ひぐらしのなく頃に~ただひたすら圭一と魅音がイチャイチャするだけ編~ 作:Java-Lan
[46日目(日):綿流し祭:夕方:前原圭一]
俺は、魅音に車椅子を押されて部活メンバー…レナ、梨花ちゃん、沙都子、詩音と共に綿流しの祭に参加していた。
一か月前に起こった大事件<ミフネ組雛見沢襲撃事件>により、今年の綿流しの祭りは中止となってもおかしくは無かった。実際、事件直後は村人達があつまり中止をするべきだという声もあがったらしい。
だが、警察の保護から戻ってきた、お魎のバアさんは公由村長さんからその話を聞くと
「ミフネのどグサレにコケにされて祭りが中止にされた言うんは園崎家末代までの恥辱ぞ!?それともなにか、園崎家にケチつけたいんちゅう奴らがおるんか!開催に反対している奴らを全員ワシの前に連れてきぃ!」と、凄まじい剣幕で怒ったそうだ。
さらに、その時偶然にもお魎のバアさんの帰宅祝いで訪れていた梨花ちゃんも「お魎の言う通りなのです。偽物のオヤシロ様に祭りを中止にされたとあってはオヤシロ様と古手神社のコケンに関わるのですよ」と同調したものだから、公由の村長さんもそれ以上は何も言えなくなったとか。
当然、この話が村中に広まると、以後、祭りの延期を反対する者達は出てこなかったという。
祭りが一か月も遅れて行われても教義上問題無いのか。とも思ったけれど、綿流し祭は元々必要な時に行う不定期な祭りだったらしく、時期がずれても特に問題はないと梨花ちゃんは語っていた。
魅音によれば、むしろ、祭りを再開するための人員スケジュールの調整の方が大変だったようだ。
ちなみに直接梨花ちゃんに聞いたところ、祭りの再開を支持した本当の理由は
「コケンよりも、皆と祭りを楽しみたかったのですよ☆にぱー」
ということらしい。
本当に食えないぜ梨花ちゃんは。
車椅子を押している魅音が、俺の顔をのぞきこんできた。
「圭ちゃん、体の調子の方は大丈夫?」
「あぁ、問題無いぜ。これなら今日の結納披露もばっちりだ」
「少しは歩けるようになったからって、無理はダメだからね圭ちゃん。
体調が悪いとおもったら、すぐにおじさんに知らせるんだよ?」
「おぅ、わかってるぜ」
魅音は顔を近づけて俺と軽く口づけを交わす。
二度目のプロポーズ行った翌日、俺は自分の脚に、ほんの少しだけれども感覚が戻っていることに気が付いた。それはとても小さなものではあったけれど、医師と看護師さんが診察し、運動と知覚の感覚を取り戻していたのが確認された。
これも羽入が俺に与えてくれた奇跡なのかはわからない。
だけれども、再び、魅音と歩けるのなら俺はなんだってやってやる。
最近の医学によれば、ゆっくりやるよりも、過負荷をかけた方が治りが早いそうで、毎日、厳しいリハビリが行われた。かなりつらい思いをしたが、それを魅音が支えてくれた。
どんな時でも、笑顔で俺を励ましてくれていた。
ただ、とても嬉しかったが半面、さすがに毎日朝早くから来ている魅音の出席日数は大丈夫なのかと心配になってきた。
もっとも、それを伝えたら、あっけらかんと笑われたけれど。
「大丈夫。大丈夫。留年したって問題無いよ。むしろ、そっちの方が都合が良いかもね。
圭ちゃんと一緒にいられるし。それに、最後は圭ちゃんが責任とってくれるんでしょ?」
その返事を聞いて、俺は「だな」と笑って答えた。
当然だぜ。俺は魅音の夫だからな。
リハビリは順調に進み、綿流しの祭りの2日前に退院した。
退院したといっても、それで元気バリバリ完全回復して動けるようになったわけじゃない。
自宅療養とリハビリ、そして定期的な検診を受ける必要がある。
確かに二週間前よりは、動けるようにはなったけれども、まだ完全には歩ける状態じゃない。10分前後歩くだけで精一杯だ。
本当に回復するまで、もうしばらくかかるだろう。
それが一か月後か、二か月後かはわからない。
もちろん完全に元の体に戻れない可能性だってある。
だけれども、下半身が全く動けず、人生を諦めていた頃に比べれば遥かに希望にあふれている状況だ。
だから今日も無理に歩かずに大事をとって車椅子に座っている。
この後の結納披露も車椅子で行う予定だ。
結納披露に関しても、実行するかどうかが問題視されたようだが俺が強硬に開催を主張し決行することが決まった。
数日前、結納披露の是非について園崎家で親族会議が行われるというので病院から許可をもらい出席した。この時は、まだ院内でリハビリ中であったけれど、結納披露が行われるか否かを話し合うと言う事で、俺は黙ってはいられなかったからだ。
俺は当日、車椅子にのり魅音に押されて出席した。
園崎の親族の間では、結納披露を行うかどうかは議論が分かれていた。
だが、当事者の俺が是非行いたいと頭を下げると、皆は困惑の表情を隠せてはいなかった。
反対していた人たちは、大抵の場合、俺の健康状態を気にしていたが、当の本人である俺はやる気が満々だったのだからなおさらだ。
その反対派の1人がどうしてそこまで結納披露をしたいのか聞いてきたので、
俺は力強く言い放った。
「園崎魅音の夫となる人物は、園崎魅音を幸せにしたいと思う人間がなるべきなんです!
