エースコンバット7 FLIGHT REZON   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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STAGE14【Kill Point(奪った命)

 

  『本日13時。エルジア王国がオーシア連邦に対して宣戦を布告しました。この直後、オーシア各地に多数の軍用機が飛来し、破壊活動が行われました』

 

 昼頃の戦場の事後処理に基地の職員は未だに忙しく仕事をしてるなか。

 待機を命じられた俺たちパイロット要員は食堂でOBCのニュースを眺めていた。

 

『空軍省の発表は、攻撃に使われたのはすべて無人機であり。ひそかに国内に持ち込まれていた貨物コンテナの中から発進したのではないかとしています』

 

 画像が世界地図から切り替わり。

 正に無人機が射出される様が写されていた。

 

 貨物船のコンテナの蓋がパカッと開き。そのなかから戦闘機にしては小さく、とても簡素な玩具のような物が飛び出した。

 

「グランダーI.G………」

 

 射出されたコンテナに、でかでかと会社の名前とノースオーシア・グランダーI.Gのロゴが描かれてるのを見て思わず眉間にシワを寄せた。

 無人機の大元はグランダーだというのは世界でも周知の事実だ。

 

 だがここまで上手くやれたとは誰が思っただろうか? 

 風の噂や広告紙に書かれていた以上に無人機たちは正確無比にオーシアやIUNが保持する空母、船舶をことごとくピンポイントで撃ち抜くという驚くべき性能を世界に披露した。

 

 民間人(・・・)には、欠片も被害を出さずに。

 

 そんな俺の苦々しく呟いた言葉が耳に入ったのか、ブラウニーがチラッと横目で俺を見た。

 

『番組の途中ですが。ただいま臨時ニュースが入りました。南ユージアに建設中の国際軌道エレベーターが。エルジア軍によって占拠された模様です』

 

 まあ、そうだろうよ。

 

 エルジアにとって軌道エレベーターはオーシアの支配の象徴。

 利益しかないそれを抑えないはずもない。

 

 ということは………そういうことになるんだろう。

 

『なおハーリング前大統領が軌道エレベーターを視察中でしたが。消息は不明です』

 

 ガタタンッ!! 

 

「な、なんだってっ!!?」

 

 後ろを振り向くと。きちんとした金髪に眼鏡をかけた二十代後半の男が椅子から転げ落ちていた。

 

『一部政府筋は、今回の宣戦布告はハーリング前大統領が掲げた政策により。エルジア王国があるユージア大陸に建設された軌道エレベーターに対するエルジア側の経済的不満が引き金になったと推測しています』

 

 あががが………と椅子から転げ落ちてそのままの男は開いた口が塞がらないと硬直したままテレビを眺め続けていた。

 

『オーシア連邦大統領府は非常事態権限法を発動し。ユージア大陸派遣停戦監視軍を含むオーシア陸海空軍に対しただちに反撃準備に移るよう命令を下しました。国民の皆さん。わが国は戦争状態に入りました、繰り返します。わが国は、戦争状態に入りました………』

 

 こんな状況でも淡々と喋るプロ根性を見せつけてくれたニュースキャスターの言葉を区切りに、ニュースは専門家を交えた対談に切り替わった。

 

 それと同時に張り詰めた食堂の空気も膜が取れたようにほどけ。各々が語り出したり食堂を後にしていった。

 

「よう、大丈夫かスカイキーパー」

「ああ。ありがとうクラウン」

「スカイキーパー? あなたが?」

「君はトリガーだな? いやすまない。恥ずかしいところを見せたね」

 

 クラウンに起こされたこの優男が俺たちの空を見守ってくれたAWACSだという。

 よくよく聞いてみると確かにあの美声と同じ声だ。

 

「君の活躍はレーダー越しに見させてもらった。初出撃で総撃墜数10機越え、しかもそのうち1機はネームドだなんて。私は自分の目を疑ったよ」

「ありがとうございます」

「オーレッドでもその片鱗は見えていたがな。他の三人もよくやってくれていた。正直言って、今回は駄目かと思ってた」

「オイオイAWACSが最初から諦めてたら戦いにならないぞ」

「勿論皆のことは信じていたさ。でも私は空からただ信じることしか出来ない。だからこそ今回の損害が初撃だけで済まされたのは、本当に嬉しく思う」

 

