エースコンバット7 FLIGHT REZON 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
「メイジ隊。爆撃機の後方に位置していたMiGだが。MiG-21bisにしては速い。警戒せよ」
「敵のエース?」
旧世代機と最初から侮るつもりは微塵もないが。向かってくるなら倒さねばならない。
大丈夫。先ずは生き延びる。
そのことを胸に刻み付けてHUD表示を見た。
「メイジ2。後方から来るMig-21にしかけます」
「了解だ。充分気を付けていけ」
「ウィルコ」
マークしていたMiG-21bisは爆撃機のグループを追い越して先行してきた。
先ずは牽制、ミサイルロック。発射。
ミサイルが前方のMiGに向かっていく。
目視で見たMiG-21bisはこれまで見た迷彩色とは違い派手な赤色塗装がされていた。
見ただけで他とは違う敵機は正面から来るミサイルを躱し、なおもヘッドオンで近づいてきた。
だがそれは織り込み済み。この距離はガンの射程だ!
ガンに切り替えてレティクルの中心に敵機を捕らえる。そのまま流れるように引き金を引いた。
その時、俺は目の前の景色がゆっくりと流れるように感じた。
目が動き、視線はレティクルでも敵のコクピットでも、目立つカラーリングでもなく。その小さな翼の下に取り付けられたミサイルとは違う何かのオプション。その先端がオレンジに光り………
「トリガー! 機首下げ! ナウ!!」
クラウンの声が先だったか後だったか定かではない。
そのオプションの淡い光を見た瞬間形容しがたい悪寒とイメージが湧き上がり。
機銃のトリガーを押したまま無我夢中に操縦桿を前に押し込み、スロットルを叩いた。
機体の全てが下を向けと命じられ。そのまま急降下。
先程まで居たポジションには花火と形容される程の濃密な弾丸が通りすぎ。雷のような轟音が鼓膜に届いた。
「トリガー! 無事か!?」
「かすっただけです! 飛行に支障なし!」
「待ってろ! 直ぐに行く!」
「俺は大丈夫です! クラウンは爆撃機を先に!」
しかしなんだ今の! ガンポッドか!?
ミサイルが主流になった時代で味なものを!!
『ほぉ、今のを避けるかい。必中のつもりだったんだがな』
「メイジ2! 敵機が真後ろについた!」
「冗談じゃない!」
スカイキーパーの警告に遮二無二に機体を動かす。間違っても敵の真っ正面に立たないように。その間にも先程の濃密な弾幕に紛れ込んだ曳光弾がコクピット越しに俺を照らす。
あーもう! 曳光弾だけでこの密度ってなんだよ!
敵はやっぱフィッシュベッドとは思えない早さだ。F-16Cもそこまで早くない部類とはいえ、決して基礎スペックで負けるものではないはず。
だがそんなのはどうでもいい。現に敵はこっちに追い付く為にフルスロットルでエンジンを吹かしている。
スロットルを下げ。機首上げ。
機体全面で空気を受けて減速しオーバーシュートさせようとした。しかし敵も馬鹿ではないのか即座に旋回し、追い越しを回避した。
「メイジ1、敵機撃墜」
「よくやったメイジ1! メイジ1が敵編隊を撃墜!」
「トリガー! 今行くぞ!」
「了解! そっちに引っ張ります!」
クラウンがやってくれた!
