エースコンバット7 FLIGHT REZON   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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STAGE15【Charge the Enemy(向かい風を行け)

 

 

 つくづく、この場所は空気が濁ってると思う。

 

 窓辺の席に座った男はつまらなそうに海、そして昨日の爆撃で穴が空いた滑走路を眺めていた。

 

 カモグレーのジャケットに番号が書かれた朱色の腕章。くすんだ金髪の側頭部を刈り上げ、口許にはうっすらと髭を広げていた。

 優男。初対面での第一印象ならこれほど的確な表現はない。

 

 彼が罪人だということを除けば………

 

 ユージア大陸の東。エルジアから何千キロも隔たったここザップランド。

 そこに構えた軍事基地。オーシア国防空軍第444航空基地。

 

 なんて立派な名前がついてるが。ここには実際に飛ばせる戦闘機など一つもない。

 

 あるのは武装なんかない真似事の警備艇が数隻。

 半分は弾が入ってない対空機銃。

 半分はミサイルなんか入ってない空のSAM。

 半分は風船で膨らませたタンクローリー。

 

 その残り半分なんて、払い戻されたお下がりのアンティーク品だ。一応戦えないことはないが。負け戦率は高い。

 

 そして使われることのない本物の滑走路と。隣にペンキをぶちまけてそれっぽく見せた大がかりな滑走路の落書き。

 

 あと、沢山のモスボール戦闘機や爆撃機がズラーと偽の滑走路の脇に並んでいて。パッと見で言えば大戦力を保有してるように見えるだろう。

 

 他にはサーチライトに対人機銃。装甲車は入り口に配備されていて。基地には余すことなく鉄条網が設置されている。

 

 そのサーチライトや対人機銃は、外敵にでなく内側に向けられている。

 

 ………牢獄である。正確に言えば懲罰基地だ。

 

 ここには罪に問われた軍人が更正のためにと送り込まれている。実際に更正なんかしてるとは思えないが。

 ここに来る正規軍人も何かと脛に傷を持ったり。厄介者としてここに流された。

 大佐という階級を持つ司令官でさえ相当やっかまれてここに飛ばされたらしい。

 

 そう、流刑地。これが一番しっくり来る。

 

「おい、聞いたかよ。この基地に女が来るんだってよ」

「マジかよ。女性のパイロットとかか?」

「こりゃあ手取り足取りレクチャーしてやらんとな」

「ほどほどにしとけよ? 番犬様が五月蝿いからな」

 

 隣では下品な会話と笑い声が響き、それに同調して直ぐにグループが出来ていた。

 むさ苦しい男所帯のこの場所に一輪の華が来ると思えば盛り上がらないはずもないが。

 

 そんな会話を横流ししつつ、優男はまた窓の外を眺めた。

 

「なに黄昏てんだタブロイド」

「フルバンド」

 

 痩せこけた男が優男──タブロイドの前に腰掛けた。

 

「いやさ。とうとう戦争が始まったなって思ってな」

 

 ここに収容されて二年ぐらいか。

 長い間平穏を維持し続けてきたユージア大陸の平和が破局した。

 

 その時の基地の様子と来たら。

 みんな拍手喝采をあげていた。味方からも嫌われるとはオーシアも気の毒だなと遠巻きに笑ったもんだ。

 

「どうせ俺たちに出番はないさ。と言いたいところだがな」

「おっ、いつもの切り口だな」

「白けること言うな。近々この基地に配属される奴に整備士が混じってるらしい」

「そいつって、もしかして女か?」

「なんだよもう知ってんのかよ」

「白々しいな情報屋。お前が流したんだろうに」

 

 そう言うと目の前の情報屋は得意気に口角を吊り上げた。

 

「外見までは掴めなかったけどな。そいつはなんともとんでもないことをやらかしたんだ」

「というと」

 

 タブロイドが先を促すと、フルバンドは無言で手を差し出して逆に彼に促した。

 タブロイドは軽く息を吐き、懐から紙幣を一枚取り出してフルバンドに握らせた。

 

 彼はこうやって他人から日銭をむしり取っている。今日だけでどれだけ儲けたんだか。

 