ミフネのように、自分の欲でなるようなものじゃない!だから、俺は結納披露で伝えたいんです。
魅音の夫はこの俺、前原圭一であり、魅音の幸せを邪魔する奴はこの俺が叩き潰すって!」
最後は少し、感情的になっていたかもしれないが、ほとんどの人に好意的に見られていたのは間違いなかった。最終的には、お魎のバアさんの「婿殿が望むならええやろ」の一言で決定した。
親族会議の終了後に魅音の母親の茜さんに耳打ちされたが、それによると、お魎のバアさんは今回の事件で、俺に大きな借りがあるため無条件で要求に答えるようにと、前もって親族のトップ連中には伝えていたらしい。
本当、お魎のバアさんにはいつも助けられるよな。
これなら会議の直前、バアさんに頭を下げられた時に、
「気にしなくて下さい、俺達は家族じゃないですか。命をかけて守るのは当然ですよ。それより、魅音と俺の子供を抱くまで長生きして下さい」
なんて軽口を言わなきゃよかった。
ちなみに、魅音に後で聞いた話だと、ミフネの反乱時に重傷を負いながらも、こうして気骨を見せて演説する俺に対して、感動した一部の親族が将来的には議員に立候補させるべきではないかと語っていたとか。
迷惑な話だぜ。
「圭ちゃんは、あずかり知らない所で人気があるからね。もしかしたらいけるかもよ?うちは市議会議員や県議員はいるけど、国会議員はいないからね…園崎家初の国会議員やってみる?」
魅音がクククク…と笑いながら俺に伝え来た。
国会議員・園崎圭一か。柄じゃ無い気もするな。
でも…
「魅音が望むなら、それでもいいぜ」
「あはははは!圭ちゃんってさ、おじさんに人生捧げ過ぎじゃない?」
よく言うぜ。
人生50年全てを俺のために捧げようとした人間の台詞かよ。
俺は祭りではしゃぎまわる部活の皆を見る。
こうしてみんなとまた一緒に遊べるのが嬉しい。
ようやく、全て戻って来た。そんな感じがする。
二週間前の出来事を思い出す。
魅音に二度目のプロポーズしたその日の午後、部活のメンバー…レナ、梨花ちゃん、沙都子、そして詩音…は、一緒に病室へとやってきた。
すでに全員がある種の覚悟を決めていたのだろう。厳しい顔つきをしていた。
ベットに横になっていた俺は、魅音と手を繋ぎ、
つとめて、いつもような感じでふるまう。
「皆も、もうわかっていると思う。だから、おためごかしは無しだ。
俺は自分の体がこういう風になっているとわかった時から、
魅音の将来にとって負担になると思い、婚約を破棄しようと思っていた。
だけど、魅音はこんな俺でも構わないと言ったんだ。だから俺は決めた」
俺と魅音は見つめ合って微笑む。
この時点ですでに皆は分かっただろう。
「俺は魅音に二度目のプロポーズをした!以上!」
その瞬間に部活メンバー全員が歓声を上げた。
この部屋が大部屋の個室で助かった。さもなければ看護師さんに怒られていたはずだ。
詩音は涙目となり、片手で口を押させて「よかったね。お姉」と呟き、
梨花ちゃんと沙都子はベッドの両脇に分かれて、交互に俺の頭を撫で始めた。
「圭一は、きっと最高の選択をすると信じていたのですよ☆にぱー」
「お~ほほほ!圭一さんなら、無様な選択はしないと、私、信じておりましたのよ!」
だが、恐らくこの中で、一番喜んだのはレナだっただろう。
俺が二度目のプロポーズをしたといった瞬間、両手で顔を覆い。次に魅音に抱き着いて号泣した。
「魅ぃちゃん…よかったねッ!本当に…よかったねッ!」
魅音は抱き着いてきたレナの頭に手を置き、困ったような顏をして俺の方を見る。
俺はそれに微笑で答えると、落ち着いてきたレナに礼を伝えた。
「レナ、ありがとうな。お前の言う通りだった。俺はこんな体になって、もう魅音の役にたたない。支えてはやれないと思ってさ。魅音と別れようと思ったんだ。それが魅音のためになる正しい選択だって…だけどさ、そこに魅音の心が…魅音がどう思うかまで、俺、考えついてなかったんだ。バカだよな…本当に情けないぜ」
「圭一くんは、情けなくなんてないよ」
レナは魅音を抱きしめながら、顔だけを俺の方に向けた。
「圭一くんは、魅ぃちゃんのために、一生懸命考えてその結論にいたんだもの。だから、全然、情けなくないよ。でも、体が動かなくても、役にたたないとか、支えてあげらないなんてこと全然無いんだよ?だって、働きにいくことだけが…尽くす方法じゃないだから」
「レナ…」
「一生懸命、働いている奥さんを後方で支えることだって立派な旦那様の役目だと思う。魅ぃちゃんは特に…きっと普通の人では体験しないような辛いこと、悲しい事、私達が想像できない色んなことを、 いっぱいいっぱい体験すると思う。その時、圭一くんが側にいるだけで、きっと魅ぃちゃんは心の安らぎになると思う。助けになると思う。それはとっても大切で…支えてくれる人がいるからからこそ…きっと……ぐしゅ…ごめんね…圭一くん…レナが泣くところじゃないのに…ごめんね……」
そう言って、レナは再び大粒の涙をこぼして魅音の胸の中に顔を埋めた。
そのレナの頭を優しく魅音がなでる。
「レナは優しい子だね…ありがとうね。私達のために泣いてくれて」
「ううん。お礼を言いたいのはレナの方。嬉しいの…圭ちゃんと魅ぃちゃんが一緒にいてくれて…一緒にいることを選んでくれて…嬉しいの…」
そういって涙の海に沈むレナの姿を見て、
魅音も最終的にもらい泣きをしていた。
レナは感覚が鋭い。だからこそ、魅音がどれだけ辛い思いをしていたのかも知っていただろうし、
俺がどれほどの想いで離縁を決断をしていたのかもわかっていただろう。
だからこそ、レナは…いや、これ以上は止めておこう。
レナは俺と魅音の再縁を喜んだ。それでいいじゃないか。
「どうしたの圭ちゃん?ニヤニヤして」
俺の顔を魅音が不思議そうな顔で見ている。
どうやら二度目のプロポーズの時を思い出して笑みを浮かべていたようだ。
「いや、俺ってさ…本当に最高の仲間と、妻に恵まれたよな。って思ってさ」
「そうだね…私達、本当に良い縁に結ばれたと思うよ。
これもきっとオヤシロ様のおかげだね。オヤシロ様は、縁結びの神様だから」
…羽入。
俺はもう二度と会えない仲間の名前を心の中で呟いた。
沙都子と梨花ちゃんが近づいて来る。
「そろそろやりますわよ!圭一さん、魅音さん!」
「今年も、がんばるのですよー!」
魅音も十分やる気モードに入っている。
車椅子の手持ちバーにをしっかり握って宣戦する!
「おっし!それじゃあ、
綿流し六凶爆闘、いってみようか!」
魅音が物凄い速さで俺の車椅子を押していく。
おいおい、ラリーカーじゃないんだぞ!勘弁してくれ!
すでにレナと詩音がたこ焼き屋の前でスタンバっていた。
熱々のたこ焼きが並べられている。最初の勝負はたこ焼きか。
「それじゃ、いくよ!
圭ちゃんはこんな状態だから、1個食べれば3個食べたのと同じ扱いで良いよね?
