エースコンバット7 FLIGHT REZON 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
6月6日 午後1時27分。
オーシア首都、オーレッド。
OBCニュースの始まりを告げる盛大なファンファーレが鳴り響くなか。
一人の黒人男性がマグカップにコーヒーを注いでいた。
「んーー、いまいち。豆は悪くないはずなんだけどなぁ」
コーヒーの出来に納得がいかないながらも青年。デイビッドは自分のデスクにコーヒーと、個包装されたクッキーを二つ持って行く。
デイビッド・ノース。
オーシア中央情報局、通称OIA。先進兵器分析部の分析官。
15歳で名門私立大学に入るほどの秀才で、オンラインクイズの世界チャンピオンの受賞経験がある。
『エルジアによる宣戦布告から1ヶ月。紛争の拡大が続き。ユージア大陸は混迷を極めております………』
「なあアレックス。例の件、動くかな?」
デイビッドは誰もいない部屋で独り言を漏らす。
まるで誰かそこにいるみたいに。
《いいえ、軌道エレベーター奪還作戦の成功率は35%で変わらず》
応じる人がいた。
いや、人という表現は正しくない。
女性的な声、アレックスは彼のパソコンの中にいた。
女性人格型AIアシスタント、アレックス。
デイビッドが作り上げた、人工知能技術のアルゴリズムを応用して作り上げた彼の相棒である。
膨大なアーカイブを読み解き、断片的な未来予測。
高度な受け答え、レポートの作成やエトセトラエトセトラ。
とにかく大抵のことはなんでも出来るデイビッドの自信作。
だがこれを十全に使いこなすには、アレックスと応対出来る適切なコミュニケーション・パフォーマンスが必要だ。
「違う違う。行方不明だった潜水艦アリコーンとマティアス・トーレス艦長のことさ」
《………予備艦隊に移されて215日間動きなし》
「戦争が始まって1ヶ月なのに、音沙汰なしか………エルジアはイケイケだ。だがトドメを刺しきれてない。あのとんでも兵器を眠らせたままか? あれを出せば正しくトドメを刺せる。痒いところにも手が届くのに」
《とんでもないとは? 彼と彼の艦はエルジア軍の戦闘協議から外されている》
「そこなんだよ。エルジアは無人機にベッタリだからね」
失った戦力を補填し、撃墜されても人的被害をゼロにするUAV。
アリコーンと呼ばれる兵器は、無人兵器ではなく。大量のクルーを必要とする兵器だ。
エルジアは無人機で充分と思っている。人など必要ないと言わんばかりに。
結果的にそうなのだから問題はないと考えているのだろうか。
「なにか大きく戦況が変われば別か。そう、なにか戦況をひっくり返すきっかけが………おっ?」
OBCニュースの内容が15年前の大陸戦争。
エルジアとISAF、図らずとも今の構図に似ている戦争を掘り返す。
テレビには空母から発艦するF-4の姿が。
「メビウス1のファントムだ。この映像、大学時代に見たよ。当時はこのパイロットが歴史を揺るがすエースオブエースになるとは思わなかったなぁ。ストーンヘンジをぶっ潰して黄色中隊も壊滅させて……」
《彼は2014年。フリーエルジアとの戦闘を最後に出撃した記録はない》
「記録がないだけで、今も何処かで飛んでるのかもしれないね。おっ、今度は環太平洋戦争か。この時は今の仕事に就いた時だ」
若手の天才児として期待されまくって。
その期待に答えるためにあくせくと頑張って、いまのポストにいる。
テレビにハーリング大統領が写し出され。
彼の安否を心配するコメントが流れた。
「そういえば、今年公開されるんだっけ。環太平洋戦争の機密文書」
《いいえ、2020年》
「ベルカ戦争後みたいなチャチな奴じゃないと良いけどなぁ」
『ベルカ戦争に纏わるスキャンダルですね。オーシアの隠された秘密が露になり、オーシアは酷評の嵐を受けました』
「おー、また随分と昔のを引っ張るな。そういえば今日だよな。バルトライヒの惨劇は………」
丁度テレビには七つの核によって産み出されたキノコ雲の群生が写し出される。
この時はまだ幼稚園児だったデイビッド。
OBCのベルカ戦争のドキュメンタリーにはテレビにかぶりついたものだ。