「まいど。んでだ、その女整備士の罪状は戦時航空法違反だ」

「整備士なのに航空機飛ばしたのか?」

「ああ、なんでもIFFを積んでないF-104を飛ばしたんだと」

「またまたアンティークなものが出てきたな」

 

 F-104 スターファイター。

 戦闘機の第一世代機であるこの機体は【究極の有人機】と呼ばれる。

 その由縁は「これ以上の戦闘機が出るなら、そこには人間が乗ることなど出来ないだろう」と言われたからだ。

 だからこその究極の有人機。ただただ高く早く飛ぶことのみを追求した。整備士の意地とロマンの産物がスターファイターだ。

 

「その女の記念すべき処女飛行と同時にエルジアは宣戦布告してきた。丁度偵察していたオーシア機とバッドエンカウントしてそいつは撃墜。オーシアの基地に落ちちまったんだとよ」

「良く生きてたもんだ。しかしフライトプランも出してないと見たぞ」

「通るはずもねえさ。なんせそいつはモスボール機だからな」

「は? いやいやモスボール機が飛ぶなんて………まさかモスボールを修理したのか?」

「そんな生易しいもんじゃない。あちこちのモスボールから使える部品をかき集めて1機の飛べる機体を作り上げたのさ」

 

 タブロイドは思わず絶句した。

 

 モスボール機から超音速機をレストアして飛ばす。

 字面だけ見ると簡単だが。モスボールというのはもはや飛べる見込みのないスクラップだ。

 さらに他の部品を継ぎ接ぎにする。

 原則戦闘機の部品と言うものはそれ専用と言えるもので。例えるならF-16Cの部品はF-16Cにしか、F/A-18Fの部品はF/A-18Fにしか使えない。

 それをパズルのように組み合わせ。この世で一番繊細な機械ともいえる戦闘機を飛ばしたとなれば。

 

 それはもはや、神技の所業だ。

 

「その女がとんでもない女だってのはわかった。てことは。俺たちはその女が作り上げた戦闘機で飛ぶってことか?」

「そんなことあのハゲが許すと思うか? 囮用の飛べないモスボール機を作って。そのうちのいくつかに火を入れて衛星の赤外線監視に見させるのさ。するとどうなる」

「この基地に大規模な航空戦力が結集してると思ってしまう」

「ビンゴ。俺たちは晴れて罪人から味方の弾除けに昇格って訳さ」

 

 つまりここは敵の攻撃を集中させるための誘蛾灯になる。

 俺たちはこれからひっきりなしに爆撃が飛んでくるなか急いで防空壕に飛び込んで毎日お祈りをしなければならないと。

 

 なんともふざけた構想だ。

 他人の不幸は蜜の味を地で行く基地司令のシメシメとした顔が目に浮かぶ。

 

「おっ! 王女様のラジオが始まるぞ!」

「かえろかえろ!」

「おい下手くそだな! 代われよバカ!」

「誰だバカって言った奴は! ぶっ殺すぞ!」

 

 男たちが揃いも揃ってラジオに飛び付いて愛しの王女殿下の声を聞こうと耳を傾ける。

 我先にとラジオをいじくるせいでチャンネルもあったもんじゃなくなってる。

 

「大変興味深い情報だった。珍しくな」

「珍しい言うんじゃねえよ」

「お前の情報は裏取りが甘いからな。まあ楽しめたよ。ほら、追加だ」

 

 懐からもう一枚取り出してフルバンドに握らせると彼はスロットマシンのジャックポッドを当てたみたいに更に口角を上げた。

 

『エルジア王国王女。ローザ・コゼット・ド・エルーゼです』

「ヒューヒュー!」

「待ってました!」

「オーシアをやっつけろぉー!」

「オーシアなんて糞食らえぇー!!」

「うるっせえぞバカどもが! 少しは静かにしやがれ!!」

 

 騒ぎすぎたのか看守が入り口で怒鳴り散らかすもここの罪人は聞く耳を持たずに王女様の声に酔っていた。

 

「完全にエルジアの戦勝ムードだな」

「どうかな、もしかしたらどんでん返しが来るかもしれないぞ。これまでの大きな戦争はいつだってそうだった」

「スカーフェイスやメビウスが出るってか?」

「いや、もっと新しいのさ」

「そんな都合良く出るわけねえさ。んじゃ、まいどあり」

 

