エースコンバット7 FLIGHT REZON 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
──お爺様が帰還する。
雄々しき勇猛なる鉄の翼を翻し、この塩の湖に帰ってきた。
ランディングギアを下ろし。ほとんど音をたてずに着陸した。
なんと優雅な着地だろう。まるで白鳥が湖に降り立つように、お爺様の戦闘機は緩やかに滑走路を滑り、そして止まった。
「お爺ちゃん帰ってきたね!」
「そうね、アルマ」
15歳の姉である私、イオネラに朗らかな笑顔を向ける10歳の妹アルマ。
彼の部下であるヴィトさんとシーモアさんが駆け寄り、操縦席から出てくる祖父を今か今かと待った。
だが時間がたっても祖父は降りてこない。
心配になって覗き込んだヴィトさんが慌ただしい様子でシーモアさんになにかを伝えていた。
「まさか、お爺様」
「お姉ちゃん?」
「アルマ、格納庫にある酸素吸入器を持ってきて」
「え?」
「早くっ」
「う、うん」
アルマが格納庫に行くと同時に私は祖父の元へ走った。
強い日差しに晒されている戦闘機から降りた祖父の姿は、遠目から見ても酷く衰弱してることがわかった。
「お爺様!」
「イオネラ………ゲホッ」
「直ぐにテントへ。シーモアさんはお医者様を」
「わかった」
「しっかりなさってお爺様」
ヴィトさんと一緒にアルマが待つテントへ。
水を持ってくると言ったヴィトさんが走っていった。
「お爺様、ゆっくりと呼吸をしてください」
「お爺ちゃん、これ」
「ああ。スーー、フーー」
苦しげに酸素吸入器に口を当てる祖父と、それを心配そうな表情で見上げる可愛い妹。
そして、それを遠巻きから見ている男が1人………
──祖父の名は、ミハイ・ア・シラージ。
かつて伝説のパイロット、空の帝王と呼ばれた歴戦の戦闘機乗り。
老齢により最前線を離れた祖父は空軍養成学校の教官としてエルジアの軍部を支えていた。
十何年前の大陸戦争で活躍した、あの『黄色中隊』にも教えを説いていたという。しかもその隊長機と衝突したことがあって命からがらパラシュートを開いたとか。
それに関しては真偽のほどはわからないが、祖父は嘘をついたことがほとんどないので恐らく真実。
そんな最強のパイロットである祖父も、年齢によるガタが際立った。
あまりにも長過ぎる飛行。普通の生活ではまず体験しない過酷な過重、Gに晒され続けた彼の体は。もはや誰が見るまでもなくボロボロだった。
退役したあとも祖父は飛び続けたが、戦闘機動は禁止された。
それでも祖父は何も言わず飛び続けた。
だがその目には生気はなく、ただ飛ぶためだけに動く
そんな祖父の元にある男がこう持ちかけたのだ。『あなたの空へ返してあげよう。もう一度空を飛びたくはないか』と。
それが遠くから見ている、いかにも研究者ですと言わんばかり白衣を着た金髪碧眼の男。
ドクター・シュローデル。ノースオーシア・グランダーI.Gの技術者で、無人機AIの第一人者だ。
彼は祖父に自由に飛べる環境を提供する見返りとして無人機のAI開発のために必要な最強のパイロットであるミハイの戦闘データを提供しろ、と言ってきた。
それはすなわち、祖父の生きた証。これまでの道程を売り渡せということと同じだった。
少なくとも私はそう感じた。
私は即座に祖父に忠告しようとした。この取引は危険だと。だが。
「わかった。君の提案を飲もう」
祖父はにべもなく、即答した。
そして私は見てしまった。祖父の瞳に、小さな光が宿ったことを。
そこから展開が早かった。
祖父専用の対Gスーツを作るために多くの技術者が集った。
スーツが出来たあと、直ぐに祖父はSu-30M2で飛んだ。
後部座席に解析用AIを乗せ、大空を飛び立った。
そして地上に戻る度、祖父は苦痛に顔を歪めて椅子に倒れ込む。
それでも祖父の顔を活き活きしていた。生きながら死んでるのも同義なあの頃とは正反対。
彼は再び、生きる意味を見出だしたのだ。
アルマはまるで自分のことのように喜んだ。
