エースコンバット7 FLIGHT REZON 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
STAGE12【
「なあトリガー」
「んー」
「暇だな」
「暇だねえ」
「なんか面白い話しろ」
「フットパッドの黒歴史とか?」
「それ俺が話す流れじゃん」
オーシア北部のウェザール基地から既に数時間たった。
戦闘機より格段に遅い輸送機の中で揺られながらフットパッドが愚痴る。
「てかそんな退屈なら寝てなよフットパッド」
「アホ言うな。いつこの機が狙われるかわからないのにオチオチ寝られないだろ。最近ユージア大陸騒がしいらしいしさ。何が起きるかわからん」
「いま俺たちが狙われたら間違いなくお陀仏ってことは確実だな」
「パラシュートの位置確認しとけよ」
「怖いこと言うなよ!!」
「あんたたち静かにしなさい」
委員長の鶴の一声に押し黙るフットパッド。チラッとパラシュートの位置を確認することも忘れない。
なんでコイツがこんな心配してるのかと言うと。
今俺たちはユージア大陸南海の上を飛んでいる。
これから向かうフォートグレイス飛行基地はユージア大陸の最東端に位置する場所。
オーシア大陸の北端にあるウェザール基地とは見事に真逆の位置にある。
なのでこの輸送機はオーシアの真上を通過してサピンの下をいき、そのままユージア大陸南をグイーーと迂回して飛行する。
左手を見れば世界的に比較して小さめのユージア大陸が見えているのだ。
まあ最後まで輸送機で行くという訳にも行かず。途中でアルバトロスという空母が停泊してる基地に着陸して。そこから空母でフォートグレイスに行く流れとなっている。
そしてユージア大陸が不穏というのは。最近ユージア大陸で所属不明機が数多く目撃され、IUN国際停戦監視軍が騒がしくなってるということ。
もしここで所属不明機に出くわしたら? いまこの輸送機を守るのは本土から護衛を任されたスーパーホーネット3機。彼らに任せるしかない。
まあユージア大陸南側にはIUN国際停戦監視軍が転々と配置されている。いざとなればそこから援軍が来るだろう。
「おい坊主ども、こっち来てみろ。面白いもんが見えるぞ」
俺たちと一緒に乗ってきたメカニックらしき男がこちらに手招きする。
シートベルトを外して真反対の窓に張り付くと、遠い空に白い大きな翼がゆったりと飛んでいた。
「うぉ、アーセナルバードだ! ジャスティスか? リバティか?」
「外見じゃわからないな」
「ここはアレの防空圏ってわけか」
「そういうことだ。だからもしオイタしてくる奴らが来てもアーセナルバードが守ってくれるぞ。ラッキーだな、ルーキーども」
どうやら先程の会話を聞かれていたようだ。
それなら安心だとフットパッドはドカッと椅子に座り込んだ。
アーセナルバード。軌道エレベーターを守護する二対の鳥。
味方ならこれほど頼もしいものはないだろう。
だがエルジアやユージアから見たらどうなるだろう。もしその力が自国に向いたらと考えたらどう思うか。
怖いと思う、恐ろしいと思う。
何故なら、味方である俺も、遠くにいるアレが恐ろしく見えたのだから。
ーーー◇ーーー
空母アルバトロスが停泊している基地で一泊。さほど揺れなかった空母の中で少しだけ長い船旅の末、フォートグレイス基地に到着した。
外に出ると、穏やかな潮風が塩の匂いを持ってきて、鼻腔をくすぐった。
小さい島と地図で見たが、地上からはそれを確認できない。目の前にはドッシリと構えた滑走路が2本。
少しだけでかい山と管制塔。
緑が溢れた雰囲気の良い基地だった。
陸に垂れる階段を降りて出迎えてくれたのは。
そう、クラウンとノッカーだった。
「ユージア大陸の最果ての地、フォートグレイス基地にようこそ! 会える日を楽しみにしてたぜ」
