エースコンバット7 FLIGHT REZON 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
「んん………あぁ」
「余裕ねトリガー。欠伸なんて」
「寝れなかったのトリガー?」
「ちゃんと寝たよ、7時間。遠足前の眠れない現象もなくグッスリとね」
「ていうかあの馬鹿はどうしたのよ。相部屋でしょ、あなた達」
「さあ?」
色々濃いメンツに揉まれた初日はあっという間で、酒も飲んでないのに部屋に帰るなりベッドにダイブした。
ブレッド? あいつは露出多めの姉ちゃんとどっかに行ってて部屋には戻ってこなかったよ。
んでその本人は。
「んあぁぁぁぁぁ………あーぅぅ」
横からクソデカい欠伸をしながら隣の席に座った。周囲の視線を集め、ブラウニーの怖い目線も頂きましたとさ。
「おはようお帰りブレッド」
「あはようただいまトリガー。んあー」
「ブレッドどこ行ってたの? 昨日何してたのよ」
「何ってナニだよ。お姉さんが朝起きても離してくれなくてそのままリターンマッチ」
「ふ、不潔! 破廉恥!」
ブラウニーはそれはもう汚物を見るようにドン引きしている。いい加減慣れたらどうなのかと思うが彼女がそういう物にめっぽう弱いのはTACネームで呼びあう前から知っている。
「ブレッド。そろそろフラフラしてないで身を固めたら?」
「魅力的な女性がこの世には多すぎるのが悪い。勿論コーギーもだぜ?」
「アハハ。それはどうも。あと数年したら化けるから今のうちに手をつけとく?」
「遠慮しとく。手を出したら最後感やばいんだよなコーギーは」
「コーギー! ブレッドの話に乗らない! ブレッドもこれ以上展開しない!」
「冗談よブラウニー」
「はーいすいませーん」
「トリガーも黙ってないで止めなさいよっ」
えー、これ以上ないフレンドリーファイア。
フレア撒いとこ。
「諸君、おはよう」
「おはようございます!」
「元気で何より。これから戦闘訓練だ。内容は昨日話した通りツーマンセルによる連携訓練。今回の訓練内容はツーマンセル同士による模擬戦をしてもらう」
ガーデルマン教官から模擬戦という言葉が出た瞬間、教室が一気に騒がしくなった。
行きなり模擬戦。まだシミュレーターとホーク演習機しか操っていない俺たちにとって、それはどれだけ過酷な命題か理解している。
ブレッドの言う通り、ここは最難関の場所というのは本当みたいだ。
「戸惑うのはわかる。だがそれは君達の腕を見込んでの事だ。オーシアは今もパイロット不足に悩まされている。優秀なパイロットを迅速に補給するためにも。君たちには一秒でも早く一人前になってもらわなければならない。異論があるなら申したまえ」
「………………」
「結構。模擬戦は午前と午後の二回に分けて行う。なお私、オメガ11。基地所属のドレイク1は監視役として空に上がる。ルールは制限時間内に相手チームに撃墜判定を与えれば勝利。模擬戦後は直ぐに反省点を纏めるように」
「「はい!」」
いよいよ訓練。ここで成果を残せるかで。その先の道が決まる。
手が汗でジットリ湿るのとは対照的に、背筋が少しだけ冷えた。
「では最初に飛んでもらう者を発表する。呼ばれたら返事をするように。トリガー、ブレッドペア」
「「はい」」
「マークェス、グリッターペア」
「「はい」」
グリッター、昨日ブラウニーに声をかけた奴だ。
マークェスは………うわっ。ミハエルなにがしじゃねえか! てか目合った。
睨むなこっちを!
