エースコンバット7 FLIGHT REZON 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
「オメガ11の奥さんさ」
「うん」
「めっっちゃ」
「美人?」
「男前だった」
「「「はい?」」」
いつもの教室の一角で新情報を手に入れたと飛び込んできたブレッドの話を耳に居れようと俺とボグガード、フットパッド、グリッターら男連中が揃って耳を傾けた所、予想外の射撃を見回れて耳を疑った。
「いやさ。もう粘りにねばって教官に奥さんの写真見せてください! って言ったのよ。そしたら見せてくれたツーショットに写ってたのが教官と奥さんだったわけさ。んでよ、その奥さんが日焼けした肌にベリーショートでオメガ11より頭一つでかいガタイの良い女傑だったわけだよ。ヤバくね?」
「ヤバいな」
「教官の好みが」
「いやそれ教官の匙加減じゃん」
外野がとやかく言うことじゃないやん。
というのはそれこそ野暮か。
「んで奥さんとどういう出会いをしたんですか? って言ったらなんと奥さんは大陸戦争時のメカニックだったわけよ。しかもオメガ11専属の」
「オメガ11専属?」
「そう。なんでも出撃の度にベイルアウトしてひょっこり生きて帰ってくる訳だからもうその時の奥さんカンカンでさ、『機体もタダじゃないんだ! このスカタン!』って。気づけば専属になってたらしい」
「何機落としたんだ教官は」
「気づけば敵より整備士が怖くなったんだと」
「それはそうだ」
よくもまぁ、ほんと五体満足で生きてるな教官は。
幸運値カンストしてるよ絶対。
「そこから愛着が湧いてお付き合いを、と見たぞ私は」
「まさにそれだグリッター。大陸戦争、その先のメガリス要塞攻略の時に奥さんがこういったらしい。『無事に帰ってきたらアタシと付き合え』ってさ」
「漢前」
「そして例のごとくベイルアウトして帰ってきたオメガ11と見事くっついたってさ。んで、奥さんはヘリで帰ってきた教官を見るなり」
「抱き締めたのだな! ブレッド!?」
「またも正解。てかテンション高いなグリッター」
「愛あるところに私はありだ!」
「肝心のブラウニーはそっぽ向いてんぞ」
「言うなフットパッド………!」
鋭いツッコミで心にダメージを負ったグリッターは大袈裟にうずくまって見悶えた。
ウェザール空軍基地に来てからもう9ヶ月の月日がたった。夏が終わり冬を越え、ようやく寒さが落ち着いてきた。
その9ヶ月の間に数えきれないぐらいの練習。空戦機動をこなし。
今ではF-16Cは手足のように動かせるようになってきた。
そしてなんと、この強者溢れるこの基地の訓練生の中では俺がトップの成績を叩きだしていた。
教官機相手でもめったに負けることはなく。引き分けと撃墜の半々の成績に教官たちの舌を唸らせた。
自分でもまさかここまでやれるとは思わず。この結果を伝えられたアンソニーは電話越しでも上機嫌な声で「これからも油断するなよ」と言ってくれた。
交遊関係にも変化が出てきた。
ブラウニー、ブレッド、コーギーの基地配属時いつもの面々にボグガードとフットパッド、そしてグリッターが加わった。
ボグガードはクールな男だ。某映画の氷の男に似ている。それでいて腕前も抜群。
聞いたところによると、その某映画の氷の男に憧れて空軍を目指すきっかけになったという。
だがその憧れとは別段の厳しい現実にぶつかったが。たゆまぬ努力で乗りきった生粋の努力家という一面がある。
フットパッドは少しテンションが低いブレッドと言ったところか。低いといっても普通に比べたら高いほうで気の良いお調子者。
だがそのお調子者に似合わないぐらい飛び方がきっちりしていて、ボグガードの相棒を名乗るに相応しい腕前の持ち主。
そして最後にグリッター。
こいつは本当にテンションが高く。恋愛ごと、というより愛に対して異常な熱意があり。祖国オーシアへの愛情も並外れている生粋の愛国者。
