エースコンバット7 FLIGHT REZON   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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STAGE22【Burlesque(軍事裁判)

 

 

「トリガーがオーレッドに?」

「ああ。リヒト・パーマー少尉を首都オーレッドに大至急出向せよ。上層部から通達があった」

「なんだよそれ………本当にトリガーが容疑者になったということなのか?」

 

 フォートグレイス基地のブリーフィングルーム告げられた司令官の言葉にフットパッドは呆気に取られた。

 

「作戦は昨日だろうがよ。昨日の今日でもう軍事裁判行き? なあ、本当にトリガーがやったのか? 俺にはどうしてもそう思えねえんだよ! だって、あいつ昨日のパーティー楽しみにしてたんだ。新米の自分が認められたってあんな嬉しそうにして。なのにこんなことってあるのかよ!!」

「落ち着けフットパッド」

「落ち着けるか! なんでそんな大人しくしてんだよ、あんたらは!」

 

 フットパッドの怒鳴り声に答えられる人はいなかった。

 フォートグレイスのメンバーは誰も発言していない。だからトリガーが撃ったと言った奴はガーゴイル隊以外にあり得ないと。

 

 その時、ブリーフィングルームの扉が吹き飛んだのではないか? と言うレベルの音と共に一人の男が入ってきた。

 メイジ隊の整備主任である、ラック・マートン中尉だった。

 先程のフットパッドの怒りが可愛く見えるレベルの憤怒を携えて。

 

「おい司令官どういうことだ!」

「先程通達した通りだ。パーマー少尉はオーレッドに」

「んなこたぁとっくに聞いてんだよ! そうじゃなくて! 本部の奴ら、勝手にうちんとこの機体からブラックボックスとデータバンクを抜き出してるぞ!!」

 

 機体のブラックボックス。そこにはその時フライトデータが詰まっている。

 そう、ハーリング元大統領救出時のデータがそのまま入っている。

 

「今回の作戦のデータは全て接収、後に消去する。そうパーマー少尉のことと合わせて伝えたはずだが」

「俺たちメカニックは許可してねぇ!! 百歩譲ってデータはまだわかる! だが消去ってなんだ! これじゃ証拠隠滅じゃねえか!!」

「そうだ。この基地からオペレーション・ライトハウス・キーパーの情報はなくなる。一つ足りとも、な」

 

 つまり、昨日フォートグレイス基地が大統領を救うために飛んだという痕跡がこの基地から消える。

 あまりの展開の早さに、その場にいた全員が言葉を失った。

 

 ワナワナと震えるマートン。

 視線を向けた先にはAWACSスカイキーパーがいた。

 

「おい、スカイキーパー。さっきからなに黙ってやがる! 本当にトリガー坊主がハーリングを撃ったのかよ! 聞いてんのかてめぇ!」

「………ハーリング元大統領が撃墜された時、彼の後ろにはトリガーしかいなかった。UAVもメイジ隊も、ゴーレム隊もガーゴイル隊もいなかった。トリガーだけが、ハーリングの後ろにいた。状況から考えて、マザーグース・ワンを撃墜のはトリガーしかウッ!」

 

 スカイキーパーの言葉を遮るようにマートンが彼の胸ぐらを掴みあげた。

 慌てて止めにはいるクラウンとノッカーをものともせず、その豪腕は服を引き裂かんばかりに捻りあげていた。

 

「てめぇの目は節穴か! ちゃんと確認したのかよ! その目でちゃんと見た訳じゃねえだろうがよ! なにが空の守り人だ! ふざけんじゃねえ!! クラウン! お前もお前だ! なんで自分の部下を最後まで庇ってやれねえんだ! このままトリガー坊主がオーレッドに行っていいのかよ! なぁ!?」

 

 しばし押し黙ったあと、短く首をふるノッカー。

 その手は強く握りすぎて血が滲んでおり、絶えず震えていた。

 

 そんな彼の苦しみを理解できぬほど、マートンは愚かではなかった。

 