ガーデルマン教官が次々とメンバーを述べていく中。俺は横目で睨み続けているマークェスことミハエルの視線にさらされ続けるのであった。
「はーーついてねぇ」
「おーおーブルーだなトリガー。待ちに待った戦闘訓練だってのに」
パイロットスーツに着替えたブレッドがケラケラと笑うのに対し俺はもう全開で項垂れていた。
そんな俺たちの後ろには整備員が最終チェックをしているF-16C ファイティング・ファルコンの勇姿があった。
高価なF-15 イーグル。旧世代機となったF-4 ファントムⅡに変わる安価な量産戦闘機というコンセプトの元で開発された戦闘機。
特徴的な胴体下部の大型エアインテークとF-15と同じエンジンを備えた単発エンジン。
オーシアが一般的に運用してるF-15Cと比べると性能差が目立つが。動かしやすさと小回りの良さから初心者から熟練者まで愛される世界的ベストセラーとなっている。
有名どころだとウスティオのPJや、ベルカのズィルバー隊が使っていたな。
あとクラウンの機体もF-16Cだとか。
その名機を前にしても俺の気分は曇りぎみだった。
「グリッターはいいよ。うん、グリッターは別にいい。だけどミハエルは駄目」
「ミハエルってマークェスか? あいつって昨日お前に話しかけた奴だよな。なんかあったのか?」
「実はね………」
昨日の一悶着について話した。勿論俺がフリューゲルだということを隠して。
話し続けていくうちにブレッドは段々と首をかしげていき、最終的には腕を組んで考えてしまった。
「つまりこういうことか? 俺はトリガーに相応しくない、相応しいのは僕だ。だけど振られたから腹いせに睨みつけられたという」
「相応しくない云々はあいつの妄言に他ならないからな?」
「言いきったなオイ。しかしまだ居るんだなぁ、ああいうプライドの塊みたいな奴」
「あんな奴が居るから戦争は泥沼化するんだよ。親も相当な奴だよきっと………」
「随分な嫌われようで。別にそんな怒らなくてもいいだろ。少なくとも俺は気にしないぜ?」
「んーー………」
ブレッドがそう言うなら、俺一人怒っても仕方ないか。
ほんと動じない奴だよお前は。
「フラストレーションは訓練でぶつけようぜ! とりあえずあいつらも結構な腕持ってるっぽいし。油断しないで叩き潰しちまおう!」
「そうだな」
ブレッドの言う通りだ。
初日から当たるのは不幸と言えるが。逆に直接勝負として白黒付けれるということだ。
そう思えたらやる気が出てきた。こいつはほんと人を乗せるのが上手い。
そんな風に駄弁ってたら整備が完了したのか、整備班のおやっさん方が声を張り上げた。
「おーいひよっ子どもー! 準備できたから乗り込め乗り込め!」
「了解でーす!」
おやっさんの大声に押されるように俺たちは愛機となるF-16Cに駆け込む。
立て掛けられた梯子を駆け上がりコクピットに飛び込み、ヘルメットを被りハーネスを調整、マスクをヘルメットに取り付ける。
F-16Cのコクピットで特徴的なのは操縦桿。普通は真ん中にあるのだが、F-16系は横にある。
バッテリーオン。各計器類チェック。
エルロン、ラダー、エレベーター、フラップ。正常に稼働確認。
ヘッドアップディスプレイこと、HUDの正常機能確認。
「トリガー、無線どうだ?」
「聞こえるよ」
「よしよし。先に行けトリガー」
「じゃあお言葉にあまえて」
格納庫からゆっくりと滑走路に向かう。
どうやら俺が一番手らしく、悠々と滑走路のラインに機体を滑らせた。
「こちら管制塔。トリガー、君のコールサインはアルファ1だ。確認し復唱せよ」
「アルファ1、了解」
「滑走路OK。風は弱い。幸運を祈る、ルーキー」
「了解。離陸体制に入る」
目の前に1本通った滑走路。どこまでも続くであろう長さを誇るそれを俺は何度も見た。
だが戦闘機で上がるのは初めて、しかも行きなり模擬戦だ。心が震える。出来ればもう少し目の前の景色を堪能したいところだが。後が詰まってるからのんびり出ない。
もう一度計器を確認し。スロットルレバーに手を置いた。
「各システム、オールグリーン。トリガー、発進する!」
スロットルを前に倒し。加速。
エンジンに火が入り、軽くシートに押さえつけられる感覚と共に進むF-16C。