それじゃー、はじめ!!」
俺と魅音以外のメンバーは一斉にたこ焼きを食べ始める。
皆は早い、早い、あっという間に丸々1個をたいらげる。
魅音はというと、たこ焼きの一つを爪楊枝でつきさし、口で息を吹きかけて冷やすと俺の前にもってくる。パクリと、俺が半分食べると、残りの半分を口にいれて良く噛んで飲み込む。
俺達二人の周りだけ、時間がゆっくりと流れているようだった。
「じゃ、一個食べたから、おじさんと圭ちゃんは3個分ね」
…と、思ったら魅音がとんでもない事を言い出した。
沙都子が抗議の声をあげる。
「な!?圭一さんはともかく、魅音さんまで3つ扱いですの!?」
「当たり前でしょ沙都子?おじさんは、圭ちゃんに食べさせているんだよ?
それともなに、圭ちゃんほっといて、私だけ食いつけって?それは、ちょっと心が無いよね?」
ぐぬぬ顏の沙都子の背中を、詩音が軽く叩く。
「ま、お姉と圭ちゃんは一心同体ですから、大目にみましょう。ね?沙都子」
「し、しかたありませんわね!あっという間に追いついて見せますわ!」
そういって急いで食べる皆をしり目に、俺と魅音はノンビリとたこ焼きを食べる。
うむ。やはり、たこ焼きというのは、こう味わって食べるに限るな。うん。
ずるいですわ!という沙都子の声が聞こえたようだが無視をしよう。
たこ焼きが終わると、今度はかき氷勝負となった。
しかし、かき氷屋の周囲は少し人が多い。
魅音はかき氷を買ってくるため、
露天の脇に車椅子を置いて、動かないようにロックした。
「圭ちゃん、ちょっとかき氷買ってくるから、ここで待ってて。
もし何かあったら、防犯ブザーならして。すぐに戻ってくるから」
「あぁ、わかった」
部活メンバーと達と一緒にかき氷屋に向かう魅音。
その後ろ姿を、俺は目を細めてみていたら…
…ん~ふふふふ。
特徴的な笑い声が聞こえてきた。大石さんか。
暗がりから、大石さんが現われて俺の車椅子のすぐ横に立った。
「こんにちは、前原さん。お元気ですか?
足の方は回復したと聞いておりますが、今日は車椅子なんですねぇ」
「おかげ様で…リハビリは順調です」
「そうですか。そうですか…それはよかったです。いや、白々しく聞こえるかもしれませんが…
前原さんが無事で本当によかったと思っているんですよ。私」
俺はちらっと一目大石さんを見ると、
また視線を魅音の背中に向けた。
「それで、俺に何か御用ですか?」
「いえ、一度、お礼が言いたくてですね…んふふふふ」
「お礼?俺が大石さんにお礼をするようなことはあっても、
大石さんからお礼をされるような事って何かありましたっけ?」
「前原さんは、園崎魅音さんが私を殺すのを止めてくれたんでしょ?」
…………
……
なぜ、大石さんがそれを知っているんだ?
大石さんを殺そうと計画していたのを知っていたのは、俺と魅音と詩音ぐらいだ。
しかし、詩音が裏切るわけがない。たまたま玩具屋の主人が聞いていたとか。
それとも、別の誰かが聞いていたのか。
「いえね。園崎魅音さん本人から聞いたんですよ。
あの、カラフルな拳銃を回収するさいにね…その銃で私を撃つつもりだったって…
そして、それを止めたのが、貴方だってことをね」
そうか。魅音本人か。
なるほど、それならわかるぜ。
なぜ、そんなことを魅音が言ったのかも。
大石さんを殺したかったんだよな。本当は。
婚前交渉を邪魔されて、お前は怒り狂っていたもんな。
そして、今度は大石さんが若頭から目をそらしたせいで俺が撃たれて…意識を失った。
本当は、その銃で大石さんの頭を撃ち抜きたかったんだろう?
怒りに任せてさ。でも、それをしなかった。
殺してしまえば、元の日常に戻れないという俺の言葉を信じて。
魅音、やっぱりお前はすげぇヤツだよ。
俺なら多分、我慢できずに大石さんを撃っていたはずだぜ。
でも、少し我慢できなかったんだよな?だから言ってしまったんだろう?
わかるぜ魅音、お前がどんな気持ちでそれを大石さんに伝えて、拳銃を渡したのか。
きっと、悲しみと、どうしようもない無力さと、大石さんへの怒りがごちゃまぜになって、
それでも、きっと元の日常に戻れると言う希望を胸に、大石さんを殺すと言う選択を避けて…
だから、嫌味だけでも言いたかったんだろう?
「…魅音を、逮捕するんですか?」
…だ~ははははは!
大石さんは笑っていた。
「ぜ~んぶ、ミフネって奴が悪いんですよ前原さん!
わははははは!」
…ハ?
「どういう意味ですか大石さん?」
「いやね。今、警察では、園崎家でやっていた悪い事は全部、ミフネがやったってことにするのがブームなんですよ。まぁ、全てのチップを賭けての大勝負にミフネ達は負けたわけですから、ツケは払わないといけませんよね。んふふふふ」
「………」
「実際、園崎さんから回収した銃器にはミフネの指紋がありましたしねぇ。私が弁護士なら『未成年者に銃を渡したミフネが悪い』『玩具の銃だと思っていた』って、知らん顔決め込みます。見た目は玩具みたいな銃ですしねぇ…んふふふふ。そういう事ですので、園崎魅音さんを立件するうま味は無いんですよ、こっちとしては。そもそも、うちらもミフネ組の捜査に忙しくて、そ~んな些末なことまで処理している暇はありませんからねぇ」
それってつまり、
見逃してくれるってことなのか?
かき氷屋にいた魅音が俺の方を振り向き指をさした。
いや、俺じゃないな、あれは大石さんの方を指さしているのか。
「貴方のこわ~い奥さんに見つかってしまったようですね。
それでは、私、集会所に戻らせてもらいますよ。一応、警備主任なものですので…
それでは結婚式には呼んで下さい。ん~ふふふ」
頭を掻いて退散しようとする大石さんに向かって、俺は叫ぶ。
「大石さん。魅音はアンタの事嫌っていますけど、
俺、やってくれたことに…感謝していますから」
大石さんは手を振ると闇の中に姿を消した。
入れ替わりに、魅音が目の前に立ち止まる。
「圭ちゃん大丈夫!大石の奴に何か言われなかった!?」
「…結婚式に呼んでくれってさ」
「かぁ~呼ぶわけ無いでしょ!ふざけやがって!
詩音!レナ!屋台の人に声かけて塩撒いてもらって!
沙都子はトラップ!梨花ちゃんは札を張って!」
大石さんは、妖怪か何かなのか?