敵は旋回して距離が空いた。今なら背中をさらしてもガンポッドは来ないはず。
「待たせたなトリガー。よく生き残ってくれた」
「冷や汗がヤバイです。コイツ。普通じゃない」
「ああ。恐らく赤鯨のパイロだ」
「赤鯨、パイロ?」
「エルジアのネームド。色付きさ。エルジアのプロパガンダとして広告塔になってるエースパイロット達だ」
「確かに尾翼のエンブレムに鯨のマークはありました。あと、敵にもう一つ。オレンジの花のエンブレム。思い出した、あれはエルジア王国のマークだ」
(あの激戦の中で敵のエンブレムを確認できたのか? 余裕もなかっただろうにコイツは)
戦場の空で敵の尾翼などわざわざ確認することなどない。戦闘においてそんな余裕などないし、レーダーに敵と写ったなら、それを撃墜するだけなのだから。
だからこそ的確に敵のエンブレムを見定めた2番機の目の良さにクラウンは驚きを隠せなかった。
「ちょっと待ってくださいよ。エルジアのエースが来たってことは。こいつらはエルジアなのか? それが本当なら戦争行為じゃないですか!」
「考えたくない最悪の事態だな。だが今は後だ、奴が来たぞ!」
レーダーに後方から迫るパイロが見えた。
3連機銃というロマン砲を担いだ異色のMiG-21bisは俺らを飲み込まんとする。
『F-16Cの2機。出来る奴だな。見たところ爆撃機を落としたのが隊長機か。さっきのガンポッドを避けた奴も異様に勘が良い。だがまだ動きに揺れがあると見た。そこを狙わせて貰う!』
遠巻きからガンポッドをばら蒔くパイロ。
距離的に開いていてもその迫力に俺は操縦桿を切った。
機銃はミサイルと違ってアラートが鳴らない。
ガンポッドは備え付け機銃より射程はあるが。それでも
『捕ったぞ!』
ミサイルアラート!
絶好のタイミングだったのか。迫るミサイルは回避は出来るだろうがギリギリ。安全策でフレアをばらまいて旋回する。
ガンポッドで誘ってミサイルで仕留めに来た。しかもクラウンではなく俺を真っ先に落とそうとする動きだった。
俺の方が落としやすいと思ったのか? 上等だ鯨め!
既に震えはなく。俺は背後のエースを落とすことだけを考えた。
操縦桿とスロットルを小さく動かし。レーダーとHUDを確認する。
相手はガンポッドを多用する。
それに絶対の自信を持っていると見た。
ならば。
依然として背後に陣取ろうとするパイロを振りきろうと何度も蛇行する。
それでもしつこく食らいつくパイロだが。速度を出して蛇行する俺にガンポッドの照準を合わせるのは困難だった。
機銃の特性ゆえに直線でしか攻撃できないガンポッドのレティクルが合わないパイロは段々とフラストレーションを蓄積させて行く。
駄目元でガンポッドを撃つものの後ろに目でもついてるかのように鋭角的な機動で避けていく俺に更に業を煮やす。
(読まれてるとでも言うのか? 小癪な!)
ならば絶好のタイミングで撃ち込む。
カマかけの機銃を撃つことなく俺を追い回すパイロ。
その間にも蛇行の度にかかるGは着々と俺の身体にハーネスを食い込ませていく。
「こちらHQ、交戦中の部隊に告げる。敵に無人機はいるか? 確認せよ」
「無人機? この状況でか。相手のケツを追いかけるのに忙しい俺たちに?」
「無人機って、どうやって見分ければ?」
「少なくとも絶対に無人機じゃねえ大物が俺たちの前にいるがな! トリガー、敵のミサイル! ブレイクブレイク!」
「こなくそぉぉ!!」
突然HQ、中央の司令部からよくわからない通信。
だけど今はそんなのに構ってる暇なんてない!
