
その場合は、決めている。拒否する奴は力づくでねじ伏せれば良い。それが極道だ。
「一人殺せば殺人だが、100人殺せば英雄だ。じゃあ、2000人殺す俺はどうだ?え?」
かつて鬼の末裔と言われた仙人の住む、この雛見沢。
そしてそれを支配していた御三家。
奴らを滅ぼし、そしてオヤシロ様の化身たる古手梨花を殺す。
それは神殺しであるのと同時に、新たなる神の誕生ではないか。
そう、園崎組を継いだ自分はただの支配者になるのでは無い。新世界を生み出す存在へと生まれ変わるのだ。
「そうさ。綿流しの日に神を殺し、俺が次の神となるのさ
今日は新たな神が生まれる…生誕祭だ…ククク、ハハハハ!」
ミフネは笑う。
この日を境に、全てが変わるのだと確信に満ちて。
[18日目(日):雛見沢道路:未明:前原圭一]
二階の部屋から脱出した俺達は、魅音の「私の家に籠ろう」という言葉に同意して、園崎本家へと向かっていた。後ろから黒服達の声が聞こえる。何人かはすぐ後ろまで迫っていた。
「梨花ちゃん、大丈夫か!」
「余裕なのですよ圭一」
俺が叫ぶと、梨花ちゃんは笑顔で答える。だが辛そうだ。
梨花ちゃんは沙都子と共に走っているが、体が小さい分、やはり少し遅れている。
梨花ちゃんを抱えて走ろうか。
俺がそう思った時だが。前方から二台の黒塗りの車が現われて、中から黒服が次々と降りてきた。
…やばい!
こちらに銃口を向ける黒服達。
しかし、その直後、一人は吹き飛ばされて、もう一人は地面に屈した。
赤坂さんだ。
先頭にいた赤坂さんが、走った勢いそのままに黒服達に突っ込み、次々となぎ倒していく。
また大石も、赤坂さんほどではないにしても黒服達とやりあっている。
今の内に梨花ちゃんと、沙都子を連れていかないと、
そう思って振り返った先に、躓いて倒れ込む梨花ちゃんの姿が目に飛び込んできた。
慌てて沙都子が梨花ちゃんの所に戻っていく。
「梨花ぁッ!」
だが、梨花ちゃんのすぐ後ろには三人の黒服達が迫っている。
俺もダッシュで向かうが、間に合わない。黒服達が銃口を梨花ちゃんの方に向けようとした。
その時、後ろにいた黒服二人がもんどりうって倒れた。
なんだ、何がおきた?それを確認する暇は無い。
目の前で梨花ちゃんの上に沙都子が覆いかぶさった。
…無茶だ沙都子!死ぬだけだ!
俺は叫ぶ。
「うおおおおお!!こっちだッ!バカヤロー!!」
最後に残った黒服に体当たりをするつもりで俺は全力で駆ける。
黒服が、銃口の先を梨花ちゃんか、俺に向けるか一瞬迷ったその時、大きな影が真横からぶつかり、黒服が倒された。
「おんどりゃぁ、ワシの沙都子になにするんねんッ!」
倒れた黒服に蹴りを入れる大きな影。
まさか、あれは…北条鉄平なのか?なぜ、捕まったはずじゃ。
俺が目を白黒させていると、北条鉄平が俺の襟首をつかんで顔をよせた。
「おう、前原のぉ、ワシから沙都子奪ったんなら最後まで守りきらんか!この、どアホぉッ!!!」
俺はつき飛ばされて尻餅をつく。
顔をあげると、北条鉄平は後ろから襲ってきた黒服と格闘をしていた。
「おじさまッ!」
梨花ちゃんを抱き起し、肩を貸して歩いている沙都子が北条鉄平に手を差し出している。
それを見て、俺は気が付いた。
もしかしたら、俺は北条鉄平という男を勘違いしていたのでは無いだろうか。
本当は、沙都子を虐待などしておらず、ただ感情を出すのが不器用なだけの男だったのではないだろうか。
北条鉄平は黒服の1人を倒すと、俺の方を見てニヤリと笑った。
「はよ沙都子を連れていかんかい。どうせワシは流れの嫌われものよ。夜の散歩にしゃれ込んで、喧騒に巻き込まれておっ死ぬなんざ、ま、おかしくもねぇさ」
街ならともかく、この何も無い雛見沢で夜の散歩なんて考えられない。自動販売機も無い道だ。
まさか、北条鉄平は沙都子の顔を見たくて、梨花ちゃんの家に向かっていた最中だったのか。
だから、こんな所で出くわしたのか。
「圭ちゃんッ!梨花ちゃん!沙都子ッ!」
魅音が異常を察してやってきた。
俺は魅音と共に梨花ちゃんと沙都子を抱きかかえると、北条鉄平に頭をさげた。
「ありがとう…ござます!」
北条鉄平は軽く右手をあげると、暗闇から次々と現れて来る黒服達に向かっていった。
「ははは!毎夜、毎夜、つまらん死に様の夢ばかり見ちょったがよ、
本当の最後はこれだってのは、わるかぁねぇ、わるかぁねぇぞ!」
俺と魅音はそれぞれ、梨花ちゃんと沙都子を抱きかかえて、走った。
後方で北条鉄平と黒服達の喧騒の音が聞こえてくる。沙都子が北条鉄平の名を叫ぶ。
だが、俺達は鉄平のためにも、彼女たちを守らなければならない。そうする義務と責任があるんだ。
正面の黒服達を倒した赤坂さんと大石が合流した。
園崎本家の正面門まで、あと少しの所まで迫っていた。
[18日目(日):雛見沢道路:未明:園崎詩音]
葛西の車が軽快な音を立てて夜道を進んでいる。
それに私は憮然として乗っている。遅れるも遅れ、大遅刻だ。
時刻を見ると、午前0時を過ぎている。
17日の夜どころか、18日に突入だ。
これと言うのも、葛西の車が雛見沢に入った直後にエンジントラブルに見舞われて車が止まってしまったからだ。周囲には森しか無く、近くには公衆電話が無い。
車載電話なんて洒落た物があるわけでもなく、保険屋に連絡できたのが一時間後。
さらに修理業者が来たのは、その二時間後で、業者が工場まで回収して修理が終わったのは、ついさっきだ。
あぁ、泣ける。
梨花ちゃまを守る、大事な集まりだっていうのに。
これなら時間がかかっても、エンジンが止まった直後に歩いて向かっていればよかった。
それなら、少なくとも日を跨ぐなんてことは無かっただろうに。
今日は友人に乗り物を貸す約束をしたので足が無くて困っていた。
だから結納披露につかう品を届けるために、興宮の実家から園崎本家に向かう葛西の車に乗せてもらえてラッキーだと思ったけど、裏目にでちゃった。
「もう少しで、園崎本家につきます詩音さん」
「ありがとう葛西。すっごく早かったわね」
葛西には悪いけど、嫌みの一つでも言いたくなるわよ。そりゃね。
ん?今、一瞬パトカーが見えたけれど、あれはなんなんだろう。
「…葛西、今、パトカーが二台わき道に止まっていなかった」
「おそらくネズミ捕りでしょう。田舎道で速度違反を取り締まる。よくあることです」
こんな夜道に、パトカーが二台止まって、警察官が立っているなんて何事かと思ったけど、そういうことね。確かに雛見沢のような田舎道だと、速度制限無視して車を飛ばす人も多い。
本当に危険だと思うけれど、道路に誰もいないから解放的になるんだろうな。
だけど、こんな夜中まで働くなんて警察の人本当ご苦労様です。
「まっすぐ、園崎本家に向かいますがよろしいですね?」