私も当初は難色を示したものの祖父の喜ぶ姿を見れたことを嬉しく思った。
(だけど、本当に空を飛び続けないと行けないの? あんなに苦しそうにしてるのに)
そんな場所に戻したグランダーの技術者たちを、自分でもわかるくらい歪んだ視線を向けるようになった。
祖父を苦しめ、それを兵器に利用し。挙げ句の果てにエルジアが戦争を起こす要因にもなった。
そして今日。祖父ミハイは28年振りの戦闘を行った。
最新型のスーツを身に纏い。ここ最近訓練飛行で苦悶の顔を見せなくなったミハイが、まるで今にも死にそうなぐらい苦しみを表に出している。
敵の1人を落とす為に、ミハイが限界以上のGを叩きだしたことが原因だった。
私はシュローデルを睨んだ。
シュローデルは私と目を会わせると気まずそうに自信の研究スペースに戻っていった。
どうせ新しいスーツとか、無人機のアップデートのことを考えているんだわ。あの人にとってお爺様が今倒れられたら困るから生かしてるに過ぎない。無人機が完全に完成されたら、お爺様は………
「ありがとうアルマ、もう大丈夫だ」
ようやく安定した息づかいをするミハイ。
そのままゆっくりと背もたれに寄りかかり、空を眺めた。
雲ひとつない空。
白い塩湖と合わさることで境界線が曖昧になる景色は私も好きだった。
「恨んでいるのか、シュローデルを」
「そんなことは」
「私は恨んでいない。むしろ感謝している。だからあまり睨んでやるな。あの男は見てくれと比べて情のある男だ」
「嘘。あの人が興味あるのは無人機だけです」
「そうだと決めつけているからそう見えるのだ。一つの懸念は見るものの瞳を曇らせる」
「でも、あの人はお爺様を利用して」
「私も利用している。お互い様だ」
「………そうまでして空に戻る必要があるのですか?」
「あるとも………空にいる時だけ、私は生を実感出来るのだよ」
終始空から目を離すことなく祖父は笑う。
表情はそこまで変わらないけど。本当に嬉しそうなのがわかった。
お爺様は空に生きる人。いや、空でないと息が出来ない人だ。
自分がどう足掻いても干渉出来ないところに祖父がいる。
それが歯がゆくて歯がゆくて仕方なくて。
恨みきることも、喜ぶことも出来なかった。
ーーー◇ーーー
懲罰部隊がどんなとこかって?
ハハッ、違う違うここはそんなご立派なとこじゃない。
ここはただのゴミの吹き溜まりさ。
世間の爪弾きが集まる、ならず者どもの巣窟。
ドブのような空気がここの空気。仮に屋外に出たとしてもこの淀みは消えることはない。何故ならその汚れはここに居る一人一人が発しているからだ。
「息苦しいったらないね」
かく言う自分も彼らと同義の存在と捕らえている。
ここに入ってくるヤツらは否応なしに腐っていく。腐ったオレンジが回りに侵食するのと同じ。
囚人だけではない。管制塔も整備員も警備員もみな何処か脛に傷を持っている。
最たる例がここのトップの肥満親父。本人はまったく自覚はないが、その立ち振舞い言葉遣いを見たら誰もが「あー、こいつは駄目だ」って思う。
最近入ってきたAWACS要員は何処か血色が違うように見えるが、まああいつらも似たようなものだろうさ。
そして肝心のパイロットもろくでなしばかり。
操縦の腕前は良いんだけど手癖が悪い自称伯爵。
なんとなく詰めの甘い自称情報屋。
博打だけしか頭にないギャンブル狂。
腕っぷししか取り柄のない脳筋。
他にも色々エトセトラ、エトセトラ。
俺? 根性のない政治犯気取りだってさ、酷いもんだろ?
そんな俺らパイロットの役目は飛べもしないモスボール機のエンジンを偽の滑走路の上で吹かすこと。
そうすることで敵の監視衛星の赤外線の目を引かせ。他の基地に来る攻撃をここに集めるための誘蛾灯になれってのが国のシナリオだ。
員数外の懲罰兵の命なんざ失ったところで痛手はない。懲罰部隊はそういうものだと割りきっても酷いもんだと思うね、これは。
ん? エルジアは前の大陸戦争で監視衛星なんか持ってないだろうって?