そろそろこの機動も限界。
だけど効果はある。焦らしに焦らして。敵も大口を開けたくて仕方ない頃だろ。
「勝負だ」
左右に振っていた操縦桿を真っ直ぐにしスロットルを押し込む。
前から襲いかかるGに顔を歪ませつつも後方を確認。紅白のMiG-21bisは後方3000m。焦らずに操縦桿はそのままに。
その直線機動。パイロが待ちに待った瞬間だった。
『ガッチャ!』
パイロはマスクの下に勝ち誇った笑みを浮かべ。機銃とガンポッドのトリガーを引く。
夥しい曳光弾と炸薬の入った弾丸のスコールがF-16Cのエンジンに殺到する。
これを食らえば撃墜は必須。それを確信したパイロは前のめりになってその撃墜の瞬間を今かと待った。
『なにぃ!?』
だがその瞬間彼は目を見張ることとなる。
弾丸が当たる寸前に俺はバレルロールし。標的を失った数十発、いや百十相当の弾丸がバレルの内側を通り抜けた。
「今だクラウン!」
「良い釣りだトリガー! FOX3!」
いつの間にかパイロの上方に位置していたクラウンのファルコンからミサイルが放たれる。
急遽回避機動をとろうとするパイロ。
普通なら当たるはずのない射角。だがクラウンの放ったミサイルは通常のミサイルより破裂し、その破片がパイロを揺さぶった。
SASM、空中炸裂式空対空ミサイル。
相手がミサイルを避けようとすると近接信管が作動してダメージを与える特殊兵装。
かすった時の威力は通常のミサイルと比べると遥かにダメージは低いものの。高い命中率と確実にダメージを与えられる利点がある。
『くそっ! このくらい! はっ……!』
レーダー警報。左を向くと。先程バレルロールで自身のガンポッドを躱したF-16Cが迫っていた。
「お前の好きな機銃だ! 食らえっ!」
今までの鬱憤を込めて横合いからのガンアタック。
みるみるとHUDに表示された残弾が減ると同時にガンポッドよりも密度の少ない機銃群が色鮮やかな機体に向かって闊歩する。
思わず腕でガードしたパイロのコクピットの真下から尾翼に無数の弾痕が穿たれた。
『やられたのか、俺が………まさか俺が機銃で落とされるとはな』
バシュンとキャノピーが吹き飛び。パイロのコクピットが射出された。
主を失った空飛ぶ赤鯨は錐揉み回転しながら海中に没した。
「ナイスキルナイスキル! やったぞトリガー!」
「ええ。ふーー」
思わず溜飲が下がる勢いで息を吐き出した。
まさか初陣で敵のエースとバトることになるとは。よく生き残ったよ俺。
「おい! 敵の爆撃機が迫ってるぞ! 戦闘機は何をやっているんだ! 港湾が壊滅するぞ!」
余韻に浸っていると若手の管制官が通信越しに怒鳴りこんできた。
俺とクラウンがパイロを相手にしてる間に。敵編隊は思ったより早く基地にたどり着こうとしていた。
パイロは囮としての役目もあったのだろう。見事にそれを果たしたというべきか。
「メイジ1からスカイキーパー、トリガーが敵のネームドを撃墜した! これから残りを掃討に向かう!」
「了解。西から来た編隊が本命のようだ。かなりの数でゴーレム1とゴーレム2では手が足りん」
「了解! ではブラウニーたちの方に向かいます! 行こうクラウン!」
「了解だ。しかし俺より隊長してるんじゃないか? 俺はお払い箱かな?」
「すいません! 出過ぎたことを」
「ハハハ。じゃあ行こうか!」
機首を右に向け。苦戦してるブラウニーとノッカーの方に向かおうとした。
その時だった。
『………ジジ、……エル…ア中…ザザッ…放送か………ニュースで……』
「ん?」
「どうしたトリガー」
「今なんか………」
『……オーシア連邦が……セラタ……軌道エ…ベーターを建設し……』
なんだ? 女、いや女の子の声?
「クラウン、今の聞こえました?」
「こっちは何も聞こえなかったが。スカイキーパー、そっちはどうだ」
「こちらでもノイズを検知した。解析はするが。今は爆撃機を」
「おい! もう目視で爆撃機が来てるぞ! 早くしないと基地がアイタァ!」
突如割り込んできた若い管制官が悲鳴を上げた。
入れ替りで入ってきたのはベテランそうな管制官。
「すまんな、わけーのがパニックになっちまった。だがもう少しで編隊が来る。出来れば早めに落としてくれよ」
「慌てなさんな管制官どの! こちらゴーレム4! 爆撃機を撃破した! 爆弾を抱えたまま落ちやがれ!」
「これよりゴーレム1と2の援護に向かいます」
ボグガードたちは北の爆撃機を撃破したようだ。
俺たちより遅れて南の爆撃機部隊に向かっていく。
そして、敵の編隊が見えた。
さっきより数の多いMiGとTu-95が4機。
しかも先頭にはTu-95より高性能なTu-160が居やがる!
