翌朝、市長のマリアベルさんから呼び出しがあった。こんな朝早くからいったいなんだろうか。知る術も無いので手早く身支度を済ませて宿を引き払う。昨日はろくに町並みを見ていないので少し迷いそうになったがなんとか町長の屋敷までたどり着いた。マリアベルさんはそのままロドス氏の屋敷に泊っていたらしい。
「早かったですね。それではエルンに戻りますよ」
「え、もうですか?」
マルコが代表して問う。昨日着いたのにもう帰るのか。
「ええそうです。目的は果たしました。すぐに出ますよ」
そう言い切ると彼女は『青き蹄鉄』を呼び寄せて何か話をしていた。『青き蹄鉄』の面々が頷くとマリアベルさんは「頼みましたよ」と伝え手早く馬車を回させて乗り込んだ。
なんだろう、試験に関係することか?
ひとまず訳が分からないが俺達もそれに従う事にした。帰りは結構な速度で帰るらしい。マルコとレンドンが昨日の娘達を恋しそうにしていたが、試験なので耳をひっつかんで強引に連れていく。
昨日の今日で出ていく俺達に門番達も慌てていたが、迷いなく馬車は門を出てサランを後にした。
サランの港町を離れておよそ半日。
ちょうど盗賊に襲われた辺りにさしかかった。
ここでもDランクの俺と『鉄の歯車』を中心に索敵する。
しかし盗賊達の気配は感じず、潜んでいる様子も無い。
不思議に思ったが、きっと俺達に1度手ひどい痛手を受けて、臆したのか、気配はなかった。
敵がいないことは良いことだと思い、御者にどんどん進む様に伝えた。
さらに数時間移動したところで『青き蹄鉄』の面々が突然立ち止まる。
「じゃあな。俺達はここまでだ」
どういうことだ。試験官では無いにしろ補佐をしていたパーティが分かれるとはあり得ないと思うのだが。
「市長を頼むぞ、同輩」
それだけ言って彼らは引き返していった。
振り返ると車上からマリアベルさんが頷いて手を振っていた。
ふむ……ひょっとして出発前に何か言い含めていた事が関係しているのだろうか。サランの町に引き返したから市長かロドス氏から何か密命を帯びているのかもしれない。
とにかく『青き蹄鉄』は離れてしまった。
俺達だけで市長たちを守らなければいけない。
マルコ達と意気込んで俺達はより一層警戒に力を入れた。
しかし予想に反して道中は順調すぎるほど順調だった。
行きとは違い帰りは荷馬車もなく、早いペースなのでスムーズに進んでいく。そして後半に入るとモンスターも例によって出なくなったので至極順調に済んだ。
◆
エルンの町に入り、マリアベルさんの館にたどり着くとマリアベルさんの前に整列する。
「皆、ご苦労様です。試験の結果はギルドから追って伝えられると思いますが、私は皆さんの働き十分に満足しています」
それじゃあ俺達は……まぁ落ち着け。
慌てる必要は無い。ギルドで結果を聞いてからにしよう。
マルコなどはニヤついた顔を押さえきれずにいるが、俺達は平静を装った。
「それでは、私はやることがありますのでこの辺で」
そう言ってマリアベルさんは館の中へと消えていった。
残った俺達もこの場に残っても意味は無いのでギルドへ移動することにする。
皆、少し浮足だっている。マリアベルさんからああ言われたのなら期待しないはずがない。かく言う俺もだ。
自然とギルドへと向かう足は速くなり、最後には駆け足になった。
「皆さん、Cランク進級試験お疲れ様でした。結果をご報告いたしますがよろしいですか?」
ギルドの受付嬢が営業スマイルでにこやかに迎えてくれた。
だが、心なしか本当の笑顔の様な気がする。それとも俺の錯覚か。
「あぁ、構わない。お願いする」
「はい、それでは……結果は合格です!」
「「「「「やった!」」」」」
やったぞ。これで晴れてCランク冒険者となったわけだ。
俺達はある意味町を代表する冒険者となったのだ。
「それでは、認識票の交換を行いますので、こちらにご提出ください」
犬耳の受付嬢に持っていた銅で出来た認識表を渡す。
各ランクによって認識票は異なるがDランクが銅で、Cランクは銀に変わるのだ。
「それではこちらをどうぞ」
渡された銀色に輝くプレートを見て確かな実感を得た。
これで今日からCランク依頼に大出を振って受けられる様になったというわけだ。
珍しく喜んでいるレイチェルやアドナンとも喜びを分かち合い、そのまま今日は隣接されたパプで祝宴を催すことにした。
「それじゃあ、乾杯!」
みんなで「乾杯!」とタルのコップを打ち合わせる。
移動自体は長かったが、巡りくる出来事は一瞬の様に感じた試験であった。
旅の道中あーだったとかこーだったとか話合い、エールを勢い良く呷って喜びを分かち合った。
「やあ『鉄の歯車』の皆さんに、ホクト。久しぶりだね」
宴会の体を成していた席に割り込む声が入った。
しかし別に悪いやつじゃないので迎え入れる。
「なんだ、ライオットさんじゃないですか。お久振りです」
マルコが挨拶するのを見て皆各々に挨拶をする。
ライオットの後ろには『千剣の風』の面々もいた。
「どうしたんだ、ライオット俺達に何かようか?」
「あぁそうだね。まずはおめでとう。これでみんなも僕たちと同じCランク冒険者だね」
「あぁ、ありがとうな。『千剣の風』の皆もありがとう」
『千剣の風』の面々も口々にお祝いを述べてくれたのでそれにこちらも応えていった。珍しくノネットまで素直に褒めてくるとは明日雪でも降るのかもしれない。
「それで、本題なんだけどモンスターをエルンの町近辺で見かけなくなったのを知ってるかい?」
「あぁ試験中も全然いなかったな。だがサランの港町に近付くにつれてちらほらといたぞ」
「そこなんだよ。エルンだけみかけなくなったのはどう考えてもおかしい。モンスターがいないおかげで僕たちのBランク進級試験も止まったままなのさ。おっと横道にそれてしまったな。そこで本題だ。明日から調査団を派遣する事になったんだ」
「派遣団?」
「そう。といってもギルドのみでいつもの混成パーティで森の奥深くに入るのが目的なんだけど、Cランクに上がった君達もどうかと思ってね。今動けるのは『銀の円環』と僕たちだけなんだ」
「なるほどそこに俺と『鉄の歯車』が加わるというわけか。前々から俺は気になっていたからぜひ参加させてくれ。『鉄の歯車』はどうする?」
「そうだね。僕たちも参加することにするよ。ただ嫌な予感がするんだけどなぁ」
マルコの予感は当たる。旅の最中でわかったことだが、結構な確率で当たっていた。なら今回も何か起きるのだろう。気を引き締めて望まなくてはいけないな。
「よかった。であれば今日帰ったばかりで悪いけど明日からよろしく頼むよ。改めておめでとう今夜は楽しんで」
「あぁ、明日からよろしくな」
そう言って『千剣の風』の面々は離れていった。
宴会は昇格の祝いから明日の調査団の意気込みへと変わり決起集会の体を成していった。