葛西が聞いてきたが、手のひらをヒラヒラさせてOKサインをだす。
どうせ、今頃梨花ちゃまの家にいったところ、既に解散しているにきまっている。
それなら、園崎本家に向かって直接お姉に今日の集会の話を聞いた方が良い。
よくよく考えると、話を聞くだけなら別に行く必要もないのだけれども、さすがに私にも意地というものがある。約束したのなら、何が何でも行ってやろうじゃない。
車の速度がゆっくりと下がる。
園崎本家に近づいてきたんだろう。
よく見ると、大勢の黒い車がライトをつけっぱなしにして門の前に止まっている。
明日の結納披露の準備のため来た人員かしら。
4台、5台。随分多いわね。というか駐車場に止めなさいよ。
正面門の前に無造作に置いて。邪魔ったらありゃしないわ。
黒服の1人がこちらに何かを向けた。
なんだろう?懐中電灯にしては小さいようだけれども…
「詩音さん、ちょっと揺れますからシートベルトの着用を確認してください」
「…え?なに?」
シートベルトを確認するのとほぼ同時に、
葛西が急ブレーキをかけて、車を回転させた。
その直後に、ガラスに幾つもひびが入る。
これって、まさか…銃で撃たれたわけ!?
「え!?なに、なにッ!いったいなんなのッ!」
「おそらくミフネ組のクーデターです。知った顔が何人もいました。
ミフネの直属の兵隊に間違いありません」
クーデター!?一体どういう事よ!
なんで、ミフネのおじさまが反乱起こしているの!あいつ、バアさんの忠臣じゃなかったの!
…落ち着け。
今は誰が反乱起こしたとかはどうでもいい。
今考えるのはそれじゃない。
あいつらが外にいるってことは、お姉とバアさんが中で籠城していることは間違いない。
すると地下祭具殿に逃げ込んでいるはずだ。
すぐに合流して、支援しないと。
「葛西、地下祭具殿の隠し通路の出口ってわかる?」
「はい。場所は知っています。すぐに向かいましょう」
一体何がどうなっているのかはわからないけど、一つだけわかることがある。
それはお姉の危機だってこと!
お姉、必ず助けて見せる。
せっかく圭ちゃんと仲良くなれたんだもん。
ここで死んだら、絶対にダメなんだからね。
[18日目(日):園崎本家:未明:前原圭一]
正面門を通り、園崎本家の敷地内に入った。
皆、走って来たので息が荒い。だが、まだ休む時じゃない。
正面門の外に、次々と車がやってくる音が聞こえる。
ミフネ組の奴らだ。
すぐに場所を移動しなければ。
魅音は、正面門の施錠を確認すると俺達の方を振り向く。
「これから地下祭具殿に行って欲しいけど、場所、分かる人いる?」
沙都子が手をあげる。
「もしかして、あの鋼鉄製の扉のある場所の事ですの?
それでしたら、私、敷地内にトラップを仕掛ける時に見ましたわ」
「うん、そこで間違いないよ沙都子。じゃあ、皆を誘導してくれるかな?祭具殿の扉の鍵は、トラップ仕掛ける時に教えた鍵置き場の所にある。ほら、触っちゃダメだって言った鍵があったでしょ?あれだから」
「お任せ下さいませ。魅音さん」
「頼んだよ沙都子。あと、バっちゃんを連れ出すから、圭ちゃんは私と一緒に来て」
沙都子が役にたつとはな。
園崎本家にトラップを仕掛けるなんて、なにをやっているんだと思ったけれど、
何でも任せてみるもんだぜ。
俺は魅音に軽く叩かれ、一緒にお魎のバァさんの部屋へと向かった。
既に異常事態であるのを察していたのだろう。
部屋についたとき、
お魎のバアさんは、すでに支度を整えてベッドから身を起していた。
「…何がおきた」
お魎のバアさんの鋭い視線が俺達を貫く。
魅音はみじろきもせずに簡潔に伝える。
「バっちゃん、襲撃だよ。
敵は20人前後。全員消音付き拳銃を装備。
首謀者は…ミフネのおじさま」
「ミフネやと」
お魎のバアさんが目を細める。
俺は魅音に肩を叩かれて、バアさんの元へ移動する。
「圭ちゃん、バっちゃんを担いで。私が誘導する」
俺は、おう。と一言答えるとお魎のバアさんを背負い、
先導する魅音の背中を追って走った。
正面門から、怒声と何かが激突する音が聞こえる。
だが、さすがは日本家屋の正面門だ。かなりの音が響くが、まだ壊れる様子がない。
とはいえ、このままでは破壊されるのも時間の問題だろう。
「魅ぃちゃん!圭一くん!こっちだよ!」
邸宅から少し離れた場所にレナが立って手を振っている。
その脇には巨大な鋼鉄製の扉が開いている。
おそらくそこが、地下祭具殿と呼んでいたシェルターなんだろう。
俺と魅音とレナはその中に入り、鋼鉄製のドアを閉める。
分厚く頑丈な扉だ。これなら相当もちこたえるに違いない。
「行こう圭ちゃん」
魅音に足されて俺は地下祭具殿の中に降りていく。
途中で岩がむき出しになっている牢屋やら、なにかの得体のしれない拷問道具を見たが、それに関心を向けるのは後にしょう。
今は、バアさんを安全な所まで移動させるのが優先だ。
おそらく、この地下祭具殿で一番奥というか重要な場所に到着したのだろう。
周囲が綺麗に整備され、機械仕掛けのモニターが多数ならんでいる。
見た感じ、モニター室か警備室のようだ。
そこには、梨花ちゃんと赤坂さん、大石がいた。
大石は、俺が背負っているお魎のバアさんを見ると破顔する。
「これはこれは、お魎さんではありませんか。ご無沙汰しておりますねぇ。
こんなところで、お目にかかるとは、思いもよりませんでしたよ。ん~ふふふふ」
「ふん、大石か…こげな所であうとはな…」
俺はオーラが見えるわけでは無いけれど、
2人とも目に見えない何かで火花を散らしているのだけはよくわかった。
だが、それにつき合っている暇はちょっとない。
俺は魅音と一緒にゆっくりとお魎のバアさんを下ろす。
すると、お魎バアさんを支えている魅音がこともなげに言い放った。
「流れで連れて来たけど、安心してバっちゃん。
大石のヤツは、肉の盾として優秀だろうからさ」
魅音の言動に、そことなく悪意が感じられる。
とはいえ、俺も大石に良い感情を抱いていないので、そこは無視する。
なんとなく不穏な空気になったときだった。
姿が見えなかった沙都子が、慌てたように奥の部屋から飛び出してきた。
「奥の部屋に誰かいますわ」
魅音が胸のホルスターからカラフルな銃を取り出し、奥へと走る。
俺と赤坂さんも、その後ろからついていく。
むき出しの岩石の部屋の奥から何か擦りきれるような音が聞こえてくる。
しかし、見た感じ何も無いようだが、魅音は構わず奥に進む。
すると岩陰に井戸があるのを発見した。
巧妙にカモフラージュされている。そして音は、そこから出ているようだった。
「誰、いるのなら返事をしなさい」
魅音が銃を構える。
すると、白い手が井戸から出てきた。
まさか、幽霊…!?