「お世話になります。今後ご教示のほど、宜しくお願いいたします!」
「うん。活力があるのは良いことだ。最近のIUNは何処か弛んでるから有力な若者が入ってくるのは本っっ当に嬉しい。頼りにしてるぞ!」
「クラウン。新入りを必要以上に持ち上げるなと何度言えば分かるんだ?」
「やだなぁ、編隊長。自分は事実を言ってるだけですよ? 隊長だって嬉しいでしょうに」
「使い物になるなら、な」
渋いハードボイルド感が強いノッカーが俺たち四人一人一人に目線を合わせた。
「お前たち、俺から言えることは一つだけだ。これからお前たちはユージアの空を飛んでもらうことになるが、とにかく『生き残れ』。恥をかいても泥臭くても生き残るんだ。死ねばそこでなにもかも終わりだ。二階級特進なぞなんの意味もない。とにかく生き残るんだ。人道に背かない範囲でな。分かったか」
「「はい!」」
「生き残ること、これがフォートグレイス基地の鉄の掟だ。無理して死んだら元も子もない。いまのご時世、戦争ばかりでただでさえパイロットが少ないからな。勇んで死にに行くなよ、お前ら」
「「はい!」」
「良い返事だ。ではついてこい」
手荷物とキャリーケースを引っ張ってノッカーについていく。
滑走路の近くには微かに残るケロシン燃料の匂いが鼻につき。快晴の太陽の熱に滑走路の景色が揺れていた。
「よっ」
いつの間にか隣にいたクラウンが片手を上げて挨拶してきた。
最後に会ったのは3ヶ月も前なのに、久しぶりな気がしないのは。この人の良い笑顔のせいもあるだろう。
「まさか此処に配属されるとは思わなかったよクラウン。本当に上司に提言したのか?」
「当たり前じゃないか。お前は間違いなく光るものを持ってる。だからヘッドハンティングしたんだ。なにせ此処は小さいながらも
「ニューアローズ基地よりも重要だったり?」
「状況によっては、かな。とにかく人員は欲しいんだ。上はこんな最果てまで兵を増員させるのが渋いのか乗り気じゃない。だからほんと助かってる。あっちの方は大国ユークトバニアだからな」
確かにフォートグレイス島から東にずっと行くとユークトバニア大陸がある。
もしユークトバニアがユージア大陸に進行するとしたら、矢面に立たされるのは俺たちになる。
オーシア西のサンド島みたいだな。
だけどあの環太平洋戦争のあとだ、ユークトバニアも馬鹿な真似はしないと思いたいね。
「トリガー、内約はあとだが。お前は俺の2番機になる」
「俺がクラウンの2番機? あれ、この前の2番機の人は?」
「…………あいつは異動になったんだ」
異動。あの若手エース様はいないのか。少し残念だな。
何処に行ったのか? と聞こうとしたが。クラウンの横顔は何処か陰りがあった。何か複雑なことがあったのだろうかと思い。これ以上の詮索はやめることにした。
「あとゴーレム2のファウンなんだが。この前怪我してな。全治三週間ときた。他の奴らはごっそりクラウンのゴーレム隊に組み込まれる。だからお前とはツーマンセルだ」
「ツーマンセル、か」
ラリーのガルム隊も2機編成だったな。
こじつけだけど。ちょっと共通点があって嬉しい。
「勿論僚機の届け出は俺が出した」
「やっぱり」
「今からでもTACネーム変えてもいいぞ? ジェスターが嫌ならバージルにでも」
なんと、まだ俺のTACネームは諦めてなかったなかったと見える。
生憎俺のトリガーは変えるつもりはない、もうエンブレムのデザインも頼んでるし。
冗談にしては本気で考えてそうなクラウンの話題をどうにか反らそうと頭を回そうとする、その時だった。
『基地戦闘員につぐ。直ちにブリーフィングルームに集合せよ。繰り返す、基地戦闘員は直ちにブリーフィングルームに集合せよ。整備員は航空機のチェックを急げ………』
突如館内放送が発せられ、基地の空気がガラッと変わる。
バタバタと慌ただしい足音がそこら中に響き渡り、朗らかに笑っていたクラウンも険しい表情でスピーカーを睨み付けていた。