「ベルカ戦争かぁ。僕はこの時のとんでも兵器が大好きだった……エクスキャリバーにフレスベルクとかさ」
《ベルカ戦争だけではない》
「はは、確かに。大陸戦争でエルジアが使ったストーンヘンジ。環太平洋戦争でのオーシアのアークバードやSOLG、ユークトバニアのシンファクシ、リムファクシ。エストバキアのアイガイオン。最後に出たシャンデリアの氷山砲台は度肝を抜かれたなぁ」
《その全てに関わってるのは》
「ああそうだ。南ベルカ国営兵器産業省、ノースオーシア・グランダーI.G」
特に航空母艦のノウハウは顕著だ。
他の兵器も少なからず彼らのアイディアが使われている。
この世界の兵器テクノロジーの根っ子が、グランダーに繋がっている。
そしてその技術は、いまも飛んでいるアーセナルバードにも使われている。
《未だエルジアも、彼らから技術提供を受けている》
「オーシアもだ。ベルカを散々嫌ってるくせに、彼らの手のひらの上で躍り続けている。ハーリング大統領、いや元大統領は、最後までアーセナルバードの導入に反対だったが。軌道エレベーターの存在は彼の手に余った。そう、設立者の彼でもだ」
《ビンセント・ハーリングは、いまも軌道エレベーターにいる》
「そういや、メディアにバレたんだよな。ハーリングの居場所。誰が流したんだろうな?」
アレックスは答えない。
それは不明、今はわからないと黙りこくっているのだ。
AIの癖に変に人間っぽいパターンを醸し出す相棒にデイビッドはほくそ笑んだ。
その時だった。
テレビに移された軌道エレベーターのLIVE映像。
その軌道エレベーターに火の手が連続で上がった。
地上から爆炎と煙が立ち上る。
デイビッドは爆発前に一瞬見えた小さな点を見逃さなかった。
そう、あれは戦闘機の機影だ。
「オイオイ! 軌道エレベーターのレーダー網を抜けた奴がいるよ! とんだ大馬鹿野郎だ! ハハッ、成功率上がったんじゃないか、アレックス!」
興奮MAXのデイビッドの問いに、アレックスは飽くまで機械的に答える。
《いいえ、35%は変わらない》
「いま飛び込んだのが、とんでもない奴だったら?」
《とんでもない、とは? 35%で保留。不確定要素を確立出来れば、即座に再計算をする》
「なんにせよ、戦況が変わるのさ」
円卓の鬼神。
スカーフェイス。
メビウス1。
ラーズグリーズ。
ガルーダ。
数々の超兵器を破壊せしめた。戦争を変えた特異点。
もしもいま軌道エレベーターに飛び込んだ奴が。それに匹敵する存在だとしたら。
「動くぞ………やっとな」
ーーー◇ーーー
「作戦空域に入った、これより無線を封止する。こちらからの伝達は行うが、貴機からの発信は禁止だ」
了解、と口に出さずにスイッチをパチンと下ろし、無線の送信をカット。
これで俺から無線は飛ばなくなる。
雲が多い、高度が低いのにどこまでも灰黒い雲海が乱れて千切れている。
レーダー確認。眼をそらしたくなるほどの赤い丸が軌道エレベーターの周りに群をなしている。
そして、ここに居るのは俺と愛機ファルコンのみ。
「敵に見つかったら作戦は失敗だ、レーダーに捕捉されるな。また一切の兵装の使用も禁止する。君はハーリング救出作戦の先陣だ。ミッションの成否は君にかかっている、頼むぞトリガー」
まったく。新米にプレッシャーをかけてくれるぜ。
それだけスカイキーパーも緊張しているんだ。憧れのハーリング大統領を救い出す。
彼にとって過去最大のミッションに間違いないだろうから。
「スーーフーー」
自分の息づかいがいつもより鮮明に感じる。
今までと違う。圧迫されるような緊張感。
肺に取り込む空気が重い。粘度すら感じる。
「………行くぞっ」
操縦桿を倒し、スロットルオン。
眼下の森目掛けてダイブ。高度、60で水平に。
レーダーは高度を下げるほど探知されにくくなる。
直線コース。スロットルを倒してマックスパワー。
赤丸の間、そして出来るだけインコースを攻める。
レーダーと前方、絶えず変えながら微調整。旋回。
良いぞ。良い調子だリヒト。
「トリガー。ランデブーポイントまでの航程の3分の1を消化した。まだ先は長い。いざというときは速度を落とせ」
オーライ。ん?