「お姉ぇ、私!私だって!」
その声は、詩音か!
俺と魅音は井戸の方に向かい、中にいた詩音を引っ張りあげる。
さらにその下からは、葛西さんも出てきた。
「詩音…!?なんでアンタここにいるのよ!」
「あはははは。大幅に遅刻しましたが、私、約束は守る女なんですよ?」
「ばっか…!こんな危険な所までくるなんてさ!」
魅音は詩音に抱き着き、詩音は照れくさそうに笑っている。
こういうときは、素直に姉妹の絆が羨ましい。
詩音と葛西さんを連れて、モニター室に戻ると、詩音は部活メンバーに囲まれてもみくちゃにされ、葛西さんはお魎のバアさんと大石に一礼した。
お魎バアさんは尊大な態度で葛西さんに話しかける。
「葛西、状況はわかっているんやろな?」
「はい、ミフネがクーデターを起こしたようですね。残念ながら隠し通路はどこもつかえません。既にミフネの手の者が張っています。詩音さんと私は奴らを倒して、ここに入り込むことができましたが出ることはできないでしょう」
室内が静まりかえる。
隠し通路が使えない以上、もう逃げ場は無いと言う事だ。
その後、葛西さんは、部屋の奥から次々と武器を持ちだしてみんなの前に広げた。
映画で見た事あるような機関銃、突撃銃、拳銃、そしてマッチョな主人公がもっていた大砲のような銃。あと散弾銃に刀に、薙刀に…メリケンサック?とにかく、あるもの全部置いたと言う感じだ。
それを見ていた大石がなぜか喜んでいる。
「これは、これは、アメリカだったら持っているだけで射殺OKな武器ばかりじゃないですか、
ソードオフ・ショットガンにM4、それになんですか?ミニガンですか?
どこから、こんなもの持って来たんですか」
「大石のダンナ。ここは緊急避難ということで一つ、見逃しちゃくれませんか」
そういって、葛西さんはミニガンと呼ばれた巨大な銃を入り口側に設置し、やたら銃身が短い散弾銃を手に取った。
赤坂さんと大石の目の前に、葛西さんは機関銃を置いたが、拳銃以外には慣れていないとやんわり拒絶された。代わりに詩音と魅音の二人がその機関銃を手に取る。
だが、二人とも怪訝な顔をして弄繰り回している。
「お姉!このアサルトライフル動かない」
「え、嘘でしょ…!?こっちのM16も動かないよ。なんで、だってミフネが整備したって…」
「「…あっ」」
その場にいた俺達は声をあげた。
そうだ。反乱を起こすつもりなら、まともに銃器の整備なんてしているわけがない。
逆につかえなくしているはずだ。葛西さんも設置したミニガンを調べていたが頭を左右にふる。
「駄目ですね。こちらのミニガンもつかえません。銃器類は諦めた方が良さそうです」
そう言って葛西さんは手に持っていた散弾銃を投げ捨て、懐から拳銃を取り出す。
なんてことだ。
俺達は逃げ道も武器も取り上げられた状態だ。
こんな状況で、生き残ることができるのか。
絶望感が沸き起こってくる。
そんな時に、赤坂さんの声が聞こえてきた。
「大石さん、モニターを見て下さい」
皆が振り向く。
複数あるモニター画面の一つに、正面門が表示され、
そこには黒服達と共に貫禄のある男がうつし出されていた。
「ミフネか…」
お魎のバアさんが、小さく呟いた。
その目は遠くを見ているようだった。
信頼していた部下に裏切られた気持ちは、俺にはわからない。
ただ、魅音も相当辛そうな顔をしている。
きっと親兄弟に裏切られたような気持ちなんだろう。
そんな心中に大石が土足で踏み込んでくる。
「んふふふふ…どうですか、手足に裏切られた気分は…
お魎さん、いや”オヤシロ様”」
お魎のバアさんの視線が大石にむけられる。
大石とお魎のバアさんの視線が交差する。
「どうしてこうなったのか、わかっているんでしょう?
アンタが、命じたからですよね。園崎家のために”やれ”と…」
お魎のバアさんは視線をモニターに戻し呟いた。
「…見つからんわけや。”オヤシロ様”に”オヤシロ様を探せ”と命じていたんやからの」
「認めるんですね。自分がオヤシロ様だってことを…!」
大石はお魎のバアさんにつめようとしたその時、魅音が大石の前を遮って叫んだ。
「違う!バッちゃんはオヤシロ様じゃない、だってバっちゃはオヤシロ様を探していたんだから!」
…はははははははは!
大石の不快な笑い声が室内に響く。
この笑いは、おそらく大石が見つけたからだ。
こいつが求める、本当の真相とやらを。
「そうですよ。そういうことになっていますよね園崎魅音さん。園崎お魎は誰にも命じない。ただ憂慮するだけ。それを察した誰かが忖度して、実行に移す。それがミフネだった!そうでしょう!だがね、見て下さいよ。あの自尊心を肥大化させた奴の姿を!」
大石の指先がモニターに映っているミフネに向けられる。
「今なら全部わかります。ヤツはアンタの気持ちを忖度し、次々とオヤシロ様の”力”として、園崎家の敵を手にかけてきた!