 確かに出撃できたのがベテラン二人に新米のペーが四人だけっていう最悪な展開だったからなぁ。

 ほんと誰も死ななくて良かった。

 パイロとの戦闘なんて一歩間違えば穴あきチーズになっていた………

 

「しかし今回の戦争の理由がまたエルジアの経済的不満だとは」

「大陸戦争を思い出すなぁ。またメビウス1出ないかな。あの人がいればもう勝ちでしょうよ」

「流石に現役ではないんじゃない? ガーデルマン中佐だってもう現役引退してるし」

「ラーズグリーズは?」

「わからないなぁ」

「居るかわからない英雄にすがるのはやめておけ。最後に自分の命を守るのは自分なんだからな」

「編隊長の言葉に納得してしまう俺がいるよ。よしトリガー、お前が時代のエースになるんだ」

「無理難題言うな」

 

 そうそう簡単に英雄的トップエースになれるわけないじゃないか。

 しかしノッカーの言うことは正しいな。

 これから少なくない戦闘が行われることだろう。それを生き抜くのはどっちに転んでも自分次第だ。

 

 司令官の言った通り。俺たちが反撃の嚆矢にならなければならないのだろう。

 

「ニュースでも軌道エレベーターによる不満とも言ってたな。オーシアにとっては善意でもエルジアにとっては支配の象徴でしかなかったんだな。製作を言い出したハーリング大統領は本当に支配なんて考えてたのかねぇ?」

「そんなわけがない!」

 

 ドン! と机を叩く音が響いた。

 何気なく言ったフットパッドの発言で爆発したのは他ならぬスカイキーパーだった。

 

「軌道エレベーターの建設に数多くのユージアの国民が携わったのも軌道エレベーターがオーシアだけが作り出したという事にしないためだ。オーシアの資金とユージアの血と汗の結晶。メード・イン・ユージアという構想の元で作られた軌道エレベーターということに意味がある。完成の暁にはユージア大陸全土にエネルギーが配分されるはずだった。ハーリング大統領は本気でユージア大陸を救おうとしていた! そのために援助を惜しみなく与えてきた! 支配などこれっぽっちも考えてるわけがない! エルジアの言い分は憶測に憶測を重ねた利己主義の妄言でしかない! 現に彼らは態々軌道エレベーターの完成を待ってそれを奪った! 軌道エレベーターを利用するために。恩を仇で返すとは正にこの事ではないか!!」

 

 スカイキーパーの演説にシンと食堂が静まりかえった。と思ったらどこかしこから拍手が鳴り、次第にそれは大きくなって食堂は拍手喝采に沸いた。

 

「ハッ! しまった………またやってしまった。私というのはなんでこうも理性がないんだ………」

「いや、その。俺もすいません。無遠慮な発言を」

 

 肝心のスカイキーパーは我に返ると共に顔を真っ赤にした。

 

「なあ、クラウン。スカイキーパーって」

「ああ。生粋のハーリング大統領オタクだ。彼の部屋は凄いぞ。一面ビンセント・ハーリングだらけだ」

「納得」

 

 しかし彼の言ったことはほとんど片寄っているとは言え。間違ったことは言ってないと思える。

 

 少なくとも、ビンセント・ハーリングという男は本気で世界の、オーシアの平和のために生きていた男だ。

 

 環太平洋戦争時にベルカの魔の手により幽閉され、ラーズグリーズに救われた彼は。敵と裏切り者の手に落ちた大統領府に戻るという決断をし、勇士と共にそれを取り戻した。

 

 そして忘れもしない年末の放送。

 ニカノール首相と共に世界の影と幻影を切り開いたあの演説を、俺はテレビ越しに目撃した。

 

 そんな彼がエルジアを、ユージアを支配するために軌道エレベーターを立てたのか? 