「ーーっ! トリガー坊主が撃ったって言った奴を、ガーゴイルの奴らをここに連れてこい! そいつしか見てねえんだろ! そいつから話を聞くまで、俺は納得しねえぞ!」

「いい加減にしろマートン中尉! これ以上言うなら処罰対象とする!」

「やれるもんならやってみやがれ! こんなクソッタレの職場なんか喜んでやめてやる! 若者の未来を奪うのが軍だって言うなら! 俺はやめてやる! 俺は絶対に認めねえぞっ!!」

 

 マートンが暴れるなか、クラウンは立ち尽くしていた。

 

 こんな状況でも何も言えない自分に嫌気がさすと同時に耳を塞ぎたい衝動に襲われる。

 何を言っても変わらない、ならこのまま黙るしかないじゃないか………そんな日和見主義な自分を今すぐ殴り飛ばしてやりたい。

 

 彼を最後まで庇いきれず、現実だからと諦めてしまった自分自身。

 本当にもう、自分には何も出来ないのだろうか………

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 フォートグレイス基地に帰還し、ファルコンから降りた俺を待ち受けていたのは。

 司令官と後ろに並ぶMP(憲兵)だった。

 

 途中おやっさんが怒号と共に俺を捕らえようとするMPに掴みかかろうとしたところを司令官の一括で怯んだところをMPに抑えつけられた。なおも暴れようとするおやっさんの姿は嬉しさを感じる反面、悲しさすらあって。

 

 俺の弁明を聞く暇を与えずMPは俺を拘束してそのまま独房にぶちこんだ。

 

 どうしてこうなったのか。

 さっきからその言葉が何度も頭のなかでリフレインする。

 

 ただ一つ確かなことは。

 俺にはハーリングをどうしたって殺せなかったということだ。

 

 残り一発しかなかったミサイルは無人機に当たって、それを見届けて旋回。そのあとにマザーグース・ワンは堕ちた。

 

 俺が機銃で撃った。それならわかる。

 だがあいつは確かにこういったのだ。

 

『メイジ2のミサイルだ』

『味方の誤射だ、俺は見た』

 

 と。つまりハーリングはミサイルで撃ち落とされた。

 ガーゴイル隊の誰かが言ったことが本当ならだ。

 

 ………ということは。ガーゴイルの誰かが俺に罪を着させたことになる? 

 だがそれならスカイキーパーが気付くはず。ではスカイキーパーもグル? 

 いや彼がハーリング元大統領を殺すことに協力するとは到底思えない。

 

 もしそうなら今までの彼はポーズ? 

 一度彼の部屋に入ったことがあるが、あれは愛がなければ実現しないであろう空間だった。

 

 わからない。

 何もかも、何もかもが。

 

 まったくわからない………

 

 

 

 

 

 

 作戦の翌日、基地が慌ただしく動いてるみたいだった。

 

 独房の窓から聞こえる喧騒に耳を傾ける気もなく俺はベッドに身を預け続けていた。

 

 もうなんでこうなったかなんて、考え続けまくってもう考える気力もなかった。

 

「リヒト・パーマー少尉、出ろ。これからお前はオーレッドに向かってもらう」

 

 気が付くと牢のドアから見知らぬ憲兵が2人立っていた。

 この基地にいた人ではない。誰だ? 

 

「オーレッドについたら直ぐに軍事裁判だ、さっさと立て」

「昨日の今日でですか? というかあんたら誰、うちの人じゃ──ちょっと、痛っ! 急に引っ張るなよ」

「暴れるなハーリング殺しが! さっさとこい!」

「暴れてねえよ! いっ、だから痛いって、もう少し優しくしてくれよ………」

 

 血管が止まるのではと思われるほど乱雑に手錠をはめられた。

 痛みのせいか、俺の左右を固める憲兵に向かって思わず口調が荒くなった。

 こちらの歩幅を考えない乱暴な連行に身体が悲鳴を上げるなか、俺は外に連れ出された。

 

 外にはこれから乗るであろう輸送機が大口を開けて待ち構えていた。

 まるで地獄の入り口。閻魔様が待ち構えていればまだ良い。嘘をつかなければ話は通るし。嘘をついてるかついてないかはお見通しなのだから。

 

 このまま行けば不名誉除隊か、いや世界の英雄を殺したから即銃殺刑か? 