最初はただの忠誠心だったのかもしれない!しかし、次第に自分には本当に力があると勘違いしはじめた。その結果、アイツは自分こそがオヤシロ様の力を行使に値する存在だとうぬぼれ、ついに、主たるアンタを殺そうとした!いや、それだけじゃない!綿流しの日に古手梨花を殺し、雛見沢住民1000人を皆殺しにしようとまで考えたんですよ!
己が本当のオヤシロ様になるために!次の神として君臨するために!アンタはオヤシロ様じゃなかったのかもしれない、しかし、まちがいなくオヤシロ様を作ったのはアンタなんですよ!」
大石は一気にまくしたてた。
しゃべりすぎたのか肩で息をしている。
語ったのは推論だけでは無い。
おそらく長年ため込んでいたものを一緒に吐き出したのだろう。
お魎のバアさんは、微動だにせず。
ただ、ぽっつりと呟いた。
「…製造者責任は、あるわな」
大石はまだ何か言いたそうだったが、俺はそれを止めた。
正直、そんな言い合いをしている時じゃない。
「大石さん、それより警察署には連絡しなくてもいいんですか。
この状態なら、警察に頼っても良いですよね」
「おぉ、そうですね。電話って、ここにあるんですか?」
魅音がモニター画面の下を指さす。
大石は受話器を取ると、大急ぎでボタンを押す。
「あ、もしも…あ、その声、熊ちゃん?え?入江診療所から戻って来たばかり?
それは良い。全員招集してすぐに園崎本家に向かってください!えぇ、ミフネです!
あいつが兵隊引き連れて園崎本家に襲撃を仕掛けてきたんですよ!とにかく…」
ドォオオオオオ!!!
轟音が鳴り響き、地下祭具殿そのものが揺れた。
天井から石や機械の部品が落ちて来る。
何が起こったんだ!?
正面門を映していたモニター画面は砂嵐となり、
別のモニター画面では、もうもうと煙を上げる正面門がうつしだされていた。
爆弾を使ったのか。
最近のヤクザはそんなものまで使うのかよ!
大石は慌てて受話器を持ったが配線が切れている。
これで万事休すか!
そう思った矢先、魅音は冷静な声が聞こえてきた。
「大石のおじさま、その横のボタンを押して、
受話器の必要のないハンドレス会話が出来るようになる」
「ははは、そいつは良いですね。
ハイテクですよ、この機械は」
ドォオオオオオオオオオ!!!
大石がハンドレスのボタンを押したときに二度目の大爆発音が響いた。
モニターカメラの何台かが、この爆発で機能を停止している。
生き残ったモニターを見て、レナが叫んだ。
「地下入口の扉が破壊されているよ!」
モニター画面には破壊された鋼鉄の扉を押しのけ、黒服達が次々に地下室に入ってくる姿が映しだされている。
奴らが、くる。
赤坂さんと、大石、それに葛西さんが、瞬時に前線ポジションを取る。
俺と魅音はそのすぐ後ろに隠れ、奥の方に、梨花ちゃんと沙都子、それを守るレナと詩音が配置についた。
ただ、お魎のバアさんは悠然と立ち、先ほど葛西さんが並べた武器の中から、薙刀を掴んで構えた。
「バっちゃん!危ない、隠れて!」
魅音の声が聞こえないかのように、堂々と立ってミフネ達を待ち受けている。
さすがは、幾年を重ねて、園崎家当主を務めていた傑物だ。
こんな事態になっても、一向に物怖じしないなんて。
足音が聞こえて、黒服達が見えてきた。
赤坂さん、大石、葛西さんが、それぞれ拳銃を構える。
魅音もカラフルな拳銃を抜いている。ただ、顔色は少し青い。
俺は魅音の手の甲にそっと触れた。
「大丈夫、俺がいるぜ。魅音」
「うん、ありがとう。圭ちゃん」
魅音が微笑み。俺も笑みを返す。
だが、そんな俺と魅音のひと時を邪魔する下品な声が聞こえてきた。
「はははは。お魎さん、それに魅音ちゃんと詩音ちゃん。
全員に合えるとは嬉しいねぇ。梨花ちゃまもそこにいるのかい?」
ミフネだ。俺達の正面に堂々と立ってこちらを見ている。
後ろには引き連れてきた兵隊が並び、こちらに銃口を向けている。
助ける気が微塵も無いことが、その姿勢だけで明確にわかる。
俺達を一人残らず殺す気だ。
お魎のバアさんがしっかりと地面に足をつけて。
薙刀を振るう。
「ミフネ、おめぇが何で裏切ったのかはよぉけ知らん。聞く気も無い。
ただ”ケジメ”ぇはつけてもらうでな」
「寝たきりの婆が無理すんな。特攻したいなら好きにしな。
先に殺してやるぜ、なぁ?」
お魎のバアさんの挑発に乗らない。それはそうだろう。
向こうは圧倒的に有利なのだ。ここで挑発にのる意味なんてない。
たけど、これ以上どうすれよい。
持久戦になれば、いつか警官隊が来るかもしれない。
ただ、それまでに生き残れる保証はない。あまりにも数が違い過ぎる。
なんとか、少しでも時間を引き延ばさないと。
そう思っていた矢先、別な所から火種が飛び込んでくる。
詩音がミフネに向かって怒鳴り始めたのだ。
「ミフネッ!お前が”オヤシロ様”かッ!
悟史くんを鬼隠しにしたのはお前なんだなッ!!!」
「駄目だよ詩ぃちゃん!落ち着いてッ!」
必死にレナが詩音を抑えている。
悟史。悟史って、去年鬼隠しにあった北条悟史のことだよな。
沙都子の兄貴の…そういえば、魅音も言っていた。詩音が爪を剥いだら、本来は許されるはずだった。しかし、そうはならずに鬼隠しにあったと。
ミフネは最初きょとんとした顏をしていたが、小さく笑いはじめ、それが次第に大きく鳴り、最後はこの地下祭具殿全体に響き渡るほどの大爆笑へとかわっていった。
「ああ、そうさ!俺こそが”オヤシロ様”だ!