ブラウニーに惚れ込んでるらしくいつも熱いアプローチをしているが既に意中の人が居るらしいブラウニー相手には空振りぎみ。
空戦機動に関してはここの訓練生の間では並み。度々失敗しては撃墜されることが多いのだが。恐ろしいのはその学習能力。
一度失敗したことは教官や対戦相手、果てはAWACS相手に対処法を聞き。次のフライトではきっちり直してくるのだ。努力が出来る天才型ということだろうな。
因みに最初はコネ入社という話だったらしいのだがそれは全くのデマで。親が大手企業の社長であることは間違いないが、ここには完全に実力で来たということがブレッド経由で判明した。
前者二人に比べて長文になったが、それほどキャラが濃いのだこいつは。まあ底無しに良いやつなんだけどさ。
今ではこの7人でよくつるんでいる。
お互い腕を競いあうライバルであり友人となっており、空戦機動の話や。時には今みたいに自称情報屋のブレッドが仕入れた情報に花を咲かせることがある。
そんな感じで俺の訓練生ライフは万事満了順風満帆! と言いたいが一つだけ悩みのためもある。
その目下の悩みがグリッターの元エレメントのマークェスことミハエル・シュールズベリー(親が防衛大臣)である。
元エレメントと言うと、あの初戦以来マークェスの方からグリッターに「君とのエレメントは解消だ!」と一方的にエレメントを解消された。
当のグリッターは「ハッハッハ、フラれてしまった!」と全然堪えることなく笑った。
なかなかの剛の者である。
そのミハエルはことあるごとに俺に突っかかってきた。
俺が優秀な成績を納める旅に「ただの偶然」「まぐれ当たり」と負け惜しみを言ったり。
トリガーはあーだ、こーだ。と、あることないことを風潮しているのだ。
そんな彼はまあ、他の人からあまり、いやはっきり言って好かれてはいない。
彼の周りにいるのは彼の家柄に媚びいる腰巾着ばかりで。本当に優秀なパイロット候補生は近寄らない相手にもしないという格差ぶり。
このまえコーギーに声をかけた時なんて「すいません。まったくタイプじゃありません」と満面の笑みでお断りを入れられて周囲の笑いを誘って本人は赤面しながら言語不明な言葉を言って逃げた。
一番の屈辱は俺に対する誹謗中傷が周りに全然浸透しないことだろう。
ブレッドが言うに「トリガーはマークェスと違って腕がある。そしてマークェスと違ってそれを鼻にかけない。更にトリガーはモテる。ハハッ、ここまで不公平なんて、同情するぜ」と更々する気もなく軽い感じで評価してくれた。
後半のモテる云々はともかくだが、そんな俺に益々嫌みったらしくちょっかいをかけてくるのだ。
それでも俺がベルカ出身だということはバラさなかった。
これは推測であるが。ベルカ出身というマイナスイメージより誉れ高きフリューゲル家というプラスイメージを知られることを危篤したのだろう。
なんといっても知名度が違うのだから。
「しかし整備士との恋かぁ。ありだな。俺もベイルアウトしまくれば女性の専属整備士にありつけるだろうか」
「こんな筋骨粒々の女傑でいいのか?」
「そこはまあブレッド様補正で可愛い子ちゃんがつくのさ」
「調子良いなお前は」
「ねえブラウニー。オーシアの女性整備士の割合っていくらだったかしら」
「私が知るわけないじゃない」
「なに。コーギーはパイロットからエンジニアに鞍替えか?」
「生憎私は骨の髄までパイロット志望よ、残念でした」
ベーと舌を出すコーギー。
そんな中俺は教官と奥さんの話に珍しく興味を示していた。
パイロットといういつ死ぬかわからない危険な職業。
整備士の立場という。戦場のそれに理解を示せるとはいえ、結婚に踏み込むというのは並大抵のものではない。
必ず生きて帰れることが約束されないのが戦場だ。