「コンディションオレンジ? スクランブルではないが、何があった?」
「考察はあとにしろ。お前たち、荷物はここに置いていけ、ブリーフィングルームに行くぞ!」
「りょ、了解!」
うーむ配属初日でトラブルとは。幸先不安だなぁ………
駆け出す彼らの最後尾で心の中で愚痴った。
この時、どこかのんきに構えていた俺は夢にも思わなかったんだ。
後にこれが、歴史に刻まれる大きな戦争の。
始まりに過ぎないと言うことを。
ーーー◇ーーー
「情報は確かか?」
「だとしたら一大事だぞ」
「ダルすぎるな」
「首謀者は誰なんだ? 国じゃないよな?」
「まさかそんな………」
「他の国際停戦監視軍は大丈夫なのか?」
駆け足でブリーフィングルームにつくと『ザワザワ』という擬音が目に見えるぐらいざわついていた。
そのせいなのか。俺たちパイロット組が入ってきたことに気づいたのは室内のうち半数ぐらいで、皆各々が持つ情報や噂を話すことに夢中だった。
空いてる席に一塊で座ると同時に4、50ぐらいの男と秘書らしき男性が入ってきた。
「彼がここの司令官だ」
彼が司令官か、やり手のキャリア風な人に見える。
司令官が壇上に立っても部屋のざわつきが収まらなかった。
何人か司令官に気づいたが、大半は各々が手に入れた情報を明かすことに必死だった。
「集まったかね? 落ち着いてくれ………静かにしてくれ!」
力強い言葉にやっとのことでざわつきが収まり。みんな少し慌てて席についた。
準備が出来たことを悟り、司令官軽く咳払いをする。
「ブリーフィングを始める。諸君らは国際停戦監視軍の一員として、
重苦しく絞り出した司令官の言葉と共に、背後のブリーフィングソフトが立ち上がった。
ユージア大陸が半ば立体的に写し出され、衛星と思しき光点からシャワーのように情報が降り注いだ。
「先ほど、我が国際停戦監視軍のレーダーサイトが、接近する所属不明機群を通報してきた。直後当該レーダーサイトからの通信が一切絶たれた。所属不明機による攻撃を受けたものと判断する」
ユージア大陸の一部、フォートグレイス島から見て左側の出っ張った大陸が。攻撃を受けたと表す赤い範囲を映した時。俺は、いや新米組は息を飲んだ。
そこは空母アルバトロスが停泊し。昨日俺たちが寝泊まりした基地があるシールズブリッジ方面だったからだ。
続いて写し出された写真にはMiG-21bisと、戦略爆撃機Tu-95、通称『
それを見て俺たちは護衛機のついた爆撃機。そしてシールズブリッジはそれに襲われたということを否がおうにも理解させられた。
「任務を伝える。このユージア大陸における停戦協定が十数年ぶりに破られた可能性がある」
淡々と語る指揮官の衝撃的な言葉に先程の比じゃないぐらいに部屋がざわついた。
その意味は、何処かがIUNに対して戦争行為を働いた可能性を示唆したということだからだ。
ユージア大陸の平和という均衡が崩れ去る。それがどれ程恐ろしいことか。
「国際停戦監視軍フォートグレイス基地飛行隊は、本日をもって重警戒序列に移行! 出撃命令を受けた隊員は当該地域へ緊急飛行し、所属不明機の発見。捕捉、威嚇射撃を以って、強制着陸せしめよ。もし敵から反撃を受けた場合、そのときには……」
撃墜せよ。と司令官の言葉は続かなかった。
ざわつきを静めるには低いくぐもった音。爆発音が遠くでなったように聞こえたのだ。
「なんだ!? 爆発か!?」
窓から近い男性が思わず窓の遮光カーテンを取り払った。強い光に一瞬視界が白くなった後。その先には………
「おい。煙が上がってるぞ!」
男の声にたちまち部屋に動揺が伝播した。
遠くで狼煙よりも濃い黒煙が天に延び、それは途切れることはなく………
目に見える緊急事態に秘書の男性が直ぐに固定電話を取り、管制塔の言葉を頭に入れ込んだ。