俺から見て右側。僅かだけど隙間がある。あそこを通れば大幅に飛行距離を短縮出来る。
雲も厚いからバレる可能性も低い。
………………いや、やめておこう。
ただでさえ馴れてないんだ。分の悪い賭けは浅慮。
俺は道がはっきりある左側に機首を向けた。
レーダー広域チェック。行った先が行き止まりは笑えないからな。スカイキーパーが知らせてくれるだろうが。出来るだけロスは避けねば。
「こちらスカイキーパー。方位330よりエルジア機、機種はF-15J、数は3」
敵の哨戒機か!?
敵機は真反対だ。だがもしこっちに来るとしたら………
どうする、戻るのか? 戻らないのか?
俺は少し速度を下げ、スカイキーパーの指示を待った。
「………敵編隊、作戦区域外に飛行。こちらに気付いた様子はない。トリガー、作戦は継続だ」
フーー、と肺に溜まりまくった空気を吐き出した。
まったく心臓に悪い。空軍士官学校に入りたての俺は想像もしてなかっただろうな。
配属1ヶ月でこんな任務につくなんてさ。
速度を戻して進むとまた分かれ道が見えた。
近いところは先程よりは広いが狭め、だがそのまま行けばショートカット出来る。最後の出口も目の前だ。
そして真っ直ぐ進めば安全に行けるが、大幅なタイムロスとなる。
さあどっちに行こうか。
「トリガー、進路が別れてる場合はどちらでも好きに進め。お前の足跡は此方で追ってるから大丈夫だ。時間はまだある」
「了解。だけど」
ここは攻めるよスカイキーパー。
右旋回。風は強くない。
ぶれては駄目だ。通れ俺!
赤丸の間を通る。見えない網が俺の両面。すぐ側に絶対禁止領域。
心臓が高鳴る。目がカラカラに渇いてきた。
『敵が入ってきたのか?』
『いえ、レーダーに反応無し。こんなとこを通る奴なんていませんよ』
『だろうな。だが監視は厳とせよ』
嫌な汗が来る。
頼むから目視発見はやめろよ………頑張れ雲さん。
よし抜けた!
「トリガー、上出来だ。目的地まで4分の1。大幅なショートカットだ」
「まだあるか………辛いな」
「ランデブーポイントまであと少しだ。孤独な戦いだが、レーダー上の光を見つめながら君の無事を祈る奴を思い出せ。私もその一人だ」
「ありがとうスカイキーパー」
聞こえなくても勝手に礼の言葉が出た。
そうだ。今の俺は孤独ではない。
昔の、屋根裏のボロ屋にいた頃の俺とは違うんだ。
ラリー、マルセラさん、アンソニー。アインホルン少将。
ブレッド、コーギー、グリッター。
クラウン、ノッカー、ボグガード、フットパッド、スカイキーパー。おやっさん。
そしてブラウニー。
多くの人たちと関わって。今の俺がある。
その期待を裏切るわけには行かない。戦争終結を持って。今までの恩を返すんだ。
ハーリング元大統領がいる軌道エレベーターは目と鼻の先。最後の網の出口に突入する。
「ハーリング大統領は、私にとっては今でも大統領なんだ。戦争終わらせ軌道エレベーターを建設し、そこから宇宙船まで飛ばした。それから気取らない英雄、そんな所が好きでな。私はそんな彼のようになりたいと思った。そんな自分が、ハーリング氏の救出任務につくことになるとは思わなかった。それもこれも、君のようなパイロットに出会えたお陰だ」
「スカイキーパー………」
「………是非彼を救出したい、協力してくれトリガー」
「勿論だ!」
俺だってハーリング大統領のことが好きだ。
暗き世界、泥沼の戦場を切り裂いた時代の先駆者。
ベルカであっても差別せず、融和を持って戦う強い意思。
政界という汚辱にまみれた世界で、曇ることのない輝きを持つ人。
誰よりも平和のことを考え。そしてその思想を利用された。
その人があそこにいる。いまこの世界で、彼の存在は必要だ。
だからなんとしても、助け出す!!
最後の網を抜けた。
まだ高度は上げない。だがスロットルフル!