加えてこの世界ではいつ徴兵されるかわからないぐらい小さいものから大きいものである争いが今も渦巻いている。
いま俺たちが平和に談笑している間にも、着々と戦争の準備をしている奴らがいるかもしれないからだ。
思考にくれていると教室のドアが開いて教官が入ってきた。
散り散りになっていた生徒も会話を中断してそれぞれの席についた。
「諸君おはよう。今日も誰一人かけることなくこの教室に立っていることを誇りに思う。早速だが本題だ。今日から2週間後。オーレッドにて空軍主催の航空ショーが行われる。そこで君たちの中から航空ショーのアクロバット飛行部門と、模擬戦による空戦部門の人員が選ばれることとなった」
「てことは大衆の真上で飛ぶってことだよな?」
「そうなるな。しかも模擬戦と来たよ。やらかしたら赤っ恥不可避だな」
赤っ恥どころか末代までの恥になりそうだ。
よりによって首都オーレッドの空を飛ぶ。
オーシア軍人としてこれ以上ないほどの名誉ではあるが。
「まず、アクロバット部門の人員だ。今から名前を読み上げる。カークス、エリオン、ブレッド、コーギー。そしてグリッターだ」
「了解! この輝けるファイターパイロットにお任せあれ!!」
「今から緊張してきた」
「うぇ、俺呼ばれちまったよトリガー。やべーよ鳥肌が」
「オーレッドには美女がいるかもよ?」
「み な ぎ っ て き た」
単純思考で助かった。
「そして模擬戦部門だ。これには4機編成による時間制限付きの模擬戦となる。対戦相手はIUN国際停戦監視軍の強者たちだ。人員はフットパッド、ボグガード、ブラウニー。そしてトリガー。君たちにやって貰う」
「了解しました」
そうだとは思っていましたよ。だって成績上位者トップ4だもん。
しかしオーレッドかぁ。もしかしたらアンソニーも見に来てくれるかな。来てくれるといいな。
しかしIUN国際停戦監視軍。
大陸戦争でエルジアと争ったISAFの派生組織であるIUNは。その停戦協定がちゃんと守られてるかという監視目的と同時に、未だ混沌が吹きつつあるユージア大陸の治安維持に務めている部隊。
その人員は多国籍ではあるが8割はオーシアの人員。ユージアの各地に基地を構え。平和を守っています。という目的だそうだが。
ユージア大陸各地からオーシアの基地が身近にあることに不満の声をあげていることもあるという。
最たる例が混乱の源であったエルジアだ。最近ではエルジアの南側にあるセラタプラに立てられた軌道エレベーターもあって。なんともピリピリしてるっぽい。
あっ。そういえばクラウンって確かIUN国際停戦監視軍に所属してたよな?
「教官、一つ宜しいでしょうか」
「なんだブラウニー」
「私たちが相手をする飛行隊ってどんな部隊なのですか?」
俺が丁度聞こうと思ったらブラウニーが先に手を上げていた。
聞くところによると。ブラウニーの想い人はIUN国際停戦監視軍に所属してるらしいのだ。
「君たちの対戦相手は第506戦闘飛行隊ゴーレム隊、第508のメイジ隊から2機ずつ引き抜かれた混成部隊が相手となる」
「えっ!?」
「え、ちょ。すいません教官! いまメイジ隊と言いましたか!?」
「そのように言ったが?」
なん、なんだって!?
聞き間違いじゃないよな? 確認したし。
第508戦闘飛行隊メイジ。
ドンピシャもドンピシャ! クラウンが率いる部隊じゃないか!
えっ、ということは俺。クラウンと戦うのか!?
ブラウニーの方も大当たりを引いたようで。見たことないぐらい目を輝かせている。
いやほんと見たことないぐらい乙女な顔してるね委員長!? 一瞬誰かと思ったよ。
「各隊はIUNの中でも腕利きだ。模擬戦には隊長機両名が参加する。手強い相手ではあるが、そこで得られるものは唯一無二のものとなるだろう」
か、確定だぁ!
うわ、うわぁ。マジでクラウンと戦うのかよ俺!
やばい! 凄い興奮してきた!
もうブラウニーなんて顔赤くして放心状態だし!