「攻撃を受けています! 複数の所属不明機を上空に確認!」
「上空に!? 馬鹿な」
「北部のタンクファームが爆撃を受けました! 負傷者多数!!」
「スクランブルだ! 各機はただちに離陸し当基地へ攻撃を行う所属不明機を排除せよ! これは訓練ではないぞ! さあ行け!!」
司令官の指示を受け、我先にとブリーフィングルームを後にしようとする。人の波に呑まれそうになるところをブラウニーが引っ張って戻してくれた。
結局俺たちは最後らへんに部屋を後にし、格納庫がある場所に急いだ。
「くそぉ! 配属した瞬間にスクランブルかよ!」
「ぼやくんじゃないの!」
「隊長、俺たちも上がるんですよね?」
「当然だ。トリガー、お前はクラウンについていけ。他は俺と一緒に来い!」
「了解、うわっ!」
また爆発音。今度は近かった。
伏せろ! と誰かの声を聞きその場で踞る。
もしこうやって踞ってる間に真上に爆弾が落ちてきたら? そう考えると一気に震えと寒気が込み上げた。
思わず神様! と叫びたくなるのを必死に抑える。
断続的な爆撃がやむと、恐る恐る顔を上げた。
「近かったな。みんな大丈夫だな?」
「おい、あそこ空母があったとこじゃねえのか!? 煙上がってるとこ」
「ひよっこども! 急ぐぞ!」
「了解!!」
ーーー◇ーーー
「来たな雛鳥! 期待の新人はお前か! なんでも良いが早く上がってくれ!」
「わかりました!」
初めての戦闘態勢に足がフワフワする。
クラウンと一緒に飛び込んだ格納庫には訓練生時代にも慣れ親しんだF-16Cが2機いた。
「待て待て! お前の機体はそっちじゃねえぞ! 狼の方だ! 狼のエンブレム!」
「す、すいません!」
「落ち着けよトリガー。こういう時こそ深呼吸だ。大丈夫、爆撃機はしばらく来ないからな」
「はい」
こんな時にもクラウンは全然動じてない。
飄々とした印象のある彼だが。彼がベルカ戦争と環太平洋戦争を生き抜いたベテランであることを改めて確認する。
エンジニアのおっさんに背中を押された先のファルコン。
その垂直尾翼には真新しく塗られた俺だけのエンブレムあった。
犬歯をむき出しにしたオレンジ色の狼。その口許にはリボルバーが加えられ、犬歯は引き金のところに差し込まれている。
首もとには赤いリボンで『TRIGGER』と書かれている。
出来ればもう少しじっくり見たかったが今はそれどころではない。このコンマ秒の遅れが戦場では命取りなる。
「各計器チェック完了!」
「よし! マートンさん! 開けてくれ!」
「よぉし! 頼むぞメイジ隊!」
電動音と共にハンガーのシャッターが開き、戦場が顔を出した。
「レーダーサイトは依然沈黙!」
「スクランブルだ! 早く空に上がれ! 狙い撃ちされるぞ!」
「何が起きた? 状況は!?」
「爆撃機が飛来! 機数は不明!」
開いた通信は混雑していてパニックに陥っていた。
まさか基地が狙われるとは夢にも思わなかったのだろうか?
「こちら管制塔! メイジ隊は滑走路に向かえ! ゴーレム隊テイクオフ、スカイキーパーは既に空に上がっている。リンクを確立せよ! メイジ隊は離陸を急げ!」
キャノピーの外の景色は所々黒煙が上がっている。
戦闘ヘリや戦車も動きだし。機銃とSAMも稼働し始めている。
「トリガー、お先に行くぜ。メイジ1出るぞ!」
「トリガー、君のコールサインはメイジ2だ。確認し、復唱せよ」
「こちらトリガー! メイジ2、了解!」
「よし。メイジ2、離陸を許可する。着任したばかりですまないが、君の確かな腕が必要だ。オーシアのエキシビションは私も見た。頼むぞ!」
あの空戦を見てくれたのか。
期待してくれるのは有り難いが。俺が戦場を経験したことのない温室育ちってことを忘れてるような気がするのは気のせいかな。
期待と切望に満ちた管制官にプレッシャーを感じていると。既に飛んでいるノッカーが割り込んできた。