 

 途端に身体から力が抜けた。

 俯いて死刑台に上がるように俺は輸送機のタラップに乗り上げる。

 

 なんかもう、なにもかもどうでもよくなってきた──

 

「リヒトぉぉぉーー!!」

「っ!」

 

 耳に入った声に思わず振り向いた。

 この基地で友人であり、兄であり、そしてもっとも頼りになる隊長の声が。

 

 振り向いた先には、MPに止められながらも何かを叫ぼうとするクラウンの姿があった。

 

 息が上がり、涙が零れ、つっかえる喉を無理矢理動かそうと咳込む彼の姿を見て。

 俺の中の冷えた身体と心に火が入った気がした。

 

 拘束されることをものともせず思いっきり振り返った。

 動かないと油断していた憲兵が不意を突かれて転びかけるのを気にせずに。

 

 大きく息をすいこんだ

 

「隊長ーー!! 今までお世話になりましたーー!!」

「お前、大人しくしていろ!」

「絶対に生き残ってください!! パイロットは生きていたら大勝利ですから!!」

「黙れ貴様ぁっ!」

「むぐっ!」

 

 口に猿ぐつわを噛まされ、強引に輸送機の中に連れ込まれ、雑に地面に放り込まれた。

 

 起き上がろうとする身体を憲兵が思いっきり腹を蹴り上げ。肺から酸素が強制的に押し出された。

 

「カハッ」

「ベルカ野郎が、調子乗りがって!」

「グフッ! ………ハハッ」

 

 またも腹を蹴り上げられて、キャビンの中を転がった。

 だが俺は痛みに歪むどころか憲兵に向かって笑って見せた。

 

 その笑顔を見て癇に触った憲兵にまたも蹴られたのは、言うまでもない。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 ユージア最東端からエルジアの防空網を迂回するために大幅に迂回して飛行したため、オーレッドについたのは真夜中も真夜中となった。

 

 こんな形で帰ってきたくはなかった。

 終始乱雑な扱いに心のなかで舌打ちを繰り返しながら迎えの車に乗り込んだ。

 

 戦争が起こってるユージア大陸とは違いここは平和そのものだった。

 みんな当たり前の生活を当たり前のように過ごしている。

 そんな横でハーリング元大統領殺害の容疑者が走ってるなんて気がつくわけもなく平和を謳歌していた。

 

 たどりついたのはどこぞの神殿と見まがう程の外見をした軍事法廷裁判所。

 その裏口を通された俺は一時的に個室を与えられた。

 

 トイレと洗面所と簡易ベッドだけの殺風景な部屋。

 内装が違うだけでフォートグレイス基地の独房と一緒だった。

 

 飯を食って寝て。朝には監視役であろう若い青年が部屋を訪ねてきた。

 階級章を見るに伍長だった。

 

「パーマー少尉、こちらの服装に着替えたあと。法廷に向かってもらいます」

 

 おそらく軍に入りたてだろう青年は何処かビクつきながら軍服を渡してきた。

 軍事学校の卒業式に着たような小綺麗なそれは容疑者に着させるには上等すぎるものだった。

 

 服を着替えて監視役の伍長に合図を送って部屋を出た。

 

「あの、差し出がましいことですが………本当にあなたがハーリング元大統領を?」

「もう知らされてるのか?」

「ええ、その………」

 

 成る程、新参者の俺より若そうなこの伍長から見て。俺はさぞ残虐残忍な悪鬼羅刹に見えたことだろう。

 

 正直情報の出回りが早すぎる気がするが。彼は職務を全うしようと勤めてるだけなのだから気苦労が知れるというものだ。

 