直線で海を切り裂いていく。天を貫く軌道エレベーターの巨大さがありありと網膜に写し出される
「フッ。トリガー、任務の第一段階をクリアした。ご苦労と言いたいところだが、ここからが本番だ」
目標、インレンジまで1000。
「無線封止を解除。派手に行こう、後続機は直ぐに到着する」
「あー、息苦しかった!」
「鬱憤を晴らしてこい。軌道エレベーター周辺の対空火器を破壊せよ。シーゴブリンのランディングゾーンを確保する」
「ウィルコ! オープンファイア、行けぇっ!」
目の前のSAMに祝砲のミサイルをぶつけた。
対空機銃をガンで引き裂き。続いて後ろの機銃も破壊する。
『敵襲! 敵襲! オーシアが対空兵器を攻撃している!』
『なんだと!? レーダーは何をしていた! 数は!?』
『1機です。敵は1機!!』
スロットルMIN、低速のまま機銃を浴びせ。
通りすぎるギリギリにミサイル。
いくつか破壊してようやく敵が起き上がった。自分だけに向けられる機銃やミサイルを回避しながらも的確に潰していく。
軌道エレベーターの麓をグルリと周り、並み居る対空兵器を一つ、また一つと鉄屑に変えていく。
『なぜ落とせない! 敵はたったの1機だぞ!』
『まさか、噂の狼じゃ………!』
「対空機銃を全て破壊した。残ったSAMを破壊せよ」
「1個逃したか………思いきって行くか」
道中逃した反対方向のSAM目掛けて旋回。なんとそのまま軌道エレベーター下の空間を横切った。
ラスト! レティクルど真ん中。
こちらを向こうとしたSAMを穴だらけのミンチに変えてやった。
「全ての対空兵器を破壊した。よくやったトリガー」
「ありがとう。クラウンたちは?」
「トリガー、待たせたな相棒! いま到着した」
「ゴーレム隊。トリガーが火の輪をくぐりやがった! 次は俺たちの番だ」
「マジか、ほんとにやった。すげーぞトリガー!」
「まったく。いつも俺たちの想像の上を行ってくれる」
「もうオーレッドで飛んだ君とは違うんだな。私も負けてられない」
レーダー網が意味をなくした空をクラウンやノッカーたちがトップスピードで飛び込んできた。
敵の迎撃がないところを見ると。敵はレーダー網に胡座をかいていたに違いない。
「こちらシーゴブリン、ただいま到着した。LZは確保できているか?」
「既に障害は排除している。シーゴブリン、着陸せよ」
「既に対空兵器が破壊されているだと? どの部隊の仕業だ」
「ガーゴイル1、君たちの前には1人しかいない」
「信じられん。何者なんだ、彼は」
ガーゴイル1の称賛を通り越して引きぎみの声に思わず苦笑いが浮かんだ。
「こちらシーゴブリン。ランデブーポイントが見えた、まもなくだ。支援に感謝!」
シーゴブリン。スカイキーパーの話だと、ベルカに捕らわれたハーリング大統領をラーズグリーズと共に救出しにいった海兵隊の名前だ。
当時のメンバーはいないだろうが。今回のミッションに相応しく、頼もしい友軍であることは間違いなかった。
「セラタプラの港湾部に敵機出現! コンテナ射出タイプのUAVだ!」
「大人しくしてるわけがねえよな」
「こちらシーゴブリン、VIPの2人のお迎えに上がる。カトンボの相手は任せたぜ」
「了解。各機、救出機が張り付いた、作戦行動開始! 着陸した救出機は無防備だ。ゴーレム隊、メイジ隊、UAVを撃墜せよ!」
シーゴブリンのヘリがヘリポートに降り立った。
スカイキーパーの言う通り。あれは空から見たら格好の的だ。
「ふぅ、休憩はないぞトリガー。できるやつには仕事が集まる。どこでも同じだ、行こう!」
「了解!」
「ガーゴイル隊は軌道エレベーター周辺で待機!」
「了解」
そういえば今回のガーゴイル隊。前回生き残ったメンバーではなく。パイロットは総入れ変えだという。
クラウンはパイロットが負傷したのだろうということだが。
司令部直属は員数に恵まれて羨ましい限りだ。
「UAVのコンテナを確認。まだ出てないのもいるな」
「分担しましょう。俺は左からやります。出る前に潰しましょう」
「だな。編隊長、俺とトリガーでコンテナを潰して回ります」
「わかった。ゴーレム各隊、俺たちは飛び上がったハエを落とすぞ!」
「了解!」
メイジ、ゴーレムはブレーク。
ゴーレムはツーマンセルでMQ-99を追う。
地上のコンテナにダイブ。目の前の死の箱はまさに開かれようとしていた。
強攻する気だろうが、そうはさせない!
