鷹の目は今日も極上の果実を射抜く   作:タイチ

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出処

 ギルドのカフェスペースは昼間は文字通りカフェだが、夜になるといっきに様変わりしてパブとなる。今は時間的にまだカフェのままだ。

 

「昼前からエールは早いね。僕はコーヒーでも頼もうか」

 

「なら俺も」

 

「私はハーブティーがいいわ」

 

 それぞれ注文し、運ばれてくるのを待つ。

 なんとなく注文した品が届くまで他愛も無い話をするに留まった。

 

 俺とライオットの前にコーヒーが置かれ、ノネットの前にハーブティーが置かれる。

 そろそろ本題に入るべきか。

 

「それで、俺に伝えたいことってのはなんなんだ、ライオット」

 

「あぁそうだね。その前にホクトに確認しておこうか。僕たち『千剣の風』に入る決心はついたかい?」

 

 やっぱりその質問が来たか。悪いが俺の腹の内は決まっている。

 

「いや、そのことだが断ろうと思っていた。俺から言いたかった事のひとつもそれだ」

 

「ちょ、なんですって!? アンタふざけてんじゃないわよ!」

 

 ノネットが掴み掛からんとばかりに乗り出す。思わず仰け反ったが微かに谷間の様なものが見えた気がした。いや気のせいだろう。

 そんなものは幻想に過ぎない。

 

「落ち着いてノネット。やっぱりかホクト。僕は断られるんだって半ば予想をしていたよ。ただ理由を聞いてもいいかい」

 

「そうなのか。俺はウィザードの時の独断専行があるし、なにより一人が好きなんだ。もっとはっきりと言うならまだパーティに入りたいと思えるものに巡り合ってない」

 

「それは寂しいね。だがわかったよ。ホクトの気持ちは理解した。残念だが、他を探す事にするよ」

 

 強く言い過ぎたかとも思ったが、ライオットは静かに受け止めてくれた。出来る男は一味違うようだ。しかしノネットが納得してないようでさらにヒートアップしているので、ライオットが窘めていた。

 

「ひとまずこの件はこれでおわりだ。ただ気が変わったらいつでも言ってくれて構わないけどね」

 

「あぁ本当にすまないな」

 

 ノネットは強引に抑えられたようで、2人でこの件は終わりとした。

『千剣の風』ほどの出来たパーティに今後出会えるのかとも少し思って惜しい事をしたという気持ちが無いわけでもない。

 

 しかし、本題は別だ。気になっていた事を聞く時がきた。

 

「それで改めて聞く。伝えたい事ってのはなんなんだ?」

 

「そうだったね。実は盗賊達の出処がわかったんだ」

 

 出処? 盗賊同士がお互いに交流するわけでもなしに出処とはまた変わった言い方だな。

 

「出処? どういう意味だ? 盗賊団は同盟なんかしやしないだろう」

 

「あぁ、そうだよ。ただ最近騒がせてる盗賊団はどれも東の方からやってきているらしいんだ」

 

 盗賊団が群てるわけでもなく皆纏まって東から来るだって? 

 そんなおかしな話が本当にあるのか。

 

「東には小さな山を越えて森しかないじゃないか。なんでまたそんな所から……」

 

「いや東と言えばもっと東だよ。つまり──」

 

 そのとき俺は衝撃を受けた。東の森のそのまた向こう、すなわちその先にあるのは。

 

「──ケムニッツ帝国だ。彼らはそちらから流れて来たらしい」

 

「なんだと!?」

 

 ケムニッツ帝国からウルム王国の国境を越えてあんなたくさんの盗賊団が流れてきただと。それはおかしい。国境付近には当然警備隊が検問を敷いて調査しているのにあんなにたくさんの数が素通り出来るなんて国境警備隊はただの無能かもしくはわざとか……。

 

「! ケムニッツからわざと……!」

 

「しっ! これは極秘情報だ。静かに頼むよ」

 

 人差し指を立てながらライオットが小さな声で呟く。

 事の重大さに気づいて思わず黙り込む。ノネットも息を呑む音が聞こえた。

 そして話はそれだけではなかった。

 俺はその中でもさらに異質な集団がいたことを思い出す。

 

「そこにきておまけに例のウィザード達だ。ホクトも何もないなんて思うわけないよね?」

 

「あぁ、怪しすぎる」

 

 帝国から流れてきた盗賊団の数々。そして紛れる様に現れたウィザード達。関係が無いはずもなく、また帝国が関与してようがしてまいがエルムを拠点にする俺達にとってよくない事が起こるのは自明の理であった。

 

「とにかくこの話は他言無用で頼むよ。最初に報告したのがホクトだと聞いたからこの話をしたんだ」

 

「あぁ助かる。肝に銘じておくさ」

 