なんか部活メンバーもそれっぽく動きはじめて、四方に散らばったぞ。
そして俺と魅音の二人だけが取り残された。
車椅子のすぐ横で鼻息荒くしている魅音の手をとる。
「ん?なに、圭ちゃん…?」
「…魅音、大石を殺さない約束を守ってくれたんだな。偉いぜ。俺なら多分…撃っちまってた」
「…あぁ、大石の奴、そんな話までしてたんだ…ま、歳だしね。ほっておいてもくたばるし、
手を汚す気にならなかったってだけだよ」
そういって魅音は顔を赤くして、照れ隠し鼻をかく。
「でも、やっぱり魅音は偉いと思うぜ。ありがとうな、魅音。
俺がここにいられるのも、お前のおかげだ」
「…ううん。私の方こそ…圭ちゃん、帰ってきてくれてありがとう。ずっとさ…私、願っていたんだ。また…一緒に圭ちゃんと愛し合える日がくるって…」
そうだ。
俺も魅音も、あの日に、襲撃事件のあった前の世界に戻ってくることができたんだ。
この足がもう少し回復すれば、また、あの楽しい日々を取り戻すことができる。
俺と魅音はお互いに見つめ合う。
いや、そうじゃない。今はもうお互いに何があろうとも一緒にいようと覚悟を決めた。
これからの日々は、きっとそれ以上の幸せな日常になるはずだ。
俺達がそう確信した時…
…きゃああああ!!!
悲鳴が聞こえてきた。
誰だ!?沙都子か!
視線の先に…入江監督がいた。
沙都子の後ろから抱きついている!
あぁ、ついにイリーやっちまったのか。
さすがの俺も、見逃すことはできないぜ…
俺は、魅音から借りていた防犯ブザーを太ももの上に乗せる。
さらばイリー…!
「ちょっと、前原さん!誤解です!誤解ですってッ!
沙都子ちゃんが、少し冗談にならないトラップをしかけていたので
止めていただけですよ!」
トラップ?
よく見ると沙都子の前には、
鉛筆の先端のように尖った形をした丸太がくくりつけられた台車が…
ちょっと待て、殺意が高すぎないかこれ?
「大石のおじさまなら、これぐらい平気ですわよ
スパイク・アタッカーのトラップぐらい直撃したところで、何の問題もありませんわ」
いやいや、たしかに『ひぐらしのなく頃に』はギャグテイストがあるけれど、
これは洒落にならないぞ。これで生きていたら世界観の崩壊待ったなしだ!
そもそも、これで無事なら、
銃で撃たれてあれだけ悩んだ俺がバカみたいじゃないか!
「圭一さん、世界観の崩壊というのは、たかが金属タライが落ちてきたぐらいで負傷してしまう程度の防御力しか持ち合わせていない聖ルチーア学園の女生徒達の事を言うのですわ」
藪から棒に何を言いだすんだお前は。
「いや、待て…沙都子、お前、聖ルチーア学園にトラップを仕掛けたのか?ケガさせたのか?」
「まだ、やっておりませんわ…とりあえず今のところは。
将来的にはわかりませんけれど」
わからないとか言うんじゃねぇ!
というかケガをするとか妄想で言うな!
びびるだろうが!
そして、詩音。
なぜお前はニヤニヤしながら近づいてくるんだ?
「なら沙都子。いっそ聖ルチーア学園を爆破しちゃった方が後腐れなくて良いと思わない?
あんな場所、無くたって誰も困らないでしょうからね!」
「お~ほほほ!さすか詩ぃねーねー!良いセンスしておりますわ!
聖ルチーア学園なんて腐れ外道な学校、消滅して当然ですわよね!」
沙都子と詩音が二人して大笑いしている。
お前ら二人、聖ルチーア学園に、一体どんな恨みをもっているんだよ。
とりあえず疑いが晴れて安心したのか、監督はゆっくりと立ち上がった。
「これで分かって頂けましたでしょうか?私はメイド道を究める者として、力づくで沙都子ちゃんをどうこうしようなどとは、思った事もありませんよ」
目に力を入れて、格好よく語る監督。
だが、そこにすかさず梨花ちゃんのツッコミがはいる。
「でも、入江はボクと沙都子を薬でヘロヘロにしてメイドにしようとしたのです☆にぱー」
顔を引きつらせて笑う監督に、
周囲の痛い視線がふりそそぐ。
さすがにちょっと可愛そうだ。
仕方がないので、そろそろ助けに入るとするか。
お礼もしたいしさ。
「俺、監督には感謝しています。今回、魅音に教わりました。自分がまだまだ弱くて未熟だって…
だから監督の言った通り、魅音と一緒に『結果』じゃなく『過程』を楽しもうと思います」
俺が頭を下げると、魅音もつられて頭を下げた。
そんな俺達を見て監督は微笑んだ。
「前原さん。自分の弱さを理解するのは大変すばらしい事です。
大人になっても、自分の弱さに目を向けられない人は多くいます。
自分の弱さを知った貴方は、決して未熟はありませんよ」
「監督…」
「私は結婚をしておりませんので、夫婦の営みに関するアドバイスはできません。ですが、前原さんが、その強さをもって園崎魅音さんと共にある限り、きっと道は開けるでしょう」
俺は頭をあげると魅音を見返した。魅音と視線を合わせて一緒に頷く。
そうさ、俺達ならどんな困難だってきっと乗り越えられる。
だって共に手を取り合った夫婦なんだから。
「ありがとうございます監督。
いつも、監督の言葉には助けられてます」
「いえいえ、私も沙都子ちゃんのご主人様として、同じように修行中です。
共に頑張りましょう」
そういって監督が沙都子の肩に手を回すと、沙都子の目がキラリと光る。
「前にも申しました通り、けっして監督は嫌いではございませんのよ?
でも少し、今日はオイタが過ぎたようでございますわね」
沙都子の手が俺の太ももの上に置かれていた防犯ブザーに触る。
防犯ベルが大音量で鳴り響き、祭りの会場にいた警備の警官がす飛んできた。
あぁ哀れ…監督は泣き真似をする沙都子の言葉を信じた警官達によって
集会所まで連行されていったのである。合掌。
「ま、集会場には村長の公由おじいちゃんも、大石もいるし問題無いでしょ。
じゃ、圭ちゃん。あーん」
魅音が買って来たかき氷を食べさせてくれる。
もちろん俺は、そのまま口に入れる。冷たい。
頭がキーンとする。
それを見てニヒヒと笑いながら、魅音も一口食べて両目をつぶる。
おっと、魅音もキーンときたようだな。
レナや梨花ちゃん、沙都子もかき氷食べ始める。
夏はやっぱりかき氷だぜ。
レナが良いアイデアを思い付いたらしく手を叩く。
「そうだ。たこ焼きを入れて、その熱でかき氷を解かせば、
早食い競争で勝てるかな?勝てるかな?」
面白いアイデアだけどなレナ。
それって、たこ焼きもくわなきゃいけなくなるぞ?