あ、ミハエルが何か叫ぼうとして隣の人に口塞がれてモガモガしてる。
………ありがとうミハエル、落ち着いたよ。
多分最初で最後の感謝だろうけど。
「今日から四機編成での模擬戦を積極的に実地する。訓練期間はもう僅かだ。全てを糧として励み、無事に卒業できることを祈っている。以上だ!」
ーーー◇ーーー
「え? ゴーレム隊隊長のノッカーって人。ブラウニーの叔父さんなの?」
「うん」
演習後にブラウニーをカフェに誘った。
断られるかと思ったけどすんなりとオッケーしてくれた。
いつの間にか出来たブラウニーファンクラブの目線が怖いところであるが、そこは空戦でぶっ飛ばせば良いので問題ない。
「ベルカ戦争と環太平洋戦争を生き抜いた大ベテランよ。私の憧れの人で」
「ブラウニーの好きな人でもあると」
「………………不覚だわ」
あ、認めた。
まあ無理もなく、あの時のブラウニーはいつもより乙女成分がドバドバ出てたから。
「あの人から見たら私は何時までも姪っ子で。なんというか。致命的に鈍いのよ、彼の真面目な性格も相まって」
「歳の差だろうなぁ。でも教室の時のような顔を見せれば気づくとは思うんだけどな」
「あの人の前だと緊張で真顔になるの。それにだらしない顔も見られたくないし………」
難儀なもんだ。真面目すぎるというのも。
今現在のブラウニー見たら確実にギャップ萌え狙えるんだけどな。
「エンジニアになるべきかしら」
「迷走するな迷走するな」
「わかってるわよ、言いたかっただけ。はぁ。恋愛なんてこのかたやったことないからわからないのよ、そこんところ。トリガーは恋愛経験ある? あんた傷はあるけど顔は良いから一度ぐらいは」
「………………」
「どうしたの………あっ」
「また聞きたいか? 付き合って3日でベルカ人とバレてフラれた話を」
「ご、ごめんなさい。大丈夫、きっといい人見つかるわ」
「気休めどうも」
「ほんとゴメンってば」
やぶ蛇を撃ちまくった、とブラウニーは自身の軽口を後悔した。
……ブラウニーは、俺がベルカ人であることを知っている。
ハイスクールの頃からの知り合いであるブラウニーに打ち明けたのは。そうだな、丁度フラれた時か。
意気消沈したあの時に声をかけてくれたのがブラウニーで。そん時にヤケクソで自分がベルカ人だってバラしたんだっけ。
そんな俺にブラウニーは気にすることなく友人でいてくれた。元々彼女はベルカ人に対する差別に懐疑的だった。
『ベルカでもオーシアでも。フリューゲルでもパーマーでもあなたはあなたよ。人の人生は生まれや血筋だけで決まるものではないんだから』
自分自身でさえベルカという要素を毛嫌いしていた。
そんな中で言ってくれた彼女の言葉は間違いなく俺の励みとなり。結果的に父を知るためにベルカ公国へ行く決断が出来たのだ。
『こんにちは。OBCニュースのお時間です。本日、軌道エレベーター防衛用大型無人空中母艦アーセナルバードの2号機『ジャスティス』の離陸日となりました。現場のタイラー島と中継が繋がっています』
カフェのテレビのトップニュースが始まってカフェの客が軒並みそれに釘付けになった。
エルジア王国の南部にあるマスドライバー施設が設置された軍事基地の映像が出た。
テレビにはアナウンサーと、マスドライバー施設。そしてなんとも巨大な機械の鳥が鎮座していた。
『はい、こちらタイラー島のマスドライバー発射施設に来ております。見て下さい、あのアーセナルバードの勇姿を! 灯台の守人として飛び立つ巨鳥はここからでも迫力満点です!』
「ああ、今日だっけ。アーセナルバード2号機の離陸」
アーセナルバード。
ユージア大陸西南部のセラタプラに建てられた灯台、天高くそびえ立つ国際軌道エレベーターの防衛機構としてオーシア主導で開発された無人航空機。
いや、カテゴリーは航空機というより航空母艦だろうか?
ただし格納されてるのは有人機ではなく、小型の無人機であるMQ-101。問題はその数で総数がなんと80機!