100……200……、300に行くか行かないかで操縦桿を引いた。
「………っ」
突如身体に沸き上がる浮遊感。
そのまま速度を上げ、俺とF-16Cは重力の軛から解き放たれた。
あっという間に速度は1000、1500を越えた。これでホーク訓練機の最高速度を軽く上回った。
更に速度が上がる。グングン上昇し高度計の値が目まぐるしく上がり、あっという間に地上から3キロ地点にたどり着いた。
スロットルを少し下げ、速度を緩やかにし。機体を水平に保った。
「………はぁー」
俺は一度マスクの中で息を吐いた。
眼下に広がる海原、基地はもう遠く。
空は雲が少し多いが、青々とした空と白色の太陽が眩しく輝いていた。
これが、戦闘機の空。
時に魅了され。時に血と鉄が炎に消える空。
ここが、これから俺の生きる場所に………
「おー早いなトリガー。てか最初から飛ばしすぎだって」
レーダーに機影。
後ろを振り向くとブレッドのF-16Cが上がってきて、そのまま左翼下についた。
少し遅れてミハエルのF/A-18F、グリッターのF-16Cが上がってきた。
「こちら、AWACSウィンドメイカー。各機、通信は良好か」
「アルファ1、オッケー」
「ブラボー1、オッケー」
「おっと割り込むなよ。アルファ2、問題なし!」
「ブラボー2。オッケー。うむ、いい美声だ!」
ブラボー1、ミハエルが先走って通信を開いた。意地でもブレッドに先を越されたくなかったのか?
ブラボー2はグリッターか。なんかテンション高めだな。
そしてAWACS、空中管制機がお出ましだ。
訓練飛行でAWACSとはなんとも贅沢な。ウェザール基地の気合いの入りようがわかる。
グリッターではないが、確かに男性でありながら渋くて、透き通るような美声だった。
そして。
「こちらオメガ11。よしよし、ちゃんと上がってこれたな、偉いぞ」
「お褒めに預かり至極恐悦!」
「ブラボー2。それぐらいではしゃぐな。名家の品位に関わる」
「寂しいことを言うなマークェス。オメガ11と飛べるなんてこれ以上ない名誉だろう?」
(平民上がりのロートルに何を畏まる必要がある………)
何か失礼なこと考えてそうだな、今の沈黙。
「こちら第302戦術戦闘飛行隊ドレイク隊のドレイク1だ。オメガ11と共に君たちの監視役となる。長い付き合いになるだろう。宜しくな」
「宜しくお願いします。ドレイク1」
「うむ。諸君、これから度重なる訓練の中で腕を磨き、オーシア。強いては世界の平和の為に飛んでもらうことになる。君たちの中からエースを越えたトップエースのパイロット、そうだな………かのメビウス1のようなパイロットが生まれることを祈る」
メビウス1のようなパイロット。
それはなんともハードルを遥か上に上げてくれた物だ。
期待してくれるのは嬉しいが、流石にこそばゆいな。
そう思ったら通信越しにオメガ11から笑みが溢れた。
「何か? オメガ11」
「フフ。いや、あのロートル嫌いだったお前からそんな台詞が出るとは思わなかったぞ。なあ、ヴァイパー2?」
「オメガ11、何度も言わせないでくれ。今の自分のコールサインはドレイク1だ。いい加減にしないとあんたの嫁さんにあることないこと吹き込むぞ」
「それは困るな。了解だドレイク1」
「フンッ」
ヴァイパー2、もといドレイク1が鼻をならす。だが不機嫌さはそこまでなく、言わば二人の間のお約束のようなものに見えた。
そんな中うちのムードメーカーさんはキッチリと耳を立てていた。
「こちらアルファ2。オメガ11、結婚してたって本当ですか! あとで詳しい話を聞かせてください!」
「お前が最後まで生き残ったら話してやるアルファ2。ウィンドメイカー、待たせて悪いな」
「全くだ。オメガ11、いちいちドレイク1をからかうなよ。では各機、所定の位置に移動せよ。配置が完了した後、5分の慣らし運転ののち。模擬戦を開始する」
「了解」
「了解です。5分で慣らせと来たか。いいねっ、燃えるじゃないか」
ブレッドが軽口を叩きつつも緊張してるのか、声色がほんの少し上ずっていた。
AWACSの指示でアルファ隊は東、ブラボー隊は西側に移動する。
その間にも多少の慣らしを行い。自身の感覚を自機のF-16Cに照らし合わせていく。