 ドル札をポケットにねじ込んでラジオの方に向かうフルバンドの背中から目をそらして再び窓に視線を戻した。

 

「なんか来そうな予感がするんだよな。嵐が」

 

 そう全てを吹き飛ばすような嵐が。

 

 なんの根拠もない。

 だがタブロイドの第六感がそう告げるのだった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「曇ってるなぁ」

 

 どんよりとした空の下をメイジ隊とゴーレム隊の計6機の編隊が飛行していた。

 

 戦争が始まって、俺たちが初戦闘をしてから早2日。作戦飛行が通達された。

 

 やっと情報が集まって整理が終わっていざ見返してみると状況は芳しくないの一言。

 

 エルジアの電撃作戦によってユージアに転々とするIUN基地を襲撃されたことに優勢とみたユージア大陸の中立国。その大半がエルジアに加勢したのだ。

 戦力を増強したエルジア軍は急速に侵略領域を拡張。わずか3日でユージア大陸の3分の2がエルジアに占領された。

 

 IUNに批判的だったのはエルジアだけではなかったらしい。

 尻馬に乗りまくって今後美味い汁を飲み放題にしたいがために参加した元中立国には呆れと共に恐ろしさを感じた。

 人というのは簡単に尻尾を振れるのだなと。

 

 そこで俺たちフォートグレイス基地飛行隊は軌道エレベーターを手中に納め、大陸全体のイニシアチブを独占したエルジアから軌道エレベーターを取り戻すための軌道エレベーター奪還任務部隊の序列に入った。

 

 今回の任務はエルジアに奪われた軌道エレベーター奪還の先駆けとして、スコフィールド高原からこっちに向かってくるであろう敵部隊の掃討。及び敵が展開する対空レーダー車両を破壊し。後続の風通しを良くすることが目的だ。

 

「こんな新米ばかりの部隊が先遣隊、か。やれやれ、こんな時ばっか頼られてもなぁ」

「ぼやくなクラウン。これも任務だ」

「編隊長は仕事に熱心で羨ましいですよ」

「ハハ、隊長はもう少し気合い入れてくださいな」

「うおっとぉ」

 

 心なしか少しだけスピードが上がった隊長機に合わせるためにスロットルをほんの少し倒した。

 

 ここは湖が多く、豊富な水源は工場用水としてユージア中に利用されてるらしい。

 といっても俺たちが飛ぶところには湖はなく。緑色の平原と森が転々とした緑のコントラストの上を行っていた。

 

「街が見えてきた………住人は避難してるだろうな?」

「いや、大半は残されてるだろう。エルジアの支配スピードに取り残されて、避難もままならないらしい」

「この前は海の上だったからわからなかったが。前回がいかに恵まれた環境で飛んでたのかがわかるな」

 

 そうだ。もし誤射をして民家に当たれば、逃げていない人は勿論死ぬ。

 人を殺す覚悟が出来たとはいえ、なんの罪もない民間人を撃つことは当然ながら嫌悪を抱き。ブルッと緊張が身体を走った。

 

「こちらスカイキーパー、まもなく戦闘領域に突入する」

「ウィルコ」

 

 おしゃべりは一旦終わり。レーダーを広域モードにし、作戦領域のマップデータをロード。

 ユージア大陸の標準時計が10時ジャストを指し示した。

 

「作戦開始。今回の目的はレーダー車両の破壊だが、対空兵器や軍用車両も存在している。出来る限りエルジアの戦力を削れ。ただしHQからは民間人、民間施設への被害は絶対に出さないよう申しつけられている。各機、それを厳とせよ」

「しかし、撃墜された敵機が民間区域へ墜ちることはありえます」

「誤爆問題が出てきたとは言え。そこまで気を配れるか?」

「無理だろそれは………」

「ゴーレム隊各機、つべこべ言うな。些細なことでも世論が浮き足立つ、これが今の戦争だ。ただでさえオーシアは十字架を背負いすぎているのだからな」

「了解です………」

 

