エースコンバット7 FLIGHT REZON   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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STAGE1【Demon Foot(悪魔の足跡)

 俺の名前はリヒト。

 名字はない。名前だけしか持っていない。

 記憶喪失とかそういうのではなく。それ以外与えられなかったからだ。

 

 物心つく前の赤子の頃から親ではなく叔父と叔母に育てられた。

 親は7年前の戦争。ベルカ戦争で死んだとしか知らない。詳しい死因は不明

 

 その後二人に奴隷同然の生活を強要され、それに疑問を覚えることなくそういうものだと思った、教えられた。

 

 ふと。ある日その生活に疑問を覚え始め、このままでは駄目だ。このまま此処に居ては自分は死ぬのではないか。

 そんな突然沸いてきた焦燥感と恐怖に襲われ。叔父のコートをかぶって窓から逃げ出すも道半ばで倒れ。

 彼に救われた。

 

 ラリー・フォルク。

 傭兵として世界を渡り歩くフリーランス。

 かつてウスティオの傭兵として戦闘機を駆り、ベルカでもっとも恐れられている円卓の鬼神と飛んだ男。

 

 そんな彼とひょんなことから始まった二人旅。

 奇妙な縁だとは思う。俺はラリーの表面しか知らない。

 この場所から抜け出すための方便。そういう考えもあった。

 だがそれを抜きにしても、彼と一緒に居たいと思ったのだ。

 

 ラリーは車を持ってなかったので二人旅は基本的に徒歩だった。

 

 過去に何個か車を持ったことがあるらしいが、盗まれたり爆発したり銃弾で穴空きチーズにされたりと散々だった。

 このことからラリーは車を買わず。途中通りかかる車を捕まえたりしたという。

 

 旅の途中でラリーに戦闘機には乗ってないのかと聞いてみると、もう乗ることはないと言っていた。

 それでも時々空を見上げては寂しそうな顔をするのだ。

 

 道中は特にトラブルというトラブルはなかった。

 昔は激戦区だったベルカ公国近辺はなんとも静かなもの。

 

 ここ数年戦争はなく。最後に起きたのは四年前の1997年から1998年のユージア戦争だ。

 その後は世界各地で戦争が起きた記録はない。

 

 というのも。その一年後の1999年に直径約一マイルの小惑星ユリシーズが地球に墜落したからだ。

 起きれば確実に核の冬が来ると呼ばれた未曾有の大災害を前に戦争なんかしてる場合じゃないと各国は対策を進め。

 結果、人類の叡知の結晶であるストーンヘンジと呼ばれる小惑星破砕用超巨大地対空レールガン群によりユリシーズの破片は破砕され、核の冬による人類滅亡は防がれた。

 

 それでも破砕しきれなかった隕石の欠片がエルジアやエストバキアに降り注ぎ、大規模な社会インフラのダウンを引き起こした。

 

 というのはラリーから聞いた話だ。

 ベルカ公国は隕石の被害は軽微だったし。その時俺は5歳だった。

 空から降り注ぐ流星群を見た記憶がないため、もしかしたらシェルターに居たのかもしれない。

 

 そして2002年の今でもユリシーズの爪痕は世界に深々と残っている。

 首都に隕石が落下したエルジアだが。難民受け入れ先として期待され難民が押し寄せてきて、それを受け入れきれずにパンクし。

 被害が甚大なエストバキアに至っては内戦が起きて軍閥による群雄割拠状態に陥っているという。

 

 と、そんな色々な要因が対岸の火事であるベルカは比較的平和だった。

 

 唯一、この二人旅に欠陥があるとしたら。

 

「はあ………はあ………」

「少し休むか」

「うん」

 

 俺の体力のなさだった。

 叔父叔母の家で外に出ることもなく、ろくな食事も与えられず。ついこの前衰弱死寸前だったのだから当然だ。

 

 ラリーも当初は車を借りようかと思ったがサピンまで行くには流石に長すぎるし必ず返せるかという保証もなし。

 ならば買うかと考えていたが、それは俺が止めた。

 自分のために大金を使わせるのは流石に申し訳ない。自分なら大丈夫と言ったのだ。

 

 が、結果はこれだ。

 まだベルカを出てすらいないのにこの有り様。しかも今は雪道、普通より足を取られる。

 どう考えてもサピンまで持ちはしないだろう。

 

 情けないと思うと同時に、自分がラリーの重荷になっている。

 そう考えてしまって涙が浮かんだ。

 