「管制塔、悪いがさっさとそいつを上げてくれ」
「すまないゴーレム1。聞こえたなメイジ2。先行してゴーレム隊4機と君の僚機が上がっている。離陸し、僚機であるメイジ1と合流せよ」
「ウィルコ」
胸に手を当て。一度深呼吸。
目を閉じて見開き。握る手に力を込めて。押し出した。
「メイジ2。テイクオフ!」
「グットラック! メイジ2」
管制塔に送り出され。リボルバーを咥えた狼のエンブレムを刻んだF-16Cが滑走路を離れた。
眼下には、タンクファームと思われる施設と。
十数分前に乗っていた空母アルバトロスが黒煙を上げていた。
「アルバトロスが………港湾施設も酷くやられている模様」
「これ以上の被害を出すな、食い止めるぞ! メイジ2、お前はメイジ1とエレメントを組め。各機、ビジネススタートだ。ゴーレム隊、行くぞ!」
「了解!」
「ゴーレム3了解。フットパッド、慌てて海に落ちるなよ」
「あいよ相棒。今ほどお前のクールな性格に安心したことはねえよ」
俺もお前の明るさに救われてるよフットパッド。
みんな表面上は大丈夫そうだな。
「こちらAWACSスカイキーパー。各機とのリンク良好。聞こえるな?」
フォートグレイスのAWACS。
スカイキーパー、オーシアの演習で管制してくれてた人か。
「侵入した所属不明の爆撃機を全機撃墜せよ。護衛機の数は多くない。先の攻撃でレーダー設備をひどくやられた。各機の奮闘を期待する、頼んだぞ」
「ウィルコ。今日はひよっこが揃って飛んでる。そいつらを気にかけておいてくれ」
「了解だ、ゴーレム1。各機、こちらからの通信には耳を傾けておいてくれ。初陣だが、こちらも生き残れるように尽力する」
「ウィルコ。スカイキーパー。頼りにさせてもらいます」
戦場にAWACSがいるというのは。空戦に置いて絶対的なアドバンテージとなる。
AWACSが情報を細かく見てくれるおかげで、作戦方針。新手の戦闘機の情報にも注視してくれる。
つまり、俺たちは意識の大半を戦闘に集中出来るということだ。
前方にクラウンのF-16Cが見えた。
右翼の位置に機体を持っていき、編隊飛行に移行する。
「トリガー。さっきも言ったが、ここからは俺とお前でメイジ隊だ」
「了解。メイジ2、メイジ1の指揮下に入ります」
「フフ、そこまで固くならなくてといいぞ。適度に力を抜いていけ。視野を広く持つんだ」
「わかった、クラウン」
「よし、目標の敵爆撃機を探すんだ。トリガー、前に行け。俺がサポートする」
了解と同時に加速して敵の爆撃機の方に向かった。
空は快晴。太陽の光は、海に反射してキラキラと光っている。
右下にはユリシーズによって島の大半が吹き飛んだと思われるユージア大陸最大のニューマン・クレーターが顔を出していた。
「トリガー、お前は腕が良いってことになってる。お前を2番機にしたくて隊のみんなに猛アピールしたからな」
「なんか変に周りから期待されると思ったらそういうことか!」
「気に触ったなら後で謝ろう。だがそれだけ俺はお前を買っているんだ。だが無茶はするなよ、危険と判断したら何時でも俺を呼べ。お前は一人じゃないからな」
まったくこの道化師様は。
クラウンの工作にため息を吐きつつも。俺は一切気を緩ませてはいなかった。
だけど少しだけ張っていた肩が下がった気がする。どうやら俺の隊長様は教官向きな性格をしてるようだ。
………見つけた。10000m先に敵の爆撃機、Tu-95が見えた。
あれが基地やアルバトロスをやったのかは定かではないが。撃墜することに変わりはない。
「爆撃機、目視で確認」
「よし本番だトリガー。お前の腕をもう一度見せて貰おう」
スロットルを目一杯倒し。加速。
限界速度を発揮したファルコンと爆撃機の距離はみるみる近づいていく。
4000、3000、2500………射程距離、入った!