「俺は殺していない。どうあがいても彼をミサイルで殺すことは不可能だった。それに、俺も彼が好きだった。生きて話をしたいと思ってた。しかもその日は俺の誕生日だったんだ」

「それなのに、何故?」

「さあなぁ。本当にわからないままここに連行された。若いながらもエースと呼ばれるぐらい国に貢献したつもりだったのに………って君に愚痴っても仕方ないな」

「いえ、こちらこそご無礼を………容疑が晴れるといいですね」

「ありがとう。その言葉に勇気をもらえた気がするよ」

 

 伍長に連れられて法廷の入り口に。門番には横の伍長と雲泥の差の性格の悪そうな男がいた。

 

「パーマー少尉だな、こちらへ」

「はい」

 

 さて、蛇が出るか邪神が出るか………

 

 

 

 

「リヒト・パーマー、いやリヒト・フォン・フリューゲル少尉。フォートグレイス基地第508戦術戦闘飛行隊、メイジ隊のメイジ2、TACネーム、トリガー」

 

 淡々と所属を言ってくる裁判官は理性的な声、スーツはしっかりしており髪は整髪料で整えられているが。

 初対面で俺の勘が嫌なものを感じ取ってしまった。

 

 彼らが俺のことをフリューゲルと呼ぶ時、声色にあざけりと偏見が見えてしまったからだ。

 

 ああ、こいつらはそういう奴らか。

 頬の傷が疼いた気がした、何度も何度も味わった。ベルカ人に対する吐き気をもよおす侮蔑の空気だった。

 

「便宜上パーマー少尉と呼ばせてもらおう。今回の軍事法廷の目的は先日行われたビンセント・ハーリングの救出任務時に君がハーリング氏が搭乗していたマザーグース・ワンを撃墜したことに関する事実を明らかにするものである。早速だがパーマー少尉、君の釈明を聞かせてもらおう。あの日何が起き、どうなったかを」

 

 厳かな声のトーンに促され俺は当時のことを事細かに説明した。

 独房や牢屋の中で考えることなんて当時のことをどう話すかだけだった。

 

 

 

「当時自分は隊長であるクラウンの命によりマザーグース・ワンの護衛に向かいました。あの時援護に行けたのは自分だけでしたので、迷わず向かいました。マザーグース・ワンに迫る無人機を撃墜するために最後の一発であるミサイルを撃ち、無人機を撃墜しました。その時マザーグース・ワンと距離が近かったので、旋回しました………その時です、マザーグース・ワンにミサイルが当たり、撃墜されたのは」

 

 大学のスピーチばりに当時の作戦内容を話していく。

 その間裁判官の人たちの反応は様々で。普通に聞いてる人もいればふんぞり返って鼻を鳴らす人もいた。

 

「自分はマザーグース・ワンを、ハーリング元大統領を撃墜してはいません。彼を撃墜することは、私には出来ません。私はハーリング氏を救出するために粉骨砕身の思いで戦いました。私は無実です」

 

 我ながらどもらずにスラスラ言えたと思う。

 上から見下ろす裁判官たちから目線をそらさずに言いきった。

 

 だが自分の弁明は残念ながら届かなかったようで、これ見よがしに鼻で笑われた。

 

「事細かに説明してくれてありがとう、パーマー少尉。だが君の発言には致命的な虚言がある」

「虚言、ですか?」

「そうだ、君はあの時最後の一発と言ったが、本当は3発持っていたのではないかね? 現にマザーグース・ワンはミサイル2発の直撃をもって撃墜されている。他ならぬ君の攻撃によって」

「それは違います、あのとき自分の機体にはミサイルはゼロでした。間違いありません」

「新人が極限状態で弾数を誤ることは珍しいことではない。だが君の場合は違うな、虚偽の発言をすることで言い逃れしてるだけではないかね?」

「それなら自分の機体から接収したブラックボックスとデータレコーダーを調べればわかるはずです。私は決して虚偽の発言をしてはいません」

 