 答えは否、と見るべきだろう。

 

 スカイキーパーの激昂も良くわかるというものだ。

 

「軌道エレベーターが占拠された。ということは、アーセナルバードはどうなったんだろう」

「確かに。アーセナルバードの防空圏はエルジアの首都ファーバンティの喉元にも迫る。エルジアが反抗して、アーセナルバードが動かないとしたら」

「既に二対の巨鳥は、エルジアの手に落ちてる可能性がある、か………」

「アーセナルバードが落ちた、という情報がないですもんね」

 

 それを聞いて背中が氷水を大量に流し込まれたように冷えた。

 

 あの巨大な航空母艦が俺たちの敵になる。

 この基地に向かう途中に見たあの白い大翼。

 

 軌道エレベーターを占拠したのは、アーセナルバードを手に入れるためでもあった。

 その絶大なエネルギーと決戦兵器をバックにしたエルジアと、俺たちは戦わなければならないのか。

 

「これ見てくれ」

「なにそれ」

 

 ボグガードがスマホで見せてくれたのは動画サイトにアップされたエルジアのニュースだった。

 

 

 

『エルジア中央放送からのニュースです。オーシア海軍の航空母艦ケストレルⅡの艦載機がエルジア王国の首都ファーバンティ付近に対し攻撃を行い、エルジア空軍機がこれを撃退しました。なお、この空襲中にオーシア軍機から放たれたミサイルが市街地で爆発。また撃墜されたエルジア軍機が、複数住宅地に墜落したとのことです』

「あからさまにオーシアが悪役だな、これ」

「なんだよこれ。仕掛けたのはエルジアなのにまるで被害者面じゃないですか」

「戦争時のニュースはそんなもんだ。しかしこれはあからさまだな」

「中立世論も、オーシア並びにIUNに批判的になってるみたいですよ」

 

 下にスクロールすると。コメント欄にはエルジアに味方し、オーシアを非難するコメントで溢れ。

 オーシアを擁護するコメントは徹底的に叩かれていた。

 

「元々、軍を世界各地に駐留していたIUN国際停戦監視軍は世界中から嫌われてたからな。IUNは多国籍有志連合と言われてるが、実際ほとんどがオーシアが実権を握っていたからな」

「結構前にファクトあたりで起きたIUN所属の軍人が不祥事を起こしたとき。それはもう炎上しましたもんね」

「ああ。今回は戦時中の誤爆とはいえ言え民間人に被害を出してしまったオーシアに対して。エルジアは欠片も被害を出さずに制圧したからな。世論はそれを叩いてるんだ」

「嫌われたもんですね。オーシアは」

「まあ、前例があったからな………」

 

 前例。

 ベルカ戦争の戦争誘導と。

 そのベルカ残党にそそのかされたオーシア首脳陣による戦争の長期化。英雄の謀殺。

 

 それを差し引いても、オーシアというものは世界から嫌われまくっている。

 ましてや上層部は味方からも嫌われている。

 

 ベルカは陰謀論者? 

 オーシアも加えてくれ。

 

「今回の戦争も、オーシアの自作自演だって意見すら出てますよ。オーシア政府は必死に否定してますが」

「今の大統領も頑張ってますけど。ハーリング氏に比べるとインパクトが欠けてますよね」

「彼はハーリング大統領と共に政権を支えてきた人物だ。彼の頑張りに期待しよう」

 

 といっても。世論はほぼエルジアに傾いてきている。

 さっきも言ったが、それほどエルジアのやり方が世論から見て鮮やかすぎた。

 

 そして極めつけは………

 

『オーシアの飛行機の攻撃で、エルジアの民間人に被害が出ています。わたしの通う学校も校舎が壊されました。学生時代に過ごした教室、友人とお昼ごはんを食べていた中庭は、もはや見る影も御座いません………残念です』

 

 テレビで演説をしているこの少女。

 エルジア王国の王女様。ローザ・コゼット・ド・エルーゼ。

 

 ブロンドの髪を小綺麗に纏め、シミ一つない肌と日の光のような笑顔をテレビ越しに向けてくる。

 

 元々は平民の出身らしい。エルジアが共和国から王国になって表に出てきた白薔薇の姫君が彼女だ。

 

 これが味方ならどれほど癒され、活力が沸いてくることだろうか。実際エルジアやユージア大陸の国民は、この王女様の清純さに惹かれているのだという。

 オーシア側の俺から見ても一瞬可愛いと思うのだから、相当だろう。

 

 そんな市民の偶像たる彼女がオーシアの圧政を非難し。エルジアの過酷さを語ればどうなるか? 