「リヒト」

「なに?」

「バイクを買おうと思う」

「でも」

「なぁに車よりは安いさ。次の町で買うぞ」

 

 バイクを買うことになった。

 近くの町の古いバイク屋にはオイルの匂いが鼻をついてきて思わず鼻を塞いだ。

 

「ラリーがやってきたようにヒッチハイク? をすればいいのに。わざわざお金を使うなんて」

「身体を鍛えるのはいつでも出来るさ。今はサピンに急ごう」

 

 サピン王国。

 北オーシア大陸の南西の国。

 ベルカから見てウスティオを挟んだところ。

 

 そのサピンという国にはラリーの知り合いが居るらしく。そこを目的地として向かっている。

 最初にラリーは北のベルカから南のサピンは遠いから、長い旅になるとぼやいていた。

 

「俺はそこに住むの?」

「あーー」

「?」

「まあつけばわかるさ」

 

 煮え切らない返事をするラリーはバイク店のオーナーの元に向かった。

 バイクを買えば移動時間が大幅に短縮できる。

 自分の貧弱な身体を考慮すれば。足を持つのは最善の手だ。

 

 だけど。

 それと同時にラリーと一緒に居る時間が減ることに、俺は見るからに落ち込んだのだった。

 

 しばらくして店から出てきた一台のバイク。白のバイクに赤いサイドカーがついていた。

 赤いサイドカーのヘッドには。鎖を巻き付けた赤い犬のマーク。

 その下には『GALM』と書かれていた。

 

 カッコいいと思う。心の底からそう思えた。

 が、ラリーは苦笑いを浮かべていた。

 

「なあ爺さん、本当にこれしかなかったのか?」

「ない。金はもらった。さっさといけ」

「じゃあせめて塗装を………」

 

 ラリーの注文も聞こえないとばかりに店主のお爺さんは店のなかに戻っていった。

 見るからに気難しそうな人だ。時間がかかったところを見ると相当話し込んだのだろう。

 

「………こいつはなんの因果だ?」

「俺は良いと思うけど」

「そうか?」

「うん、カッコいい」

「………オーケー。行こうか」

 

 荷物はラリー1人分に毛が生えたようなものだったからバイクの荷台になんなく収まった。

 地図を広げて目的地の道を確認する。

 といっても俺は文字を読めないからラリーの言葉に耳を傾けた。

 

「いま俺たちが居るのがこのホルンシュタットあたり。最短で行くにはこのダムの横を通って、タウブルク領内のギリギリを抜けて、そのままホフヌングに行く」

「うん」

「やれやれ。とんだツアーになりそうだ」

「ラリー?」

「なんでもない。じゃあ行くぞ、しっかりヘルメットを被れよ」

 

 サイドカーと同じ赤いヘルメット。ヘルメットにも赤い犬のマークがついていた。

 

「なんか元気ないね」

「ああ、この色は俺が乗ってた戦闘機を思い出す」

「戦闘機の、色?」

「俺は円卓の鬼神と飛ぶ前に戦闘機の右の翼を失くしたことがあってな。それでも生きて帰って来たんだ」

「えー?」

 

 信じれない話だ。

 戦闘機は言うならば鉄の鳥。

 その片翼がないとなれば空を飛ぶことは出来るはずがない。

 

「そのことから付けられたあだ名が片羽の妖精。以来片側を赤くするのは幸運の象徴って言われて少しの間ブームになったんだ。俺も戦闘機の片側を赤に塗ってた」

「凄いねラリー」

「まあなぁ。だけどここベルカじゃ逆に不運の象徴って言われてたな。だから売れ残ってたし、あの爺さんも早く厄介払いしたかったんだろ」

 

 お陰で安くすんだがな、とラリーは笑った。

 

「じゃあ行くか。ガルム2」

「ガルム2?」

「俺のコールサインだ、円卓の鬼神と飛んでた頃のな。だけど今はお前がガルム2だ」

「俺が?」

「ああ、幸運がお前につくようにってな」

「………了解」

「上出来だ。行くぞ!」

 

 こ気味良いエンジン音が鳴り。

 片羽のバイク、ガルム2が地を走った。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 バイクの旅は快調の一言だった。

 エンジン音を響かせながら雪の道を走る。

 風避けもあるから寒さも和らぐ。

 

 途中途中でラリーが俺に現地ガイドのように土地の話をしてくれた。

 学校に行ったことのない俺のためになればという粋な計らいだった。

 ラリーが飛んだ場所ではその時の戦いの様を教えてくれたりしてくれて。俺としてはそっちのほうが興味を誘った。

 