機銃レンジより早くミサイル射出。
今まさに飛び出そうとその小さなパルスジェットエンジンに火をいれた無人機は巣立つことなくコンテナと運命を共にした。
「良いぞ、着実に反応が消えている」
「さっきのF-15Jが来ないと良いけどな」
「メイジ2、噂をすればだ。方位030よりF-15J、3機。先程の哨戒機だと思われる」
「予想通りで嬉しいなぁ!」
「イーグルは厄介だ、落としに行こう。編隊長、こっちを任せても良いか」
「了解だ。だが2機ではいささかリスクがある。ゴーレム2、メイジについていけ。3、4は俺とエレメントを組め」
「ゴーレム2、ウィルコ。メイジ隊、宜しく頼む」
「こちらこそ。歓迎するぜ、ファウン」
ファウンのF/A-18F、そしてメイジ隊2機がバンディットに接近する。
北は雲が多く立ち込めており。視界が物理的に寸断されている。
『ローニン1から各機、敵機接近を確認。全て落とすぞ。救出ヘリは後でなんとでもなる。我らの戦争はまだ始まったばかりだ。ここでハーリングを出させてはならない』
『隊長、例の狼は落としても良いのですかい?』
『ここで落ちるならそれまでだ。ゲオルグを出す手間が省ける。行くぞ!』
「メイジ2、エンゲージ!」
「ゴーレム2。エンゲージ」
一面雲の中、3機編隊同士がすれ違う。
雲を赤く彩る曳光弾の筋が交錯する。厚すぎる雲だ、ミサイルはほぼ役に立たないだろう。
『ローニン各機、編隊を崩すな。1機ずつ切り裂いていけ』
『了解。どいつからやっちまいます?』
『狼以外からだ。目撃者は少ない方がいい』
雲という視界不良の中で敵は綺麗に編隊を形成して仕掛けてくる。
やり手だな。3機から蜂の巣になる未来が見えそうだ。
「トリガー、ファウン。一度雲を出るぞ、着氷も酷い」
「了解! ピッチアップ!」
機首上げ45度。雲の水分をキャノピーで受けながら俺たちは上昇する。
敵のF-15Jの編隊も上がってきた。翼端は青。ノーズにも1本青い筋があった。
エルジアの色付き、ローニン!
またネームドか! なんでこうもネームドばっか当たるんだ俺たちは!
しかも哨戒任務時にエンカウントとは、ほんと縁があると見た!
「青いイーグル。鬼神リスペクトか、こいつら」
「円卓の鬼神は暗い青ですよ! あとJじゃなくてC型。ってそんなこと言ってる場合ではないですよ。こいつら出来る奴です」
「はいよ。よし、7カウントでブレイクだ…今!」
俺たちが放射状に散開して撹乱を行うも、それでも敵側は編隊を崩さずにファウンを追った。
編隊飛行を徹底的にやるタイプか、ベイオネットの入り乱れる戦術も厄介だったが。これはこれでやりづらい。
「そっちに行った、ゴーレム2!」
「惚れ惚れする性能だ。流石はF-15系」
『先ずは1機だ。手向けにしてやる』
「やらせるかよ! FOX3!」
クラウンが4AAM発射。やや斜めの斜角のためにローニン小隊には当たらなかったが奴らのフォーメーションに乱れが生まれた。
そこに俺が下方から機銃で割り込む。当てるつもりでもあり撹乱。機体を小刻みに動かして編隊のど真ん中にチャチャを入れた。
たまらずローニン小隊ブレイク。奴らは初めて編隊を解いた。
「こちらシーゴブリン! これより大統領の元に向かう! コンテナまで走れ!」
「恐れず進め! 敵を踏み潰せ!」
「俺たちがナンバーワンだ! ゴーゴーゴー!!」
シーゴブリンがハーリング元大統領の元に馳せ参じたようだ。
彼らがエルジアの餌食にならないように、こいつらを無力化しなければ。
『各機、F/A-18を囲め』
『隊長、後ろから奴が!』
「もう仲間は落とさせるものか!」
『狼か!』
『しゃらくさい! てめえから落としてやるよ!』
『まてローニン2、迂闊に飛び出すな!』
1機を追う俺の後ろに別のローニンが右から迫る。
ロックオンアラート! 敵がミサイルを撃ってきた。急旋回で回避しようとしたがミサイルは通常よりも歪曲的に俺を追ってきた。
