鷹の目は今日も極上の果実を射抜く   作:タイチ

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密談

「何者だ!?」

 

 固く閉じられた門の上、そこから警戒する声が聞こえてきた。

 

「サランは今、出入りする事を禁じている。早々に立ち去るがいい。さもなくば弓矢の雨をお見舞いするぞ」

 

 これは思ったよりも深刻な事態となっているらしい。

 こちらの様そうは遠目に見ても装飾付きの馬車と物資が積み込まれた荷台を見たら商人か貴族などと思うはずだが、問答無用で追い返そうとしている。そういった手合いを追い返す理由とはいったいなんだ。

 

 しばしの間押し問答をしていると後ろから凛とした声が響いた。

 

「私はエルン町長のマリアベル・デューターと言います。

 そちらの町長であるロドス・サラキア氏にお取次ぎ願えますか?」

 

 その名前を聞いて流石のサランの門番も顔を見合わせた。

 隣り町の長の名前が出ては門前払いなど出来ないのだろう。

 

 そして待つ事30分。ひげ面の偉そうな男が上から顔を覗かせるとようやく閉じられた門が開かれた。

 

「こんな時に何のようだ、小娘」

 

 門を挟んで不遜な態度で応対するロドス氏。

 

「盗賊被害に合っているサランの慰問に。物資もいくらか持ってきましたわ」

 

 微塵も気にした様子もないマリアベルさんは平然と要件を告げる。

 

「そりゃ助かるな、デューター。ついでに盗賊共も蹴散らしてくれると助かるんだがなぁ」

 

「えぇ、蹴散らして来ましたわ。同行してくれた冒険者さん達がですが」

 

「なに? ……はーはっはっは! よくきたな。マリアベル。こんなときだが歓迎するぜ」

 

「えぇありがとうございます。ロドス殿」

 

 周りから見る分には緊張して生きた心地がしなかったがどうやら無事中に入れることになったらしい。

 

 開かれた門の中へ馬車と共に慎重に歩いて入る。

 

 俺達が入るとすぐ門は閉じられ、門番達は周囲をくまなく警戒していた。

 

 先程のやりとりは案外本気かもしれない。サランは今盗賊被害が深刻に根差していた。

 

 ◆

 

 サランの港町に入ると町中はどんよりと重い空気に支配されている。道中、道案内について来てくれた門番の一人に聞いた話だが港町である為、船での交易は出来ているものの、町の外に出ると必ず盗賊被害に会うらしい。

 以前など襲った商人を装って町の中に侵入してきた事もあったそうだ。

 そんなわけだから、丘からの商人達とは交流しようと思っても疑惑が拭えず、港からの物資を細々と食いつないていたそうだ。

 

 そんな話を聞いているとやがて町長の屋敷へと着いた。

 そのままロドス氏の執務室に案内された。

 

 こういう場合どうすればいいか分からなかったが、『青き蹄鉄』の見様見真似をして、俺達はマリアベルさんの後ろに静かに並んで立った。

 

「まずは礼を言う。危険を顧みずわが町に物資を送り届けてくれたこと、ありがたい」

 

 初対面とは打って変わって冒険者である俺達にまで平伏して頭を下げた。

 

「このサランは港を有しているからある程度の交易で賄えるが、それも限界がある。街道は盗賊共で閉鎖も同然だ。そやつらを蹴散らしたのもでかい。誠、恩に着る」

 

 そこまで一息に言うとまた頭を下げた。俺達の中でロドス氏の印象は180度変わった。

 

 その後俺達の簡単な紹介をしてもらい、再び歓待を受けた後はマリアベルさんとロドス氏で話し合いがあるらしく退席することとなった。

 今日は泊る予定らしいので今夜は自由行動だ。

 町はどんよりとした重苦しい雰囲気だが、ギルドや居酒屋であるパブがやってないわけではないのでそちらに向かう事にした。

 

 まずはギルドに向かったがエルンの町ほど大きくもなく、かといってアマル村ほど小さくもなくといった感じだった。ギルド内に詰めている冒険者までもどこか俯き、覇気が感じられない。試しに依頼リストを見てみると盗賊団の討伐依頼がでかでかとあるが、他は町中でこなせるような細々とした雑用ばかりだった。

 

 俺達は気になって受付嬢に聞いてみることにした。

 

「済まない、盗賊団の依頼が残っているようだがどうしてだ」

 

「はい、サランの町には現在依頼を受けられるCランク冒険者がいませんでして……」

 

「なるほど、そういうことか」

 

 そうか、それで盗賊の討伐に手も足も出ないという状態なのか。

 サランは港町といってもエルンの3分の1程度の大きさしかない。

 さらに聞いて分かったことだが小規模ながらDランクパーティで依頼を出した事で、逆に多くの負傷者を出したらしい。エルンの町で盗賊団討伐を行った時の様に大勢の盗賊達が近くの森を根城にしているそうだ。

 

 助けてやりたいが、俺達は今試験の真っ最中でまさにそのいない人材であるCランク級冒険者に上がる途中である為、大人しくその場を後にした。

 