しかもアーセナルバードは軌道エレベーターの太陽光発電から得たマイクロウェーブを受信してエネルギーを充電することで、一度飛び立てば二度と着陸することなく24時間365日休まず飛びつつけることが可能という末恐ろしいものとなっている。
それほどまでに防衛しなければならないものが。先に言っていた軌道エレベーターだ。
国際軌道エレベーター
ユリシーズ落着や大陸戦争で疲弊したユージア大陸復興を目的とした、全長12000mを誇る巨大なエレベーター。
2011年、オーシアのハーリング大統領の主導でISEVという国際軌道エレベーターを作る会社が立ち上げられ。70ヶ月、即ち5年と10ヶ月かけて作られた。
静止軌道に太陽光発電施設を備え。雲の上から照らされた太陽光から得られた莫大な電力をユージア大陸全域に行き渡らせるという。まさに大陸のエネルギー問題を一挙に解決させることが出来るという。
だがその巨大な発電所とも言う物を世の不埒な輩が放っておく道理もない。
ひとたび悪意のある者の手中に収まれば、たちまちそれは新たな戦争の道具にされる。
そうならない為に作られたのが二対の巨鳥、アーセナルバードということだ。
更にオーシアは元からあったIUN国際停戦監視軍を更に増強し、軍事力が低下したユージア大陸に変わって軌道エレベーター防衛の任を任されたということだ。
因みに軌道エレベーターには宇宙活動用のプラットホームがあり。宇宙開発による拠点としても使われるとのことだ。
「大きいわよね。あんな代物が無人で空を飛んでるなんて。凄い時代になったわね」
「というより、あれもベルカの技術が入ってるからなぁ。開発にはノースオーシア・グランダーI.Gが関わってるし」
ノースオーシア・グランダーI.Gという会社は、まだまだ記憶に新しいだろう。
元々ベルカ地方だった南ベルカがノースオーシアとなって名前を変えた、ベルカの軍事企業。
世界中に先進技術を伝え、幾多の兵器の基盤を持つもの。
環太平洋戦争では反オーシアであるベルカ過激派の根城として、オーシア、ユークトバニアを混乱に陥れるための礎となった場所。
『それでは、ノースオーシア・グランダーI.Gユージア大陸支部の社長であるヴォーダン・フォルクマール氏にお話を伺いましょう。フォルクマールさん、今回のアーセナルバードの打ち上げについてどのようにお考えですか?』
『ええ。今回のアーセナルバード『ジャスティス』が飛び立つことで。灯台の守り手であるアーセナルバードは2機となる。これはアーセナルバードの防空圏が飛躍的に広がることを意味します。この2機とユージアの戦力、そしてIUN国際停戦監視軍による防備が合わされば。ユージア大陸の平穏は磐石の体制となりましょう。ハーリング元大統領の発言から幾星霜。ようやく形となったことに、一技術者として大変誇りに思います』
アナウンサーのインタビューに応じる初老の男が心から嬉しそうに話している。
それから熱が入ったかのように軌道エレベーターやアーセナルバードによる影響や危険性を話し始める彼を。
俺は少し冷ややかな目で見ていた。
「あの戦争が起きてから、ノースオーシア・グランダーI.Gは直ぐに解体されると思ったよ。だけど残った。あそこの技術は皆が欲している。彼らが開発した航空母艦のノウハウはフレスベルクからエストバキアのアイガイオン。そして今はあのアーセナルバードに受け継がれている」
「皮肉なものよね。世界中の人たちがベルカを差別してるというのに。その技術だけは使えるから使っている」
「虫のいい話だ。ブラウニー、俺には環太平洋から8年たっても。まだ奴らの手の平の上で踊ってるように見えて仕方ないよ」
「疑わざるえない。ベルカを抜きにしてもあそこはきな臭いもの。あ、トリガー見て。アーセナルバードが飛ぶ」
テレビ画面に入りきらないほどの大きさを誇るアーセナルバードがマスドライバーの上を進む。