古手梨花を殺し、園崎お魎を殺し、そして御三家を滅ぼし、
この雛見沢住民全てを殺しつくす!そうさ俺は神になるんだよ!」
この勝ち誇った顏、笑い声、イラつく。
生理的嫌悪ってやつか。ミフネの何もかもが腹ただしい。
その笑いに対抗するかのように、大石も何故か笑い始める。
「いやはや、確かに笑えますねぇ。まさか今まで探し続けてきたオヤシロ様が、こんなチンケな三下ヤクザだなんて。ん~ふふふふ」
「おいおい、てめぇ、大石か?なんだなんだ。今日は盆と正月がいっぺんにきたかのようだな。
御三家を滅ぼすだけじゃなく、てめぇのような糞野郎まで殺せるってのはツキすぎて、テメェの天運が怖いぐらいだぜ」
ミフネが右手を挙げると、黒服達が一斉に射撃ポーズをとる。
俺達も覚悟を決めるが、妙に緩い感じで大石さんが語り掛ける。
「いやぁ~いいんですか?そんなことしちゃって…?」
「あん?大石、てめぇ、何が言いたい?」
「ハンズフリーって機能が、大変便利でしてね。ほら、受話器をもってなくても会話の内容、
全て警察署に届いていたりするんですよ」
あ、なるほど。そういうことか。
大石さんはモニターに設置されていた電話をハンズフリーモードのままにしていたんだ。
つまり、いましゃべっていたことは全て警察署に筒ぬけってことか。
それって、ようするに、ミフネが自分で「オヤシロ様」と自供した内容も、
警察署にいる人達が聞いていたってことになる。
ミフネの顔色がみるみる赤くなってきた。
「要塞を落すなら、まず電源を先に切るべきでしたねぇミフネさん。
まぁヤクザ者には軍隊みたいな発想はないでしょうけれど」
「うるせぇぞ大石!」
ミフネは右手を懐に入れると拳銃を取り出し、モニター画面に撃ちこんで警備装置を破壊した。
だが、これは意味が無い事だ。既に警察署には声が届いている。
俺達を殺したとしても、ミフネが逮捕されるのは、時間の問題だ。
だがミフネは、そんな俺達の想像を見越しているのか嘲笑をはじめた。
「甘いぜお前ら。俺達は警察とやり合う気で来てるんだよ。
梨花ちゃまを殺せば、この雛見沢住民は全員発狂して殺し合いを始める。
そんな状態で警察がまともに機能するとおもっているのか?ええ?」
発狂して殺し合う?そんな話は初めて聞いたぞ!
梨花ちゃんからは、48時間以内に全員死ぬとしか聞いていない!
大石さんも動揺している。
確かにそんな事態になったら、ミフネの逮捕どころじゃない。
1000人、2000人の人間が殺し合いを始める大事件になるのなら、
ここで俺達が殺されたなんて話は小さな事件として忘れ去られるに違いない。
いや、そもそも、こんな洞窟のような場所で殺されたのなら、死体だって発見されるか怪しい。
詩音たちが昇って来た井戸の中に死体を放り込んで岩で隠せば永遠に見つからないんじゃないか?
だが、そんな俺の動揺をよそに
梨花ちゃんの、ひどく冷徹な声が響いた。
「…そう上手くいくかしら。
神無き地で災い成せるとでも?」
その大人びて透き通るような声に俺達は一瞬魅了された。
それは神秘的にも聞こえるオヤシロ様の巫女の声。
いや、オヤシロ様の化身たる梨花ちゃんから発せられた宣言。
だが、それをミフネの醜い笑い声が打ち消した。
「安心しな。神はここにいる」
巫女の声は、
神を称せし者には届かない。
ミフネは再び右手を挙げる。
来る…!
俺達は覚悟を決めた。
その時…
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
地下祭具殿全体まで響くほどの
大音量が聞こえてきた。
[18日目(日):園崎本家:未明:小此木鉄郎]
…こちら雲雀13より、鳳1へ………………
…………古手家1階にいた警官4名を救出…
………………いずれも重症なれど生命に別状無し……………
……ズッ…
…………………
…こちら鶯2………………
………………路上で倒れているターゲットの叔父を回収…
…………緊急搬送します………………
……………………
…梟3より鳳1…ビンゴ…
…確保した隠しトンネルは地下…繋がっ………
……ターゲット全員の生存を確認……
「こちら鳳1了解。制圧部隊はどうなっている?」
……こちら制圧部隊。順調です…
…園崎邸にいる敵は浮足立っています。直ぐに制圧できると思われます……
………
「良し、いいぞ。気を抜くなよ。終わったら全員で乾杯だ。
気の良いお姫さんが全員にボーナスを支給してくれると約束してくれた。
全員最後まできばっていけ!」
無線機の向こう側で歓声があがる。
戦闘指揮車で報告を聞いた小此木はニヤリと笑った。完璧だ。
当初『古手梨花』の護衛についていた『山狗』部隊の人数は8名であった。
園崎魅音は最大4名の護衛と推定していたが、鷹野三四の命令で『古手梨花の護衛』は厳戒態勢にシフトされており大幅に人数が増やされていたのである。
彼らは当日、古手梨花の警護に当たっていたものの、午後10時ごろに、30名以上による襲撃者の存在を確認し、すぐに小此木に連絡を寄こして新たな命令を求めてきた。
いくら山狗が有能であろうとも、さすがに守り難い土地で、その数相手に正面から攻められては突破を余儀なくされるだろう。
連絡を受けた小此木も一瞬、考え込んだ。
任務が遂行できるのであれば死ねとも命じられるが、確実に失敗が想定されるケースで任務を強行し、無駄に死人を出すわけにはいかない。
そこで、小此木は現地にいる古手梨花護衛チームの山狗隊員に対して護衛ではなく、
逃亡支援に切り替え、側面から古手梨花達の脱出を手助けるように命令を下した。
古手梨花が逃亡中につまづいた時に、近づいてきた黒服三名のうち、
二名を撃ち倒したのは彼らである。
さらに、襲撃して来た”何者か”を殲滅するため、彼の上司である鷹野三四に連絡し、全部隊員を招集した。山狗たちにとって幸いだったのが、その”何者か”は、二時間近くも古手梨花の居住を攻めなかった事である。
万が一に備えて即応準備を常日頃からしてきたこともあり、一時間後には山狗達は万全な準備を整えて出発することができた。そして現地にいた逃亡支援チームにより、古手梨花が園崎本家方面に逃げたと言う連絡を受け、一斉に動き出す。
園崎本家を攻めていた黒服達の動向を見守り、
黒服達の3分の1が地下祭具殿へ突入したのを見計らい、一斉に攻撃を開始した。
最初に目くらましの
そして照明弾を打ち上げ、四方八方から無力化弾の洗礼を浴びさせたのである。