 隻腕となったウィザードの入れ墨から明らかに何かの組織に所属しているとわかる。

 そしてウィザード達の言っていた「次の段階に進む」とはなんなのか。

 考えれば考えるほどわからない。俺はもう1度ライオット達に礼を言って席を立った。

 

 ◆

 

 謎のウィザード達の事については常にアンテナを張り巡らせて情報を集めるしかない。

 そちらは直ぐにどうこう出来そうも無いので、俺は1週間後に迫る試験について備える事にした。

 

 適当な依頼を受けて腕を鈍らせない事も大切だが、ここは回復ポーションなど必要品の素材の採集でもしてみようかと思う。

 

 採集クエストはFランクから受ける事が出来るが、Dランクだからといって受けられないわけはない。

 常時募集している依頼だからだ。

 

 俺は採集クエストの依頼を受けて昨日まで盗賊達が縄張りにしていた山に向かった。

 

 山は静かなものでそれこそモンスターの一匹もいない。

 2・3時間採集を続けていたがその間に出くわしたのは野鳥くらいのものであった。

 

 流石にここまで出会わないのはおかしいと思いつつも単に運が良いだけなのかもしれないと思い直しそのまま採集クエストを進め、日が暮れる頃にエルンの町へと戻った。

 

 エルンの町に戻ると最低限達成可能な本数を納品して依頼完了の判をもらい、俺はその足で道具店へ向かった。あまり褒められたやり方ではないが、直接道具店に素材を持ち込むことで下取りしてもらうことが出来、必要なポーションや道具類を安く買える事が出来る。アマル村で付けた知恵だ。通常はギルドを通して道具店などに依頼数分納品される為、これはギルドが儲からないのでいわば悪手である。

 

 俺は取ってきた薬草などを下取りしてもらい、必要分のHPポーションや道具を購入して宿へと帰った。

 

 ◆

 

「おかえりなさいませ」

 

「あぁただいま」

 

 いつもの様にエイナが帰りを出迎えてくれる。

 そしていつもと違って今日は先客が先に食事を始めていたようだ。

 

「よう、ホクト。先に頂いてるが確かにうまいな!」

 

「そうだろう。エイナ、俺にも悪いが食事を頼む」

 

「かしこまりました」

 

『鉄の歯車』の面々が先に食事を始めていたので俺も相席させてもらうことにした。ただ待っているだけなのも退屈なので上品じゃないが『鉄の歯車』の面々と話すことにした。

 

「Cランク進級試験の申し込みは済ましたのか?」

 

「あぁ1週間後だってな。済ましてきた」

 

 そう聞いてきたのは2人いる槍使いのレンドンだ。

 何故かドワーフの様に伸ばしまくった無精ひげが喋るたびに揺れる。

 

「期間はたっぷりありますからね。準備はきちんとしておいた方がいいですよ」

 

「あぁ、見ての通りさっき補充したばかりだぞ」

 

 とプリーストのアドナンからはアドバイスもらう。

 オカッパ頭に長身の丸眼鏡でいかにもな風体だ。

 俺はほら、と足元に置いていたポーション類が入った革袋を見せた。

 

「私はあなたの弓に興味があるわ。それマジックアイテムでしょう?」

 

「鋭いな、実はこれはエイナに教えてもらった店で買ったんだ」

 

「まぁ本当? エイナさんって顔が利くのね。知らなかったわ」

 

 弓について興味を示したのが俺と同じ弓使いのレイチェルだ。

 言葉遣いや食事の所作からどことなく気品の様なものを感じた。

 エイナが冒険者であった事は知らないのだろう。後で直接本人から教えてもらえると良いな。

 

「まぁ気になるんならエイナさんにあとで教えてもらってよ。それよりも進級試験の内容だ。ホクトはどんな内容になると思う?」

 

 最後に『鉄の歯車』のリーダーであるマルコが興味津々と言った様子で話しかけてきた。実はマルコがこの4人の中で一番幼く見える。そんなマルコがリーダーなのは少し不思議だ。

 

 おっと……試験の内容だったか。以前にも考えたがやはり立場あるものだろうと思った。

 

「やはり要人の警護だったり、貴重品の護送とかそういったものじゃないか? それなりの振る舞いが求められるんじゃないかと俺は思う」

 

「ホクトもそう思う? 要人の警護とかした事ないし、あー緊張するなぁ」

 

「それを学ぶ為の試験だろう。今から緊張してどうする」

 

「そうなんだけどねー」

 

 あまり緊張感が伝わって来ない感じだが、本人は本当に緊張しているらしい。まぁ俺も初めての体験だから緊張しないと言えば嘘になるが。

 

「でさー、1週間後っていうと丁度町長が盗賊被害にあった南のサランに慰問? ってやつにいくらしいんだよねー」

 

「…………なにっ!?」

 

 マルコはさらっと爆弾を投げ込んできやがった。

 




市長→町長に変更
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