単純に二倍の労力の気がするけどな。
「俺なら、そうだな…」
金魚すくいの水槽に視線を移したが、
魅音にたしなめられた。
「圭ちゃん、圭ちゃん…まだ回復していないんだかさ、あんまり変な事考えちゃダメだって」
くそ。何でもお見通しかよ。
そんな感じで騒いでいる俺達の前に、
今度は富竹さんと鷹野さんが現われた。
二人とも相変わらず仲が良さそうだ。
「あらあら、みんな、おそろいのようね」
「やぁ、こんにちは…その、元気しているかい?」
この時期に富竹さんがいるだなんて珍しい。
たしか、いつもは6月の綿流しの祭りが終わった後に帰るのが普通だって聞いたけれど。
「こんにちは鷹野さん、富竹さん…富竹さんは珍しいですね。
まだ雛見沢にいるだなんて」
「ふふ…そうね。今の時期までいるなんて普通じゃないわねジロウさん…?」
「いや…ちょっと、こっちで色々とやることができちゃってね
こんな時期までいるはずじゃなかったんだけど…あははは…」
富竹さんはそう言うと、左右に視線を動かしている。
なんだろう。
鷹野さんは上機嫌だが、富竹さんは緊張しているのだろうか、
少し動きがぎこちない。
…というか挙動不審だ。
魅音も富竹さんに挨拶をして鷹野さんに頭を下げる。
入院中に魅音から何度も聞いている。鷹野さんは、俺の命の恩人だ。
口から血を吐いて体を痙攣させていた俺と、
それを見て泣きながら絶叫していた魅音を助けてくれた。
裏から支援してくれているとは言ってくれていたけれど、
ここまでやってくれるとは思ってもみなかった。
俺と魅音は、これから一生、鷹野さんには頭があがらないだろう。
俺もできる限り深々と鷹野さんに頭を下げる。
「鷹野さん。本当に助けてくれて、ありがとうございました!
俺、本当、この気持ちをどうやって表して良いかわからないです!」
「ふふふ、良いのよ。医療従事者なら誰でも行う事なの。そしてね…
私はこの雛見沢にきて、自分が本当は何者なのかを知ったわ。
だからね。気にしなくて良いのよ」
鷹野さんは、晴れやかな笑顔でそう答えてくれた。
しかし、どうしたんだろう。まるで憑き物がとれたかのような感じだ。
隣にいる富竹さんも顔を赤くしている。
たしかに、いつものミステリアスな鷹野さんとは少し違う。
なんだろう。いつもとくらべて、ずっと…
「…圭ちゃん」
魅音に声をかけられて、ハッとする。
どうやら、少し長めに鷹野さんを見つめてしまっていたようだ。
魅音の目が据わっている。
「圭ちゃん。今日の鷹野さんは確かにいつもより可愛いけど
富竹さんの彼女なんだから、そんなに見つめていたらダメだよ」
「あ、その…すいません富竹さん…」
「え?いや、圭一くんも魅音ちゃんも困ったな…あははは…」
魅音の言葉に、富竹さんが顔を真っ赤にして頭を掻いている。
確かに、鷹野さんはいつもより可愛い感じだけれど、
富竹さんの反応は先ほどから少しおかしい。
いや、それとも惚れた相手の前だと俺もこういう感じになっているのか?
自分の事は意外と自分ではわからないからな。
レナと詩音がやってきて、俺たち間に割り込んできた。
「そうだ。これから富竹さんと鷹野さんも一緒に部活をしませんか?」
「負けたら罰ゲームありの勝負ですよ。お二人ともやりましょう!」
富竹さんは渋っていたけれど、鷹野さんは迷わず了承した。
しかし、勝負と言っても何の勝負をするんだ?
梨花ちゃんが手を叩いて誘導する。
「大丈夫、圭一でもちゃんと参加できる種目を用意したのです」
俺でも参加できる?
魅音に車椅子を押されて向かった先には、射的屋があった。
三発球を発射し、景品にあてて落したらGETという奴だ。
なるほど、これなら俺でも参加できる。
まず最初にプレイしたのは詩音が、店主から銃を借りて大きなぬいぐるみを狙う。
だが、ぬいぐるみはビクともしない。諦めた詩音は、すぐに小物に切り替えて落す。
「いや、ちょっと無理みたいですね。大きいぬいぐるみは」
沙都子と、鷹野さんも試してみたが、やはり大きいぬいぐるみはビクともしない。
沙都子は二発まで粘っていたが、鷹野さんは一発目でもう諦めた。
この辺は性格がでるな。
つぎに富竹さんが銃を構える。
なかなか構えが本格的だ。
「連射で勢いよくやれば、おちるかもしれないね。試してみよう」
富竹さんが、物凄い速さで弾を詰めて連射した。
全弾命中。動くか?と思われたが、落ちるところまではいかなかった。
さすが大きなぬいぐるみだ。一筋縄ではいかないぜ。
次は俺の番になった。
店主は「園崎の婿さんかい。だったらサービスだ」
といって、一回り大きく、威力のありそうな銃を俺に手渡した。
これなら、大きなぬいぐるみも落とせそうだ。
ただ、少し重い。照準が定まらない。
その時だ。
後方から魅音が銃を構えた俺の両手を支えた。
「圭ちゃん、手伝うよ。
あ、皆、これ、共同撃墜ってことで私の番にカウントしてくれて良いからね」
魅音の力を借りて、大きなぬいぐるみに放つ。
だが、一発はあらぬほうこうに飛んで、もう一発は熊の頭にあって揺らすだけだった。
仕方が無いので最後の一発で、お菓子の入った小さな箱を落した。
せっかくの店主のサービスだったけれど、生かせなかったな。残念だぜ。
「ごめんな魅音。大きなぬいぐるみ、プレゼントしたかったんだけどさ」
「…いいんだよ圭ちゃん。圭ちゃんがここにいる。
それだけで、おじさんは十分満足なんだ」
そういって、魅音は目をつぶってそのまま後ろから俺を軽く抱きしめた。
この夫好きめ。俺だってお前がいるだけで十分幸せだぜ。
そんな俺達だけの空間に浸っている時にも勝負は続けられた。
結局レナも大きなぬいぐるみを狙ったが失敗し、小物を落して終わり。梨花ちゃんは全部外してしまう。
このまま富竹さんと梨花ちゃんの最下位決定戦か。
と思われたが、梨花ちゃんの泣き真似演技がさく裂して、店主からお菓子をゲットした。
こうして、富竹さんの最下位が決まったわけだけが、
なんだか、部活メンバーの様子がおかしい。
魅音がニヤニヤしながら富竹さんの顔を覗き込む。
「さぁ富竹のおじさま。最下位の罰ゲームですけれど、もう何をやるかわかっていますよね?」
詩音も、反対側から富竹さんの顔を覗き込んだ。
「これって罰ゲームという罰ゲームじゃないですよね?