 平原から直ぐに山道となった。

 しばらく走ると眼下に巨大な水の塊があった。

 

「海じゃないのにこんなに水が」

「あれはアヴァロンダム。ダムっていうのは水を貯めてるところだ。あそこには水力発電機があって、あそこで作られた電気はベルカ中に行き届いてるんだ」

「凄い」

「ああ、そうだな………」

「ラリー?」

 

 ヘルメット越しのラリーの目が少しだけ陰った。

 心配そうな声を向ける俺の方を向かず、ラリーの目はダムを捉えていた。

 

「実はな、あそこはダムに偽装した軍事基地だったんだ」

「偽装?」

「偽物ってこと。ベルカ戦争が終わった後にテロ組織がいてな。戦うときにはあそこの水を全部抜いて基地にするんだ。そっからテロ組織はミサイルを飛ばして全部を破壊しようとした」

 

 全てをリセットするために。

 

「まあ、結局ミサイルは破壊されて。テロ組織も壊滅。ダムは元のダムと発電所に戻ったのさ」

「ラリーと円卓の鬼神が止めたんだ」

「いや。止めたのは円卓の鬼神さ。あいつはダムの中の空洞に入って敵の基地を内部から食い破ったんだ」

「凄いの?」

「正気の沙汰じゃないな。まあそうしないと行けなかったのは事実だし。あいつはただ命令に従っただけなんだろうな」

 

 常人が出来る所業ではない。

 よく言えば偉業。悪く言えば大馬鹿野郎だ。

 

「ラリーは? 二人で協力してテロ組織を倒したの?」

「俺は………その時ガルム2じゃなかったんだ」

「戦闘機に乗らなかったの?」

「乗ってた。ただ奴の僚機ではなかったんだ」

 

 そう語る彼の声は悲しみと、なにかに対する後悔が滲み出ていた。

 それからダムを通りすぎるまでラリーは口を開かなかった。

 聞いちゃ行けないことを聞いてしまって怒ってるのかと思ったが。そうではないみたいだった。

 

 

 

 山を越えると小山が立ち並ぶ丘に入った。

 

 麓には雪を被った木々が森を成し。その森の向こうに目立つ塔のような物体が視界に写った。

 

「タウブルグに入ったな。世界遺産として登録された丘だ。ここにも軍事基地があった。当初は自然破壊反対運動が盛んだったんだが、事故やらトラブルが続いて一帯が立ち入り禁止になった。結果的に自然環境保護が進んで開発当初よりも森が多くなってな。結果的に双方に利があるウィンウィンの関係になったってことだ」

「タウブルクのエクスキャリバー」

「おっ、ホテルマンに聞いたのか?」

「凄い興奮して話したからよくわからなかったけど」

「そっかそっか。まあ分かると思うがあそこにあるぼっこがエクスキャリバーだ」

 

 エクスキャリバー。

 ベルカを守護する巨人の聖剣。

 近づく敵の戦闘機や戦車を相手の手の届かない場所からレーザーで消滅させる。ベルカ空軍最強の伝説を作り上げたものの一つ。

 

 目を凝らすと真ん中の塔、恐らくエクスキャリバー本体の頂点はギザギザにささくれていて、そのまわりに同じぐらいの高さの塔があった。

 

「塔が、全部で7本ある」

「目がいいな。パイロットになれるかもしれない」

「ほんと?」

「ああ」

 

 ラリーと同じ大空を飛ぶパイロットに。

 その時は対して意味もわからなかったがラリーに褒められたという事実だけで胸がいっぱいになった。

 

「あのエクスキャリバーは当時のベルカ技術の結晶というだけあって凄い兵器でな。レーザー兵器なんていうSFが地上に下りた代物だった。衛星と一緒に使えばストーンヘンジと同じぐらいのところまでぶっといレーザーを撃てるんだ。目の前に光の柱が突然現れた時は走馬灯を見ちまった」

「目の前に光」

「バイクを走らせてた途端に目の前に壁が現れたと思えばいい。よく生きてたと思うよあれは」

 

 目の前に突然壁。

 確かに怖い。

 

「だがそれ以上にあの時のアイツは凄かった。ジャミングや列車砲の粉砕し。エクスキャリバーを封じて。しかも無誘導爆弾を直当てとミサイルでエクスキャリバーを見事へし折った。あのエクスキャリバーも本当はもっと高かったんだ」