たまらずフレアを吐き出し、そのまま雲に潜り込んでやり過ごす。
「手癖の悪いミサイルを持ってるみたいです!」
「QAAMか。雲を使いながらやればまけるだろうが、ケツをみだりに晒すなよ!」
「うちの後輩を可愛がったお返しだ、FOX3!」
ファウンのQAAMがローニンの青い尾翼に突き刺さった。
間髪いれずに雲から飛び出した俺はその土手っ腹にしこたま機銃の穴を穿ってやった。
『馬鹿な! うわぁ!』
『ローニン2! ローニン2がしくじりやがった!』
『アホが、一丁前に油断するからこうなる』
動揺する部下とは対照的にローニンの隊長は冷酷に、かつ冷静に操縦桿を操る。
「アンブッシュ! 対岸からだ! 隠れろ!」
「くそっ! 思ったより数が多いぜ! こいつらもハーリング元大統領が狙いなのか!?」
「ガーゴイル隊、上空からシーゴブリンを支援出来るか?」
「ネガティブ、巻き込む恐れがある。ハーリング氏が何処にいるかわからない以上迂闊に手は出せない」
「こちらシエラ2! ちっくしょう! ヘリを狙って来やがった! ワラワラいやがる!」
無線が錯綜するなか俺は隊長機とおぼしきF-15Jローニンと飛び回る。
ローヨーヨーでオーバーシュートを狙うが中々前に出てくれない。
「全てのUAV、並びにコンテナの破壊を確認!」
「そっちは片付いたか!?」
「ああ待たせたな。俺たちも加勢する!」
「了解! そっちに引っ張る!」
メイジ隊、ゴーレム2が一斉に雲の上空スレスレを飛ぶ。
ローニン隊はエレメントを形成し、しつこく俺たちを追いたてる。
「ピッタリ来たぞ」
「合わせろよクラウン。テンカウント、ジョーズだ!」
「よしきた! ………ブレイク!」
「浮上だ!」
一斉に散開。それを追おうとするローニン。
だが奴らは気づいていなかった。雲海から飛び出そうとしている石の巨人たちに。
「食いちぎれ!」
「「FOX2!」」
『なにっ!?』
ノッカー、ボグガード、フットパッドが雲を飛び出すと同時にロックオン。
ヘッドオンでミサイルを切り離した。
至近距離真っ正面から撃たれたミサイル。ローニン3は回避が間に合わずノッカーのミサイルと正面衝突。
ローニン1は雲に逃れたが、ギリギリでゴーレム3、4のミサイルが炸裂。爆発による破片が青い翼端のイーグルに突き刺さった。
『クックッ、なんとも不甲斐ない。狼以外にも手練れが居たわけか。いいだろう、精々束の間の余韻に浸ってるといいオーシアども。祖国エルジアに栄光あれ! 狼に災いあれ!!』
灰色の雲が一瞬オレンジ色に光り。ローニン1の反応がロストした。
雲が多い戦場で、部隊で考えたコンバットパターンが活きてくれた。
手強い相手だった。だけどまだ終わっていない。
「こちらシーゴブリン! 元大統領発見! あっ、ミスターハーリング! そこを動かないで!」
「グアッ!」
「ジェイコブが撃たれた!」
「このやろぉ!!」
ハーリングを見つけたシーゴブリン、だが直後に銃撃戦が発生したようだ。
通信機越し銃撃の音がひっきりなしに聞こえてくる。
「ヘリの周りにいたシエラ2がやられた! サーモバリック弾か!? 用意周到すぎる!」
「こちらガーゴイル3。まずいぞ、帰りのヘリが吹っ飛んだ!」
「なんだって!?」
「畜生! ロケット弾だ!」
「うおぉぉぉぉ!!」
最後の雄叫びを遮るかのように爆発が鼓膜をつんざいた。
それっきりシーゴブリンからの通信が途絶えた。
「シーゴブリン! 生きている者は返事をしろ! ハーリング氏は無事か! シーゴブリン!」
「おいおい、こっからどうするんだよ」
「ヘリもなくて、シーゴブリンも。どうすれば………」
ローニン隊との戦いを終えた俺たちはガーゴイル隊と合流したが。地上の様子を確認出来ないでいた。
くそっ! 地上相手に航空戦力がここまで無力になるとは!