人は他人を攻めている時に、攻められるのが一番弱い。
相手を攻めている時は背中がガラ空きだからだ。
視力と聴力を失い、さらに後方から無力化弾を喰った彼ら黒服達の、
心理的ダメージは桁外れであっただろう。
なにしろ無力化弾などといっても、そう生やさしいものでは無い。
近距離で当たれば肋骨は軽く折れるし、頭部にあたれば死に至る事もある。
有効射程内で、内臓にぶち当たればしばらく身動きはできないし、手足にあたれば当分は使い物にならなくなるぐらいには強力だ。
海外で開発された最新鋭の無力化弾仕様の武器は、決して安くはなかったが、鷹野三四のポケットマネーで部隊員全員に支給するだけの装備を整えることができた。
さらに部隊員にはそれとは別に強力な電撃を与えるデイザー銃も装備させてある。
無力化弾でも気合いを入れて立ち上がるような猛者も、強力な電撃を与えるデイザー銃を一緒に喰らえば、しばらくは動けないだろう。
上官の鷹野三四は、何故かはわからないが、徹底的に相手を殺さない方針を求めてきた。
これは相当な難易度を求められていたが「
命令に縛られて被害がでるのだけは避けたかったからだ。
戦闘指揮車に連絡が入る。鷹野三四だ。
「現状はどうなっているの?梨花ちゃんは無事?」
「現在の所、問題はありません。裏の隠し通路を制圧して地下に送り込んだ隊員の報告では、まだ全員生きとるようです」
「そう。よかった。最初に言った通り、なるべく今日は殺さないように。こんな馬鹿な話で祖父の論文を汚すわけにはいないわ。ただし、良いわね?必要とあれば遠慮なく撃ち殺しなさい。梨花ちゃんの守りこそ最優先事項、
「了解です。古手梨花護衛に全力を尽くします」
「入江所長にも連絡は回してあります。すぐに私もそっちに向かうから、救護体制の方もお願いね。負傷者が出たら、敵味方問わず全員助けるからそのつもりで用意して」
通信を切った小此木は舌舐めずりをする。
(…わかっているさ。完璧に成功させてやる。俺はこういう瞬間こそ求めていたんだからな)
そう、小此木は飢えていた。
本来自分の能力はもっと攻勢にこそ使われるべきだと考えていた。
だが、自分の慎重かつ大胆な性格が評価され、このような「山狗」の隊長に配属されてしまった。この諜報工作部隊「山狗」は基本的に戦闘を行う部隊では無い。だからこそ、飽いていた。
自分は戦闘中心の「番犬」にこそ向いている。そう思っていたのだ。
いつか訪れるであろう戦闘命令を心待ちにしていた。
そして、ようやくその時が訪れたのだ。今こそ自分の本領を発揮できる。
こういう戦いこそ自分は輝く存在だと疑わない。
小此木は銃を手に取り戦闘指揮車をおりる。ここで大上段に構えているのは自分の性には合わない。現場で直接を指揮をとる。これこそ現場指揮官の醍醐味というものだ。
[18日目(日):園崎本家:未明:前原圭一]
この地下にまで響き渡る大音量は一体なんだったのか。
何が起きているのかは俺には分からない。
しかし、明らかに何かが起きているのだけはわかった。
ミフネ達が狼狽している。
地上で何かがあったのは間違いない。
本当でも、嘘でもいい。
俺は、あえてブラフのつもりで叫んだ。
「警察が来たんだ。そうですよね大石さん!」
「あぁ、そうですね。ここに来る前に連絡をしておきましたがらね。
そろそろ到着してもおかしくないですよねぇ。ん~ふふふふ」
大石も俺の話に乗ってきた。
それを聞いたミフネ達はわかりやすいほど動揺している。
大成功だ。
よくやったぜ、俺!
「な、何をしている、お前達!さっさとあいつらを殺せ!」
よほど動揺していたのか、あまりにもずさんな命令をしてきた。
バラバラとまとまりもなく黒服達が拳銃を片手にこちらに向かってくる。
それに立ちはだかるのが、赤坂さんだ。
相手の懐に入り込み、次々と拳でなぎ倒していく。
すげぇ、人間業じゃない。
「このような狭い所では銃器は不利だ。
拳でかかってこい」
ハッタリだ。どこであろうと銃の方が強いに決まっている。
だが、釣られた何人か銃では無く刃物に切り替えた。
しかし、白兵戦に切り替えたからといっても、赤坂さんの敵では無い。
完全に浮足立っている所に、葛西さんと大石も飛び込む。
さらに、お魎のバアさんもナギナタを振りながら黒服に襲い掛かる。
人数で優っているはずの黒服達が、次々と倒され、
それを見ていたミフネが逃げ出した。
ボスが逃げれば部下達だってやる気がなくなる。
黒服達も我先へと、ミフネを追うように逃げ始めた。
「ミフネが逃げた!」
魅音がそう叫ぶと、ミフネをおいかけて赤坂さん、大石、葛西さんが走っていく。
お魎のバアさんも続こうとしたが足が続かない。
もともと、寝たきりのようなバアさんだ。
ここまで奮闘したのだって相当なものだぜ。
詩音がバアさんに肩を貸し、
俺は魅音とレナと一緒にミフネを追って地上に出た。
外の世界は入る前とは一変していた。
謎の光輝く球体が上に幾つも輝き、それが真昼間のように園崎邸を照らしている。
地面には黒服達が倒れ、あっちこっちで銃声のような音と爆発音が響く。
警官の姿は見えない。一体誰が黒服達を攻撃をしているんだろうか。
だが、そんなことを考えている余裕はない。
俺達に気が付いた黒服達が次々とやってくる。
赤坂さんや葛西さんが立ち向かおうとすると、沙都子がひょっこり出てきて指を鳴らす。
パッチンッ!
-ウワアアアア!!!
-何ダア!?
-ナンデコンナ所ニ!?
黒服達が足を滑らしたり、何かに足を引っかけてコケたりと、次々と倒れていく。
これは…沙都子が暇つぶしに園崎家の庭に仕掛けたトラップが発動しているのか!?
凄いぜ、沙都子!
地味だが効果は抜群だ!
仲間が罠で倒れて動揺する黒服達に赤坂さんや、大石、葛西さん達大人グループが襲いかかり、地面に倒れている黒服の頭を、俺や魅音やレナの部活メンバーが蹴り飛ばして気絶させていく。
俺は沙都子をねぎらうために頭を撫でる。
「よくやったな沙都子!」
「そんなことより圭一さん、ミフネが逃げますわ」
園崎邸の母屋の方に走っていくミフネの姿が見える。
赤坂さん達と追おうとした時、一人の男が何人もの黒服を引き連れて俺達の前を遮った。
配下の黒服達は赤坂さんと葛西さんに立ち向かい、
右手に刀、左手に銃を持つリーダーらしき男は大石に襲い掛かる。
「大石よぉッ、おめぇ、そういえば死んだ現場監督とお友達だったよな?