 渋々と、各々が了承の意を示すも。納得しきれてないことが声色からわかった。

 俺たちはまだそこまで割りきれる程熟していない青々とした果実だ。

 

「こちらメイジ2。みんな、とりあえず出来ることをやろう。敵の機体はどうしようもなくても。俺たちの弾を民間人に降らせないことは出来るさ」

「トリガーの言う通りだ。さっさと作戦を終わらせて白旗を上げさせるとしよう」

「そ、そうですね。ありがとうトリガー」

「どういたしまして」

 

 戦争をしているんだ。敵味方民間人が無傷のままというのは机上の空論だ。

 やることをやる。当たり前のことをやり続けるしかないのだ。

 

「メイジ隊、対空レーダー車両を確認できるか? 君たちのすぐ近くにある」

「ああ、見つけた。行くぞ」

「ウィルコ!」

 

 先行していたメイジ隊が速度を上げる。

 レーダーの重要標的。ターゲットのレッドマーカーが浮かび上がった。

 

 そのまま直進。機銃射程に入った瞬間に発射。

 曳光弾交じりの弾丸の雨がレーダー車を中の人間ごとミンチにして爆発する。

 

『レーダー車両、一号車がやられた!』

『敵が来たのか!? 反撃しろ! 対空射撃はじめ! レーダー車両を退避させろ!』

『急げ! 俺たちが網の要となるんだ。やられるわけには行かないぞ!』

「始まっちまったなトリガー、今のが戦争開始の合図だ。もう後戻りは出来ないぞ」

「大丈夫だクラウン。もう迷わない。次の目標に向かう!」

 

 フットペダルを踏み込んでロール。

 

 次のレーダー車両の回りにはAAGUN、対空機銃が配置されていた。

 

 レーダー車両と距離が近いな、なら。

 兵装を選択し、特殊兵装に切り替え。HUDのターゲットマーカーが変化した。

 

 今回俺とクラウンが持ってきたのはGPB。誘導型爆弾だ。

 範囲は狭いが誘導投下が可能で確実に仕留めることが出来る。

 

「メイジ2、爆弾投下!」

 

 ポンッ! と翼から切り離された緑色の爆弾は真っ直ぐに目標のレーダー車両の真上に向かった。

 質量だけで車両を押し潰したGPBの信管が作動し、近くにいた対空機銃が爆発の衝撃に巻き込まれてひっくり返った。

 よし、上手く行った! 

 

「目標を破壊。残りあと5台」

『戦闘機を要請しろ! レーダー車両を守るんだ!』

『こちらストリクス! 敵から空襲を浮けている! 繰り返す! 現在、敵航空部隊の攻撃を受けている!』

『レーダー車両を移動するんだ! 急げぇ!』

 

 止まっていたレーダー車両が我先にと森の中に待避しようとする。だが車のスピードでは天地がひっくり返っても戦闘機の機動から逃れることは出来ない。

 

 対空機銃に爆弾を落とし、逃げ込もうとするレーダー車両にミサイル発射。あと一歩で森に入ろうとした希望の光は車両ごと木っ端微塵に粉砕された。

 

『こちらスコール隊、到着した。オーシア軍を掃討する』

「レーダーコンタクト! 全機、敵の迎撃機だ! おおよそ30秒後にエンゲージ!」

「おいでなすった!」

 

 来る敵機はもはや見慣れたMiG-21bis。

 基地から発進したわけではないということは………

 

「敵さん遠くから飛んできたな。さっさと終わらせようと焦ってやがる」

「そこに付け入る隙があればいいのですが」

「メイジ、お前たちは引き続き地上の奴を叩け。こっちは対空装備だからな。ゴーレム隊行くぞ」

「了解」

 

 ホーネットの編隊が旋回して増援を迎えに行った。

 俺たちは引き続き対地目標を軒並み潰していく。

 

「新入りども、敵と味方の区別はつくな? 最新世代のIFFは衛星経由で軍とつながっていて信頼性が高い。レーダーを信じろ。乱戦だからとフレンドリーファイアはするなよ」

 

 IFFの有無。

 それは戦場に置いてこれ以上重要な物はない。

 昔と比べて技術力が発達した今では数多くの衛星が戦場に理性を与えていた。

 