「折れてあんなに短く?」

「ああそうだ。あの時は地上の何処からでも見えたもんだ」

 

 13年の時を経て開発されたエクスキャリバーの輝きを放ってから6日後、エクスキャリバーは鬼神の手により折られた。

 ベルカ技術の最高峰の超兵器の最後は、なんとも呆気ないものだった。

 

 そして………

 

「リヒト」

「なに?」

「お前に見てもらいたい物がある」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 目的地であるホフヌングの前に立ちはだかる巨大な山脈群。

 ベルカを北と南に二部していた境目、バルトライヒ山脈。

 そして今では、ベルカとオーシアを隔てる国境線として線が引かれている。

 

 バルトライヒ山脈の道を上り、見晴らしのいいところでバイクを下りた。

 

 麓の景色が一望できる場所には七つの巨大なクレーターがあった。

 

 ぽっかりと空いた黒い大地。人は住んでいない、なにもない巨大な穴。 

 クレーターの一部には水が流れ、湖となっていた。

 壮大かつ、惨たらしい傷痕。

 

「でかい穴。これも隕石が作った穴なんだ」

「いや、これを作ったのは隕石じゃなくて人間の手によるものだ」

 

 自分の手を握るラリーの手に力が入った。

 彼の顔を見上げた。

 

 悲しそうな瞳、やりきれないなにか、それでいて真っ直ぐと逃げずに対峙しようとする決意の目。

 アヴァロンダムで見た表情に似ているが、それに加えてラリーの心を締め付けるなにかがあった。

 

「エクスキャリバーを折ったあと、ウスティオとオーシアを中心とした俺たち連合軍は次々とベルカ軍に勝利を納めた」

 

 戦いに勝っていく。

 戦争において、これ以上に嬉しいニュースはない。

 それでもラリーの悲しそうな顔は晴れなかった。

 

「これから行くホフヌングはベルカ戦争時にはベルカ1の工業都市でな。そこにも飛びにいったんだが、それが酷い作戦だった」

 

 カニバル作戦。

 その時ラリーたちに与えられた任務はホフヌングを無力化するための爆撃機の護衛、そして一緒に工場を破壊すること。

 敵の軍事工場を壊し、ベルカから戦う力を奪って終戦に繋げる。

 

 そんな作戦だと、その時のラリーは思ったのだという。

 

「だが蓋を開けてみれば、爆撃機はただ爆弾をばらまくだけだった」

「爆弾を落とすのが爆撃機の仕事じゃないの?」

「爆撃には大きく分けて二つある。一つは精密爆撃、これは目標だけを狙って攻撃するものだ。もう一つは無差別爆撃、ただその場所に持ってる爆弾を投げ込み、全てを焼き付くそうとするもの。その時のは無差別爆撃」

 

 ホフヌングには軍事工場だけでなく、民間の工場も沢山あった。

 だが爆撃はそれを区別することなく焼き払った。

 そればかりか、進路上の民家さえも。

 

「軍とは関係ない民間人も沢山いた。だけど任務だから、俺はミサイルを工場に打ち込んだ。民間人に被害を出さず、一秒でも早く作戦を終わらせる為に。だが、ベルカの奴らは俺たちが思ってもないことをやりやがった」

 

 ベルカ軍はホフヌングを捨てることに決めた。敗走。ここを敵に明け渡し次に繋ぐために。

 だが去り際にベルカはホフヌングに火をつけた。自らの手で。

 連合軍に何一つ残さない為に。工場、民家、それ以外の何もかもを。

 焦土作戦だった。

 

 ホフヌングは地獄と化した。

 敵からも味方からも街を燃やされ。ある者は逃げ惑い、ある者は爆弾で吹き飛び、ある者は燃え盛る建物に焼かれた。

 

 そしてホフヌングには焼けた建造物しか残らなかった。

 

「燃え盛る街だったものを見下ろしながら聞こえてくる作戦終了の合図、悪しきベルカに鉄槌を与えた。正義は我らにありってな。心底下らないと思った、なにもかもな。俺はなんのために戦闘機に乗って戦ったのか、自分の戦う理由が分からなくなった。目の前が真っ暗になったというか、何をすれば良いのか分からなくなって」

 

 戦争の無慈悲さ。肌身に感じているつもりだった。

 それでも目の前の光景が頭に焼けつき、大きな虚脱感がラリーに襲いかかった。

 

「その時の仲間の一人がこう言ったんだ『争いにもルールはあるだろうに!』ってな。その言葉が鋭く身体を射貫いていく感じがした。彼の言葉に俺は返答することは出来なかった」