「白鳥まで出してくるとは敵の本気度がわかるな」
「でも爆撃機なら横合いでも!」
マルチロックが完了した最後の4AAMが放たれる。
ただでさえ鈍重な爆撃機たちだ。高速爆撃機を誇るTu-160も例外ではない。その無防備な横腹に4AAMが次々と突き刺さり。Tu-95、3機を立て続けに撃墜。
Tu-160には当たったが致命傷にはなってないようだ。
「待たせたなゴーレム隊。騎兵隊参上だ」
「遅いじゃないかメイジ隊。このまま畳み掛けるぞ!」
「了解。行こうブラウニー」
「ええ、私だって負けないわよ!」
F/A-18FとF-16Cの混成部隊にMiG-21bisの大部隊は混乱に陥った。
『ダメだダメだダメだ!』
『イジェクト! イジェクト!』
『なんでだよ! なんでこんな辺境の島にこんな戦力が!』
『まさかメビウス?』
『おい! 下手なこと言うんじゃねえ!!』
『しまった! 尾翼をやられた!』
勝てると高をくくっていたのだろう。
名うてのエースに次々と落とされる守るべき爆撃機たちを前に既に士気はどん底に落とされていた。
「一瞬が仲間の生死を分けることがある。心を研ぎ澄ませ、最後まで迷うな。俺たちには守るものがいることを思い出せ」
「「了解!」」
そうだ。戦うなら生き残れ!
たとえ相手の命を散らしてでも。
覚悟を示せ! そして
「これで最後! FOX2!」
先頭を突き進むTu-160のエンジンに向かってミサイルが行く。
後部に備え付けられた機銃も空しく、機銃ごとその白い躯体を炎で染め上げた。
「ゴーレム、メイジへ。すべての爆撃機を撃墜した。こちらのレーダーに敵影なし、オールクリア」
「ウィルコ。みんな、ご苦労だった」
「お、終わったぁ」
スロットルをローにし。バイザーを上げて目元にかかりかけた汗を拭き取った。
「いやー! 生き残ったなぁ! しかし今回の大金星は、トリガーだな。そう思うだろ相棒」
「そうだな。悔しくもあるが」
「ハハッ。よくやったなメイジ2、お手柄の大手柄だ。編隊長! トリガーは使えますよ」
撃墜王を祝う言葉をかけるクラウンに対して、ノッカーは飽くまで冷静にそれを否定した。
「たった1度の出撃で実力などわからん。それに手柄などと欲張ったことを考えるな。ただ生きて帰ればいいんだ」
「またそんなそんな固いことを」
「隊長。今回の戦績は初陣のビギナーズラックかもしれないじゃないですか。あんまり俺を持ち上げないで下さいよ?」
「アララ。トリガー、お前まで否定したら俺が本物の道化みたいじゃないか。初陣でこれなんだから少しは余韻に浸らせてくれよ」
まったく。お調子者なんだから、うちの隊長は。
「私も隊長の意見に賛成です。功績も生き残らないとなんの意味もないですから」
「でもよぉ。トリガーが合流してから対抗心燃やしてなかった?」
「負けないわよ。って言ってたな……」
「あ、あれは自分を奮い立たせるもので決してそういう意図は………隊長、ありませんからね!?」
「プッ、フフ」
「トリガー! 今笑ったでしょ!? 笑ったわよね?」
「わ、笑ってないよ」
「嘘おっしゃい! もうっ」
ノッカーの前で良いとこを見せたかったのだろうが。
ブラウニーが誰よりも負けず嫌いなのは俺たちが一番よく知っているのだ。
そんなリラックスした無線通信に水を刺すように中央司令部からの通信が届いた。
「ゴーレム隊、メイジ隊、こちらHQ。無人機は確認できたか?」
「無人機ですか? こちらで見た限りでは。そういう機は確認出来ませんでしたが」
「HQ、何故そんなに無人機にこだわるんです?」
「……ゴーレム1。帰投後出頭し報告せよ。以上」
こちらの問い掛けに答えずに通信を切ったHQに、クラウンはタメ息を吐いた。
「フー。相変わらずフォートグレイス飛行隊には素っ気ないね、中央は」
「なんにせよ。我々は任務を果たした。全機RTB。基地に戻るぞ」
「了解!」
ゴーレム隊4機とメイジ隊2機が空に飛行機雲をなびかせながら旋回する。
誰一人かけることなく戦闘を終えた。
幸運? 実力? どちらでもいい。
みんなが揃って帰る。それに意味があるのだから。