 戦闘機のブラックボックスとデータレコーダーにはパイロットがいつトリガーを引いたか、どうスティックを動かしたかが記録されている。

 何世代前もの機体なら確証はないがF-16Cはアビオニクス関係がしっかりとしているから大丈夫なはず。

 

 この二つを調べれば自ずとわかる。疑いなど晴れると踏んだ俺の切り札だった。

 

 だが裁判官の口から出てきたのは思わず頭が真っ白になるようなことだった。

 

「残念だが君の機体からデータは引き抜けなかった」

「はい?」

「少尉、君が乗っていたF-16Cのブラックボックスはこちらが調べようとしたときには既に破損して使い物にならなかったということだ。残念ながら、君の発言を立証することは出来ないのだよ」

 

 なんだって? 

 言葉として出たのかわからない程の声量で俺の口からそれは出た。

 

「我々が思うに君は機体のブラックボックスから犯行が発覚するのを恐れて破損するように君が細工をしたのではないかね?」

「そんな馬鹿な! 俺はあの時機体から降りて直ぐに拘束されたんですよ!? ブラックボックスに細工する時間などあるわけが」

「では協力者がいたのかな? 例えばラック・マートン中尉、彼は最後まで我々に反感を抱いていたそうではないか」

「それとも君の上官であるアイザック【クラウン】ノスト大尉が関係しているのか? 随分とお気に入りだったそうじゃないか。君をフォートグレイス基地に呼び込む為に司令官に直談判したとか。もしやその時から計画していたのではないかな? ハーリング殺害の計画を」

 

 なにを、この人たちはなにを言ってるんだ? 

 さぞ面白そうに、歪んだ笑みを浮かべながらありもしないことをベラベラとのたまう彼らは、本当に自分と同じ人間なのか? 

 国の英雄が死んだと言うのに、この人たちから憐憫というものを感じない。いったい何故? 

 

「報告によればシーゴブリンが全滅をした時、ハーリング氏に脱出用のMV-22を使うよう提言したのは君だ。ハーリングを自らの手で殺すために。わざと彼らをヘリに誘導した。まったく恐ろしいルーキーだよ君は」

 

 自分が考えもしない出来事をさも当たり前のように説明する彼らの声を聞いていると精神がどうにかなってしまいそうだ。

 なんの匂いもしないのに鼻が曲がり、舌が正体不明の苦味を感じるような錯覚に陥った。

 

「待ってください。そもそも自分には動機がありません! 自分は戦争の早期終結を願うために単独先行という司令部からの命令を受諾しました! 戦争の早期終結のために、自分は」

「戯れ言を抜かすな少尉!」

 

 ガン! と拳をぶつける音に自分でもわかるぐらいビクッと身体が震えた。

 

 先程から理知的であろうとしていた裁判官たちが苛立ちと憤怒を隠すことなく俺を指差して叫んだ。

 

「君には立派な動機があるだろう! ベルカ戦争で両親を無くし、その発端であるオーシアを逆恨みした!」

「環太平洋戦争でのベルカの灰色の男どもの野望が潰えた時、君はそれを食い止めたハーリングに強い憎しみを抱いた! そうだろう!!」

「出鱈目です! 自分はそんなこと欠片も!」

「現に君は核攻撃を行おうとした者と深い交流がある! そう、あの国境無き世界に所属した愚かな傭兵。ラリー・フォルクとね」

 

 ラリー? なんでここでラリーが出てくるんだよ!? 

 

「それだけではない、君はマルセラ・バスケス、アンソニー・パーマーとも親交があった。いずれも国境無き世界の重要人物。君は彼らから教育を受けた、国境無き世界の理論を。政府を破壊するための教育を受けていたのではないかね?」

「それこそ出鱈目だ! ラリーもマルセラさんもアンソニーも! 国境無き世界のことを深く悔いていた! それの愚かさを俺に説き、自分達のようになるなと何度も何度も言ってくれた!」

「だが現実として、国境無き世界の背後には灰色の男たちがいた。彼らが使おうとしたV2弾頭も、灰色の男からの援助なのだからね」

 

 灰色の男が国境無き世界と繋がっていた? 