本当、温情措置ですよ!だって最初から決められたことをやるだけなんですから
実際は、罰ゲームをやらないってぐらいの意味ですからね。これ!」
富竹さんの顔が引きつっている。一体何を言っているだ二人とも。
富竹さんと何か企んでいたのか?
まぁ、この様子を見る限り富竹さんが、
皆に引きずられているって感じだけど。
レナと梨花ちゃんが顔を合わせて笑っている。
「それはね、圭一くん。とっても良い事なんだよ!」
「この日のために、サプライズを用意したのですよ☆にぱー」
サプライズって、それ本人の前で言う事か?
でも、沙都子は笑いながら、俺の肩を軽くぺしぺし叩く。
「お~ほほほ!何も圭一さんに対するだけのサプライズではございませんのよ!」
俺に対するだけのサプライズじゃないって、どういう意味だ?
それにそんなに肩を叩くな。ちょっと痛いぞ。
鷹野さんも俺と同じく、何をやるのか知らされていなかったんだろう。
困っている富竹さんを見て、楽しそうに笑っている。
「あらあらジロウさん、
みんなと一緒に何か計画していたの?
何をするのか、楽しみだわ」
「いや…あ、あはははは…!」
<<こちら綿流し実行委員会です。結納披露と奉納演舞の関係者の…>>
富竹さんが、照れ笑いしている最中に、アナウンスが流れた。
そろそろ奉納演舞と、結納披露の用意をする時間だ。
俺達は舞台裏に移動する。
舞台裏の簡易着替え室の前まで行くと、作業を行っている小此木造園のスタッフの姿が見えた。そう言えばあの人たちも事件当夜に俺達を助けてくれたんだよな。
色々あって、いまだにキチンとお礼をいえていない。
折角の機会だから、挨拶ぐらいはした方が良いだろう。
俺は魅音にお願いして、造園スタッフに「社長」と呼ばれていたワシ鼻の人の元へと運んでもらう。
「あの、すいません…小此木造園の社長さん、ですか?」
「なんば用ですかい…?あぁ、圭一さん、前原圭一さんじゃないですか!いやぁ、お体の方は大丈夫ですかい?」
鋭い目つきのワシ鼻の社長さんは俺を見て破顔した。
俺の名前を知っている?とは思ったけれど、確か新聞や雑誌で俺の名前は実名報道されていたんだっけ。なら知っているのは当然か。
しかし、社長さんは俺と会えて随分嬉しそうだ。
きっと、この人は助けた俺がどうなったのか、ずっと気にしていてくれたんだろうな。
「おかげさまで、無事…とまで行きませんが、順調に回復しています。これも造園所の皆さんのおかげです」
俺が頭を下げると、魅音も頭を下げる。
ワシ鼻の社長さんは照れ臭そうに笑うと「いやいや、わしらは入江診療所のお医者さんの指示にしたがっていただけですから」と謙遜した。
そういえば、造園所の人達にあったら聞こうとおもっていたことがあった。それは俺たちを救ってくれたヒーローを見ていないかということだ。
だが、その事を聞いてもワシ鼻の社長さんは、頭を左右に振るだけだった。
予想はしていたけれど残念だぜ。もし、わかるようなら、お礼を言いたかったのに、それと…
「それと…なんですかい?」
「いえ、素晴らしい人達だなって伝えたくて。見返りも称賛も貰わず、命をかけて人を助けて消えていくだなんて…スーパー・ヒーローみたいじゃないですか。社会って、ああいう人達が裏で支えてくれているから成り立っているんですよね。きっと」
俺はついにヒーローにはなれなかった。
人間として魅音と共に生きることを選んだ。
だからこそ、我が身を犠牲にして、人知れず消えていった本物のヒーロー達にありがとうと言いたかった。
それは、もしかしたら一生叶わないのかもしれないけれども、そういう人達がいたことを、俺はきっと生涯忘れないだろう。
その言葉を静かに聞いていてくれていたワシ鼻の社長さんは、優しい表情をして俺の肩に手を置いた。
「もし、彼らに会えたら…必ず伝えておきますよ。前原さん…さ、もうすぐ結納披露の時間でしょ?主役が遅れたらマズイ。早く行きんさい」
あ、そうだ。
少し話し込んじまった。急がないと。
社長に頭を下げて、魅音に頼み簡易着替え室に向かうと、その場にいた造園所のスタッフさん達が俺に次々とエールを送ってくれた。
…頑張れ前原くん
…俺たちも裏から結納式を見ているぜ
…君の未来を応援しているよ前原くん
「ありがとうございます」
俺は手を軽く振って答える。
沙都子の件で色々あったけれど、
やっぱり雛見沢の人達って温かい人ばかりなんだよな。
俺は仮設の着替え室に到着すると魅音と別れて車椅子から立ち上がり、衣装スタッフに協力してもらいお内裏様の格好に素早く着替えた。
最近のリハビリで多少は歩けるようになったといっても、やっぱりまだ見知らぬ人と一緒に居いるだけで体力の消費が激しくて、辛い。
俺の体調を懸念して結納披露は、奉納演舞の前と決まった。
この衣装を着たまま、奉納演舞が終わるまで待つのは結構きついだろうとの判断からだ。
着替えを終えて再び車椅子に座っていると、一組の男女が着替え室に入って来た。
魅音の母親の茜さんと、父親だ。
俺の前にくると茜さんは会釈をしたので、俺も反射的に頭を下げる。
「話は全部、魅音から聞いたよ。
ありがとう。魅音を選んでくれて」
そういって茜さんは微笑んだ。
それを伝えにわざわざ着替え室まで来てくれたのか。
なんだか、少し照れ臭い。
でも、俺が魅音を選んだと茜さんは言ってくれたけど、
それは少し違うかな。
「俺が選んだんじゃないんです。魅音の方が、俺を選んでくれたんです。
俺が、ここにいるのも、全て魅音のおかげなんです」
本心だった。今ある全ては魅音のおかげと言っても良い。
魅音こそ、どん底にいた俺に手を差し伸べて救ってくれたんだ。
俺が選んだなんておこがましいぜ。
茜さんはそんな俺を見て、目を細めて薄く笑った。
「圭ちゃん、着替え終わった?
あ、お母さんいたんだ」
お雛様の格好をした魅音がやってきた。
うん。なかなかキュートじゃないか。
「似合っているぜ魅音」
「あははは。圭ちゃんも、似合っているよ」
だらしなく笑う魅音のお尻を、茜さんは手にもっている扇子でピシっと叩く。
「まったく、これから人様の伴侶ってなろうって娘が、そんなだらしなくてどうするんだい?