『南の海。ガンター湾の美しいエメラルドの水を乱したその上に………』
『………エルジア王国王女ローザ・コゼット・ド・エルーゼです………』
『国民のみなさん………私は、不当な圧力をかけるオーシアから、真のエルジアを取り戻すことを』
『ここに宣言致します』
ーーー◇ーーー
基地に戻ってからデブリーフィングが行われた。
基地の各所が爆撃を受け。俺たちが乗ってきた空母アルバトロスは撃沈され、使い物にならなくなったこと。
幸い滑走路、ハンガー、管制塔は無事であり。比較的に損壊は軽微。
だが負傷者多数。死者も数名出してしまったことを司令は悲しそうに。それでいて決して俯かずに言った。
そして、今回襲撃してきた所属不明機がエルジアだということが確定した。
先程、エルジア王国が宣戦布告を発表したからだ。
ここフォートグレイス基地だけでなく。ユージア大陸全域に広く展開されている全てのIUN国際停戦監視軍の基地が同時に襲撃を受けたらしい。
甚大な被害であることは疑いようのない。
だが司令官は「だからこそ迎撃に成功した意味は大きい。君たちが戦況を覆す存在になる可能性があるからな。良くやってくれた。君たちは我が基地の誇りだ」と最大限のエールを送ってくれた。
俺たちが戦ったおかげで救えた命があった。
それが一番嬉しかった。
ーーー◇ーーー
基地の電話ボックスは列をなしていた。
スマホで電話すると電波が混雑してて繋がりにくいんだと。
俺も電話をしたかったが。これはしばらく空きそうにないなと諦めて基地を歩き回り。ついた先が格納庫だった。
ジェット燃料の焦げた匂いが鼻につくなか。整備員たちは俺とクラウンのファルコンを整備。解体してメンテナンスをしてくれた。
次の出撃がいつかわからない以上、戦闘機が戻ってからの整備員に休む暇はない。
少し見学してると、恰幅の良いリーダーっぽい男性がこっちに気付いた。
「おっ! 今日のエース様じゃあねえか!」
「えっと………」
「マートンだ。ラック・マートン中尉だ。メイジ隊の整備長様よ。みんなからは親しみを込めておやっさんと呼ばれている」
「リヒト・パーマー少尉です。今日からお世話になります」
「それはこっちの台詞よ! 今日は俺たちがお世話になりっぱなしよ! お前たちのおかげで今日も飯にありつける! 感謝してるぞ坊主! ガハハッ!」
ワシワシと少し油で黒ずんだ手で頭を乱暴に頭を撫でられる。
なんか親戚の叔父さん感があるなこの人。悪い気はしないけど。
「しかし大馬鹿野郎って噂は本当みたいだな。一回の戦闘でエンジンがこんなに真っ黒よ。相当ぶんまわしたな。ん?」
「す、すいません。手強い敵がいたもので」
「赤鯨様だろ? 聞いたぜ。あの機関砲馬鹿を機銃で撃ち落としたってな! こりゃ傑作だ! 色付き相手に良くやったぜ!」
バシバシと背中を叩かれながら俺は褒められたことに素直に笑みを浮かべる。
自分でもそんなエースを落としたのは信じられない。
けど現実なんだよな。
「あの」
「なんだい」
「その、色付きネームドってどういう人たちなんでしょう。エルジアの広告塔とは聞きましたが」
「文字通りの意味よ。エルジアはユリシーズやらメビウス1とかにボッコボコにされてパイロットが極端に減った。兵力もねえってのが現実だが。それだと他国に舐められる。そんでもってウチらにはまだこれだけ強いパイロットがいるんだぞ! って世界に発表したパイロットが
有名なエースパイロットというのは居るだけで国民の明るさを取り戻し、他国に力を示す手段としては有名だ。
「では、みんな凄腕なんですね。例えば、ベルカ全盛期でいうフリューゲル隊やロト隊みたいな」
「いんや。そうでもねえのさ。中には赤鯨のような本物もいるが。大半戦場を経験したことねえ綺麗所さ。まあ顔がよけりゃ国民には売れるからな」
全部が全部強いわけではないのか。
まあそれでも居れば味方にとっては頼れるエース。
逆にそいつを落とせば敵の戦意を挫けるってことか。
「間違ってもフリューゲルみたいな化け物なんかいねえさ! って言いたいところだけどよ。実はネームドより強い隠された凄腕部隊がいるらしい」
「なんですかそれ」