マスドライバーの電磁カタパルトだけではあの巨体を飛ばすことが出来ないのか。後部にスペースシャトル用のロケットブースターが炎と煙を放って………飛んだ。
まるで紙飛行機を飛ばすかのように大空に翼を広げたアーセナルバードは、姉妹機が守るアーセナルバードとコンタクトを取りに行った。
「無人機か………やっぱ俺は、好きになれないな………」
「トリガー?」
「なんでもない」
いち兵士見習いが言っても仕方ない。
俺はただただ飛ぶだけ。そして探すだけだ。
空と一つになれる場所を。
ーーー◇ーーー
ユージア大陸東部の最北端の島にあるIUN国際停戦監視軍の軍事基地、フォートグレイス島。
その格納庫に繋がれたテレビをスポーツ観戦ばりに拳を動かしながら見ているクラウンがいた。
「おー! 飛んだぞ! アーセナルバード!」
「飛びましたね、クラウン」
「いやー。あんなでかいのが飛ぶってのは中々ロマンがあるな」
「あれが俺たちの敵とならないことを祈らないと、ですね」
「怖いこと言うなよファウン」
気楽に構えていたクラウンは老け顔の男、ゴーレム隊2番機のファウンの言葉に背筋を震わせた。
30代前半であるにも関わらず貫禄のあるその姿はその貫禄の通りに物静かで俯瞰的に戦場を見れる頼りになるパイロットだ。
「それよりも、だ。俺的にはこっちの方が気になるんだな。これがな」
アーセナルバード離陸という一大イベントよりも興味を引かれたのは。先ほどオーシアのウェザール基地から送られた書類だった。
さっきはあれほど熱中していただろうに、と少し呆れながらクラウンが持つ書類を横から見た。
「オーレッドの航空ショーの奴ですね? 訓練生がアグレッサー役の」
「あぁ、そのメンバーさ。中々の粒ぞろいのな」
「誰か気になる人がいるので?」
「お前も耳に挟んだことがあるだろ? オーレッド訓練校の『大馬鹿野郎』の話」
「………あー、ホークでバレルロールとかコブラもどきとか三回ループをしたとかして周りを卒倒させた。まさかそいつが?」
「その通りだ。この2番機のリヒト・パーマー。こいつがその大馬鹿野郎さ」
トントンとリヒトの写真を突っつく。
顔に傷を持ちながら真っ直ぐな目線を写真越しからこっちを見ているその写真に自然と頬が緩んでしまう。
(とうとう此処まで来たんだな、リヒト。これは真剣にうちに入ってもらえるかを検討しないとな)
正規軍と訓練生の模擬戦など、無茶無謀にもほどがある。
だがこれに選ばれるということはそれだけの成績があるということを物語っていた。
2番だから上から2番目なのだろうか? いや、指揮能力に優れた者を隊長に置いているのかもしれない。
「リヒト・パーマー。パーマーって、もしかしてソーサラーの息子さんです?」
「いや、養子だ。まあそこんところは、な?」
「了解です。しかしクラウンがそこまで言うなら、油断できませんね。気を引き締めていかないと」
「オイオイ。なに情けないこと言ってんだ? 相手はたかが訓練生だろ?」
心底呆れた、という声色を溢しながら歩いてきたのは金髪碧眼の伊達男だった。
パイロットスーツを着崩しに着崩したその姿はだらしなさの現れか、はたまた何者にも負けないという確固たるメンタル故なのか。
「なんだ。貴族様はもう勝った気でいるのか?」
「当たり前だろ。俺たちは世界を守るIUN国際停戦監視軍様だぜ? ひよっこごときに負けるわけねえだろうが」
「しかし新人だからといって侮ってはならないのでは? 環太平洋戦争の英雄、ラーズグリーズ隊と称された彼らも。元々はサンド島の訓練生でしたよ?」
「ファウンよぉ。そいつはオーシアのプロパガンダだぜ。まだケツに毛が生えてないルーキーがそんな英雄部隊になれるものかよ。夢見すぎなんだよお前は」
貴族様と呼ばれた男は現実的な意見でファウンを制したが。本心ではそれを認めたくないだけなのでは? とクラウンは彼の胸の内を見定めた。