 確かにありえない話ではないが、そうだとしてもこんな滅茶苦茶な話がまかり通って良いのか? 良いわけがない。

 

「俺、自分は灰色の男たちとは無関係です! むしろ嫌悪してると言っていい! 彼らが起こした戦争のせいで、なんの罪もないベルカ人に対する差別が激化した。自分もその被害者です!」

「被害者面とは、リヒト・フォン・フリューゲルくん。君はまだ自分の立場がわからないと見える」

「私はハーリング氏を殺してなどいない! 必死に守ろうとした! それが、それがただ一つの真実です!」

「何が偽りで何が真実かは君が判断することではない。君に出来ることは自らの罪を告白し、国民と我々に懺悔することである」

「君が戦争犯罪者と繋がりがあるのは紛れもなき事実だ」

「そんな、無茶苦茶な………」

「裁判を一時閉廷とする、このあと君には取り調べを受けてもらい、再度開廷する。これからじっくりと自分の罪と向き合うのだな。以上」

 

 一方的に打ち切られ、俺は黒服の男に連行されて法廷を後にした。

 これは本当に裁判と呼ばれるものなのか? 

 軍事裁判は通常の裁判とは違うというのは知っている。

 事実を突き付け、被疑者に反省を促すということを。

 

 だがこれは明らかに不自然すぎた。

 ここまで言葉で殴られるような、ありもしないことのオンパレード。挙げ句の果てにはラリーのことまででっちあげて。

 

「裁判官! 自分を、メイジ2が撃ったと言った人物は誰なのですか! 教えてください!」

「君が知ることではない」

 

 そう言って裁判官たちは席を立って法廷を後にした。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 その後か? 

 

 強面の男たちに取り調べという名の恐喝紛いな怒号やら台パンを繰り返されながら同じことを延々と延々と。

 

 お前がやったんだろとか。

 ベルカがどうだのとか。罪を認めろだの。

 

 二回目の法廷でも同じことの繰り返し。

 今日だけじゃなく一週間、二週間と時が立つに連れて化けの皮が剥がれたのか怒号と怒号の大合唱。

 

 それでも口を割らない(割る口もないが)俺に業を煮やしたのか、彼らはより過激な方法に出てきた。

 

「おらっ!」

「ぐぅっ!」

 

 法廷の代わりに取り調べが増えた。

 取り調べ? いや違う、これは拷問だ。

 

 手錠で椅子と繋げられ、身動き出来ない俺に殴る蹴るの暴行を加えた。

 ベルカを中心にした罵倒。心にも思ってないようなハーリングを殺されたことへの怨み節。

 鬱憤を晴らさんとばかりに俺は殴られ、意識を手放せば水をぶっかけられて無理やり叩き起こされた。

 

 手錠を外されたと思えば「自分はビンセント・ハーリングを殺しました」と認める書類をちらつかせ。書かない俺をまたも蹴り飛ばした。

 

 食事も1日3食から2食へ、最後らへんには1食に減らされたこともあった。

 食事を減らし、暴力で打ちのめせば。ケツの青いルーキーなど直ぐに折れると思ったのだろう。

 

「ハハッ」

 

 舐められたものだ。

 

 雨風も防げて、食事は毎日一回は出てくる。毎度怒声をあげて殴られ続ける日々。

 

 ──なんと、なんと贅沢な暮らしか。

 奴隷時代の幼少期の俺が見たらあまりの好待遇に羨むことだろう。

 いや、あの時はそれが当たり前だから苦痛を苦痛と感じていなかったのだろうからそれはないか………。

 

 身体に無数の痣。顔を殴られないのは服で隠せないからだろうか。

 

 唯一の癒しは食事を運んでくる監視役の伍長ぐらいか。

 このドブのような場所でまともな感性の持ち主で。奴らに負わされた傷の手当ても任されてるのか、色々助けてくれている。

 