 昔の戦場にはIFFどころかレーダーやアラートもなかったという。

 俺たちの世代がどれだけ恵まれた戦場にいるかが分かるというものだ。

 

「トリガー、地面に近づいてキスすんなよ。無理して地面を擦る奴を俺は何度も見たからな」

「機銃を撃つのに意識向けすぎるとなりそうですよね」

「わかってるなら良し。まあお前に限ってそんなへまはしないと思うがな。それと、高度が低いと地上から撃たれやすくなるぞ」

「了解。アドバイス感謝」

 

 クラウンのアドバイスが身に染みる。

 俺も訓練校時代に何度地面を擦りかけたことか。

 対地任務はなかなか成績は延びなかったが、あの頃の苦難は無駄ではないことが今わかる。

 

「メイジ。そちらにも増援だ。MiG-21bis、4機」

「また来た」

「レーダー車両はあとだな。まずはうるさい奴を黙らせる」

「ウィルコ」

 

 数の差は2倍だが、恐れてる場合ではない。

 いつも通り飛べばやれないことはないはずだ。

 

 敵編隊ブレイク。

 上と左から撃たれる機銃を落ち着いてかわし、レーダーと黙視で敵を確認。

 速度を調整しつつ旋回、敵の後ろを取ってミサイル。撃たれたミサイルに回避することが出来ずに落ちる敵機は空中で爆散し、残骸と炎の雨を振らせた。

 その落下点住宅がないことを確認し、俺は軽く安堵した。

 

『くっ! スコール3被弾した。せめてなにもないところに』

『駄目だ間に合わない! スコール3、今すぐベイルアウトしろ! 爆発する!』

「ゴーレム1、撃墜した敵機が住宅地に!」

「いまは自分の命の心配をしろ! まだ来るぞゴーレム2! ブレイクブレイク!」

「敵を撃墜した上でその機体が民間施設に落ちないようにしろって? 曲芸だぞそいつは」

 

 どうやらゴーレムが落とした機体のようだ。

 やはり住宅地に被害が出てしまう。

 だけど敵は待ってくれない。敵の進行方向になにもないところを確認した上で撃墜するのが理想だが、流石にそこまで気を配れるほど達観出来てる訳でもない。

 

 だが住民を巻き込みたくないのも事実だ。

 何か良い考えはないものか………

 

「………メイジ1。馬鹿げた提案をしても良いですか」

「言うだけ言ってみろ」

「敵機を引き連れたまま基地上空に行きましょう」

「なんだって?」

「まだ増援が来る可能性もありますが、今なら敵の航空戦力が少ない。それに広いフィールドの基地なら敵はそこに落ちてくれるかもしれない」

「基地に落ちようとする根拠は?」

「俺が今落とした敵が住宅地を避けてからベイルアウトしました。民間人に被害を与えたくないのは、敵も同じはずです。それに俺たちが基地を攻撃すれば、航空部隊もこっちに向かってきます」

「下の人間を配慮しながらやるということだな。やれるのか?」

「やります。俺も民間人に被害を出したくないです」

 

 だがそれは基地の防空戦力と航空部隊の板挟みになるということ。

 普通なら航空戦力を無力化したあとに残りの基地を攻撃するのがセオリー。

 

 あえてそれを無視する。それがどれだけ危険か、どちらが安全かなど明白だ。

 

「わかった、お前の甘ちゃんな提案に乗ってやる。ただし絶対にやられてやるなよ」

「ウィルコ!」

 

 だがクラウンは了承してくれた。

 ならそれに応えるしかない。

 

 スロットルオン。MiG-21bis2機を引き離し、そのまま基地に向かう。

 その途中にあるレーダー車両も忘れずに処理しておく。

 

『敵が基地に!』

『逃がすな追うんだ!』

 

 泡を食って反転する敵機を無視して基地上空に躍り出る。

 そして基地の滑走路にいる最後のレーダー車両にミサイルを撃ち込み。通り道にあったガスタンクに機銃発射。

 無数の弾痕が生じた火花にガスが引火し、側にいた対空機銃を巻き込み、盛大な炎の花を咲かせた。

 