「俺も詳しくは知らねえけどよ。実験部隊のXプレーン乗りらしいぜ。無人機開発にも携わった………てことはノースオーシア・グランダーI.Gのファッキンシット共と仲が良いのかもなぁ」
ノースオーシア・グランダーI.G。無人機が出たということはデブリーフィングで聞いた。
無人機の主導はグランダーたちだ。
エルジアの宣戦布告に手を貸したというなら。もしかしたらまた灰色の男がエルジアを焚き付けてオーシアに復讐を?
「無人機。ああ無人機だ。エルジアはその無人機を使ったとかな。人手いねえから使いたいってのはあったろうがな」
「少ない戦力を無人機で補った。とは聞きましたが」
「いけねえいけねえ! 俺は無人戦闘機ってのは大嫌いだ! 魂も信念もなくただ命令された通りに目標を破壊するなんてよ。そしてそれを操ってる奴らは後方でふんぞり返ってる。いけねえ、そいつ駄目ってもんさ。なぁにがクリーンな戦争だ!! 戦争するなら自分の手を汚せ! 汚す覚悟がないなら戦争なんかするんじゃねえってんだ!!」
整備長。おやっさんの大声に整備員が揃って動きを止めてこちらを向いた。
クリーンな戦争。
エルジアは開戦直後。各地のIUN基地に向けて。無人機によるピンポイント攻撃をしたそうだ。
オーシアの湾岸施設も片っ端に。貨物船に潜ませたコンパクトな無人機がことごとく精密爆撃をし。民間人には欠片も犠牲を出さずに戦果を叩き出したという。
おやっさんはガシガシとチリチリの頭をかきむしる。それほどおやっさんにとって、無人機というものは好ましくない存在だということがわかった。
それと同時に目の前の巨漢に俺は好感を持った。
今まで俺は無人機に対して嫌悪感があった。
だけど別にそれを表に出す必要なんかない。自分が言っても意味なんてないと思っていた。
だけどそれを全部おやっさんが代弁してくれたことに。なんでかわからないけど嬉しかった。
「自分も中尉と同じ意見です」
「おっ、坊主もそう思うか!」
「ええ。少ない戦力を無人機で補う。確かに合理的です。でも中尉の言う通り人を撃つなら、その責任を持たなきゃいけない。そう思います」
俺は今日何人もの人を殺した。
おそらくあの戦場で一番殺した。大量殺戮者と言われてもその通りとしか言いようがない。
命を落とした人には家族、友人、恋人が居たことだろう。
そんな人たちの未来を俺は奪った。戦争だから仕方ない。だけど確かにこの手を血に染めたのだ。
空軍に入ると決めて、覚悟は勿論していた。だがいざ目の当たりにすると震えたのだ。
この重さを忘れてはいけない、逃げてはいけない。
引き金を引いた責任をこれから背負わなければならない。
人の命を奪うということは。そういうことだ。
たとえそれが正当化された殺しだとしても。
だが決して押し潰されてはいけない。
何よりも自分が生き残る為にオーシアや周りの人々を守る為に。俺はこれからも飛び続けるのだから。
「綺麗な戦争なんかないですよ。戦争が起きたらどっちにしろ人は死ぬ。何時だって死んでいくのは前線の人間となにも知らずに巻き込まれる一般人です。後方にいる偉い奴らは戦場の死人を単なる数字にしか感じない。エルジアのピンポイント爆撃だって。死人が出なかった訳じゃない。俺は、エルジアを許せません。たとえどんな理由があったとしても」
「坊主………」
「なんて。ろくに人生の半分も生きてないケツの青いガキの理想論ですけどね。でもそう思っちまうんですよ」
「………」
「中尉? うおっ!?」
おやっさんが行きなりその大柄な体躯で俺を抱き締めてきた。
く、苦しい………
「トリガー坊主! 俺は猛烈に感動している!!」
「と、トリガー坊主?」
「青くて何が悪い! 理想を浮かべて何が悪い! お前のような軍人が今のオーシアには必要なんだよ! 気に入ったぜトリガー坊主! よーし! 俺の命はお前に預けた!!」
「お、オブブブ」
ちょ、待ってください。
おやっさん、ヤバいです。酸欠と漢のパフュームで意識が。
「整備は俺たちに任せろ! 完璧以上に飛ばしてやるからな」
「オブ………ブブ……」
や、ヤバい意識が………
あれ、前にもこんなことあったな?