そんな中ミハエルが通信を開いてきた。
「まさか初戦から君と当たるとは思わなかったぞトリガー」
「そうだな」
「約束通り吠え面をかかせてやる。覚悟しろ」
「肝に銘じとく」
「君の判断ミスが死に直結することを身をもって知らしめてやる!」
「了解した」
「貴様、人の話を聞いてるのか!?」
「聞いてるよ。ちゃんと答えてるじゃん」
どうやら素っ気ない答えに満足しなかったらしい。ミハエルは持ち前の短気さを見事に発揮した
相方のドライな対応にブレッドもたまらず苦笑いする。
「俺からも一つ言っておきたいことがある名家さん」
「なんだ、貴様と話すつもりはない」
「まあそんなこと言わないで下さいよ。さっきから聞いてたら大層な口叩きまくってますけど。そこまで言うならこのブレッド様なんか速攻で落とせるんだろうな?」
「なに?」
「言っとくが俺はトリガーより格下だ。トリガーを落としたいなら先ず俺を落としてからにするんだな! 口だけ野郎!」
「貴様………」
ブレッドはなんのつもりだ?
流石に堪忍袋の尾が切れたか? いやあいつはそんなタマではないが。
そう思ったらチカチカと視界に光が写った。
ブレッドの方を見ると備え付けのマグライトでこっちに光信号を送っていた。
オレガオトリニナル。ヤッチマエ。
そんな信号を送りながらわざわざマスクを外してゲスい笑みを送る悪友。
これはこれはなんとも。パン屋の息子も人が悪い。
サムズアップで了解の意を示し、俺はもう一度操縦桿とスロットルレバーを握り直した。
「それでは訓練を始める! 間違ってもクラッシュするなよ! 模擬戦開始!」
AWACSウィンドメイカーの美声と共に模擬戦の幕が上がった。
始まった。
ブラボーチームとの相対距離は約8000メートル。
お互い加速を駆け、相対距離がドンドン近づいていく。
「おらっ貴族様! ついてこい! 飛び方を教えてやる!」
「後悔させてやるぞ、駄犬!!」
ブレッドが左に機体を振りながら下降、それをお坊ちゃんが猛追している。
昨日の段階でわかってたけど。煽り耐性低すぎるな。典型的というかテンプレというか。
「さて、お初にお目にかかる。訳ではないなトリガー。昨日の横槍の件を忘れたとは言わせないぞ?」
「ブラウニーが言ってたぞ。あんたキザ過ぎって」
「それは仕方ないことだ。なんせ私は輝いているからな!」
ヘッドオンでロックされないようにすんで横にそれる。
実際の戦場とは違い、模擬戦は相手をロックするか、機銃判定を一定時間与えた時点で勝利。
すれ違う2機のF-16C。グリッター機はそのままこちらに向かってくる。
こっちもスロットルを引き、フッドペダルを踏み込んで90度ロールからカーブをかける。
「初乗りなのに惚れ惚れする機動だ! 面白い!!」
途端に襲いかかるGに歯を食い縛らせて耐えて、敵の位置を確認する。
機体を中心に方位200らへん。好機と見たのか迷いのない速度で近づいてきた
「貰うぞトリガー!」
敵機後方。グリッターは姿勢を正してロックオンマーカーを俺の機体に滑らせようとした。
来ると思った瞬間に急上昇。ほぼ直角に行く手前で機首を戻してグリッター機をオーバーシュートさせた。
「コブラ!? いや、擬きか!」
「んんっ………」
そのまま下方へダイブ。
瞬間的に来るGに頬を歪ませながらも視界不良には至らず。
やや下にいるグリッター機を今度は俺が追い込む。途端に減速して右に振れる敵機。このままやり過ごして仕切り直しをするつもりだろう。
だがそれは悪手、距離1200。エアブレーキを一瞬かけ、がら空きになった横っ面をさらすグリッター目掛けてガンモードで機銃を叩き込んだ。
横切ろうとする彼の機体をなぞるように機銃(判定)発射。吸い込まれるように当たり。HUDに数秒のHIT判定が出た後、撃墜判定が出た。
グリッター機、撃墜。
「ブラボー2。お前は撃墜された。先に基地に戻るんだ」
「なんだって!? AWACS。撃墜されるまで何分だった」
「1分もたってない」
「ノォォォォォ!!」
「叫んでないで早く戻れグリッター」
「ぬぅぅぅぅ………………ウィルコ」
明らかに意気消沈とした様子でグリッターは基地方向に機首を向けた。
心なしか飛ぶ姿もブレている。
さて、あっちは?