 

 世論はますますオーシアを嫌い、可愛そうなエルジアに同情的になる。

 

 祭り上げられたのか本心なのかは分からないが。少なくとも俺から見た王女様は真面目に演説をしてるように見えた。

 よくある言葉を並べるだけの無能な政治家先生とは違う魅力。真に迫る言葉、平民出身ゆえの国民に距離感を感じさせない言葉の数々。

 

 エルジアは印象操作が上手い。

 その手練には、思わず感心はせざるを得なかった。

 

 だがそんな清廉潔白で汚れを知らなそうな王女様に向かって、全く響かない俺はこう言うのだ。

 

「なに言ってんだろうな、コイツ」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 翌日。ようやく空いた電話ボックスに立って番号をコールする。

 

 電話する相手が相手だから一応許可を貰った。

 

 ワンコール、ツーコール、スリーコール

 

 応じない電話に不安と焦燥感が段々と沸き上がってきて、10回目のコールを終えて。あと5回で出なかったらやめようと思った。

 

「もしもし」

「もしもし。あー良かった繋がったぁ」

「その声はリヒトか?」

「はいリヒトだよ。無事で良かったよアンソニー」

 

 電話の相手はアンソニー・パーマー。俺の養子先で保護者。

 国境無き世界の幹部だった彼はいまもオーレッドにいる。

 無人機の襲撃先にはオーレッド湾が含まれていたのだ。

 基地だけを攻撃したと言っても、もしかしたら? と思わずにいられなかったのだ。

 

「俺のところは大丈夫だ。流石に避難したが直ぐに帰ってこれた」

「政府はエルジアの民間施設は攻撃しないってのを真に受けたのか?」

「実際そうだからな。あれからオーシア大陸はなんの音沙汰もなし。奴らも必要以上にオーシア本国を攻撃することをよしとしなかったのだろう。オーシア大陸の湾岸だけを狙ったのも、オーシア本土からの増援を来させないためだろうからな」

 

 アンソニーの言う通りだ。

 オーシア本土の海軍施設。特に空母という空母が徹底的に叩かれた。

 

 それはつまり、ユージア大陸に向かえるだけの航空戦力や陸上戦力を潰されたのと同義。

 オーシア大陸東部地域の基地を借り受けれない以上。戦闘機が休める空母がなければ戦力を向かわせることは難しい。

 

 それこそ、空中給油機を梯子してロングレンジ飛行をしないことには到底攻め入れない状況となったのだ。

 

「そうだ。OBCニュースで見たぞ。フォートグレイス基地を襲撃した部隊を壊滅させたってな」

「まあ、うん」

「配属初日で戦闘なんて気が気じゃなかっただろ。それで、戦果はどうだったんだ?」

「一応、エースだった。みんなのお陰でもあるけど」

「ほう、やるじゃないか。お前なら大丈夫だとは思ってたが、実は心配してたんだ。余計なお世話かもしれないと思ってこちらから連絡は控えたが」

「心配かけてごめん」

「なぁに。生きててくれたなら俺は満足だよ。ほんと、無事でよかった。俺が現役の時は、数えきれない仲間が空に逝ってしまったからな………」

 

 アンソニーは俺よりも長く空で、戦争というものを知っている。

 エースパイロットと呼ばれた彼だ。その分、多くの敵機を落としていったことだろう。

 

「アンソニー」

「うん?」

「俺………人を殺した。それも沢山。今回の戦闘で一番敵機を落とした。ベイルアウトしたかなんて一々見た訳じゃないけど。それでも沢山の人を殺した。その人の未来を奪って、そして俺は生きている」

「そうか」

「初めて爆撃機を撃墜したときも。撃墜した喜びよりも人を殺してしまったって現実が来て………でも、後半になるにつれて。そんな感覚がなくなって、とにかく敵を倒すことだけ考えたんだ。いつの間にか、敵を殺すことに抵抗がなくなった自分がいた………そして、夜寝る時にまたその現実を思い返して……俺、おかしいのかな。空軍に入る以上、遅かれ早かれ敵を殺すことを覚悟していたつもりだった。だけど、いざこうなるとこの様だ………情けないって思うだろ? 結局覚悟なんて出来てなかったんだ」

 

 このまま戦い続けられるだろうか。

 こんな気持ちのまま戦ってもしみんなの足を引っ張ったら? 