ま、男を見る目があったところだけは褒めてやってもいいけれどさ」
「いや~ははは…ま、男を見る目はそりゃありますって…
一応、園崎茜の娘ですから…」
茜さんは「仕方がない子だね」と笑うと、
俺に一礼をして旦那さんと一緒に部屋から出て行った。
「じゃ、圭ちゃん。うちらもいこうか?」
そういうと、俺の車椅子を押し始める。
スタッフの一人が、慌てて自分が車椅子を押すと言ってきたものの、
魅音はやんわりと、しかし断固たる決意を含めて拒絶した。
「良いんです。
これは圭ちゃんの妻である私の役目ですから」
そういえば、今日も一日、ずっと魅音が車椅子を押していてくれていた。
入院してからこれまでも、いつも魅音が側にいてくれていたので気にもしていなかったけど、
俺の車椅子を押してくれたのは、いつだって魅音だった。
「…魅音、ありがとうな。ずっと押していてくれて」
「あははは。何をいうかと思ったら。うちらさ、夫婦なんだから、あたり前じゃん。
これからはずっと圭ちゃんの事を、おじさんが後ろからおしてあげるよ。
車椅子から降りた後も、ずっと、ずっと…」
あぁ、そうだよな。夫婦だもんな。
本当に実感するぜ。お前が、魅音が俺の妻になってくれてよかったって。
舞台袖までやってくると、部活メンバーが勢ぞろいしていた。
富竹さんと鷹野さんを中心に扇型になってならんでいる。
そろそろ、梨花ちゃんの言っていたサプライズってのが始まるのか?
サプライズとわかって行うサプライズなんて、そんなに意味が無いと思うが。
一体何をやるつもりなんだ。
富竹さんがレナに軽く背中を押されて、一歩前に出た。
「た、鷹野さん!」
「はい…?」
鷹野さんが不思議そうな顏をして振り返る。
富竹さんは顔を真っ赤にして口を開いた。
「た、た、た、鷹野さんッ!ぼくとぉー⤴結婚してくれませんかッ!!」
「………」
しばしの、沈黙。
そして笑顔。
「…はい。
よろしくお願いします。ジロウさん」
\わぁあああああああああ!/
部活メンバーとその場にいたスタッフが歓声をあげた。
もちろん、俺も「よしッ!」と叫んでガッツポーズをする。
これはたまげたぜ!
なるほど、こりゃサプライズだ!
まさか、富竹さんのプロポーズが見られるなんて!
「ほ、ほ、本当に良いんですか!?」
「…あら、ジロウさんには、よく聞こえなかったみたいね。
なら、こうすれば聞こえるかしら?」
鷹野さんが、いつものミステリアスな微笑をたたえて突然舞台の上にあがり、
奉納演舞と結納披露のために集まっている観衆の前で、高らかと宣言した。
「奉納演舞と園崎家の結納披露の前に、私事ではございますが、皆様にご報告させて頂きます。
私、入江診療所の鷹野三四と、富竹ジロウが婚約する事になりました!」
\おおおおおおおおおおおおおおお!/
観衆から大歓声と拍手が鳴り響く中、
鷹野さんは悪戯っぽい笑みを浮かべ、髪をたなびかせて振り返った。
「…ね?これならジロウさんも、聞こえるでしょう?
うふふふふ」
眼鏡をずり落とし、放心している富竹さんに、
部活メンバーが肘を入れたり、手を叩いたり、茶々をいれたりしている。
おいおい、鷹野さんって、こんな、お茶目な人だったのか?
驚いたぜ。もう少し若ければ、部活メンバーとして入ってもらいたかったぐらいだ。
<<それでは、奉納演舞の前に、園崎家結納披露を行います>>
アナウンスがなると、
魅音が俺の車椅子の後ろに立ち、手押しハンドルを握る。
「さぁ、次はおじさん達の番だよ」
「…ああ!」
俺の顔を覗き込むように顔を寄せる魅音と見つめ合い、
ゆっくりと唇を重ねた。
スポットライトが四方から照らされ、舞台が輝いている。
多くの観衆がそれを見つめて、俺達を祝福しようとしている。
観衆の中には、海江田校長先生や知恵先生、
富田くんと岡村くんそしてクラスメイト達に亀田くんがいた。
舞台袖には、俺の両親、魅音の両親、お魎のバアさん、公由の村長さん。大石さんと入江監督、富竹さんと鷹野さん。
そして、部活メンバー達が…レナが、梨花ちゃんが、沙都子が、そして詩音が…俺達を笑顔で送り出してくれる。
全てが温かく、光に満ちていた。
あぁ、そうか。
これが、これこそが、
ハッピーエンドってヤツなんだ。
[46日目(日):綿流し祭:夜:北条沙都子]
圭一さん、魅音さん、
あなた方二人は、幾たびの苦難を乗り越えて、ようやく結ばれるのですわね。
私も、ここまで誘導してきたかいがあるというものですわ。
ねぇ、梨花、見えております?この光景が。
北条沙都子は、古手梨花の手をしっかりと握る。
古手梨花は、これから行われる結納披露に向かう二人に見とれていた。
北条沙都子は、会心の笑みを浮かべる。
これならば、きっと梨花も考えを改めてくれるはずに違いない。
「ねぇ、梨花…本当に、雛見沢は素晴らしい所ではありませんか。
このように美しい光景を私達に見せてくれるだなんて」
「はい。沙都子の言う通りなのです。素晴らしいのです。
二人の想いが、二人の意思の強さが、この幸せを生み出したのです」
あぁ、梨花…
ようやくあなたもわかって下さいましたのね。
なら、ずっと私と共に雛見沢にいつまでも…
「沙都子、ボクには夢があるのです。
あの二人を見て、ボクは確信したのです。夢は諦めてはいけないと」
…え?
「いつか、雛見沢を離れて、外の世界に出て行きたいのです。
外の世界に出て、多くの物を見て回りたいのです。もちろん、その時は沙都子も一緒です。
二人でいつまでも一緒に…どこまでも羽ばたくのですよ」
はあああああああああああああああああああああああああ!?
梨花、貴方…貴方、何をおっしゃっておりますの!?
こんな奇跡を見せられても、まだ、貴方はそんな事をおっしゃるのですの!?
私が、このエンディングを迎えるまで、どれほどの選択をやりなおしたが…
貴方はご存知ないのですわよね!
ええ、無いのですわ!
記憶を引き継いでないのですから!わかっておりましてよ!
初めて、この『圭一さんと魅音さんがお付き合いする』という欠片を見つけた時、
私は狂喜乱舞いたしましたわ。
貴方の見続けた、百年、その記憶に残っている世界には、こんなイレギュラーな世界は無かったのでございましょう!?