マスドライバーもオーシアあたりがおさえているから衛星を飛ばす手段もないのにどうやって監視できるのか。
そこんところエルジアは切り替えが早かった。
優秀なハッカーを育てて開戦の少し前にこっちの衛星を半分乗っ取っちまったらしい。
いやはや執念というのは中々恐ろしいものだ。
そうそう。この前入ってきた噂の女エンジニア。
凄い美人だと思って期待していた囚人どもは彼女の姿を見て落胆したそうだ。
一見少年と見間違えそうな体躯とベリーショートの風貌。性格も取っつきにくく煮ても焼いても食えないと来た。
しかも結構な問題児で、ここに送られた初日に脱走した。
結果は犬どもに身体中嘗められ。犬の匂いをべっとりとつけたまま独房にぶちこまれたとか。
とんでもない新人が来たものだ。困ったことにそいつは何度も何度も脱走を試みたと。
結果はお察しだがな。
『エルジア王国王女、ローザ・コゼット・ド・エルーゼです。国民の皆さん。今日もオーシア軍による誤爆で、民家が吹き飛ばされました。幸い死者は出ていないらしいですが。家を失った人たちを思うと、残念でなりません』
看守室から聞こえるラジオは俺たちの唯一の癒しだ。
鈴の鳴るような声とは彼女の為にあるんだろう。
囚人どころか看守でさえもコゼット王女の虜だ。唯一虜になっていないのは、あのお堅いAWACSの番犬様ぐらいだろう。
今じゃ事実上オーシア軍のこの基地は王女のシンパと化している。
この前なんて王女様に合わせて基地のあちこちから『オーシアをやっつけろ! オーー!!』と共にトイレットペーパーが中を舞った。
ここほどオーシアの非道さを肌で感じている奴らはいないから無理もないが。それでもオーシアが不憫に感じた。形だけだけど。
そんなわけで、みんなエルジアが勝ってオーシアが酷い目にあえばそれでいいと思ってやがる。
俺はどっちが勝とうがどうでもいい。
仮にエルジアが勝って、ここの奴らが軒並み処分されたとしても。それが運命だって受け入れちまうだろう。
俺は所詮、こんな腐った空気の中で窒息するしかないんだ………
それでもこの戦争をひっくり返す奴が出てくることを俺は心のどっかで願ってしまっている。
そう、あの時俺が憧れたベルカの英雄。俺が空軍に入ろうとしたきっかけである空の勇士。
ベルカ空軍第3航空師団第23戦闘飛行隊『フリューゲル』。
彼らのような英雄の存在を。
ーーー◇ーーー
前回のミッション、ブラウニーが殉職してから。もう一週間がたった。
精神的なダメージもだいぶマシになってきた。
いつまでも塞ぎ込んでたら、あの世からさっさと起きなさい飛行機馬鹿!! って怒鳴り込んできそうだったから無理矢理にでも起きて身体を動かしたりした。
そんな俺たちを他所に上層部やAWACS、隊長たちがここんとこ集まってることが多くなり。作戦飛行が近いことを予見するようになった。
「トリガー、誕生日おめでとう! なーんて言える雰囲気じゃねえけどな」
「そんなことないよ。ありがとう」
「優しいねえ。戦時なんて嫌だなぁ。湿っぽくて駄目だ」
6月6日、俺の誕生日であり。家族の命日。
そんな俺が無事25歳を迎えることが出来た訳だ。
「しかしバルトライヒの悪夢と同じ日が誕生日ってすげえよなトリガー」
「偶然だ偶然」
「しかしさっきボグガードが言うように、戦時中だと気の効いたプレゼントを用意できないのが痛いな。お前なんか用意したか」
「もち! 俺のお気に入りのCDをプレゼントする予定だ。いま最終選考を生き残った3つを悩んでいる」
「無理しなくていいからな?」
「そういえば最近スカイキーパーの部屋から唸り声が聞こえるんだ。なんでもトリガーにあげるハーリンググッズを選んでるらしく、未だ候補が決まらないという」
お気持ちだけで結構ですと言っておかねえと。
血涙付きのバースデープレゼントなんて嫌だぞ。
「そういやビケット大尉戻ってきたっけ」
「ファウンのこと? 無事退院できてよかったよなぁ」
ファウン。本来のゴーレム2であり、ノッカーのウィングマンである彼は大戦の少し前に負傷して治療中だった。