「ジジ、ジー………聞こえるか! こちら護衛のジョンソン大佐だ! いまハーリング元大統領と共にいる!」
「こちらAWACSスカイキーパー。ジョンソン大佐、シーゴブリンは」
「救出部隊は全滅した。この無線機を持っていた彼もな。彼が直前で我々を突き飛ばさかったら。我々もお陀仏だっただろう」
「ジョンソンくん、貸してくれ。こちらハーリングだ。勇敢なるパイロット諸君、ここまで来てくれたことに感謝する」
聞こえてきた声に胸が跳ね上がった。
間違えるはずもない。あの時演説で世界に平和を促した、 ビンセント・ハーリング大統領その人だった。
「ハーリング大統領! ご無事でしたか、よかった!」
「元、だがね。どうやら帰りのヘリはなくなったようだな。スカイキーパーくん、いざとなれば我々を見捨てて撤退したまえ」
「ハーリング氏なにを!? そんなこと出来ません!!」
「ここで悪戯に時間を潰し、君たちを危険に晒すこともないだろう。なに、1ヶ月生き延びてきたんだ。また少しキャンプの時間が増えるだけさ」
確かにこのままではアーセナルバードが来る。そうすれば俺たちは逃げられずに全滅する可能性も。
だけどここで機会を逃せばエルジアも警備を強化し、次の機会が延々と失われるかもしれない。
なにか、なにか手はないのか!
このままダラダラと軌道エレベーターの周りをグルグルするしか方法は………っ!
「スカイキーパー! こちらメイジ2。馬鹿げた提案だが。もしかしたら」
「なんだ、何がある?」
「いまハーリング氏がいる所から北のブロックにオスプレイ、ヘリが見えました。そいつを奪って飛べれば」
「オイオイ! 流石にそれは蛮勇だろトリガー!」
「そ、そうですよね。すいません出過ぎたことを」
「いや、やってみよう」
「ミスター・ハーリング!?」
思わぬところからの了承にジョンソン大佐は驚愕の声を上げる。
「私は一刻も早く、この戦争が終結することを願う。その為ならば、こんな老人の命を賭けるだけの価値がある。そうだろう、ジョンソンくん?」
「あなたは、本当に破天荒だ………聞こえるかスカイキーパー! これより我々はヘリに向かう。操縦なら私がやる! ハーリング氏がやるよりはマシだからな!」
「了解した! 全機、可能な限り援護せよ。牽制でも構わん!」
「ハーリングさんの前を弾痕だらけにすればいいんでしょう!?」
「分の悪い賭けだがな! ここまで来たらオールインだ!」
「了解! これより支援に入る!」
絶対にハーリング元大統領を救出する!
希望の火を、消させやしない!!
進む先に兵士の姿が見えた。
俺はコンテナごと撃ち抜く勢いで、機関砲の引き金に手を掛けた。
はい、ガッツリ出しましたハーリング氏
喋らないと思った人もいたことでしょう。
ちなみに前回も出たファウンことゴーレム2。
ゲームだととてつもないモブキャラでしたが。今作の彼は環太平洋戦争を生き抜いた強者です。
なんでかわからんが、なぜあんなダミ声なんだべね?
【FLIGHT REZON アサルトレコードNo.4】
ネームド:ローニン
機種:F-15J イーグル
カラー:翼がブルー、機首にも1本青い線
派閥:急進派
パイロット:フィオレント・ノレット
F-15J3機編成ローニン隊の隊長。
古くからエルジアのダーティーワーク(汚れ仕事)を担当しており。今回はハーリング元大統領救助作戦の妨害として参戦。
3機編成による多対1戦法による各個撃破を得意とし、その連携を乱すのは至難の技。
だが三番機が突出して撃墜されてから状況が一変。フォートグレイス隊の奇策により撃墜。狼付きことトリガーに呪詛を放ちながら散る