 

 弾やミサイルを撃てば、誰かが死ぬ。落とした戦闘機や破片が住宅地に落ちれば民間人も巻き添えを食う。

 戦争において当たり前、理想を抱いて飛べば死ぬ。

 ならお前は理想を抱いたことはないのか? 仲間の言葉がそういってるように聞こえたのだ。

 

 そして更に彼に追い討ちをかける出来事が起こった。

 

「ベルカは敗走した。俺たちはベルカの首都に攻め混むための橋頭堡としてスーデントールって都市を攻め込もうとした。だがベルカの奴らはとんでもない凶行を犯した。七つの核爆弾だ」

 

 最初は爆撃機の撃墜、その後に入った情報で奴らが核爆弾を積んでいるという情報を得た。

 爆撃機は見事撃墜し奴らの核攻撃は阻止したように見えた、だが。

 

「奴らは核を撃った。俺らが落とした爆撃機は囮だったんだ。ベルカは自分の国に核を落としてまで連合軍の進行を食い止めようとした。あそこには、大勢の民間人がいたというのに」

 

 ラリーはあの時の感覚が忘れられないという。

 空中でも伝わった衝撃、強力な電波障害で異常をきたす計器類。

 水平線の彼方で光る核の輝き。

 そして、その光の中で消えていった多すぎる命を。

 

 ベルカはこう言いたかったのだろうか。

 ここより先はベルカの地だ。

 何人も汚すことは出来ない、と。

 

 その末があの自決行為なのか、無辜の民を巻き込んでまですることだったのか。

 

 結果、その核自爆に連合軍はベルカ北部の侵攻を断念した。

 だが世論はベルカを非難しベルカは停戦し、降伏した。

 

「そして俺はこの場所で、あの核が爆発した日に。円卓の鬼神、相棒であるサイファーから離れたんだ」

「どうして?」

「ここには自分の戦う理由がないと思ったからだ」

 

 そして逃げだした先には………

 

「ラリーの信念ってなに?」

「………自由と平等のため。戦争がない世界を作る、それの手助けをすること。そう思って戦闘機乗りに、傭兵になったんだ」

「それが出来ないと分かったから円卓の、サイファーから離れたの?」

「いや、それは建前だな」

「え?」

「敵も味方も関係なく、民間人お構いなしで醜く互いのパイを奪い合う。そんな腐った現状に嫌気がさした。軍人としては馬鹿馬鹿しすぎる理由さ。まあ俺の場合軍人じゃなくて傭兵だったが。それでも俺がしたことはただの逃げだった」

 

 子供みたいな理由だろ? とラリーは自嘲気味に笑った。

 その笑顔が余りにも悲しくて、思わず泣きそうになった。

 

「その後は?」

「その後はな………いや、この話はまた今度にしよう」

 

 今その話をするわけには行かない。

 彼にとって自分は唯一の希望の光。それを奪いたくは………いや、これも建前だろう。とラリーは心に蓋をした。

 

「ごめんな、行きなり難しい話をして。リヒトにはまだ早いよな………だがこれだけは知ってほしい」

 

 ラリーは俺の目線の高さまで腰を下ろした。

 その目には先ほどの悲しみとは別に強い。そう、信念が宿っていた。

 

「核兵器は使わせては駄目だ。あれは全てを焼き付くす悪魔だ。信念も、覚悟も、戦争も、命も。全てを焼き尽くしてしまう。人の愚かさを表すのに、あれほど分かりやすい兵器はない。あのクレーターには、沢山の人が生きていた。明日も生きれると疑わず、生きていた。そんな希望の火を容易く消し去るもの、それが核だ」

「………」

「これも分からないかな。でも、いつか俺の言葉を思い出した時。その意味を考えてほしい。いいな? リヒト」

「うん、わかったよラリー」

「ありがとう」

 

 立ち上がったラリーはクレーターを見た。

 俺も習うようにクレーターを見続けた。

 

 この虚無を漂わす光景を忘れないように。

 そして、ラリーの言葉を、思いを。

 絶対に忘れないように。

 




 ラリーと行くベルカツアー。的な。

 核兵器があれば戦争は終わる。
 それは自分達の世界でも適応されたものですよね。
 でもその爪痕はあまりにも深いです。

 ストレンジリアルでは度々登場する核兵器ですが。
 各々はその先を見据えて使っていると豪語してますが。実際どうなんでしょうね。
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