彼とはオーレッドの模擬戦闘ショーで会って以来。
ファウンは欠番となったゴーレム2にそのまま組み込まれることになっている。
環太平洋戦争を生き残ったベテランが戻ってくるというのはありがたく、心強い存在だ。
「そうだ、今日の夜にトリガーの誕生日パーティー開くってのはどうだ? ビケット大尉の回復祝いと一緒にさ」
「それはいい。司令官に相談してみよう」
「え、ちょっと?」
「食堂のおばさんにも相談しねーとな」
「善は急げだ」
「だな! じゃあそういうことで、また後でなトリガー!」
「おい二人とも俺は了承した訳じゃ………行っちまった」
あれよあれよと当事者を置いて話が進んでしまった。
まあ戦時中なんだし、そんなお気楽なことを了承する訳が………
「パーマー少尉、お誕生日おめでとうございます!」
「パーティーの時にプレゼント持っていきますね」
「リヒトくん今日誕生日なんだって? 夕飯は期待しといてくれよ。おばちゃんたち腕によりをかけて振る舞ってあげるからね!」
「トリガー。君にあげようと思ってるハーリング大統領のグッズなのだが、20個まで絞り込めたんだ。どれが良いか選んで………え? 気持ちだけでいい? そういうわけにはいかない、君はこの基地のエースなんだ。報酬がないと割に合わないし私も納得いかないんだ。あとついでに布教活動になればと………」
なんか瞬く間にフォートグレイス基地がパーティー一色になってきてる!?
いやいや君たち、今戦争中なのよ。そんな戦勝パーティー以外でドンチャン騒ぎするわけにはいかないでしょう。傭兵じゃないんだから
と、クラウンにぼやいたところ。
「それだけお前の存在がこの基地ででかいってことだよ」
「それは、光栄ですけどねクラウン。だとしてもはしゃぎすぎじゃないですか」
「はしゃぎたいのさ。みんな悲しいことや苦しいことから解放されたい時があるし、無理に明るくなろうと振る舞ってる。お前にも息抜きが必要だろ、トリガー」
「ブラウニーのことはもう大丈夫ですよ。自分の中で踏ん切りはつけましたし」
多分。少し。まだだいぶ引きずってるところもあるけど。
隊長も数多くの仲間を失った身だ。俺たちが無理してるということはお見通しなのだろう。
「だが、その誕生日パーティーも全員で生きて帰ってからだな」
「というと?」
「ミッションだ、トリガー。内容は───ハーリング元大統領の救出だ」
ーーー◇ーーー
「みんな集まったな」
「司令官、トリガーが誕生日にわざわざ出撃かとぼやいてます」
「ぼやいてない。司令官、この馬鹿は後でヤキを入れておくので進行お願いします」
「そこは任せよう──前回の作戦が示すように、アーセナルバードによって強化された敵正面防衛網は突破を困難ものとしている。現戦力ではアーセナルバードへの決定打を持てないでいる。だが我々はなんとしても軌道エレベーターへ辿り着かなければならない。そこで救援を待っている人物がいるからだ。それは環太平洋戦争の英雄にして軌道エレベーター建設の中心人物である、ハーリング元オーシア大統領だ」
モニターに写されたハーリングの写真。
ついに予見していたことが来たとこの場にいるほとんどが生唾を飲んだ。
「ハーリング氏は軌道エレベーターの視察中、開戦に遭遇し、エルジアとの戦闘に巻き込まれたものとして消息不明となっていた。だが最新の情報によれば、ハーリング氏は同行していた武官の働きにより施設内に身を隠し、脱出の機会を伺ってるらしい」
部屋のあちこちから「マジかよ」「凄い」とどよめきが走った。
流石敵の真っ只中であるオーシア官邸に突撃して戦争を終わらせた御仁。
胆の座りかたが段違いだ。
「軌道エレベーター周辺は対空レーダー網が配備されており、大部隊の移動では察知される可能性が高い。そこで、まず単機が敵警戒エリアを抜け、そのあとに救出部隊が追う」
「単機だって?」
「無謀にも程がある………」