あの世で寂しがっているぜッ!俺の手で仲良くあの世に送ってやるよ!」
「なんだと…若頭、てめぇ、おやっさんの死の真相を知ってんのか!」
大石に若頭と言われた男は、刀を振り回し、大石の体制が崩れた所で蹴り飛ばす。
そして左手にもっていた拳銃で大石を狙ったその時。左肩から弾けるように吹き飛んだ。
俺は後ろを見る。魅音だ。
魅音がカラフルな拳銃で、若頭の左肩を撃ち抜いたんだ。
かなりの距離があるのに正確に肩を狙うなんて、さすが米国までインストラクトを受けにいっただけはあるぜ。
倒れ込む若頭の上に大石がのしかかる。
「てめぇか!てめぇが、工事現場のおやっさんを殺すように、作業員達に吹き込んだのか!」
「勘弁してくれよ大石…おらぁ、オヤジの命令に従っただけなんだよ」
大石は凄まじい形相で、銃口を若頭の額に押し付けた。
何があったかわからないが、相当な執念を感じる。
「そんな小者はどうでもええ、早くミフネを探さんか…!!!!」
えらく大声を出しているが、誰だ。お魍のバアさんか。
視線を地下祭具殿の入り口に向けると、詩音と梨花ちゃんに支えられたお魎のバアさんと、沙都子の姿が見えた。
「バッちゃ!」
それを確認した魅音が、
お魎のバアさんの元へと走っていく。
沙都子は俺を方を向くと、
目を見開き、何かを指さして必死に叫び始めた。
「圭一さん!」
沙都子が指し示す方向に視線を動かす。
大石にのしかかられている若頭が、こちらに…いや違う。お魎のバアさんと魅音の方に銃口を向けている!
大石は、お魎のバアさんの大声に気取られて若頭を見ていない!
魅音はお魎のバアさんの元へ向かうため背中を向けている!
葛西さんと赤坂さんは他の黒服達と戦っている!
助けられるのは、俺だけだ!
俺は咄嗟に両手を広げて、お魎のバアさんと魅音の前に飛び出す!
「圭一くんッ!」
俺の横にいたレナも若頭の銃口に気が付いたが、もう間に合わない!
「死ねッ!園崎お魎!」
パン、パン、パン…
俺の全身に鋭い痛みと熱さが突き刺さる…
木材に穴を空けるキリか何かで体を貫かれた感じだ。
おかしなことに全ての動きがスローモーションに見える。
視線の先では、大石が若頭の頭に向けて銃を発砲し、真っ赤なザクロが飛び散るように、紅い欠片が広がっていった。
全身から力が抜けて、感覚を失っていくのがわかる。
この感じは、ああ、そうだ。あれだ。ギックリ腰になったのと同じだ。
地面に体がぶつかったが、痛みは無い。何も感じない。
視線は動く、魅音とレナが何が叫んでいる。
だけど全く聞こえない。胸から何か込み上げてくる…
なんだ、これはなんだろう。
ゴボッ!!!
何かが口から次から次へと溢れていく、あぁ、わからない。
わからないけど、これ、俺が死ぬって事で間違いないよな?
「…ちゃん!ッ…!!!!!!」
誰かが近づいて来る…すぐ横にいたレナ?
違うな服が黄色い…魅音か?
「…!!!アァアアア!!!!!」
魅音、なんだ。泣いているのか?お前は大丈夫なのか。
そうか。それならよかった。だったら、それで十分さ。
急速に意識が遠のく…
どうやら、もう終わりの時がきたみたいだ。
でも、よかった。
俺は間に合ったんだ。
そうさ。俺は、お前を守れたんだから…
よかったんだよ、これで。
俺は何度も、お前を殺したんだもんな。
「ダメッ…!…んじゃ…!!!!イヤァアアアアアアアアア!!!!」
だからさ、悲しむことはないんだ。そういうことなんだよ。
報いはいつかくるんだ。それが今だった…ってことだけさ。
でも、本当によかったぜ魅音…
今度はさ、お前を救えて…
あぁ、そうか、俺はやりとげたんだな…
お前のために俺の全部を捧げられた。
この程度じゃさ…それでも罪滅ぼしにならないだろうけれど…
お前に捧げられた人生は最高だったぜ…魅音…
[18日目(日):園崎本家:未明:男]
小此木造園と書かれたパッチのついた作業着の男は、黒服達が落としたであろう消音付き拳銃を拾い、ゆっくりと古手梨花に近づいていく。
眼の前で、鷹野三四がアレンジした軍服のようなものを着て走っていった、どうやら向かう先は地面に倒れ込んでいる少年のようだ。
書類で読んだことがある。名前は確か前原圭一といったか。
「お願い、鷹野さんッ!圭ちゃんを助けてぇぇぇッ!!!!!」
「分かっています。これより止血作業をします。
このままだと自分の血でおぼれ死ぬわ。園崎さん、竜宮さん手伝って」
前原圭一と思われる少年は、口から赤い泡を出して、体を痙攣させている。
男の経験上、ああなってしまった場合は、十中八九助からない。
少年の体を二人の少女が押さえつけ、鷹野三四が顎をあげて気道を確保する。そして、ボールペンを砕いて男子の体に突き刺した。あれは、逆流している血を外に出しているのだろう。おそらく血が肺に溜まり溺れ死なないようにしているのだ。
そうした応急処置している間に、邸外から入江機関の医師スタッフ達が救命タンカを持って現われ少年の元へと向かう。
(そういえば、鷹野三四は救護の用意を命じていたな)
外に視線をうつすと、爆薬によって崩壊した正面門と塀の外側に、救急車が見える。
どうやら入江診療所特製の救急車を全台持って来たようだ。
この救急車は”生物化学兵器開発のために、被験者がどのような状態であっても対応できる”ようになっている。そのため、首都圏にも数台あるかないかの最新・最高レベルの医療機器を搭載している。もちろん、それらを扱うエキスパートの人員も含めてだ。
入江機関の本来の役割を考えれば当然とも言える装備ではあるが、それまで投入するとは鷹野三四の本気度がうかがえる。
これほど迅速に最高の処置を受けられるのであれば、もしかしたらあの少年は助かるかもしれない。
(…まぁ、正直どうでもいい)
男にとって大切なのは、古手梨花の抹殺である。
彼は野村が山狗に送り込んでいたスパイであり、最後の切り札であった。
そう、彼は古手梨花の殺害に失敗した場合の保険だったのだ。
古手梨花殺害を実行した場合、成功してもしなくても、男は山狗から逃げねばならない。従って、これは本当の最後の手段である。だが、残念ながらその最後がきてしまったようだ。
パトカーのサイレン音が複数近づいて来た。
今ごろ警官隊が来たようだ。いつだって騎兵隊は遅れてやってくる。
だが、警官達が園崎邸に雪崩れ込んで来る状況は好ましくは無い。
早く古手梨花を抹殺せねば。
男は、前原圭一を涙を流しながら見守る古手梨花の後頭部に、銃口を合わせた。
梨花のすぐ隣にいた長身の男が気が付いた。あれは古手梨花が私的に雇った赤坂という護衛だ。
だが、もう遅い。あとは引金を絞るだけだ。
「なるほど、お前がスパイだったってわけだ」
肩を掴まれた。振り返る。
小此木隊長がいる。何故だ!?