「もう撃墜したのかトリガー。はやっ」
「なにをやってるんだアイツは! 折角僕が選んでやったというのになんという体たらくだ!! 役立たずめ!」
「俺を落としてない奴がなんか言ってらぁ」
「言われなくても落とす! 貴様らなど僕一人で充分だ!!」
なんとも口の悪い、そのうえ惚れ惚れするほどの上から目線。教官やAWACSが見てるというのによくもまあ口が回る。
耳を塞ぎたくても塞げない現状にげんなりしながら俺は再び上昇。何処に居るかとレーダーを確認しようと思ったが眼前にドッグファイトを展開してる二人を見つけた。
以前としてミハエルに追われる身であるブレッドだが。その姿は何処か余力を感じさせる飛び方。
必死にロックオンに納めようとする敵機を振り替えるために蛇行に蛇行を重ね。時にピッタリと真横について射線を切っている。
「くそっ! 離れろ貴様!」
「お前こそ離れな。男とイチャイチャする趣味はないんだよ!」
仕切りに纏わりついて相手の気力を削ぎにかかるブレッドに対してなんとか引き離そうともがくミハエル。
どちらも動きは悪くない。
お貴族様は口先だけかと思ったが意外にもなかなか動きは良かった。
現に隙あれば後ろをつこうとするブレッドにケツを晒していない。
しばらく上空から二人のシザース機動による雲の線を眺め、頃合いを見定めた。
「………ブレッド、行くよ」
「ラジャー!」
ミハエルのF/A-18F スーパーホーネットに向けてパワーダイブ。
落下とエンジンによる相乗効果で産み出された速度は瞬く間にF/A-18Fのフォルムを鮮明に見れる程の距離に接近できた。
同時にブレッドは右旋回し、グリッターの機体だけがその空間に置かれ。入れ替わるように俺のF-16Cがその場に差し込まれた。
「なっ! トリガー!?」
「貰うぞ、ミハエル」
「嘗めるなよ、この恥知らずめが!」
ロックオンマーカーがミハエルを追う電子音が仕切りに鳴るなか、ミハエルはコクピットの中でレーダー照射警報が鳴り響いている。
訓練向けに設定されたロックオンマーカーは通常よりもロックオン範囲やスピードが襲い。
通常のロックオン速度なら多少無理な角度でも、ミサイルの範囲内ならロックオン出来るからだ。
俺にだけは撃墜されてたまるか! という気概が伝わってくるような機動でホーネットを操縦するミハエルに対し、思わず舌打ちを鳴らす。
速攻で撃墜判定だせると思ったが、流石に見立てが甘かったか。
レーダーを確認すると、一度離れていたブレッドが俺の右後ろについた。
「援護するぜトリガー!」
「そのまま落としてもいいぞ」
「じゃあ競争だな! おら行くぞ!」
2機に後ろをつかれてミハエルは動きを大きくせざるを得なかった。
何度も何度も振りきろうとしてるが流石に2機相手を出し抜くには技量が足りなかった。それでもまだ撃墜出来ない。逃げは自慢できるぐらい得意らしい。
だが流石に限界が来たのだろう。
そこから時間をかけずに俺のロックオンマーカーがミハエル機のホーネットを捉え、小気味よい電子音声と共に撃墜判定がかかった。
「なっ………ぁぁ?」
「マークェス機、撃墜。今回はアルファチームの勝利だ」
「ち、違う! 違う違う違う! これは何かの間違いだ! 計器の故障だ! そうじゃなければ俺がこんな奴らに負けるわけないだろ!! やり直しを要求する!!」
「マークェス。残念だが君は落とされた。基地に戻るんだ」
「黙れよ時代遅れのロートルめが! 俺を誰だと思っている! オーシア連邦国防議員、ゴードン・シュールズベリーの息子だぞ! 早くやり直すんだ! グリッターの奴も呼び戻せ!」