「調査により、都市セラタプラ東南の海岸線沿いが一番手薄ということが判明している。また今の時期は雨雲が多い、雲でレーダー網を誤魔化すことが出来。作戦時間には通常より多くの雨雲がかかることが予想される」
作戦空域に張り巡らされた敵レーダー網の単身突破。
重大な役目だ。画面に写されたレーダー円の過密さを見て俺は辟易する。
「本作戦の単機突破は………トリガー、君にやってもらう」
「へっ!?」
思わず素っ頓狂な声と共に椅子から落ちそうになった。
俺はてっきりクラウンかノッカー。ファウンは病み上がりだからないだろうなぁと思っていたのだが。
先程とはまた違うどよめきが部屋に走る、みな考えてることは同じだった。
「待ってください司令官。トリガーにはまだ荷が重い。当初は俺かクラウンが行くはずでしたが」
「そうです。いくら腕が良くても、トリガーはまだ所属して一ヶ月ですよ?」
「今回三つの作戦飛行で戦果を上げたのがトリガーだ。ルーキーだろうとベテランだろうと、一番出来るパイロット、リヒト・パーマー少尉が適任だ──と、上層部から直接通達が来た」
「上層部が、トリガーを指名したと言うんですか?」
「そうだ」
上が俺に目を付けた。
爆撃部隊を追い返し、初出撃にも関わらず10機以上撃墜し、赤鯨を撃墜。
初めてのUAV戦で5機のうち4機撃墜。
両面作戦では数えきれないほどのUAVを堕とし、味方の壊滅を防いだ。
客観的に見てそれは正に華々しい活躍、周りからエースと呼ばれてしまうのも納得せざるを得ない。
実際基地内では誰もが自分をエースパイロットと言ってくる。直前までパーティーの準備に乗り気だったのがその証拠だ。
だが今回のミッションは今までと比べて格段に難易度が違う。
レーダーに引っ掛かったら作戦失敗。ハーリング元大統領の身も危険にさらされる。
いや、それどころか敵の航空兵器の総攻撃にあい。援護を得られぬまま孤独のまま戦死する可能性もある。
あの時のブラウニーのように………
ルーキーには荷が重いレベルではないプレッシャーがのし掛かる。
言葉が喉につっかえ、どうするかも答えることも出来なかった。
「司令、一つ宜しいでしょうか」
「なんだ? ファウン」
「何故ハーリング元大統領救出にそこまで力を入れるのしょう。アーセナルバードの脅威を排除していない現状で、いくらなんでもリスクが高すぎます」
復帰したファウンの意見に皆が同調するようにざわめく。
確かにビンセント・ハーリングがいかに英雄的な人物だったとしても、既に大統領の任を解かれた以上、これまでの権力を振るうことは出来ないでいる。
だからといって見殺しにしていいことにはならないが………それにしても事を急ぎすぎてはいないだろうか。
「今回、エルジアの戦争蜂起の理由として。軌道エレベーターはオーシアがエルジア並びにユージア大陸を支配するための象徴として建設されたと言っている」
「今聞いても言い掛かりにしか聞こえんな」
「我々、そして上層部もそう考えている。無論、責任者であるハーリング氏も同様だろう。なら、それを世界に発信すればいいことだ」
「そうか! ハーリング氏が表だってエルジアの証言を引っくり返せば」
「少なくとも世論の動きが変わる可能性も」
大統領を辞しても世界に対して平和的活動を示してきたハーリング氏。
世界のあちこちでも、エルジアに懐疑的な人たちは一定数いる。
少しでも早く、この馬鹿げた戦争を終結に向かわせることが出来るかもしれない。
「エルジアはハーリング氏が軌道エレベーターを視察したタイミングで軌道エレベーターを占拠した。エルジアにとっても、ハーリング氏の影響力を脅威と見ているに違いない。彼にエルジアの手が届く前に、我々の手で救い出す必要がある。その為にも、作戦の第一段階はなんとしても成功させなければならない」
「はい………」
「トリガー。君には拒否権はある。自信のない者がこなせる程このミッションは容易ではない」
「それは」
「上層部の命令に背くことになるという心配は不要だ。これから育っていく若手の命に比べれば、命令違反など軽いものだ」