「メイジ2、最後のレーダー車両を撃破! よくやった」

「エルジアのお偉いさんも渋い顔してるだろうぜ」

「メイジ2! 敵機が後ろについた!」

『堕ちろオーシアぁぁ!!』

 

 基地をやられてお冠か。機銃とミサイルを撃ちながら迫る敵機。

 

 急制動からのループ&フレアでミサイルをやりすごし。敵をオーバーシュート、そのままお返しに機銃を撃ち込み、駄目押しにミサイルをくらわす。

 間を置かずに兵装切り替え、片手間に敵の対空機銃に爆弾をプレゼントしてやった。

 

『くそぉ民家が前に! 基地に落とすしかないのか!?』

『脱出しろオータム2!』

「ビンゴ! トリガー、お前の読み通りだ。敵機が滑走路に落ちたぜ! ラッキーだな」

 

 思わぬ一石二鳥にマスクの中で笑みが浮き出た。

 これで敵の出入り口を一つ減らした。

 

「こちらゴーレム1。俺たちが相手していた編隊がそっちに行った!」

「ゴーレムメイジ。レーダー車両は始末したが迎撃機が撤退しない。すべて片づけるんだ」

「了解。流れはこっちに向いてる。このまま制圧しちまおう」

「了解」

 

 敵部隊と一緒にゴーレム隊も戻ってきた。

 ここからが本番。気合い入れろ! 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「レーダー車両! 全部破壊されました!」

「もうすぐレーダーが稼働する筈だったのに!」

「計画を急ぎすぎたんだ。レーダーで捕捉しても迎撃が間に合わないんじゃ意味がない!」

「違う! レーダー車両とは連動しない! 手動射出だ! 設定をやり直せ!」

「設定変更!? くそっ、読みづらいな! オイ戦争屋に伝えてくれ! こっちがわかる言葉でマニュアルを書けとな!!」

「馬鹿! 今出るな! 狙い撃ちされちまう!」

 

 基地のあちこちから飛び交う悲鳴を管制塔で聞く司令官は苦虫を噛み潰した。

 

 敵の攻撃がここまで早いとは思わなかった。

 しかも敵はあのフォートグレイスから来たという。

 戦力を投入した部隊を壊滅させた部隊。本来ならその基地は既に占領済みで、その後の防衛策としての『網』を張るために準備していたのだ。

 

 指揮官は汗が止まらなかった。

 この状況を自分は知っている。

 16年前。自分たちエルジアが起こした大陸戦争。

 あと一歩で追い詰めたISAF。勝ちを目前としたところを全てひっくり返し、全てを滅ぼしたリボンの死神を。

 地上から見たあの青いF-4 ファントムの姿を。

 

 その姿を、基地上空を疾駆するF-16Cに重ねてしまった。

 双眼鏡が一瞬捉えた、あの狼のエンブレムを持つその機体を。

 

「なんだって!? おい! すぐに出るのをやめろ! 輸送機が先だ!」

「今度はなんだ!?」

「ジェスターが、ジェスターが離陸すると」

「なにぃ!?」

 

 

 

 

 

「おいジェスター! 離陸を中止しろ! 聞こえないのか」

「聞こえてますよ司令官どの。みんなの情けない悲鳴もね」

 

 ハンガーから出てきたのはMiG-29A ファルクラムだった。

 MiG-21bisより遥かに高価な機体は、その一際目立つ『イエロー』を晒しながら滑走路に向かっていった。

 

「すぐに戻れジェスター! 戻れと言っている! 落とされるぞ!」

「馬鹿言いなさんな。俺はネームドだぜ? オーシアの飼い犬なんかにやられるかよ。逆に俺様が全部叩き落としてやるさ」

「おいジェス………」

 

 耳障りとばかりに通信を切るジェスターと呼ばれた若者は深いため息を吐いて滑走路に向かっていた。

 

 若くしてネームドに選ばれたジェスター。

 派手好きな彼の愛機であるファルクラムは表はイエロー、裏はブルーとネームドの中でも一際派手派手な機体だった。

 

 この姿で空を飛ぶと眼下の人々が黄色い声を上げるのだ。

 本人であるジェスターもナイスガイと呼ばれる人物でファンの女の子の視線を釘付けにするのだ。

 