「メイジ2、FOX2!!」
引き金を引き、2本のミサイルが機体から離れた。
戦闘機より遥かに速いミサイルは排気煙を吹きながら飛翔し、爆撃機に突き刺さった。
黒煙を吐き、細い胴体と翼は千切れとんで空中で爆散した。
搭乗員が脱出したようには見えない。確実に死亡しただろう。
「敵爆撃機の撃墜を確認。いいぞ メイジ2」
「やるなぁ! メイジ2」
スカイキーパーとクラウンからの称賛が降り注ぐ。
だが俺はその称賛に答えることが出来なかった。
身体が震えた。
初めて人が乗る機体に攻撃し、撃墜した。
今ので何人死んだのか。正直考えたくはなかった。
俺は初の撃墜マークに喜ぶよりも。自分の手で他人の命を奪ったことに恐怖した。
それは戦闘に置いて間違ったことなのだろうが。それでも俺は現実を直視してしまった。
「トリガー。もう少し喜んでもいいんだぞ。行きなり撃墜なんて出来るようで出来ないもんなんだ」
「はい………」
(早速堪えちまったか。無理もないが、これが現実だ。乗り越えないとお前に明日はないぞ、トリガー)
トリガーは命の重さを知っている。そしてそれを奪った罪悪感も持ち合わせている。
だが戦場で迷いを持ち込めば等しく死ぬ。嫌でも切り替えないと行けない。
だからあえてクラウンはそれに触れずに指示を出した。
「よしトリガー。レーダーを切り替えろ。敵を探すんだ。まだ戦闘は続いてるぞ」
「わかってる。大丈夫だクラウン………敵、方位280。数4」
「いいぞ見つけた。いただこう」
左に旋回して敵機に向かう。
既にその一団はブラウニーたちゴーレム隊が追い回していた。
HUDの正面に敵はいない。下にもいないということは。上か!
「随分と高いところを飛んでるな。向こうの高度に行くとしよう」
クラウンに促されてピッチアップ。
重力に逆らうように速度を上げ。高度2500まで上がった。
ベアが2機と、MiG-21bis フィッシュベッドが2機。
「コイツには護衛機がついている。トリガー、どっちをやる?」
「まず爆撃機を落とします」
「わかった。護衛機は任せておけ」
ゴーレム隊の間を通り抜け。爆撃機のケツにミサイル。片方に機銃をお見舞いする。
爆炎を上げて落ちる爆撃機を横目に。俺の機銃がもう一機の爆撃機を蜂の巣にした。
「目標の撃墜を確認、メイジ2。良い調子じゃないか」
『なっ、一瞬で爆撃機が落とされただと!?』
『あいつだ! あのF-16Cだ! くそっ、よくも!』
「おっと、余所見とは余裕だな!」
意識を取られた敵のMiGがクラウンのミサイルで落とされる。
もう片方もブラウニーのF/A-18Fから放たれたミサイルに落とされた。
「ヒュー。実戦でもトリガーは凄いな」
「ああ、やはりアイツは俺達とは別格か」
「各隊。新たな爆撃機が出現、迎撃せよ」
「ウィルコ」
「トリガー、落ち着いていこう。お前の腕なら十分やれる」
「クラウン。ひよっこを持ち上げるな。そういうのは終わってからにしろ」
「生憎俺は褒めて伸ばすタイプなんでね。行くぞトリガー」
再度エレメントを形成して飛行。
まだまだ敵の進軍はやみそうにない。本気で基地を潰す気で来たのか。
しかしさっきの戦闘機の尾翼についていたマーク。何処かで見たような気がする………オレンジの花………薔薇のようなあのマークは。
「メイジ隊、そのグループは新たに爆装した爆撃機と思われる。なんとしてでも爆撃前に落とせ!」
「トリガー、特殊兵装の確認はしたな? 一気に落としてしまおう」
今回俺のF-16Cに搭載された特殊兵装は4AAM。
最大4機まで捕捉可能な空対空ミサイル。
目の前に展開している機軍はご丁寧に横一列。背後を捕らえている。上手く行けば一網打尽に出来る。
操縦桿のスイッチをスライドし、兵装切り替え。
HUDの右下の機体マークの兵装が変わったことを確認。
「行け、FOX3、FOX3!」
通常ミサイルの倍の射程距離から4AAMを最大発射! 四つの鉄の矢が爆撃機と護衛機を噛み砕かんとそのアギトを開いた。
『後方からミサイル接近!』
『ブレイク! ブレイクだ!』
『駄目だ、間に合わな………』
4本のうち3本ヒット、撃墜! 残り1本も敵にダメージを与えていた。
たちまち反撃しようとこちらに反転した傷だらけのMiG-21bisはミサイル発射。
響くアラート、迫る鉄の矢に慌てることなく直前でバレルロールで回避し。その特徴的な鼻っ面に機関砲打ち込む。
エアインテークもかねたその機首に弾丸が吸い込まれ、そのままエンジンが火を吹いた。
『くそっ! こんなの聞いてねえよ! 楽な任務じゃなかったのかよっ!』
「敵機撃墜!」
「敵編隊撃墜。メイジ2、よくやってくれた」
「凄いなトリガー。これは俺の出番はないかな?」
「メイジ2 よくやった。だがまだ動きに無駄が多い。デブリーフィングで指導してやるから、生きて帰れよ」
「了解だゴーレム1」
確かに何時ものように飛べてない気がする。
初めて味わう戦場の緊迫感に引っ張られてるのだろうか。
先程のパイロットはベイルアウトしたようだ。
空中でゆっくりと降りるパラシュートの花が見えた。その姿にホッとしてる自分に気付き、思わず首を振った。
「スカイキーパー、こちらメイジ2。タリー、2バンディッツ」
「了解。爆撃機と護衛機だ。いや待て。ゴーレムメイジ。新たな敵機が2グループ」
「くそっ、離れてるな。散開して確固撃破する。メイジ、ど真ん中は任せるぞ」
「ウィルコ、急行します」
敵は3方向から仕掛けてきたか!