 もし自分のミスで誰かが死んだら? 

 

 あんなに飛ぶことを生き甲斐にしていた自分の中で飛ぶことを恐れている自分がいた。

 そう思うと胸がギュッと握られるような感覚を覚えるのだ。

 

 アンソニーからの返答がない。

 こんなことを言って困らせただろうか。情けないと思われただろうか。

 

「えっと………」

「俺が初めて戦闘飛行をした時のことだ。俺は誰よりも敵を落とした。回りからもトップエースだともてはやされて有頂天になってな」

「アンソニー?」

「まあ聞けって。その時は敵を倒して追い返したことが嬉しくて嬉しくてな。そのあともいい戦績を残していって有頂天になっていた。だがある日、味方が1機落とされて死んだ。そいつは空中で爆散してどう見ても死んだのがわかった。基地に死んだ奴の恋人がいてな、帰った時に詰め寄られて『なんであの人を死なせたの!?』と言われたよ」

「それは、辛いね」

「ああ。その時ふと思ったんだ。俺が殺した相手にも家族や恋人がいたんじゃないか。その訃報を知った家族や恋人が何を思ったのか。気付いた瞬間、自分が人殺しをしていることをありありと見せられた気持ちになった」

 

 アンソニーも同じだった? 

 あの歴戦のエースパイロットで、勲章を何個も貰った実力者である彼も? 

 

「だからな、お前の考えてることは何も間違っちゃいないさ。人として、それは当たり前だ」

「だけど、自分や味方の命を奪わせないために敵を落とすのは必要なことだ。なのに俺はこんな」

「何も責任を感じるなとは言わない。だがそれに押し潰されるな。背負うのはいいが、背負い方を変えるんだ。決して命を軽んじず、それでいて押し潰されないようにしろ。そして他人を頼れ。お前がそう感じていることを、クラウンや同期の奴らも感じてる筈だ」

「みんなも? でもみんなそんな風には」

「上手く隠してるのさ」

 

 隠してる、そうなのだろうか。

 

「リヒト。ラリーがOBCニュースで言ったことを覚えてるか? エースの条件だ」

「強さを求める奴、プライドに生きる奴、戦況を読める奴」

「そうだ。それ以外にも様々な人間がいる。だが誰が正解で、誰が間違いってわけではないんだ。問題はそいつが何をしたかだ。戦争にもルールがあるように。戦闘にも最低限の矜持がある………残念ながら、俺は最後の最後でそれを捨ててしまった。お前はどうだリヒト。お前は引き金を引いたことを後悔しているのか?」

 

 後悔………引き金を引き、相手を殺したことに? 

 

「………いや。俺は自分がすべきことをした。引き金を引いて何が起こるかを理解して撃ったよ」

「なら大丈夫だ。リヒト、お前は強い子だ。だから俺やマルセラ、ラリーのようにはなるな。自分の心に従って飛ぶんだ。そうすれば、自ずと道は開ける」

「うん」

「お前はたまたま、それを理解する前に戦争に巻き込まれた。だからこそ、俺から言うことは一つだ」

「生き残れ?」

「そうだ。俺はお前の心と翼を信じてる。戦争はまだまだ始まったばかりだ。目をそらしたくなることもあるだろう。それでもちゃんと前を見続けろ。いいな?」

「わかった。ありがとうアンソニー」

「気にするな。こんな俺でもお前の支えになれるなら、これ以上の喜びはない」

 

 道半ばで自ら軍人であることを放棄したアンソニー。

 リヒトにはそうなって欲しくない。その思いが彼のなかにあったのだ。

 