「俺は模擬線連勝記録保持者だ。怠けたIUNなんかに負ける道理はない」

 

 戦争が始まって数日でジェスターはエルジアの勝ちを確信していた。

 今飛んでるのはその残りカスだ。基地のみんなはメビウスの再来と言ってるが。彼はそれを鼻で笑った。

 

 仮にメビウスだとしても、少なくとももう4、50のおっさんだ。

 肉体を酷使できる若者が遅れを取る筈がないと。

 

 この戦いが終わったらこの基地のオペレーターに声をかけてみよう。きっと自分の姿に英雄を見出だしてくれるはずだ。

 

 ジェスターはこのあとのナイスとのナイトを想像し、それを手にするために滑走路に躍り出る。

 

 通信を入れ直し、彼は高らかに声を張り上げた。

 

「エルジアネームド、ジェスター! 離陸する! 俺の勇姿をしっかりと………」

「ジェスター! 敵が接近! 接近!」

「はぁ?」

 

 次の瞬間、道化師(ジェスター)の背中が炎に叩きつけられた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 ブラウニーが放ったミサイルが眼下のMiG-29Aに直撃。機体が真っ二つにひしゃげて見る影もない無惨なスクラップと化した。

 

「敵機撃墜………でいいのよね?」

「なんで疑問系なんだブラウニー」

「いやなんか。凄い派手で、どうぞ狙ってくださいって色のファルクラムだったから」

「派手なファルクラム? その機体、塗装がイエローじゃなかった? もしかしたらネームドのジェスターかもしれん」

「ええ、全面が蛍光イエローだったわ」

 

 パイロを相手してから俺はエルジアのネームドが紹介されてる公式サイトを覗き見たのだ。

 そのなかのジェスター。パイロ以上に派手なカラーリングを施したファルクラムを駆る彼はイケメンアイドルグループでも食べていけそうな風貌の若手のパイロットだ。

 

 グリッターを思い出すが、彼と比べるとジェスターはなんか着飾りだけのメッキのような派手さだった。

 

「とにもかくにもネームドを落としたなら誇って良いんじゃないか?」

「なんか釈然としないわ」

「なぁに、ジェスター様もブラウニーのようなナイスに落とされて喜んでるさ」

「ゴーレム4、喋ってないで戦果をあげて見せろ」

「俺だけですか!?」

「ゴーレム2とメイジ2は戦果をあげている。お前もジェスターのような名声だけの愚か者になりたくなかったらキビキビ働くことだな」

「トホホ………」

 

 肩を落としながらも接近してきたヘリ2機を的確に処理するフットパッドはボグガードと合流して基地上空を旋回した。

 

「ゴーレム2。奴はアホだったが、ネームドを落としたという事実は敵にとっては明確な打撃を与えただろう。よくやったな、ブラウニー」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 普段厳格なノッカーに褒められたこともあって。ブラウニーは一瞬天にも昇るような感覚を味わった

 だがまだ戦闘中。軽く頭を振って気持ちを落ち着かせた。

 

「こちらゴーレム3。敵の輸送機がタキシング中。数3」

「この状況でか? 命知らずにも程がある」

「だが逃す手はない。メイジ、輸送機を狙え。敵のMiGはゴーレム隊でなんとかする」

「了解した」

「ウィルコ。メイジ2、輸送機を攻撃します!」

 

 ネームド、おやっさんの言う通りパイロのような凄腕ばかりではないんだろうな。

 

 俺も天狗にならないように気を付けなければ。

 ………そういえば俺ってTACネームの選択肢にジェスターがあったよな。

 

「トリガーにしといてよかった」

「どうした?」

「なんでもないです! ロックオン、FOX2!」

 

 元提案者のクラウンを振り切るように俺は輸送機に向かって引き金(トリガー)を引いた。

 

 

 





 ミッション2スタート。

 今回無様にやられたネームド、ジェスター。
 ゲーム内だと39歳の少佐なんですよね実は。
 今作ではほんと無防備で迂闊過ぎたんで若返らせました。

 ゲームでもボーナス過ぎるネームドなんですよねコイツ。
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