「マークェスこれは命令だ! さっさと基地に戻れ! それ以上言うなら命令違反として相応に処罰するぞ」
「くっ、ぅぅ………」
まだ現役であるドレイク1に怒鳴られて応えたのかようやく黙り込んだ。
と思ったらまったくそんなことはなかった。
「くそっ! 俺は認めないぞトリガー! 2対1で追い回すとは、この卑怯者!」
「悲しいけど、これ模擬戦なのよね。てか一人で充分と言ったの何分前よ」
「うるさい! 俺は」
「それ以上喋らない方が良いと思うぞミハエル。一人称が『僕』から『俺』になってるし」
「っ! くそぉぉぉーー!!」
一頻り叫んだあとミハエルのF/A-18Fはいささか乱暴な機動で基地に帰還した。
彼も自身の敗北を前に余裕のよの字もないだろう。
元からそうなのか、気取って僕なんかを使ってたのかは知らないが激昂して我を忘れかけているのは確かだった。
心配になったのだろうか? ドレイク1のF-16Cが彼の直掩についていった。
「あー、五月蝿いのいなくなった。耳がキンキンするぜ………」
「思った以上に厄介な奴だったな。よくここにこれたもんだよ」
「コネなんじゃね?」
コネかなぁ。
他の奴らの腕前はわからんが。普通にF/A-18Fを操ってたから腕がないって訳じゃないと思うけど。
まあこの件で少しは頭を冷やして、凝り固まった差別主義が見直されることを祈ろう。
じゃないとお世辞にもここを卒業するのは難しいと思うし。
「アルファチーム。ご苦労だった。初乗りにも関わらず見事なフライトだった」
「ありがとうございます! やったなトリガー! 俺たちあのオメガ11に褒められたぞ!」
「ああ。だけどまだまだ足りない。足りなすぎる。今回は本当に運が良かっただけかもしれないし」
「真面目だなぁトリガー。って言っても落としたの全部トリガーだもんな」
いや、ブレッドが相手をかき回してくれたのもあった。
何より一人ではなく僚機がいる。それは思った以上に心強く、頼りになるものだった。
「ウィンドメーカーからオメガ11」
「こちらオメガ11。どうした?」
「基地から通信があった。次に飛ぶ組の機体調整が予定より少し遅れるらしい。こちらの演習も予定より早く終わったからな。どうする? ガーデルマン中佐」
「ふむ………」
上空で待機していたオメガ11のF-16Cが俺たちの高度まで降りてきた。
そのまま後ろにつくと思いきや、そのまま通りすぎた。基地にエスコートと思ったがその方向は先ほどミハエルとドレイク1が行った方向とは正反対。
そして彼は6000メートルのところで反転した。
「アルファ隊。特別演習を開始する。今から俺が相手になる、見事落として見せろ」
「へ! ほあ!?」
「ウィンドメーカーから各機、これより特別演習を開始する」
「おっとぉ!?」
ブレッドがすっとんきょうな声を上げた。かくいう俺も一瞬息を止めてしまった。
そしてオメガ11の機体は加速して左旋回。戦闘機動を開始した。
オメガ11。時代遅れのロートルなんてのも見当違いと言えるベテラン中のベテラン。
戦争というものを知る生き字引。
そんな人が相手となる。
心が震えた。一度大きく息を吸って、吐く。
緩んだ手を再び握りしめ、俺は声高に叫んだ。
「アルファ1、エンゲージ!」
「うぇ、マジか!? よーし、アルファ2、エンゲージ!」
迫り来る古強者に、俺とブレッドの若者編隊が勝負をかけた。
ーーー◇ーーー
「それであんたは速攻で落とされたと」
「いやー、それはもう鮮やかにピーっとな! でもよ。トリガーは時間制限内までしっかり生き残ったんだぜ。オメガ11相手に凄いよなぁ」