「なんだかつっかえが取れた気がする」

「それなら重畳だ。そうだ、時間があるなら今度マルセラにも電話するといい。あいつも心配してた」

「分かった………アンソニー。ラリーは、なんか言ってた?」

「いや、あいつからは何もない。戦争に参加してるのさえもな」

「そっか」

「何かあればお前かクラウンに言伝てしておく」

「わかった………そろそろ切るね」

「ああ、また今度な」

「うん、アンソニーも気をつけて。じゃあ」

 

 カチャンと静かに受話器を置いて、軽く息を吐いた。

 

 吐いた息と共に背負っていた重荷が少しだけ流れるのを感じた。

 

「トリガー」

「うおっ! お前らいつからそこに」

 

 気付くと後ろに同期三人がいた。

 いやほんといつの間に。

 

「いや、たまたま通りかかったら声が聞こえてな」

「なあなあ。電話の相手ってもしかしてアンソニー・パーマーか!?」

「え、いや、あの」

「ごめんトリガー。一応止めたのよ、私」

「パーマーって聞いたときからもしや、と思ったが。まさかソーサラーの息子だったとはな」

「いや、違う息子ではない」

「じゃあ親戚?」

「まあ………そんなところ」

 

 養子なんて言ったらまたややこしくなりそうだったから苦肉の策で誤魔化した。

 

「頼むから他言無用で頼むぞ」

「わかってるよ。色々わけありっぽいし」

「助かる」

 

 ラリーって口走ったけど、そこは聞かれてなさそうだ。

 それだけにホッと息を吐いて安堵する。

 

「ごめん」

「なにが」

「いや、情けないこと聞かれたなって。こんなのが味方にいたら不安だろうなって」

「オイオイオイ。まさか俺たちも怖くないと思ってたのか?」

「いや、そういうわけでは」

「俺だって撃墜した時は喜んださ。生き残ったこともな。けどデブリーフィングで味方の犠牲者を聞いた時はブルッたもんだ。俺、今日何機落としてどれぐらい殺したのかってな」

 

 頬をかいて目線を反らすフットパッド。

 後ろの二人も彼の言葉に頷いていた。

 

「撃たなければ撃たれる状況のなかで俺も敵を落とした。だけどそんなこと考えてたら戦えないって無我夢中に操縦桿を握ったさ」

「ボグガードも?」

「でも、それに逃げちゃいけないって思ったの。自分が起こした結果と責任。たとえ目を反らしたくても、それを反らしたら軍人失格。私は誰かに背負わせたくないの、自分の責任と覚悟を」

「ブラウニー………」

 

 みんな同じだった。

 みんなも震える心を無理やり奮い立たせて戦場を飛んでいたんだ………

 

「……生き残らないとな。奪った命の分まで」

「そうね」

「ああ」

「だな」

 

 自然と拳をトンと合わせていた。

 

 迷いはある。

 だけど戦争という舞台に立ってしまった以上、そこから逃れることは出来はしない。

 

 だからこそ、生き残る為に俺たちは戦わないといけない。

 たとえエルジアが、どれだけ崇高な理想と大義名分を持っていたとしてもだ。

 

「………なんか安心したらお腹すいちゃった」

「昨日お前全然食べてなかったもんな」

「そいやメニューのドリンクにハニーミルクが追加されたらしいぜ? トリガーお前なんか言った?」

「マジ? 言ってみるもんだな」

「言ったのかよ!」

「流石にサピン製、ではないよな?」

「ここまで届かせるには遠すぎるだろ」

「エルジア王国だったら輸入してるかもな」

「おのれエルジア、許せん」

「戦う理由それにするなよトリガー」

「いくらトリガーでも………いやするかもしれない」

「真顔で言わないでブラウニー!?」

 

 フットパッドが笑いながら俺の肩に手を回して強引に食堂に向けて歩きだした。

 そんな俺たちに苦笑するボグガード、慌てて止めようとするブラウニー。

 そして俺も思わず釣られて笑っていた。

 

 不安になったのは俺だけではなかった。

 戦争に巻き込まれたんだから当然だ。

 

 同じ志を胸にもつ仲間がいる。

 俺はもう、あの頃のように一人ではない。

 それがなんだか無性に嬉しくて仕方なかったんだ。

 

 

 





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