なにしろこの男は由緒正しき家柄の男らしく自尊心が強い。基地内でもあまり協調性がなく。クラウンも彼が入ってからも手を焼きつつもちゃんとやっている。
しかし腕はピカイチ。これまでの撃墜数はフォートグレイス基地でも目を見張るもので。正にエース級と称される腕前なのは間違いなかった。
「だからそう気を張るものじゃねえって。ギャラリー向けに魅せプレイをしたあとに華々しくオールクリアする簡単なお仕事さ。チョロいチョロい」
「そういう油断が隊を全滅されるんだ。何度言えばわかるんだメイジ2」
「うげぇ!?」
金髪碧眼の伊達男が背後からのバリトンボイスに飛び上がった。
「お前の腕前は評価してるがな。もっと気を引き締めないと足元を救われるぞ」
「はいはいわかったわかった。あんたの説教はもう勘弁したいんだがな」
「ノッカー。もう会議は終わったのか?」
「ああ。俺たちはオーレッドの航空ショーの2日前にオーレッドに出向く。それまでに編隊飛行の訓練を厳となせ。くれぐれも無体を晒すな。と司令部からのお達しだ」
「はーー。しかし面倒だな。なんでオーレッドと真反対のとこからわざわざ行かないと行けないんだか」
「今年はうちの出番ということだけだ。文句を言うな」
ヘイヘイとそっぽを向く彼にため息を吐くゴーレム隊隊長のノッカーにクラウンはメンバー表を見せてきた。
「見ましたか編隊長。航空ショーのアグレッサー隊のメンバー。一番機はあなたの姪っ子さんですよ」
「ほぉ、あの跳ねっ返りが御大層に小隊長か」
「お会いになるのは久しぶりでしょう?」
「あぁ。どれだけ成長したか見定めないとな」
「楽しみですね。隊長。俺たちも負けられません」
ファウンの言葉に短く頷く隊長二人を横目にしながら貴族様はつまらなそうに空を見上げていた。
ピー! ピー! ピー! ピー!
突如鳴り響く赤ランプ。
談笑に満ちていた部屋が一瞬で緊迫とした空気に変わり。男たちは聞こえてくるであろうアナウンスに耳を傾けた。
『フォートグレイス基地から方位020よりアンノウンが接近中。スクランブルだ! 待機要員は直ちに発進せよ! 繰り返す!』
行くぞ! と発しながらパイロットは自身の愛機に飛ぶように向かった。
クラウンも自身のF-16Cに乗り込んで機体のチェックに勤しんだ。
「最近多いですねスクランブル」
「またフィッシュベッドだろ。俺のスコアの足しにさせてもらうさ」
「メイジ2、気を引き締めろと言ってるだろうが」
「まあまあ」
まるで緊張感のないメイジ2をゴーレム1が諭す。
この基地お馴染みの光景と共に戦闘機の発進シークエンスが着々と進められていく。
「メイジ2」
「んだよ」
「ノッカーはああ言ってるがな。本心ではお前の腕を認めてるんだ。だから」
「わーってるよ。頼むぜクラウン。あんたまで説教臭くなったらもうこの基地俺の居場所なくなっちまうぜ」
「聞こえてるぞメイジ2。帰ってきたら個人特訓してやろうか?」
「勘弁してくれ!」
「ハッハッハ」
ゴーレム隊2機のF/A-18Fが滑走路からテイクオフ。
続いてメイジ隊のF-16Cも滑走路に向かう。
「なあ隊長。今回の2番機の大馬鹿野郎。俺がもらうぜ」
「なんだ、ちゃんとチェックしてるんじゃないか」
「うっせぇ。俺も個人的に興味あるんだよ。あんたには悪いが、そいつは俺が落とすぜ」
「それは頼もしいな。なら俺は高みの見物と洒落込ませてもらうかな?」
「任せな。田舎侍に負けるほど落ちぶれていないことを証明するぜ」
その田舎侍がベルカ騎士の末裔だと知ったらどんな顔をするかな?
クラウンは自分の軽い口を必死に結びつけながら滑走路を走っていった。
「メイジ1。システムオールクリア。今回も頼りにしてるぜ? ───
「ああ。万事お任せ、ってな」
底知れぬ自信を持ちながらカウント、メイジ2のファルコンが空に上がる。
運命のファーストコンタクトまで。
あと少し。