 女だったら惚れてたなと冗談混じりに言ってやれば、『アハハ、お断りします。自分こう見えて既婚者なので』と惚気られてしまった。

 お幸せに。

 

 俺の獄中生活はこんなもんだ。

 相も変わらず連中はどうしても俺をハーリング殺しの犯人に仕立て上げたいらしい。

 よくもまあ色んな出鱈目を考えつくものだと逆に楽しささえ感じてきた俺はいよいよおかしくなったのだろうか。

 

 ──しばらくして、俺はようやく別の疑問を覚えた。

 

 もしかしたら、オーシアもハーリング殺しに関わっているのではないか? 

 軌道エレベーターへの単独潜入で、司令部が一番戦果をあげたというもっともらしい理由で俺を指名したのも。彼らの策略なのでは? 

 オーシアの中にエルジアと通じているものが? 

 いや、そもそもエルジアと手を組んだかどうかも怪しい。

 

 オーシアの一部に、ハーリング元大統領の影響を疎んでいる派閥がいるなら? 

 

 ………わからない。全部憶測だ。

 だがこの邪智暴虐とも言える茶番劇を繰り広げる奴らが、ハーリング元大統領殺害に関わっていたら。

 

 その犯人に仕立て上げる為に、ここまでの段取りを組んだとしたら? 

 ベルカ人が祖国の復讐としてハーリング元大統領を殺したというカバーストーリーが出来る。

 

「ギリッ」

 

 冗談じゃない。

 こんなことに利用されるために俺は飛んでいたんじゃない。

 

 上等じゃないか。

 こんなところで屈したら、それこそラリーに会わせる顔がない! 

 

 自分でも驚くぐらいの不屈振り、未だ燃え続ける心の炎が更に燃え上がった気がした。

 

 絶対に負けるものか。たとえ死んだとしても。俺は俺の生き様を貫いてやる。

 たとえこの先に待つのが、理不尽な謀殺だとしても。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 ここに送られて三週間。

 あれほど躍起になっていた取り調べと法廷という名の茶番劇はなくなった。

 なんとも拍子抜けというか。ようやく俺も年貢の納め時、の前触れか。

 

 ………フォートグレイスのみんなはどうしてるだろう。生きているだろうか。

 ラリーたち、政府に目をつけられていないだろうか。こんなところにいると知られたらどうしようか………

 

 裁判官に呼ばれることもなく。ただただ牢屋の中で過ごす日々。

 すっかり世話係となった伍長に事情を聞いたものの何もわからないと返ってくるばかりだった。

 外の様子やハーリング殺害の件はどう報道されてるのか聞いたが、外のことは伝えるなと厳命されていてこれも収穫はなし。

 

 それからまた一週間。惰眠を貪る日々は唐突に終わりを告げた。

 

 黒服の男が短く「出ろ」と言ってきた。

 今さら反抗するのもめんどくさい、のそっと立ち上がり軍服に着替えて後をついていき。あのクソッタレな法廷についた。

 

「リヒト【トリガー】パーマー少尉。いや君にはもう階級はないが、便宜上呼ばせてもらう」

 

 文章を読み上げる裁判官は初めて見る顔だった。

 階級章を見ると、なんと中将だった。

 

「本日付で、君は第444航空基地に異動となる」

「異動?」

「勘違いしないでもらいたいが、正規軍に返り咲くことでも、君の容疑が晴れた訳でもない」

「自分はやっていません」

「我々はそう判断しない。君はビンセント・ハーリング殺害の重罪犯として、この懲罰基地に行ってもらう。そこで自らの罪を今一度猛省するといい」

「………冤罪で若い芽を摘むことが、政府のやり方なのですか? サンド島のウォードック隊をスパイに祭り上げた時と、なんにも変わってないのですね」

「貴様! シェパード中将になんて無礼な!!」

「ベルカめ! いまこの場で処刑してもかまわんのだぞ!!」

 