「いやいや。明らかに手抜かれてし、後半逃げるので精一杯で。迫力というか気迫が段違いだったな」
午後の演習も終わり。いつもの四人は夕食を囲っていた。
ブラウニーとコーギーも好成績を残したという。
F/A-18Fを駆るボグガードとフットパッドも今日は負けなしだったらしいし、なんと行きなりコブラ機動を噛ましたという無茶振りをやってみせた。
「行きなり模擬戦ってなってどうなるかと思ったけど。みんな事故がなくて良かったね」
「案外やれるもんだよな。トリガーの大馬鹿機動には負けるけど」
「俺今回は大人しかったと思うぞ」
「模擬戦はな、オメガ11だともう何時ものトリガーよ」
「初っぱなから無茶したの? トリガー」
「こ、怖いよブラウニー、そんな睨まないで」
違うんです。オメガ11から逃げるのに必死で後先考えないで操縦したら結果的にそうなったんです。
俺は悪くないよ。オメガ11がヤバかったんです。
「お食事中失礼するよ」
振り向くとハリウッド風な金髪男こと、自称輝けるグリッターがそこにいた。
「なんのようだよ」
「君たちに一言言いに来たのだよ。今回の模擬戦についてね」
一言だって?
まさか、速攻で落とされたことに文句を?
午前中のミハエルの聞くに堪えない罵詈雑言を思い出して俺たちは思わず身構えた。
と思ったら彼は輝かんばかりの笑顔を見せて。
「素晴らしいな君たちは!!」
「「は?」」
両腕を目一杯広げて俺たちを称賛したグリッターに、俺とブレッド。だけではなく食堂にいた人が何事かとグリッターを見た。
「いやー、私もそれなりに出来るパイロットのつもりだったが。東方に聞く井の中の蛙とは正に私のことだったな! こうもあっさりやられては逆に気分が良い!!」
「そ、そうか」
「フッフッフ。君たちのような凄腕の候補生がいるならばこれからのオーシアも安泰だな! いやー、めでたいことだ! めでたいことだ!!」
テンション高。なんか凄いキラキラしてる。
名前に違わず笑顔が眩しいぞこいつ。
「ところでブラウニー。いや、ウィンターズ嬢」
「な、なにかしら」
「いつか君を落として見せるからな。色んな意味でね」
呆気に取られるブラウニーを他所にグリッターはパチンとウィンクをした。
「話はそれだけだ。ではまた会おう戦友! ハーハッハッハッハ!!」
言いたいことを言って満足したグリッターは高笑いをあげ、キラキラとした笑顔のまま食堂を去っていった。
彼が行ったあと一瞬シーンとした食堂も元の賑やかさを取り戻した。
間違いなくグリッターは食堂の空域を支配していた。
とりあえず、なんだ。
悪い奴ではないということはわかったな。
いや、きっと良いやつだ、あれは。キャラが濃すぎるけど、うん。
「なんかロックオンされたなブラウニー」
「知らないわよ」
「うわー、ドライだな」
「フフ、ブラウニーはもう惚れた男いるもんね」
「「え、嘘でしょ?」」
「ちょ、ちょっとコーギー」
目の前の真面目様が惚れた男?
待ってくれ凄い興味があるんだが。
「もしかしてトリガーか?」
「え、俺?」
「違うわよ!」
「もっと歳上だもんねぇ」
「コーギー!」
顔を真っ赤にして狼狽えるブラウニーを肴に俺たちは料理をつついたのだった。
「なあなあ、誰なんだよコーギー。教えてくれよぉ」
「どうしよっかなぁ」
「ちょっとほんとやめてよ!? トリガーも止めて」
「ブラウニー、明日の演習勝ったら教えてくれ」
「トリガーまで!? もういい加減にして三人とも!」
ハハハ!やっぱ2話で終わらなかったよ!
拙いながらも書いた戦闘機機動。いかがだったでしょう。
改めてISの戦闘は書きやすかったんだなって思えますわ。あー頭使った。