「マートンさん?」
「あん? どうした隊長どの」
「そろそろトリガーを放してやってくれ。落ちそうだ」
「おん? おっと失礼」
「プハッ。ヒー、ヒー」
おやっさんの熱烈なハグから解放された俺はケロシンが匂う空気を思いっきり吸い込んだ。
格納庫の空気、オイシイ!
「おやっさん! チェック頼みまーす」
「おう、今いく。じゃあなトリガー坊主。また今度飲もうぜ」
「は、はい」
ズシズシと重い足音を立てながら俺のファルコンの下に向かったおやっさんを眺めながら助けてくれたクラウンを見上げた。
「珍しいこともあるもんだな」
「何がです?」
「おやっさん。マートン中尉ってちょっと偏屈でな。職人気質って言うのか、初対面で彼処まで砕けるなんて早々ない。俺なんて1年もかかってやっと認められたのさ」
「えっ。俺には最初から好意的でしたけど」
「それだけ認められたってことだろうな。何せお前は今日のトップエースだ。俺も隊長として鼻が高い。あの時お前をヘッドハンティングしたこと。間違いじゃなかったな」
褒めちぎられ過ぎて顔が熱くなってきた。
まったく。幼少期の俺が今の俺を見たら驚くな。色んな意味で。
「たった一度じゃ実力はわからないでしょう。編隊長もそう言ってましたし」
「お前俺よりノッカーに似てきてないか?」
「知りませーん」
そんな赤い顔を見られたくなかったから足早に格納庫を後にした。
2019年、5月15日。
後に灯台戦争と伝えられる戦争が勃発。
世界は再び、混迷の空に覆われることとなるのであった。
ZEROっぽく敵のエースが戦場に乱入したら面白いのでは?
と思って書きましたが。文に色がついて満足です。
え?アサルトレコードのパイロにはガンポッドなんかついてない?いいんだよ細かいことは。
とりあえずミッション1終了!
自分も処女飛行の時は綺麗すぎるグラフィックと操作性におっかなびっくりで「とんでもないゲームに手を出しちまった!」と怖がったものです。懐かしい………
【FLIGHT REZON アサルトレコードNo.1】
ネームド:パイロ
機種:MiG-21bis Fishbed
カラー:上面レッド。下面ホワイト
派閥:急進派
パイロット:ホアン・スァン・タイ
エルジアの赤鯨と呼ばれる凄腕のパイロット。
内部改修されたMiG-21bisは原型機のそれを凌駕する性能を誇り。主翼ペイロードに懸架されたガンポッドと機銃を合わせた濃密な射撃戦を得意とする(ゲーム内でも三連機銃は直撃すればどんな機体も即ミンチという無類の強さを誇り、機銃縛り勲章獲得の第一人者)
作中では最後の後始末とフォートグレイスに赴いたが爆撃機部隊は壊滅。自身の癖を見抜かれメイジ隊により撃墜された。