この新たなる結末を迎え、奇跡を見れば、きっと貴方は雛見沢から出て行こうなんて考えないはずだと思いましたわ!
でも、これが、どれだけ大変な作業だったのか…貴方には理解できませんものね!
私は、ようやく迎えた、この結末のために、一体、何度、何十回やりなおしたことか!!
私が、園崎家に向かう葛西さんの車に乗るように勧めなかったら、
圭一さんは理由をつけて逃亡し、婚約は破綻して結婚する未来は絶たれていた。
私が、園崎家の結納の日に、富竹さんを連れて写真に撮るように誘導しなかったら、
圭一さんはプロポーズを行った直後にミフネに拳銃で殺されていた。
私が、圭一さんがぎっくり腰で倒れた後に『常に部活メンバーが一緒にいる』と提案しなければ
圭一さんは、いつか嫉妬心を爆発させた魅音さんと大変なことになっていた。
私が、ゴミ山で、圭一さんの中にある秘密を暴露させるように誘導しなければ
圭一さんは、秘密を抱え込んだ苦しみの果てに爆発して大惨事を引き起こしていた。
私が、玩具屋で大石殺害を企む魅音さんに合いに行くように言わなければ、
圭一さんは、大石を殺した魅音さんを見て絶望に苦しみ喘ぐことになっていた。
私が、玩具屋でカラフルな拳銃を魅音さんに返しに行くように指摘しなければ、
圭一さんは、大石を殺した若頭に撃たれて死んでいた。
私が、初デートの帰りの電車で疑心暗鬼になった圭一さんを諭さなければ、
圭一さんは、帰宅後に悲劇を引き起こしていた。
私が、ゴミ山でわざとらしくレナさんに、圭一さんへの想いを捨てる覚悟を示さなければ
圭一さんは、嫉妬した魅音さんがレナさんを事故で死なせてしまう場面を見る事になった。
私が、興宮の写真館で、わざとらしく梨花にだきついて誤解を解いていなければ
圭一さんは、梨花に嫉妬心を現した魅音さんの姿に引き大惨事を招いていた。
私が、唐突に魅音さんのご自宅にトラップをしかけていなければ、
圭一さんは、ミフネの襲撃事件の時に黒服に囲まれて死んでいた。
私が、鉄平のおじさまを盾にするようにしむけなければ、梨花が死に、
圭一さんは、魅音さんと共に雛見沢大災害で命を失っていた。
私が、お魎のおばあ様と、魅音さんを銃撃しようとする若頭を指ささなければ、
圭一さんは、その目で、魅音さんが命を失う姿を見ることになっていた。
エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ…
・・・・・・・・・
・・・・・
・・・
もちろん、本宅で隠れている魅音さんとイチャラブさせて梨花をブチきらせて楽しんだり、
園崎本家でロケット花火を圭一さんに直撃させたり、そんなお茶目は致しましたわよ?
でも、それぐらいよろしいでしょう!?
私が鉄平のおじさまをそそのかして軟禁状態を演出し、圭一さんが救出したからこそ、あのような傷害事件を引き起こしたのにも関わらず、お魎の鬼バアさまに気に入られて、婚姻を許されたのですから!
いえ、そもそもロッカーに入るという罰を私が考えつかなければ…
二人がお付き合いするという未来はなかったのですわ!
あぁ、もう!その他、細かいやり直しを考えていたらきりがないほど、
私は何度も何度もやりなおしましたのに!
その苦労は何のためだと思っておりますの梨花!
これも、全て、今日の終わりを迎えるためではございませんの!
貴方に、この土地が、雛見沢が素晴らしく、希望にあふれ、特別であると、
教えて差し上げるためではございませんか!!!
なぜ、それがわからないのですの!?
なぜ、それほどまでに外の世界へと出ていきたいのでございますの!?
外の世界などに行かなくても良いと…
………………
………
「…沙都子?」
古手梨花の首に、沙都子が両手を近づける。
………
………………
わかっておりますわ。わかっておりますのよ。
そうやって、二人でいつまでも、どこまでも一緒に…と言っても、
どうせ、貴方は私を裏切るのでございますわよね?
聖ルチーア学園に進学し、そこで素敵なお友達と出会い、
私なんて、あっさり捨てるのでございましょう?
ああ、梨花…
貴方が愛おしい、そして憎らしい。
貴方にとって私はなんですの?
友人ではございませんの?仲間ではございませんの?
それとも百年の絶望で、すさんだ心を癒すために飼っていた…ただのペットなのでございますの?
なら、それならそれでも、全く、かまわないですわ!
梨花、貴方と一緒にいられるのなら!私は自尊心も、誇りも、面子も全て、かなぐり捨てもよろしくてよッ!
…でも許しませんわ。
私を捨てる事だけは絶対に許しませんわ!
それならば、いっそ…また…
………………
………
沙都子は両手を古手梨花の首の後ろに回し、そのまま抱きしめた。
そして耳元でぽっつりと呟く。
「ええ、梨花、私達はいつまでも一緒ですわ」
「…はい、ボクたちはいつまでも、ずっと一緒なのですよ!」
沙都子がゆっくりと体を離すと、
古手梨花の満面の笑顔がそこにはあった。
………
………………
まだだ…まだ、早いですわ。
まだ始まって一か月半しかたっておりませんもの。
まだまだ、奇跡の種は幾つもありましてよ梨花?
ふふふ…次はどのような奇跡を見せてさしあげましょう?
あぁ…そうですわね…
次はにーにーと詩音さんを結びつけると致しましょうか?
これもまた貴方は見たことはございませんでしょう?
にーにーが目を覚まし、どのような物語が始まるのか楽しみですわ!
笑劇?喜劇?それとも悲劇?
考えるだけで、胸が高鳴りますわね。
きっと思いもよらぬ展開が待ち受けているはずですわ!
でも安心して梨花。
私は梨花も、にーにーも愛しておりますの。
私の思う通りに世界が動けば、
二人はきっと、この雛見沢でいつまでも幸せにくらせるはずですわ。
そうでなければ、目を覚ます意味がございませんもの!
えぇ…もちろん、
それらを見ても、心が動かされない、その時こそ…うふふふ。
でも、大丈夫ですわ。
貴方もおっしゃりましたわよね?
強い思いは、未来を確定させる。と。
だとするなら、まるで問題はありませんわ。
だって、私はこれほどまでに梨花と幸せになることを望んでおりますもの。
なればこそ、この物語の結末はハッピーエンド以外にはございませんわ。
強い思いが未来を確定させるのであれば、
それ以外の結末なんて、あるわけがございませんでしてよ。
そうでしょ…ね、梨花?
END