作戦自体を拒否する訳ではないからな、と司令官は俺の考えることを先回りして答えてくれた。
周りを見渡してみると、みんな司令官に同意してるように見えた。
それが凄く嬉しかった。
自分が一人ではないのだということを感じれる。
「………自分が行きます。自分に、レーダー網の突破をやらせてください!」
だからこそ、これは自分がやらなければならないと悟った。
震えてなんていられない。もうルーキーだから、なんて言い訳は通用しない。
戦場を飛ぶ以上、俺も一兵士だ。
「トリガー、無理しなくていいんだぞ。俺か編隊長に任せれば」
「いえ、大丈夫です。それに、ここまでの大役を任されるってことは。こんな俺でも上層部に認められたってことですから」
俺はベルカ人だ。
オーシア国内では忌み嫌われ、頬の傷を負うほどの弊害を受けてから、ベルカであることを隠して生きてきた。
そんな俺を、ベルカ人である俺がハーリング大統領救出の役にたてる。これほど嬉しいことはない。
例えそれがどれ程困難な物であろうと。
「決意は固まったようだな。君になら任せられる。頼むぞ、トリガー」
「はい!」
「突破後は救出機の着陸地点を確保するために、付近の対空兵器を破壊せよ。直ぐにゴーレム隊を含む後続部隊が到着する。救出後はハーリング氏の護衛。作戦領域外に出たのち、出迎えの別働隊と合流する。この作戦が成功すれば、戦争終結に結び付くだろう。幸運が君たちの上にあることを!」
「「了解!!」」
ーーー◇ーーー
「おやっさん、機体は」
「過去最高の仕上がりだ! 特殊兵装は4AAMでいいな?」
「はい、おそらくUAVとの戦闘は避けられないと思うので」
「そうか。しかしこんな大役を新人のお前がやることになるとは。かつてのサンド島基地のウォードック隊みたいだな」
「よしてください、俺はまだその領域にいませんよ」
「おっ、まだって言ったな? おめえも一端に生意気言えるようになったなトリガー坊主!」
ガッハッハと背中をバシバシ叩いてくるおやっさん。普通に痛いですおやっさん!
しかしサンド島のウォードック隊。
後のラーズグリーズ隊と噂されたパイロットたちか。
俺も彼らのようになれるだろうか。今回はそれの先駆けとなれるのか。
あの英雄と呼ばれるような。ラリーのようなパイロットに。
「いかんいかん。自惚れは死だぞリヒト」
それに、あのオレンジが出ないとも限らない。
だが今回はハーリング元大統領の救出だ。奴だけに固執するな。
「よし、準備完了だ! そっちはどうだ!」
「各計器オールグリーン。行ってきます、おやっさん!」
「おうよ! 帰ったら俺の秘蔵のヴィンテージ品を振る舞ってやるからなぁっ! 必ず生きて帰ってこい!」
「了解!」
格納庫から誘導路、滑走路にタキシング。
いつも一番目に発進しないから新鮮だ。訓練校以来だな。
「トリガー、気を付けろよ。レーダー網を抜けるコツはとにかく焦らないことだ。そして………ぶちかましてこい、トリガー!」
「了解。一番槍を放ってきます!」
離陸準備オッケー。
俺は懐からドッグタグを二つ取り出した。
一つは自分の。
もう一つはお守りがわりに持ってきたブラウニーのドッグタグ。
空から見守っててくれ、ジェシカ。
『メイジ2、滑走路に移動。離陸オッケー。帰還したらパーティーだ。吉報を待ってる』
「了解コントロール。ハーリング氏の写真を撮って帰ってくる!」
『了解した、グッドラック!』
「メイジ2トリガー、発進する!」
グン! と身体にかかる圧力と共にF-16Cが飛び立つ
向かう先は灯台、軌道エレベーター。
6月6日、バルトライヒの惨劇から24年。
世界に新たなページを刻む1日が、始まったのだった。
いつもより少し遅れてしまい申し訳ない。
さて今回冒頭の語りでお分かりと思いますが。
原作のシュローデルの語りがイオネラちゃんに。
アビゲイルの語りがタブロイドに変わっています。
そして思いきって三人称じゃなく一人称に。個人の主観でこういう措置を取りました。
同じ視点でありながら別視点で書かれるフライトレゾンをどうぞ宜しく