鷹の目は今日も極上の果実を射抜く   作:タイチ

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勝利

「ホクト、待つんだ!」

 

 気づいたら俺は無我夢中で奴らを追いかけていた。

 砦の正面から右側へ周り込み、小さくなりつつある敵の背を必死で追いかける。

 だが、盗賊が仕込んだ罠がある危険地帯に差し掛かり慌てて急ブレーキを踏んだ。

 

(くそ、このままでは逃がしてしまう!)

 

 しかし、本能が奴らを今逃がしていけないと告げていた。

 

 思わず新調した翡翠色の弓を肩から外し、マナを目一杯込めて必殺の魔法を詠唱する。引き絞る矢が縦方向に回転し、まるでドリルのように螺旋を描いた暴風の矢を形成し、周囲の風をざわつかせ、ただ一点へと研ぎ澄まされていく。

 

 なぜだかいつもよりもそれがより強力に、大きく感じた。

 

 翡翠色に輝く紋様を施した弓から極大の風の矢が発射される。

 

「<ウィンドランス>!!」

 

 その矢は殿を務める男へと吸い込まれる様に背中へと伸びていった。

 

「ちっ、<マジックシールド>!」

 

 まさかとは思ったが奴は<マジックシールド>を唱えた。この時点で奴が熟練した魔法使いだとわかる。極大の<ウィンドランス>がそれを包み込む<マジックシールド>とぶつかり合い。防がれたかのように思えた。

 

 しかし、なぜかその勢いは止まらず<マジックシールド>は徐々に亀裂が入り、あろうことか粉砕して盾に守られていたはずの男を貫いた。

 

「ぐああっ」

 

 研ぎ澄まされた風の矢は男の肩を貫き、腕ごと吹き飛ばしたのだった。

 

 俺自身驚いた結果となったが、もっと驚いたのはあの殿を務めているウィザードだろう。狩人が放った魔法の矢とはいえ、ウィザードの<マジックシールド>を貫いたのだから。

 

 (よし! いける!)

 

 しかし、奴は一瞬たたらを踏んだものの、踏みとどまり逃げることをやめなかった。

 

 俺は罠など無視して進もうとしたが、あえなく罠に捕まりそうになり、その場に留まるしかなかった。

 

 ◆

 

 ようやく盗賊団の撃退が粗方終わり、ノイクやノネットがそれぞれ<探知>と<ディテクト>を唱えて追いかけてみるも、既にヤツらは山を下りてその痕跡は跡形もなく消えた後だった。

 

 

 

 その後、盗賊団は十数名の犠牲を出して残りは捕縛して連行される事になった。

 対して、こちらの混成パーティは2名重傷者を出したものの回復魔法で事無きを得て、他の冒険者も軽傷のみである。

 

 俺は逃げていったウィザード達の事が気になり、何か情報は無いかと砦を捜し回ったが攫われた女性たちや盗んだ金銀財宝はあれど、奴らが何かしていたという不審な点は無かった。

 

 各々のパーティが集まり、盗賊の団長にあたる男に少し尋問してみたが、帰ってきた答えは最近仲間になった。罠を仕掛けたり、得物を狩って来たりと働きぶりを気に入り目を掛けていた。などと上手い事盗賊団に潜り込んだという情報が聞けただけで、素性は名前しか知らないらしかった。

 

 たぶん偽名だろう。

 

 それでも俺は気になって、砦の側に打ち捨てられたリーダーであろう男の腕に慎重に近付き、そっとその手の甲を見た。その甲には6の数字と奇妙な紋様の入れ墨が刻まれていたが俺は何の事かさっぱりわからなかった。

 

 その場にはそれ以上の情報は無かった。

 

 ◆

 

 捕縛した盗賊団の連行はスムーズにいった。

 縦列に繋いだ盗賊達を2パーティごとに交代で警戒し、その後ろへ砦で見つけた台車に女性達や金銀財宝を乗せて運び、山を下りて、街道に合流しエルンの町を目指した。

 

 やがてエルンの町が見えてくると、それに気づいたらしい門番達数名が俺達の方へ慌てて駆け寄ってくるのが見えた。

 

「お手柄だな! そいつら全部盗賊か?」

 

「えぇ、そうですよ。身元確認をお願いします。門番さん」

 

「いやアンタ、『千剣の風』のライオットだろ? 証明は十分さ」

 

「えぇ、しかし一応認識票の確認をお願いしますね」

 

「わかった」

 

 興奮した調子で門番の男がまくし立てる。

 逆にライオットの方が冷静に見える始末であった。

 

 無事、門を過ぎてギルドを目指すと今度はエルンの町の民衆たちが集まってきた。繋がれた盗賊達を指さしお祭り騒ぎかの様に喜んでいる。

 

 混成パーティの面々は皆誇らしげで、女性達をそれとなく隠しながら控えめに歓声に応えていた。

 

 ギルドに着くと状況を察した職員達がすぐにこちらにやってくる。

 そして捕縛した盗賊は、別に屈強な男の職員達に連れて行かれ、女性達は別の女性の職員達が慌てて対応する。

 残った犬耳の女性職員が俺達を称えてくれた。

 

「お手柄ですね! 皆さんはエルンの町の英雄ですよ!!」

 