 その後港の幸を求めて、という気分でも無いので適当に見つけたパブでささやかながらの食事とエールを楽しむ事にした。

 

 ◆ side マリアベル・デューター

 

「ではやはり、サラン近辺を根城にする盗賊も東から……」

 

「ああ、そうだ」

 

 執事やメイドすら排除したたった二人きりの執務室で私はロドス氏と密談を交わす。

 

「東に面する領地、ビットナー辺境伯の陰謀と見て間違いないだろうな」

 

「いえ、もっと大きな存在かもしれませんよ、それこそ帝国の──」

 

「──馬鹿を言え!」

 

 私の発言にロドス氏が声を荒げる。

 

「そんな大事であっては我々の手に負えん! だいたい辺境伯の仕業だとしても既に我々の手から零れ落ちておるわ。冗談では済まされんぞ」

 

「冗談ではありません。現に今度は我がエルン近辺のモンスターが突如いなくなりました」

 

「何! それは、本当か!?」

 

 静かに、しかしはっきりと頷く。

 冒険者ギルドから上がってきた情報を精査すれば、万一にもあれはただの偶然ではあるまい。

 

「……とにかく既にこの件は我々の手に余りすぎる。上に応援を頼むしかあるまい」

 

「そう、ですね」

 

 町長が二人集まった所で国家間の問題をどうにか出来るはずが無いのだから。

 

「つきましては、海路から早舟を出して頂けますか?」

 

「なるほど、その為におまえさん自ら活きの良い若造達を伴ってきたわけか」

 

「えぇ」

 

「よし、わかった。その件はまかせろ。手紙の中身はマリアベルにまかせたぞ。それを連名にして送る」

 

「はい、わかりましたわ」

 

 無理を押してきた甲斐があったと私は胸を撫でおろす。

 果たしてケムニッツ帝国は何を考えているのか……。

 

 ◆ side ホクト

 

「あなたが憎き盗賊達を蹴散らしてくれた冒険者さんでして?」

 

「あぁ、まぁそうなるな」

 

 胸元の開いたエプロンドレスを着たウェイトレスがしなだれかかるように寄り添ってくる。あ、顔に柔らかいものがあたったぞ! 

 

「まぁステキ! どんどん飲んでいらして。エールは私の奢りにしますわ」

 

「なんだと」

 

 なんだと! 

 おっぱいのサービスだけでなくエールも飲み放題だと。

 エイナ、クロナ済まない。桃源郷はここにもあったようだ。

 俺はしばしこちらで堪能させてもらう! 

 

 とまぁそう言った感じで俺達エルン組の冒険者達は、どんよりとした空気の中に突如颯爽と盗賊撃退のニュースをもたらしたおかげで一躍時の人となっていた。

 

 各々が各々に歓待を受け、いつの間にかパブの中ではお祭り騒ぎだ。

 

「マルコくんってかわいいのね。お姉さんタイプだわ」

 

「いやぁ……そんなぁ」

 

 マルコのやつめ完全に鼻の下を伸ばしてやがる。

 

「嬢ちゃん。俺の冒険譚を聞きたいかい?」

 

「きゃー、気になるわ! ぜひ聞かせて」

 

 レンドンはあろうことかうら若き乙女を膝に乗せて冒険譚を聞かせてやっていた。

 

「アドナン様は高名なプリースト様なのですか?」

 

「え? いえいえ私は決して……ははは」

 

 オカッパ頭のアドナンでさえ持て囃されている始末。

 まさに今この瞬間は俺達はヒーローであった。

 

 しかし、レイチェルだけが唯一群がる男共を袖にし、静かにエールを楽しんでいるようだ。

 

「レイチェル。おまえももっと楽しんだらどうだ」

 

「まさか、今がどういう状態か分かってるのかしら。問題は何も解決してないわ」

 

「……それは確かにそうだ」

 

「それに一部の冒険者を見てみなさい。大変面白くなさそうだわ。オバカさん達のおかげですでにやっかみを十分過ぎるほど買っているしね」

 

「なんだと」

 

 辺りを見回してみると喜んでいるのはサランの住人達ばかりで、冒険者風の者たちはこちらを睨んでいる。

 中には今か今かと立ちあがろうとしているものまでいた。 

 

 確かに浮かれていた俺が馬鹿だった。

 ぽっと出の俺達が活躍すれば現地の冒険者は面白くない。さらに言えば光あれば影が差すというやつだ。

 自分を取り戻して仕舞えば何をやっているのかと自身を殴りたくなった。いや殴った。

 

 エイナ、クロナ、俺が馬鹿だった。もうしばらく待っていてくれ。無事Cランクに上がって二人の元に帰るよ。

 

 我に返った俺とレイチェルで馬鹿3人を連れて早々にパブを後にした。何かもめ事が起きてもつまらないし、サランの町の人の為にも起こしたくない。

 

 その日はなんとか無事何事もなく宿を取って就寝した。

 調子に乗った3人を押さえるのにとても苦労したが。

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