「最後の最後で、油断したところに一発。
悪くない方法だ。相手が俺じゃなければ成功しただろうぜ」
口元を歪める小此木に、回転回し蹴りを行う。だが、
スウェーバックで上半身を後ろにそらされ、外された。
男は即座に体勢を立て直し、再び銃口を古手梨花に向ける。
小此木など、どうでもいい。古手梨花を殺せれば、それで任務は完了だ。
だが、振り返った先には…赤坂の顏があった。
「…間に合ったッ!梨花ちゃんは、私が守るッ!」
…ぐべッ!!!
男の腹に鉛のボールがぶつかったかのような猛烈な衝撃がやってくる。
赤坂のその一撃は古手梨花を守るために、ひたすら鍛え上げられ、練られ、研ぎ澄まされたものの結晶である。ただの拳では無い。
言うなれば…
徹甲弾!
それを喰らった男の内臓は悲鳴をあげ、
その機能の大半を一時的に喪失させ、消化器官を逆流させた。
だが、胃の消化物をまき散らす幸運には恵まれなかった。
次に、男の顔は真上に弾き飛ばされたからだ。
赤坂による正拳突きと肘鉄の連続技をくらった男は、コンマ何秒か意識を失った。
手に持った銃を落し、両膝から崩れ落ちる。
意識がかろうじて戻り目にしたものは、古手梨花を抱きかかえて現場から立ち去る赤坂の後ろ姿だった。そして、何分か前まで自分の上官だった男と、同僚であった山狗の隊員達に囲まれているのに気が付く。
「金を貰って裏切る奴はクソだ。そして、そのクソの処理をするのが上手いのが俺達だ。
そこんところは、さっきまで隊員だったお前もよく知っているよな?」
頭の上から麻袋を被せられると、小此木のディザー銃をくらい男は意識は失った。
「さて、帰ったら情報をたっぷり吐いてもらうとするか…安心しろ、姫様の要望だ、今日は殺さないでおいてやる。もっともその後は、どうなるかはわからんがな」
男は山狗達によっていずこかに連れ去らわれた。
その後、彼がどうなったのか知る者はいない。
[18日目(日):園崎本家:未明:ミフネ]
なぜだ。なぜこんなことになったんだ。
わからない。俺は、圧倒的有利な立場にいたんじゃなかったのか?
ミフネは1人、雛見沢の野山を走っていた。
周囲にはミフネを守る兵隊はいない。はぐれたのか、それとも置き去りにしたのか。
その判断すら、今のミフネにはできていない。
ただ恐怖と狼狽だけが心を支配していた。
ボリボリボリ…
ミフネは首を掻く、痒くて痒くてたまらない。
虫にでも刺されたのか、先ほどから痒みが止まらないのだ。
森の開けた場所で、ミフネは息を整えるために足を止めた。
ザワザワザワ…
木々が揺れ、風の音がする。
ミフネは周囲を見る。誰かに見張られている感じがする。
誰だ。誰かが自分をみている。
「おい、誰かいるのか!?」
ミフネの声に答える者はいない。
ただ、木々の揺れる音だけが木霊する。
だが、ミフネは分かっている。そう。ここには誰かがいる。
誰かが自分を狙っている。
ミフネは疲れた足を引きずり、歩くのを再開した。
そうだ。自分は誰かに狙われている。だから歩き続けなければならない。
そういえば、最初から野村とか言う女はおかしかった。
あんなにも自分の都合の良い計画を手渡すんなんて、もしかしたらこの一連の流れは園崎本家連中の陰謀だったのではないだろうか?わざと俺を蹶起させて始末し、ミフネ組の”シノギ”を奪う。
あり得る話だ。マフィアとの対外貿易は年々大きくなってきていた。
その額は巨大だ。それを本家の奴らは盗もうと考えたのだ。間違いない。
自分はまんまと奴らに騙されたのだ。そうだ自分は被害者なのだ。
ボリボリボリ…
ミフネは被害者意識をつのらせ、さらに首を掻く。
掻いて、掻いて、掻いて…いつのまにか首が血まみれになっていた。
ヒタヒタ…ピタ
その時だ。ミフネは自分の足音に、もう一つの足音が重なっているのに気が付いた。
一歩進むごとに、足音が一歩ついてくる。ミフネは後ろを見る。誰もいない。
ヒタヒタ…ピタ
だが、足音はついてきている。
間違いなく、
確実に、
誰かが、
何かが、
そこにいる。
「おい、誰だ!若頭か、それとも大石のやろうか!答えろッ!」
誰も、何も聞こえない。
木々の騒めく音だけが聞こえてくる。
バン、バン、バン…
ミフネは周囲の木々に銃弾を発砲した。
しかし、誰も姿を現さない。反応もしない。
「なんだってんだちくしょう!
なんだってんだちくしょうう!!!!!」
ヒタヒタ…ピタ
ヒタヒタ…ピタ
ヒタヒタ…ピタ
ヒタヒタ…ピタ
ミフネは走る。走って、走って、走った。
だが、足音は消えない。足音は追ってくる。
いつしか、巨木のある開けた空間に出てきた。
そこには小さな社がおいてある。
その巨木は雛見沢の神樹であり、
その社には、古代の神である田村媛命が祀られていたが、
ミフネには知る由もなかった。
ボリボリボリボリボリボリ…
ミフネの首を掻く速度は早まり、
それはついに傷つけてはいけない血管の位置にまで届こうとしていた。
そして、自分の後背に”何か”がいることに気が付いた。
すぐ後ろに誰かがいる。それは自分を見ている。全身が震えて動かない。
一体何がどうしたのだというのか。
いるわけがない。そんなものは存在しない。
ただの気のせいだ。もう、何度も振り返っている。
何もいないことが分かっている。
だが、なぜかわからないが、わかるのだ。
すぐ自分の後ろに何かがいることを。
ミフネは息を荒くする。ミフネは極道だ。誰もよりも強い精神力を持ち。
あらゆる者達を屈服させる男の中の男だ。それが極道なのだ。
恐怖に負けることは極道にとって死を意味する。
どのような状況であっても死を覚悟したものにこそ、男の道が開かれるのだ。
だからこそミフネは己の恐怖を押し殺し、振り返った。
「誰もいるわけがねぇんだよ!」
……
…………
…………………
樹木が風にゆれ、草花のこすれる音が聞こえてくる。
その場所にはもう、誰も存在してはいない。
ただ、