こっちは出せる機体が6機だけだというのに。戦力差が酷いな。それだけ警戒されてるのか?
「ボグガード、フットパッド、俺とブラウニーは下をやる。上を黙らせてサッサと加勢に来い。絶対に油断するなよ」
「了解! ボグガード、エレメントを組むぞ」
「ウーラサー! ここに攻めてきたことを後悔させてやる!」
「ゴーレム2、エレメントを維持」
「了解、隊長の背後は私が守ります」
「フッ。言うじゃないか」
ブラウニーの奴張り切ってる。
俺も負けてはいられない。
「こちらスカイキーパー。敵グループの後方に機影を確認。数は1機だ」
レーダーを広域に切り替えると。確かにそれほど離れてない距離に1機いた。
編隊にしては遅れているように見えるが………
「1機だけか。なにかあるのか? トリガー、警戒しろ」
「ラジャー」
「やるべきことは変わらない。メイジ隊。頼むぞ。思ったより敵の数が多い。各機、奮起せよ」
了解スカイキーパー。まだ死ぬわけにはいかないんだ。俺たちの家は俺たちが守らないと。
手の震えは大分収まっていた。もう一度深呼吸をし、今一度操縦桿を握りしめる。
これは戦闘だ。恐怖を我が物にしろ。決して負けるな。
ここで死ねば、ラリーに会えない。
俺が探してる空は、こんな空じゃないんだ。
「よし、やってやる!」
「その意気だトリガー! さっさと終わらせて帰るとしよう」
奮い立たせるように速度を上げる。
慣れ親しんだGを身体に受け。戦う隼は海原の空を翔けた。
ーーー◇ーーー
「パイロからHQ。ただいま到着した。もう終わってる頃かな?」
「こちらHQ。残念ながら継続中だ大尉。先陣の爆撃部隊は全滅した」
「なんだって?」
遅れて戦場に馳せ参じたMiG-21bisのパイロットは耳を疑った。
護衛機は自分と同じ旧式のMiG-21bisであるが。数は充分過ぎるぐらい揃えたはずだ。
それでもまだ敵基地を落とせていないことに。大尉はため息を漏らした。
「やれやれ。うちらの質も落ちたもんだな。それなりに戦える奴らは大陸戦争でみんな死んだもんなぁ」
「HQからパイロ。制空権を取り戻せ」
「簡単に言ってくれる。こっちは教官職から出戻りだと言うのによ」
「心踊るだろう?」
「ヘッ、ちげえねえや」
マスクを閉め直し。大尉はニヒルに笑う。
パイロが駆るMiG-21bisは。同じMiG-21bisと比べて大幅なチューンアップが施されていた。
カラーも標準とは違い。上半分を赤、下半分を白に染め上げていた。
「パイロ、エンゲージ! さあ、蜂の巣になりたいのはどいつだ! エルジアの赤鯨が相手になるぞ!」
その身に宿る火を胸に。パイロと紅白のMiG-21bisが翼下につけられたガンポッドのセーフティを外す。
深紅の鯨が、戦場に大口を開けた。
ウゴゴゴ。ブリーフィングで文字数がかさむぅぅ。
どうも、文体で悩むブレガーです。
初めての実戦的な空戦。なんか自分でも上手く出来たかは不安すぎますが。感想宜しくです。
未だにロシアとウクライナは戦争が続いてますね。本当に戦争はゲームやフィクションの中だけで良いと思いますわ。