 へえ、シェパードって言うのか。

 なんともエリートコースを昇ってそうなお綺麗な名字だことで。

 

「静粛に。君がどう思おうと、我々の預かり知らぬところだ。決定は覆らない、異論も聞く気はない。私からは以上だ。纏める荷物はないだろうが、戻って身支度をしていたまえ」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「あ、パーマー少尉。聞きました、異動になるとか」

「色々苦労をかけた、伍長」

「いえ、自分は職務を全うしただけですから」

 

 牢屋を掃除していると伍長が顔を出してきた。

 

 手伝いますと伍長が掃除を手伝ってくれた。

 特に目立った汚れはないが、一通りやっておくことにした。

 

 1ヶ月世話になったところを離れるのは名残惜し………くわないが。

 まあそれはそれ。立つ鳥跡を濁さずと東方のことわざがあるわけで。

 

「一つ聞いていい?」

「なんでしょう」

「君は職務を全うしたと言っていた。だけど、君にはここの連中にはない思いやりが感じられた。怖くなかったのか? 俺はハーリング殺しの大罪人だぞ」

 

 ただの監視役ならここまで親切に接してくれないだろう。

 傷の治療もしっかりやってくれたお陰で、俺の身体は見た目よりずっと健康的だった。

 

「自分、戦闘機のパイロット志望だったんです。でも適正がなくて。事務方として軍に入っても、地味な仕事ばかりで落ち込んでいた時があって。その時、半年前のオーレッドでの航空ショーを見たんです。赤い翼のF-16C、あなたですよね?」

「どうしてわかる?」

「上司の人がそう言ってたのを偶然聞いてしまって………大空を飛んで、ベテランにも負けないその姿を見て、自分は感銘を受けました。そして思ったんです、へこたれてる場合ではない。自分も自分の仕事で祖国を支えていこうって。立ち直ることが出来たんです。だからまあ、恩返しみたいなものなんです」

 

 あの時の飛行演習を見たのか。

 自分が飛ぶことで、希望を持った人がいた。

 それを知ってなんだか胸の辺りがジンと熱くなった。

 

「気を付けてくださいね。あなたがこれから配属される444基地は各地から犯罪者が集まっています。それに加えて、危険な任務につかされることがあるとか」

「例えば?」

「噂だと、地雷を素手で掘り返す仕事とか」

 

 うわー。思った以上にアングラなところみたいだ。

 

「最後に聞きますけど。本当に殺してないんですよね、ハーリング元大統領を」

「ああ、自信もって言えるよ。それどころか、根も葉もなさ過ぎること言われまくって、オーシア政府が主犯なんじゃねえかって思える」

「でも、目撃証言があったんですよね」

「そこなんだよねぇ。うちの隊の声じゃないことぐらいしか。ガーゴイル隊か………あるいは司令部が通信に割り込んだか」

 

 もうデータは全部オーシア政府に接収されてるから確かめようもないだろうが。

 

「まあ今死ぬ訳じゃないから。命あるだけぶっちゃけ儲けものかな………いつ殺されるかそれだけ考えてたし。実質勝ちよ、勝ち」

「前向きですね」

「前向きじゃない、上向きなんだ」

 

 鉄格子の小さな窓。あいにく天気は曇りだった。

 もう空には戻れないだろうけどね。

 

「終わったな。手伝ってくれてありがとう」

「お別れですね、なんだか寂しいです」

「おいおい、重罪人に情が湧いたら軍人失格だぞ?」

「問題ありません。クソッタレな上官から情を抱いてはいけないと命令されておりませんので」

「そりゃそうだ」

 

 牢屋に似つかわしくない笑い声が響き渡った。

 こんなところを奴らに見つかったら厳罰ものだろうが、そんなの知ったこっちゃなかった。

 

 しばらく笑いが止まらなくて、迎えに来た強面のおっさんはそんな俺たちを見て怪訝な顔をしたのだった。

 

 

 

 

 

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