「ありがとう。依頼達成の報告をしても良いかな?」

 

「はい、もちろんっ。こちらへ!」

 

 ギルド内からも拍手が舞い起こり、皆祝福のムードである。

 それだけ今回捕まえた盗賊達には被害を被ったという裏返しでもあった。

 

 ライオットが代表して職員に報告し、大まかな一部始終を伝える。

 そして逃げた盗賊風のウィザード達についても報告を行ったが、それはまた上と相談するという話でひとまず落ち着いた。

 

「おまたせしました。こちらが皆さんの報酬になります」

 

 渡されたのは一人頭金貨5枚と銀貨22枚だった。

 少ないと思うかもしれないが、18人で割っている為、合計すると金貨94枚にもなる褒章金だ。

 

 まずはパーティごとに受け取ったあと最後に俺も受け取り、どうしようかと思っていたら、ライオットや今回一緒に行動したパーティの面々に声を掛けられた。

 

「ホクト。このあと祝勝会をするんだが、君も参加するだろ?」

 

 依頼達成の祝勝会である。当然と言えば当然の流れであったが、俺は迷った。このまま素直に喜んでいいのだろうか。逃げ去ったウィザードを放置しておいて本当に問題ないだろうか。

 

 考えれば考えるほど思考が纏まらず立ち往生してしまう。

 

「ホクト。難しい事はあとだ。ひとまず勝利を喜ぼう!」

 

「あ、あぁ」

 

 そう言って流されるままに祝勝会に参加する事になった。

 皆既に酒が回っており、食事もテーブルの上にずらりと並べられている。

 エールも出たことだし、俺はようやく勝利の味に浸る事にした。

 

 この時、なぜすぐに動かなかったのかと、後に俺は後悔する事になる。

 

 ◆

 

「おかえりなさい、ホクトさん!」

 

 いつもの様に宿屋に着くとエイナが笑顔で迎えてくれた。

 しかしなんだか今日はとても嬉しそうだ。

 

「嬉しそうだな、どうしたんだ」

 

「わかりますか? 実は新しいお客さんが来たんです。それもパーティで宿泊してくれるんですよ!」

 

「へぇ、それはよかったな」

 

 心から祝福しつつも内心では幸せの終わりを告げられたと思った。

 エイナに背中を流してもらえるのも、クロナと3人で川の字になって寝られるのも、他に客がいないからこそのサービスだろうと思ったからだ。

 

 それに客が増えるという事は、それだけエイナも忙しくなるという事だ。これまでの様なアットホームな関係は難しいだろう。

 俺は惜しいと思いつつも、数日間の幸せに心の中で感謝した。

 

「あれ? おまえはホクトだったっけか?」

 

 2階から降りて来たであろう4人組の一人が俺に声をかける。

 

「ん? 誰だ?」

 

 そう言って見ると、先程まで一緒に祝勝会をしていた『鉄の歯車』の面々であった。たしかリーダーはマルコという名前。

 

「マルコだったな。さっきぶりだ」

 

「あぁ」

 

 なるほど。こいつらが件の新しい客だったのか。

 知った顔に気心知れた宿。試しに俺は宿の良さを宣伝する事にした。

 

「オモテはアレだが、いい宿だろう? 看板娘のエイナの手料理もうまいぞ」

 

「ん? そうなのか。確かに部屋は綺麗に片付いていたな。料理も上手いなら申し分ない」

 

「あぁ期待して良いぞ」

 

 そんなやり取りをした後に改めて全員の自己紹介となった。

 

「俺が槍使いのマルコで、もう一人がレンドン。んでプリーストのアドナンと、おまえと同じ弓使いのレイチェルだ」

 

『よろしく』

 

「あぁ、こちらこそ」

 

 槍使い2人に弓使い1人。そしてプリーストのバランスの良い構成だ。話してみると気さくな連中でリック以来の飲み友達になれそうだ。

 

 ちなみに、レイチェルはブロンドの長髪で少し鼻の高い美人だ。

 胸は結構ある。

 

「そういえばどうやってこの宿を見つけたんだ。いやこの宿は最高だがな」

 

「あぁそれが祝勝会で気持ち良くなってる所に女の子に捕まってな。おすすめの宿があるって言うからホイホイついてきたんだ」

 

 クロナか。あの子は案外商売上手なのかもしれない。適切な状態の客を見極めて集客する才能がありそうだ。

 

「ところで、ホクトは『千剣の風』に誘われてるんだろう?」

 

「あぁ、だがやっぱり断る事にする」

 

「どうしてだ、ランクBパーティも夢じゃないだろ!?」

 

「一緒に依頼を受けてわかっただろうが、どうも俺は単独行動が多くてな」

 

「あぁ、ウィザード達のときか? あのぐらいなら全然気にしないけどな。しかも相手に重傷を負わせたんだ。誇っていいだろう」

 

「まぁそれだけじゃないが、一人があってるんだ」

 

「そうか」

 

 それ以上は追及してこなかったが、マルコが思いついたとばかりに話題を変える。

 

「それなら、俺達とC級昇級試験を受けるってのはどうだ。その場限りなら問題無いんだろう?」

 

「昇級試験?」

 

 C級昇級試験か。1度は断ったが。俺は改めて受けるか考える事にした。

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